本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:bookworm

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61話 第二の課題

 

 朝食の席で、わたしは羽ペン通信全国版を読んでいた。

 

 最近、ホグワーツ生が朝食の席で読む新聞が日刊予言者新聞から羽ペン通信全国版に置きかわった。なぜかふくろう便が止まり、新聞が届かなくなったのをきっかけに乗り換えが続出したらしい。ドラコによると羽ペン通信全国版の出資にはマルフォイ家とブラック家が関わっているらしく、影響力の高さに驚かされた。

 

 紙面の隅には、淡々とした見出しが並んでいた。

 

 日刊予言者新聞、廃刊へ

 

 リータ・スキーター氏、未登録アニメーガスとして魔法省管理下に

 

 雑多な記者の注釈が書かれているホグワーツ版とは違い、注釈には法律に詳しい専門家の意見が書かれている。

 記事によると、リータ・スキーターはコガネムシだった。未登録アニメーガスとしてホグワーツに隠れて生息していたらしい。

 ここまでは魔法書研究会でも掴んだ情報だった。

 羽ペン通信全国版では、リータ・スキーター以外の未登録アニメーガス記者や違法捜査の組織的関与まで念入りに書かれていた。記者が未登録のアニメーガスになるのは業界では有名な手段だったらしく、今回の件で世間に知られることになった。

 さすが本職の記者は視点が違う。

 

 わたしは、かぼちゃジュースを飲みながら、少し考えた。

 

「コガネムシって本を害さない虫なのかな」

 

 ふと疑問を口にすると、隣にいたドラコが、眉間に皺を寄せた。

 

「そこか?」

 

「だって、虫だったら本棚に入り込めるよ。本の間にいたら嫌じゃない?」

 

「嫌ではあるが、心配する順番が違う」

 

 でも、本棚に虫はかなり深刻な問題だと思う。

 

 紙を食べる虫だったら最悪だし、食べない虫でも本の上を歩かれるのは困る。コガネムシが本をどう扱うかはよく知らない。あとで本で調べた方がいいかもしれない。

 

 そう思っていると、頭上からふいに影が落ちた。

 

「ミス・マルフォイ」

 

 顔を上げると、マクゴナガル先生が立っていた。

 

 いつも通り背筋が伸びていて、いつも通り眼鏡の奥の目が厳しい。けれど、怒っているというより、何かを淡々と処理している顔だった。

 

「食事が終わったら、私と一緒に来なさい」

 

「え」

 

 わたしはパンを持ったまま固まった。

 

「わたし、何かしましたか?」

 

「今のところは何も」

 

「今のところ」

 

 その言い方はずるいと思う。

 

 これまでの経験上、先生たちが「今のところ」と言う時は、だいたい過去の何かを思い出している。

 

 ドラコが小声で言った。

 

「心当たりが多すぎるから、余計なことを言うな」

 

「わたし、最近は何もしてないよ」

 

「最近は、だろ……羽ペン通信を作ったのはある意味で何かしたに入ると僕は思うが。まさか全国紙になるとは思わなかった」

 

 全国紙にしたのはわたしじゃない、父だ。

 

 食事を終えると、わたしはマクゴナガル先生について大広間を出た。

 

 廊下は朝の光で明るかった。落ち着かない空気が、城全体に広がっている。トライウィザード・トーナメントの第二の課題が始まる前日だからだ。

 

 金の卵の謎は、代表選手たちがそれぞれ解いているところだ。ハリーは最近チョウとのデートばかりで卵の謎を解いている様子は全くなかったが大丈夫なのだろうか。

 わたしはアーニーの考えた料理対決説を少し推していたけれど、ハーマイオニーに「違うと思うわ」とかなり真顔で否定された。

 

 案内された部屋の前で、マクゴナガル先生が扉を開けた。

 

 中には、すでに三人の女の子がいた。

 

 ハーマイオニー。

 

 チョウ・チャン。

 

 ダフネ・グリーングラス。

 

 ハーマイオニーは真剣な顔をしていた。チョウは少し不安そうで、ダフネはいつもより表情が硬い。

 

「マイン」

 

 ハーマイオニーがこちらを見た。

 

「あなたもなのね」

 

「わたしも、って何が?」

 

 このメンバー全員の共通点。嫌な予感がした。

 とても嫌な予感がした。

 

 マクゴナガル先生は扉を閉めると、わたしたち四人を見回した。

 

「あなた方には、第二の課題に協力してもらいます」

 

 わたしは少し安心した。

 

 協力なら大丈夫だ。本を運ぶとか、記録係をするとか、卵料理の審査員をするとか、そういうことかもしれない。

 マクゴナガル先生は続けた。

 

「第二の課題では、各代表選手にとって大切なものが湖の底に預けられます」

 

 わたしは首を傾げた。

 

「大切なもの?」

 

「厳密には、大切な人です」

 

 部屋の空気が止まった。

 

「あなた方は、課題中、眠りの魔法で保護された状態で湖底に置かれます。夢を見ているだけで危険はありません。水中でも呼吸できるよう、必要な処置を施します」

 

 なるほど。

 

 つまり。

 

「人質ですか?」

 

 わたしが言うと、マクゴナガル先生の眉がぴくりと動いた。

 

「競技上の表現としては、そう呼ばれることもあります」

 

 わたしは横を見た。

 

 ハーマイオニーはすでに納得しているようだった。たぶん、事前に規則や魔法的安全性について確認したのだと思う。チョウは少し頬を赤くしていた。ダフネは、静かにため息をついた。

 このメンバーだとクラムがハーマイオニーで、ハリーがチョウ・チャン、フェルディナンドがダフネか。

 ということは、トムがわたしか。

 トムはフラーと最近疎遠だから友達として仲良くしているわたしが選ばれたのかな。

 

 

「先生」

 

「何ですか、ミス・マルフォイ」

 

「湖の底に本はありますか?」

 

「ありません。寝てください」

 

「じゃあ寝ます」

 

 マクゴナガル先生は、ほんの少しだけ目を閉じた。

 

 ハーマイオニーが隣で小さく言った。

 

「意外と抵抗しないのね?」

 

「寝てるだけなら楽だよ。起きて待ってる方が暇だし」

 

「あなたらしいけれど……」

 

 そのあと、わたしたちは順番に魔法をかけられた。

 

 安全の説明や呼吸の確認、寒さを防ぐ保護呪文をかけること、水中で体が流されないための固定について、マクゴナガル先生は厳しい顔で、でも丁寧に確認していた。

 

「ミス・マルフォイ」

 

「はい」

 

「眠りなさい」

 

 杖が振られた。

 

 視界が、ゆっくり暗くなった。

 

 わたしは夢を見た。

 大きな図書館だった。

 

 天井が見えないほど高い。壁一面に本棚があり、梯子が何本もかかっている。窓からは柔らかい光が差し込んでいて、埃さえ金色に光っていた。

 

 棚には、見たことのない本がぎっしり詰まっていた。

 

 背表紙には読めない文字も、読める文字もある。

 

 魔法薬。

 古代ルーン文字。

 魔法生物。

 時間魔法。

 魂の研究。

 

 禁書っぽい本もある。

 

 すごい。

 ここに住みたい。

 

 わたしは最初の一冊を取った。

 

 革表紙は柔らかく、開くと文字がふわりと浮かび上がった。ページをめくるたびに、挿絵が動く。注釈が勝手に余白へ現れる。参考文献一覧が、さらに別の本棚へ伸びていく。

 

 夢なのに、最高だった。

 夢なら、いくら読んでも疲れない。

 夢なら、時間割も薬も食事も関係ない。

 わたしは椅子に座り、本を読み始めた。

 ずっと読んでいたかった。

 

 なのに。

 

「マイン」

 

 声がした。

 誰かが呼んでいる。

 

 やだ。

 今いいところなのに。

 

「マイン、起きて」

 

 肩を揺すられた気がした。

 わたしは本を抱え込んだ。

 

「あと一章……」

 

「一章じゃ済まないだろう」

 

 その声で、目が覚めた。

 最初に感じたのは、寒さだった。

 

 次に、濡れていること。

 

 それから、周囲のざわめき。

 

 目を開けると、空が見えた。曇った冬の空が広がっている。

 

 そして、目の前にトムがいた。

 

 黒髪が濡れて、いつもより少し顔色が悪く見える。

 いや。

 少しだけ、不機嫌そうだった。

 

「……本が」

 

「本?」

 

「とても素敵な図書館にいたのに」

 

 わたしは毛布に包まれながら、ぼんやり言った。

 

「すごく大きい図書館で、まだ一冊目の途中だった」

 

 トムは一瞬だけ黙った。

 そして、深く息を吐いた。

 

「君は湖の底から引き上げられた直後に、まず夢の図書館を惜しむんだね」

 

「だって、いいところで起こされたんだよ?!」

 

「起こしたのは僕だよ」

 

「なんで起こしたの?」

 

「なんで?」

 

 トムの声が低くなった。

 

「君はね、なぜか眠っている間も常時プロテゴを張っていたんだ」

 

「え?」

 

「正確には君の魔力が、睡眠魔法と湖底の環境を危険だと誤認して、外へ漏れたんだ。結果として、防御呪文に近い膜になっていた。人質として沈められているのに、誰も近づけない」

 

 わたしは毛布の中で瞬きをした。

 

「わたし、そんなことできるの?」

 

「できていた」

 

 トムは、濡れた袖を軽く絞った。

 

「しかも厄介なことに、一定距離以内に入ろうとすると、とりあえず弾く。味方でも弾く。僕も弾かれた。助けに来たのに、助けられない」

 

「それは……」

 

「僕だけ難易度が高かったよ」

 

 かなり不満そうだった。

 

「他の代表選手は人質を見つけて、縄を解くなり、魔法を解くなり、連れて上がるなりすればいい。僕はまず、眠っている君の防御呪文をどう突破するかから始まった」

 

「ごめん」

 

「謝罪の声に、反省が少ない」

 

「だって覚えてないんだもん」

 

「そういうところだよ」

 

 わたしは毛布をぎゅっと握った。

 

 寒い。

 

 湖の水は冷たかった。

 

 夢の図書館に戻りたい。

 

 でも、トムが助けに来てくれたのは分かる。

 

「助けてくれてありがとう」

 

 そう言うと、トムは少しだけ目を細めた。

 

「どういたしまして」

 

 それから、少し間を置いて言った。

 

「次に人質になる時は、防御呪文を切っておいて」

 

「次があるの?」

 

「ない方がいいね」

 

 岸辺は騒がしかった。

 

 ハーマイオニーは毛布に包まれて、クラムのそばにいた。クラムはかなり濡れていて、息も荒かったけれど、顔つきがいつもと違った。普段は寡黙で、少し近寄りがたい雰囲気があるのに、今ははっきりと焦りと安堵が混じっていた。

 

 ハーマイオニーがさらわれてしまったと気づいた瞬間、クラムは覚醒したらしい。

 

 あとで聞いた話では、途中までフェルディナンド先輩が先行していたのに、クラムがものすごい勢いで追い上げ、最後には抜いたそうだ。

 

 フェルディナンド先輩は二位だった。

 

 ダフネは彼の近くで毛布に包まれていた。二人とも大きく騒ぐ感じではないけれど、ダフネの表情は少し柔らかかった。フェルディナンド先輩はいつも通り落ち着いていたけれど、濡れた髪を後ろへ払う仕草が少しだけ疲れて見えた。

 

 ハリーは三位。

 

 チョウを助けて上がってきた時、周囲からかなり大きな歓声が上がった。ハリーは寒さで震えていたけれど、チョウに毛布が渡されたのを確認してから、自分もようやく座り込んだ。

 トムの話ではハリーはわたしも助けようと考えたらしいが、あまりに鉄壁な防御呪文で守られていたので諦めたらしい。

 

 そして、トムは四位。

 

 順位だけ見るとかなり落ちたように見える。

 でも本人は、そこまで気にしていなさそうだった。

 少なくとも、わたしにはそう見えた。

 

「四位でいいの?」

 

「よくはないけど、今回は条件が悪すぎた」

 

 トムはあっさり言った。

 

「僕の人質だけ、本人が防衛設備みたいになっていたからね」

 

「……防御設備」

 

 ひどい言い方だった。

 

「書庫の入口に置いたら優秀かもしれないね」

 

 トムが冗談交じりに言う。

 

「本を守れる?」

「侵入者は弾けるだろうね。問題は、司書も弾くことだ」

「だめじゃん」

 

 トムは少し笑った。

 その笑い方が、どこか楽しそうだったので、わたしは少し安心した。

 そこへ、ものすごい勢いでロメルダが走ってきた。

 手には羽ペンと羊皮紙。目がきらきらしている。

 

「これ、見出しに使える!」

 

 第一声がそれだった。

 

 パドマがいたらたぶん止めていたと思う。けれど、今いるのは濡れた代表選手と、濡れた人質と、寒さで少し判断力の落ちた観客たちだった。

 

「何を?」

 

 わたしが聞くと、ロメルダは羊皮紙に勢いよく何かを書いた。

 

「眠れるブクマ姫、湖底で常時防御!」

 

「姫ではないでしょ」

 

 トムが即座に言った。

 

「じゃあ、救出難度最高値 トム様、人質の防御呪文に阻まれる、は?!」

 

「それは事実だけど、腹立たしいね」

 

「あと、ヴィク様覚醒、愛の湖底ダッシュ!」

 

 少し離れたところで、ハーマイオニーが真っ赤になった。

 

「ロメルダ!」

 

「だって見出し強いじゃん! ハーみょんさらわれた瞬間ヴィク様覚醒って、読まれるよ!」

 

「さらわれたって言い方をやめて!」

 

「人質だし」

 

「競技上の表現よ!」

 

 ハーマイオニーが毛布に包まれたまま抗議している。

 

 クラムは何を言われているのか全部は分かっていなさそうだったけれど、ハーマイオニーが怒っていることだけは分かったらしく、少し困った顔をしていた。

 

 ロンがいたら、きっと複雑な顔をしていたと思う。

 

 ロメルダはさらに書き続けた。

 

「フェル先二位も強いなー。グリグラ姉救出、冷静すぎて逆に絵になるし。ハリポはチョウ先輩助けて三位でしょ? こっちは普通に青春。トム様は……うーん、ブクマちゃんの防御呪文で四位。これはこれでおいしい」

 

「おいしくないよ」

 

「いや、おいしいよ。だってトム様が順位落とした理由が、敵じゃなくて人質本人のせいなの、あたまおかしいもん」

 

 それは否定できない。

 

 でも、わたしのせいで順位が落ちたと言われると、少し申し訳ない。

 

 トムを見ると、彼は肩をすくめた。

 

「気にしなくていい」

 

「でも、四位」

 

「順位より、君を湖底に置いた主催者の判断の方が気になる」

 

「そこ?」

 

「そこだよ」

 

 トムは穏やかに言った。

 

 穏やかだけれど、目があまり穏やかではなかった。

 

「眠っている君が防御呪文を張っていたのは、ある意味では正しい。君の魔力が、無意識に危険を感じて反応した可能性がある」

 

「でも、先生たちは安全って言ってたよ」

 

「安全な課題なら、人質という形式にはしない」

 

 それは、少しだけ怖い言い方だった。

 

 わたしが黙ると、トムはすぐに口調を変えた。

 

「まあ、結果的に助けられたからいい。次からは、眠る前にもう少し制御を意識しよう」

 

「寝る前まで訓練?」

 

「君の場合、寝ている間も問題を起こすと判明したからね」

 

 反論できなかった。

 

 その後、先生たちが温かい飲み物を配ってくれた。

 

 わたしは両手でカップを持ち、少しずつ飲んだ。甘くて温かい。体の中に熱が戻ってくる感じがした。

 

 ハーマイオニーはまだロメルダに見出しの修正を求めていた。

 

「“愛の湖底ダッシュ”は絶対にだめ」

 

「じゃあ“友情と信頼の湖底突破”?」

 

「それならまだ……」

 

「弱いなー、パド姉にOKもらってくる!」

 

「弱くていいの!」

 

 チョウはハリーにお礼を言っていた。ハリーは耳まで赤くなっていて、濡れているせいなのか照れているせいなのか分からなかった。

 

 クラムはハーマイオニーのそばを離れなかった。

 

 その時、マクゴナガル先生がこちらへ来た。

 

「ミス・マルフォイ、体調は?」

 

「大丈夫です」

 

「本当に?」

 

 疑われている。

 

 とても疑われている。

 

「少し寒いです」

 

「当然です。今日は早めに医務室で診察を受け、その後は寮で休みなさい。風邪を引かないように」

 

「はい」

 

「ミスター・ジェドゥソールもです」

 

 トムが少し意外そうに顔を上げた。

 

「僕も?」

 

「あなたも湖に入っています。代表選手だからといって、風邪を引かないわけではありません」

 

 わたしは毛布に包まれたまま、湖を見た。

 

 冷たい水面は、何事もなかったみたいに静かだった。

 

 第二の課題は終わった。

 

 最終順位ではフェルディナンドが一位。

 クラムが二位。

 ハリーが三位。

 トムが四位。

 

 トムは順位を落とした。

 

 理由は、わたしが眠りながら常時プロテゴを張っていたから。

 

 なんだか申し訳ない。

 

 でも、少しだけ思う。

 

 夢の中の大きな図書館で、あの本の続きを読めなかったことも、やっぱりかなり惜しい。

 

 そう言ったら、トムにまた呆れられる気がしたので、黙っておいた。

 

 けれど、トムはこちらを見て言った。

 

「まだ夢の図書館のことを考えているね」

 

「……考えてない」

 

「嘘が下手だ」

 

「一冊目の途中だったんだよ」

 

「帰ったら本を読めばいい」

 

「湖底図書館じゃない」

 

「湖底に図書館を作ろうとしないで」

 

 先に止められた。

 

 わたしは少しだけ口を尖らせた。

 

 冷たい風が吹いて、濡れた髪が頬に張りつく。

 

 トムが毛布の端を引き上げた。

 

「風邪を引くよ」

 

「トムもね」

 

「僕は君ほど虚弱じゃない」

 

「でも寒いでしょ」

 

「寒いね」

 

 トムはそう言って、少しだけ笑った。

 

 湖のほとりでは、まだ歓声が続いている。

 

 ロメルダの羽ペンが走る音が聞こえる。

 

 ハーマイオニーの抗議の声も、ハリーの困った声も、クラムの低い返事も、遠くで混ざっていた。

 

 わたしはカップを両手で持ち直した。

 

 温かい。

 

 今度は、起きたまま本を読みたい。

 できれば、湖底ではなく、暖炉の前で。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 羽ペン通信 ホグワーツ

 

 第二の課題後、代表選手に聞く

 

 トライウィザード・トーナメント第二の課題が湖で実施され、代表選手四人が湖底に沈められた「大切な人」の救出に挑んだ。金の卵に隠された手がかりをどう解き、水中での行動手段をどう確保したのか。課題後、羽ペン通信は代表選手四人に一問一答形式で話を聞いた。

 

 

 湖底を歩いた黒の後継者

 卵の最速解読、ただし速度ではクラムに譲る

 

 フェルディナンド・ブラック(ホグワーツ)

 

 ──卵の謎はどう解きましたか。

 

「卵を開いた時点で、マーミッシュ語だと分かった。水中で聞くことを前提にした発声が、空気中で歪んでいた。以前、当主だった際に必要になる可能性を考えて少し学んだことがある。したがって、謎そのものより確認作業の方に時間を使った」

 

 パドマ注:マーミッシュ語の既習により、最速で解読。代表選手の中では知識量による突破がもっとも明確だった。

 

 ──水中での呼吸法は? 

 

「湖底探索用の外套を使った。内側にルーンが縫い込まれていて、頭部と胸部の周囲に薄い空気層を作る。体温維持の術式も組み込まれているため、泡頭呪文単体より安定する。泳ぐより、湖底を歩いた方が確実だと判断したが、部分変身で推進力を得たクラムに遅れを取った」

 

 ルーナ注:湖底を歩く人は、湖に急かされにくいんだって。でも競技では、急かされた人の方が少し早かったみたいだね。

 

 ──あなたの大切な人について語ってください。

 

「ダフネ・グリーングラスは、冷静で賢明な人物だ。ブラック家の名に近づきすぎる者も、遠ざかりすぎる者も多い中で、彼女は距離を誤らない。必要な時に必要なことを言い、黙るべき時に黙っていられる。それは得がたい資質だ」

 

 アストリア注:姉は距離の取り方を褒められるとたぶん悪い気はしません。むしろ、近づきすぎない人ほど面白がるところがあります。

 

 

 救出難度最高値 トム様、人質の防御呪文に阻まれる

 眠れるブクマ姫、湖底で無意識プロテゴ

 

 トム・ジェドゥソール(ボーバトン)

 

 ──卵の謎はどう解きましたか。

 

「マーミッシュ語そのものは知らなかった。ただ、空気中で聞いた時の母音の崩れ方に規則性があった。完全な雑音ではなく、環境が合わないために歪んでいる言語だと分かった。水中で音が復元される類いだろうと考え、試したらその通りだった」

 

 ローゼマイン注:知らない言語でも、崩れ方で分かることがあるらしい。わたしが本が傷んでいる時、だいたいどこから壊れたか分かるのとたぶん似ている。

 

 ──水中での呼吸法は? 

 

「一時的に呼吸器を変えた。喉と肺を水中に適応させる程度の変身術だ。外部の泡に頼るより、自分の体を環境に合わせた方が安定する場合もある。もちろん、失敗すれば危険だから、誰にでも勧める方法ではない」

 

 ハーマイオニー注:呼吸器の一時的変化は高度な変身術であり、失敗時の危険性が高い。簡単そうに言っているが、絶対に簡単ではない。到着時間が最も早く、人質が防御呪文に守られているハプニングが無ければ1位通過の可能性もあった。

 

 ──あなたの大切な人について語ってください。

 

「ローゼマイン・マルフォイは、本の貸し借りをする友人だ。本を貸すというのは、自分の棚の一部を相手に預けることに近い。ところで、まだ彼女に貸した本を返してもらってないけど、とても気に入ったのかな」

 

 ロメルダ注:トム様の“本の貸し借りをする友人”、友情の温度じゃない。恋人には冷たすぎるし、ただの友達にしとくにはもったいない。ブクマちゃん、返却期限だけは守って! 

 

 ヴィク様覚醒、愛の湖底ダッシュ! 

 サメの推進力で最速救出、支えたのは二週間の文献調査

 

 ヴィクトール・クラム(ダームストラング)

 

 ──卵の謎はどう解きましたか。

 

「二週間ほど調べた。ハーマイオニーが手伝ってくれた。音の変化、水中、湖、言語について本を探した。いくつか可能性を絞って、最後にマーミッシュ語だと分かった。彼女がいなければ、もっと時間がかかったはずだ」

 

 アーニー注:二週間の文献調査で到達した点は非常に堅実だ。なお僕は一時、金の卵を調理する課題だと考えていたがどうやら間違いだったらしい。

 

 ──水中での呼吸法は? 

 

「変身術で頭だけサメに変身した。完全な変身ではない。呼吸と推進に必要な部分だけを変えた。見た目は怖かったかもしれないが、実用的だった」

 

 パドマ注:サメへの部分変身は、呼吸と推進力を同時に確保する実戦的な方法。速度面では、湖底を歩いたフェルディナンド選手より優位だった。

 

 ──あなたの大切な人について語ってください。

 

「ハーマイオニーは賢い。ただ本を読むだけではない。間違っていることには怒って、相手が誰でも、必要なら言う。僕にとって最も大切な人だ。だから、湖の底にいるべき人ではない」

 

 ロメルダ注:ヴィク様、語彙少ないのに火力だけ高すぎ。“大切な人”を真正面から言うのズルい。ハーみょん赤くなって怒ってたけど、赤くなった時点でヴィク様の勝ち。

 

 

 前日解決のギリギリ勇者、湖底へ

 チョウに怒られ、鰓昆布で挑んだ一時間

 

 ハリー・ポッター(第四の学校)

 

 ──卵の謎はどう解きましたか。

 

「前日まで全然分からなかった。開けると叫び声にしか聞こえなくて、何度聞いても叫び声だった。最後はロンやアーニーと一緒にフライパンで焼いたり、蒸したり、茹でたり、水に沈めたりして試した。水に入れた時に、やっと歌が聞こえたんだ……早くやっておけば良かった」

 

 ロン注:前日にまだ分かってないって聞いた時は、正直こいつ終わったと思ったよ。でもハリーって、終わったと思った時ほど変な方向に強いんだよな。

 

 

 ──水中での呼吸法は? 

 

「鰓昆布を使った。魔法書研究会で候補が出て、ルーナが名前を出して、皆で薬草図鑑で確認した。でも入手先がなくて、最後はドラコがスネイプに交渉してくれた。スネイプはものすごく嫌そうだったけど、用量と効果時間を確認して、試合後に医務室へ行くように言われた。味は最悪だったけど、毒は入ってなかったし効いた。つまり、スネイプは今のところ僕をまだ生かしておくつもりらしい」

 

 ドラコ注:鰓昆布は用量と効果時間の管理が必須。今回はスネイプ先生が正式に量を切り、医務室での事後確認を条件にした。誤解のないように言っておくが、ホグワーツ代表が湖で溺れるという学校の体面に関わる事故を未然に防いだだけだ。

 

 ハリー追記:それでも助かったよ。ありがとう、ドラコ。

 

 編集部補足:ドラコ・マルフォイ氏より「この追記は削除すべきだ」との申し入れがありましたが、編集部では公益性が高いと判断し、削除しませんでした。

 

 

 ──あなたの大切な人について語ってください。

 

「チョウは、優しくて、クィディッチのこともちゃんと見ていて、話していると落ち着く人だと思う。湖の底にいるって分かった時は、ただ、助けなきゃって思った。置いていけるわけなかった」

 

 ロメルダ注:これをチョウ先輩本人に言えたら満点。でもハリポ、たぶん目ぇ泳がせて「いや、その、別に」とか言いそうで惜しい! 

 

 

 写真:第二の課題後、黒い湖の岸辺に並べられた代表選手たちの使用品。左から鰓昆布(スネイプ先生提出の見本)、湖底探索用外套、変身術で濡れた手袋、破れたローブ。中央は金の卵=コリン・クリービー撮影

 

 写真部注:湖から上がった直後の写真は、全員から掲載拒否されました。協議の結果、本人写真の代わりに、金の卵と各選手の使用品を撮影しました。

 

 

 *

 

 

 運営側インタビュー

 ルード・バグマン氏、バーティ・クラウチ氏に聞く

 

 代表選手への取材後、羽ペン通信編集部は運営側にも話を聞いた。

 応じたのは、ルード・バグマン氏とバーティ・クラウチ氏。

 バグマン氏は終始にこやかだった。

 クラウチ氏は終始真顔だった。

 

 

 ──代表選手の“大切な人”は、どう選定したのですか。

 

「いやあ、実に感動的な課題だったね! 友情、信頼、淡い恋、若者たちの絆を考えて選んだんだよ」(バグマン氏)

「選定には、代表選手との関係性を確認するための補助呪文と、各校から提出された交友関係の情報を用いた。加えて、ユールボールでの同伴者情報も参考にしています。代表選手にとって精神的に重要であり、なおかつ救出対象として課題の趣旨に合致する人物を選ぶ必要があったためだ」(クラウチ氏)

 

 パドマ注:ユールボールのパートナー情報を参考にしたという回答は重要。人質選定が、本人確認より外形的な関係性に依存していた可能性がある。

 

 ──トム・ジェドゥソール選手の人質がフラー・デラクール嬢ではなく、ローゼマイン・マルフォイ嬢だった理由は? 

 

「ジェドゥソール選手とデラクール嬢については、第二の課題前に関係が不安定になっているという報告があった」(クラウチ氏)

「いやあ、若者の関係は難しいからね! あの二人は喧嘩したって噂になってたしね!」(バグマン氏)

「もちろん噂のみを根拠にしたわけではない。日常的な接触、魔法書研究会での交流、図書室での目撃情報などを総合し、マルフォイ嬢がジェドゥソール選手にとって重要な人物であると判断した」(クラウチ氏)

「つまり、実に効果的な選定だったというわけだ!」(バグマン氏)

 

 ロメルダ注:運営、もしかして廊下の恋バナで人質決めてる? 

 アストリア注:社交上の噂を根拠に関係性を判断するのは危険です。喧嘩している相手ほど、簡単には切れない場合もあります。

 

 

 ──未成年を眠らせて湖底に沈める運営倫理について、問題はないと考えていますか。

 

「安全は確保されていた。保護呪文、監視体制、救助手順、医療待機、いずれも規定に従って準備されていた」

「ただし、今回の課題において、想定外の事象があったことは認める。ローゼマイン・マルフォイ嬢が睡眠状態で無意識に防御呪文を発動し、救助者の接近を妨げた件だ。通常の人質役には想定しにくい反応だった」(クラウチ氏)

「いや、本当に驚いたよ! 眠りながら守るとは、なかなかやるね!」(バグマン氏)

「通常想定できない事象であったとしても、今後の検証対象にはなる。人質役の魔力特性、無意識下での魔法反応、救助妨害が発生した場合の解除手順。この三点については、記録に残し、改善案として提出する」(クラウチ氏)

 

 ハーマイオニー注:全員が無事だったことは、手続きが適切だったことの証明にはならない。マインの無意識プロテゴを事前に想定するのは難しかったとしても、だからこそ人質役の魔力特性確認、例外発生時の救助手順、保護者説明、事前同意の確認が必要。

 

 ロメルダ注:クラっち(バーティ・クラウチ氏)が真面目に答えてる横で、バグぴだけずっと実況席のテンションだった。運営、温度差エグい。

 

 編集部補足:バーティ・クラウチ氏より「クラっちという表記は不適切」との申し入れがありましたが、ロメルダ・ベイン記者が「紙面上の親しみやすさは大事」と主張したため、初出のみ氏名を併記して掲載しました。

 

 

 次号予告

 

 未成年を湖に沈める運営倫理──伝統は免罪符になるのか

 

 第二の課題で人質役となった生徒たちは、どのような手続きで選ばれ、どこまで説明を受けていたのか。

 安全だったから問題ないのか。

 それとも、無事だったことは偶然に近い結果なのか。

 寄稿予定:ハーマイオニー・グレンジャー。

 編集部確認時点で羊皮紙十二枚。

 なお、まだ増えている。

 

 ロメルダ注:ハーみょん、怒りで筆が止まらないタイプ。次号、紙面の厚みが増えるかも?

 

 パドマ注:編集でしっかり削ります。

 

 





軽率に羽ペン通信引用しがち問題。注釈文化結構好きです。

注釈は小説上では本文の下に書いてますが、実際の紙面では矢印で該当部を示す、ハートで囲むなど自由度が高いです。レイブンクロー寮談話室に置かれている羽ペン通信では色々な解釈を持つ生徒が多いせいか読者追加の注釈が大量発生しています。名前も書いたり書かなかったり。もちろん、批判や悪口は勝手に消える安心安全仕様になっています。

読者注釈の例↓

湖底探索用外套に書かれた注釈
無記名注:湖底探索用外套は安全性に優れるが、競技向きではなく調査向きの装備。フェルディナンド・ブラックが真っ先に思いつくのも分かる。

運営インタビューに書かれた注釈
チョウ・チャン注:人質役になった側としては、説明は丁寧でした。ただし、「あなたは湖底に沈められます」と言われて落ち着ける人は多くないと思います。

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