本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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136話 マグル学の参考文献

 新学期二日目の朝、大広間では、あちこちで羽ペン通信が開かれていた。

 

『新校長、規律重視を宣言──「私に逆らうな」』

 

 昨日の始業式を伝える見出しの下には、ヴォルデモートが教師席の中央に立つ魔法写真が大きく載っている。記事には演説の全文が掲載され、発言の横には羽ペン通信編集部による注釈までついていた。

 隣のテーブルでは三年生が二人で一部を覗き込み、その向こうではレイブンクローの生徒がポケグリで記事を読んでいた。新聞を取っていない生徒のところにも、朝食が終わる頃にはだいたい内容が伝わっていた。

 教師席の端に座っている死喰い人たちは、その光景を何とも言えない顔で眺めている。

 没収したい。

 でも、いきなり没収するのもどうなのか。

 そんな迷いが顔に出ているような気がした。

 

「発禁処分になったらどうしよう」

 

 わたしはたまたま見かけたパドマへ小声で言った。

 

「それは悪手よ」

 

 

 パドマは羽ペン通信から顔も上げずに答えた。

 

「でも、白銀卿の演説をほぼそのまま載せてるよ」

「だからよ。嘘を書いたわけでもないでしょう?」

「書いてないね」

「それに、生徒にこれだけ人気があるものを禁止したら、今まで読んでいなかった子まで読みたがるようになるわ」

 

 パドマはそこでようやく新聞を畳んだ。

 

「フレッドとジョージの商品で、何度見たと思ってるの?」

「ああ」

 

 納得した。

 双子の悪戯用品は、禁止されるたびにむしろ売れた。

 教師が「校内への持ち込み禁止」と言えば、翌日にはどうやって持ち込むかを考える生徒が現れ、「使用禁止」と言えば、まだ持っていなかった生徒まで欲しがる。禁止されたという事実そのものが、一番効果の高い宣伝になるのだ。

 

 

 *

 

 OWL試験の成績表を提出すると、スラグホーン先生は羊皮紙に並んだ十二個のOを、上から下まで一度、それから見落としでも疑うようにもう一度ゆっくりと目で追った。そして、最後に目を輝かせた。

 

「全部O! しかも、魔法薬学は学年首席じゃないか! 素晴らしい」

 

 希望していた科目はすべて受講してよいと言われ、さらに、スリザリンからこれほど揃った成績が出たのはフェルディナンド以来らしいと聞かされると、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

 フェルディナンドが一科目でもO以外を取って、「まあ仕方ない」と納得している姿だけは、どうしても想像できなかった。たぶん採点者の方を疑う。

 

 今年の時間割には、もう一つだけ妙な変更があった。

 

 マグル学だ。

 

 これまで選択科目だったものが、今年から全員必修になっている。マグル生まれをホグワーツから締め出しておきながら、残った生徒にはマグルについて学ばせるというのだから、ヴォルデモートがどんな授業を想定しているのか、時間割に書かれたその名前を見るだけでも、あまりいい予感はしなかった。

 

 六年生になって最初の授業は、魔法薬学だった。

 

 地下教室へ降りる石段には夏休みの湿気がまだ少し残っていて、扉を開けると、乾燥薬草と薬液、古い大鍋の金属臭が混じった懐かしい匂いが鼻へ届いた。窓のない教室では蝋燭の炎が銀色の鍋へ細く映り、棚には今年使う薬瓶が几帳面に並べられている。

 

 わたしが席へ向かうと、アストリアとルーナがすでに座っていて、少し遅れてジニーもやってきた。

 

「そういえば、皆さんOWL試験はどうでしたか?」

 

 アストリアが鞄から秤を取り出しながら聞くと、ジニーが先に口を開いた。

 

「闇の魔術に対する防衛術と呪文学がO。ほかもまあまあね。アストリアは?」

 

「私は魔法史がOでした」

 

 アストリアは、まるで当然の結果を報告するように言った。

 

 実際、当然なのかもしれない。彼女の魔法史好きは、もう得意科目という範囲を超えている。以前、わたしが一八世紀のゴブリン反乱について年代を一つ間違えたときは、訂正だけで十分なのに前後三十年の情勢まで説明された。

 

 ルーナは魔法生物飼育学と占い学でOを取ったらしく、魔法生物飼育学は今年も一緒に受けることになりそうだった。

 

 そして、自然に三人の視線がこちらへ集まる。

 

「マインは? どの科目でO取ったの?」

 

「全部」

 

「全部?」

 

「十二科目全部」

 

 ジニーが目を見開き、アストリアまでこちらをまじまじと見た。

 

「どうやったらそんな科目数取れるの?」

 

 もっともな質問だった。

 

 何と答えようか迷っていると、アストリアが先に何かを思い出したように言う。

 

「どうやって十二科目受けたかは、秘密なんですよね?」

 

「そう、秘密だよ」

 

 わたしが頷くと、ジニーは余計に怪しいと言いたげな顔をしたけれど、ちょうどスラグホーン先生が大きなお腹を揺らしながら教室へ入ってきたので、それ以上追及されずに済んだ。

 

 今年の魔法薬学は、スラグホーン先生が主担当で、スネイプ先生が補助教員という少し妙な組み合わせだった。

 

「さて諸君、秤と魔法薬キット、それから『上級魔法薬学』を出したまえ!」

 

 スラグホーン先生がそう言った途端、指定教科書に混じって、黒っぽい表紙の本が何冊も机の上へ現れた。

 

『毒舌魔法薬学』

 

 著者、半純血のプリンス。

 

 スネイプ先生の眉間の皺が、見るからに深くなった。

 ジニーが横で肩を震わせている。魔法書研究会のメンバーは、半純血のプリンスが誰なのか知っているからだ。

 

 授業の冒頭では、スラグホーン先生がいくつかの薬を並べて種類を当てさせ、ジニーがポリジュース薬、ルーナが真実薬を言い当てた。

 

「魔法書研究会は皆勉強熱心で感心感心!」

 

 二人にそれぞれ点を入れ、スラグホーン先生はますます上機嫌になった。

 次に教卓の中央に置かれた鍋から淡い湯気が立ち上り、その香りがこちらまで届いた瞬間、わたしにもすぐ分かった。

 

「アモルテンシア。魅惑万能薬です」

 

「お見事、スリザリンに十点! では、君には何の匂いがする?」

 

 もう一度、意識して少し深く息を吸う。

 

 新しい本を初めて開いたときの、まだ誰の指にも触れられていない紙の匂い。少し湿った羊皮紙と、蓋を開けたばかりのインク。その奥には醤油や出汁を思わせるような懐かしい日本の食卓の香りもあり、さらにもう一つ、確かにどこかで嗅いだことがあるのに名前だけが思い出せない匂いが混じっていた。

 

「新しい本と、羊皮紙と、インクです。あと……何か知ってる匂いがします」

 

「全部本じゃない」

 

 ジニーに笑われたけれど、好きなのだから仕方がない。

 

「何の匂いですか?」

 

 アストリアに聞かれ、わたしはもう一度香りを確かめた。

 

「分からない。どこかで嗅いだことがあるのは間違いないんだけど」

 

 首を傾げていると、そのとき、ジニーの机に置かれたポケグリから突然声がした。

 

『先生、その金色の薬はなんですか?』

 

 スラグホーン先生が目を丸くする。

 

「今のはどこからの声かね?」

 

「あ、コリンです」

 

 ジニーは何でもないことのように言った。

 

『コリン・クリービーです! ホグワーツ外から失礼します!』

 

 スラグホーン先生は一度ポケグリを見て、それからジニーを見て、もう一度ポケグリを見た。

 

「変わった道具だね……それを使って授業を受けているのかね?」

 

『はい!』

 

「見えるかね?」

 

『瓶がスラグホーン先生のお腹に隠れてます!』

 

「これは失敬」

 

 先生が半歩ずれた。

 

『見えました!』

 

「よろしい!」

 

 数十秒で受け入れられてしまった。

 スネイプ先生だけが、なぜこれが普通の授業風景として進行しているのか理解できないような顔をしていた。

 

「これはフェリックス・フェリシス、幸運薬だ。その名の通り、飲んだ者に幸運をもたらす。今日の課題は生ける屍の水薬。最も出来のよかった者には、これを一瓶進呈しよう!」

 

 フェリックス・フェリシスなら、去年ドラコと一緒に大鍋で作ったことがある。あれ以上の幸運は、たぶんわたしには必要ない。

 

『毒舌魔法薬学』を買ってきた生徒たちは余白に書かれた細かな指示を頼りに順調に仕上げていき、明らかに普通の教科書だけで挑んだ生徒より出来がよかった。

 

 少し離れたところでは、男子生徒が本の余白を読みながら首を傾げていた。

 

「先生、こっちには『この程度の刻み方しかできない愚か者は、まず小刀の持ち方から学び直せ』って書いてありますけど、教科書とは少し違います」

 

 スネイプ先生の顔が動かなくなった。

 スラグホーン先生が本を覗き込む。

 

「おやおや、随分と口の悪い著者だねえ」

 

「……そうですな」

 

「先生、知り合いですか?」

 

 わたしが尋ねると、スネイプ先生の黒い目がこちらへ向いた。

 

「五点減らされたいか、ミス・マルフォイ」

 

「質問しただけです」

 

「なら黙って作業をしろ」

 

 最終的に、誰よりも上手く生ける屍の水薬を完成させたのはアストリアだった。

 

「今年は皆優秀で喜ばしいね! だが一番を決めなくてはならん。私が思うに、これにふさわしいのは──ミス・グリーングラス!」

 

 アストリアが嬉しそうに幸運薬を受け取った。

 

「夏休みにドラコに教わったんです」

 

「惚気?」

 

 ジニーがすぐに茶化した。

 

「勉強です」

 

「恋人に夏休み中教えてもらって、その成果で幸運薬取ったのに?」

 

「勉強です」

 

「恋愛と勉強は同時にできるよ」

 

 ルーナが静かに言った。

 アストリアが珍しく言葉に詰まった。

 

「……勉強ですよ?」

 

 最後まで認めるつもりはないらしい。

 

 午後のマグル学は、朝の魔法薬学とはまるで空気が違っていた。

 

 教壇に立っていたのはアレクト・カロー。カロー兄妹の妹の方で、去年までマグル学を担当していた先生は夏休みの途中から行方が分からなくなっており、辞職したとも逃亡したとも、もっと悪いことになったとも噂されている。

 

 今年から必修になったため、六年生はグリフィンドールとスリザリンの合同授業だった。

 

 机の上に置かれている教科書の題名は、『魔法族の歴史とマグルによる迫害』。

 読む前から、どういう結論へ連れていきたい本なのか分かる気がした。

 

「まず覚えておきなさい。マグルは、理解できないものを恐れ、恐れたものを排除する生き物だ」

 

 カロー先生は魔女狩りから話を始め、正体を明かしたために裏切られた魔女、助けた相手から密告された魔法使い、村人に家を焼かれた家族と、ひたすら魔法族がマグルから害された事例を並べ続けた。

 

 事件そのものは、本当にあったのだろう。

 

 けれどページをめくっても、また次のページをめくっても、同じ方向の話しか出てこない。マグルは恐れる、マグルは裏切る、マグルは殺すと、最初に決めた結論へ向けて必要な記録だけを抜き出して並べているように見えた。

 

『ブー────!』

 

 突然、教室の後方から盛大なブーイングが響いた。

 

 カロー先生がぴたりと話を止める。

 

『偏りすぎだ!』

 

「コリン、授業中だから」

 

 ジニーがポケグリへ向かって注意した。

 

『だって、ずっとマグルが悪い話しかしてないじゃん!』

 

「その本を閉じろ」

 

 カロー先生の声が低くなった。

 

『えー! 僕も授業受けたいです!』

 

「お前はホグワーツの生徒ではない」

 

「去年までは生徒でしたよ」

 

 思わず口を挟むと、カロー先生の視線がこちらへ向いた。

 

「それに、ホグワーツへ来ちゃいけないとは言われていますけど、ポケグリで授業を見ちゃいけないという校則はないですよね?」

 

 教室のあちこちから、笑いを押し殺す音が聞こえた。

 

『そうだそうだ!』

 

「コリン、ブーイングするならせめて手を挙げてから」

 

『分かった!』

 

 数秒後。

 

『はい!』

 

 わたしはカロー先生を見た。

 

「先生、コリンが手を挙げてます」

 

「聞くな!」

 

『えー!』

 

 また笑いが漏れた。

 

 カロー先生のこめかみが動いたので、これ以上は本当に怒らせそうだった。

 

 わたしは大人しく教科書へ目を落とした。

 そこで巻末の参考文献が目に入る。

 魔法省の記録。魔法族の日記。魔法史家の論文。古い裁判記録。

 

「先生、参考文献少なくないですか?」

 

「……何?」

 

 ジニーが隣で机へ額をつけた。

 

「マイン、もう喋らない方がいいって」

 

「でも──」

 

「今度は何だ」

 

 カロー先生がイライラした低い声で尋ねた。

 

「マグルの本が一冊もないです」

 

「必要ない」

 

「危険だと思っているのに?」

 

 わたしは本気で驚いた。

 

「マグルが魔法族を迫害してきたことは、魔法族の記録を見れば分かる」

 

「でも、それって魔法使い側から見た記録ですよね。どうして魔女狩りが起きたのか調べるなら、その時代のマグルがどういう社会で暮らして、何を怖がって、何を信じていたのかも読んだ方がいいと思います。歴史書だけじゃなくて、小説も読めば、その時代の人が何を普通だと思っていたのか分かりますし、新聞や日記も──」

 

「ミス・マルフォイ」

 

「はい?」

 

「授業を妨害するな」

 

「妨害じゃなくて、参考文献を増やした方が──」

 

「スリザリンから十点減点」

 

「本を読んだ方がいいって言っただけですけど」

 

「二十点」

 

 わたしは黙った。

 

 けれど、どうしても気になる。

 

「先生、一つだけ──」

 

「マイン!」

 

 ジニーに止められた。

 

「罰則も追加します。そんなに言いたいことがあるのなら、今夜七時、この教室へ来なさい」

 

 カロー先生は杖を机へ叩きつけるように振った。

 

「何を学ぶべきか、ゆっくり教えてあげる」

 

 その言い方には、羊皮紙を何枚か書かされるだけでは済まない響きがあった。

 授業が終わって廊下へ出ると、さっきまで笑っていたジニーもすぐに真顔になった。

 

「一人で行くの?」

 

「罰則だから、一人で行くものじゃないの?」

 

「相手はカローよ」

 

 言われてみると、胸の奥に遅れて冷たいものが落ちてきた。

 今年のホグワーツで教師に呼び出された生徒が、どんな罰を受けているのか、まだ誰もよく知らない。

 

 何をされたか、あとで説明すればいい。

 

 そう思ってから、わたしは足を止めた。

 説明するには、自分が何をされたのか覚えていなければならないし、わたしがどれほど正確に話したところで、カロー先生が「そんなことはしていない」と言えば、残るのは二つの食い違った証言だけだ。

 

 わたしはトムに連絡することにした。

 

マイン:今日七時、カロー先生のところで罰則になった。

トム:行くな。

マイン:まだ何されるか分からないよ。

トム:だから行くなと言っている。

マイン:でも罰則だよ? 

トム:君は禁書を読むときに校則を気にしていたか? 今こそ規則を破れ。

マイン:でも、何されたか記録できたら証拠になるよね。ポケグリで記録できないかな。双子に相談してみるね! 

トム:待てなぜ行く前提になった。

 

 わたしはポケグリ開発班のページに書き込んだ。

 

『至急。今日七時までに、ポケグリに見たものや聞いたものを残す機能を入れられない? 記憶を残せるようにしたい!』

 

 すぐに返事が来た。

 

フレッド:今日? 

ジョージ:七時? 

フレッド:お嬢さん、開発期間って言葉知ってる? 

マイン:知ってるよ。でもカロー先生の罰則に間に合わないと! 

 

 返事が止まった。

 そこまで軽かったやり取りが、その一文で急に現実へ引き戻されたように感じた。

 

フレッド:何があった? 

 

 わたしはマグル学で二十点減点されたことと、一人で教室へ来るよう命じられたこと、その言い方が普通の居残り罰には聞こえなかったことを簡単に説明した。

 

 今度の返事は早かった。

 

ジョージ:分かった。

フレッド:三時間でやるぞ。

 

 発想の元になったのは憂いの篩だった。

 魔法写真のページを目、鏡のページを耳の代わりにして、そこで見聞きしたものを一つの記憶として白紙ページへ沈める。

 最初の試作品は、わたし自身の記憶をこめかみから吸い出した。

 

「……わたし、今何してたっけ?」

「最悪!」

 

 ジニーが叫ぶ。

 

『成功だ!』

「成功なの?」

『憂いの篩としては』

『商品としては大失敗』

 

 そこから、人間の頭を経由せず、ポケグリ自身に疑似的な記憶を作らせるよう術式を書き換えた。

 ページの中央へ銀色の水面が生まれ、記録した時間が長くなるにつれて、細い記憶の糸が背表紙の内側へ巻き取られていく。

 

 ようやく時間を伸ばせるようになったところで、もう一つ問題に気づいた。

 

「ポケグリごと取られたら?」

 

 双子から、ほとんど同時に返事が来た。

 

『今気づいたのか!?』

「別のポケグリにも同時に送れない?」

『今から!?』

 

 それでも必要なのは全員分かっていた。

 銀糸を途中で二本に分け、一方を自分のポケグリへ、もう一方をジニーのポケグリへ送る。

 音が消えた。

 記憶が逆流した。

 ページが一度真っ黒になった。

 

「できた……」

『試作品だからな!』

『途中で止まったら逃げろ!』

 

 七時ちょうどにマグル学の教室へ向かうと、扉の前にはハリーがいた。

 

「ハリーも?」

「マインも?」

 

 顔を見合わせて、だいたい察した。

 

「ハリーは何言ったの?」

「マグルに詳しいみたいだったから、親戚にマグルがたくさんいるんですかって聞いた」

「それは怒るね」

 

 一番地雷っぽいところを踏んでいる気がする。

 

「マインは?」

「マグルの参考文献は使わないんですかって聞いたら怒られた」

「その手があったか」

 

 ハリーは良いことを聞いたと思っているようだった。

 教室へ入ると、カロー先生はすぐに扉へ鍵を掛けた。

 

「今日の罰則は反省文ではないわ。杖を出しなさい」

 

 わたしはポケグリのページを開いたまま杖を取り出す。背表紙の内側では、細い銀糸が静かに巻き取られ始めていた。

 

「ポッター。ミス・マルフォイに磔の呪文を」

 

「嫌です」

 

 ハリーは即答した。

 

「なら、ミス・マルフォイ。あなたがポッターに」

 

「わたしも嫌です」

 

「これは命令よ!」

 

「でも、ハリーを苦しませたいと思ってないので」

 

「僕も」

 

 カロー先生の顔が険しくなる。

 

「磔の呪文には、相手を苦しませたいという意思が必要なの。無理なら苦しませたいと思う相手を思い浮かべなさい!」

 

「ロックハートを連れてきてもらえませんか? 僕、あいつになら使える気がしてきました」

 

「ハリー!」

 

 カロー先生が自分の杖を抜いた。

 

「お互いにやる気はないようね。なら、本物を見せてあげる」

 

 杖先がわたしへ向く。

 

「クル──―」

 

 その腕が途中で止まった。

 背後から、トムが手首を掴んでいた。

 

「その先を言ってみろ」

 

 怒鳴ってはいない。

 けれど、わたしにはかなり怒っているのが分かった。

 

「離しなさい! 私は教授よ!」

 

「知っている。だから問題なんだ」

 

 トムが手首を捻ると、杖が石床へ落ちた。

 

「トム」

 

 トムの視線がカロー先生へ戻る。

 

「生徒同士に磔の呪文を使わせたのか」

 

 トムはカロー先生から目を逸らさなかった。

 

「明日の朝までに教授を辞めろ」

 

「あなたにそんな権限はないわ」

 

「だから自分から辞めろと言っている」

 

「断ったら?」

 

 トムはわたしのポケグリを見た。

 

「記録はできたか?」

 

「最初から全部。ジニーのところにも複製してる」

 

「十分だ」

 

 カロー先生の顔色が変わった。

 

「辞表を出さなければ、記録を理事会へ送る。保護者にも、羽ペン通信にも。バラまかれたらどっちにしろお前は終わる」

 

「脅迫のつもり?」

 

「そうだ」

 

 即答だった。

 

「生徒に許されざる呪文を強要した教師の記録が学校中へ広まってから辞めるか、今夜のうちに自分から辞めるか。好きな方を選べ」

 

「校長が許すと思っているの?」

 

「校長がどう判断するかは知らない。ただ、理事会の一人が誰の父親なのかは、君も知っているはずだ」

 

 カロー先生の視線がわたしへ向いた。

 それから、ほんの少しだけ顔色が悪くなった。

 

「それから、僕は磔の呪文を使えないわけではないよ。マインが目を逸らしている間なら、多少のおいたは許されるだろう」

 

「トム、怖いよ」

 

「怖がらせているんだ」

 

 ハリーが小声で言った。

 しばらくカロー先生はトムを睨んでいた。しかし、すぐにトムが本気だと気づいたのか羽ペンを持った。

 

「分かったわよ。書けばいいんでしょ」

 

 カロー先生は恨めしそうに羽ペンで辞表を書き始めた。

 

「マイン、こいつに最初に連絡したの?」

 

「うん」

 

「正解だったね」

 

「でしょ?」

 

「褒めてないけど」

 

「二人とも帰るぞ」

 

 トムに促され、わたしたちは教室を出た。  

 

「マグル学の先生どうなるの?」

 

「さあね。ルシウスが何とかするだろう」

 

 トムはそれだけ言って、さっさと歩いていく。

 

 たぶん、何とかなるのだろう。

 わたしもそう思うことにして、その後を追った。

 




更新遅くなりました。

バック・トゥ・ホグワーツの日ですね! 賢者の石のリバイバル観に行きました!
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