本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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135話 親愛なる生徒諸君

 新入生の組分け儀式は、ホグワーツの名物行事の一つだ。

 毎年、古びた帽子が十一歳の子どもたちの頭に載せられ、その後の七年間を左右する決定を下す。

 今年は、その中でも特に注目を集めている新入生がいた。

 

 ルーファス・スクリムジョール・ジュニアである。

 

 ホグワーツ特急の中で、入学初日にして死喰い人へ体当たりした一年生。

 ルーファス・スクリムジョールの息子だ。

 

 当然、魔法書研究会でも話題になった。

 というより、賭けになった。

 

『自分の寮に入った人が、全員にバタービールを奢る』

 

 ポケグリの魔法書研究会のメッセージを書き込むページには、誰が言い出したのか、そんな決まりが流れていた。

 考えた人はたぶん、自分の寮には来ないと思っていたに違いない。

 

 わたしも少しだけそう思っていた。

 

 別にルーファスが嫌いなわけではない。

 

 ただ、入学初日に死喰い人へ体当たりする十一歳を、監督生として一年間面倒を見ることを想像すると、若干の不安がある。

 本人はすでに組分けを待つ一年生の列に並んでいた。

 

 大広間の端から見ても分かるくらい、落ち着きがない。前にいる生徒の肩越しに教師席を睨んでは、また列へ戻っている。

 

 ポケグリの留め具がカチカチと鳴った。誰かがページに書き込んだということだ。

 魔法書研究会のページを開く。

 

ハリー:絶対グリフィンドールだろ。

 

 顔を上げると、グリフィンドールのテーブルでハリーが腕を組んでいた。

 ホグワーツ特急でも、「死喰い人に喧嘩を売るなんて、あいつは見どころがある」と何度か言っていた。

 とても自信ありげだった。

 

ハーマイオニー:グリフィンドールでも、入学初日に死喰い人へ喧嘩を売るのはハリーくらいよ。

ハリー:でも、勇敢ではあるだろ? 

ハーマイオニー:勇敢と無謀を一緒にしないで。

ロン:君がそれ言う? 

ハーマイオニー:どういうことよ? 

ロン:何でもない。

 

 ロンが一瞬で引いた。

 

 ハーマイオニーはブラック家からポケグリを通して組分け儀式を見ている。

 今のところホグワーツへ来ることは許されていないが、だからといって新入生の組分けを見逃すつもりもないらしい。

 

パドマ:あんな子がレイブンクローに来たら、新聞を読ませないと駄目ね。暴力と杖より羽ペンのが強いことを教えなきゃ。

 

 わたしは杖でページに書き込んだ。

 

マイン:本を読ませた方がいいよ。

ジニー:どっちも同じようなものじゃない? 

マイン:違うよ。本の方が詳しいもん。

パドマ:新聞の方が情報が新しいわ。

 

 結論としては、レイブンクローかスリザリンに入った場合、ルーファスはかなりの量の活字を読まされることになりそうだった。

 ハッフルパフのテーブルでは、アーニーがニコニコしていた。

 

「話せば分かるんじゃないかな。まずは温かいお茶でも飲んで」

 

 とてもハッフルパフらしい意見だった。しかし、アーニーは続けて書き込んだ。

 

アーニー:ところで、スクリムジョール夫妻殺害事件について本人はどこまで見たんだろう。僕の推理では、妻が先に殺されたと思うんだけど。もし証言が取れたら時系列を照合したい。

ドラコ:やめておけ。

 

 アーニーが本人に会ったら、お茶より先に事情聴取を始めそうだった。

 

 そんなわけで、わたしたちは全員、組分け儀式へかなり集中していた。

 そのおかげで、教師席の中央にヴォルデモートが座っていることについては、誰も触れずに済んでいた。

 今年の校長である。

 黒いローブをまとい、長い指を組み、当然のような顔で歴代校長と同じ席についている。

 その後ろには死喰い人が何人か立っていた。

 

 護衛なのだと思う。

 わたしは、今年から教師席の装飾がずいぶん斬新になったと思うことにした。

 

 たぶん他のみんなも同じだった。

 ポケグリのチャットにも、誰一人として校長について書き込まない。

 

 全員、組分けが楽しみで仕方ないらしい。

 そういうことにしておく。

 

 やがて、名前が呼ばれた。

 

「スクリムジョール、ルーファス!」

 

 ルーファスは胸を張って前へ出た。

 椅子へ座り、組分け帽子を被せられる。

 

 帽子が眉のあたりまで落ち、静かになった。

 ところが、三分経ってもなかなか決まらなかった。

 ルーファスは帽子の下で何度か身じろぎした。

 

ロン:まだ? 

ハーマイオニー:難航してるわね。

 

 五分を超えたところで、大広間のどこかから声が上がった。

 

「ハットストールだ!」

 

 ざわめきが一気に広がった。

 五分以上、組分け帽子が寮を決められない生徒は珍しい。

 

 ハリーが不思議そうな顔をした。

 

「グリフィンドール以外、どこと迷っているんだ?」

 

 どうしてグリフィンドールが候補に入っている前提なのだろう。

 七分を超えると、ルーファス本人もさすがに不安になってきたらしい。

 帽子のつばを両手で掴み、どうにか剥がせないか格闘している。

 八分近く経ったところで、組分け帽子がようやく口を開いた。

 

「スリザリン!」

 

 一瞬、大広間が静かになった。

 わたしも動かなかった。

 隣を見ると、ドラコも動いていない。

 

「……あの馬鹿が?」

 

 ようやく出てきた感想がそれだった。

 ページでは立て続けに文章が流れた。

 

ハリー:ドラコ、バタービールありがとう! 

ロン:ドラコ、ごちそうさん! いやー、賭けっていいな。

パドマ:ありがとう、ドラコ。

ロメルダ:フォイ君ごちです! 

アーニー:ごちそうさま。

ハーマイオニー:私は飲めないけど、気持ちだけ受け取っておくわ。

 

 ドラコの眉間に深い皺が寄った。

 

「待て。スリザリンはお前もいるだろ」

 

「アストリアもいるよ」

 

「アストリアは出さなくていい」

 

「彼女には奢らせないのに妹には奢らせるの?」

 

 ドラコは難しい顔をしていた。

 しかし、わたしが出してもドラコが出してもお金の出どころは同じマルフォイ家。マルフォイ家のお小遣いなら、魔法書研究会メンバー全員分のバタービールなんて大した出費ではないはずだ。

 

 ルーファスは帽子を脱ぎ、ひどく納得していない顔でこちらへ歩いてきた。

 無理もない。

 

 スリザリンでは、以前から死喰い人の家の子どもは珍しくなかった。

 そして今年は、さらに事情が変わっている。

 

 ヴォルデモートが校長になった。

 親が死喰い人であることは、隠すものではなくなったらしい。むしろ下級生の間では、一種の肩書きになっている。

 

 少し離れたところでは、セオドールの周囲に何人もの生徒が集まっていた。

 

 ノット家がヴォルデモートと近いことを知って、何とか顔を覚えてもらおうとしているらしい。

 セオドール本人は面倒そうな顔で料理を取っていた。

 

 そこへルーファスが来た。

 セオドールを見て、あからさまに顔をしかめる。

 嫌な予感がした。

 

「お前の父親、死喰い人──」

 

「待て」

 

 ドラコがルーファスの襟を掴んだ。

 

「離せ!」

 

「入寮して三分で上級生に喧嘩を売るな!」

 

「あいつの父親は死喰い人だろ!」

 

「だからって本人に飛びかかるな!」

 

「飛びかかってない!」

 

「今にも飛びかかりそうな顔だった!」

 

 確かにそう見えた。

 セオドールはパンをちぎりながら、こちらを眺めている。

 

「僕は別に構わないけど」

 

「お前も煽るな」

 

 ドラコの仕事が、初日からかなり増えていた。

 

「ミスター・マルフォイ」

 

 低い声が後ろから聞こえた。

 振り返ると、スネイプ先生が立っていた。

 

 いつもの黒いローブ。

 いつもの不機嫌そうな顔。

 

 去年までとほとんど変わらない。

 

「その一年生をよく見張るように」

 

「……はい、先生」

 

 ドラコが答えた。

 わたしは少し不思議になった。

 

「スネイプ先生って、今年もホグワーツにいるんだね」

 

 ドラコを見る。

 

「裏切ったのに大丈夫なの?」

 

「さあ」

 

 ドラコにも分からないらしい。

 

 代わりにセオドールが答えた。

 

「スネイプ先生の身体には、死喰い人の印が刻まれている。そう簡単に寝返れるものじゃないだろう」

 

「どういうこと?」

 

 セオドールはそれ以上は言わなかった。

 

 スネイプ先生はヴォルデモートと話をつけたのだろうか。

 ただ、まったく罰を受けていないわけではないらしい。

 今年、魔法薬学を担当するのはスラグホーン先生で、スネイプ先生はその補助教員になっていた。

 

 つまり降格である。

 

 教師席を見る。

 スネイプ先生の右隣には、トムが座っている。

 トムも闇の魔術に対する防衛術の補助教員だ。

 ムスッとした顔で食事をしていた。

 

 わたしはポケグリを開いた。

 

 マイン:補助教員仲間ができてよかったね。

 トム:仲間じゃない。

 マイン:でも隣に座ってるよ。

 トム:席が隣というだけだ。

 

 顔を上げると、教師席のトムがこちらを睨んでいた。

 

 スネイプ先生の左隣には、今年から闇の魔術に対する防衛術を担当するアミカス・カローが座っている。

 さらに教師席を眺める。

 ヴォルデモートは敵だからといって、去年までの教師を全員追い出したわけではないらしい。

 

 闇の魔術に対する防衛術とマグル学以外は、去年とほとんど変わらない。

 なんならハグリッドでさえ教師のままだ。

 

 これは少し意外だった。

 人手不足なのかもしれない。

 

 そして、今年から見覚えのない役職が一つ増えていた。

 生徒カウンセラーだ。

 担当者は、ギルデロイ・ロックハート。

 わたしはポケグリを開き、ホグワーツ生のページに書き込んだ。

 

 マイン:ロックハート先生が生徒カウンセラーになったけど、死喰い人だから気をつけて! 

 

 すぐに魔法書研究会のメンバーが追加で書き込んだ。

 

ハリー:絶対に相談するな。

ハーマイオニー:一人で行かないこと。

アーニー:会う前に事前に紙かポケグリに書いて保存しておいた方がいい。

パドマ:相談後、自分の名前を覚えているか確認。

アストリア:記憶に抜けがあったらすぐ共有して確認した方がいいですね。

ロン:カウンセラーに相談したあと記憶確認が必要なの怖すぎるだろ。

 

 たしかに。

 

 教師席では、ロックハート先生が誰かと目が合うたびに、爽やかな笑顔で手を振っていた。

 ロックハート先生が死喰い人だということは、世間ではあまり認知されていない。

 最近の新聞では、彼がアズカバンに入れられたのは冤罪だったということになっていた。

 誰かの記憶を消したのかもしれない。

 

 食事が始まってからも、ルーファスはスリザリンに入れられたことがまだ納得できないらしく、料理を取る合間に何度もセオドールの方を睨んでいた。

 そのたびにドラコが言う。

 

「見るな」

 

「見てない」

 

「見てる」

 

「向こうに料理があるだけだ」

 

「さっきから肉料理しか取ってないだろ」

 

 わたしはポケグリを開いた。魔法書研究会のページに書き込む。

 

マイン:ルーファス、セオドールと喧嘩しそう。大丈夫かな? 

ハリー:大丈夫だろ。入学初日に死喰い人へ体当たりしただけだ。二日目からはもう少し慎重になるかもしれない。

ハーマイオニー:全然安心できないわ。

ロメルダ:喧嘩から始まる友情ってあるよね。最初は最悪だった二人が、気づいたらお互いにしか弱いところを見せられなくなるやつ。

ロン:男同士だぞ。

ロメルダ:だから何? 恋愛に性別は関係ないよ! 『より大きな愛のために』にも書いてあるもん。あー、でもウィーズリーさんに恋愛なんて分かるわけないか! 

 

 ロメルダはロンと別れてから、ロンへの当たりが少し強くなった。ロンロンという呼び方も辞めたらしい。

 元恋人ということを除いても、いろいろ文句があるようだった。

 

 そこへルーナから書き込みが入る。

 

ルーナ:ルーファスはセオドールを見てるんじゃなくて、セオドールのお父さんを見てるのかもしれないね。

 

 少しだけチャットが止まった。

 

パドマ:……それはありそうね。

 

 ルーナはときどき、不思議なことを言っているようで急に核心へ来る。

 

ハリー:ドラコ、監督生なんだから止めろよ。

ドラコ:なぜ僕なんだ。

ハリー:マルフォイ家って今年は死喰い人対応窓口みたいなものだろ。

ドラコ:違う! 

マイン:お兄さま頑張って。

 

「お前も監督生だろ」

 

 隣から睨まれた。

 そのとき、ルーファスが立ち上がった。

 

ジニー:ルーファスが立った! 

ハリー:ドラコ、撮影しといて。

ロメルダ:ここでセオドールが庇ったらちょっと良くない? 

ロン:誰を何から庇うんだよ。

 

 ドラコが腰を浮かせる。

 けれど、ルーファスはローストポテトを取っただけで戻ってきた。

 

マイン:違った。

ロメルダ:恋も喧嘩も焦っちゃ駄目だよ。

ハーマイオニー:恋は始まってないわよ。

 

 ルーファスが怪訝そうにこちらを見る。

 

「何書いてるんだ?」

 

「研究会の連絡だよ」

 

「何の研究会?」

 

「魔法書研究会」

 

「本読むだけ?」

 

「新聞と本も作るよ。羽ペン通信とか、ダンブルドアの自伝とか、『トム・リドルの日記』、読んだことない?」

 

 ルーファスが少しだけ興味を示したので、図書室で活動していることを教えた。

 

 食事が進むにつれて、大広間にも少しずつ普段の空気が戻ってきた。

 校長席にヴォルデモートがいることにも、みんななるべく慣れようとしている。

 慣れていいのかは分からない。

 デザートまで食べ終わり、皿が一斉に消えた。

 お腹いっぱいになったところで、わたしはそろそろ寮に戻れるのかなと思った。

 

 そのときだった。

 

 教師席の中央で、ヴォルデモートが立ち上がった。

 大広間のざわめきが、一気に小さくなる。

 さっきまでドラコと言い争っていたルーファスも口を閉じた。

 

 ヴォルデモートはすぐには話さなかった。

 赤い目で、大広間をゆっくりと見渡している。

 その後ろには死喰い人が並んでいた。

 

 満腹になった直後に見る光景としては、あまり胃に優しくない。

 やがてヴォルデモートは、卓上に置かれていた羊皮紙を一枚持ち上げた。

 

「親愛なるホグワーツの生徒諸君」

 

 大広間のどこかで、誰かが咳き込んだ。

 ヴォルデモートは羊皮紙へ目を落としたまま続けた。

 

「まずは、こうして新しい学年を迎えられたことを喜ばしく思う」

 

 猛スピードでページが書き込まれていく。

 

ハリー:ヴォルデモートが「親愛なる生徒諸君」って言った。

ロン:こりゃあ号外だな。

アーニー:号外だね。

マイン:パドマ、号外は? 

パドマ:まだ一言喋っただけじゃない。ニュース性がないわ。

ロン:もう十分だろ。

 

 パドマはポケグリを閉じた。

 逃げた。

 

「今年、ホグワーツは大きく変わる」

 

 ヴォルデモートは淡々と読み上げる。

 それは知っている。

 校長がもう大きく変わっている。

 

「変化というものは、ときに人を不安にさせる。慣れ親しんだものが失われることを恐れ、新しいものを拒もうとする者もいるだろう」

 

 パドマのポケグリが震えている。

 パドマは開かない。

 

「だが、恐れる必要はない」

 

 ヴォルデモートが一度顔を上げた。

 

「優れた変化には、優れた指導者が必要だ。そして幸運なことに、今年のホグワーツには、その両方が揃っている」

 

 パドマが勢いよくポケグリを開いた。

 

パドマ:決めた、号外よ。

ハリー:やった。

ロン:見出し考えようぜ。

ハーマイオニー:演説全文を載せた方がいいと思う。要約すると意味が変わったと言いがかりをつけられるわ。ちゃんと自動速記羽ペンに全文文字起こしさせているから安心して。

マイン:全文掲載賛成。

 

 ヴォルデモートの演説を聞きながら、羽ペン通信の編集会議が始まっていた。

 たぶん校長本人は知らない。

 

「諸君には、魔法使いとして自らの力を誇ることを学んでもらいたい」

 

 ヴォルデモートは続ける。

 

「魔法とは、ただ試験に合格するために覚えるものではない。知識とは、実際に使うことができて初めて価値を持つ」

 

 わたしは少し納得した。

 メモ代わりにページに書く。

 

マイン:魔法は実践重視。

パドマ:そこだけ抜き出すとまともなのよね。

マイン:でも言ってることは分かるよ。

 

「そこで今年から、授業内容にも大幅な改革を行う」

 

 ヴォルデモートが羊皮紙をめくる。

 

「闇の魔術に対する防衛術では、これまでのように闇の魔術から逃げる方法ばかりを学ぶことはない。敵がどのような魔法を使い、どのような苦痛を与え、どのように相手を支配するのか。それを知らずして、真に身を守ることなどできないからだ」

 

 教師席でアミカス・カローが満足そうに頷いている。

 教科書リストにあった本を思い出した。

 

 やっぱり授業で使うらしい。どうやって授業するんだろう。

 

マイン:今年新しく加わった教科書を分析するコラムって需要ある? 

パドマ:記事の枠開けとくわ。

 

 

「マグル学についても同様だ」

 

ハーマイオニー:さあ、何をするつもりか言ってごらんなさいよ。

 

「諸君には、魔法族とマグルの歴史を正しく学んでもらう。我々が何者なのか。なぜ長いあいだ身を隠して生きてきたのか。そして、魔法を持たない者たちによって、魔法族がどのような扱いを受けてきたのか」

 

ハーマイオニー:正しく? どの史料を使って? 参考文献一覧を確認したいわね。ちゃんとマグル側の検証もしているのかしら? 

 

 もう授業を受ける気でいる。

 

「過去を知らない者に、未来を選ぶことはできない」

 

ハーマイオニー:そこは正しいわ。

ロン:認めるんだ。

ハーマイオニー:過去の資料を間違った結論へ使うことはできるでしょうけど。

パドマ:それ記事で使える。

ハーマイオニー:勝手に載せないで。

パドマ:匿名にしとくわ。

 

 号外の紙面が着々と出来上がっていた。

 

「また、本年度からホグワーツでは規律を重視する」

 

 大広間の空気が少し変わる。

 

「規則を守り、教師を敬い、自らに与えられた役割を果たすこと。それは決して難しいことではない」

 

 ヴォルデモートが顔を上げた。

 

「正しい行いをしている者が、罰を恐れる必要はないのだから」

 

ロン:つまり、俺らの言うことを聞いてれば何もしないってことだな。

パドマ:ロン、「つまりどういうこと?」の解説コラム頼んだわよ。

 

 みんな対応が早い。

 

「努力する者には、それにふさわしい機会を与える。才能ある者には、その才能を存分に伸ばしてもらう。向上心を持ち、自らをより優れた魔法使いへ変えようとする生徒を、ホグワーツは歓迎する」

 

 教師席の端で、ロックハート先生がゆっくり頷いていた。

 ものすごく満足そうだった。

 

マイン:パドマ。

パドマ:何。

マイン:ロックハート先生がすごく嬉しそう。もしかして、台本書いたのロックハート先生なんじゃない? 

パドマ:記事には書かない。

マイン:なんで? 

パドマ:主観すぎるわ。

 

 新聞は難しい。

 

「七年間という時間は、思っているより短い。今日という一日も、二度とは戻ってこない。だからこそ、一日一日を無駄にせず、昨日より優れた自分を目指してほしい」

 

ハリー:急に人生訓みたいになったな。

パドマ:ここも載せる? 

ハーマイオニー:全文掲載なんでしょ。

パドマ:そうだった。

 

「数年後、諸君がこの大広間を去るとき、『あの年にホグワーツで学ぶことができてよかった』と振り返ることのできる学校を、私は作るつもりだ」

 

 今年については、忘れる方が難しい気がする。

 

「今年は、ホグワーツの新しい歴史が始まる年になる。諸君一人ひとりが、その歴史の一部となることを期待している」

 

 ヴォルデモートが最後の羊皮紙へ視線を落とす。

 

「そして最後に、一つだけ覚えておいてほしい」

 

 大広間が静まった。

 

「自分の可能性を信じること」

 

 少し間がある。

 

「優れた指導に従うこと」

 

 また間を開けた。どうやら、わざとらしい。

 

「そして、正しい側に立つこと」

 

 ヴォルデモートはそこで顔を上げた。

 

「それさえ忘れなければ、今年はきっと──諸君にとって、忘れられない一年になるだろう」

 

 演説が終わった。

 大広間は静まり返っていた。

 

 誰も拍手しない。

 ヴォルデモートも立ったまま、生徒たちを見ている。

 

 数秒後、教師席から拍手が聞こえた。

 ロックハート先生と死喰い人たちだった。

 やがて教師席の何人かが手を叩き始め、セオドールやスリザリン生が拍手すると生徒たちも遅れて拍手した。

 

 ページの書き込みは増えていく。

 

パドマ:号外の見出し決めるわよ。

アーニー:「白銀卿、ホグワーツ改革を宣言」

ロン:弱いな。

ハーマイオニー:「正しい行いなら罰を恐れる必要なし 新校長が演説」

マイン:ちょっとインパクトに欠けるよね。

 

 わたしも何か考えていると、拍手が止んだ。ヴォルデモートは満足そうに生徒たちを見渡した。

 

「一つだけ付け加えておく」

 

 ヴォルデモートは羊皮紙を卓上へ置いて顔を上げた。

 

「私に逆らうな」

 

 大広間が再び静かになる。

 ポケグリの留め具が音を立てた。

 

ロン:見出しこれだろ。てかこれだけで伝わる。

ハリー:採用。

アーニー:採用。

ハーマイオニー:前半の演説が全部吹き飛ぶから駄目よ。

パドマ:考えさせて。

 

 今年のホグワーツについて、羽ペン通信が暇になることはなさそうだった。

 





ヴォルデモート「発言する度にメモを取る生徒が多くて感心だな」

ヴォルデモートが校長なのに緊張感がない魔法書研究会に作者もびびってます。皆警戒はしています。

ポケグリにチャット機能が追加されて便利になりました!杖や羽ペンで共有ページに書き込んでいるイメージです。
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