本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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不死鳥の騎士団編
75話 書物占いは読書じゃありません


 

 ブラック家に連れてこられてから、わたしの日課は占いになった。

 

 読書ではない。

 

 占いである。

 

 ところが毎日ちゃんと主張しているのに、シリウスはまったく信じてくれない。

 書物占いでは本をもとに占うからかもしれない。わたしは父にもらった目録を開いて占いをしようとしていた。目を閉じて目録を閉じ、開いた頁をもとに占うというものだ。

 

「本当に占いなのか、それは」

 

「占いだよ」

 

「マインが読みたい本を出してるだけじゃないのか?」

 

「違うってば!」

 

 ものすごく失礼だ。

 

 わたしが読みたい本なら、もっと別にある。

 

 最近ロメルダに新しく勧められた恋愛小説とか、ドラコから借りた魔法薬の本とか。

 ブラック家の書庫の奥にある、鍵が三重にかかっていて、扉に噛みつきそうな顔が浮かび上がっている棚の本とか。ちょっと手を伸ばしただけで、シリウスが「それはやめろ」と言い、フェルディナンド先輩が「命が惜しければ離れろ」と言い、わたしが「命より本が惜しい」と返したら本気で怒られた棚の本とか。

 そういう本である。

 

 だから、わたしの占いが本を読むからといって、わたしの趣味が混ざっていると決めつけるのは早い。

 

 朝のブラック家は、少し暗かった。

 

 壁は黒いし、カーテンも重いし、時々どこかから古い家のきしむ音がする。廊下には知らない祖先の肖像画があって、たまに睨んでくる。家そのものが不機嫌というのは、こういうことなのかもしれない。

 

「お嬢様のお茶でございます」

 

 ハウスエルフが、銀の盆を持って現れた。

 

 しわだらけの顔に、蝙蝠みたいな耳。大きな目。腰にはぼろぼろの布。

 

 ブラック家のハウスエルフ、クリーチャーだ。

 

 最初に見た時、わたしはちょっと怖かった。ドビーより表情が堅かったからだ。けれど、クリーチャーはわたしに対してはかなり丁寧である。

 

 理由は二つあるらしい。

 

 一つ目。わたしがフェルディナンド先輩の客人であること。

 二つ目。わたしがマルフォイ家の純血の令嬢であること。

 

「ありがとう、クリーチャー」

 

「もったいなきお言葉でございます。フェルディナンド様の大切なお客様、マルフォイ家のお嬢様にお仕えできるとは、クリーチャーは幸せでございます」

 

 そう言って、クリーチャーは深々と頭を下げた。

 

 シリウスさんが、ものすごく嫌そうな顔をした。

 

「俺の時と態度が違いすぎるだろ」

 

 クリーチャーは、ぴたりと動きを止めた。

 

 それから、顔だけをゆっくりシリウスに向ける。

 

「ご主人様のお茶も、そこにございます」

 

 クリーチャーが指さしたのは食卓の端だった。

 シリウスの席から、微妙に遠い場所に置かれた、少し冷めたお茶である。

 

「いやいや置いたな?」

 

「クリーチャーはブラック家に仕えるハウスエルフでございます」

 

「答えになってない」

 

「クリーチャーは、フェルディナンド様より、お客様方を丁重にもてなすよう命じられております」

 

「俺は?」

 

「ブラック家のご主人様でございます」

 

「だから?」

 

「……お茶はそこにございます」

 

 クリーチャーは淡々と食卓の端をまた指さした。

 

「いやいやじゃないか!」

 

 クリーチャーはぶつぶつ呟きながら、皿を並べた。

 

「ご主人様は血筋は尊いのに、お友達が血を選ばぬろくでもない者ばかりで、家を汚し、壁の奥様も嘆いておられる……けれどフェルディナンド様は礼儀正しく、きちんと命じ、古き家の作法をお分かりで……」

 

「聞こえてるぞ、クリーチャー」

 

「聞こえるように申し上げております」

 

「なお悪い!」

 

 わたしは紅茶を飲んだ。

 

 おいしい。

 

 ブラック家は主従関係の空気がほんの少し悪いけれど、お茶はおいしい。クリーチャーの腕は確かである。

 

 トムはその光景を見て、面白そうでもあり、面倒そうでもある顔をしていた。

 

「ハウスエルフに嫌われる当主というのも、なかなか珍しいね」

 

「お前に言われたくない」

 

「僕はハウスエルフに嫌われたことはないよ」

 

「ハウスエルフがいる家に住んでなかっただけだろ」

 

「君はいいところのお坊ちゃんなのに無礼だね」

 

「お前に礼儀を払いたくないだけだ」

 

 トムとシリウスが妙に喧嘩ばかりなのもいつものことだった。スリザリンとグリフィンドールだからなのか、他に相手に思うところがあるのか、二人はいつもお互いにいがみ合っていた。

 

 こういうときに静かにたしなめるフェルディナンド先輩は、今日は仕事でいない。

 神秘部の仕事で魔法省に行っているらしい。忙しい人である。

 

 食卓の上には新聞が広げられていた。

 

 羽ペン通信の全国版だ。

 

 魔法省がハリー・ポッターの捜索に全力を尽くしているとか、ドローレス・アンブリッジという魔法省の人が教育関連の担当大臣になったとか、そんなことが書いてあった。

 

 わたしは記事を覗き込んだ。

 

 写真の中の女の人は、妙ににこやかな顔をしていた。にこやかなのに、なぜか背中がぞわっとする。笑顔には種類がある。心の底からの純粋な笑顔と、悪巧みを隠している笑顔だ。この人はたぶん後者だ。

 

 トムは新聞を一瞥しただけで、興味なさそうに紅茶を飲んでいた。

 

「魔法省も必死だね。教育に力を入れるふりをして保護者を取り込む気だ」

 

「気になるの?」

 

「そんなに驚きはない。いつの時代も、権力は教育を欲しがる」

 

 トムはさらりと言った。

 

 さらりと言う内容ではない。

 

 シリウスが露骨に嫌そうな顔をした。

 

「お前が言うとなんか嫌だな」

 

「僕も、君に同意される可能性を考えると不快だ」

 

 もっと仲良くしてよ。静かに本を読めないよ。

 

 その時、窓の外で羽音がした。

 

 フクロウだった。

 

 クリーチャーがすばやく窓を開ける。フクロウは続けて飛び込んできた。

 

 一羽目は、ホグワーツの紋章が入った封筒を持っている。

 二羽目は、妙に高そうな封筒を持っている。封蝋はマルフォイ家のものだ。

 三羽目と四羽目も、少し遅れて飛び込んできた。ひとつはきっちり折られた封筒、もうひとつはパチル家らしい華やかな封筒だった。

 

「多いね」

 

「新学期前だからな」

 

 シリウスがホグワーツの封筒を取った。ホグワーツからの封筒は二枚あった。一つはわたし宛で、もう一つはトムに宛てたものだ。

 

「教科書の手紙だろ」

 

「待ってました、教科書!」

 

 わたしは即座に姿勢を正した。

 

 新学期。

 それはつまり、新しい本が合法的に手に入るタイミングである。

 

 わたしはクリーチャーから封筒を受け取り、丁寧に開いた。

 

 四年生の教科書一覧が入っていた。

 

 魔法薬学、変身術、呪文学、魔法生物飼育学、天文学、魔法史、闇の魔術に対する防衛術、占い学、マグル学。

 わたしは一覧を眺めた。

 

「闇の魔術に対する防衛術の教科書、選び方がいつもと違うね」

 

 トムがわずかに眉を動かした。

 

「『防衛魔法理論』……ウィルバート・スリンクハード。この作者の本初めて見たかも」

 

「退屈そうなタイトルだな」

 

 シリウスがつまらなそうに言った。

 

「読んでみないと分からないよ」

 

「タイトルで八割分かる本もあるだろ」

 

「そんなことないよ」

 

 シリウスが覗き込んだ。

 

「今年の防衛術の教師は誰なんだ?」

 

「書いてない」

 

 わたしは手紙をもう一度確認した。

 

 教科書名はある。必要な道具もある。新学期の日程もある。

 

 でも、誰が闇の魔術に対する防衛術を教えるのかは書いていない。去年もそうだったので、学校についてから分かるのだろう。

 

「毎年まともに続かない科目だからな。俺らの代もそうだった」

 

 シリウスがぼそっと言った。

 

 毎年、闇の魔術に対する防衛術の先生は何かしら大変なことになる。大変なことになるというか、先生本人が大変なことを起こすこともある。

 ムーディ先生はもともと一年しか働かない約束だったようなので既定路線ではあった。

 

 トムは手紙を見て少しだけ微妙な顔をしていた。

 

「トム?」

 

「何」

 

「変な顔してるから」

 

 トムは黙った。

 

 それから、ゆっくりティーカップを置いた。

 

「僕は闇の魔術に対する防衛術の担当になった」

 

「えっ!」

 

 わたしは思わず声を出してしまう。

 シリウスが椅子から少し身を乗り出した。

 

「お前、教師になるのか?」

 

 トムの表情が、さらに微妙になった。

 

「……補助教員だ」

 

 わたしはその言葉を頭の中で繰り返した。

 

「先生じゃなくて?」

 

「まだ若すぎると言われた。教師より給料が少し安い」

 

 トムの声が平坦だった。

 平坦すぎて怖い。とても不服そうだ。

 

「きっちりこき使うつもりだね」

 

「ダンブルドアに抗議の手紙を書く。職務内容と報酬が一致していない」

 

 ものすごくまともな抗議だった。

 

「でも、闇の魔術に対する防衛術なのは嬉しいんじゃないの? 好きな科目の一つでしょ」

 

 わたしが聞くと、トムは一瞬だけ黙った。

 

 それから、ほんの少しだけ口元をゆるめた。

 

「まあね。でも、僕もまだ誰が正式な教師になるのかは知らされていない」

 

「トムにも?」

 

「補助教員に対して、情報共有が不十分すぎる」

 

「本当に不満そうだね」

 

「不満だ。補助教員で、給料も安く、正式な担当教師も知らされていない。これで働けと言う方がおかしい」

 

 トムが職場待遇に文句を言っている。

 

 ものすごく変なものを見ている気分だ。

 

 わたしが教科書一覧を読み直していると、今度はマルフォイ家の封筒が机の上に置かれた。

 クリーチャーが恭しく頭を下げる。

 

「マルフォイ家より、お嬢様へお手紙でございます」

 

「あ、ありがとう」

 

 封を切ると、ドラコらしい、丁寧で少し角ばった字が並んでいた。

 

『今年、僕は監督生になった。当然の結果だが、父上と母上は喜んでいる。客人は相変わらず屋敷にいるが、最近は人の出入りも多い。父上は最近、以前より胃を悪くしているようで心配だ。スネイプ先生によく効く薬の調合方法を教わった』

 

 わたしは手紙を読み終えて、しばらく黙った。

 

 客人というのは十中八九ヴォルデモート卿のことだ。それならば、最近増えているというのは死喰い人に違いない。

 

「どうした?」

 

 シリウスが聞いてきた。

 

「お兄さまが監督生になった」

 

「マルフォイが?」

 

 次の封筒は、きっちり折られたものだった。

 

 ハーマイオニーからである。

 

『グリフィンドールの監督生になったわ。ロンもよ。本当は、こんな時に喜んでいいのか分からない。ハリーが見つからないまま、新学期の準備だけが進んでいくのって変な感じよね。でも、監督生になった以上、できることはやるわ。

 あなたも無茶をしないでね。これはお願いではなく、かなり強い忠告です』

 

「ハーマイオニーも監督生だ!」

 

「当然だね。彼女は優秀だ」

 

 トムが言った。

 

「ロンもみたいだよ」

 

「なぜあいつが? もう少しマシなやつがいただろうに」

 

 トムの評価が分かりやすく偏っていてわたしは苦笑いした。

 たぶんハリーがいないからだと思うけど、ロンはあまり監督生というタイプではない。

 

 三通目は、パドマからだった。

 

『レイブンクローの監督生になったわ。

 バーバティや両親も喜んでくれたわ。私自身は編集長と監督生を両立できるのか少し気が重いけど。

 ハリーのことは引き続き取材を進めているところよ。マインも何か分かったら教えて。

 編集長として今年もよろしくお願いします』

 

「パドマも監督生!」

 

「今年の監督生、マインの知り合いだらけだな」

 

 シリウスさんが言った。

 

「お兄さま、ハーマイオニー、ロン、パドマ……」

 

 わたしは指折り数えた。

 

 またフクロウが手紙を持ってきた。今度はアーニーだった。アーニーもハッフルパフの監督生に選ばれたらしい。デジャヴだ。

 

「魔法書研究会だけで全寮の監督生制覇してる」

 

「それはすごいね。去年の活躍を考えたら理解できるけど」

 

 トムの言葉にわたしもうなずいた。

 

 羽ペン通信の三大魔法学校対抗試合の記事によって、魔法書研究会は完全にホグワーツの主力クラブとしての地位を確かなものにしていた。今年は入部希望が続出するだろう。

 

 新学期は本来なら、少しわくわくすることのはずだった。

 

 新しい教科書。新しい授業。新しい本。監督生になった人たちからの手紙。

 

 なのに、胸の奥に重いものが残っていた。

 

 ハリーがいない。

 

 その事実だけが、楽しいはずの新学期準備の真ん中に、ぽっかり穴を開けていた。

 

 だからわたしは、書物占いをする。

 

 トレローニー先生は、わたしは本が絡む占いだけ妙に当たると言っていた。褒められているのか、占い師として偏っていると言われているのか、微妙なところである。

 

 でも、当たる可能性があるなら使うしかない。

 

 わたしは目録を開き、目を閉じた。

 

 ハリーの場所を教えて。

 

 ハリーの場所を教えて。

 

 ハリーの場所を教えて。

 

 心の中で三回唱えた。

 

 目録を開くと、そこにあったタイトルは『魔法史』だった。

 わたしは無言で本を閉じた。

 

 もう一回やろう。

 

 次に出てきたのは『墓碑銘で読む近代魔法史』だった。その次は『グリンデルバルド時代の証言集』、さらに次は『ゴドリック・グリフィンドール伝』。目録で見つけた本を本棚から出して机の上に積み上げていく。

 本が増えるのは嬉しい。

 

「……全部魔法史関連だな」

 

 シリウスさんが腕を組んだ。

 

「うん。魔法史だね」

 

「つまり、ハリーは魔法史に関係しているのか?」

 

「その可能性はあると思う」

 

「分かった」

 

 分かった? 

 

 わたしは顔を上げた。

 

 シリウスさんは、妙に真面目な顔をしていた。真面目な顔なのに、なぜか嫌な予感しかしない。

 

「ハリーは今、ゴブリンの反乱に巻き込まれている」

 

「巻き込まれてないよ」

 

「まだ分からないだろう」

 

「分かるよ。行方不明の友達を探してる時に、最初に出す仮説がゴブリンの反乱なのはおかしいもん」

 

「魔法史といえばゴブリンの反乱だろう」

 

「ビンズ先生の授業ではそうかもしれないけど!」

 

 シリウスさんは、さらに一冊手に取った。

 

「こっちは『墓碑銘で読む近代魔法史』か。なるほど。ハリーは墓地にいるのか?」

 

「縁起でもないこと言わないで!」

 

「いや、占いだからな。象徴的に見るべきだ」

 

「急に占い師みたいなこと言わないでよ。さっきまで読書リスト扱いしてたじゃん」

 

「では、こうだ。ハリーは墓地でゴブリンの反乱について調べている」

 

「なんで混ぜたの!」

 

「魔法史と墓碑銘を合わせた」

 

「混ぜればいいってものじゃないよ!」

 

 わたしが抗議すると、シリウスさんは別の本を取った。

 

「『グリンデルバルド時代の証言集』……これは分かりやすい。ハリーはグリンデルバルドと戦っている」

 

「時代が違う!」

 

「魔法史だぞ。時代が違うのはよくある」

 

「よくない!」

 

 シリウスさんはむっとした。

 

「じゃあ何だ。ハリーはビンズ先生に捕まって、延々と講義を聞かされているのか?」

 

 わたしは一瞬、黙った。

 

 それはかなり怖い。

 

 ハリーが行方不明になって、どこかで椅子に縛られ、ビンズ先生の単調な声でゴブリンの反乱を聞かされ続けている。

 

 拷問では? 

 

「マイン?」

 

「ごめん、ちょっと想像しちゃった。かなり恐ろしいね」

 

「だろう」

 

「でも違うと思う」

 

 危ない。

 シリウスのトンチンカン推理に一瞬だけ説得力を感じてしまった。ビンズ先生の授業はそれほど強い。

 

「じゃあ、これはどうだ」

 

 シリウスは、今度は『ゴドリック・グリフィンドール伝』を指で叩いた。

 

「ハリーはグリフィンドールの剣を探している」

 

「それはちょっとありそうなのが嫌!」

 

「だろう?」

 

「でも今は剣を探しているんじゃないよ。ハリーを探しているんだよ」

 

「ハリーが剣を探しているなら、剣を探せばハリーも見つかる」

 

「論理が雑!」

 

 わたしは頭を抱えた。

 

 シリウスは真剣なのだ。

 ハリーを心配しているのも分かる。

 分かるけど、出てくる推理が全部、魔法史の授業中に寝落ちした人の夢みたいなのはどうにかしてほしい。

 

「シリウスさん」

 

「何だ」

 

「アーニーでもそんなこと言わないよ」

 

「アーニーって誰だ?」

 

「ハッフルパフの、真面目で、ちょっと演説が長くて、結論まで遠回りする推理がいつも明後日の方向に飛んでいく人。このコラム見れば分かるよ」

 

 羽ペン通信ホグワーツ版の学年末の記事を指さした。

 アーニーが書いた記事にはハリーがどこへ行ったか推理してあった。

 その最初の候補がアズカバンだった時点でシリウスは色々と察したのか顔をしかめた。

 

「このアーニーよりひどいのか、俺は」

 

「うん」

 

「即答か」

 

「うん」

 

 シリウスは傷ついた顔をした。

 

 ちょっとだけ申し訳ない。

 

 でも、ここで甘やかすと、次は「ハリーは中世の魔女狩りに巻き込まれた」と言い出しかねない。時代が遡りすぎてしまう。

 

「だいたい、魔法史の本が出ているからって、魔法史の事件そのものが起きてるわけないでしょ」

 

「じゃあ何なんだ」

 

 読んだことがある本もあったが、ほとんどが初見だった。共通点がいまいち掴めない。

 

「それが分からないから困ってるの!」

 

 わたしが叫ぶと、部屋の隅で黙って本を眺めていたトムが、ようやく顔を上げた。

 

「ゴブリンの反乱か。アーニー・マクミランの推理のがまだ現実味がある」

 

「お前なあ」

 

 クリーチャーがシリウスの空になったカップを下げながら、ぼそぼそ言った。

 

「フェルディナンド様がお戻りになれば、このような騒がしい推理も終わるでしょうに。若主人様は頭の使い方がブラック家とは思えないほどとても雑で……」

 

「クリーチャー!」

 

「お茶のおかわりはいかがですか、ご主人様」

 

「全部聞こえてんぞ!」

 

 クリーチャーは素早く姿くらましをして消えた。

 わたしはため息をついた。

 

「こうなったら仕方ないね。わたしが全部一から読むしかないよね」

 

 自分のためではない。ハリーのためだ。

 けっして本が読みたいわけではない。

 

 読んだことがない本を読むのって楽しいよね。まず最初はグリンデルバルドの本を読もうかな。

 

「待った」

 

 一冊目の本に手を伸ばしかけたのを、トムが止めた。

 

「なんで!」

 

「全部読んだら時間がかかる。アストリアに聞いてみたらどうだ?」

 

「でも、ちゃんと読まないと分からないよ」

 

「マイン。本が読みたいだけだよね?」

 

 バレてる。

 

「分かった、アストリアに聞いてみる」

 

 わたしは渋々と羊皮紙を取り出した。

 

 そして、占いで出てきた本の題名を書き並べる。

 

『魔法史』

『墓碑銘で読む近代魔法史』

『グリンデルバルド時代の証言集』

『ゴドリック・グリフィンドール伝』

 

 最後に、少し迷ってからこう書いた。

 

『アストリアへ この手紙に書いた本の共通点を教えて。ハリーを探すヒントになっているみたいなの』

 

 手紙を書き終えると、クリーチャーが銀の盆を持ったまま現れた。

 

「グリーングラス家へお手紙でございますか、お嬢様」

 

「うん。お願いできる?」

 

「お嬢様のお言いつけとあらば、喜んで」

 

 クリーチャーは恭しく手紙を受け取った。

 

 シリウスがぼそっと言う。

 

「俺が頼んだ時と全然違う」

 

 クリーチャーは振り向かなかった。

 

「ご主人様のお手紙は、ご主人様がご自分で直接お渡しになればよろしいかと」

 

「おい! フクロウすら使うなってか」

 

「犬になれるんですからご自分で届ければ良いとクリーチャーは思いました」

 

「僕もクリーチャーに賛成」

 

 トムがニヤニヤしながら手を挙げた。

 

「お前ら当主を何だと思ってやがる。あーもういい! 書類仕事なんてやってられるか。外出てくる」

 

 シリウスがイライラしたように立ち上がって部屋を出ていった。

 

 やっと静かになった。

 

 わたしはやっと読書ができると『グリンデルバルド時代の証言集』を読み始めた。

 





不死鳥の騎士団編始まりました。
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