TCG対ルールが同じだけの別の何か   作:乾き塩

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今年初めての頭空っぽにした作品なので供養


風呂上がりに猫

 

 風呂上がりにホットミルクを片手に、マテリアルヒーローの動画を見る。それが雛鶴の日課であり、毎日の楽しみでもあった。

 公式戦のバトルからエンタメの配信まで。新しい動画をチェックし、目ぼしいものがなければお気に入りの動画を見る。それがいつものルーチンだ。

 この日もフォローしている投稿者の新着動画を見終え、満足感から来る余韻を味わいっていた。

 とはいえ、目当ての動画が見つからなかったのは残念に思っていた。教師として生徒の試合を見たかったと思う反面、一人のプレイヤーとして噂に聞くハイレベルなバトルを見てみたかったとも思っていた。

 

「結局、目的の動画は見当たらず、か」

 

 改めてサイトを探しているが、八月にあった大会のバトル動画は出回っていないようだった。スレッドには大量のアンチが湧いていたのもあって、この騒ぎが沈静化するまでは動画は出回りそうになかった。

 そうなると実技授業の方が先に行われる。杯月の実力は当日まで知れそうにないと、肩を落とした。

 そろそろ切り上げようか。そう考えていたところで、今日投稿されたばかりの動画が目に入った。

 編集で文字などを加えた派手なサムネイルが主流となる中、その動画のサムネイルは一見すると何もない風景のみだった。

 動画タイトルも、二人分のイニシャルと昨日の日付が記載されているのみ。業務報告のような簡素さが感じられた。

 投稿されたのは今日の夕方のようだが、時間の割には再生数とコメントが伸びている。

 今では絶滅危惧種となった地味な動画。冷やかし程度に見る物好きが再生したのだろうと、再生数が伸びた理由を予測していた。

 

 ────それでも、多いような…………? 

 

 その理由があっても多い気がした雛鶴が、動画を再生する。広告の後に出て来たのは、固定されたカメラで撮影された動画だった。

 

 

 …………

 

 ………………

 

 …………………………

 

 動画投稿を始めよう。

 そう言い出したのは玲霧だった。

 中学に入学した頃から、俺たちのバトルを映像で残したいと言っていた。

 主な目的はマテリアルヒーローの研究の為。バトルを振り返り、検討するのが目的だった。

 反対する理由もなかったので、何度か家にあるカメラを使って撮影もした。

 

 ただ何度か撮影をしたところで、動画を保存しておく場所に困ってしまった。それぞれの家にもパソコンはあるものの、家庭用のそれは容量に余裕はない。

 複数の動画を撮り溜めておくには、心許ない。USBなどを使う案も出たが、金銭的な理由からそれも却下となった。

 金がかからず、いくつもの動画を保存できる場所。そんな都合のいい場所を考えた結果、動画を投稿して動画サイトを保管庫代わりにしようという流れになった。

 

 大会の優勝賞金もあるので、撮影用のカメラやそれなりのスペックがあるノートパソコンは揃えられた。

 研究目的なので、携帯や他の端末からでも動画を見られる方がいい。一応、バックアップはとっているものの、ログインをする手間が省ける投稿サイトを使う機会が一番多くなりそうだった。

 

 で、記念すべき初投稿は厳正なくじ引きの結果、俺と龍美のバトルとなった。互いのデッキをセットし、龍美の先攻からバトルが始まる。

 

「いくよっ! 『竜導の花』をフィールドに設置! 『竜導の花』をコストにドラゴンを召喚する時、そのコストを軽減する! 『幻影龍イクリプス・ミラージュ』を召喚!」

 

 龍美の召喚と同時に、フィールドに一体のドラゴンが現れる。その隣には、さっきまで存在しなかったもう一体のドラゴンの姿があった。

 

「ミラージュの効果発動! ドラゴン族ヒーロー『轟天のサンダードラゴン』を召喚する!」

 

 ミラージュの効果で召喚されたドラゴンは能力が使えず、自ら攻撃もできず、コストとしても使えない。文字通りの幻影の存在だ。

 ただミラージュが破壊されてもフィールドに残るので、強力な壁としてドラゴンを喚び出す事はできる。喚び出すドラゴンに制限がないので、壁役のみとは言え最上位ドラゴンすら召喚できる中々に厄介なカードだ。

 

「スペル『疾風怒濤』! このターン、同じ種族のヒーローを二体以上召喚している時、召喚した中で一番低いクラスのヒーローと同じクラスのヒーローを召喚する! ボクが召喚したのは、上位のミラージュと最上位のサンダードラゴン! よって、上位のドラゴン『バサーク・アックスドラゴン』を召喚!」

 

 一体は制限がかかっているとはいえ、最初のターンでこれだけの展開を見せるのはさすがと言ったところか。

 俺は見慣れてるから相変わらずだなと思うだけで済むが、大会では対戦相手が早々に心折られてたな。何もしないうちから降参する事も珍しくなかったし。

 で、バサークが来たって事は、来るか。

 

「バサーク・アックスの効果発動! ミラージュを破壊し、あらゆる状況での攻撃を可能とする! バザーク・アックスでダイレクトアタック!!」

 

『バサーク・アックスドラゴン』は攻撃が出来ない状態でも、自分のヒーロー、一体を破壊する事で攻撃が可能となる。たとえ攻撃が出来ない理由が、カードの効果によるものだろうとルール上のものだろうと関係ない。

 初手のダイレクトアタックで、俺のライフが削られる。ライフが山札に戻るのを横目に、龍美のターンエンドに合わせてカードを引く。

 

「随分と張り切ってるな。んじゃ、おっさんも頑張りますかね。マテリアル『駐車禁止の標識』を設置。その効果で手札の『電球』を捨て、山札から『マジックテープ』を手札に加える。『電球』の効果を発動! このマテリアルが墓地に送られた時『三日月宗近』を相手の墓地に出現させる」

 

 一振りの刀のマテリアルが、龍美の墓地に送られる。いや、生み出されると言った方が正しいか。

 俺のデッキや手札から送られたわけではない。『電球』が破壊されるたびに『三日月宗近』が相手の墓地に生成されている。

 

「『三日月宗近』の効果を発動! 『三日月宗近』を除外する事で、相手のマテリアルを破壊する効果を強制で発動させる!」

 

 宗近の効果は墓地から除外された時に相手のフィールドにあるマテリアルを、一枚破壊するというもの。宗近自体は龍美の墓地にあるので、相手のマテリアル。つまり、俺のマテリアルを一枚破壊するという効果になっている。

 効果によって、標識が墓地に送られる。それを一瞥し、口元が緩む。

 

「…………あっ! 待って! それだけはダメ!!」

 

「悪いな。戦いは非情なんだよ」

 

 狙いに気付いた龍美が目に見えて慌てる。気持ちは分かるが、打てる手があるのにそれを使わない理由がない。

 龍美を相手に手段を選んでたら、絶対に勝てないしな。

 

「マテリアルを破壊した事で『三日月宗近』の更なる効果を発動してもらうぜ。今からお前の服装は、もふもふの着ぐるみ猫パジャマだ」

 

「にゃ────っ!!!???」

 

 即座に語尾を変えるあたり、気合が入ってるな。なんて冗談を言ってる間に、龍美の服が変わる。演出も何もなく、最初からそうだったかのような変化だ。

 悪いな、サービスシーンは無しだ。

 

 今回の猫パジャマは白猫をイメージしたもののようで、ふわふわもふもふの白い毛が生え揃っている。

 驚いている龍美の感情を示すように、腰の辺りについてる尻尾とフードについた猫耳がピンッ! と伸びていた。

 

 こうなると戦術は確定したようなもんだ。予防策を張りつつ、手を進めていこう。

 

「バトル中に相手の服装が変わった事により、手札の『マジックテープ』の効果を発動! このカードを除外し、山札から相手の服装に関連したカード、『またたび』を設置する! 『またたび』の効果を発動! このカードを寝かせる事で、相手の手札を一枚破壊する!」

 

「くっ!」

 

 龍美の手札一枚を選んで破壊する。破壊されたのは『姿なき墓標』。除外されたヒーローをフィールドに召喚するというスペル。

 早いうちに破壊できたのは、運が良かったな。龍美の強運を考えると、これがベストな結果に繋がりかねないから恐ろしいんだけどな。

 俺はこれでターンエンド。『またたび』がフィールドに出た以上、龍美は速攻を仕掛けるしかなくなった。

 龍美が着ている猫パジャマは可愛いだけじゃなく、俺の特殊勝利の条件の一つでもある。あと三枚。カードが揃えば、その時点で龍美の負けだ。

 

「ボクのターン! 『古代樹の葉』を場に出し、効果発動! サンダードラゴンを破壊! カードを一枚ドローし、高位ドラゴン『竜の騎士ヴァルツ』を召喚!」

 

『古代樹の葉』は、破壊したヒーローのクラスにより発動する効果が変わるマテリアル。最高位のヒーローを破壊した時の効果は、カードを一枚ドローする上に高位のヒーローを一体召喚できるというもの。

 この効果の処理はコストではなく効果によるものなので、ミラージュドラゴンで召喚されたヒーローも対象にできる。

 

「『竜の騎士ヴァルツ』の効果発動! このターン、バサーク・アックスは追加でもう一つ、ライフを攻撃できるようになる! 更に! 『古代樹の葉』をコストに『絡繰龍・怒髪天衝』を召喚! いくよ一斉攻撃!! 絡繰龍のダイレクトアタック時の効果! 相手のフィールドにあるマテリアルを破壊する!!」

 

 一気に四枚のライフが削られると同時に、『またたび』が破壊される。ライフは残り1。

 龍美がターンの終了を宣言する。もう一踏ん張り。こっからが勝負だ。

 

「いくぞっ! 『いい感じの棒』を設置! そして『絆の証明』を発動!! こいつを『量産型探知機α』に変化させる! 『いい感じの棒』を素材に、探知機を召喚!! 効果発動!! 山札の上から五枚をめくり、下位マテリアルを手札に加える!! 山札をめくる際に、デッキにある『でんでん太鼓』の効果を発動!! このカードを除外し、好きな女の名前を叫ぶ事で山札のカードを5枚選んで抜き取り、山札をシャッフルしたのちに好きな順番で山札の上に乗せる」

 

 ある意味とんでもない対価。とはいえ、俺の勝ち筋がこれ以外にないのも事実。腹括るしかねえか。この歳になって、黒歴史をネットに晒す事になるとは思わなかったな。

 深く息を吸い込む。あまり声が小さいと、声が足りないという事で効果が不発に終わる事がある。こうなったら、徹底的にやってやる。

 

「すぅ〜〜〜〜っ! 龍美ぃっ!! 豊寿ぅっ!! 玲霧ぅっ!! 好きだぁ────────っ!!!!!!」

 

 …………何やってんだろ、俺。いい歳したおっさんが、女子中学生にカメラの前で告白とかただの事案じゃね? 中身の問題だから、逮捕も何もないんだけど。

 ただ思いの丈は認められたようで、『でんでん太鼓』の効果が発動する。下位のマテリアル五枚を選んで山札の上に並べ、探知機の効果で全てを手札に加える。

 

「『お徳用味噌汁六食セット』と『白飯』、『お湯』を設置し、混ぜ合わせて『ねこまんま』へ進化させる。『ねこまんま』の効果を発動。『ねこまんま』を破壊し、山札から猫シリーズマテリアル『猫じゃらし』『キャットタワー』『キャットハウス』を設置する」

 

 これで勝利に必要なのはあと二枚。

 

「手札の『紙飛行機』を除外し、墓地の『またたび』をフィールドに戻す!」

 

「そうはさせない!! 絡繰龍の効果発動!! 絡繰龍を破壊し、今発動したマテリアルの効果を無効化する!!」

 

「させるかよっ! 除外した『紙飛行機』を解体し、『折り鶴』に変化させる! カードの名前が変わった事で、絡繰龍は効果を無効化できずに破壊される!!」

 

「やっぱり、そう来るよね」

 

「こいつでしまいだっ!! 探知機をコストに『けりぐるみ』を設置する! 相手プレイヤーが猫パジャマを着た状態で、『猫じゃらし』、『キャットタワー』、『キャットハウス』、『またたび』、『けりぐるみ』が揃った事により、俺の勝利となる!!」

 

 条件を満たしての勝利。動画一発目からかなり特殊なバトルとなっているが、俺たちらしいかもしれない。バトルは終了し、一旦フィールドが解除される。部屋の隅にあるカメラを止めようと手を伸ばすと、横からの衝撃を受けて仰向けに倒れる。

 なんかデジャヴ…………

 そう思って視線を下すと、羞恥で顔を真っ赤にした豊寿が俺を見降ろしていた。豊寿さんや、カメラが目の前という事を忘れてやしませんかね? 

 

「…………言い残す事はある?」

 

「…………おっさん相手に子供気ないと思わないか?」

 

「意味わかんない!!」

 

 パチンッ!! という張りのある音が部屋に響いた。

 

 

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