本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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79話 敵の物語を読み直せ

 

 わたしとハーマイオニーは、ブラック家の居間で向かい合っていた。

 

 テーブルの上には、一冊の本がある。

 

「ヘンリー・ポーターと賢者の石」

 

 題名を見るだけで、ちょっと腹が立つ。

 

 いや、題名に罪はない。本そのものにも罪はない。悪いのは、変な題名をつけて、変な物語を書いて、変な方向へ人を誘導しようとする人である。

 

 でも、目の前に本があると、本に文句を言いたくなる。

 

 その時、扉が開いた。

 

「それ、読んだのか?」

 

 ロンが入ってきた。

 

 その後ろから、ジニーも顔を出す。

 

 わたしは本から手を離した。

 

「ロン! あと、ジニーも」

 

「私たち新学期までここにいるんだ。しばらくよろしくね」

「うん、こちらこそよろしくね」

 

 わたしはジニーと挨拶を交わした。

 

「まさか、これ読んだの?」

 

 ハーマイオニーが驚いたように尋ねる。

 

「ああ」

 

 ロンは胸を張った。

 

「僕はもう全部読んだ。ジニーも読んでるよ」

 

「あなたが?」

 

「その言い方は何だよ!」

 

「だって、ロンが私より先に読み終わっているなんて珍しいから」

 

「失礼だな。僕だって読む時は読む」

 

「必要に迫られた時と、ご飯が出るまで暇な時ね」

 

 ジニーが口を挟んだ。

 

「あと、ハリーが妙なことになってる時だ!」

 

 ロンはそう言って、「ヘンリー・ポーターと賢者の石」を指さした。

 

「変な感じだったぞ。僕らの冒険が本になってて、実はダンブルドアが黒幕だったって書いてあったんだから。僕の名前がローランド・ウィズビーじゃなかったら信じてたな」

 

「私はジェニーだったわ。ちなみにローランドの方がかっこいいわよ。チェスも強いし」

 

「チェスは本物の僕も強いだろ!」

 

 わたしはジニーを見た。

 

 ジニーとは、一度だけ決闘クラブで対戦したことがある。

 

 呪文の出が速くて、顔に似合わず負けず嫌いで、倒れそうになっても目が全然負けていなかった。あの時、強い子だなと思った。

 

 でも、ちゃんと話したことはなかった。

 

「ジニー」

 

「何?」

 

「わたしたち、あんまり話したことなかったけど、仲良くなれる気がする」

 

 ジニーは一瞬目を丸くした。

 

 それから、にっと笑った。

 

「私もそう思ってた」

 

「本を読む人は、全員友達になれると思うから」

 

「基準が本なのね」

 

「もちろん」

 

 わたしは胸を張った。

 

 本を読む人は、いつか友達になるかもしれない。

 

 本を読まない人でも、いつか読むかもしれない。

 

 つまり、世の中のほとんどの人は、未来の読書仲間候補である。

 

 世界は平和だった。

 

「実は、魔法書研究会には前からちょっと興味があったの」

 

 ジニーが言った。

 

「本当?」

 

「ええ。でも、すごい人ばっかりで怖くて、なんとなく入りづらくて」

 

「魔法書研究会は怖くないよ」

 

 わたしは即答した。

 

 ロンが目を逸らした。

 

 ハーマイオニーが咳払いをした。

 

 ジニーが半目になる。

 

「今、二人が目を逸らしたけど?」

 

「怖くないよ。ちょっと本が多くて、ちょっと議論が長くて、ちょっと羽ペン通信が忙しくて、ちょっと危険な本が出てくるだけ」

 

「十分怖いわ」

 

「慣れれば普通」

 

「慣れたら駄目なやつじゃない?」

 

 ジニーはそう言いながらも、楽しそうだった。

 

「でも、羽ペン通信には言いたいことがあるの」

 

「何?」

 

「何で羽ペン通信にはクィディッチのコラムがないの?」

 

 ロンがぱっと顔を上げた。

 

「それだ!」

 

「それ?」

 

「僕も思ってた! 羽ペン通信は面白いけど、クィディッチの話がない。事件とか本とか恋の脚注とか、そういうのもいいけど、クィディッチが足りない」

 

「恋の脚注と並べられるクィディッチ」

 

 ハーマイオニーが呟いた。

 

「大事だろ、クィディッチ」

 

 ロンは真剣だった。

 

「試合展望とか、選手評価とか、寮別の作戦分析とか、そういうのがいる」

 

「ジニー、書く?」

 

 わたしが聞くと、ジニーは少し驚いた後、目を輝かせた。

 

「書いていいの?」

 

「パドマに確認するけど、新しい記者は大歓迎って言うと思うよ。新コラムならもっと歓迎しそう」

 

「え、私、魔法書研究会に入る前からコラム持つの確定なの?」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「でも、クィディッチ欄は確かにあってもいいかも。去年は三大魔法学校対抗試合があったからそっちばかり書いてたけど」

 

「だろ!」

 

 ロンが勢いよく頷く。

 

「僕も協力する。つまり、試合前に何を見ればいいか、っていうコーナーなら書ける」

 

「ロンの『つまりどういうこと?』クィディッチ版?」

 

「いいじゃない」

 

 ジニーが言った。

 

「ただし、感情だけでチャドリー・キャノンズを持ち上げるのは禁止ね」

 

「ジニー!」

 

「事実で書かないと新聞じゃないでしょ」

 

 ロンが傷ついた顔をした。

 

 わたしは感心した。

 

 ジニー、兄相手に強い。

 

 これは魔法書研究会に必要な人材かもしれない。

 

 そんなふうに、場の空気が少しだけ明るくなった時だった。

 

 玄関の方で、何かが大きく崩れるような音がした。

 

 どん、がしゃん、という音。

 

 ただいま、という感じではない。

 

 どちらかというと、ただいまより、倒壊である。

 

 わたしとハーマイオニーとロンとジニーは、同時に顔を上げた。

 

「泥棒でも入ってきたのか?」

 

 ロンが言った。

 

「帰宅音にしては物騒すぎるわ」

 

 ハーマイオニーが立ち上がる。

 

 扉が開いた。

 

 シリウスが入ってきた。

 

 顔色が悪い。

 

 ローブは裂け、頬には浅い傷があり、髪は乱れていた。いつもの軽口はない。

 

 その後ろにルーピン先生。

 

 さらにムーディ先生。

 

 最後にトムが入ってくる。

 

 トムは壁に手をつきながら歩いていた。

 

 顔色が悪い。

 

 ものすごく悪い。

 

 服もぼろぼろだった。

 

 わたしは思わず言った。

 

「何があったの?」

 

 ルーピン先生が目を逸らした。

 

 トムは疲れたように椅子へ沈んだ。

 

 そこで、わたしは一番大事なことを思い出した。

 

「ハリーは?」

 

 部屋の空気が、急に冷たくなった。

 

 シリウスの顔が歪む。

 

「連れ戻せなかった」

 

 わたしは息を止めた。

 

「バチルダ・バグショットの家にはいなかったの?」

 

「いた」

 

 答えたのはルーピン先生だった。

 

「ハリーは、そこにいた」

 

「じゃあ、どうして……」

 

「ハリーはヴォルデモートに、強く影響を受けていた」

 

 ルーピン先生は、言葉を選ぶように言った。

 

 言葉を選ぶ人の声は怖い。

 

 選ばなければならないほど、事実が悪いということだからだ。

 

「洗脳されていた、と言うべきかもしれない」

 

 ハーマイオニーが本を握りしめた。

 

 ジニーの顔から血の気が引く。

 

 ロンは何も言わなかった。

 

「記憶操作の可能性もある」

 

 ムーディ先生が言った。

 

「服従の呪文ではなかった。少なくとも、見た限りではな。ポッターは自分の言葉で話しているように見えた」

 

「それなら余計たちが悪いわ」

 

 ハーマイオニーが低く言った。

 

 わたしもそう思った。

 

 誰かに言わされているなら、切り離せる。

 

 でも、自分の言葉だと思っているなら。

 

 その言葉を取り返すのは、とても難しい。

 

「ハリーは」

 

 シリウスが、やっと声を出した。

 

「ダーズリー家には戻りたくないと言った」

 

 わたしとハーマイオニーは、同時に顔を見合わせた。

 

 そして、テーブルの上の本を見た。

 

「ヘンリー・ポーターと賢者の石」だ。

 

 ロンが低い声で言う。

 

「……それって、あれだよな?」

 

 ジニーも頷いた。

 

「白銀卿が、ヘンリーに言うんだよね。もうあの家に戻らなくていいって」

 

 わたしは本を開いた。

 

 さっき、ちょうど読んでいたところだった。

 ハリーがマグルの家から外の世界に連れ出されるシーンだ。

 

「ああ、まさにそうだった……なんで知ってるんだ?」

 

「まさにこの本がそういう内容だったからだよ」

 

「やっぱり」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「この本は、ただの小説じゃないわ」

 

「ヴォルデモートが用意した物語だったんだ」

 

 わたしは言った。

 自分の声が、思ったより冷静だった。

 

「ハリーの物語を作り替えたんだよ。それが本当だと思い込ませてる」

 

「オブリビエイト、だけじゃなさそうよね」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「ハリーの感情も使っているわ。ハリーが本当に苦しんだことを、別の意味に置き換えているのよ。ハリーがダーズリー家に戻りたくないのは私たちもよく知ってるもの」

 

「ダーズリー家に戻りたくないっていう本当の気持ちに、白銀卿が題名をつけた」

 

「そう」

 

 ハーマイオニーは唇を噛んだ。

 

「全部が嘘なら崩せる。でも、土台に本当の傷がある」

 

 部屋に沈黙が落ちた。

 

 ロンが拳を握る。

 

 ジニーが本を睨む。

 

 シリウスは、今にも壁を殴りそうな顔をしていた。

 

 その時、慌ただしい足音が近づいてきた。

 

「何の騒ぎだい?」

 

 アーサーが居間に入ってきた。

 

 その後ろから、モリーも顔を出す。

 

「あら、まあ! みんな、どうしたのその格好! シリウス、袖が破れているじゃないの。リーマス、怪我は? アラスターは……あなたはいつもそういう感じだったわね」

 

「雑だな」

 

 ムーディ先生が言った。

 

 モリーは聞いていなかった。

 

「ハリーを見つけた」

 

 シリウスが言った。

 

 モリーの顔がぱっと明るくなり、すぐに消えた。

 

 誰も笑っていなかったからだ。

 

「……ハリーは?」

 

「連れ戻せなかった」

 

 モリーは胸元に手を当てた。

 

「まあ、なぜ?」

 

「ダーズリー家には戻りたくないと」

 

「それじゃあ、あの本は本当なの?」

 

 モリーはとっさに言った。

 

「モリーも読んだのか?」

 

 モリーが顔を赤くする。

 

「ジニーが買った本をひったくるようにみんなが回し読みしたんだよな」

「うちってそういうとこあるわよね」

 

 ジニーはうんざりしたように言った。

 

 何が嫌なんだろう。回し読み文化はすばらしいと思う。

 

「ダンブルドアは、本当にハリーのことを分かっていて、あの家に置いたのかしら」

 

 モリーが呟いた。

 部屋が静かになった。

 

 シリウスが顔を上げる。

 

 ルーピン先生は目を伏せた。

 

 ムーディ先生も何も言わなかった。

 

「もちろん、ダンブルドアに考えがあったことは分かるわ」

 

 モリーは続けた。

 

「でも、子供が戻りたくないとそこまで思う家だったのなら、誰かがもっと早く気づくべきだったんじゃないかしら。もっと家にいさせてあげればよかった」

 

 モリーの声は優しかった。

 

 でも、優しいからこそ鋭かった。

 

「ハリーは、本当に説明されていたの? 守るためだと、ちゃんと伝えられていたの?」

 

 誰も答えなかった。

 

 モリーは、ダンブルドアを嫌っているわけではない。

 

 たぶん、尊敬もしている。

 

 でも今は、半信半疑になっている。

 

「ダーズリー家に年に一度帰れば、ハリーは血縁の血による保護でヴォルデモートから守られる。そういう話だったんだ」

 

 シリウスが説明した。

 

「でも、ハリーは閉心術をまだ使いこなせない子どもだろ? 言ったらヴォルデモートに悪用されると思った」

 

「悪用なら、もうされてると思う」

 

 ロンがきっぱりと言った。

 

「あの本は僕たちの冒険をベースにしている。あんなの、ハリーの頭の中をみないと分からないよ」

 

 ロンの言葉を聞いて、シリウスは余計落ち込んだようだった。

 

「ハリーにちゃんと言えてなかった俺たちの責任だ。戻ったらちゃんと説明する」

 

 記憶操作されていなくても、ハリーとシリウスの間には何か誤解があったのかもしれない。ハリーはシリウスを好きだけど、シリウスにすべてを伝えられていない歯がゆさがあったのだろう。

 

「マイン」

 

 シリウスが言った。

 

 声が低かった。

 

「占え」

 

「え」

 

「お前の占いが当たることは分かった。次にハリーに会える場所を占え」

 

「待って」

 

 わたしは両手を上げた。

 

「わたしの占いのこと便利な道具だと思ってない?」

 

「便利だろ」

 

「そんな簡単に言わないでよ!」

 

「頼む」

 

 シリウスの目が真剣だった。

 

 必死だった。

 

 わたしは言葉を飲み込む。

 

 いつものシリウスなら、いくらでも文句を言える。占いは地図じゃないとか、書庫目録は便利道具じゃないとか、もっと本を敬ってとか、いろいろ言える。

 

 でも、今のシリウスには言えなかった。

 

 ハリーを連れて帰れなかったからだ。

 

「……分かった」

 

 わたしはブラック家の書庫目録を取り出した。

 

 ハーマイオニーがすぐ隣に座る。

 

「条件を整理しましょう」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「ハリーに次に会える場所。できるだけ早く」

 

「ハリーの居場所そのものでもいい」

 

 シリウスが言う。

 

「今すぐ行ける場所なら、どこでもいい」

 

「横からたくさん言わないで。分かったから」

 

「マイン、無理はしないで」

 

 ルーピン先生が言った。

 

「でも、できる限り頼む」

 

 できる限り。

 

 それが一番困る。

 

 わたしは目録を両手で持った。

 

 目を閉じる。

 

 手の中の紙の重みを感じる。

 

 読みたい本を探す時とは違う。

 

 今は、必要な本を探す。

 

 ハリーに会える場所。

 

 ハリーを取り戻す手がかり。

 

 指先の下で、紙がふわりと震えた。

 

 一枚。

 

 二枚。

 

 三枚。

 

 ぱらぱらと、目録の紙がめくられていく。

 

 そして、止まった。

 

 わたしは目を開けた。

 

 そこに載っていた題名を見た。

 

「なんだった?」

 

 ハーマイオニーが覗き込む。

 

 わたしは無言で目録を机の上に置いた。

 

 全員が題名を見る。

 

 そこには、こう書かれていた。

 

『ホグワーツ特急事件』

 

 アーサーが眼鏡を直した。

 

「……ホグワーツ特急」

 

「これ以上にないくらいダイレクトに来たな」

 

 ルーピンが苦笑した。

 ハーマイオニーは首を傾げる。

 

「でも、ホグワーツ特急に乗るのは、新学期でしょう?」

 

 シリウスの顔から、血の気が引いた。

 

「新学期だと……?」

 

 声がかすれていた。

 

「間に合わない。ダンブルドアには、新学期前にダーズリー家に戻らないと守りは解けると言われている」

 

 その一言で、部屋の空気が重くなる。

 

 新学期まで待つということは、ハリーがその間ずっと白銀卿のそばにいるということだ。

 

 その間に、どれだけ記憶をいじられるか分からない。

 

 どれだけ物語を読み込まされるか分からない。

 

「もっと早く会えないのか?」

 

 シリウスがわたしを見た。

 

 縋るような目だった。

 

「もう一度だ。頼む、マイン。もっと早く会える場所を出してくれ」

 

「占いは注文式じゃないんだけど」

 

 わたしは小さく言った。

 

 でも、もう一度目録を持った。

 

 シリウスの顔を見たら、嫌だとは言えなかった。

 

 わたしは目を閉じる。

 

 もっと早くハリーに会える場所。

 

 目録を開いた。

 

 わたしは目を開ける。

 

『ホグワーツ特急事件2』

 

 わたしは目録を閉じた。

 

 静かに閉じた。

 

 できれば、何も見なかったことにしたかった。

 

「……どうだった?」

 

 シリウスが聞いた。

 

 わたしはゆっくり目録を開き直して、机の上に置いた。

 

 全員が題名を見た。

 

「2」

 

 アーサーおじさんが言った。

 

「2ね」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「続編だわ」

 

「続編いらない!」

 

 わたしは叫んだ。

 

「一冊目もまだ読んでないのに、2を出さないで! 占いなのにシリーズ展開しないで!」

 

「これは……」

 

 ルーピン先生が困ったように言った。

 

「かなり強く、ホグワーツ特急を示しているね」

 

「強すぎるよ!」

 

 わたしは目録を指差した。

 

「前にもこれくらい分かりやすいヒントを出してほしかった!」

 

「そのままだな」

 

 ムーディ先生が言った。

 

「そのまますぎるんです!」

 

「分かりやすくていいだろう」

 

「分かりやすすぎると、馬鹿にされてる気がする!」

 

 トムが疲れた声で言った。

 

「隠されたら怒るだろう」

 

「怒るけど!」

 

「ではどうしろと」

 

「ちょうどいい難易度で来てほしい!」

 

 ハーマイオニーが、こんな状況なのに少しだけ笑った。

 

「マインらしいわね」

 

「笑いごとじゃないです」

 

「ええ。笑いごとではないわ」

 

 ハーマイオニーは表情を引き締めた。

 

「でも、分かったことはあるわ。ホグワーツ特急でハリーに会える。そうなのね?」

 

 わたしは目録を見た。

 

『ホグワーツ特急事件』

 

『ホグワーツ特急事件2』

 

 ここまで押されたら、さすがに疑いようがない。

 

「たぶん」

 

 わたしは言った。

 

「ホグワーツ特急で、何か起きる」

 

「ハリーが乗るのか」

 

 シリウスが言った。

 

「白銀卿が、そう仕向けるのかもしれないわ」

 

 ハーマイオニーが考え込む。

 

「みんなの前でハリーを戻すつもりなら、ホグワーツ特急は最悪の場所よ。噂が一気に広がる。ハリー自身に、白銀卿の物語を語らせることができる」

 

 シリウスは目録を睨んでいた。

 

「新学期まで待てっていうのか」

 

「待つんじゃない」

 

 わたしは言った。

 

 シリウスがこちらを見る。

 

「準備するの」

 

 わたしは「ヘンリー・ポーターと賢者の石」を持ち上げた。

 

「白銀卿がハリーにどんな物語を読ませたのか、全部読む。どこを信じているのか、どこを置き換えられているのか、全部調べる。ホグワーツ特急の本も探す。列車の防護魔法も、過去の事件も、乗客名簿も、車内販売のお菓子まで全部」

 

「お菓子まで?」

 

 アーサーおじさんが少し驚いた。

 

「チョコレート蛙のカードに白銀卿が入っていたらどうするんですか?」

 

「それは困るね」

 

「でしょう」

 

「かなり困る」

 

 ロンが真顔で言った。

 

「食べる前に気づけるかな」

 

「ロン!」

 

 ハーマイオニーとジニーが同時に叫んだ。

 

 わたしは少し安心した。

 

 同時に叫べるなら、たぶんジニーは魔法書研究会に向いている。

 

「ハリーを取り返す」

 

 わたしは言った。

 

「そのために、まず『ヘンリー・ポーターと賢者の石』をみんな読もう。敵の手の内を知らなくちゃ」

 

 トムが目を細めた。

 

「また厄介な本を読むことになりそうだな」

 

「本は悪くないよ」

 

 わたしは即答した。

 

「悪いのは、変な読み方を押しつける人だよ」

 

「では、君はどうする」

 

「読み直す」

 

 わたしは本を叩いた。

 

「最初の一文から、全部」

 

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