本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。 作:bookworm
シリウス・ブラックの冤罪が報じられたあと、ホグワーツはしばらく妙な熱に浮かされていた。
正確に言えば、すべてがその場で終わったわけではない。魔法省での正式な手続きも、証言も、裁判も残っていた。けれど、少なくともホグワーツでは、もう誰もシリウス・ブラックをただの脱獄囚とは呼べなくなっていた。
彼は、罪を着せられていた。
それも、裁判らしい裁判もないまま、十年以上アズカバンに閉じ込められていたのである。
そして、その謎を解くきっかけを作ったのが、わたしたち魔法書研究会だった。
魔法書研究会。
名前だけ聞けば、放課後におとなしく本を読むだけの、平和な集まりに聞こえる。
実際には、古い新聞を読み、裁判記録を読み、魔法省の発表文を疑い、アーニーが的外れな推理を三つほど披露し、パドマが「この初報、続報と書き方が違う」と目を光らせ、ハーマイオニーが矛盾点を洗い出し、ハリーが事件の当事者として顔色を悪くし、ロンがネズミを失ってしばらく情緒不安定になっていた集まりである。
平和かどうかは、少し判断に困る。
けれど、功績は功績だったらしい。
ある日の朝食時、大広間に日刊予言者新聞のふくろう便が飛び込んできた。わたしの前にも新聞が一部落ちてくる。一面に載る機会が増えたので、父が家族ごと定期購読を始めたのだ。広げると、一面ではないけれど、かなり目立つ場所に大きな見出しが出ていた。
『若き研究会、ブラック事件解明に貢献』
わたしはしばらく見出しを見下ろした。
「若き研究会……小さいって書かれなくてよかった」 「そこを気にするのか?」
ドラコが呆れた顔をした。
「気にするよ。見出しは大事だもん」
そう言うと、レイブンクローの席からこちらへ来ていたパドマが、大きくうなずいた。
「その通りよ。見出しは読者の印象を決めるもの」
「ほら、パドマもそう言ってる」
「パドマを味方につけるな」
ドラコは嫌そうな顔をした。
ロンはハーマイオニーが購読する新聞を横からのぞきこんだ。
「僕の名前、ある?」
「あるよ。魔法書研究会の一員として」
ハリーがそう言うと、ロンは心底ほっとしたように息を吐いた。
「よかった。犯罪者を飼っていた人間として名前を覚えられなくて」
「ロン、それは自分で言わない方がいいと思う」
ハーマイオニーが真顔で言った。
記事では、魔法書研究会が古い新聞記録や裁判資料を読み比べ、シリウス・ブラック事件の矛盾点を洗い出したことが紹介されていた。もちろん、時間を戻ったことも、わたしが守護霊を出して倒れたことも、グーテンベルクが実はシリウス・ブラックだったことも、かなり慎重にぼかされている。
そのあたりを正直に書くと、記事ではなく怪文書になる。
アズカバン脱獄の手段は追随者が現れないように上手くぼかされたようだった。シリウスは誰にも脱獄の手段を言わないと誓わされて、ピーター・ペティグリューの特徴を教えるのと引き換えに合法アニメーガスに昇格した。
ロルフ・スキャマンダーは、不思議なところで筆がうまかった。魔法生物担当の記者のはずなのに、いつの間にか事件記者のような扱いになっている。
「本人は魔法生物担当に戻りたいみたいだよ」
ハリーが言った。
「どうして? 事件記者、すごそうなのに」
「人間の事件は、魔法生物より話が通じないんだって」
みんなが一瞬黙った。
否定できなかった。
日刊予言者新聞の記事の影響もあって、魔法書研究会は急に有名になった。廊下で知らない生徒に「本を読むだけじゃなかったんだな」と言われた時は、少し複雑だった。
本を読むだけでも十分すごいと思う。
けれど、それ以上に驚いたのは、ホグワーツでの加点だった。
数日後の夕食時、大広間でダンブルドア校長が立ち上がった。にこにことしているけれど、いつものような冗談めいた空気ではなかった。
「真実を求めるためには、勇気と粘り強さ、そして少々の好奇心が必要じゃ」
大広間が静かになる。
「シリウス・ブラック事件において、魔法書研究会の諸君は、古い記録を調べ、疑問を見逃さず、校内外の大人たちを正しい方向へ動かす大きな働きをした。よって、その功績をたたえ、関わった生徒一人につき五十点を授与する」
一人五十点。
大広間がどよめいた。
わたしは思わず指を折って人数を数えた。
スリザリンは、わたし、ドラコ、アストリア、フェルディナンド。四人で二百点。
グリフィンドールは、ハリー、ロン、ハーマイオニー。三人で百五十点。
レイブンクローは、パドマとルーナ。二人で百点。
ハッフルパフは、アーニー。一人で五十点。
砂時計の中で宝石がざらざらと増えていく。スリザリンの緑も、グリフィンドールの赤も、レイブンクローの青も、ハッフルパフの黄色も、同時に音を立てた。
寮同士で競い合うホグワーツで、四つの寮が同時に点をもらうのは、少し不思議な光景だった。
「やった!」
ハリーが笑った。
「五十点……」
ハーマイオニーも目を丸くしている。彼女は点数をもらうことに慣れていそうなのに、今回はさすがに驚いていた。
ロンはしばらく砂時計を見上げていた。
「これで僕も、犯罪者をベッドに寝かせてただけじゃない人間になった」
「だからロン、自分で自分を刺さないで」
ハーマイオニーがもう一度注意した。
わたしはスリザリンの砂時計を見上げながら、少しだけ胸を張った。
「二百点」
「にやけるな」
ドラコが小声で言った。
「にやけてないよ」
「にやけている」
「だって、スリザリンが一番多い」
「そこは誇っていい」
ドラコはそう言ったあと、少しだけ満足そうにした。
シリウス・ブラックの冤罪を正式に証明するまでには、何度か裁判があった。
ハリーやフェルディナンドも出廷した。わたしは体調の都合で傍聴できる日とできない日があったけれど、できるだけ記録を読ませてもらった。
パドマは、裁判記録を読む時だけ妙に生き生きしていた。
「この証言、前回と語尾が違うわ」
「語尾?」
「人はごまかす時、細かいところに出るの」
新聞好きが進むと、語尾から人を疑うようになるらしい。
記者志望というのはすごい。少し怖い。
裁判の結果、シリウス・ブラックは正式に無罪となった。
そしてなぜか、ブラック家の当主に戻ることになった。
本人はものすごく嫌そうだった。
「俺はそんなものになるためにアズカバンから出たんじゃない」と、何度も言っていたらしい。
けれど、ブラック家の当主問題は長くこじれていた。フェルディナンド先輩の立場もある。書類も財産も、面倒な親族も、放っておけばまた誰かが余計なことをしそうだった。
結局、シリウスは渋々当主を引き受けた。
本当に渋々だった。
ただ、フェルディナンド先輩とは案外うまくやっているらしい。
「シリウスは当主業務が雑だ」
フェルディナンドは談話室でよく愚痴をこぼした。
「どれくらい雑なんですか?」
「書類を読まずに署名しようとした」
「それは危ないですね」
「だから止めた」
フェルディナンドはいつも通りの顔をしていた。けれど、前より少しだけ表情が柔らかくなった気がする。
「私は書類の整理は手伝う。だが、ブラック家のために人生を使うつもりはない。研究者になる」
「それ、シリウスさんには言ったんですか?」
「言った」
「なんて言われました?」
「好きにしろ。ただし俺の代わりに書類仕事は全部やってくれ、と」
「全然好きにさせる気がないですね」
ブラック家は、相変わらず大変そうだった。
ただ、一つだけ解決していない問題がある。
ピーター・ペティグリューは、まだ見つかっていない。
ロンのペットだったスキャバーズ。
長年、ウィーズリー家で飼われていたネズミ。
そして、シリウスに罪を着せた張本人。
彼は、どこかへ消えた。
ロンはその話になると、ひどく複雑な顔をする。
「僕、ペットをなくしたと思ってたんだ」
「うん」
「でも、本当はおじさんだった」
「うん」
「しかも犯罪者だった」
「うん」
「……ペットって何なんだろうな」
わたしは深くうなずいた。
「わたしも、飼ってた犬がシリウス・ブラックだった」
「君も大概だよな」
「お互い大変だったね」
ロンとわたしは、少しだけ戦友のような気持ちになった。
ちなみに、シリウス・ブラックを犬として飼っていた件について、わたしは父にかなり手紙で文句を言った。
『お父さま。わたし、知らないうちに冤罪の脱獄囚を犬として保護してたんですよ』
『その言い方はやめなさい』
『ご飯もあげました。スコージファイもしました。毛並みも整えました』
『やめなさい』
『これ、飼育費と精神的苦痛の問題では?』
危うく裁判に発展しかけた。
正確には、わたしが「訴えた方がいいんじゃないか」と言い出し、父が「ブラック家相手にそれを言うな」と止め、母が「ルシウス、落ち着いて。ローゼマインも落ち着きなさい」と言い、ドラコが「もう本で示談にしたら?」と言った。
ドラコはたまに天才である。
わたしは考えた。
答えはすぐに出た。
「シリウスさんに、本をたくさん買ってもらうことにする!」
「それでいいのか?」
ドラコが疲れた顔で聞いた。
「うん。裁判より本がいい」
ドラコはしばらくわたしを見ていた。
「……お前は本当に、ある意味では一貫しているな」
褒め言葉として受け取ることにした。
そうして、シリウス・ブラックから届いた本は、秘密の部屋へ運ばれた。
古い魔法史の本。ブラック家の蔵書から出てきた家系研究書。呪文学の古書。怪しげな儀式について書かれた本は、父とフェルディナンドの検閲で一部没収されたが、それでもかなりの量だった。
秘密の部屋の書庫計画は、順調だった。
とても順調だった。
秘密の部屋は、もはや秘密の部屋というより、湿気対策が必要な地下書庫である。
ロンにも、新しいペットが来た。
シリウスが、罪滅ぼしというには少し勢いよく、豆ふくろうを贈ったのである。小さくて、元気で、やたらと飛び回るふくろうだった。
「ピッグウィジョンっていうんだ」
ロンが言った。
「ピッグ?」
「ジニーが名付けた。僕はまだ納得してない」
豆ふくろうは、ロンの肩の周りを高速で飛び回っていた。ロンは目で追いきれず、少し酔っている。ちゃんとクルックシャンクスに人間じゃないか確認してもらったらしい。
「ネズミよりは安心だね」
「比較対象が最悪なんだよ」
それはそうだった。
シリウスは、ハリーにも高い贈り物をした。
ファイアボルトである。
最新型の箒。高性能。高価。誰が見ても高価。新聞広告に載っているだけでため息が出るような箒。
「シリウスが買ってくれたんだ」
ハリーは少し困ったように、でも嬉しそうに言った。
「すごいね」
「うん。すごいんだけど……ちょっと、すごすぎる」
その話を聞いたフェルディナンドは、深く息を吐いた。
「当主に戻った直後にする買い物ではない」
「でも、ハリーは喜んでますよ」
「それが一番問題だ。あの男は、喜ばれると反省しない」
フェルディナンド先輩のシリウス評は、なかなか厳しい。
でも少しだけ、楽しそうでもあった。
そんなふうに、いろいろなことが片づいていく中で、気になることが一つあった。
トムが、最近あまり秘密の部屋にいない。
前は、わたしが秘密の部屋へ行けば、だいたいいつもいた。わたしが本棚の分類を変えると文句を言い、魔法書の扱いが雑な生徒の話をすると冷たく笑った。
けれど最近は、姿を消すことが増えた。
日記を開いても、すぐに返事が来ないことがある。
少し待つと、インクがにじむように文字が浮かんだ。
『読書中だ』
「ならいいけど」
『いいのか』
「読書中なら邪魔しない方がいいでしょ」
返事はそれきりだった。
少し変だとは思った。
けれど、読書中なら仕方ない。わたしだって、読書を邪魔されたら嫌だ。
学期末が近づくと、来年度の科目選択の話が出た。
わたしは羊皮紙を前にして、真剣に羽根ペンを握っていた。
古代ルーン文字。数占い。魔法生物飼育学。占い学。マグル学。
全部、魅力的に見える。
「マイン」
ドラコが嫌な予感のする顔でこちらを見た。
「まさか、全部にチェックを入れるつもりじゃないよな?」
「入れるよ」
「即答するな」
「だって、教科書が増えるし」
「理由はそれだけ?」
「授業が増えたら、読める本も増える」
「同じことを言っているだけじゃないか!」
ハーマイオニーは、来年はタイムターナーを返却することにしたらしい。占い学とマグル学を取るのをやめる、と言っていた。
もったいない。
「あなたも体調には気をつけてね」
「大丈夫。読める本が増えるなら、いくらでも頑張れる気がする」
ハーマイオニーは一瞬だけ黙った。
「……理由はともかく、勉強する気があるのはいいことだと思うわ」
「でしょ?」
ドラコは頭を抱えた。
「父上に手紙を書く」
「なんで?」
「また倒れる未来が見えるからだ」
「未来はまだ決まってないよ」
そう言った瞬間、なぜかタイムターナーが頭をよぎった。
未来。
まだ決まっていないもの。
それとも、もう決まっているのに、まだ気づいていないだけのものなのかもしれない。
何か見落としている気がする。
わたしは少しだけ首をかしげた。
けれど、目の前の科目選択用紙の方が大事だったので、すべての欄に丁寧にチェックを入れた。
スネイプ先生はその潔さをあまりよく思わなかったらしい。
スネイプ先生は、わたしの科目選択表を見下ろしていた。
すべての欄にチェックが入った羊皮紙である。
わたしとしては、とても誠実な提出物だった。
学びたい科目に印をつけなさい、と書いてあった。だから、学びたい科目すべてに印をつけた。何も間違っていない。
ただし、目の前の先生は、わたしと同じ解釈をしていないようだった。
「ミス・マルフォイ」
「はい」
「これは科目選択表だ」
「はい」
「願望目録ではない」
「はい」
「将来購入したい本の一覧でもない」
「……はい」
なぜそこまで分かるのだろう。
スネイプ先生は、羊皮紙の端を指で押さえた。
黒い袖が机の上に落ちて、科目名のいくつかを影に沈める。
「君は、すべての選択科目を履修するつもりか」
「はい」
「正気か」
「知識欲です」
「正気ではない、の別表現だな」
ひどい。
わたしは少しだけ唇を尖らせた。
「古代ルーン文字は魔法書を読むうえで必要です。数占いは魔法理論に関係しそうです。魔法生物飼育学は、今後のために必要です」
「今後」
先生の声が低くなった。
「君の言う今後には、また巨大蛇に餌をやる予定でも含まれているのか」
「アルドゥスは元から住んでいただけです」
「質問に答えなさい」
「……必要になる可能性は否定できません」
「最悪の返答だ」
スネイプ先生は深く息を吐いた。
「占い学は?」
「うさんくさい本にも、一度は目を通すべきだと思いました」
「担当教員の前では絶対に言うな」
「はい」
「マグル学は?」
「自分の知っていることと、魔法界で教えられていることの差を実際に確認したくて」
「授業妨害の予告か」
「比較研究です」
「言い換えれば許されると思うな」
スネイプ先生は、科目選択表を机に置いた。
「同時刻に開講される授業は受けられない。君の身体では、通常の授業だけでも負担が大きい。まして全科目など論外だ」
「でも、ハーマイオニーは――」
「ミス・グレンジャーの名を出すな」
早かった。
まだ最後まで言っていない。
「顔に書いてある」
顔は羊皮紙ではないはずだが、先生には読めるらしい。危険な能力である。
わたしは口を閉じた。
スネイプ先生はしばらくわたしを見ていた。怒っている。いつも怒っているが、今日は少し種類が違う。
そして、先生は低い声で言った。
「……本来なら、即座に半分以上を却下する」
わたしは身構えた。
半分以上。
それは、本棚を燃やされるに等しい暴挙である。
「だが」
スネイプ先生は、不愉快そうに眉間の皺を深くした。
「ダンブルドア校長が、君ほどの生徒に履修を諦めさせるのは、学校にとって損失だと仰った」
「ダンブルドア先生が?」
「不本意ながらな」
不本意ながら。
すごく力が入っていた。
「フリットウィック先生も、マクゴナガル先生も、スプラウト先生も、同様の意見だった。君の魔力量、記憶力、読解速度、そして――」
先生はそこで一度言葉を切った。
「異常な執着心を、単に制限するだけでは意味がない、と」
「褒められていますか?」
「警戒されている」
そうだった。
「ただし、勘違いするな。君の希望が全面的に通ったわけではない」
スネイプ先生は、羽根ペンを取った。
「特別措置を検討する。それだけだ」
「スネイプ先生、大好きです!」
「正式決定ではない。検討だ。喜ぶな」
スネイプ先生は、わたしを睨んだ。
「君がどうせ止めても読むなら、管理下で読ませた方がましだ、という意見が出ている」
わたしは黙った。
それは、褒め言葉ではない。
完全に危険物の管理だった。
でも、管理対象が本なら、悪くない。
「つまり」
「つまり、君は信用されていない」
「はい」
「しかし、能力は認められている」
スネイプ先生は、そこでほんの少しだけ声を落とした。
「君ほどの才能を持つ生徒が、制度の都合だけで学ぶ機会を失うのは、確かに損失だ」
わたしは瞬きをした。スネイプ先生がそんなことを言うとは思わなかったのだ。
先生はすぐに顔をしかめた。
「今の言葉を都合よく解釈するな」
「はい」
「泣くな」
「泣いてません」
「泣きそうな顔をするな」
泣きそうではない。
ただ、少しだけ、胸の奥が熱くなっただけだ。
怒られると思っていた。
止められると思っていた。
削られて、諦めなさいと言われると思っていた。
でも、大人たちは、わたしの紙をただのわがままだとは思わなかったらしい。
本を読みたいという気持ちを、少なくとも、笑わなかった。
「ありがとうございます」
わたしが言うと、スネイプ先生はますます嫌そうな顔になった。
「礼を言う相手を間違えるな。私はまだ反対寄りだ」
「でも、呼び出して説明してくれました」
「君が勝手に暴走する前に釘を刺す必要があっただけだ」
「それでも、ありがとうございます」
スネイプ先生は沈黙した。
それから、低い声で言った。
「……最初の一週間、倒れずに過ごしなさい」
「え?」
「それが最初の条件だ。特別措置を検討するに値する体調管理ができると示せ。倒れたら、この話は一度白紙に戻す」
厳しい。
でも、分かりやすかった。
今年の寮杯は、グリフィンドールが獲得した。
クィディッチでグリフィンドールが優勝したことが大きかったらしい。ハリーのファイアボルトは本当に速かったし、グリフィンドールのキャプテン、オリバー・ウッドは試合後に泣いていた。グリフィンドールのチェイサーでロンの兄のフレッドとジョージは胴上げしようとして、途中で誰を胴上げしているのか分からなくなっていた。
スリザリンは悔しがった。
特にドラコはかなり悔しがった。
けれど、今年に限っては、わたしは少しだけ納得していた。
ハリーはたくさん大変な思いをした年だった。
ロンも、ペットがおじさんだった。
ハーマイオニーはずっと頑張っていた。
グリフィンドールが勝つ年があっても、まあ、いいのかもしれない。
「来年はスリザリンが勝つよ」
「急に負けず嫌い出すじゃん」
ロンが言った。
「勝てるならどんな手段を使っても勝ちたいもん」
「スリザリンだなあ」
大広間の天井には、グリフィンドールの赤と金が輝いていた。
全部が、きれいに片づいていくように見えた。
シリウス・ブラックの冤罪。
ブラック家の当主問題。
魔法書研究会の功績。
秘密の部屋の書庫計画。
来年度の科目選択。
順調だった。
だからこそ、わたしは気づかなかった。
ピーター・ペティグリューがまだ見つかっていないという事実が、何も終わっていない証拠だったことに。
その時のわたしはただ、来年度の科目リストを眺めて、満足していた。
増える本は、いい未来の証だ。
少なくとも、その時のわたしは、そう思っていた。