本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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130話 ビルとフラーの結婚式

 羽ペン通信ホグワーツ版編集部から手紙が届いたのは、夏休みも半ばを過ぎた頃だった。

 

 差出人はパドマだった。

 

『編集部宛に、ビル・ウィーズリーさんとフラー・デラクールさんから結婚式の招待状が届いたわ。三大魔法学校対抗試合で知り合った二人なので、ぜひ羽ペン通信にも取材に来てほしいそうよ』

 

 そこまで読んで、わたしは手紙から顔を上げた。

 

「結婚式かあ」

 

 正直、あまり食指は動かなかった。

 

 本の即売会なら、どんな遠方でも行く。

 絶版本が出ると聞けば、多少危険な場所でも考える。

 著者本人から未発表原稿を見せてもらえるなら、一晩くらい徹夜してもいい。

 

 でも結婚式である。

 

 新郎新婦が誓いを立て、みんなで拍手して、ご馳走を食べる行事だ。

 もちろんめでたい。

 けれど、本は増えない。

 

 そう思っていたところへ、母が横から手紙を覗き込んできた。

 

「結婚式?」

 

「うん。ビルとフラーの」

 

「あら、いいじゃない。行ってきなさいよ」

 

「取材はロメルダが行きたがりそうだから、わたしが行かなくても──」

 

「なんとしても恋愛のネタを探してくるのよ」

 

 母の目が輝いた。

 

「今度の小説に使えそうなものがあったら覚えてきてちょうだい。プロポーズとか、結婚式での台詞とか」

 

「お母さま、それ何に使うの?」

 

「参考資料に決まってるじゃない」

 

 言い切った。

 

 結局、わたしも参加することになった。

 ロメルダに知らせると、その日のうちに返事が来た。

 

『行く!!!!!!! 結婚式とか恋愛ネタの宝庫じゃん!』

 

 母の同類がいた。

 

 ロンとハリーも当然出席するらしい。

 そして意外なことに、トムにもフラーから招待状が届いていた。

 

「フラー、トムのことも呼ぶんだ」

 

「らしいね」

 

 トムは封筒を眺めながら、どうでもよさそうに答えた。

 

「元彼を結婚式に呼ぶってどうなの?」

 

 わたしが言うと、トムの眉がぴくりと動いた。

 

「元彼?」

 

「違うの?」

 

「そこまでの関係ではなかったよ」

 

「でも、ユール・ボールは一緒に行ってたじゃん」

 

「たまたまね。フラーが僕を連れ回していただけ」

 

 語弊しかない説明だったが、本人に訂正する気はないらしい。

 

「それなら私も行こう」

 

 突然、向かい側から声がした。

 

 新聞を読んでいたグリンデルバルドが、紙面を折り畳んだ。

 

「どうして?」

 

「保護者として」

 

「誰の?」

 

「君の」

 

「トムもいるよ」

 

「まだ十六歳じゃないか」

 

「それ以前に、お前は脱獄犯じゃないか」

 

 トムがムッとした顔をして冷静に指摘した。

 グリンデルバルドは少し考えた。

 

「では、別人になればいい。マルフォイ家の遠縁ということにしよう」

 

「勝手に親戚を増やさないでいただきたい」

 

 父が顔をしかめた。

 

 けれど父の抵抗もむなしく、その日の午後には見知らぬ老人が屋敷を歩いていた。

 

 白かった髪は灰色がかった金髪になり、顔は少し丸く、鼻も低くなっている。背丈までわずかに縮んでいた。

 言われなければ、グリンデルバルドだとは分からない。

 

「どうだね」

 

「どう見ても知らない人」

 

「成功だな」

 

 本人は満足そうだった。

 

 大陸に住んでいるマルフォイ家の遠縁という設定らしい。

 名前も経歴もすでに用意している。

 

 どこまで本気なのか分からなかった。

 

 その日の羽ペン通信全国版には、もっと気になる見出しが浮かんでいた。

 

『相次ぐマグル生まれの失踪 魔法省は関連を否定』

 

 ここ数週間で、複数のマグル生まれの魔法使いが行方不明になっているという。

 成人だけではない。

 ホグワーツを卒業したばかりの若者も含まれていた。

 

 わたしは記事を二度読んでから、すぐにハーマイオニーへ手紙を書いた。ついでにフラーの結婚式に参列する予定なのかも聞いておく。

 

 返事はその日の夕方に来た。

 

『心配しなくても私は大丈夫よ。少し就職活動の準備で忙しいから、結婚式は欠席するかも』

 

 いつもの几帳面な字だった。

 それを見て、少しだけ安心した。

 

 結婚式当日、ウィーズリー家の敷地には大きな天幕が張られていた。

 

 白い布が夏の日差しを柔らかく透かし、天井からは花々が降るように飾られている。長いテーブルには料理が並び、いたるところから笑い声が上がっていた。

 

 三大魔法学校対抗試合から始まった恋が、本当に結婚までたどり着いたらしい。

 

 フラーはものすごく綺麗だった。

 もともと人間離れした美人だったけれど、今日は輪をかけて輝いて見える。

 

 そして、トムを見つけた瞬間。

 

「ふん」

 

 フラーは鼻を鳴らした。

 

 横には新郎のビルがいる。

 どう見ても勝ち誇っていた。

 

 トムは一瞬目を丸くしたあと、苦笑した。

 

「勝負をしていた覚えはないんだけどな」

 

 そんなトムを見ていると、背後から声をかけられた。

 

「見違えるようだな、小さき魔女よ」

 

 聞き覚えはある。

 

 でも、誰だっただろう。

 

 振り返ると、背の高い男の人が立っていた。

 黒髪を短く整え、濃紺のローブを着ている。顔立ちは整っているのに、記憶と一致しない。

 

「……どなたですか?」

 

 男の人が固まった。

 

「まさか忘れたのか」

 

「ごめんなさい」

 

「レオニードだ」

 

「あ」

 

 思い出した。

 

 三大魔法学校対抗試合のとき、ダームストラングの代表団にいた男の子だ。

 ただし、わたしの記憶の中のレオニードは、もっと前髪が長かった。

 片目がほとんど隠れていて、何かにつけて意味深な言い回しをしていた。

 

 詳しくは忘れたけれど、『闇は我らを選ぶのではない。我らが闇を選ぶのだ』みたいなことを言っていた気がする。

 

「髪切ったんだ」

 

「最初に言うことがそれか?」

 

「だって全然違う」

 

「学生時代のことは忘れてくれ」

 

「厨二病、治ったの?」

 

「その言葉の意味は分からないが、たぶん治った」

 

 よかった。

 

「今は何してるの?」

 

「グリンゴッツだ。ビルさんの後輩で、呪い破りをやっている」

 

 わたしは黙った。

 呪い破りは古代の墓や遺跡に入り、危険な呪いを解除する職業だ。

 

「……卒業できてなくない?」

 

「何がだ」

 

「なんでもない」

 

 そこへロメルダがやってきて、わたしの袖をぐいぐい引っ張った。

 

「ねえねえねえ。ちょっと待って。このイケメン誰?」

 

「昔会った人」

 

「それは分かったけど、なんで今までこんなの隠してたの?」

 

「隠してないよ。こちら、レオニード。元厨二病で、今は呪い破り」

 

「余計な紹介をするな」

 

 ロメルダはレオニードを上から下まで眺めた。

 

「え、でも今めっちゃかっこいいじゃん。ていうか呪い破り? 職業までかっこよくない?」

 

「昔からこういうの好きだったよ」

 

「だから学生時代の話をするな」

 

 レオニードがため息をつき、空いていた椅子を引いた。

 

「とりあえず座らないか?」

 

 わたしが隣へ座ろうとした、そのときだった。

 トムがすっとそこへ座った。

 

 レオニードはトムを見る。

 トムもレオニードを見る。

 

「ここ、空いてたよね?」

 

 トムはにこやかだった。

 レオニードは肩をすくめ、ロメルダの隣へ移った。

 

「マイン」

 

 席に着いたレオニードが、何事もなかったように話しかけてきた。

 

「今度グリンゴッツに来ることがあれば案内してやる。一般には見せない保管庫に、面白い古書があるんだ」

 

「古書!?」

 

 思わず身を乗り出した。

 

「呪い付きも多いがな」

 

「見たい!」

 

「駄目だよ」

 

 トムが即答した。

 

「呪い付きなんだろう」

「解呪すればいい」

 

 レオニードが即座に答える。

 

「それが俺の仕事だ」

 

「失敗したら死ぬ仕事だっけ?」

 

「俺は失敗しない」

 

「ずいぶん自信があるんだね」

 

「少なくとも、彼女を危険な目には遭わせない」

 

 トムの目が細くなった。

 

「それは僕も同じだよ」

「そうか」

「ああ」

 

 どうして古書の話からこうなったのか分からない。

 ロメルダがすぐにわたしへ身を寄せた。

 

「ねえ、トム様なんかあった?」

 

「やっぱりロメルダにも分かる?」

 

「分かるっていうか、今の反応見る限り、ブクマちゃんが分かってない気がする」

 

「トム、人間になったんだよ」

 

「やっぱ分かってないじゃん」

 

 ロメルダの顔が引きつった。

 

「ていうか人間になったって何? どうやったの?」

 

「まず、賢者の石を使って──」

 

「やっぱいいや。その話、式終わってからにして。あたしの脳が追いつかない」

 

 その頃にはトムとレオニードが、今度は闇の魔術について話し始めていた。

 

 最初は古代の呪いの話だった。

 

 それがいつの間にか、「その術式は十五世紀にはもう廃れている」「いや、東欧では十六世紀まで使われていた」「それは別系統だ」と、どう考えても会話ではなくなっている。知識で殴り合っている。

 

 わたしたちは放っておくことにした。

 そこへアストリアも合流した。

 

「『未来の令嬢は自称英雄作家に恋をする』読んだ?!」

 

 ロメルダが尋ねると、アストリアの顔がぱっと明るくなった。

 

「読みました!」

 

「わたしも読んだよ」

 

『未来の令嬢は自称英雄作家に恋をする』は、未来からタイムスリップした令嬢が、少しキザな作家に恋をする話だった。

 令嬢は作家の大ファンなのに、恋と推しは違うと思い込んでいて、自分の恋心になかなか気づかない。

 そこがなかなか斬新だった。

 

「ていうかこれ、絶対あたしのための小説じゃない?」

 

 ロメルダが胸に手を当てる。

 

「どのへんが?」

 

「小説家に恋してる女の子の話だよ? あたしじゃん。ほぼ実話じゃん」

 

「作中の小説家はキザで、ロンには似てなかった気がするけど」

 

「そこは理想に決まってるでしょ」

 

 確かに、あの小説家はすごかった。

 

 プロポーズの場面で、『君という一冊を、僕は生涯かけて読み解きたい』とか言っていた。

 

「ロンだったら絶対そんなこと言わないよね」

 

「うるさい! だから小説で補給すんの。現実にないもんは本で摂取するしかないじゃん」

 

「なるほど」

 

 妙に説得力があった。

 

「じゃあ、ロメルダの理想のプロポーズってどんなのなんですか?」

 

 アストリアが尋ねると、ロメルダは即答した。

 

「絶対ドラマチックなやつ」

 

「どのくらい?」

 

「今まで読んだ恋愛小説で一番ロマンチックなの。あと絶対、あたしが予想できないやつ」

 

「恋愛小説読みすぎて、普通のじゃ満足できなくなってない?」

 

「当たり前じゃん。一生に一回かもしれないのに、『結婚する?』『うん』とかマジで無理。読者だったらその場で本閉じるし」

 

 隣でアストリアが笑った。

 

「私は王道でいいです。ちゃんと言葉にしてくれれば」

 

「えー、物足りなくない?」

 

「いいんです。言葉にさえしてくれれば。言葉にしてくれないより、ずっといいじゃないですか」

 

 アストリアは、少し離れたところでクラムと話しているドラコをちらりと睨んだ。

 

 ドラコはたしかに、言わなくても分かるだろうと思っていそうなところがある。

 

「ブクマちゃんは? どんなプロポーズが理想?」

 

「わたし?」

 

 理想のプロポーズ。

 そもそも、プロポーズというものに何を期待すればいいのだろう。

 

「ブクマちゃんのことだから、書斎くれるとか?」

 

 ロメルダが茶化した。

 

「『この部屋の本棚を全部好きにしていい』とかですか?」

 

 アストリアも悪ノリする。

 

「図書館をプレゼントしてくれる人とか言わないよね?」

 

 ロメルダが笑う。

 

「どこの王族と結婚する気?」

 

 さすがにわたしも笑った。

 

「そんな大げさじゃなくて、もっとささやかでいいよ」

 

「じゃあガチのやつは?」

 

 少し考えてから答えた。

 

「今まで読んだことがない本をくれるとかかな」

 

「やっぱり本かー。どんな本?」

 

「うーん。もう手に入らない本とか、世界に一冊しかない本とか」

 

 ロメルダが黙った。

 アストリアも黙った。

 

「なに?」

 

「待って。それ、図書館より難易度高くなってない?」

 

「そう?」

 

「世界に一冊だよ? それを『ささやか』って言ってる時点でだいぶヤバいから」

 

 アストリアまで頷いている。

 

 解せない。

 

 ふと隣を見ると、トムとレオニードはいつの間にか、どちらがより珍しい絶版本を読んだことがあるかで競っていた。

 

「ロメルダはロンとは一緒にいなくていいの?」

 

「うん。あたし取材も兼ねてるから」

 

 そう言われて、あたりを見回した。

 

 ロンはウィーズリー家の人たちが集まるところにいる。

 でもハリーが見当たらない。

 

「ハリーは?」

 

「ああ、ハリーならあそこらしいよ。ロンロンが言ってた」

 

 ロメルダが小声で、ジニーの隣に座る赤毛の男の人を指さした。

 ウィーズリー家の親戚だと思っていた。

 

「全然分からなかった」

 

「それが目的なんだよ」

 

 近くまで来たハリーが小声で答えた。

 どうやら変装しているらしい。

 今の情勢なら、その方が安全なのだろう。

 

 そこで、もう一人いないことに気づいた。

 

「ハーみょんは?」

 

「就職活動で忙しいみたい」

「もう七年生だもんね。こんなご時世でも就活か〜」

 

 少し離れたところでは、グリンデルバルドがアーサーさんと話していた。

 

 何を話しているのだろうと思って耳を澄ますと、自動車がどうとか、マグル製品に魔法をかける規制がどうとか聞こえてくる。

 

「いやあ、まさかドイツの魔法使いに、マグル製品へ興味を持つ方がいるとは!」

 

「最近になって、少々勉強を始めてね」

 

 グリンデルバルドは穏やかに笑った。

 

「電池に電話、テレビ、コンピューター。マグルは本当に面白いものを作るんですよ!」

 

「自動車も面白い」

 

「もちろん!」

 

 アーサーさんの顔がさらに輝いた。

 

「聞けば、君は空飛ぶ自動車を作ったことがあるとか」

 

 その顔が固まった。

 

「どこでそれを?」

 

「新聞で読んでね。英国には大した魔法使いがいると尊敬していた」

 

「いやあ、それほどでも」

 

 グリンデルバルドがアーサーさんが気を良くしているのをいいことに続けて尋ねた。

 

「英国のマグル製品に対する法律はどうなっているのかご存知かな? マグル製品に魔法をかけること自体が禁止なのかね?」

 

「いえ、何もかも駄目というわけではありませんよ。マグルの手に渡ったり、危険な使われ方をするのが問題でして」

 

「なら、魔法族だけで使えば問題ないということか」

 

 アーサーさんが黙った。

 

「魔法省が安全基準を決め、認可した車両だけ飛ばせばよいのではないか。所有者も魔法族に限定する」

 

「認可制……」

 

「箒より多くの人間と荷物を運べる。子どもや老人も使えるし、救急搬送にも向くだろう」

 

 アーサーさんの目がみるみる輝いていく。

 

「山間部や洪水でも使える……飛行区域を限定すれば、マグルに見られる危険も減らせますね」

 

「そういうことだ」

 

 まずい。

 完全に意気投合している。

 グリンデルバルドは満足そうにグラスを傾けた。

 

「ところで、マグルの製品をまとめて見るなら、どこへ行けばよい?」

 

 アーサーさんは即答した。

 

「家電量販店です!」

 

「カデン?」

 

「テレビも電話もコンピューターもカメラも、一度に見られますよ! ぜひ今度一緒に行きましょう! お恥ずかしい話、私一人だと家電の使い方が難しくてよく分からなかったんですよ! マグルは大したもんですよ」

 

 グリンデルバルドの目が細くなった。

 

「それは興味深い。マイン」

 

 グリンデルバルドは振り返った。

 

「君も来たまえ」

 

「わたしも?」

 

「君もマグル製品に興味があるだろう?」

 

 グリンデルバルドは楽しそうに笑った。

 

「我々は、マグルから学べることを随分と見落としていたらしい」

 

 危険な組み合わせだったかもしれない。

 

 わたしは元いた席に戻った。

 

「そういえば、ハーマイオニーにも聞いてみようと思ってたのに。今日はいないんだよね」

 

「何を?」

 

 ロメルダが尋ねる。

 

「マグルに魔法界の本を売るの、どう思うか。最初は恋愛小説にしようと思って」

 

 ロメルダが身を乗り出した。

 

「え、サイコー! 読者めっちゃ増えそう」

 

「でしょ?」

 

「そこ意気投合するなよ」

 

 いつの間にか戻ってきたロンが、呆れたように言った。

 そのままロメルダの隣へ腰を下ろす。

 

 少し離れたところからクラムもやってきた。

 

「久しぶりだな」

 

 クラムは前より大人びていたけれど、相変わらず大きかった。

 ロメルダがにやっと笑う。

 

「ハーみょんいなくて残念だったね」

 

 クラムは少しだけ眉を動かし、それから素直に頷いた。

 

「ああ。会いたかった」

 

 ロンの顔がわずかに強張った。

 

「……まだ好きなのかよ」

「悪いか?」

「別に」

 

 ロンはそう言って、皿の上の料理をフォークでつついた。

 どう見ても別にという顔ではない。

 

 ロメルダが片眉をくいっと上げてロンを見たが、何も言わなかった。

 

「まあ、インターンなら仕方ない」

 

 クラムが言った。

 

「インターン?」

 

 わたしは聞き返した。

 

「ハーマイオニーがそう言ってたの?」

 

「ああ。スクリムなんとかという男に、魔法省のインターンへ誘われたと言っていた」

 

 わたしとハリーの表情が変わった。

 ロンの手も止まった。

 

「……今、誰って言った?」

 

 ハリーが尋ねる。

 

「たしかスクリムジョールだったかな」

 

 クラムが繰り返した。

 

「元闇祓いだと言っていた」

 

「スクリムジョールが、ハーマイオニーを?」

 

 ハリーの顔から血の気が引いた。

 

「今のスクリムジョールは、本物じゃない」

 

 音楽は続いていた。

 少し離れたところでは、フラーが笑っている。

 グラスが鳴り、誰かが拍手していた。

 

「死喰い人のバーティ・クラウチ・ジュニアだ」

 

 喉がひどく乾いた。

 

「……でも、ハーマイオニーはそのこと知ってるよね?」

 

 ハリーがこちらを見た。

 

「マインも言ってないのか? てっきりマインが言ったものだと思ってた」

 

 クラムの表情が変わった。

 

「なぜだ」

 

 低い声だった。

 

「死喰い人が魔法省にいると知っていて、彼女に伝えていなかったのか?」

 

 クラムが一歩近づいた。

 

「ロンは知ってたの?」

 

 ロンの顔が強張る。

 

「僕も……知ってた」

 

 クラムが完全にロンへ向き直った。

 

「みんな知っていたのか」

 

「僕だって、ハーマイオニーがスクリムジョールに会うって知ってたら言ってた!」

 

「知ってからでは遅いだろう!」

 

「分かってるよ!」

 

「なら、なぜ彼女だけ知らない!」

 

「最近まともに話してなかったんだよ!」

 

 ロンが言った瞬間、自分で自分の言葉に傷ついたような顔をした。

 クラムは容赦しなかった。

 

「それで?」

 

「……なんだよ」

 

「彼女と話していなければ、危険を知らせなくてもいいのか?」

 

「そんなこと言ってないだろ!」

 

「僕だって心配してる!」

 

「なら、なぜ──」

 

「僕だって、あいつに何かあったら──」

 

 ロンはそこで言葉を止めてロメルダを見た。

 クラムが睨む。

 

「何だ」

 

「……なんでもない」

 

「なんでもないわけがあるか!」

 

「二人ともやめて!」

 

 わたしは声を張った。

 

「ロンのせいじゃないよ。わたしも知ってたのに共有できてなかった」

 

 ついさっきまで、恋愛小説のプロポーズについて話していた。

 ロメルダが笑っていた。

 アストリアも笑っていた。

 トムとレオニードはくだらない知識比べをしていた。

 

 なのに、もう誰も笑っていない。

 

「……最後にハーマイオニーを見たの、いつ?」

 

 ロンが黙った。

 ハリーも答えない。

 クラムがわたしを見る。

 

「三日前、手紙が来た」

 

 わたしは言った。

 

「元気だって」

 

「どこから?」

 

 分からない。

 そんなこと、確認していなかった。

 

 ハーマイオニーが無事だと思ったから。

 本人の字だったから。

 それだけで安心してしまった。

 スクリムジョールのことも、ハリーたちが当然伝えてると思い込んでしまった。

 

 ハリーが青ざめた顔で言った。

 

「クラムが手紙をもらったのはいつだ?」

 

「一週間ほど前だ」

 

 クラムが答える。

 

「魔法省へ来いと。直接、話をされたと言っていた」

 

 マグル生まれの失踪が増えている。

 朝に読んだ新聞記事が、頭の中で別の意味を持って浮かび上がった。

 

「ハーマイオニーは」

 

 声が震えた。

 

「どこに行ったの?」

 

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