本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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74話 帰らない少年と帰れない少女

 

 目が覚めた瞬間、世界が縮んでいた。

 いや、違う。

 世界が縮んだのではない。

 

「マイン、その体……」

 

 同室のアストリアが少し驚いたように声を上げた。

 

 慌てて鏡を見に行くと、そこには母にどこか似た面影を持つ15歳くらいの少女がいた。

 いや、自分だった。

 

「わたし大きくなってる?!」

 

 制服に着替えると、さらに問題がはっきりした。

 袖が短い。

 スカートの丈も、なんだか落ち着かない。

 鏡の前に立ったわたしは、しばらく黙った。

 鏡の中には、昨日までのわたしより少し年上の女の子が立っていた。

 顔はわたしだ。髪もわたしだ。目もわたしだ。けれど、頬の丸みが少し消えて、背が伸びて、手足が長くなっている。いつもの「小さいマルフォイ家の次女」ではない。

 どちらかというと、上級生に混ざってもぎりぎり違和感がない。

 

「……図書室の高い棚に届くかもしれない」 

 

 最初に浮かんだ感想がそれだったので、わたしは自分で自分に少し引いた。

 でも、事実は事実である。

 高い棚に手が届くのは、人生における重大な進歩だ。

 わたしは少し迷った末、いつものローブを羽織った。丈が合わないところは、まあ、ローブが隠してくれる。ローブは偉大だ。魔法界がなぜみんなローブを着るのか、今なら分かる。多少サイズが合わなくても、ごまかせるからだ。

 そうして、わたしは大広間へ向かった。

 朝食の席は、いつも通り騒がしかった。

 パンの匂い。焼いたベーコンの匂い。紅茶。かぼちゃジュース。ふくろう便を待つ生徒たちの声。

 世界は平和だった。

 少なくとも、わたしがスリザリンの長テーブルに近づくまでは。

 

 ドラコは、ちょうどトーストにマーマレードを塗っているところだった。

 

「お兄さま、おはよう」

 

 わたしが声をかけると、ドラコは顔を上げた。

 

「ああ、おはようマイン……」

 

 そして、見上げて固まった。

 手に持っていたナイフから、マーマレードがぽたりと皿に落ちる。

 

「……誰だ」

「妹だよ」

「妹は昨日までその大きさじゃなかった!」

 

 大広間のざわめきが、すっと細くなった。

 嫌な静けさだった。

 スリザリンの長テーブルだけではない。近くにいたレイブンクロー生も、ハッフルパフ生も、グリフィンドール生も、こちらを見ている。

 やめてほしい。

 朝食中に見世物になる趣味はない。

 

「ちょっと背が伸びただけだよ」

「ちょっとで済むか!」

 

 ドラコは立ち上がった。

 

「ブクマちゃん」

 

 グリフィンドールの席からロメルダが身を乗り出してきた。

 彼女はわたしを上から下まで見て、目をきらきらさせた。

 

「え、待って。成長イベ? 急にお姉さん化? ビジュ強くない?」

「びじゅ」

「いやいやいや、そこじゃないでしょロメルダ」

 

 ロンが横から突っ込んだ。

 ロメルダは悪びれない。

 

「だってさあ、朝起きたら急に身長伸びてるとか、普通に事件じゃん? でも顔面は勝ってるじゃん?」

「勝ってない。事件の方を見て」

 

 ハーマイオニーが険しい顔でこちらへ来た。

 

「あなた、一体何したの?」

 

「何かしたって決めつけないでよ」

 

 わたしは少しむくれた。

 

「ローゼマイン、ちょっといいか」

 

 声をかけられて振り返ると、セオドールがいた。セオドールの声は、昨日よりわずかに低かった。

 まだ大人の声ではない。だが、明らかに昨日とは声が違う。まるで、一晩で変声期が完了したみたいだった。見た目はそこまで劇的な変化ではなかったが、ほんの少しローブが短くなっているようだった。

 

「セオドールも……ってことは」

 

 わたしはそこで原因に思い当たった。

 

 タイムターナーで時間を制限以上に戻した代償? 

 

「セオドールまで?」

 

 ドラコが怪しむような顔で言った。

 

「成長薬を飲みすぎたんだ」

 

 セオドールは涼しい顔で言った。

 そういうことにしろという意味だとわたしは察する。

 

「え、待って。ブクマちゃんとノット君、二人で成長薬飲んだってこと?」

 

「誤飲だよ」

「二人で?」

「事故だよ」

「同じタイミングで?」

「事故だってば」

 

 ロメルダは両手で口元を押さえた。

 目がきらきらしている。

 その目は、完全に恋愛小説を読んでいる人の目だった。

 

「それ、もう恋の予感じゃん」

 

「違う!」

「違う」

 

 わたしとセオドールの声が同時に重なった。

 重なったのが、さらによくなかった。

 

「ほら! 息ぴったり!」

 

「おい、恋の脚注に書かれる気しかしないんだが」

 

「うん、でもこうなったロメルダはわたしにはどうすることもできない」

 

 案の定、ロメルダは恋の脚注のコラムで「成長薬は恋の味? 二人同時に飲む意味とは」という記事を書いてわたしとセオドールをげんなりさせるのだが、それはまた後日のことだった。

 

 

 *

 

 

 学年末試験の結果は、わたしの予想よりも周囲をざわつかせた。

 

 いや、わたしとしてはかなり真面目に勉強したので、良い成績が取れると嬉しいな、くらいには思っていた。

 

 でも、返ってきた成績表を見たマクゴナガル先生が眼鏡を押し上げ、フリットウィック先生が小さく跳ね、スネイプ先生が「……不本意ながら」と前置きして褒めた時点で、これはちょっとした事件なのだと理解した。

 

 マグル学と占い学では、歴代最高得点。

 

 それ以外も、魔法史以外は学年トップ。歴代でもフェルディナンド先輩に並ぶくらいの好成績らしい。

 魔法史の成績がもう少し良ければフェルディナンド先輩を上回ったという話だった。

 

「……またアストリアに負けた」

 

 成績表を見つめて呟くと、隣のアストリアが静かに微笑んだ。

 

「魔法史は積み重ねですから」

 

「わたしも積み重ねたよ。授業中に意識を失わない努力を」

 

「それは魔法史ではなく耐久訓練です」

 

 正論だった。

 

 ビンズ先生の授業は、歴史を学ぶ時間というより、魂が肉体から離れないようにする修行である。アストリアはその修行において、わたしより明らかに上位者だった。

 

 フェルディナンド先輩も、相変わらず腹立たしいほど優秀な成績を残していた。

 

 しかも、彼は全科目を履修した証として、ホグワーツにタイムターナーを返却した。

 

「返しちゃうんですか」

 

「借り物だからな」

 

「でも、持っていたら便利です」

 

「便利なものほど、返すべき時に返さなければ危険だ」

 

 フェルディナンド先輩はそう言った。

 

 わたしは少しだけ目を逸らした。

 

 便利なものほど危険。

 

 時間を越えたばかりのわたしに、たいへん刺さる言葉だった。

 

 そして、わたしにはもう一つ、学年末に追加されたものがあった。

 

 トレローニー先生の特別授業である。

 

 ダンブルドア校長に頼まれたらしく、トレローニー先生はわたしを見るなり、両手を広げて言った。

 

「ローゼマインさん……あなたの内なる眼は、まだ開ききっていませんわ……!」

 

「本棚を見る目なら開いてます」

 

「それですわ!」

 

「それなんですか?」

 

 それだった。

 

 いろいろ試した結果、わたしの占いには分かりやすい癖があった。

 

 タロット占いは、当たらない。

 お茶の葉占いは、微妙。

 水晶玉は、ほんのり文字が見える。

 でも、本が出てくる占いだけは、妙に当たる。

 

 たとえば、適当に開いた本の一節から象徴を読む占い。

 古い本のページの匂いや、栞の挟まった場所から意味を取る占い。

 棚から落ちた本の背表紙で兆しを見る占い。

 

 わたしは、本が絡むと急に強かった。

 

「書物占いの申し子ですわ!」

 

 トレローニー先生は感極まったように言った。

 

「あなたには書物占いが向いています。古き文字、開かれるページ、閉じられた運命……ああ、見えますわ、見えます……積み上げられた本の塔が……」

 

「それはたぶんわたしの部屋です」

 

 残念ながら、ハリーの居場所の手がかりはなかなか見つからなかった。

 

 何度も本を開いた。

 古い本のページに指を置いた。

 稲妻、黒い影、白い館、閉じた扉。

 

 断片は見える。

 

 でも、答えにはならない。

 

 そのまま、学年末が来た。

 学年末の宴は、いつもより静かだった。

 

 料理は並んでいる。天井には夏の夜空が広がっている。各寮のテーブルには生徒たちが座っていて、銀の皿も金の杯も、いつも通りきらきらしている。

 

 でも、ハリーはいなかった。

 

 その事実だけで、大広間の真ん中に見えない穴が空いているみたいだった。

 

 わたしはスリザリンのテーブルで、目の前のかぼちゃジュースを見つめていた。

 

 隣のドラコは、いつもよりずっと無口だった。フォークに触れてはいるけれど、ほとんど食べていない。アストリアも静かに座っている。向こうのグリフィンドールの席では、ロンとハーマイオニーが顔を上げないままだった。

 

 宴の終わりごろ、ダンブルドア校長が立ち上がった。

 

 いつもなら、ここで寮杯の話がある。

 

 どの寮が何点で、誰がよく頑張って、今年もいろいろあったが無事に終わった──そんな話をする時間のはずだった。

 

 でも、ダンブルドア校長は笑っていなかった。

 

「皆に、話さねばならぬことがある」

 

 大広間が静まり返った。

 

 スプーンが皿に当たる音さえ、やけに大きく聞こえた。

 

「第三の課題の夜、ハリー・ポッターは姿を消した。彼はまだ、我々のもとへ戻っておらん」

 

 グリフィンドールの席で、誰かが息をのむ音がした。

 

 ロンが拳を握ったのが見えた。ハーマイオニーは唇を噛んでいる。

 ダンブルドア校長は、ゆっくりと言葉を続けた。

 

「そして、もう一つ。恐れずに聞いてほしい」

 

 その一言で、スリザリンの空気が変わった。

 

 ドラコの指が、フォークを握ったまま固まる。

 

 わたしも、胸の奥が冷たくなった。

 

 校長先生の青い目が、大広間全体を見渡した。

 

「ヴォルデモート卿は、戻った」

 

 誰も、すぐには声を出さなかった。

 

 名前は、大広間の高い天井まで上がって、星空に吸い込まれたみたいだった。

 

 わたしの耳の奥で、その名前が少しだけざらついた。前は聞き取れなかったものが、今は形を持って届いている。たぶん、もう隠されている場合ではないのだ。

 

 ハッフルパフの席で、小さな悲鳴が上がった。

 

 レイブンクローでは、何人かが顔を見合わせている。グリフィンドールの席は、怒りと恐怖と困惑で揺れていた。

 

 そしてスリザリンは。

 

 静かすぎた。

 

 誰も大声を出さない。誰も冗談を言わない。ただ、何人かの顔から血の気が引いていた。親の名前を思い浮かべている子もいるのだと思う。自分の家の暖炉、自分の家の食卓、自分の家に来る客人を。

 

 わたしも、父と母とドラコの顔を思い浮かべた。

 

「魔法省は、この事実をすぐには認めぬかもしれん」

 

 ダンブルドア校長は言った。

 

「恐怖は、しばしば人に目を閉じさせる。責任は、人に耳を塞がせる。じゃが、目を閉じても、耳を塞いでも、闇が消えるわけではない」

 

 大広間は、まだ静かだった。

 

「ハリー・ポッターは、我々の生徒であり、友であり、大切な一人の少年じゃ。彼の所在を探す努力は続けられている。だが、今夜、皆に覚えておいてほしいのは一つだけじゃ」

 

 校長先生の声が、少しだけ強くなった。

 

「真実を恐れてはならん。名を呼ぶべきものから逃げてはならん。そして、誰かがいなくなったことに慣れてはならん」

 

 胸が痛くなった。

 

 いなくなったことに慣れてはならない。

 

 ハリーの席は空いている。

 けれど、その空席を「仕方ない」と思ってはいけない。

 

 ダンブルドア校長は、最後に静かに言った。

 

「ハリーが戻る場所を、我々は残しておかねばならん」

 

 その言葉で、ロンが顔を上げた。

 

 ハーマイオニーも、涙をこらえるようにまばたきをした。

 

 わたしは膝の上で手を握った。

 

 戻る場所。

 

 ハリーが戻る場所。

 わたしが帰る場所。

 守らなければならない本棚。

 まだ閉じてはいけない物語。

 

 ダンブルドア校長が腰を下ろしても、大広間にはしばらく誰も動かなかった。

 

 宴の料理は冷めかけていた。

 

 でも、誰もそれを気にしなかった。

 

 ドラコが小さく言った。

 

「……まさか言うとは思わなかった」

 

「うん」

 

「全校生徒の前で」

 

「うん」

 

 ドラコは苦い顔をした。

 

「コーネリウス・ファッジは怒るぞ」

 

「だろうね」

 

「父上も、たぶん困る」

 

「うん」

 

「でも」

 

 ドラコはそこで言葉を切った。

 

 わたしは横を見る。

 

 兄は、グリフィンドールの席の一角を見ていた。

 

「ポッターがいないのは、事実だ」

 

 それだけ言って、ドラコは黙った。

 

 わたしも、何も言わなかった。

 

 事実。

 

 その言葉は、羽ペン通信の記事みたいに硬くて、でも今は祈りより頼りになる気がした。

 

 ホグワーツ特急の中でも、空気はどこか落ち着かなかった。

 魔法書研究会のメンバーは隣同士のコンパートメントを二つ貸し切っていた。ハーマイオニー、パドマ、アーニー、ルーナはもう片方にいて、何やら小難しい話を議論していた。

 ロンはふてくされたようにお菓子を食べていた。ハーマイオニーとロンは言い合いをして喧嘩したらしい。

 ハリーがいたら仲裁はしなくても自然と仲直りしたのかもしれない。

 

 ハリーがいない。

 それだけで、列車の音まで少し違って聞こえる。

 

 けれど、世界は完全に沈み込むほど親切ではない。

 悲しいことがあっても、お腹は空くし、列車は走るし、ウィーズリーの双子は嘆く。

 

「終わった」

 

「僕たちの輝かしい未来が」

 

「悪戯専門店が」

 

「夢の店舗が」

 

「バグマンの財布とともに消えた」

 

 フレッドとジョージが、通路で大げさに崩れ落ちていた。

 ロンはコンパートメントの席で、げんなりした顔をしている。隣ではロメルダが蛙チョコレートを開けて、ゴドリック・グリフィンドールのカードを引いて喜んでいた。

 

「またその話かよ」

 

「またとは何だ、ロン」

 

「これは人生の危機だ」

 

「事業計画の危機だ」

 

「資金繰りの危機だ」

 

「あと信用の危機だ」

 

「最後のは前からだろ」

 

 ロンがぼそっと言うと、双子はそろって胸を押さえた。

 

「弟に刺された」

 

「家庭内からの攻撃だ」

 

 フェルディナンド先輩は廊下を通りかかったときに嘆く双子に目をやった。

 

「バグマンは結局払わなかったのか」

 

「払わないどころか、消えた」

 

「正確には、ゴブリンに捕まった」

 

「地下で働かされてるらしい」

 

「金貨を数えているのか」

 

「鉱山を掘っているのか」

 

「肝臓を担保にしていたのか」

 

「そのへんは諸説ある」

 

 わたしは思わず言った。

 

「肝臓って担保になるの?」

 

「貴重な本の担保に肝臓を出すなよ。マインならやりかねない」

 

 ロンが疲れた声で言った。

 

 フェルディナンド先輩は少し考えてから、さらりと言った。

 

「シリウスなら悪戯専門店に興味を持つかもしれないが」

 

 その瞬間、フレッドとジョージの目が光った。

 

「シリウス・ブラック?」

 

「金持ち?」

 

「元脱獄囚?」

 

「ハリーの名付け親?」

 

「悪戯に理解がありそうな顔をしている?」

 

「全部聞こえが悪いな」

 

 ロンが頭を抱えた。

 

 双子はフェルディナンド先輩に詰め寄った。

 

「紹介してください、フェルディナンド先輩」

 

「僕たちの未来がかかってます」

 

「悪戯専門店です」

 

「魔法界の明るい未来です」

 

「あと、ジーニーにただの迷惑な兄で終わらないところを見せたい」

 

「そこはもう手遅れだと思う」

 

 ロンが言った。

 

 フェルディナンド先輩は、淡々とうなずいた。

 

「話すだけなら構わない」

 

 双子はその場で勝利の舞を始めた。

 

 列車が揺れたのか、双子が揺らしたのか、よく分からなかった。

 

 キングズ・クロス駅に着くと、ホームはいつものように騒がしかった。

 その中に、シリウス・ブラックがいた。

 

 黒い髪を少し乱し、落ち着かない顔でこちらを探している。隣には、なぜか妙に不機嫌そうなトムが立っていた。

 ボーバトンから少し早めに帰ったみたいだ。

 

「フェルディナンド、マイン」

 

 シリウスさんが手を上げた。

 

 わたしとフェルディナンド先輩が近づくと、フレッドとジョージも当然のようについてきた。

 

「シリウス」

 

 フェルディナンド先輩が言った。

 

「紹介したい者がいる」

 

「ん?」

 

「フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリー。悪戯専門店を開きたいらしい。資金が足りないそうだ」

 

「悪戯専門店?」

 

 シリウスさんの顔が、分かりやすく変わった。

 

 興味を持った顔だった。

 

 あ、これはだめだ。

 

 双子が一斉にしゃべり出した。

 

「安全で愉快な悪戯商品を」

 

「一部安全性については今後改善予定ですが」

 

「学生生活に笑いと混乱を」

 

「将来的には店舗展開も」

 

「まずは開業資金が必要で」

 

「バグマンに有り金全部奪われ」

 

「ゴブリンの地下労働により資金回収不能となり」

 

「つまり投資家を探しています」

 

 シリウスさんは、最後まで聞いた。

 

 そして、あっさり言った。

 

「面白そうだな! よし、全額出す」

 

「シリウス」

 

 フェルディナンド先輩の声が鋭くなった。

 

「何だ?」

 

「出資なら、売上の何パーセントかは受け取る契約にしろ」

 

「別にいいだろ」

 

「よくない。資金提供と小遣いを混同するな」

 

「子ども相手だぞ」

 

「事業者相手だ」

 

 双子が感動した顔でフェルディナンド先輩を見た。

 

「事業者」

 

「今、僕たち事業者って呼ばれた」

 

「聞いたか、ジョージ」

 

「聞いたよ、フレッド」

 

「ロン、僕たちは事業者だ!」

 

 シリウスさんは頭をかきながら言った。

 

「じゃあ、契約書を作ればいいんだな」

 

 その少し向こうで、ドラコを迎えに来た母が立っていた。

 

 淡い色のローブに、きれいに整えられた髪。いつも通り優雅で、でも目元だけが少し疲れている。

 

 母はドラコの肩に手を置いていた。

 

 それから、こちらを見た。

 

 わたしは息を止めた。

 

 マルフォイ邸には帰れない。

 

 母のところへ走っていくことも、今はできない。

 

 でも、母はわたしを見て、静かに微笑んだ。大きくなった身体に少し驚いたような顔をしていた。

 

 ほんの少しだけ。

 

 泣きそうな顔を隠すみたいに顔を手で隠した。

 

 わたしも、笑おうとした。

 

 ちゃんと笑えたかは分からない。

 

 ドラコが母の横から、口だけで言った。

 

 手紙。

 

 わたしはうなずいた。

 

 ドラコには毎日手紙を書くと約束した。

 

「行くか」

 

 シリウスに言われて、わたしたちは歩き出した。

 わたしはもう一度だけ、母とドラコの方を見た。

 

 母はまた、微笑んだ。

 

 だからわたしも、今度はちゃんと笑って手を振った。

 

 

 *

 

 

 羽ペン通信 全国版

 

 ホグワーツで死喰い人逮捕

 ハリー・ポッター失踪に関与か 脱獄犯らとの接触も

 

 三大魔法学校対抗試合・第三の課題が行われたホグワーツ魔法魔術学校で、死喰い人とみられる複数の人物が拘束され、魔法法執行部に逮捕されたことが分かった。逮捕された人物は、アズカバンを脱獄した死喰い人らと行動を共にしていた疑いがあり、同日発生したハリー・ポッター氏の失踪事件にも関与しているとみられる。

 

 関係者によると、逮捕は第三の課題終了前後の混乱の中で行われた。競技中、代表選手の一部が予定された迷路内の進行から外れ、迷路にも不正な魔法が仕掛けられていた疑いが浮上している。ポッター氏は現在も所在不明で、ホグワーツ側と魔法省関係者が確認を進めている。

 

 特にバーティ・クラウチ・ジュニア氏は、過去に死喰い人として裁かれた人物として知られる。すでに死亡したとされていた経緯もあり、今回の拘束が事実であれば、魔法省の過去の収監記録や死亡確認の信頼性にも疑問が生じる。

 

 ホグワーツ魔法魔術学校4年生のパドマ・パチルは「バーティ・クラウチ・ジュニアはこの一年で少なくとも三名に化けていた。ホグワーツはポリジュース薬の検知体制を整えるべきだ」と話した。

 

 フェルディナンド・ブラック氏の母親であるセラディーナ・ロウル氏も死喰い人と行動を共にしたと見られている。同氏の関与が事実であれば、単なる競技妨害ではなく、特定家門を狙った計画だった可能性もある。

 

 魔法省は本紙の取材に対し、「捜査中の事案であり、現時点で詳細は明らかにできない」と回答した。一方、ホグワーツ関係者は「生徒の安全確認を最優先している」としている。

 

 ポッター氏の失踪、優勝杯への不正、死喰い人の逮捕、そしてアズカバン脱獄者との関連。第三の課題は、もはや競技上の事故では済まされない重大事件へと発展している。

 

 逮捕された死喰い人の中には、カンタカラス・ノット氏の姿もあった。同氏の息子は現在ホグワーツに在学している。

 

 本紙は引き続き、ポッター氏の安否と、魔法省による説明責任を追う。

 





闇金ゴブリンに地下労働させられるバグマンの話もちょっと脳裏に浮かびましたが、本編とは一切関係ないのでやめることにしました。

次回番外編です。
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