ウィーズリー・ウィザード・ウィーズの店の裏には、売り場からは想像できないほど雑然とした倉庫がある。
棚には悪戯用品の箱がぎっしり詰め込まれ、その隙間には梱包途中の商品や、何に使うのか分からない部品が積み上がっている。壁際には色とりどりの煙を吐く壺まで置かれていて、時々、誰も触っていないのに小さく蓋が跳ねた。
その倉庫の真ん中に、今日は長机が二つ並べられていた。
「第一回ポケット・グリモア開発会議を始めよう!」
ジョージが両手を広げ、高らかに宣言した。
向かい側のフレッドが勢いよく机を叩く。
「世界を変える発明だ!」
「魔法界に革命を起こすぞ!」
「莫大な利益を生んで大金持ちになろう!」
「最後の一言で全部台無しよ」
ハーマイオニーが冷たく言い切った。
今日のフレッドとジョージは、いつにも増して元気だった。
というより、明らかに元気すぎる。
二人の前には、小さなガラス瓶が何本も転がっていた。中身はほとんど空になっている。赤と黄色の派手なラベルには、『もうひと頑張りしたいあなたへ! 元気百倍薬』と書かれていた。
わたしは瓶を一本持ち上げた。
「これ、何本飲んだの?」
「覚えてない」
「五本までは数えた」
「二人合わせて?」
「一人五本に決まってるだろ」
「飲みすぎ!」
思わず声を上げると、ルーピン先生がこめかみを押さえた。
「僕も止めたんだけどね」
「いいじゃないか、ルーニー! 若いうちは多少の無茶も必要だ」
隣でシリウスが楽しそうに笑う。シリウスの近くにも元気薬の瓶が転がっている。
「パッドフット、お前はもう三十代後半だぞ……」
「俺は信じないぞ、俺もまだ若い!!」
今日集まっているのは、わたしとフレッド、ジョージ、シリウス、ルーピン先生、ハーマイオニー、コリンとそのお父さん、それからトムとフェルディナンドだった。
最初は、フレッドとジョージを中心に数名で作る予定だったが、参加したい人がどんどん増えていつの間にか多くなっていた。
マグルの道具に詳しい人もいた方がいいということになり、コリンとコリンのお父さんが呼ばれた。忍びの地図を作ったシリウスたちに加えて、トムもいつの間にかしれっと参加者に加わっていた。
フェルディナンドに至っては、シリウスについて来て当然のように席に座っていた。ブラック家はウィーズリー・ウィザード・ウィーズに出資しているが、お金の管理をしているのは実質フェルディナンドだった。
「まず、今回のポケット・グリモアの開発費はいつもの製品と同じようにブラック家から出資予定だ。開発費を回収するまでは、売上の十五パーセント、回収し終わったら五パーセントをブラック家が受け取る」
フェルディナンドがお金の話を淡々とすると、双子は背すじをピシッと伸ばした。
「いつもお世話になってます!」
「それで」
フェルディナンドが机の上に並んだ物を眺める。
「これが試作品か?」
机の上には、大きさも厚さも違う手帳が七冊ほど並んでいる。
革張りのものもあれば、金属で補強されたものもある。表紙に宝石を埋め込んだ豪華なものまであった。
そのうちの一冊をフレッドが不用意に開くと、突然、紫色の煙が噴き出した。
「失敗作を開けるな!」
「お前がそこに置いたんだろ!」
二人が慌てて閉じる。
別の一冊は、さっきから甲高い声で歌を歌い続けている。
さらに隅に置かれた一冊には唇のようなものがついていて、「開けろ」「俺を読め」と繰り返していた。
わたしはそれを見て首を振った。
「これはちょっと怖いよ。もっと普通の本みたいな見た目でいい」
「何故だ! ちゃんと読め!」
手帳が怒鳴った。
「本が読者に命令するの、よくないと思う」
「問題はそこなの?」
ハーマイオニーが呆れたようにこちらを見る。
フレッドが咳払いをすると、比較的まともに見える一冊をわたしの前へ滑らせた。
フレッドが机の上から一冊の手帳を取り、わたしの前へ滑らせた。
「本命はこれだ」
「試作七号!」
深い藍色の革表紙で、角には銀色の金具がついている。見た目は少し厚めの手帳だった。
わたしが表紙を開くと、白紙だったページの上を銀色の文字が走った。
『鏡』
『手紙』
『写真』
『羽ペン通信』
『本棚』
「目次?」
「使いたいものを言ってみろ」
「鏡」
言った途端、ページがひとりでにめくられた。
見開きいっぱいに銀色の鏡が現れる。縁には、登録された人の名前が細い筆記体で並んでいた。
「どれか名前を呼んでみろ」
「リーマス・ルーピン」
名前を呼ぶと、『リーマス・ルーピン』の文字だけが強く光った。
隣に座っていたルーピン先生の手帳が震え、中からピグミーパフの鳴き声が響く。
「どうしてピグミーパフの鳴き声が鳴るんだ?」
「俺たちの趣味」
ルーピン先生が手帳を開くと、わたしの鏡にも困った顔が映った。
『聞こえるかい?』
「聞こえるよ!」
『目の前にいるけどね』
「でもすごい!」
次に「写真」と言うと、またページが勝手に動いた。
紙の上に銀色の枠が浮かび、目の前の景色が映る。
「記録」
そう唱えると、ページの中に写真がゆっくり浮かび上がった。
写真の中では、シリウスが得意げに髪をかき上げている。
「動いてる!」
「魔法写真だからね」
コリンが嬉しそうに言う。
さらにページをめくると、『羽ペン通信』の題字が現れた。
「羽ペン通信だ!」
思わず身を乗り出す。
見出しと記事が紙面の上に組み上がり、写真が動いている。
「誰かさんが絶対必要だって何度も言うからな」
「必要だよ」
その次は本棚だった。
ページの中に、小さな本棚が描かれている。
「『吟遊詩人ビードルの物語』」
題名を口にすると、一冊の本が棚から抜け出し、見開きいっぱいに本文が広がった。
「……すごい」
「鏡より嬉しそうだね」
トムが横から覗き込む。
「だって本が読めるんだよ!」
フレッドが机の上の紙を集める。
「ここからが問題だ」
「もっと色々入れたい」
ジョージが指を折り始めた。
「地図とか、ゲームとか、悪戯道具とかな」
「最後のはいらないよ」
「絶対いる!」
「いらないって!」
今度はわたしまで双子と言い合いになる。
ハーマイオニーは既に諦めた顔をしていた。
「問題は、機能を増やせば増やすほど構造が複雑になることだ」
フェルディナンドだけは冷静だった。
彼は試作品をひっくり返し、裏表紙の留め具を外している。中には細い銀線と小さなルーン文字が何層にも重なっていた。
「必要な素材も増える。魔力を安定させる部品も追加しなければならない。全部を一冊に詰め込めば、価格が上がるぞ」
「まさにそこなんだよ」
フレッドが机に突っ伏した。
「安く売りたいけど、いっぱい売りたいだろ」
「でも、いっぱい儲けたいのも事実だ」
わたしは試作品をぱらぱらめくった。
「そうだよね。原稿も共有できるようにしたいし」
「原稿の共有にも使うの?」
ハーマイオニーがこちらを見る。
「羽ペン通信の編集に便利でしょ。みんなが同じ原稿を見て、そこに直接書き込めたら、わざわざ同じ部屋に集まらなくても原稿の編集ができるよ」
言いながら、だんだん便利そうに思えてきた。
「記事を送るだけじゃなくて、同時に直せたらもっといいよね」
「それは便利だわ」
ハーマイオニーもすぐに食いついた。
「修正履歴も残せたらいいわね。誰がどこを直したのか分かるようにして。さすがに難しいかしら」
「できるよ」
トムが短く言った。
みんなの視線が集まる。
「日記を作った時に使った魔法を応用すればいい」
ハーマイオニーの表情が途端に険しくなった。
「それ、闇の魔術じゃないでしょうね」
「違う」
「本当に?」
「闇の魔術は魂を入れるところだけだ。文字を読み取り、返事を書き込む仕組み自体は違う」
「じゃあ、その部分だけ使えばいいんだ」
「そうなるね」
わたしは思わず手を叩いた。
「編集作業がしやすくなるね! 本をたくさん出版できる!」
「結局そこに戻るのか」
シリウスが笑う。
「大事だよ」
やりたいことは次々に増えていった。
紙に書き出していくうちに、机の上は案でいっぱいになった。
その様子をしばらく眺めていたコリンのお父さんが、控えめに手を挙げた。
「あの、さっきの価格のことで一ついいかな」
「何かいいアイデアがあるの?」
「マグルのゲーム機では、本体を買ったあとに、遊びたいゲームを別に買うんだ」
「どういうことだ?」
「ゲームソフトっていうんだけどね。最初から全部入ってるわけじゃないんだよ」
コリンのお父さんは試作品を手に取り、ページを一枚ずつめくった。
「この手帳も同じようにできないかな」
「どういうこと?」
「ページを別で売るんだよ」
倉庫の中が一瞬だけ静かになった。
フレッドが顔を上げる。
ジョージも同時に顔を上げた。
「本体には必要最低限だけ入れて」
「欲しい機能はあとから追加する」
ジョージが椅子から勢いよく立ち上がった。
「天才だ!」
「天才がいた!」
「父さんすごい!」
コリンまで嬉しそうに笑う。
双子は興奮したように計算をはじめている。
「つまり基本セットを安くできるな」
「あとからページを追加できるから、ページのみの販売もできるね」
「もちろん差し替えもできる」
「集めたくなる仕様にもできる!」
コリンのお父さんは、試作品の鏡のページを楽しそうに眺めていた。
「でも、本当にすごいなこれ。僕も欲しいな」
「父さんが?」
コリンが驚いたように振り返る。
「だって、コリンが学校にいる間でも顔を見て話せるんだろう?」
お父さんはそう言って、穏やかに笑った。
「手紙が来るのも嬉しいけど、元気そうな顔を見られるなら、その方が安心するよ」
その瞬間、ハーマイオニーが勢いよく立ち上がった。
「それよ!」
「何?」
「最初に売る相手!」
ハーマイオニーはコリンと、そのお父さんを交互に見た。
「ホグワーツの生徒と、その家族よ。特にマグル生まれの」
言われてみれば、その通りだった。
ホグワーツへ入った子どもは、十一歳で突然、家族とは違う世界へ行く。
ふくろう便は使える。
でも、家にフクロウが飛び込んでくる生活に慣れているマグルなんて、ほとんどいない。
煙突飛行網も使えない。
姿現しもできない。
何かあったからといって、簡単に学校まで様子を見に来ることもできない。
「しかも今は……」
ハーマイオニーの声が少し低くなった。
「離れた場所にいる家族が無事なのか、すぐ知りたい人は多いと思う」
今度は誰も茶化さなかった。
死喰い人がどこに潜んでいるか分からない。
昨日まで普通に暮らしていた人が、突然いなくなることもある。
手紙が届くまで待つ時間そのものが、不安になる。
「じゃあさ」
わたしは試作品のページを撫でながら言った。
「マグルの人にも使ってもらえるなら、ちょうどいいね」
「何が?」
「マグル向け恋愛小説の最初の読者になってもらおうよ!」
みんなが一斉にこちらを向いた。
「……どうしてそこにつながるんだ?」
トムが眉を寄せる。
「マグル向けに本を出す前に、反応を見たいと思ってたんだよね。ポケグリを買った人に、試しに読んでもらおうよ!」
シリウスが吹き出した。
「いきなり恋愛小説の宣伝になったぞ」
「でも面白そうだね」
ルーピン先生は意外にも賛成した。彼はプロングズ出版の編集者の一人だ。本に対する情熱は他の人よりあるはずだ。
「そのまま感想を送れるようにすれば、読者の反応も集められるんじゃないか?」
「それいい! お母さまも自分の恋愛小説の反応絶対見たいだろうし」
「え? あいつ恋愛小説なんか書いてたのか?」
シリウスが不思議そうな顔をした。
おっと。母はシリウスにも恋愛小説家だということを内緒にしていたらしい。
「だからか……」
ルーピン先生は何か思い当たる節があるのか頭を抱えている。最近トンクスと妙に仲が良いことを弄られたのだろうか。
こうして、ポケット・グリモアの第一号は形になった。
販売はウィーズリー・ウィザード・ウィーズが担当することになった。
最初から入っているのは、鏡とメッセージのページだけだ。
写真、新聞、読書、ゲームなどは、欲しい人があとからページを買い足す。
読書のページでは、母の恋愛小説の大人気作『薔薇色の惚れ薬は二度効く』を期間限定で無料で読めるようにした。
母たっての強い希望で、新作の『より大きな愛のために』という恋愛小説もおまけで入れることになった。
若くて才能にあふれる二人の青年がひと夏の恋に落ちる話で、敵になってもお互いをひそかに愛し続ける恋愛小説だった。母が男性同士の恋愛小説を書くのは初めてで、どのくらい受け入れられるか分からないから先にポケグリで出して様子見したいらしい。
フレッドとジョージはポケグリの初回生産数をかなり少なく見積もっていた。わたしはもう少し増やそうと何回か説得し、やっと生産数を多めにすることに変えた。
「まずは様子見だな」
「売れたら増産だ」
そう言っていた。
ところが、発売日の夕方、わたしが店へ行くと、ポケグリを並べていた棚が空になっていた。
「……もうないの?」
「完売!」
フレッドが店の奥から飛び出してくる。
「完っ売!」
ジョージもその後ろから現れた。
二人とも朝より元気だった。
机の上には、また空瓶が増えている。
「また飲んだでしょ!」
「今夜も徹夜だ!」
「今の俺たちなら百冊でも二百冊でもいける!」
「今すぐ寝なさい!」
ハーマイオニーの怒鳴り声が店中に響いた。
「どんな人が買ってた? ホグワーツ生とか?」
「いや、やけに女性が多かったな」
「『水仙姫の新作が!』とか言って朝から並んでたぞ」
どうやら水仙姫の熱心なファンが新作欲しさに買っていったらしい。
ポケグリ第二弾の発売日、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズの前には、開店前から列ができていた。
初回とは違い、並んでいるのは若い女性だけではない。年配の魔法使いや、子どもを連れた夫婦、マグルらしい服装の人まで混じっている。
「第二弾!」
「今回はたっぷり用意したぞ!」
フレッドとジョージが店を開けると、お客さんが一斉になだれ込んできた。
「ポケグリ一冊!」
「写真の頁もください!」
「水仙姫の新作って、まだ無料で読めます?」
「あと三日です!」
「三日!?」
そこだけ悲鳴が上がった。
やっぱり水仙姫は強かった。
けれど、今回はそれだけではなかった。
「息子がホグワーツにいるんです」
鏡の頁を手にした男性が、フレッドに話していた。
「最近は何が起きるか分からないでしょう。ふくろうを飛ばして、返事が来るまで待つのが怖くて」
そう言って、男性は自分の分に加えて妻の分も買った。
別の夫婦は、離れて暮らす娘と話すために二冊買っていった。
不死鳥の騎士団の関係者は、仲間との連絡用に何冊もまとめて買った。
「今のご時世じゃ、ふくろうが目的地まで無事に着く保証もないからね」
そう言われて、わたしは少しだけ黙った。
すぐに声を聞ける。
無事だと分かる。
そのこと自体が、今の魔法界では大きな意味を持っていた。
「マイン!」
ジョージが店の奥から叫ぶ。
「写真のページがなくなる!」
「本棚も残り少ないぞ!」
「羽ペン通信は?」
「それは余ってる!」
「なんで!?」
「新聞は普通に買えるからだろ!」
昼を過ぎる頃には、山ほど積んであった手帳がほとんど消えていた。
フレッドが売上帳簿を見て、口元を押さえる。
「ジョージ」
「何だ」
「俺たち、大金持ちになるかもしれない」
「言っただろ」
その横から、フェルディナンドが帳簿を覗き込む。
「ブラック家への十五パーセントを忘れるな」
「夢を壊すなよ!」
数日後には、魔法書研究会のメンバーも全員がポケグリを持つようになった。
すぐにパドマの提案で新学期に向けた羽ペン通信ホグワーツ版の編集会議を開くことになった。
わたしは自室の机にポケグリを広げる。
鏡のページには、いくつもの小さな枠が並んでいた。
みんな別々の場所にいるのに、同じページの中に顔が並んでいる。なんだかビデオ会議みたいだ。
『聞こえる?』
「聞こえるよ」
『すごーい!』
ロメルダが画面いっぱいまで顔を近づけてきた。
『てかさ、これ、化粧してない時やばくない? すっぴん見られるの嫌なんだけど』
『閉じればいいじゃない』
ハーマイオニーが呆れたように返す。
『それもそっか!』
『じゃあ、編集会議を始めましょう』
パドマが言うと、みんなが少しずつ姿勢を直した。
ロメルダも、さっきまでのふざけた顔をやめる。ロメルダの目は少し腫れていたが、思っていたよりも元気そうだった。
パドマは真面目な顔で新学期に学校に戻るかを議題として挙げた。
政府が発表したホグワーツのふざけた人事を本物として受け入れていいのか迷っているようだった。
『新聞のくせに通称を使うなんて気に入らないわ。白銀卿なんて呼び方で誤魔化しているけど、死喰い人がホグワーツを支配するってことよね』
『白銀卿は本当はヘンリー・ポーターの作者本人なんじゃないのか。そうじゃなきゃあそこまでかっこよく書けない』
アーニーが真面目に考察したが、わたしは今回は外れてるだろうなと思った。ロックハート先生があの本を書いたことはもう大抵の人は察していた。
『私はヴォルデ──失礼──ヴォルたんと白銀卿は同じ人物と考えているけど、世間には白銀卿は別人とする人も多いわ。むしろ、別人ということにしたいんでしょうね』
ハーマイオニーは言った。
「ヴォルたん」というのはロメルダが考えたヴォルデモート卿のあだ名だった。ハリーやハーマイオニーは平気でヴォルデモートを名前で呼ぶのだが、ロンやアーニーがヴォルデモートという呼び方は心臓に悪いから嫌だと主張したので、編集会議ではヴォルデモートをヴォルたんと呼ぶことにしていた。
「『ヘンリー・ポーター』の最新巻では闇の帝王は実はヘンリーの同級生だったことになっているからね。ヴォルたんは前の自分のイメージから脱却をはかりたいのかもしれない」
筋書きでは、セオドールが実は本物の闇の帝王で、白銀卿は最強の頼もしい味方という設定になっている。最新巻で遂に賢者を倒すことに成功したものの、まだ闇の帝王は生きているというところでストーリーが終わっていた。
現実を物語の筋書き通りに進めたいのだろう。
『新校長が学校をどうするかは分からないけど、私はホグワーツにヴォルたんや死喰い人が来ようと殺人鬼がいようと最後まで残って記事を書き続けるわ。それが記者だもの』
さすが、パドマは記者の鏡だった。
『僕の両親はホグワーツに行かせるべきか悩んでるみたいだったけど、僕もパドマと記事を書くために残る』
アーニーも頷いた。
『白銀卿ってナーグルを糖蜜パイにして食べちゃうんだって。怖いけど、私もホグワーツには行きたいな』
ルーナも言った。
ヴォルデモートがナーグルを糖蜜パイにして食べることはないと思う。
わたしやアストリアも行く選択を取った。スリザリン生を悪いようにはしないだろうという推測もある。
『ハリーはどうするんだ?』
ロンがハリーに尋ねた。
『僕もホグワーツに戻るよ。この前あいつが穴熊が描いてあるカップを持っているのを見た。あいつ、きっと最後の分霊箱が壊されないか怖くて手元に置いているんだ。校長ってことは新学期には会えるんだろ? こんな好都合なことはないね。もう準備はできている』
ハリーの目は据わっていた。もう覚悟を決めた顔だった。
『あたしも残りたい。てか、新学期に羽ペン通信で連載したいものがあるんだ』
ロメルダが言った。
「何?」
ロメルダは少しだけ言葉を探した。
『アンブリっちが主人公の恋愛小説を書きたいの』
わたしは瞬きをする。
「アンブリッジ先生を主人公にするの?」
『うん』
ロメルダは真剣な顔をしていた。
『アンブリっちが亡くなったって聞いて、あたしすごくショックだった。死んだ人はもう帰ってこないけど、本として残すことはできるでしょ? ダンブるんのときもそうだったよね」
わたしはダンブルドア先生が亡くなったときに時間を巻き戻して助けようとしたことを思い出した。あのときは先生の遺品を頑張って編集して本として出した。
ダンブルドア先生の自伝は多くの人に読まれた。
あの選択は間違っていなかったと思う。
人は死んでも、本として残せば忘れられることはない。
『だからね、もう泣くのはやめたの。アンブリっちをめちゃくちゃ格好いい女にして、あたしが今まで読んだ恋愛小説で一番幸せにするんだ』
ロメルダはそう言ってから、少しだけ目を伏せた。
それから顔を上げた。
『読んだ人がさ、アンブリっちって最高に格好よかったよねって思える話にしたい』
ロメルダはもう泣くのをやめ、前に進むことを選んだのだ。この子はやっぱり強い。
わたしは手元の羽ペンを取った。
「いいと思う! 連載が完結したら、プロングズ出版で本を出そうよ」
『やった! じゃあパド姉、一番良い連載枠開けといてね!』
『ニュースに押し潰されないようにいい枠開けとくわ』
ポケグリは、わたしが思っていたよりずっとたくさんのものを繋いでくれそうだった。