マグル学カロー教授、史上最短で退任 生徒への磔の呪い未遂
記者:パドマ・パチル
マグル学を担当するアレクト・カロー教授が依願退職したことが、羽ペン通信の取材で分かった。マグル学教授としては過去最短での退任となる。
カロー教授は授業後、ローゼマイン・マルフォイ氏とハリー・ポッター氏に対し、罰則として磔の呪いを使用しようとしたところを、ジェドゥソール氏に取り押さえられた。
いずれも授業中の質問内容が問題視されたことが発端だった。
マルフォイ氏は、授業で示されたマグルに関する説明について「参考文献が少ない」と反論。ポッター氏はカロー教授に対し、「マグルの親戚はどのくらいいるのか」と尋ねたという。
ドラコ注:純血主義者に聞く発言としては命知らずすぎる。ハリーは事前の情報収集をすべきだった。
ロン注:知ってる上で言ってるに決まってるだろ。ハリーだぞ。
今回の退任を受け、ホグワーツは早急に後任のマグル学教授を選定する必要がある。
ホグワーツ理事の一人、ルシウス・マルフォイ氏は羽ペン通信の取材に対し、「生徒を磔の呪いにかけようとする教授を選んだ校長の責任は重い」と批判。その上で、後任については理事会でも選定に関与する意向を示した。
なお、カロー教授が磔の呪いを使用しようとした現場は、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ社が発売する魔法書型連絡道具「ポケット・グリモア」(通称ポケグリ)によって記録されていた。
ポケグリに新たに搭載された「記憶保存機能」により、当時の状況が証拠として保管されたという。
開発者の一人、フレッド・ウィーズリー氏は、「新機能が犯罪の抑止に役立てば」とコメントした。
ポケグリに記録された実際の映像は、ポケグリ内の羽ペン通信ページで確認できる。
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*
アレクト・カロー先生の退職は、羽ペン通信ホグワーツ版が報じると、あっという間に保護者の間へ広まった。
翌朝には、編集部宛ての手紙が山になっていた。
『娘を何だと思っているんですか』
『学校は生徒の安全を守れるのか』
『磔の呪いを罰則に使う教師を、どういう基準で採用したのですか』
最後の質問については、わたしも聞いてみたい。
白銀卿はすぐに声明を出した。
『当該教授が教育の場で許されない思想と行為を有していたことを、就任前に把握できなかったことについて謝罪する。ホグワーツは今後、生徒の安全を最優先とし、教員の監督体制を見直す』
驚くほどまともだった。
教員席では、アミカス・カロー先生が一人で朝食を取っていた。
妹があんな辞め方をしたせいで、当然ながら兄にも冷たい目が向けられている。
その影響なのか、闇の魔術に対する防衛術の授業は、みんなが想像していたよりずっとまともだった。
まとも、という言い方が正しいのかは分からない。
「今日扱うのは磔の呪いだ」
初回の授業でそう言われた瞬間、教室中の顔が引きつった。
カロー先生は黒板に呪文の性質や発動条件を書き、術者の集中を崩す方法、遮蔽物を使う場合の注意点、被害者を救出したあとの対処まで説明した。
「闇の魔術を知らずして、防ぐことはできない」
名目としてはそういうことらしい。
実際、内容だけを見れば役に立つ。
問題は、教えている人が死喰い人だということだった。
羽ペン通信でも『意外にも授業として成立』と書いたら、ロンから「褒めてるのか?」と注釈を入れられた。
褒めてはいない。
事実を書いただけである。
一方、空席になったマグル学教授については、ホグワーツ理事会が後任を選定しているらしい。
父から聞いたところによると、白銀卿も今回は理事会の判断に従うという。
カロー先生の退任でもう一つ大きく変わったものがある。
ポケグリだった。
事件が起こるまで、世間では「ウィーズリー兄弟が作った高価な悪戯道具」という扱いだった。ヴォルデモートや死喰い人は、もしかしたら存在すら知らなかったのかもしれない。
それが、磔の呪いを使おうとした瞬間を記録していたと報じられてから、状況が一変した。
まず、ホグワーツ生の保護者から注文が殺到した。
『子どもに一台持たせたい』
『授業中も記録できるのか』
『教師に没収された場合、自動で記録を送れるようにできないか』
ジョージ:おかげさまで、羽ペン通信全国版や週刊魔女からも取材の依頼が来てる。
フレッド:ホグワーツ生からの問い合わせも増えた。いい宣伝効果だったな。
ホグワーツ生の所有率は、あっという間に八割を超えた。
残りの二割には、欲しくても買えない生徒もいる。
ポケグリは決して安くないからだ。
そこでフレッドとジョージは、学生割引と分割払いを始めた。
さらに、『身体払い対応!』という最悪の見出しの広告まで出した。
「これ絶対変な意味に取られるよ」
わたしが抗議すると、フレッドは笑った。
「ちゃんと下に書いてあるだろ?」
広告の下には小さな字で、『※ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ製品のテスターとして新商品を試していただくことで代金の一部を割引します』と書いてある。
「もっと普通の名前にして」
「目立たないじゃないか」
「目立たなくていいところだよ」
そんな騒ぎの中、魔法書研究会にも新入部員が入ることになった。
今年も入部希望者だけなら多かった。
パドマは羽ペン通信ホグワーツ版編集長として張り切り、ハリーが自分のファンには絶対来てほしくないと張り切った結果、面接はパドマ、ハリー、わたしの三人で担当することになった。全員一致で賛同すると入部できる厳しい仕組みだ。
面接の日、部室の扉を開けると、廊下に十人以上の生徒が並んでいた。下級生の女子が多い。五年生以上にもなると、今から部活動に入ってる暇はないからだろう。魔法書研究会の部活動は他の部活よりも忙しい。
「こんなに来たんだ」
「半分くらい僕目当てだと思う」
隣でハリーが嫌そうな顔をした。
「自意識過剰じゃない?」
「去年もそうだったから言ってるんだよ」
机の向こうでは、パドマが名簿と羽ペンを用意している。
「理由が何であれ、面接すれば本気かどうか分かるわ」
どうしてだろう。
パドマが言うと、新聞社の採用試験に聞こえる。
一人目は二年生の女の子だった。
椅子へ座ったあとも、こちらではなくハリーばかり見ている。
「入部を希望した理由は?」
パドマが尋ねた。
「ハリー・ポッター先輩と一緒に活動できるって聞いて……」
「不採用」
ハリーが即答した。
「まだ一問目です!」
「今ので十分だよ」
「本も好きです!」
女の子が慌てて言った。
わたしは少し期待した。
「最近何読んだ?」
「えっと……」
「好きな本は?」
「……『ヘンリー・ポーターと賢者の石』とか?」
「絶対不採用!」
ハリーが強く宣言した。
「図書室でよく行く棚は?」
「小説……とか?」
小説にも種類があるのに小説としか言えないのは良くない。残念ながら本好きのフリをしたただのハリーファンだったみたいだ。
わたしはがっかりした。
「次の人どうぞ」
ハリーが扉を指した。
「厳しくないですか?」
女の子は涙目になっている。
「僕と話したいだけなら、ここじゃなくてもいいだろ」
次に来た二年生の男の子には、パドマが質問した。
「最近読んだ羽ペン通信の記事で気になった記事があれば理由も添えて教えて」
「パドマ」
わたしは小声で言う。
「なに?」
「難しすぎるよ」
「魔法書研究会のメンバーになるなら新聞購読は必要でしょう」
答えに詰まった男の子はとぼとぼと帰っていった。
その後も、面接は続いた。
「ハリー先輩に会いたくて」
「不採用」
「羽ペン通信に写真を載せてもらえるって聞きました」
「そんな約束してないわ。不採用」
四年生のレイブンクローの男子はパドマの質問にも答えられた有望株だった。しかし、途中から雲行きが怪しくなった。
「部費で好きな本を買えるんですよね?」
「何を買いたいの?」
「『今季クィディッチ勝敗予想大全』です」
クィディッチ好きならハリーやジニーと話が合うかも?
ハリーの方を見ると、険しい顔をしていた。
「不採用」
ハリーは淡々と言った。
「なんで?!」
「あの本は賭博用のクソ本だ」
面接者は順調に減っていった。
「誰も残らないんじゃない?」
「人数より中身よ」
パドマは平然としている。
やがて、黒髪の男の子が入ってきた。どこか懐かしさを感じるアジア系の顔立ちだ。
「コウタ・オオニシです。三年生です」
名前を聞いた瞬間、わたしは身を乗り出した。
「日本人?」
「日系です。曾祖父母が日本人で」
「日本語話せる?」
「話せません」
「えっ」
「日本にも行ったことないです」
「そうなんだ……」
前世の言葉で話せる相手ができるかと思ったのに。
「マイン」
パドマに呼ばれて、面接中だったことを思い出す。
「そうだった。どうして入りたいの?」
「本が好きだからです。ローゼマイン先輩が編集した本が特に好きです」
コウタは落ち着いて答えた。
ハリーが少し目を細める。
「マインに会いたいだけじゃない?」
「それだけなら入部する必要はありません。ローゼマイン先輩は図書室に行けば会えますから」
即答だった。
ハリーが少しだけ感心した顔になる。
「最近読んだ本を三冊教えて」
わたしは期待を持って尋ねた。
コウタはすぐに三冊の題名を挙げた。
「『トム・リドルの日記』、『アルバス・ダンブルドア 下巻』、『毒舌魔法薬学』です。どれもジャンルがバラバラなのにあれだけ面白くできたのは、やはり編集者が優秀なのだと思いました」
「まだ三年生なのに、『毒舌魔法薬学』を?」
「はい。ローゼマイン先輩が手がけた本は全て読みたかったので」
パドマが面白そうに羽ペンを走らせた。
「じゃあ、最近の羽ペン通信で気になった記事は?」
「昨日のカロー教授退任の記事です」
話題になった記事だ。読んでいる人は多いと思う。
「理由は?」
「マグル学教授の過去最短退任という記録より、ポケグリで違法行為が記録されたことの方が、長期的には重要だと思いました」
パドマが顔を上げた。
「どうして?」
「教師が生徒に何をしたか、あとから証明できるようになったからです。今までは教師と生徒で証言が食い違ったら、生徒側が不利だったでしょう?」
おお。ちゃんと読んでいる。
「ただ」
コウタは続けた。
「記事の最後にポケグリの宣伝が入っていたのが気になりました。広告との距離はもう少し取った方がいいと思います」
わたしはパドマを見る。
パドマはしばらく黙っていた。しかし、最後には微笑んだ。
「採用」
次に入ってきたのは、一年生だった。
ルーファス・スクリムジョール・ジュニア。
ホグワーツ特急で死喰い人へ飛びかかろうとしていた男の子だ。スリザリン生なので、寮でも何度か見かけている。
ハリーは姿を見た瞬間、少しだけ表情を和らげた。
「君、魔法書研究会に入りたいの?」
「はい」
「採用」
「ハリー」
パドマが低い声で止めた。
「まだ何も聞いてないでしょう」
「でも、この子ならいいと思う」
「それを決めるための面接よ」
ルーファスは黙って椅子に座った。
普段より落ち着いているけれど、父親によく似た目には、一年生らしくない険しさが残っている。
パドマが羽ペンを構えた。
「まず、志望動機を聞かせて」
「調べたいことがあります」
「何かしら?」
ルーファスは少し迷ってから答えた。
「父が死んだ日のことです」
ハリーの表情が変わった。
パドマの羽ペンも止まる。
「お父さんが亡くなった経緯について?」
「はい。でも、誰に殺されたのかだけじゃなくて」
ルーファスは膝の上で両手を組んだ。
「僕、見たんです」
「何を?」
「父さんが死喰い人に殺されるところ」
わたしは息を呑んだ。
「……見てたの?」
ルーファスが頷く。
「でも、そのあと父さんは普通に家に帰ってきたんです」
「え?」
「次の日も、その次の日もいた。仕事にも行ってた。母さんも普通に父さんと話してた」
そこでルーファスは少しだけ俯いた。
「だから、全部夢だったんだと思いました」
十一歳なら、そう思ってもおかしくない。
目の前で父親が殺された。
でも家に帰れば、その父親がいる。
どちらかを間違いだと思わなければ、辻褄が合わない。
「お母さんには?」
ハリーが静かに尋ねた。
「言いませんでした」
ルーファスの指が強く組まれた。
「言おうとは思った。でも、父さんがそこにいるのに、『父さんが殺された』なんて言ったら、変な夢を見ただけだって思われると思って」
それから少し間を置く。
「僕もそう思ってたから」
パドマは何も書かなかった。
ただ聞いていた。
「それで、この前」
ルーファスの声が少し硬くなった。
「母さんが、父さんに殺された」
パドマは息を呑んだ。
「でも、僕は父さんが殺したんじゃないと思います」
ルーファスが顔を上げた。
「あれは父さんじゃなかったんです」
誰もすぐには答えられなかった。
「僕がはやく母さんに言ってたら」
今度は、ほんの少しだけ声が揺れた。
「父さんは偽物かもしれないって言ってたら、母さんは逃げられたかもしれない」
「ルーファス」
ハリーが呼んだ。
「それは──」
「分かってます」
ルーファスはすぐに遮った。
「僕が子どもだったから仕方ないって、みんな言います」
その言い方で、何度も言われたのだと分かった。
「でも、仕方ないって言われても、母さんは戻ってこない」
ハリーは口を閉じた。
「だから、調べたいんです」
ルーファスは続けた。
「父さんを殺したのは誰なのか。いつから父さんのふりをしていたのか。どうやって魔法省の人たちを騙していたのか。誰か途中で気づいた人はいなかったのか」
「それを、魔法書研究会で?」
わたしが尋ねる。
「ここなら本もあるし、新聞も作ってるから」
ルーファスはわたしたち三人を見た。
「次に何かおかしいと思ったとき、夢だったとか、気のせいだったとかで終わらせたくないんです」
パドマがようやく羽ペンを動かした。
「じゃあ、最近の羽ペン通信で気になった記事は?」
少し意地悪なくらい、いつも通りの声だった。
ルーファスもすぐに答えた。
「新校長の演説の記事です」
「『新校長、規律重視を宣言──「私に逆らうな」』?」
「はい」
「どこが気になった?」
「『正しい行いをしている者が、罰を恐れる必要はない』ってところです」
わたしは始業式の白銀卿を思い出した。
「どうして?」
「誰が正しいって決めるんですか」
パドマが顔を上げた。
「僕は、父さんが殺されるところを見ました。でも、父さんが家にいたから、自分の方が間違ってると思った」
ルーファスは淡々と言った。
「本当は、間違ってなかった」
「……うん」
「だったら、校長先生が『これが正しい』って言っても、本当にそうなのかは自分の目で見て確かめた方がいいと思います」
パドマの羽ペンが止まった。
ハリーが小さく笑った。
「僕は採用でいいと思う」
パドマも名簿に何かを書き込んだ。
「私も賛成。事実を確かめたい人間は記者向きよ」
ルーファスは少し困った顔をした。
それでも、帰ろうとはしなかった。
こうして十人以上いた希望者から、最終的に残ったのは二人だった。
三年生のコウタ・オオニシ。
一年生のルーファス・スクリムジョール・ジュニア。
「減らしすぎたかな」
わたしが名簿を眺める。
「ちょうどいいよ」
ハリーが言った。
「少なくとも、本当に入りたい二人だから」
「一人はマイン教の信者に見えるけど」
パドマが言った。
「そんなことないでしょ」
部屋の隅では、コウタがわたしが編集した本にサインをもらう順番を真剣に考えていた。
……否定しきれない。
せっかく部員も増えた。
なら、歓迎会を兼ねて何かやりたい。
「今度ビブリオバトルしよう!」
わたしが言うと、コウタが勢いよく顔を上げた。
「やりたいです!」
ルーファスは首を傾げた。
「何ですか、それ」
「自分のおすすめの本を紹介して、一番読みたくなった本をみんなで決めるの」
「決闘じゃないんですか」
「本で戦うよ」
それなら少し興味が出たらしい。
「いいですね」
「僕も参加しよう!」
頼んでもいない声が飛んできた。
図書室の入口に、ロックハート先生が立っていた。
いつものように、誰に見せるでもなく完璧な角度で髪をかき上げる。
「本の魅力を語る勝負なら、ベストセラー作家である僕を外すわけにはいかないだろう?」
信用できない。
でも人数は多い方が楽しいのがビブリオバトルだ。
「じゃあ参加ね」
「任せたまえ。君たちに、本を紹介するとはどういうことか教えてあげよう」
パドマが何か言いたそうな顔をしたが、やめたようだった。
そのとき、図書室の奥に老人がいることに気づいた。
長身で、黒い髪をきれいに撫でつけ、落ち着いた色のローブを着ている。
マダム・ピンスと話しながら、マグルに関する本を何冊か手に取っていた。
こちらに気づくと、男は穏やかに微笑んだ。
「やあ」
よく通る低い声だった。マルフォイ家で何度も見た顔だ。グリンデルバルドが化けていた男の顔だった。
「パーシバル・グレイブスだ。新しくマグル学を担当することになった」
理事会は、とんでもない人を連れてきたらしい。
魔法書研究会のメンバー(寮学年)
ローゼマイン(スリザリン6年)
ドラコ(スリザリン7年)
アストリア(スリザリン6年)
ルーファス(スリザリン1年)
ハリー(グリフィンドール7年)
ロン(グリフィンドール7年)
ハーマイオニー(グリフィンドール7年)
ジニー(グリフィンドール6年)
ロメルダ(グリフィンドール5年)
パドマ(レイブンクロー7年)
ルーナ(レイブンクロー6年)
アーニー(ハッフルパフ7年)
コウタ(ハッフルパフ3年)
今までアーニーがぼっちハッフルパフだったところにもう一人増えました。こうしてみるとグリフィンドールが一番多いですね。