本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。 作:bookworm
トムは久しぶりに秘密の部屋に来ていた。
学期末のホグワーツは、どこか浮ついている。
試験を終えた生徒は、すでに心が汽車に乗っている。教師たちは採点と監督で疲れ切り、寮監たちは荷造りと忘れ物の確認に追われ、ふくろう便は普段よりも忙しく飛び交っている。
つまり、誰も地下深くの秘密の部屋など気にしない。
復活の儀式を行うには、都合がよかった。
問題は、ここがもはやトムの知る秘密の部屋ではなくなっていることだ。
サラザール・スリザリンの遺志が眠る、選ばれた者だけがたどり着ける、冷たく荘厳な地下空間。
そうだったはずの場所には、今、本棚が並んでいる。
しかも、以前より増えている。
前に見たときは、まだ空の本棚も多かった。ローゼマインが「ここは闇の魔術関連を置く予定で、こっちは魔法史、こっちは蛇語資料、こっちは禁書だけど禁書と呼ぶと印象が悪いから要注意資料」と、勝手に分類案を語っていた段階だった。
つまり、まだ計画だった。
まだ許せた。
いや、許してはいないが、少なくとも現実ではなかった。
だが今は違う。
空だった棚には本が詰まっている。古い魔法史の写本、薬草学の分厚い本、呪文学の参考書、どこから持ってきたのか分からない羊皮紙の束、表紙に触るだけで嫌な気配のする黒魔術書まである。
本当に、いつの間に。
シリウス・ブラックの一件で医務室に運ばれたと聞いていたが、あれは嘘だったのか。学期末の試験勉強で忙しかったはずではなかったのか。虚弱体質で薬を飲まされ、ドラコ・マルフォイに監視され、授業と課題と魔法書研究会で手一杯だったはずではなかったのか。
なのに、なぜ地下の秘密の部屋の蔵書だけが着実に増えている。
サラザール・スリザリンが見たら、もう一度死ぬだろう。
トムは本棚を見て、深く息を吐いた。
怒るべきなのか、諦めるべきなのか、最近は分からなくなってきた。ローゼマイン・マルフォイという生き物は、空間があれば本棚を置く。本がなければ本を運ぶ。秘密であればあるほど「蔵書管理に向いている」と考える。
この部屋が書庫化されたのは、事故ではない。
災害だ。
ただし、今日に限っては都合がいい。
広い。人目がない。魔法の痕跡も漏れにくい。学期末で生徒は浮かれている。教師も忙しい。ローゼマイン本人も、おそらく荷造りか、最後まで図書室にしがみついているか、ドラコに薬を飲まされているかのどれかだ。
少なくとも、ここには来ない。
それが何より重要だった。
「我が君……」
湿った石室に、情けない声が響いた。
ピーター・ペティグリューが、両手に包みを抱えて立っている。
小柄で、丸く、汗をかき、目を泳がせている。見るからに挙動不審だ。実際、親友を裏切った犯罪者なのだから、外見と中身の一致という点では評価してもいい。
トムは彼を見た。
「情けない声を出すな」
「も、申し訳ありません」
「汗をかいているな。スコージファイしろ」
「も、申し訳……」
「そう何度も謝罪を繰り返すな」
ピーターは慌てて口を閉じて自分の身体を魔法で清める。
命令への反応だけは早い。
有能とは言っていない。
「必要なものはそろえたな」
「はい、はい、すべて! ご主人様が命じられた通りに!」
未来のトム。
ヴォルデモート卿。
ハリー・ポッターに敗れ、肉体を失い、いま再び器を得ようとしている存在。
正直に言えば、まだ納得していない。
トムが敗れる?
トムが肉体を失う?
トムが、ピーター・ペティグリューのような男を下僕にする?
未来のトムは、いったいどこで何を間違えたのか。
「手順は理解しているのか」
「も、もちろんでございます!」
ピーターは勢いよく頷いた。
その拍子に、抱えていた包みの一つがずるりと落ちかける。
トムは杖を振った。
包みは床に落ちる直前で止まる。
その真下には、ローゼマインが置いたらしい木箱があった。
木箱には「要注意資料」と書かれている。
トムは静かに言った。
「少しでも本棚を乱したら命を落とすぞ」
「ひっ」
「比喩ではない。あの子に見つかった場合、僕もただではすまない」
ピーターは青ざめた。
「そ、それほど恐ろしいので……?」
「本に関しては、闇の魔術より面倒だ」
これは誇張ではない。
闇の魔術には対処法がある。
ローゼマイン・マルフォイの本に関する怒りには、終わりがない。
トムは床を清め、儀式の場を整えた。
石の中央に大鍋を置く。古い魔法の気配が沈む。復活のための術式は、単純な変身術や魔法薬とは異なる。
厳粛な儀式だ。
ピーターが不安そうに言った。
「あ、あの……ここで本当によろしいのでしょうか」
「ここが一番人目につかず、作業しやすい。異論があるのか?」
ピーターは何と答えればいいか分からなかったらしい。
黙った。
正しい判断だ。
トムは儀式を始めさせた。
ピーターは震えながら動いた。
震えすぎていた。
手順書を見る。よろめく。包みを開ける。粉をこぼしかける。液体を注ぐ。手が滑る。
「左だ」
「は、はい!」
「それは右だ」
「申し訳ありません!」
「謝罪するより先に手を動かせ」
「はい!」
「手順書を上下逆に持つな」
「ひっ、申し訳ありません!」
トムは額を押さえた。
闇の帝王の復活儀式とは、もっと威厳あるものではなかったのか。
少なくとも、担当者が試験直前の一年生のように震えながら進めるものではないはずだ。
だが、魔法は進んでいた。
大鍋の中で闇が沈む。沈んだ闇が粘り、蠢き、形を欲しがる。石室の空気が重くなり、本棚の影が床に長く伸びた。
貸出表の羊皮紙が一枚、かすかに揺れる。
トムはそれを見て、思わず風向きを確認した。
儀式の煙で汚れていない。
よし。
トムは醜い赤子のようなものを鍋に放り込んだ。鍋に沈んでいく。
アルバニアでひっそり生きているのをトムが発見したのだった。
「血筋の残骸を与えよう。父親の骨は、息子の輪郭を定める」
トムがそう言うと、ピーターがトムの父親の骨を鍋に投げ入れた。
顔は真っ白で、唇は震えている。だが、やるべきことは分かっているらしい。
この男は愚かで、小心で、卑屈で、醜い。
だが、役に立った。
ハリー・ポッターの血を手に入れた。
儀式の材料をそろえた。
復活の場まで運び込んだ。
裏切り者としては、非常に優秀だ。
忠誠心ではない。
生存本能だ。
強い者につき、さらに強い者が現れればそちらに乗り換える。罪を他人になすりつけ、必要なら泣きながら膝をつく。
軽蔑すべき存在だ。
だが、使える。
「父親の骨のあとは、下僕の肉だ」
「下僕の肉……わ、私はそんな話は聞いていないが」
「うん? そうだな、今言った」
トムは躊躇なくピーター・ペティグリューの腕を切り落として鍋に投入した。
「従属の証を差し出そう。下僕の肉は、主の肉体を補う」
大鍋の闇が膨れた。
「ひ、ひい! 私の腕が……!」
ピーターが床に崩れる。
「力ずくで奪った宿敵の血。敵の血は、敗北を勝利に転換させる」
黒い紙に保存したハリー・ポッターの血を鍋に入れる。
「失われた肉体よ戻れ。死に置き去りにされた者よ、今この世に立ち戻れ」
鍋の液体は白に変わっていた。ピーター・ペテグリューが地面にへばりつきながら泣いていた。トムは大鍋を見下ろす。
闇の中から、白い手が現れた。
長い指。
青白い腕。
人間から少し外れた輪郭。
肩。
頭。
赤く光る目。
それは、ゆっくりと息を吸った。
失われた肉体が戻った。
ヴォルデモート卿は、秘密の部屋の中央に立っていた。
「ローブをくれ」
トムは無言で彼に地面においてあったローブを手渡した。
ピーターが泣きながら床に伏す。
「我が君……! お戻りに……!」
復活した未来のトムは、ローブを着たあとしばらく何も言わなかった。
自分の手を見る。
指を動かす。
呼吸を確かめる。
それから、周囲を見回した。
石像。
床。
大鍋。
本棚。
貸出表。
「湿気対策要検討」の羊皮紙。
「秘密の書庫」の看板。
赤い目が、そこで止まった。
沈黙。
長い沈黙だった。
「……ピーター」
「は、はい、我が君!」
「ここはどこだ」
「秘密の部屋でございます、我が君!」
「秘密の部屋」
「はい!」
「サラザール・スリザリンの」
「はい!」
「では、なぜ本棚がある」
ピーターはゆっくりとトムを見た。
トムは静かに言った。
「こちらを見るな」
ヴォルデモート卿の視線が、トムに向く。
「私の記憶だな」
「その通りです、未来の僕」
「この現状を説明しろ」
「学期末なので、人目を避けるにはここが最適でした」
「そこではない」
「本棚についてですか」
「それ以外に何がある」
トムは少し考えた。
「ローゼマイン・マルフォイが置きました」
「マルフォイ?」
「はい。ルシウス・マルフォイの娘です」
「ルシウス・マルフォイの娘が、秘密の部屋に本棚を?」
「はい」
「なぜだ」
「秘密の部屋に本がないなら置けばいい、という思想です」
ヴォルデモート卿は黙った。
復活直後に聞かされる現実としては、少し酷だったかもしれない。
だが事実だ。
あの子はそういう生き物である。
「私の秘密の部屋を」
ヴォルデモート卿は低く言った。
「本好きの小娘が書庫にしたと?」
ピーターが震えながらなんとか話を変えようと口を挟んだ。
「あ、あの、我が君……お体は完全に戻られたのでしょうか……?」
ヴォルデモート卿はピーターを見下ろした。
「戻った」
「おお……!」
「だが、秘密の部屋が書庫になっていたことについては……まあ、いい。後で考える」
トムは少しだけ同情した。
肉体を取り戻し、いよいよ闇の帝王として世界へ返り咲く瞬間。
そこにあるべきは、恐怖、服従、勝利、暗黒の象徴である。
実際にあったのは、本棚と貸出表と湿気対策の注意書きだった。
復活演出としては、かなり弱い。
「それで」
ヴォルデモート卿は、秘密の部屋を見回しながら言った。
「秘密の部屋というなら、バジリスクはどこだ」
トムは一瞬だけ黙った。
バジリスク。
サラザール・スリザリンが残した怪物。秘密の部屋の番人。現在はニュート・スキャマンダーによって保護されている巨大蛇。
この部屋は、ただの地下室ではない。
サラザール・スリザリンの魔法が染みついた場所だ。アルドゥスもただの蛇ではない。秘密の部屋と結びついた存在である。
呼べば、来る可能性がある。
そして、今のアルドゥスはおそらく腹を空かせている。
ニュート・スキャマンダーがどれほど丁寧に保護していようと、あの大きさの蛇の食欲を完全に満たすのは難しい。
試す価値はあった。
「呼び出しましょう」
トムは杖を上げた。
ピーターが不安そうにこちらを見る。
「な、何を……?」
「静かにしていろ」
トムは床の中央に杖先を向け、マインがやるように魔力をたっぷり込めて呪文を唱えた。
「サーペンソーティア」
空気が歪んだ。
床石の影が濃くなり、湿った冷気が這い上がってくる。
次の瞬間、重い音が響いた。
ずるり、と。
石の床に、巨大な蛇の体が現れた。
アルドゥスだった。
目は、布と魔法で厳重に覆われている。ニュート・スキャマンダーの処置だろう。以前よりしっかりした目隠しで、鼻先には小さな札までぶら下がっている。
――危険。目を開けないこと。餌は記録表に従うこと。
トムは少し黙った。
ニュート・スキャマンダーは、サラザール・スリザリンの怪物にも管理札をつける男らしい。
未来のトムも、札を見て沈黙した。
「……これは何だ」
「保護下にある証拠でしょう」
「私のバジリスクに札が」
「さっきまでニュート・スキャマンダーが保護してましたから」
説明としては雑だが、事実だった。
アルドゥスはゆっくり頭を上げた。
『飯の時間か?』
低い蛇語が、石室に響いた。
ピーターは意味が分からないはずだが、本能的に怯えたらしい。床の上で後ずさった。
「な、何と……?」
「腹が減っているそうだ」
「ひっ」
ヴォルデモート卿は、興味深そうにアルドゥスを見た。
「目は封じられているのか」
「はい。だからこの場で即死する心配はありません」
「つまらぬ」
短い沈黙が落ちた。
トムはピーターに視線を落とした。
この男は役に立った。
十分に。
未来のトムの復活に必要なものをそろえ、儀式を行い、肉体を取り戻させた。
ここまでなら、褒めてやってもいい。
ここまでなら。
「ピーター」
トムは、できるだけ優しい声で呼んだ。
ピーターはびくりと肩を震わせた。
「は、はい……」
「お前は役に立った」
ピーターの顔に、一瞬だけ安堵が浮かんだ。
哀れなほど分かりやすい。
「ほ、本当でございますか……?」
「ああ。とても役に立った」
「我が君……!」
「だから、最後まで役に立て」
安堵が凍った。
彼は、すぐには意味を理解できなかったらしい。
だが、アルドゥスがゆっくりと頭を下げた瞬間、ようやく分かったようだった。
「ま、待ってください、我が君! 私は、私は忠実に――!」
「忠実?」
トムは首を傾げた。
「君は親友を裏切り、別の親友に罪を着せ、都合が悪くなったらネズミになって仲間から隠れてぬくぬくと過ごしていた。次に誰を裏切る予定なのかな? うん?」
「そ、そんな……私はご主人様を裏切ることは断じて!」
「実に柔軟だ。だが、書庫にネズミはいらない」
ピーターの顔が引きつった。
ヴォルデモート卿が、わずかに目を細める。
「トム」
「何です」
「それは私の下僕だ」
「でした」
トムは訂正した。
「いつか裏切るかもしれない下僕は殺してしまった方がいい」
アルドゥスが蛇語で低く言った。
『ごはん?』
トムは答えた。
『ごはんだ。棚にぶつかるな。骨も飛ばすな。本を汚すな』
『承知した』
ピーターが悲鳴を上げた。
声は秘密の部屋の天井に吸い込まれた。
トムは目を逸らさなかった。
ヴォルデモート卿も、目を逸らさなかった。
しばらくして、秘密の部屋は静かになった。
アルドゥスは満足したように体を丸めた。目隠しの札が、かすかに揺れている。
ピーター・ペティグリューは、最後まで役に立った。
実に彼らしい終わり方だった。
誰かに寄生し、誰かを裏切り、誰かにすがり、最後は誰かの役に立って消える。
本人は不本意だっただろうが、食物連鎖としては妥当である。
ヴォルデモート卿は、ゆっくりとトムを見た。
「……お前は、本当に私だな」
もっとも、ニュート・スキャマンダーには説明が必要になるだろう。
保護中のバジリスクが、なぜ学期末の夜に秘密の部屋へ一時帰宅し、なぜ腹を満たして戻ることになったのか。
面倒だ。
非常に面倒だ。
だが、それは後で考えればいい。
復活の儀式は終わった。
未来のトムは肉体を得た。
そして、秘密の部屋の書庫からネズミは消えた。
「だが、ピーターは必要だったのではないか」
ヴォルデモート卿が低く言った。
「必要でした」
トムは答えた。
「今までは」
「お前は、使い終えた道具を捨てるのか」
「僕が二人いるんだ。あんなやつはいない方がマシだ」
ヴォルデモート卿は笑った。
冷たく、低く、愉快そうに。
たしかに、これはトムの未来なのだろう。
認めたくない点は多い。
敗北したこと。
肉体を失ったこと。
幼い赤子に負けたこと。
だが、それでも、彼の力は本物だった。
赤い目。
白い顔。
冷えた声。
空気を支配する魔力。
滑稽な状況の中にいても、闇は確かにそこにあった。
「それで」
ヴォルデモート卿は言った。
「お前は私に従うのか」
トムはすぐには答えなかった。
代わりに、本棚を見た。
ローゼマインが貼った分類札が、静かに揺れている。
「従うかどうかは、あなた次第です」
トムは言った。
「僕は、失敗した未来に無条件で従う趣味はありません」
ヴォルデモート卿の目が細くなる。
「私を失敗と呼ぶのか」
「あなたは赤子に過ぎなかったハリー・ポッターに敗れ、肉体を失った」
「そして今、戻った」
「ええ」
トムは頷いた。
「だから確認します。僕が従う価値のある未来なのか、それとも反面教師なのか」
空気が冷えた。
アルドゥスが奥で身じろぎする。
ヴォルデモート卿は、しばらくトムを見ていた。
怒るかと思った。
だが、彼は笑った。
「やはりお前は私だな」
「その言い方は、あまり嬉しくありません」
「傲慢で、疑い深く、礼儀を知らず、相手が未来の自分であっても遠慮がない」
「褒めていますか」
「当然だ」
闇の帝王が、そこに立っていた。
だが、その背後には「秘密の書庫」の看板がある。
やはり締まらない。
「まず」
ヴォルデモート卿は、看板を見て言った。
「この看板をどけろ」
「それはローゼマインのものです」
「だから何だ」
「勝手に動かすと後が面倒です」
ヴォルデモート卿は沈黙した。
復活したばかりの闇の帝王が、初めて本気で疲れた顔をした。
「私は復活したのだぞ」
「はい」
「闇の帝王が戻ったのだぞ」
「はい」
「なのに、看板一つ動かせないのか」
「動かせます」
「なら動かせ」
「後が面倒です」
沈黙。
非常に重い沈黙だった。
トムは淡々と続けた。
「ローゼマイン・マルフォイは、こういう配置を覚えています。看板の角度、本棚の位置、貸出表の枚数。勝手に変えれば気づきます」
「小娘一人に、なぜそこまで気を遣う」
「本に関しては厄介だからです。魔力も多くて暴発しかねない。秘密の部屋が消えてなくなっても困るので」
ヴォルデモート卿は、ゆっくりと本棚を見た。
貸出表。
湿気対策。
書庫。
そして、満腹になって丸まっている目隠し付きのバジリスク。
「……この世界は、私が知る世界と違うな」
トムは「秘密の書庫」の看板を、少しだけまっすぐに直した。
ヴォルデモート卿はそれを見て、低く言った。
「お前は本当に私なのか?」
「それはこちらの台詞です」
復活した闇の帝王と、日記の中の若いトム・リドル。
二人の視線が、秘密の部屋の中央でぶつかる。
その横で、アルドゥスが満足そうに眠り、貸出表が静かに揺れていた。
学期末の夜。
ホグワーツの地下で、闇の帝王は蘇った。
ただし、最初の問題はハリー・ポッターではなかった。
ダンブルドアでもなかった。
魔法省でもなかった。
秘密の部屋が、いつの間にか地下書庫になっていたこと。
保護中のバジリスクを呼び戻したこと。
そして、ローゼマイン・マルフォイに気づかれないよう、書庫の原状回復をしなければならないことだった。
世界征服の前途は、多難だった。
トムは、未来の自分を見た。
これが、自分の未来の一つ。
死を恐れ、死を拒み、死を越えようとした結果。
学ぶべきことはある。
避けるべきこともある。
読む価値は、十分にありそうだ。
「さて」
トムは静かに言った。
「未来の僕。話をしよう」
ヴォルデモートは、赤い目で若い自分を見た。
「何について」
「これからの人生について」
一瞬、沈黙が落ちた。
それから、秘密の部屋の奥でアルドゥスが小さく身じろぎした。
ヴォルデモートは、低く笑った。
「面白い」
トムも笑った。
復活は終わった。
だが、物語はむしろここからだった。
GW中の連続投稿にお付き合いくださりありがとうございました!闇の帝王復活まで書けて大満足です!
次話は番外編のマルフォイ家の家族会議です。