スネイプ先生は激怒していた。
スネイプ先生には、青春が分からない。友情も、冒険も、ホグワーツ特急事件も、車内販売の魔女の実在に目を輝かせるアーニーの心も分かるはずがない。
スネイプ先生は、魔法薬学の教師である。地下室に住み、薬草を刻み、鍋を煮て暮らしてきた。けれども規則違反に対しては、人一倍に敏感だった。
「……説明してもらおうか」
その声は低かった。
低すぎて、地下牢から直接聞こえてくるようだった。
わたしは思った。
これはまずい。
これは、普通の叱責ではない。
これは、叱責という名の魔法薬である。材料は怒り、皮肉、減点、そしてハリー・ポッターと愉快な仲間たちで煮詰めたものだ。飲んだら最後、胃に穴が空く。
けれど、アーニーだけが小さく震えていた。
恐怖ではない。
感動である。
「……でも、『ホグワーツ特急事件』と同じだったんですよ」
「マクミラン」
スネイプ先生の目が、ゆっくりと動いた。
「今、君は何と言った?」
アーニーは、死地に赴く英雄の顔で一歩前に出た。
「先生。これは、ただの規則違反ではありません。密室、列車、車内販売の魔女、そしてハリーの消失。すべてが古典的構造に一致していたんです。これはつまり──」
「ハッフルパフ五点減点」
「まだ結論を言っていません!」
「さらに五点」
今度こそアーニーは黙った。
「君たちは、ホグワーツに入学して何年になる?」
冷たい声だった。
この声だけで魔法薬の失敗作が反省して勝手に完成品になりそうだ。
「五年です」
ハーマイオニーが答えた。優等生なので、こういう時でも質問にはちゃんと答える。
「そうだ。五年だ。しかも数名は監督生ときた。五年もこの学校に在籍していながら、君たちはいまだに、規則というものを遠い異国の民話か何かだと思っているらしい」
ロンが小さく息を呑んだ。
わたしは黙っていた。
ここで「遠い異国の民話はどこで読めますか?」と聞いたら、減点を通り越して確実に殺されることくらいさすがに分かる。
「ホグワーツ特急から逃げ出し、空飛ぶ車を使用し、オートバイを伴い、マグルの住宅街に押しかけ、校外で騒ぎを起こし、そして何食わぬ顔で戻ってきた」
「何食わぬ顔ではありません」
アーニーが真面目な顔で言った。
「かなり焦っていました」
違う。そこじゃない。
スネイプ先生の目が、アーニーを刺した。実際には刺していないけれど、わたしの目にはもう刺さって見えた。アーニーは胸を張っていた。なぜ胸を張るのか。真面目な人間はたまに勇敢と無謀の区別を本に挟んだ栞ごと落としてくる。
「マクミラン。君の発言は、減点の申請書類に添付しておく」
「申請制ということは、まだ減点されない可能性もあるんですね?」
わたしは希望に満ち溢れた顔でスネイプ先生を見た。
「黙れ」
わたしは本気で黙った。
「そしてブラック」
スネイプ先生の目が、今度はシリウスへ向いた。
「君は大人として同行していたはずだな」
シリウスの顔が、分かりやすく険しくなった。
「ああ。ハリーを助けに行った」
「助けに行った。実に感動的な響きだ。君の辞書では、マグル製品を飛ばしてマグルの住宅街に押しかけ、未成年者の無謀な行動にさらに勢いをつけることを、そう呼ぶらしい」
「お前にハリーを助ける気持ちが分かるのか?」
「少なくとも、助ける対象の周囲を事件現場にする趣味はない。実に愚かだ」
シリウスがスネイプ先生を殴りかけた。
アーサーが、すばやくその肩を押さえた。
早い。
さすが七人の子どもを育てた父親である。問題児の制御がうまい。
ただし、自分の息子たちはあまり制御できていない気もする。
「ウィーズリー氏」
今度はスネイプ先生の目が、アーサーへ動いた。
「あなたにも申し上げておきましょう。未成年者の緊急移動手段として、改造された空飛ぶ車を選択肢に入れる家庭教育には、私は以前から深い懸念を抱いています」
アーサーは、とてもつらそうな顔をした。
「……それについては、弁明の余地が少ししかありません」
「少しはあるのですか」
「車そのものは、なかなかよくできていまして、使わないのはもったいないと言いますか」
「黙れ」
アーサーは黙った。
わたしはスネイプ先生は大人も黙らせられるんだと思った。
その時、扉が開いた。
ダンブルドア先生が入ってきた。紫がかった長いローブを着て、目はいつものように半月眼鏡の奥で明るく光っている。怒っているわけではない。驚いているわけでもない。お菓子の缶を開けたら中に別のお菓子が入っていた時のような顔だった。
「ちょうどよいところじゃったな」
「校長」
スネイプ先生の声が、さらに低くなった。
「この生徒たちの行動について、私は今から——」
「皆、よくやった」
ダンブルドア先生が言った。
ロンの口が半分開く。
ハーマイオニーの眉が跳ねる。
シリウスは一瞬、勝ち誇った顔でスネイプ先生を見たが、アーサーがすばやくその袖を引いた。
スネイプ先生は、動かなかったが、急激に部屋の空気が冷えた。
「……よくやった、ですと?」
「うむ」
ダンブルドア先生は頷いた。
「ハリーは戻った。大きな怪我人も出ておらん。まずは、それを喜ぶべきじゃろう」
「この無謀な行動を、称賛なさるおつもりですか」
「称賛というより、結果への評価じゃな」
「結果」
スネイプ先生が、ゆっくりと言った。
この「結果」だけで、三十点くらい減点されそうだった。
「セブルス」
ダンブルドア先生の声が少しだけ静かになった。
「わしが、万一の時には多少の法律は破ってもよいと言ったのじゃ」
スネイプ先生の目が細くなった。
「それでも校長ですか? 子どもに法律を破っても良いとおっしゃったと」
「子どもたちだけに任せたわけではない」
「ブラックはほとんど子どものまま大人になったようなものです」
「ハリーが戻ってきたのは、よいことじゃ」
「論点をずらさないでいただきたい」
わたしは息を止めた。
大人同士の会話が、すでに決闘だった。
杖を抜いていないだけで、火花は飛んでいる。しかも言葉の火花だから、避けづらい。
ダンブルドア先生はしばらくスネイプ先生を見つめ、それからわたしたちを見た。
「皆、まだ食事の途中じゃろう。大広間に戻りなさい」
人間は怒られている最中でも、食事と言われると少しだけ生きる希望を取り戻す。
ロンのお腹が盛大に鳴り、ロンの顔が髪と同じくらい赤くなった。
「校長、しかし——」
「後で話そう、セブルス」
ダンブルドア先生は柔らかく言った。
明確にこの話は終わりだと圧をかけている。
「アーサーとシリウスもご苦労じゃった」
ダンブルドア先生がにこやかに言った。
スネイプ先生は何も言わなかった。
ただし、わたしたちを見る目だけで「後で死ぬほど後悔させる」と言っていた。声に出していないのに聞こえた。スネイプ先生の目は多機能である。
わたしたちは静かに部屋を出た。
廊下を少し進んでから、ロンが小声で言った。
「生きてる?」
「今のところ」
ジニーが答えた。
「後でどうなるかは知らないわ」
「言わないで」
ハーマイオニーが弱々しく言った。
わたしも言わないでほしかった。
大広間に戻ると、食事はまだ続いていた。
天井には夜空が広がり、蝋燭がふわふわ浮かんでいる。長テーブルの上には料理が並び、生徒たちはこちらをちらちら見ていた。途中で消えた生徒たちが戻ってきたのだから、そりゃ見る。わたしでも見る。
スリザリンの席に戻ると、ドラコがすぐに身を乗り出した。
「上手くいったのか?」
わたしは頷いた。
「うん。ハリーは戻った。スネイプ先生は怒ってた。ダンブルドア先生はよくやったって言った。スネイプ先生はもっと怒った」
「最後が一番よく分かる」
「でしょ」
ドラコはグリフィンドールの席をちらりと見た。
ハリーはロンに皿を押し付けられていた。ロンは肉とじゃがいもとパンを山盛りにしている。あれは友情である。友情は時に、皿の上で暴力になる。
「そっちは?」
わたしは聞いた。
「組み分けは終わった?」
「終わった」
ドラコは、ものすごく嫌そうな顔をした。
「組み分け帽子が、全寮で団結しろという歌を歌った」
「えっ」
「全寮だ」
「スリザリンも?」
「当然だろう。帽子は容赦がない」
わたしは思わず、教師席の方を見た。
組み分け帽子はそこにない。たぶん片付けられたのだろう。渾身の歌を歌い終えて、満足しているに違いない。
「どんな歌?」
「昔は四人の創設者が手を取り合って学校を作った。今は分断が危険だ。寮の垣根を越えて協力せよ。だいたいそういう内容だ」
こういうときの各寮生の反応はだいたい想像できた。
グリフィンドールは、自分たちは当然その団結の中心にいると思っている顔をする。ただし、その団結にスリザリンも含まれることまでは、考えていない。
レイブンクローは、解釈を始める。帽子の歌が警告なのか、予言なのか、校内情勢への反応なのか。パドマが周囲のレイブンクロー生にたくさん取材していることを考えると、羽ペン通信にその結果が載るのも近そうだ。
ハッフルパフは団結は大事だと本気で思っている。だからこそ、まず誰に話しかければいいのか分からない。グリフィンドールは勢いが強い。スリザリンはよそ者への警戒心が強い。レイブンクローは話が難しい。
ハッフルパフは、たぶん「まずお茶でも出す?」というところから始める。わたしは、それでいいと思う。世界平和は、お茶とお菓子から始まるかもしれない。
そして、スリザリン。
スリザリンの長テーブルは、一見葬式みたいになっていた。
けれど、それは「団結なんて嫌だ」という沈黙ではない。
こういうとき、スリザリン生は一番美味しいところを持っていこうとする。
全寮で団結するなら、誰がまとめるのか。誰が教師に評価されるのか。誰が他寮に貸しを作るのか。危機が去ったあと、「やはりスリザリンは必要だった」と言わせるにはどう動けばいいのか。
スリザリンは団結が嫌いなのではない。
主導権のない団結が嫌いなのだ。
だから、グリフィンドールが主導権を握る団結には興味がない。
組み分け帽子は、きっと真面目に危機感を訴えたのだろう。
でも、歌で言われても困る。歌は記録しにくい。
大事な警告は、歌より本にした方がよい。少なくとも後から見返せる。
その時、ダンブルドア先生が立ち上がった。
大広間のざわめきが、少しずつ静かになる。生徒たちの顔が教師席に向いた。わたしも姿勢を正した。
「さて、皆さん」
ダンブルドア先生の声が広間に響く。
「新入生を迎え、古い生徒諸君を迎え、今年もホグワーツの一年が始まることを、わしは大変嬉しく思っておる」
いつもの挨拶だ。
わたしは少し安心した。
ダンブルドア先生の挨拶は基本的に短い。大事なことを言って、食事に戻してくれる。話の長い大人は信用できない。特に食事中は。
「まず、毎年の注意事項じゃ。禁じられた森は、名前の通り禁じられておる。立ち入りは禁止じゃ」
知っている。
でも毎年誰かが入る。
禁じられていると書かれた扉の前で、人間はなぜか立ち止まる。本好きとしては少し分かる。「禁書」と書かれていたら読みたくなるからだ。だから森に「禁じられた」とつけたのは、たぶん失敗である。
「また、授業と授業の間の廊下で魔法を使うことも禁じられておる。とりわけ、階段を滑り台に変えること、相手の靴紐を蛇にすること、鼻から紙吹雪を出すことは慎むように」
グリフィンドールの席で、ウィーズリーの双子が同時に咳をした。
「フィルチ氏からは、校内で使用禁止となっている品物の一覧が提出されておる。細かく知りたい者は、彼の事務室前に貼り出された大変長い羊皮紙を見るとよい」
誰も見なさそうだ。
いや、ハーマイオニーは見るかもしれない。
見て、覚えて、ロンとハリーに説明して、ロンに嫌な顔をされる。そこまで見える。
「そして、教師陣にも変更がある」
大広間の空気が少し変わった。
「魔法生物飼育学は、今年からグランブリー・プランク先生が担当される」
教師席で、見慣れない先生が立ち上がった。
背はそれほど高くない。けれど、立ち方がしっかりしている。どっしりしている。大きな魔法生物に突進されても、半歩下がって受け止めそうな人だった。袖は少しまくってあって、手袋の端には焦げ跡がある。
「また、闇の魔術に対する防衛術は、ドローレス・アンブリッジ先生に担当していただく」
全身がピンク色の魔女が立ち上がった。
ものすごくピンクだった。
服がピンクなのは分かる。リボンがピンクなのも分かる。けれど、彼女の場合、声を出す前から声までピンク色をしている気がした。
「さらに、補佐としてトム・ジェドゥソール先生にも闇の魔術に対する防衛術の授業を担当していただく。ジェドゥソール先生は正式な教授ではないが、非常に優秀な魔法使いじゃ。三大魔法学校対抗試合での活躍は諸君も覚えておるじゃろう」
トムが立ち上がった。
彼が微笑んだだけで大広間がざわついた。女子生徒の何人かが小声で何か言い、男子生徒の何人かが面白くなさそうな顔をした。スリザリンの席でも、反応は割れた。見とれている者、警戒している者、何も考えていなさそうな者。
「ェヘン」
妙な音がしたが、気のせいだろうと思った。
「ェヘン、ェヘン」
気のせいではなかった。
アンブリッジ先生だった。
小さな咳払い。
咳払いというより、飾り棚に置かれた陶器の蛙が、持ち主の前だけで遠慮がちに鳴いたような音だった。
ダンブルドア先生が、アンブリッジ先生を見た。
そして、聞く体勢に入った。
その瞬間、教師席の空気が沈んだ。
マクゴナガル先生の口元が固くなる。スプラウト先生は目を伏せる。フリットウィック先生は椅子の上で少し小さくなった。
トムだけが、作り笑みを深めた。いや、あれはとても不服なときの顔だ。
レイブンクローの席で、パドマが羽ペンを取り出した。
食事中なのに、もう羊皮紙を広げている。インク瓶まで出した。完全に記者の動きだ。パドマは、料理の皿と記事の紙面を同じ机に並べられる人間である。
「校長先生、ありがとうございます」
アンブリッジ先生は、甘い声で言った。
「そして、生徒の皆さん。今夜、この歴史あるホグワーツ魔法魔術学校の一員として、皆さんにご挨拶できますことを、心より嬉しく思います」
わたしは直感した。
これは長くなりそうだ。
文章には前兆がある。一文目が丁寧すぎる話は危険だ。二文目でさらに丁寧になると、もう逃げられない。食事は冷める。肉は硬くなる。デザートは消える。
「教育とは、単に呪文を覚え、杖を振り、試験で点数を取ることではありません」
アンブリッジ先生はにっこり笑った。
「教育とは、若い心を正しい方向へ導くことです。無垢で、柔らかく、影響を受けやすい心を、危険な噂や無責任な冒険から守り、秩序ある社会の一員として育てることなのです」
ハーマイオニーが少しだけ顔を上げた。
ロンはパンを噛む速度を落とした。聞いているというより、嫌な予感がした時の顔である。
「近年、魔法社会は変化の時代を迎えています。新聞は不安を広げ、噂は廊下を走り、未熟な若者たちは、時として自分たちが大人よりも賢いと信じ込んでしまう。けれど、皆さん。若さとは美徳であると同時に、危険でもあります」
パドマの羽ペンが走る。
「皆さんの中には、英雄譚を好む方も多いでしょう。勇敢な少年が、危険に飛び込み、規則を破り、最後には拍手を浴びる。そうした物語は、たしかに心を躍らせます。けれど、現実の学校は物語ではありません。現実の子どもたちは、英雄になるために教室へ来るのではありません」
ハーマイオニーは完全に聞く顔になっていた。あれは、ただ聞いている顔ではない。後で論破するために、相手の言葉を一つ残らず分類している顔だ。
「ヘンリー——」
アンブリッジ先生は、ほんの一瞬だけ止まった。
「失礼。ハリー・ポッター氏のような生徒を、危険な物語の中心に置いてはなりません。子どもを英雄に仕立てることは、子どもを守ることではありません。子どもを危険へ追いやることです」
わたしは眉を寄せた。
今のは、ただの言い間違いだろうか。
わたしの視線が、自然とハーマイオニーに向いた。ハーマイオニーも、同じところで顔を上げていた。
ドラコは嫌な顔をしている。
アーニーは遠くの席で目を輝かせかけ、隣の誰かに肘で小突かれていた。たぶん「あっ、今の!」と言いかけたのだ。分かる。わたしも言いかけた。
「この学校には、輝かしい伝統があります。創設者たちの理念、歴代校長の努力、そして多くの卒業生の功績。それらは尊重されるべきものです。しかし、伝統とは、決して無制限の自由を意味しません。伝統とは、正しく受け継がれることで初めて価値を持つのです」
アンブリッジ先生は、さらににっこり笑った。
「自由はたいへん美しい言葉です。選択もまた美しい言葉です。信頼も、ええ、もちろん、すばらしい言葉ですわ」
なぜだろう。すばらしい言葉を並べているはずなのに、一つずつ没収されるような気がした。
「ですが、美しい言葉ほど、誤って使われた時には危険です。自由が無秩序になり、選択が無責任になり、信頼が監督放棄になる時、最も傷つくのは子どもたちです」
マクゴナガル先生の顔が、限界まで硬くなっていた。
表情だけで生徒を正座させられる顔だった。
「ですから、今年の防衛術の授業では、基礎を重んじます。認可された教科書に従い、適切な段階を踏み、危険な実技は慎重に扱われるでしょう。知識は力です。しかし、力は導かれなければなりません。適切な規律の中でこそ、知識は皆さんを守る盾となるのです」
認可された教科書の中身にあまり期待できなさそうな内容だ。
「また、学校というものは、校長お一人の理想によってのみ運営されるべきではありません」
広間の空気が、少しだけ冷えた。
「誤解のないように申し上げます。私は、この学校に深い敬意を抱いております。校長先生の長年のご尽力にも、心から敬意を払っております」
その言い方は、敬意を払っていない時の言い方では?
わたしは思ったけれど、口には出さなかった。
「けれど、敬意と監督は矛盾しません。愛情と規則も矛盾しません。むしろ、本当に大切なものほど、適切に見守られ、必要に応じて正されなければなりません」
パドマの羽ペンが速くなった。
もうただのメモではない。
記事を書いている。
あの速度は、頭の中で見出しが立っている速度だ。
「魔法省は、若い魔法使いたちの未来に責任を持っています。保護者の皆様もまた、この学校に子どもたちを預けています。であるならば、ホグワーツは、安全で、適正に監督され、保護者に対して説明できる教育機関でなければなりません」
保護者に対して説明できる教育機関。
わたしは今日の出来事を思い出した。
ホグワーツ特急でハリーを見つけた。
車内販売の魔女から逃げた。
空飛ぶ車とバイクで移動した。
マグルの家に押しかけた。
ハリーを連れ戻した。
説明? 無理だった。
少なくとも、食事中に簡単に説明できる量ではない。長い演説より長くなる。アンブリッジ先生に勝ってしまう。それは嫌だ。
「私は、皆さんの敵ではありません」
アンブリッジ先生は、ゆっくりと言った。
本当に敵ではない人は、たいていそんなことを言わない。
「私は、皆さんを守るためにここへ来ました。危険な噂から。無責任な大人から。過剰な英雄視から。許可されていない知識から。そして何より、皆さん自身の若さがもたらす無謀さから」
ハーマイオニーは怒っていた。静かに怒っていた。これは危険である。ハーマイオニーが静かに怒っている時は、たいてい後で分厚い反論が出る。
「今年一年、皆さんは多くを学ぶでしょう。杖を振る前に考えること。規則を疑う前に理解すること。自分の判断だけに頼らず、経験ある大人の導きを信じること」
トムの作り笑みが、少し深くなった。
何がそんなに面白いのか、面白くないのか、わたしは聞きたくなかった。
「ホグワーツは変わります。いいえ、より良く整えられます。古い城の壁に染み込んだ誇りはそのままに、時代にふさわしい安全性と、適切な監督を備えた学校へ。皆さん一人ひとりが、秩序ある魔法社会の一員として、正しく、穏やかに、そして品位をもって成長できる場所へ」
長い。
まだ終わらないのか。
料理がそろそろ冷める。
これはもう、教師の演説ではなく、夕食への攻撃である。
ほとんどの生徒たちは途中から食事していたが、マルフォイ家では人の話の途中に食事をしてはならないと教わる。つまり、わたしもドラコもアンブリッジ先生が話し終わるまで食事ができない。
「どうか、安心してください。皆さんの学びは、これから適切に守られます。皆さんの成長は、適切に導かれます。皆さんの未来は、適切に見守られます」
適切という言葉が、こんなに適切ではなく聞こえたのは初めてだった。
「共に、より安全で、より秩序ある、より輝かしいホグワーツを築いてまいりましょう」
アンブリッジ先生は満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございました」
拍手は、ぱらぱらと起きた。
主に、どうしていいか分からない新入生からだった。
上級生は微妙な顔をしている。グリフィンドールは露骨に不満そう。レイブンクローは分析中。ハッフルパフは困惑。スリザリンは様子見。とても寮ごとの特色が出ている。組み分け帽子はこれを見ても全寮団結と言えるのだろうか。
教師席は、もっと分かりやすかった。
拍手があまりにもまだらだった。
ダンブルドア先生は微笑んでいたけれど、目だけはあまり笑っていなかった。
トムは、微笑んでいた。完璧な作り笑みだった。
ダンブルドア先生が、静かに手を叩いた。
「ありがとう、アンブリッジ先生。さて、皆さん、残りの食事を楽しみなさい」
そう、食事だ。
わたしはようやく皿に手を伸ばした。
スープは冷めていた。
肉も少し冷めていた。
わたしは、アンブリッジ先生に対する印象を数段階以上下げた。
教育方針がどうとか、魔法省がどうとか、秩序がどうとか、難しいことはまだ整理できていない。でも、食事を冷ます大人は信用できない。これはかなり重要な判断基準である。
その時、レイブンクローの席からパドマが立ち上がった。
そして、まっすぐこちらへ来た。
目が記者だった。
完全に獲物を見つけた目だ。手には羊皮紙。羽ペンはすでにインクを含んでいる。食事をする気が一切ない。
「号外が必要」
パドマは言った。
「今?」
「今」
「食事は?」
「後」
「冷めるよ」
「もう冷めてるわ」
正論だった。
パドマはわたしの隣に座ると、羊皮紙を広げた。
パドマの羽ペンが走る。
『魔法省、ホグワーツに介入か』
早い。
『アンブリッジ新教授、就任演説で教育方針を示す』
早すぎる。
見出しがすぐに出た。
パドマは本気だ。
「マイン」
「何?」
「さっきの、聞いた?」
「言い間違いのこと?」
「聞いたのね」
「聞いた」
パドマの羽ペンが一瞬止まった。
「記事にはまだ書かない」
「書かないの?」
「今書いたら、ただの言い間違いで逃げられる。もう一度決定的な瞬間があったら書く」
さすがパドマだ。ちゃんと新聞の怖いところを知っている。
「ハーマイオニーも反応してた」
「見たわ」
「ドラコは?」
パドマが見る。
ドラコは不機嫌な顔のまま、短く答えた。
「聞いた」
「どう思う?」
「偶然なら思わず出たのだろう」
「偶然じゃなかったら?」
「悪趣味だ」
パドマの羽ペンが、また走った。
「そのコメントは使えるわ」
「使わないでくれ」
「名前は出さない」
「それならいいが」
わたしはパンをかじった。
冷めていた。
でもパンはえらい。冷めても食べられる。本とパンは偉大である。
本好きとして知っていることがある。
物語は、人の頭の中に入り込む。
好きな一文が口癖になることもある。登場人物の名前を、現実の誰かに重ねてしまうこともある。読んだ本の価値観を、自分の考えだと思い込むこともある。
それだけ物語に入り込めたということでもある。
でも、ときどきそれは恐ろしい。
「マイン」
ドラコが低い声で言った。
「何?」
「今年は面倒なことになるぞ」
「面倒なことが起きない年なんてあった?」
ドラコは答えなかった。
答えないのが答えだった。
パドマは隣で、もう記事を書き上げて署名を入れていた。
アンブリッジの演説の長さが伝わるように、演説はあえて全文出しています。
ホグワーツの新学期まで時間かかってしまいましたが、やっとアンブリッジが出せて良かったです。