羽ペン通信ホグワーツ版編集部から手紙が届いたのは、夏休みも半ばを過ぎた頃だった。
差出人はパドマだった。
『編集部宛に、ビル・ウィーズリーさんとフラー・デラクールさんから結婚式の招待状が届いたわ。三大魔法学校対抗試合で知り合った二人なので、ぜひ羽ペン通信にも取材に来てほしいそうよ』
そこまで読んで、わたしは手紙から顔を上げた。
「結婚式かあ」
正直、あまり食指は動かなかった。
本の即売会なら、どんな遠方でも行く。
絶版本が出ると聞けば、多少危険な場所でも考える。
著者本人から未発表原稿を見せてもらえるなら、一晩くらい徹夜してもいい。
でも結婚式である。
新郎新婦が誓いを立て、みんなで拍手して、ご馳走を食べる行事だ。
もちろんめでたい。
けれど、本は増えない。
そう思っていたところへ、母が横から手紙を覗き込んできた。
「結婚式?」
「うん。ビルとフラーの」
「あら、いいじゃない。行ってきなさいよ」
「取材はロメルダが行きたがりそうだから、わたしが行かなくても──」
「なんとしても恋愛のネタを探してくるのよ」
母の目が輝いた。
「今度の小説に使えそうなものがあったら覚えてきてちょうだい。プロポーズとか、結婚式での台詞とか」
「お母さま、それ何に使うの?」
「参考資料に決まってるじゃない」
言い切った。
結局、わたしも参加することになった。
ロメルダに知らせると、その日のうちに返事が来た。
『行く!!!!!!! 結婚式とか恋愛ネタの宝庫じゃん!』
母の同類がいた。
ロンとハリーも当然出席するらしい。
そして意外なことに、トムにもフラーから招待状が届いていた。
「フラー、トムのことも呼ぶんだ」
「らしいね」
トムは封筒を眺めながら、どうでもよさそうに答えた。
「元彼を結婚式に呼ぶってどうなの?」
わたしが言うと、トムの眉がぴくりと動いた。
「元彼?」
「違うの?」
「そこまでの関係ではなかったよ」
「でも、ユール・ボールは一緒に行ってたじゃん」
「たまたまね。フラーが僕を連れ回していただけ」
語弊しかない説明だったが、本人に訂正する気はないらしい。
「それなら私も行こう」
突然、向かい側から声がした。
新聞を読んでいたグリンデルバルドが、紙面を折り畳んだ。
「どうして?」
「保護者として」
「誰の?」
「君の」
「トムもいるよ」
「まだ十六歳じゃないか」
「それ以前に、お前は脱獄犯じゃないか」
トムがムッとした顔をして冷静に指摘した。
グリンデルバルドは少し考えた。
「では、別人になればいい。マルフォイ家の遠縁ということにしよう」
「勝手に親戚を増やさないでいただきたい」
父が顔をしかめた。
けれど父の抵抗もむなしく、その日の午後には見知らぬ老人が屋敷を歩いていた。
白かった髪は灰色がかった金髪になり、顔は少し丸く、鼻も低くなっている。背丈までわずかに縮んでいた。
言われなければ、グリンデルバルドだとは分からない。
「どうだね」
「どう見ても知らない人」
「成功だな」
本人は満足そうだった。
大陸に住んでいるマルフォイ家の遠縁という設定らしい。
名前も経歴もすでに用意している。
どこまで本気なのか分からなかった。
その日の羽ペン通信全国版には、もっと気になる見出しが浮かんでいた。
『相次ぐマグル生まれの失踪 魔法省は関連を否定』
ここ数週間で、複数のマグル生まれの魔法使いが行方不明になっているという。
成人だけではない。
ホグワーツを卒業したばかりの若者も含まれていた。
わたしは記事を二度読んでから、すぐにハーマイオニーへ手紙を書いた。ついでにフラーの結婚式に参列する予定なのかも聞いておく。
返事はその日の夕方に来た。
『心配しなくても私は大丈夫よ。少し就職活動の準備で忙しいから、結婚式は欠席するかも』
いつもの几帳面な字だった。
それを見て、少しだけ安心した。
結婚式当日、ウィーズリー家の敷地には大きな天幕が張られていた。
白い布が夏の日差しを柔らかく透かし、天井からは花々が降るように飾られている。長いテーブルには料理が並び、いたるところから笑い声が上がっていた。
三大魔法学校対抗試合から始まった恋が、本当に結婚までたどり着いたらしい。
フラーはものすごく綺麗だった。
もともと人間離れした美人だったけれど、今日は輪をかけて輝いて見える。
そして、トムを見つけた瞬間。
「ふん」
フラーは鼻を鳴らした。
横には新郎のビルがいる。
どう見ても勝ち誇っていた。
トムは一瞬目を丸くしたあと、苦笑した。
「勝負をしていた覚えはないんだけどな」
そんなトムを見ていると、背後から声をかけられた。
「見違えるようだな、小さき魔女よ」
聞き覚えはある。
でも、誰だっただろう。
振り返ると、背の高い男の人が立っていた。
黒髪を短く整え、濃紺のローブを着ている。顔立ちは整っているのに、記憶と一致しない。
「……どなたですか?」
男の人が固まった。
「まさか忘れたのか」
「ごめんなさい」
「レオニードだ」
「あ」
思い出した。
三大魔法学校対抗試合のとき、ダームストラングの代表団にいた男の子だ。
ただし、わたしの記憶の中のレオニードは、もっと前髪が長かった。
片目がほとんど隠れていて、何かにつけて意味深な言い回しをしていた。
詳しくは忘れたけれど、『闇は我らを選ぶのではない。我らが闇を選ぶのだ』みたいなことを言っていた気がする。
「髪切ったんだ」
「最初に言うことがそれか?」
「だって全然違う」
「学生時代のことは忘れてくれ」
「厨二病、治ったの?」
「その言葉の意味は分からないが、たぶん治った」
よかった。
「今は何してるの?」
「グリンゴッツだ。ビルさんの後輩で、呪い破りをやっている」
わたしは黙った。
呪い破りは古代の墓や遺跡に入り、危険な呪いを解除する職業だ。
「……卒業できてなくない?」
「何がだ」
「なんでもない」
そこへロメルダがやってきて、わたしの袖をぐいぐい引っ張った。
「ねえねえねえ。ちょっと待って。このイケメン誰?」
「昔会った人」
「それは分かったけど、なんで今までこんなの隠してたの?」
「隠してないよ。こちら、レオニード。元厨二病で、今は呪い破り」
「余計な紹介をするな」
ロメルダはレオニードを上から下まで眺めた。
「え、でも今めっちゃかっこいいじゃん。ていうか呪い破り? 職業までかっこよくない?」
「昔からこういうの好きだったよ」
「だから学生時代の話をするな」
レオニードがため息をつき、空いていた椅子を引いた。
「とりあえず座らないか?」
わたしが隣へ座ろうとした、そのときだった。
トムがすっとそこへ座った。
レオニードはトムを見る。
トムもレオニードを見る。
「ここ、空いてたよね?」
トムはにこやかだった。
レオニードは肩をすくめ、ロメルダの隣へ移った。
「マイン」
席に着いたレオニードが、何事もなかったように話しかけてきた。
「今度グリンゴッツに来ることがあれば案内してやる。一般には見せない保管庫に、面白い古書があるんだ」
「古書!?」
思わず身を乗り出した。
「呪い付きも多いがな」
「見たい!」
「駄目だよ」
トムが即答した。
「呪い付きなんだろう」
「解呪すればいい」
レオニードが即座に答える。
「それが俺の仕事だ」
「失敗したら死ぬ仕事だっけ?」
「俺は失敗しない」
「ずいぶん自信があるんだね」
「少なくとも、彼女を危険な目には遭わせない」
トムの目が細くなった。
「それは僕も同じだよ」
「そうか」
「ああ」
どうして古書の話からこうなったのか分からない。
ロメルダがすぐにわたしへ身を寄せた。
「ねえ、トム様なんかあった?」
「やっぱりロメルダにも分かる?」
「分かるっていうか、今の反応見る限り、ブクマちゃんが分かってない気がする」
「トム、人間になったんだよ」
「やっぱ分かってないじゃん」
ロメルダの顔が引きつった。
「ていうか人間になったって何? どうやったの?」
「まず、賢者の石を使って──」
「やっぱいいや。その話、式終わってからにして。あたしの脳が追いつかない」
その頃にはトムとレオニードが、今度は闇の魔術について話し始めていた。
最初は古代の呪いの話だった。
それがいつの間にか、「その術式は十五世紀にはもう廃れている」「いや、東欧では十六世紀まで使われていた」「それは別系統だ」と、どう考えても会話ではなくなっている。知識で殴り合っている。
わたしたちは放っておくことにした。
そこへアストリアも合流した。
「『未来の令嬢は自称英雄作家に恋をする』読んだ?!」
ロメルダが尋ねると、アストリアの顔がぱっと明るくなった。
「読みました!」
「わたしも読んだよ」
『未来の令嬢は自称英雄作家に恋をする』は、未来からタイムスリップした令嬢が、少しキザな作家に恋をする話だった。
令嬢は作家の大ファンなのに、恋と推しは違うと思い込んでいて、自分の恋心になかなか気づかない。
そこがなかなか斬新だった。
「ていうかこれ、絶対あたしのための小説じゃない?」
ロメルダが胸に手を当てる。
「どのへんが?」
「小説家に恋してる女の子の話だよ? あたしじゃん。ほぼ実話じゃん」
「作中の小説家はキザで、ロンには似てなかった気がするけど」
「そこは理想に決まってるでしょ」
確かに、あの小説家はすごかった。
プロポーズの場面で、『君という一冊を、僕は生涯かけて読み解きたい』とか言っていた。
「ロンだったら絶対そんなこと言わないよね」
「うるさい! だから小説で補給すんの。現実にないもんは本で摂取するしかないじゃん」
「なるほど」
妙に説得力があった。
「じゃあ、ロメルダの理想のプロポーズってどんなのなんですか?」
アストリアが尋ねると、ロメルダは即答した。
「絶対ドラマチックなやつ」
「どのくらい?」
「今まで読んだ恋愛小説で一番ロマンチックなの。あと絶対、あたしが予想できないやつ」
「恋愛小説読みすぎて、普通のじゃ満足できなくなってない?」
「当たり前じゃん。一生に一回かもしれないのに、『結婚する?』『うん』とかマジで無理。読者だったらその場で本閉じるし」
隣でアストリアが笑った。
「私は王道でいいです。ちゃんと言葉にしてくれれば」
「えー、物足りなくない?」
「いいんです。言葉にさえしてくれれば。言葉にしてくれないより、ずっといいじゃないですか」
アストリアは、少し離れたところでクラムと話しているドラコをちらりと睨んだ。
ドラコはたしかに、言わなくても分かるだろうと思っていそうなところがある。
「ブクマちゃんは? どんなプロポーズが理想?」
「わたし?」
理想のプロポーズ。
そもそも、プロポーズというものに何を期待すればいいのだろう。
「ブクマちゃんのことだから、書斎くれるとか?」
ロメルダが茶化した。
「『この部屋の本棚を全部好きにしていい』とかですか?」
アストリアも悪ノリする。
「図書館をプレゼントしてくれる人とか言わないよね?」
ロメルダが笑う。
「どこの王族と結婚する気?」
さすがにわたしも笑った。
「そんな大げさじゃなくて、もっとささやかでいいよ」
「じゃあガチのやつは?」
少し考えてから答えた。
「今まで読んだことがない本をくれるとかかな」
「やっぱり本かー。どんな本?」
「うーん。もう手に入らない本とか、世界に一冊しかない本とか」
ロメルダが黙った。
アストリアも黙った。
「なに?」
「待って。それ、図書館より難易度高くなってない?」
「そう?」
「世界に一冊だよ? それを『ささやか』って言ってる時点でだいぶヤバいから」
アストリアまで頷いている。
解せない。
ふと隣を見ると、トムとレオニードはいつの間にか、どちらがより珍しい絶版本を読んだことがあるかで競っていた。
「ロメルダはロンとは一緒にいなくていいの?」
「うん。あたし取材も兼ねてるから」
そう言われて、あたりを見回した。
ロンはウィーズリー家の人たちが集まるところにいる。
でもハリーが見当たらない。
「ハリーは?」
「ああ、ハリーならあそこらしいよ。ロンロンが言ってた」
ロメルダが小声で、ジニーの隣に座る赤毛の男の人を指さした。
ウィーズリー家の親戚だと思っていた。
「全然分からなかった」
「それが目的なんだよ」
近くまで来たハリーが小声で答えた。
どうやら変装しているらしい。
今の情勢なら、その方が安全なのだろう。
そこで、もう一人いないことに気づいた。
「ハーみょんは?」
「就職活動で忙しいみたい」
「もう七年生だもんね。こんなご時世でも就活か〜」
少し離れたところでは、グリンデルバルドがアーサーさんと話していた。
何を話しているのだろうと思って耳を澄ますと、自動車がどうとか、マグル製品に魔法をかける規制がどうとか聞こえてくる。
「いやあ、まさかドイツの魔法使いに、マグル製品へ興味を持つ方がいるとは!」
「最近になって、少々勉強を始めてね」
グリンデルバルドは穏やかに笑った。
「電池に電話、テレビ、コンピューター。マグルは本当に面白いものを作るんですよ!」
「自動車も面白い」
「もちろん!」
アーサーさんの顔がさらに輝いた。
「聞けば、君は空飛ぶ自動車を作ったことがあるとか」
その顔が固まった。
「どこでそれを?」
「新聞で読んでね。英国には大した魔法使いがいると尊敬していた」
「いやあ、それほどでも」
グリンデルバルドがアーサーさんが気を良くしているのをいいことに続けて尋ねた。
「英国のマグル製品に対する法律はどうなっているのかご存知かな? マグル製品に魔法をかけること自体が禁止なのかね?」
「いえ、何もかも駄目というわけではありませんよ。マグルの手に渡ったり、危険な使われ方をするのが問題でして」
「なら、魔法族だけで使えば問題ないということか」
アーサーさんが黙った。
「魔法省が安全基準を決め、認可した車両だけ飛ばせばよいのではないか。所有者も魔法族に限定する」
「認可制……」
「箒より多くの人間と荷物を運べる。子どもや老人も使えるし、救急搬送にも向くだろう」
アーサーさんの目がみるみる輝いていく。
「山間部や洪水でも使える……飛行区域を限定すれば、マグルに見られる危険も減らせますね」
「そういうことだ」
まずい。
完全に意気投合している。
グリンデルバルドは満足そうにグラスを傾けた。
「ところで、マグルの製品をまとめて見るなら、どこへ行けばよい?」
アーサーさんは即答した。
「家電量販店です!」
「カデン?」
「テレビも電話もコンピューターもカメラも、一度に見られますよ! ぜひ今度一緒に行きましょう! お恥ずかしい話、私一人だと家電の使い方が難しくてよく分からなかったんですよ! マグルは大したもんですよ」
グリンデルバルドの目が細くなった。
「それは興味深い。マイン」
グリンデルバルドは振り返った。
「君も来たまえ」
「わたしも?」
「君もマグル製品に興味があるだろう?」
グリンデルバルドは楽しそうに笑った。
「我々は、マグルから学べることを随分と見落としていたらしい」
危険な組み合わせだったかもしれない。
わたしは元いた席に戻った。
「そういえば、ハーマイオニーにも聞いてみようと思ってたのに。今日はいないんだよね」
「何を?」
ロメルダが尋ねる。
「マグルに魔法界の本を売るの、どう思うか。最初は恋愛小説にしようと思って」
ロメルダが身を乗り出した。
「え、サイコー! 読者めっちゃ増えそう」
「でしょ?」
「そこ意気投合するなよ」
いつの間にか戻ってきたロンが、呆れたように言った。
そのままロメルダの隣へ腰を下ろす。
少し離れたところからクラムもやってきた。
「久しぶりだな」
クラムは前より大人びていたけれど、相変わらず大きかった。
ロメルダがにやっと笑う。
「ハーみょんいなくて残念だったね」
クラムは少しだけ眉を動かし、それから素直に頷いた。
「ああ。会いたかった」
ロンの顔がわずかに強張った。
「……まだ好きなのかよ」
「悪いか?」
「別に」
ロンはそう言って、皿の上の料理をフォークでつついた。
どう見ても別にという顔ではない。
ロメルダが片眉をくいっと上げてロンを見たが、何も言わなかった。
「まあ、インターンなら仕方ない」
クラムが言った。
「インターン?」
わたしは聞き返した。
「ハーマイオニーがそう言ってたの?」
「ああ。スクリムなんとかという男に、魔法省のインターンへ誘われたと言っていた」
わたしとハリーの表情が変わった。
ロンの手も止まった。
「……今、誰って言った?」
ハリーが尋ねる。
「たしかスクリムジョールだったかな」
クラムが繰り返した。
「元闇祓いだと言っていた」
「スクリムジョールが、ハーマイオニーを?」
ハリーの顔から血の気が引いた。
「今のスクリムジョールは、本物じゃない」
音楽は続いていた。
少し離れたところでは、フラーが笑っている。
グラスが鳴り、誰かが拍手していた。
「死喰い人のバーティ・クラウチ・ジュニアだ」
喉がひどく乾いた。
「……でも、ハーマイオニーはそのこと知ってるよね?」
ハリーがこちらを見た。
「マインも言ってないのか? てっきりマインが言ったものだと思ってた」
クラムの表情が変わった。
「なぜだ」
低い声だった。
「死喰い人が魔法省にいると知っていて、彼女に伝えていなかったのか?」
クラムが一歩近づいた。
「ロンは知ってたの?」
ロンの顔が強張る。
「僕も……知ってた」
クラムが完全にロンへ向き直った。
「みんな知っていたのか」
「僕だって、ハーマイオニーがスクリムジョールに会うって知ってたら言ってた!」
「知ってからでは遅いだろう!」
「分かってるよ!」
「なら、なぜ彼女だけ知らない!」
「最近まともに話してなかったんだよ!」
ロンが言った瞬間、自分で自分の言葉に傷ついたような顔をした。
クラムは容赦しなかった。
「それで?」
「……なんだよ」
「彼女と話していなければ、危険を知らせなくてもいいのか?」
「そんなこと言ってないだろ!」
「僕だって心配してる!」
「なら、なぜ──」
「僕だって、あいつに何かあったら──」
ロンはそこで言葉を止めてロメルダを見た。
クラムが睨む。
「何だ」
「……なんでもない」
「なんでもないわけがあるか!」
「二人ともやめて!」
わたしは声を張った。
「ロンのせいじゃないよ。わたしも知ってたのに共有できてなかった」
ついさっきまで、恋愛小説のプロポーズについて話していた。
ロメルダが笑っていた。
アストリアも笑っていた。
トムとレオニードはくだらない知識比べをしていた。
なのに、もう誰も笑っていない。
「……最後にハーマイオニーを見たの、いつ?」
ロンが黙った。
ハリーも答えない。
クラムがわたしを見る。
「三日前、手紙が来た」
わたしは言った。
「元気だって」
「どこから?」
分からない。
そんなこと、確認していなかった。
ハーマイオニーが無事だと思ったから。
本人の字だったから。
それだけで安心してしまった。
スクリムジョールのことも、ハリーたちが当然伝えてると思い込んでしまった。
ハリーが青ざめた顔で言った。
「クラムが手紙をもらったのはいつだ?」
「一週間ほど前だ」
クラムが答える。
「魔法省へ来いと。直接、話をされたと言っていた」
マグル生まれの失踪が増えている。
朝に読んだ新聞記事が、頭の中で別の意味を持って浮かび上がった。
「ハーマイオニーは」
声が震えた。
「どこに行ったの?」