本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:bookworm

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3話 兄、ホグワーツへ

 

 朝の光がカーテン越しに部屋に差し込んでいた。ベッドの中でわたしはいつものように本を読みながら、静かな時間を過ごしていた。外では、ドラコの楽しそうな声が聞こえていた。いつも友人と元気に外で遊んでいる兄とは違い、わたしは体が弱くてほとんど外に出られない日々が続いていた。庭に出ても怒られなくはなってきたが、外出許可は一向に出ない。図書館か本屋が近くにあれば行きたいと何度かお願いしたのだが、どうやらどちらも近所にはないようで却下された。わたしはページをめくりながら、心の中で兄の元気さを少しだけ羨ましく思っていた。

 いいもん、別に。わたしは本が読めればいいもん。

 

 すると、突然廊下の方から足音が響いてきて、ドアが勢いよく開いた。ドアの向こうには、顔を輝かせたドラコが立っていた。

 

「マイン! ホグワーツから手紙が届いたぞ!」

 

「良かったね、お兄さま」

 

 わたしはドラコに微笑んだ。ドラコは夏の間中ずっといつ学校から手紙が届くかを気にしていた。両親は知り合いが校長をしているダームストラングの方がいいんじゃないかと言っていたが、遠いしわたしには絶対に無理だろうという話になり、ドラコもホグワーツのがいいという話になっていた。ドラコが手紙を持って、興奮した様子でわたしの方に駆け寄ってくる。

 ドラコは手紙を誇らしげに見せながら、レターオープナーで封を開けた。わたしはその手紙に目を釘付けにしていた。兄が魔法学校に入学するなんて、わたしには夢のような話に思えた。

 

「親愛なるマルフォイ殿、このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心より喜び申し上げます……」

 

 ドラコが手紙を読み上げるのを聞きながら、わたしは驚きと興奮を抑えきれなかった。魔法の学校ではどんなことを学ぶんだろう。横から手紙を覗き込むと、必要なものリストが書かれた紙が同封されていて、普段着のローブや三角帽、教科書リストが載っているのが見えた。わたしはずらっと並んだ本のリストに興奮が隠しきれなくなった。

 基本呪文集だって! 呪文唱えたらわたしにも魔法が使えるようになるのかな? 

 わたしもこのリストの本が読みたい! 

 

「きっとホグワーツには本もたくさんあるんだよね!」

 

 学校に本があるのは当たり前だけど、ホグワーツには大きい図書館があるとどこかで読んだことがある。わたしの胸が少し躍った。魔法の本がたくさんあるのなら、その学校はどれほど素晴らしい場所なのだろう。わたしもその本を読んでみたい……でも、わたしがホグワーツに行けるかはわからない。今は、ただ兄の話を聞くことしかできなかった。

 

「来年にはお前も11歳になるんだから、その時にはホグワーツに入学できるはずだよ!」

 

 その言葉に、わたしはわくわくが止まらなくなってきた。兄が言う通りなら、来年にはわたしもホグワーツに入れる。そうしたら、図書館で本をたくさん読めるに違いない。

 

「本当に……? わたしも行けるの?」

「もちろんさ。お前も魔女なんだから……おい嘘だろ」

 

 ドラコが持ち物リストに目を通し、眉をひそめた。

 

「1年生は個人用箒が禁止? ありえないね。父上に言って絶対持ち込んでやる」

 

 ドラコが悪巧みを企む笑みを浮かべるのを見て、わたしは少しあきれてしまった。ドラコはわたしにとってはとても頼りになる兄なのだが、それ以外の時はわがままで甘やかされまくったお坊ちゃんだ。その差がときどき酷すぎて、ドラコがまだ11歳なのだなと思い知らされる。

 ドラコが手紙を持って部屋を出て行ったあと、わたしはしばらく興奮が冷めず、心の中でホグワーツという魔法学校のことを考えていた。どんな場所なのか、本当に魔法を学べるのか、蔵書数はどれだけあるのか……そんなことを想像していると、廊下の方からまたドラコの声が聞こえてきた。

 

「父上! 母上! ホグワーツから手紙が来たんだ!」

 

 ドラコの声は今まで以上に高揚していて、両親に知らせる興奮が伝わってくる。わたしも少し気になって、部屋を出て廊下へ向かった。居間に集まった家族の声が聞こえてくる。わたしも疲れない程度にゆっくり向かい、部屋の入り口からそっと中を覗くと、父と母がドラコの手紙をじっと見つめていた。

 

「ほう、ついにホグワーツからか。ドラコ、これで正式に魔法使いとしての第一歩を踏み出すんだな」

 

 父は手紙をじっくりと眺めながら、誇らしげに微笑んだ。その表情には、ドラコの将来に対する期待が込められているようだった。母も、優しい微笑みを浮かべながらドラコに近づく。

 

「ホグワーツでの交友関係は一生に響くわ。良い友達作りを大切にしなさい」

「はい、母上」

 

 ドラコは笑顔で頷いた。わたしはゆっくりと部屋の中に入って行った。

 

「予習はしてあるから問題はないと思うが、マルフォイ家の次期当主として恥ずかしくない成績を残すんだぞ」

「もちろんです、父上」

 

 途端にドラコはニコニコしていた顔を引き締めた。

 

「お兄さま、いつのまに予習をしていたの?」

「主要科目は家庭教師をお願いしている。呪文を唱える魔法は杖を手に入れてからになるが、すぐにこなせるようになるだろう。ローゼマインは体力がないから先送りにしていたが、さすがに残り1年となるとそろそろ家庭教師をつけないとな」

 

 父がわたしの質問に答えた。

 ずっと部屋にいるので気づかなかったが、ドラコにはちょっと前から家庭教師がいたみたいだ。わたしも勉強は好きではないけど、新しい本が読めるならとてもやりたい。

 

「そうね。マインは本が好きで賢いもの。今から勉強したら首席だって夢じゃないわね」

 

 母がキラキラした目をこちらに向けてきて、思わず目を逸らした。

 親の期待が重たい。わたしは本が読めればいいだけだし、学校に行ったらきっと勉強そっちのけで図書館にこもっている気がする。期待するだけ無駄な気がしてきた。

 

「それで、入学前に必要なものはどうするのかしら?」

 

 ナルシッサが手紙のリストに目を通しながら尋ねた。ホグワーツに入学するためには、いろいろなものを揃える必要があるらしい。ドラコもそれを楽しみにしているようで、目を輝かせて両親を見上げた。

 

「早く自分の杖が欲しいです」

「もちろん、準備はきちんとしないといけないわね。ダイアゴン横丁に行くのが楽しみね」

 

 ナルシッサは微笑んで、わたしの方に視線を向けた。その目には、少しだけ心配そうな光が宿っている。

 

「マイン、あなたもダイアゴン横丁に一緒に来る?」

 

 わたしは一瞬戸惑ったが、次の瞬間には頷いていた。ダイアゴン横丁──名前は聞いたことがあるけれど、どんな場所かは全く知らない。でも、そこには本屋があるとドラコが言っていた。家の敷地から一歩も出たことがないので、まだ本屋に行ったことがない。

 

「行きたいです!」

 

「あなたも一緒に行きましょう。外に出るのは大変かもしれないけれど、無理のないようにね」

 

 ナルシッサはわたしの体調を心配しながらも、優しく微笑んだ。ルシウスも頷いて、満足げに家族全員を見渡した。

 

「では、ダイアゴン横丁に行く準備をしよう。ドラコの入学に必要なものを全て揃えるぞ。マインも、何か気になるものがあれば見てくるといい」

 

 その言葉に、わたしは胸が高鳴った。外に出るのは少し不安だったけれど、ダイアゴン横丁という未知の場所に行けることが楽しみで仕方がなかった。兄と一緒に、魔法の世界の片鱗に触れられるかもしれない。新しい本を買ってもらえるかも。

 

「わたし、新しい本が欲しいです」

 

 そう呟くと、ドラコは嬉しそうに笑い、わたしの肩に手を置いた。

 

「ほんとマインは本が好きだな」

 

 わたしは心の中で胸を躍らせていた。この世界に来て初めて、両親と兄のドラコと共に外に出かけに行くことが決まったのだ。マルフォイ邸の外に出る機会が少なかったわたしにとって、外の世界を体験するのは大きな冒険だ。しかも、魔法の世界での買い物──きっと見たことないような本がたくさんあるに違いない。わたしの期待は最高潮に達していた。

 

「マイン、無理はするなよ」

 

 ドラコがいつもと変わらない冷静な口調で声をかけてくる。わたしは頷きながらも、心の中では「今日は本屋に行くんだ」と決意を固めていた。今日は特別な日だ。外の世界を自分の目で見るチャンスだ。しかも本屋にも行ける! 

 

「大丈夫! 今日は頑張るから!」

 

 わたしは満面の笑みで家族に応えた。元気に笑うわたしを見て、ナルシッサが優しく微笑む。

 

「さあ、煙突飛行の準備をしなさい。マイン、しっかりとお父さまに掴まって」

 

 わたしは、ルシウスの手をぎゅっと握り、家族全員で暖炉の前に集まる。煙突飛行──これもわたしにとって初めての体験だ。目を閉じて準備する中、ルシウスが「ダイアゴン横丁!」と大きな声で言うと、次の瞬間、ぐるぐると回る感覚が全身を包み込んだ。

 ダイアゴン横丁では前世では見たことがないようなお店が道の両側に並んでいた。大鍋だらけの鍋屋。見知らぬ材料が売られている薬屋。ふくろうが売られているお店もあり、魔法使いはここで手紙を運ぶことのできるふくろうを買っているのかと気づいた。

 とりわけ目立ったのは男の子たちが群がっているショーウィンドウのお店だ。箒が飾ってあるのにえらく興奮しているのが見えて、さらにドラコまでその男の子たちみたいにうっとり箒を眺めていて、つい変なのと思ってしまった。

『クィディッチ今昔』は読んだけど、クィディッチ自体はさっぱりだよ。男の子がサッカーに夢中になる感覚なのかな。

 両親とドラコが歩くのに合わせて店々を見回していたが、次第に体力が奪われていくのを感じ始めた。息が少しずつ乱れ、足取りが重くなる。

 本に困らないからとマルフォイ邸の敷地から出たことがないのが良くなかった。元々虚弱なのもあるが、ほとんど使ってない足が言うことを聞いてくれない。

 

「マイン、無理はするな。少し休むか?」

 

 ドラコが心配そうに声をかけてくる。わたしはそれでも負けじと、周囲を見渡して何とか足を進めようとするが、体が言うことを聞かない。

 

「本屋まではもう少し……でも……」

 

 その瞬間、わたしはふらつき、前につんのめってしまった。母がすぐに駆け寄り、わたしを優しく支えた。

 

「もう、無理はしなくていいわ。あなたにはちょっと大変だったわね」

 

 父が静かに頷き、わたしを抱きかかえた。

 

「それに、本屋にはまだ行かない。先にグリンゴッツに寄る」

「グリンゴッツ?」

「銀行だ」

 

 父が抱きかかえるので、わたしはだいぶ楽に周りを見渡すことができるようになった。たしかにお金がなければ買い物はできない。わたしは大人しく抱き抱えられたまま移動することになった。

 高い真っ白な建物の中に入ると、扉の両脇に小さい何かが立っているのが見えた。小鬼かな。本で見たことがある。

 父が小鬼に金色に輝く鍵を渡し、小鬼に案内されて金庫へ向かった。金庫はトロッコで行くらしく、わたしの体力的に絶対倒れるだろうということで、わたしと母は近くのアイスクリーム屋で待っていた。ドラコはアイスクリームよりもトロッコに乗ってみたいとせがみ、父について行った。

 

「実はお金の種類をよく知りたいのですけど……」

 

 アイスクリームを買うときに母に尋ねると、そういえば使わないわねと快くお金の種類を教えてくれた。ガリオンにシックルにクヌート。17シックルが1ガリオンで、29クヌートが1シックルらしい。計算させる気がないお金の単位だと思ってしまったが、いくらか気にせずに本をバンバン買っていたマルフォイ家にはおそらく節約の概念はないだろう。わたしは気にせずに使うことにした。

 10歳にもなってお金を使ったことないなんて箱入りすぎると思うが、なにしろ外に出たことがないのだ。欲しいものはドビーが取りに行ってくれるか、両親が買ってくれていた。マルフォイ家にはお小遣いという概念も存在していない気もする。学校に行き始めたら別だろうけど、ドラコもわたしも欲しいものはすぐに買ってもらえるのが当たり前の環境で生きていた。

 そういう意味では前世より気兼ねなく本を読んでいる。本代が嵩んで節約していた頃のわたしが羨ましがりそうだ。

 父とドラコが戻ってくると、わたしと父が教科書を探しに本屋に、母は杖の調子が悪いとオリバンダーの店に行った。

 フローリッシュアンドブロッツ書店には本が所狭しと置かれていた。天井まで高く積まれた本は崩れてしまうんじゃないかと思うほどだった。

 深く息を吐き、目の前の本棚を見つめる。色とりどりの背表紙が輝き、手に取るのを待っているかのように並んでいた。

 久しぶりに本屋に来れた。何度も来たかった本屋に! 

 ああ、何を読もう。読んだことない本がたくさんある。

 どれから読もう。素敵な本ならなんでも読みたい。

 

「そうだな、リストの中で家にある教科書もあるが、マインの予習用にも揃えておこうか。読んでみたいだろう」

「お父さま大好きです!」

 

 感激して父を抱きしめると、彼は少し照れながらさらに新しい小説を5冊買ってくれた。持つべきものはなんでも買ってくれる娘大好きな父親だ。

 本を立ち読みしようとするわたしを父は抱きかかえてドラコを迎えに行き、一緒にオリバンダーの店に向かう。彼は店で会ったみすぼらしい格好の男の子の話をした。

 

「両親が亡くなったとかでハグリッドと一緒にやってきたらしいんだ。どこの家かは聞きそびれたけどね」

「ハグリッドって?」

 

 首を傾げると父が説明してくれた。

 

「ホグワーツの領地内の小屋で暮らしている男だ。図体が大きく、なんの血が混ざってるか分かったもんじゃない。入学してもああいう男とは関わるんじゃないぞ、ドラコ」

「はい、父上」

 

 父が「なんの血」ということはマグルではなくて別の種族の血でも混ざって見えるのかな。差別的ニュアンスを感じ取ったが、よく分からない他人のことなのでわたしはスルーした。

 

「さて、ここがオリバンダーの店だ」

「ここが?」

 

 ドラコが懐疑的な顔で店を見た。ダイアゴン横丁の中でも特に古びた店だった。店の扉には剥がれかかった金色の文字で紀元前382年創業と書かれている。古さにも頷けるかなり伝統ある店のようだ。

 店内では母が買ったばかりの杖を持って椅子に座っていた。

 

「いらっしゃいませ。これはこれは、マルフォイの方々がお揃いで」

「久しぶりだな、オリバンダー。息子の杖を見繕いに来た」

 

 店主は老人だった。父は彼に軽く挨拶をして、ドラコを前に押し出す。

 

「ふむ。杖腕はどちらで?」

「右だ」

 

 ドラコが右腕を差し出す。オリバンダーはドラコの腕を採寸しながら杖の説明をした。ここには色々な種類の杖があり、全く同じ杖は存在しないのだそうだ。しかも杖には性格もあって、魔法使いが杖を選ぶのではなく、杖が魔法使いを選ぶのだという。この言い方がとても魔法の世界らしくてわたしは気に入った。

 ドラコは何本か杖を試したが、オリバンダーがああでもないこうでもないと杖を取り替えて、やっと一本の杖に決まった。いや、オリバンダー流に言うなれば、杖に選ばれた。

 

「我が家には代々伝わるニレの杖もあるが、その杖も長い間使うことになる。よく手入れして大事に使いなさい」

「はい、大切にします」

 

 父がドラコの初杖は見たいと言っていた理由が分かる。ドラコがとても嬉しそうに喜びを噛み締めながら初めての杖を握っていたからだ。それを見ているとわたしまで杖が欲しくなってきた。

 あと1年か。はやく来年になれ。

 

「マインも少しずつ外に出れるようにしないといけないわね。寝込んでばかりだとホグワーツに行かせるのが不安だわ」

 

 母にため息をつかれ、ホグワーツに行けるか非常に怪しくなってきた。学校に行くには健康も本当に大事だ。今の体力でやって行けるんだろうか。

 

「魔力を爆発させることは減ったのが救いだな」

「たしかにそれはここ数年ないわね。読書のおかげで感情の乱れが減ったのかしら」

「マインに一番効く薬は本だからな」

「問題は寝る前と食事中にどうやって取り上げるかよね」

 

 両親がわたしのことで色々とこそこそ話をしていた。一方で、ドラコは色々なものを買ってもらえて最初はご満悦だったが、唯一箒だけは学校に持ち込まないからと買ってもらえずに少し拗ねていた。

 

「ニンバス2000が欲しかった」

「家に他の箒あるのに」

 

 箒の区別が全くつかないわたしが漏らすと、ドラコはそれを鼻で笑う。

 

「マインだって家に他の本たくさんあるのに欲しいと言ってるじゃないか。それと同じだよ」

 

 ごめん、ものすごく納得した! 

 

「なんとかできないのですか?」

「2年生になったら新しい箒を買ってやるから、それまでの我慢だ」

 

 父が珍しくドラコに我慢を強いて、ドラコは諦め顔になってきた。こっそり学校に持ち込むのは難しそうである。

 外出後の数日は久しぶりにかなり寝込んだ。母には次に書店に行くのは来年だとしばらく書店禁止を告げられてしまった。自分の体力が悲しくなってきて、わたしは体力作りのために庭で毎朝ラジオ体操を始めるようになった。両親からはかなり不評だった。

 それから1ヶ月はドラコの予習をわたしが横の席で見ていることが増えた。家庭教師がドラコに呪文の杖の振り方や発音を正確に唱えることを教えているのを見ながら、ノートに記録したりもしていた。どうやら魔法というのは呪文を唱えればすぐ発動するというものではないらしく、杖の振り方や発音によって効果に差が出てきてしまうようだ。

 魔法薬学の予習にはホグワーツでも教員を務めるスネイプ先生がわざわざ教えに来ていた。スネイプ先生は父のホグワーツ時代の後輩なのだという。よくわたしが飲んでいる薬は彼が作っていると聞いて、わたしは何度もお礼を言った。あまり愛想が良くない先生ではあったが、こちらが真剣に話を聞いて質問すると、丁寧に答えを返してくれた。魔法薬学は順序立てて材料を入れていくと薬が完成するのだが、材料の量や茹で時間によって完成度に大きな差が出てくるらしい。なんだかお菓子作りみたいだ。

 わたしは転生してから魔法というものをかなり曖昧なものとして認識していたが、授業を受けてからはマグルの世界と一緒で勉強が必要な学問だなと認識を改めた。

 父も母も自然に色々な魔法を使うが、簡単にすぐに使えるようになるわけではなさそうだ。

 ドラコはわたしがいると兄としての威厳を保とうと、前よりも勉強熱心になっていった。とても張り切っていて、首席を取るとまで言っていた。

 

 ドラコがホグワーツに向かう日はあっという間に訪れた。

 

「それでは行こうか」

 

 今回は煙突飛行ネットワークのないマグルの駅に行かなくてはならないので、付き添い姿くらましで向かうことになった。母は最後までわたしの体を心配していたが、どちらにせよ来年は使うのだから慣れておいた方が良いという話になった。

 駅に着くと、9番線の柱を通り抜けて9と4分の3番線のホームへ向かう。魔法使いの学校にしては現代的な行き方だが、ホグワーツ専用の汽車が出るらしい。9と4分の3番線のホームの上には『ホグワーツ行特急11時発』と書かれていた。

 

「ハウスエルフのいない生活なんて大丈夫かしら」

「ホグワーツにもいるにはいるが、厨房から出てこないというからな」

 

 両親は荷物を汽車に入れるのを手伝いながらも、ドラコが寮生活で苦労しないか心配しているようだった。

 

「大丈夫。クラッブとゴイルも一緒だし」

 

 両親に連れられてやってきた子分の名前を口にするドラコだが、その2人がドビーの10分の1も役に立たないことも薄々気づいてそうだった。わたしも窓の外からクィディッチで遊ぶのを眺めた程度だが、動きも思考も少々鈍感そうだ。

 クラッブとゴイルの親は父に恐縮しきっている。マルフォイ家の方が立場上上なのだろう。

 

「ドラコ、これで車内販売で何か買いなさい。あと、欲しいものがあったらすぐ手紙に書くのよ」

 

 車内販売には明らかに多すぎる量のお金を手渡しながら母はドラコに手紙を書くよう約束した。

 

「定期的に手紙は書いてくれ。これでもホグワーツの理事だ。問題があったらすぐに飛んでいく」

 

 父の言葉でわたしは父がホグワーツの理事だったことを初めて知った。貴族のような生活から薄々感じていたが、マルフォイ家はやはり魔法界でもかなりの権力者なのだろう。

 

 わたしたちは汽車を降りると、ホームからドラコに手を振った。

 

「じゃあまたクリスマス休暇に!」

 

 笑顔で手を振るドラコがそう言って、母は横で「ごちそうを用意するわ」と口にした。我が家のご飯は常に高級レストランのように豪華だ。もちろん作っているのはハウスエルフである。

 ドビーたちが作るご飯も美味しいけど、久しぶりに日本食も食べたいなって思うんだよね。イギリス人の舌には合わないだろうから、とっつきやすい高級料理から徐々に慣れさせられないかドビーに相談してみよっと。

 アイデアを練りながらわたしは両親と帰路についた。

 ホグワーツに行くのは来年。それまでに体力作りと日本食が出る環境を整えよう。のんびり読書生活のために! 

 





主人公がホグワーツに行くまでもうちょっとお待ちください。

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