本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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83話 理論は検証してこそ身につく

 

 羽ペン通信 ホグワーツ

 

 魔法省、ホグワーツに介入か

 アンブリッジ新教授、就任演説で教育方針を示す

 記者:パドマ・パチル

 

 新学期の始業式で、闇の魔術に対する防衛術の新任教授ドローレス・アンブリッジ氏が就任演説を行った。同氏は魔法省から派遣された人物であり、今年度の授業方針に加え、ホグワーツの学校運営に対する魔法省の関与を示唆した。

 

 アンブリッジ氏は防衛術の授業について、「認可された教科書に従い、適切な段階を踏み、危険な実技は慎重に扱われる」と説明した。

 五年生は今年、普通魔法レベル試験(通称ふくろう試験)を控えている。防衛術は実技を含む科目であり、授業で実技がどの程度扱われるかは今後の焦点となる。

 

 演説の中で、アンブリッジ氏は生徒を守る対象として「危険な噂」「無責任な大人」「過剰な英雄視」「許可されていない知識」「若さがもたらす無謀さ」を挙げた。

 

 この際、同氏はハリー・ポッター氏について言及しかけ、「ヘンリー──―」と言い淀む場面があった。直後に言い直されたため、単なる言い間違いの可能性もある。

 

 ホグワーツ生の一人は、本紙の取材に対し、「偶然じゃなかったら悪趣味だ」と話した。

 

 近年、『稲妻の少年』シリーズは生徒の間でも広く読まれている。同書は実在の人物や事件を思わせる描写を多く含むため、現実のハリー・ポッター氏と混同することへの懸念も一部で指摘されている。

 

 さらに、アンブリッジ氏は「許可されていない知識」という表現も用いた。現在ホグワーツには、魔法書研究会をはじめ、生徒による学習会や新聞活動が存在している。同氏の言う「認可」や「適切な監督」が、授業内に限られるのか、生徒活動にも及ぶのかは明らかではない。

 本紙は今後、同氏の授業内容および生徒活動への影響を取材していく。

 

 編集部注:「認可された教科書」「許可されていない知識」「適切な監督」という表現の具体的な範囲は、現時点で明らかになっていません。

 

 

 *

 

 

 新しい闇の魔術に対する防衛術の授業は、グリフィンドールとの合同授業だった。

 

 つまり、わたしの隣にはジニーがいた。

 

 これは心強い。

 

 グリフィンドール生は、納得できないことがあると顔に出る。かなり出る。場合によっては、もう手が半分上がっている。

 

 その隣にいれば、わたしは相対的にお行儀よく見えるはずだった。

 完璧な作戦である。

 

 教室の前には、アンブリッジ先生がいた。

 

 ピンクのカーディガン。ピンクのリボン。ピンクの靴。

 この先生がピンクが好きなのはよく分かった。

 

 その横にはトムが立っていた。

 口角は上がっている。目元は柔らかい。姿勢は完璧。声をかけられたら、どんな保護者でも「あら、感じのいい補助教員だこと」と思うだろう。

 

 ただし、わたしには分かる。

 あれは、心の中で相手を七十七通りくらい処分してから、現実で実行するのを我慢している顔だ。

 

「みなさん、おはようございます」

 

 アンブリッジ先生が、砂糖漬けにしたみたいな声で言った。

 

「おはようございます」

 

 返事はばらばらだった。

 

「今年の防衛術では、基礎を大切にします」

 

 アンブリッジ先生は黒板の前に立ち、にっこり笑った。

 

「認可された教科書を正しく読み、理論を理解し、規則に従うこと。それこそが、みなさんに必要な学びです」

 

 ここまでは、まだよかった。

 

 問題は、その次だった。

 

「したがって、この授業で不必要な実技は行いません。むやみに杖を振り回すことは、生徒のみなさんを危険な興奮へ導きます。防衛術において大切なのは、落ち着いて正しい知識を身につけることです」

 

 教室がざわついた。

 

 グリフィンドール側は、明らかに空気が悪くなった。

 スリザリン側も、別の意味で空気が悪くなった。

 

 わたしは個人的な問題を考えていた。

 実技がない。

 つまり、試さない。

 

 試さないということは、出力の差が分からない。

 同じ呪文でも、魔力量、集中力、杖との相性、発音、姿勢、対象との距離、相手の抵抗で結果は変わる。読んだだけで分かるなら苦労しない。読んで、試して、失敗して、原因を確認して、また読むから理解できるのだ。

 

 羊皮紙にメモで書く。

 

『いつもやり過ぎてしまうわたしが本番で呪文を始めて使ったらどうなるか。

 

 ナメクジとアンブリッジ先生を一緒に洗濯してぐるぐる回し始めてしまう』

 

 隣のジニーがのぞき込んだ。

 

「それ、質問したら?」

 

「しないよ。今日はお行儀よくするって決めたの」

 

「ナメクジとぐるぐる回るアンブリッジも見たいけど」

 

「さすがにそんなことにはならないから大丈夫だと思う」

 

 アンブリッジ先生は、黒板に丸っこい字で授業目標を書いた。

 

 一、認可教材を読む。

 

 二、理論を理解する。

 

 三、教師の指示に従う。

 

 わたしは姿勢を正した。

 手は机の上。口は閉じる。質問はしない。

 完璧である。

 

「なお、授業で扱うのは魔法省が認可した教科書だけです。生徒のみなさんが勝手に持ち込む雑多な本、古い本、出所の怪しい本、過激な本、実用性を装った危険な本は、学習の妨げになります」

 

 ぴしり。

 

 心の中で何かが割れた。

 

 まだ大丈夫。

 まだいける。

 古い本は悪くない。

 出所の怪しい本にも事情がある。

 

 過激な本は、過激な本として分類して、危険性を注記し、閲覧制限をかければいいだけだ。

 わたしは拳を握った。

 

 言わない。

 

 お行儀よくする。

 

「そうした本は、知識ではなく混乱を与えます。読む価値のないものも多いでしょう」

 

「先生」

 

 気づいたときには、手が上がっていた。

 

 ジニーが「あ」と言った。

 

 トムの作り笑みが、ほんの少しだけ固まった。

 

 アンブリッジ先生がこちらを見る。

 

「はい、ミス・マルフォイ?」

 

 わたしは立ち上がった。

 立ち上がってから、しまったと思った。

 座ったままなら、まだ軽傷だった。

 

「読む価値のない本という表現は、不適切だと思います」

 

 教室が静かになった。

 グリフィンドール側から、期待に満ちた気配がした。

 

 やめて。

 

 そんな目で見ないで。

 

 わたしは決闘を始めたいわけではない。

 ただ、本の尊厳を守っているだけである。

 

「本の価値は、内容、成立年代、著者、写本の系統、読まれた時代、読者層、注釈の有無、保存状態、そして比較対象によって変わります。危険な本なら危険な本として管理すればよくて、読む価値がないとは限りません」

 

 口が止まらなかった。

 

「むしろ危険な本ほど、なぜ危険なのかを知らないと危険です。禁書目録を作るにしても、分類しないといけませんし、分類するには読まないといけません。読まずに価値がないと決めるのは、教師として失格です」

 

 最後の一文は余計だった。

 ものすごく余計だった。

 

 隣にいたアストリアが机の下でわたしのローブを引っ張った。

 

 遅い。

 もう言った。

 

 アンブリッジ先生の笑顔が深くなった。

 深くなったのに、温かくはならなかった。

 

「まあ。大変熱心ですこと」

 

 これは京都人の発言と一緒で全く褒めていない。

 本に挟まっている虫より危険だ。

 

「ですが、授業中に教師の方針へ異議を唱えることは、規律を乱す行為です」

 

「異議ではなく、用語の訂正です」

 

 言ってから、またしまったと思った。

 

 ジニーが両手で顔を覆った。

 

 スリザリン側の誰かが小さく咳き込んだ。笑いを隠した咳だった。

 アンブリッジ先生は、にっこりしたまま言った。

 

「放課後、私の部屋へいらっしゃい。特別に反省の時間を設けましょう」

 

 罰則だ。

 

 完全に罰則だ。

 

 お行儀よくしていたのに。

 いや、していなかったかもしれない。

 

 でも本の尊厳は守った。

 なら仕方ないかもしれない。

 

「アンブリッジ先生」

 

 そこで、トムが口を開いた。

 

 声は穏やかだった。

 笑みも穏やかだった。

 

 ただ、わたしは知っている。

 この顔は、内心でだいぶ怒っている顔だ。

 

「ミス・マルフォイはマルフォイ家のご令嬢です。単にまだ理解が追いついていないだけかもしれません。新方針への理解不足という扱いにして、私の補習に回しておきましょう。補助教員として、授業内容の再確認を行います」

 

 アンブリッジ先生は一瞬だけ目を細めた。

 

「ですが、規律は大切ですわ」

 

「もちろんです。補習記録は提出します。授業方針への理解を深める、という形式で」

 

「形式」と聞いた瞬間、アンブリッジ先生の表情が少し緩んだ。

 

 この先生、形式という言葉が好きそうだ。

 

 羊皮紙、許可印、署名欄、認可番号。

 

 そういうものを並べたら、お茶会より喜びそうである。

 

「よろしいでしょう。では、ジェドゥソール先生にお任せします」

 

「ありがとうございます」

 

 トムは優雅に頭を下げた。

 トムの作り笑みは、さらに完成度を上げていた。

 芸術品みたいで怖い。

 

 わたしは座った。

 ジニーが小声で言う。

 

「マイン、授業開始すぐに罰則ってすごいね」

 

「本を侮辱されたから」

 

「うん。知ってたわ」

 

「わたしは悪くない」

 

「半分くらいは悪くないと思うわ」

 

「半分も?」

 

「残り半分は、教師として失格って言ったところ」

 

 そこは、たしかに反省点だった。

 

 言い方を変えるべきだった。

 

 たとえば、「教師として再教育が必要です」ならよかったかもしれない。

 

 ……いや、あんまり変わらない気がする。

 

 授業はその後、ひたすら教科書を読む時間になった。

 

 アンブリッジ先生は満足そうだった。

 グリフィンドール側は不満そうだった。

 スリザリン側は、余計なことを言わなければ今日は平和に終わると判断した顔をしていた。

 

 わたしは羊皮紙に反省を書いた。

 

『反省:本の尊厳に関わる発言があった場合、即座に発言するのではなく、まず深呼吸します』

 

 少し考えて、追記した。

 

『ただし、本を読むなと言われたら守れません』

 

 ジニーがそれを見て、肩を震わせていた。

 

 放課後にわたしは指定された空き教室に向かった。

 教室に入ると、トムは机に書類を広げていた。昼間の作り笑みは消えている。

 

 代わりに、ものすごく冷静な顔をしていた。

 

 これはこれで怖い。

 

「座って」

 

「はい」

 

 わたしは素直に座った。

 

 今日はもう反論しない。

 反論しないと決めた。

 

「まず聞くけど、君は本当に授業中に教師へ向かって『教師として失格』と言ったのか?」

 

「言いました」

 

「なぜ少しもごまかさない」

 

「言ったことは言ったので」

 

「それでもスリザリン生か?」

 

 トムは眉間を押さえた。

 わたしは身を乗り出す。

 

「トム、なんとかして」

 

「すでにしたよ。だから君はアンブリッジの部屋ではなく、ここにいる」

 

「もっとなんとかして。実技がない授業だよ! 試さないと出力の差が分からないのに」

 

「それを授業中に言わなかった点は評価しよう」

 

「言ったらまずかった?」

 

「かなりまずいね」

 

「でも本のことは言わないと」

 

「そこが問題だ」

 

 トムは羽ペンを置いた。

 

「君は自分では礼儀正しくしているつもりだろう」

 

「うん」

 

「実際には、禁書庫に火がついたときの司書のような顔をしている」

 

「それは仕方ないよ。禁書庫に火がついたら大事件だもの」

 

「比喩だ」

 

「比喩でも大事件だよ」

 

 トムは、また眉間を押さえた。

 

「アンブリッジは、実技を危険視している。杖を振らせない方針は魔法省の意向でもあるだろう」

 

「防衛術なのに?」

 

「防衛術だからだ。生徒が防衛できるようになると困る者もいる」

 

 嫌な言い方だった。

 けれど、たぶん正しい。

 

 わたしは机の上で手を握った。

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「課外で訓練する」

 

 わたしは顔を上げた。

 

「できるの?」

 

「できる形にする。少なくとも、僕が補助教員として生徒の質問に答えることは禁じられていないからね。認可教材の理解を補助する名目なら、書類上は通せる可能性がある」

 

「実技は?」

 

「理論確認のための最小限の実演、とでも書けばいい」

 

「言葉ってすごいね」

 

「使い方を間違えると君のようになる」

 

「ひどい」

 

 トムは涼しい顔で続けた。

 

「実技の練習をしてほしい者を連れてきなさい。訓練につきあう」

 

「本当に?」

 

「ああ。ただし、派手に募集するな。アンブリッジに正面から喧嘩を売る必要はない」

 

「でも、どうやって集めるの? こっそり声をかけたら、絶対に漏れるよ」

 

「それは君が上手く考えて」

 

 ひどい。

 でも、声をかけて回るのは危ない。

 

 廊下で「実技訓練に来ない?」なんて言ったら、三歩以内にグリフィンドールが騒ぎ、五歩以内にスリザリンが情報を売り、七歩以内にアンブリッジ先生が桃色の笑顔で現れる。

 

 もっと自然に、もっと目立たず、でも必要な人に届く方法。

 

 わたしは考えた。

 そして、ひらめいた。

 

「広告だ!」

 

 トムが目を細めた。

 

「何の広告だ?」

 

「羽ペン通信に載せるの。記事じゃなくて広告。生徒だけが読めるようにする」

 

「……君は本当に厄介な手段を思いつくな」

 

 わたしは鞄をつかんで立ち上がった。

 

「パドマに相談してくる」

 

「待て」

 

「何?」

 

「広告文に『実技』『防衛』『訓練』『アンブリッジ』の四語を入れるな」

 

「それ、ほとんど何も書けないよ」

 

「パドマなら上手くやる」

 

 なるほど。

 

 図書室の隅にある魔法書研究会の溜まり場は、その日も紙とインクの匂いがした。

 

 パドマは羊皮紙をまっすぐ並べ、赤インクで見出しに線を引いていた。隣にはジニーがいて、クィディッチ欄らしき原稿をのぞき込んでいる。今年のクィディッチ選手が誰になるかを予想したものだ。

 

 ロンもいた。

 なぜいるのかは分からないけれど、ロンは羽ペン通信に関係があるとき、だいたい何か食べながらそこにいる。

 

「パドマ」

 

「何?」

 

 パドマは顔を上げた。

 その目は、すでに「面倒なことを持ってきたわね」と言っていた。

 

 ひどい。

 まだ何も言っていないのに。

 

「羽ペン通信に広告を載せたいんだけど」

 

「広告?」

 

 パドマの眉が少し動いた。

 ジニーがぱっと顔を上げる。

 

「マインが広告? 本の買い取り?」

 

「違うよ。トムの課外授業」

 

 パドマの赤インクの羽ペンが止まった。

 ジニーの顔が明るくなった。

 ロンがパンをのどに詰まらせた。

 

「今、ものすごく危ない言葉が聞こえた気がするんだけど」

 

「ロンは聞かなかったことにして」

 

「聞こえた時点で無理だろ」

 

 パドマはゆっくりと羽ペンを置いた。

 

 これは、断るための沈黙ではない。

 どこまで危ないかを測っている沈黙だ。

 

「課外授業って、何をするの?」

 

「認可教材の理解を深めるために、読むだけでは分からないところを補助教員と確認する」

 

「言葉を薄めたわね」

 

「薄めてないよ。濃度を適切に調整しただけ」

 

「それを薄めたと言うの」

 

 パドマはため息をついた。

 どう載せれば紙面ごと没収されないか考えているため息だった。

 

「アンブリッジに見つかったら?」

 

「だから、生徒だけが読める広告にしたいの」

 

 言った瞬間、ジニーが身を乗り出した。

 

「最高」

 

「最高じゃないわ、ジニー。これは学校新聞が検閲逃れに加担する話よ」

 

「でも記事じゃなくて広告だよ」

 

 わたしは大事なところを強調した。

 

「広告なら、羽ペン通信の意見じゃないよね?」

 

「広告にも掲載責任はあるわ」

 

「じゃあ、広告主の責任も書く」

 

「広告主は誰?」

 

「ジェドゥソール先生」

 

「補助教員の名前をそのまま載せる気?」

 

「じゃあ、匿名希望の補助教員」

 

「怪しすぎる」

 

「理論検証読書会」

 

「危険すぎる」

 

「杖を振らないとは言っていない読書会」

 

「正直すぎる!」

 

 ジニーが机に突っ伏して笑い始めた。

 

 ロンは「それ、絶対怒られるやつだ」と言いながら、なぜか少し楽しそうだった。

 

 パドマは額に手を当てる。

 

「まず、広告文は直接的に書けない」

 

 パドマは羊皮紙の端を引き寄せた。

 

 赤インクではなく、黒インクの羽ペンを取る。

 その瞬間、わたしは勝ったと思った。

 書き始める人は、だいたい味方である。

 

「教師が読むと普通の広告に見えて、生徒が読むと意味が分かる形にするなら、どうする?」

 

「そこを相談しに来たの」

 

「正直でいいわね」

 

 パドマは羊皮紙に短く書いた。

 

『認可教材をもっとよく読む会』

 

 わたしは首を傾げた。

 

「地味」

 

「地味だからいいの。教師が見ても問題ない」

 

「なるほど!」

 

 わたしは感動した。

 

 パドマはすごい。

 新聞を作る人は、言葉の隙間に橋をかけられる。

 わたしなら正面から「実技が必要です」と書いて、紙面ごと没収されるところだった。

 

「日時は?」

 

「トムが調整するって。実技の練習をしてほしい人を連れてきたら、訓練につきあうって言ってた」

 

 ロンが目を丸くした。

 

「あの元代表選手のトム・ジェドゥソールだろ?」

 

「うん」

 

「それ、行きたい奴めちゃくちゃいるぞ」

 

「だから広告にしたいの」

 

「広告にしたらもっと増えるだろ」

 

「必要な人に届くならいいでしょ」

 

「問題は、必要ないのに騒ぎたい奴にも届くことだな」

 

 それはたしかに問題だった。

 

 グリフィンドールには、必要ないのに騒ぎたい人がけっこういる。

 

 いや、必要はあるのかもしれない。

 

 防衛術の実技は必要だ。

 

 でも、騒ぎたい気持ちもかなり混ざる。

 

 パドマはすぐに現実的な顔になった。

 

「参加希望者は編集部に直接来させない方がいい。ここが目立つ」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「広告に合言葉を入れる。合言葉を知っている人だけが、別の場所で申し込めるようにする」

 

「別の場所?」

 

「図書室の返却箱」

 

「本に迷惑がかかるからだめ」

 

「即答ね」

 

「本は巻き込まない」

 

 ジニーがまた笑った。

 

 パドマは少し考える。

 

「じゃあ、羽ペン通信の購読申し込み箱。広告の下に『詳細希望者は、質問票を投函してください』と書く。教師には読書会の質問に見える。生徒は合言葉を書く」

 

「合言葉は?」

 

 パドマは羽ペンを動かした。

 

『理論は検証してこそ身につく』

 

 わたしは机に手をついた。

 

「それ!」

 

「危ないけれど、ぎりぎり読書会にも見える」

 

「実技っぽい」

 

「実技とは書いていない」

 

「防衛術っぽい」

 

「防衛術とは書いていない」

 

「すごい」

 

「新聞は言葉で殴るものじゃないの。言葉で通路を作るものよ」

 

 名言だった。

 

 今度、羽ペン通信の壁に貼った方がいいと思う。

 ロンが広告案をのぞき込む。

 

「でもさ、これ、アンブリッジ先生が読んだらどう見えるんだ?」

 

 パドマは別の羊皮紙にすらすら書いた。

 

『認可教材をもっとよく読む会

 読むだけでは分からない箇所を、補助教員と確認します。

 規則を守り、正しい理解を深めましょう。

 詳細希望者は質問票を投函してください』

 

「先生にはこう見せる」

 

「うわ、つまんなそう」

 

 ジニーが顔をしかめた。

 

「だからいいの」

 

 パドマは涼しい顔だった。

 

「生徒向けには?」

 

 わたしが聞くと、パドマは同じ文面の余白に、小さく追記した。

 

『合言葉:理論は検証してこそ身につく』

 

「この一文だけ、生徒に読めるようにする」

 

「どうやって?」

 

「そこは魔法書研究会の得意分野でしょう? いつもウィーズリーの双子の悪戯専門店の広告でやっているみたいに、生徒にしか表示されないようにすれば完璧よ」

 

 わたしは胸を張った。

 

「任せて」

 

 ロンが心配そうな顔をした。

 

「マインに任せて大丈夫か?」

 

「本の保護と暗号なら大丈夫だよ」

 

「その二つが並ぶと、急に大丈夫じゃなく聞こえるんだよな」

 

 わたしはちゃんと本を守る。

 暗号も守る。

 たぶんトムの胃も少しは守る。

 

 パドマは広告案を折りたたみ、羽ペン通信の原稿束に挟んだ。

 

「載せるわ。ただし、紙面上は広告。編集部は授業内容に関与しない。質問されたら、認可教材の補助的読解会だと答える。アンブリッジ先生を直接刺激する文言は使わない。いい?」

 

「うん!」

 

「それから、広告料」

 

 わたしは固まった。

 

「広告料」

 

「当然でしょう。紙もインクもただじゃない。検閲の危険まで引き受けるなら、割増料金」

 

「割増」

 

 ジニーが笑いをこらえながら言う。

 

「マイン、本で払えば?」

 

「本はだめ。手放せない」

 

「そこは即答なんだ」

 

 パドマはさらに追い打ちをかけた。

 

「初回は、魔法書研究会のおすすめ本リストを一面下に提供して。見出しはこちらでつける」

 

「おすすめ本リスト!」

 

 それなら払える。

 むしろ払いたい。

 

「題は?」

 

 パドマは羽ペンを構えた。

 

 わたしは少し考えてから、胸を張った。

 

「『読むだけでは終われない本』」

 

 パドマは一瞬黙り、それから小さく笑った。

 

「採用」

 

 ジニーが手を叩いた。

 

 ロンが「絶対アンブリッジに見せるなよ」と言った。

 

 わたしは大きくうなずいた。

 

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