本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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バーティ・クラウチ・ジュニア視点番外編です。



番外編 バーティ・クラウチ・ジュニアの災難①

 

 バーティ・クラウチ・ジュニアは、自分を有能な男だと思っている。

 

 実際、有能だった。

 

 十数年を父の支配下で生き延び、闇の帝王への忠誠を失わず、機を見て脱出し、今ではホグワーツの中で堂々と暗躍している。

 

 変装も完璧だ。

 

 ポリジュース薬の管理も完璧。

 

 任務遂行能力も完璧。

 

 唯一の誤算は、ポリジュース薬で化けたルード・バグマンという男の人生が、想像以上に汚かったことだった。

 

「バグマンさんよぉ」

 

 その日、バーティはバグマンの姿でホグワーツの廊下を歩いていた。

 

 大きな体。派手な声。何も考えていなさそうな笑顔。実に腹立たしい顔である。

 

 だが、クィディッチ関係者としてハリー・ポッターに近づくには都合がいい。

 

 都合がいい、はずだった。

 

 曲がり角を曲がった瞬間、ゴブリンが三人立っていた。

 

 小柄な体。尖った耳。鋭すぎる目。

 そして、帳簿。

 

 帳簿を持っているゴブリンは、死喰い人より怖い。

 

「いやあ、これはこれは」

 

 バーティはバグマンらしく笑った。

 

「忙しいもんでね、また今度──」

 

「うちは十日五割だ」

 

 ゴブリンが言った。

 

 バーティの笑顔が固まった。

 

「……何?」

 

「十日五割。返済期限は先週。遅延利息は別計算」

 

 別計算。

 

 なんだ、その地獄みたいな単語は。

 

「待て。いや、待ってくれ。私は今、とても大事な仕事の途中で」

 

「金を返せ」

 

「話を聞け」

 

「金を返せ」

 

「だから──」

 

「逃げられると思ってんの?」

 

 闇の帝王の復活計画より、会話の余地がない。

 

 バーティは一瞬だけ、本気で杖を抜こうかと思った。

 

 だが、ここはホグワーツである。廊下でゴブリン三人を呪い飛ばせば、いくらバグマンの姿でも目立つ。

 

 いや、バグマンならやりかねないと思われる可能性もある。

 

 それはそれで嫌だった。

 

「今は手持ちがない」

 

「では担保を」

 

「担保?」

 

「肝臓」

 

「合法か?」

 

「契約書には書いてある」

 

 バーティは初めて、ルード・バグマンという男に対して、殺意ではなく純粋な軽蔑を覚えた。

 

 なぜ肝臓を担保にする。

 

 しかもたぶん、本人は本当に読まずにサインしている。

 

 ようやくゴブリンをまいたと思ったら、今度は赤毛の双子が現れた。

 

「やあ、バグマンさん」

 

「僕たちのこと、覚えてますよね?」

 

 フレッドとジョージ・ウィーズリー。

 

 バーティは心の中で舌打ちした。

 

 ウィーズリー家はどいつもこいつも面倒だ。特に双子は、目が笑っている時ほど危険である。

 

「もちろんだとも! 元気そうだな、少年たち」

 

「ええ、とても」

 

「でも財布は元気じゃないんです」

 

「あなたのせいで」

 

 バーティは何も知らない。

 

 知らないが、すぐに状況は分かった。

 

 また金だ。

 

 この男、どれだけ借りている。

 

「賭けの払い戻しをお願いします」

 

「ちゃんと本物の金貨で」

 

「レプラコーン金貨じゃなくて」

 

 バーティは笑顔を保った。

 

 なぜ自分は、闇の帝王のために命を懸けている最中に、未成年から賭博の返済を迫られているのだろう。

 

「今度まとめて払おう」

 

「その“今度”って、いつです?」

 

「今日?」

 

「明日?」

 

「死後?」

 

「死後は困るね、ジョージ」

 

「そうだね、フレッド。死後の債権回収は手間がかかる」

 

 殺すぞ。

 

 心の底から思った。

 

 だが殺せない。

 

 なぜなら、バグマンに化けているからだ。

 

 バグマンという男は、闇金と双子に借金を取り立てられても、たぶん笑ってごまかす。

 

 それがいちばん腹立たしい。

 

「忙しいんだ。後で」

 

「逃げた」

 

「完全に逃げた」

 

「メモしておこう」

 

「利子もつけよう」

 

 背後から聞こえる双子の声に、バーティは歯を食いしばった。

 

 屈辱だ。

 

 死喰い人として、あまりにも屈辱だ。

 

 それに比べて、ハリー・ポッターはどうだ。

 

 あの少年は、最近妙にいい気なものだった。

 

 意中の相手であるチョウ・チャンとのユールボール。

 第二の課題では、ぎりぎりまで卵の謎を解けず、最後の最後に友人たちに助けられた。

 ドラコ・マルフォイに鰓昆布の件で手を貸され、羽ペン通信の注釈でコメントし合う。

 

 恋愛。

 友情。

 課題。

 青春。

 

 ふざけるな。

 

 こちらは闇金と双子に追われているのに。

 

 バーティは決めた。

 

 もう面倒だ。

 

 ハリー・ポッターをさっさと連れて行ってしまおう。

 

 方法は簡単である。

 

 バグマンの姿で近づき、こう言えばいい。

 

「ハリー、少しいいかね。君にクィディッチ選手としての将来について話がある」

 

 ハリー・ポッターは、クィディッチに弱い。

 

 空を飛ぶことと友人と命の危機には、だいたい反応する。

 ならば、代表選手の今後、国際試合、スカウト、そういう言葉を並べればいい。

 

 どこか人目のない場所へ連れて行き、あとは眠らせる。

 

 完璧だ。

 

 今度こそ完璧だった。

 

 バーティは第三の課題の説明後にハリーに近づいた。

 バーティは陽気に手を振った。

 

「ハリー、少しいいかい?」

 

「はい?」

 

「いやあ、君の箒さばきのことを思い出してね。第一の課題の時も見事だった。あの時の旋回は、シーカーらしい判断だったよ」

 

 ハリー・ポッターは警戒が薄れたのか、少しはにかんだ。

 

「ありがとうございます」

「君はプロになろうと考えたことはあるかい?」

「プロ?」

「もちろん、今すぐという話じゃない。だが、君には反応の速さがある。国際試合でも通用するかもしれない」

 

 ポッターは胡散臭いものを見るような顔だ。バグマンの信用のなさが裏目に出たか。

 

「今は、第三の課題で精一杯です」

 

「それもそうだ!」

 

 ハリーが振り返った。

 

「だが、若者は未来を考えるべきだよ。優勝杯の先にも人生はある。私なら紹介できる」

 

 そこで。

 

 バーティは見てしまった。

 

 森の端。

 

 ふらふらと歩いてくる、痩せた男。

 

 乱れた髪。落ちくぼんだ目。正気と狂気の間で揺れる足取り。

 

 バーティ・クラウチ・シニア。

 

 父だった。

 

 心臓が止まるかと思った。

 

 いや、止まった方がましだった。

 

 なぜここにいる。

 

 なぜ今来る。

 

 なぜハリー・ポッター拉致計画の開始三十秒前に、父親がホグワーツに来る。

 

 バーティは、人生で初めて父に対して思った。

 今だけは職務熱心になるな。

 

「……会議……遅れる……議事録……息子……いや、仕事を……命令は……規則……規則が……」

 

 まずい、服従の呪文の副作用が出ている。

 仕事をしないといけないという思いから色んな言葉が飛び出ているようだった。

 穏便に引き剥がすか。

 

「クラウチさん、しっかりしてください」

 

 バーティは父に肩を貸そうとしたが、父は震えてそれを振り払った。

 

「触るな! 私は……私は命令を……いや、ダンブルドア……ダンブルドアは……稟議を……いや違う、時間が……」

 

 その時、父の目に急に正気が戻ってきた。

 

「ダンブルドア」

 

 父は言った。

 

「ダンブルドアのところに連れて行ってくれ」

「何があったんですか?」

 

 ポッターが聞くと、クラウチの目が揺れた。

 

「時間がない。彼に……彼に伝えなければ……」

「誰に?」

「ダンブルドアだ!」

 

 この状況でダンブルドアのところに行けだって? 

 それは危ない。バーティがミンチよりひどいことになって死ぬ。

 

「連れて行け。今すぐ。私は……私は、長くは……」

 

 バーティは慌てて言った。

 

「ハリー、君がダンブルドアを連れてきた方が早いかもしれない。私はここでクラウチさんを見ている」

「でも──」

「急いでくれ。彼をこの状態で城まで連れて行くのは難しい」

 

 ポッターが怪訝そうに見た。迷っているようだった。

 バーティは一瞬で安心させるように笑顔を作った。

 

「分かりました」

 

「急いで」

 

 ハリーは走り出した。

 

 よし。

 

 これで少し時間ができた。

 

 バーティは父へ近づいた。

 

「父上」

 

 小さく呼ぶと、父の目が揺れた。

 

「お前……」

 

「黙れ」

 

 低く囁く。

 

 しかし、ここで呪文を使えば痕跡が残るかもしれない。ハリーはダンブルドアを呼びに行った。時間がない。

 

「ウィンキー」

 

 次の瞬間、空気が裂けるように歪んだ。

 

「坊ちゃま!」

 

 ウィンキーが現れた。

 

 大きな目に涙をいっぱい浮かべ、ぼろぼろの布をまとった小さな体で、ウィンキーは震えていた。

 

「ウィンキー、手伝え」

 

「クラウチ様が、クラウチ様が……!」

 

「泣くな。運べ」

 

「でも、でも!」

 

「今すぐだ。ダンブルドアが来る」

 

 その一言で、ウィンキーは震えながらも父の腕をつかんだ。

 

 ハウスエルフは便利だ。

 

 魔法使いの制限を、するりと抜ける。

 父とウィンキーの姿が消える直前、バーティは森の方を振り返った。

 

 ポッターはまだ戻ってこない。

 

 間に合った。

 

 ひとまずは。

 

 数時間後、バーティは闇の帝王の前に跪いていた。場所はマルフォイ家の屋敷だった。

 

 報告は、非常に不本意な内容になった。

 

「つまり」

 

 闇の帝王は、冷たい声で言った。

 

「ハリー・ポッターにクラウチが助けを求めたから慌てて逃げたと」

 

「はい、我が君」

 

「さらに」

 

「はい」

 

「バグマンに化けた結果、ゴブリンとウィーズリーの双子に借金を取り立てられたと」

 

「……はい」

 

 長い沈黙が場を支配した。

 

 蛇が床を這う音だけが聞こえた。

 

 バーティは額を床に近づけたまま、死を覚悟した。

 

 すると、闇の帝王が言った。

 

「バグマンは何をしているのだ。一体どれだけ借金している」

 

 それは怒りではなく、純粋な困惑に近かった。

 バーティも同じ気持ちだった。

 

「私にも分かりません」

 

 正直に答えるしかなかった。

 

 しかし、収穫がなかったわけではない。

 

 バーティは顔を上げた。

 

「ですが、我が君。一つ、有用なことが分かりました」

 

「言え」

 

「ハウスエルフです」

 

 闇の帝王の目が細くなる。

 

「ホグワーツでは、魔法使いの姿くらましは制限されています。ですが、ハウスエルフは別です。ウィンキーは校内で移動できました」

 

「ほう」

 

「私はウィンキーを個人的に雇い直しています。父の管理にも、物資の移動にも、緊急時の撤収にも使えます」

 

 闇の帝王はしばらく黙っていた。

 そして、わずかに笑った。

 

「悪くない。何かの際に緊急脱出手段にしよう」

 

 バーティの胸に、熱が戻った。

 

「ありがたきお言葉」

 

 バーティは、もう一つ報告しなければならなかった。

 正直に言えば、これが一番言いたくなかった。

 

「我が君」

 

「まだあるのか」

 

 闇の帝王の声が冷たい。

 

 床を這う蛇が、こちらを見ている気がした。蛇にまで見下されている。屈辱である。

 

「バグマンの姿ですが……今後、使用には支障が出る可能性があります」

 

「支障?」

 

「父と一緒にいるところをポッターに見られました。バグマンはもう使えません。バグマン以外の姿を用意する必要が生じました」

 

 闇の帝王は、しばらく考えるように沈黙した。

 そして、実に簡単そうに言った。

 

「ドラコ・マルフォイにしろ」

 

 バーティは顔を上げた。

 

「ドラコ・マルフォイ、ですか」

 

「ハリー・ポッターの周囲に近づける。スリザリンにも出入りできる。ローゼマイン・マルフォイにも近い」

 

 理屈は分かる。

 

 分かるが、嫌だった。

 

 あの金髪の少年は、最近妙に警戒心が強い。しかも、妹が絡むと視野が狭くなる。姿を借りるには便利だが、露見した時の面倒さが目に見えている。

 

 しかも何より、マルフォイ家の息子だ。

 バーティは最近妙に闇の帝王に気に入られているルシウスが気に食わなかった。

 

「髪の毛の入手が」

 

「マルフォイ家なら、ドラコ・マルフォイの髪の毛くらいあるだろう」

 

 闇の帝王は、何でもないことのように言った。

 

 たしかにあるだろう。

 

 櫛。枕。ローブ。洗面台。

 マルフォイ家の屋敷なら、ドラコ・マルフォイの髪の毛など、探せばいくらでも出てくる。

 

 問題は、ルシウス・マルフォイの屋敷で、息子の髪の毛を回収するという作業が、忠誠心の試練としてはあまりにも地味なことだった。

 

「承知しました」

 

「ついでに」

 

 ついでに。

 

 闇の帝王の「ついでに」は、だいたいついでではない。

 

「ローゼマイン・マルフォイが持っている日記を入手してこい。迷路の仕掛けに使う」

 

 バーティは、ほんの一瞬だけ動きを止めた。

 

「日記、ですか」

 

「そうだ」

 

「その日記である必要が?」

 

 口にしてから、しまったと思った。

 

 闇の帝王の赤い目が、細くなる。

 

「お前が知る必要はない」

 

 背筋が冷えた。

 

「失礼しました、我が君」

 

「ローゼマインは、その日記を常に持ち歩いている。本人から奪うのが難しければ、眠らせて奪え。ドラコの姿なら警戒は薄いはずだ」

 

 バーティは、頭を下げた。

 

「仰せのままに」

 

 つまり、次の任務はこうである。

 

 ルシウス・マルフォイの屋敷からドラコ・マルフォイの髪の毛を入手する。

 ポリジュース薬でドラコに化ける。

 ローゼマイン・マルフォイに近づく。

 睡眠薬を飲ませる。

 日記を奪い、迷路に置いておく。

 

 任務が多い。

 

 多すぎる。

 

 バーティは有能な男だった。

 

 だが、有能な男にも限度はある。

 

「バーティ」

 

 闇の帝王が呼んだ。

 

「はい、我が君」

 

「失敗するな」

 

「必ず」

 

 バーティは深く頭を下げた。

 

 

 

 *

 

 

 迷路の仕込みは、ほぼ完璧だった。

 

 バーティ・クラウチ・ジュニアは、父の姿に化けて迷路の外へ戻った。

 

 黒い日記は、予定通り迷路の奥に置いてきた。

 

 闇の帝王が仕掛けを施した日記。触れた者を、秘密の部屋へ移動させるための罠。

 

 ヴィクトール・クラムは服従の呪文で操ってある。余計なところで日記に触られては困るので、ハリー・ポッターを追い立てる役に回した。クラムに日記を触らせると計画が力技で崩れる可能性がある。

 

 だから、クラムは誘導役。ハリー・ポッターが殺人を犯せばいいので、バーティも一応ポッターにクラムを殺させようと服従の呪文をかけたが、すぐにフェルディナンドが来てしまった。

 だが、目的は果たされた。

 ハリー・ポッターを、いい具合に日記の場所へ向かわせる。

 そこへフェルディナンド・ブラックまで一緒に来た。

 

 これは想定外だったが、悪くない。むしろ手間が省けた。

 

 ハリーとフェルディナンドをまとめて秘密の部屋へ送れるなら、闇の帝王も満足するだろう。

 バーティは、父の顔で廊下を歩きながら、内心で息を吐いた。

 

 今日は、ようやく順調だ。

 

 ルード・バグマンに化ければ、ゴブリンとウィーズリーの双子に借金を取り立てられる。

 ドラコ・マルフォイに化ければ、ローゼマイン・マルフォイに睡眠薬を飲ませ、日記を奪う羽目になる。

 そして今は父に化けている。

 

 任務が多い。

 

 あまりにも多い。

 

 闇の帝王の復活計画は、思っていたより雑務が多かった。

 

 だが、これで終わる。

 

 ハリー・ポッターは迷路の奥へ向かっている。日記に触れる。秘密の部屋へ飛ばされる。フェルディナンド・ブラックも一緒なら、なお都合がいい。

 

 あとは、何食わぬ顔で戻るだけだ。

 

 そう思っていた。

 

「先生、あの人です」

 

 廊下の先から、静かな声がした。

 

 バーティは足を止めた。

 

 セオドール・ノットが立っていた。

 

 その隣に、アルバス・ダンブルドアがいた。

 

 なぜだ。

 

 なぜセオドール・ノットが、ダンブルドアを連れて廊下にいる。

 

 ここは迷路の中ではない。競技場の奥に続く、関係者用の廊下だ。生徒がふらふら歩く場所ではない。

 

 だが、セオドール・ノットはそこにいた。

 

 静かな顔で。

 

 まるで、こちらが通るのを知っていたみたいに。

 

「バーティ」

 

 ダンブルドアが穏やかに言った。

 

「このような場所で、何をしておられるのかね」

 

 バーティは、父の顔で咳払いをした。

 

「大会運営上の確認です。迷路の警備状況を見ておりました」

 

 完璧な答えだった。

 

 完璧なはずだった。

 

 セオドール・ノットが一歩前に出た。

 

「この人に暴力を振るわれました」

 

 バーティは思わずセオドールを見た。

 

 振るっていない。

 

 一切振るっていない。

 

 そもそも今、初めて会話した。

 

「……何を言っている」

 

「腕をつかまれました。迷路に近づくなと脅されました」

 

 大嘘だった。

 

 堂々たる大嘘だった。

 

 しかも、声が落ち着いているせいで、妙に信憑性がある。

 

 ダンブルドアが、半月形の眼鏡の奥からこちらを見た。

 

「ほう」

 

 その「ほう」が怖い。

 

 闇の帝王の怒りとは別の怖さだった。

 

「誤解だ、アルバス」

 

 バーティは冷静に言った。

 

「私はこの生徒に触れていない」

 

 この少年、非常に面倒だ。

 セオドール・ノット。

 お前の父親は死喰い人じゃなかったのかとバーティは言いそうになったが、黙った。

 

 バーティが逃げる隙を探した、その時だった。

 

「何が起きていますか!」

 

「取材してもよろしいですか!」

 

 さらに二人増えた。

 

 パドマ・パチルとアーニー・マクミランだった。

 

 非常に最悪だ。

 

 パドマはすでに羽ペンとメモを構えていた。アーニーはなぜか真剣な顔で腕を組んでいる。彼の手元にもメモがあった。

 

「クラウチさん、関係者用廊下で暴力を振るったとノットが言っていますが、事実ですか?」

 

 パドマが言った。

 

「事実ではない」

 

「では、なぜこちらに?」

 

「警備確認だ」

 

「警備担当者一覧に、クラウチさんの巡回予定はありませんでしたけど」

 

 なぜ把握している。

 新聞好きのレイブンクローは、どうしてこうも余計な資料を持っているのか。

 アーニーが重々しく言った。

 

「分かったぞ」

 

 何も分かるな。

 

「つまり、クラウチさんはクラウチさんではない」

 

 バーティの背中に冷たい汗が流れた。

 だが、まだ大丈夫だ。

 アーニー・マクミランの推理はよく外れることで有名だ。羽ペン通信を読めば分かる。

 

「あなたは、ルード・バグマンですね!」

 

 外れた。

 よかった。

 

「バグマンがクラウチさんに化け、借金取りから逃げるために関係者用廊下へ隠れた。そしてセオドール・ノットに見つかり、口封じをしようとした!」

 

 違う。

 

 全部違う。

 しかし、微妙に今までの災難が混ざっていて腹が立つ。

 パドマが素早くメモを取った。

 

「バグマン借金逃亡説……」

 

「書くな!」

 

 思わず叫んだ。

 

 ダンブルドアの目が細くなる。

 

 まずい。

 

 父なら、こんな反応はしない。

 

 アーニーはさらに勢いづいた。

 

「いや、待て。バグマンにしては背筋が伸びすぎている。ということは、クラウチに化けたバグマンに化けた第三者……女性?」

 

 どんどん遠ざかっている。

 遠ざかっているのに、なぜか危険に近づいている。

 

「まさか」

 

 アーニーは目を見開いた。

 

「リータ・スキーター!」

「なぜそうなる!」

 

 また叫んでしまった。

 

 パドマの羽ペンが走る。

 

「リータ説を即時否定」

 

「当然だ! 私はリータ・スキーターではない!」

 

「では、バグマンさんですか?」

 

「違う!」

 

「クラウチさんですか?」

 

「……そうだ」

 

「少し間がありましたね」

 

 パドマはかなり確信した顔で言った。

 

「バーティ・クラウチ・ジュニアですか?」

「なぜそこで僕になる!」

 

 言った瞬間、終わったと思った。

 

 ダンブルドアの杖が、すでにこちらを向いていた。

 

「動くな」

 

 穏やかな声だった。

 

 だが、その一言で空気が変わった。

 

 逃げなければ。

 

 バーティは杖を抜こうとした。

 

 しかし、それより早く、セオドール・ノットがぽつりと言った。

 

「やっぱり」

 

 やっぱり。

 

 何がやっぱりだ。

 

 貴様、最初から当てる気だったな。

 

 次の瞬間、ダンブルドアの呪文が飛んだ。

 

 バーティの腕が弾かれ、杖が宙を舞った。さらに銀色の縄が蛇のように巻きつき、彼の体を拘束する。

 

 廊下の石床に膝をついた瞬間、ポリジュース薬の効果が切れ始めた。

 

 手が変わる。顔が歪む。父の皮膚が溶けるように消え、自分自身の姿が戻ってくる。

 

 アーニーは真剣な顔でうなずいた。

 

「さすがパドマだ」

「アーニーの推理のおかげよ」

 

 バーティは、縛られたまま呻いた。

 ダンブルドアが静かに言った。

 

「バーティ・クラウチ・ジュニア。話を聞かせてもらおう」

 

 バーティは歯を食いしばった。

 

 ここまでだった。

 

 闇の帝王のための任務。

 ハリー・ポッター誘導。

 日記の罠。

 フェルディナンド・ブラックの巻き込み。

 すべては、ほぼ成功していた。

 

 なのに。

 

 廊下で待ち構えていたセオドール・ノットの大嘘。

 パドマ・パチルの囲み取材。

 アーニー・マクミランの外れ続ける推理。

 

 この三つで終わった。

 

 バーティ・クラウチ・ジュニアは、静かに思った。

 

 我が君。

 

 どうか、お許しください。

 

 ホグワーツの廊下は、迷路より危険でした。

 

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