TCG対ルールが同じだけの別の何か   作:乾き塩

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頭空っぽで手を動かしていたら書けたので供養



パイプ椅子で殴れ

 

 人が集まるところにイベントあり。有名な観光地とかだと、不定期にイベントをやっている。というのが、俺のイメージだ。

 祭りのような大々的なものもあれば、特別なお土産を売っているだけのささやかなものまで。前世では金なし暇なしおっさんだったので、本当のところは分からない。あくまでもイメージで、真偽は定かではない。

 ただこの世界では、有名な観光地では繁忙期にイベントをやっている事が多い。そしてこの世界のイベントとなると、必然的に『マテリアルヒーロー』関係のものになる。

 つまり、八月の真っ只中。夏休みシーズンの海で、『マテリアルヒーロー』関係のイベントが開かれていてもおかしくないわけで。

 それが大会ともなれば、うちの幼馴染が興味を持たないわけがない。

 一学期末のテストを無事に乗り越え、夏休みに海にまで来て大会に参加する。この色々と無駄にしてるとしか思えない行程も、学生らしいと言えば学生らしいのかもしれない。

 それはそれとして…………

 

「…………なんで俺が参加する事になったんだ?」

 

「仕方ないでしょ。水着を着た男しか参加できないんだから。うちだと、アンタくらいしかいないじゃない」

 

「参加しないって選択肢は?」

 

「優勝賞金十万円。これだけあれば、この夏休みが素敵なものになると思うのだけど」

 

「杯月はボクたちとしか戦ってないでしょ? 色んな人と戦うのは面白いから、杯月にもその面白さを知ってほしいんだ!!」

 

 金の玲霧と純粋な龍美。

 それぞれの理由から、俺に大会への参加を勧めた。というより、俺が知らない間に参加の手続きを済ませていた。

 俺のプレイスタイル。というより、俺の使うカードの性質上、あまり人に見られたくはないんだけどな。ぶっちゃけ、俺の使うカードって『マテリアルヒーロー』を馬鹿にしてるかのような物ばかりだし。

 ドラゴン相手に日用品で対抗して、脈絡のない能力を使うんだから。この大会が終わる頃には、ブーイングの嵐を向けられそうだ。

 

 …………と思っていたのが、大会開始前。思えば、最弱の俺しか参加できないというのが、フラグそのものだったのかもしれない。

 

 初見殺しとも言えるカードのおかげで、俺は順調に勝ち進んでいった。SFやファンタジーがごっちゃになっている『マテリアルヒーロー』とはいえ、日用品が当たり前のように飛び出してくる事は普通ではない。

 凶悪な顔をした空飛ぶリンゴが、普通のリンゴにぶつかって落下する光景は観客どころか審判すら呆気にとられていた。

 ブーイングがないだけ良しとしよう。俺が出る試合は盛り上がりに欠けるので、大会の運営陣に申し訳ない気持ちになる。

 そんな俺の試合と対照的に、異様に盛り上がっている試合があった。どうやらイケメンで強い選手がいるらしく、女性の観客がそれで盛り上がっているようだった。

 もっとも、我が幼馴染三人は一切興味を示していない。三人の将来(婚期)が不安になってくる。

 それからしばらくして、なんだかんだで決勝戦まできた。大きな大会でもないので、参加してる選手も強いとは言えない。

 こればかりは俺の才能とかではなく、幼馴染三人に知らず知らずのうちに鍛えられてるからそう感じるだけだろう。やっぱ、あの三人はかなりの規格外だわ。

 

「それでは、決勝戦を始めます!!」

 

 審判の掛け声に観客が沸き立つ。

 大会の規模こそ小さいが、ここは観光地。観客には事欠かない。おかげで、かなりの盛り上がりを見せていた。

 最初に呼ばれたのは俺だった。ステージ袖から出て、審判のいる台の前にまで来る。いつもは不思議空間で戦っているから、こういう台でバトルするのはこの大会が初めてだったりする。

 デッキを喚び出し、台の上にセットする。試合のたびにやっているのだが、観客席からは変わらず小さなどよめきが聞こえる。

 

「あいつ、どこからデッキを出したんだ…………?」

「そりゃあ、どこかに隠して…………」

「あの水着、ポケットもないみたいだけど」

「いやいやいや! あれって、プロでもできる方が珍しいだろ!! それを…………」

 

 ここでも常識にズレがあった。バトル用の謎空間を作れるのは、優れたプレイヤーのみ。らしいが、デッキを異空間から喚び出せるのは、その中でも更にずば抜けた才能の持ち主らしい。

 龍美も、豊寿も、玲霧も、当たり前のようにやっているので、今日までその事を知らなかった。

 言われてみれば、街中ではデッキホルダーを持ち歩いている人間の方が多いように思える。てっきりファッションの一部と思っていたが、そうではないらしい。

 ただ、俺に才能があるというのは間違いだ。俺のデッキは、知らないうちに数を増やしていくカードで構成されている。

 つまり出所不明の普通じゃないカードなので、才能の有無は関係ない。多分、普通のカードが一枚でも混ざれば、これもできなくなるだろう。使いこなせないカードを入れる気もないし、これも便利なので現状維持は確定ではあるけど。

 

「やあ、君が決勝の相手だね。よろしく」

 

 対戦相手は、テンプレのような爽やかイケメンだった。テンプレすぎて裏があるように思えてしまうのは、おっさんの悪い癖だ。

 まあ裏があったとして、だからなんだとも言える。完璧超人より、欠点がある方が親しみは持ちやすい。うちには玲霧という、とびっきりの完璧超人(色ボケ)がいるしな。

 

「無名でありながら、凄まじい実力と才能を持った橋場選手!! 対するは、若くしてプロのトップランカーに名を連ね、その甘いマスクで多くの女性を虜にする白時(はくじ)選手!! こんな小さな大会で起こるべきではない、ハイレベルなバトルが繰り広げられようとしています!!!」

 

 なぜか卑屈になっている審判を横目に、台を挟んで対峙するイケメンに目を向ける。

 こいつ、プロだったのか。龍美たちはプロの試合とか見ないから、俺も自然と見ないようになっている。だから有名な選手と言われても、顔も名前も分からない。

 もしかしたら知ってるかもしれないが、多分、政治家や歴史上の偉人のカテゴリーで記憶してる。だってこの世界、政治の場はもちろん、紀元前ですら『マテリアルヒーロー』で戦ってる描写がある。そして全然違う歴史を歩んでるので、知らない名前が当たり前のように教科書に載っている。

 山田太郎という武将が織田信長のポジションにいたと知った時は、授業中であるにも関わらず吹き出したくらいだ。

 

「そう緊張しなくてもいいよ。ここで負けたとしても、僕が相手なんだ。公式記録では、実質の優勝として記録されると思うよ」

 

「はぁ…………」

 

 どんな闘い方をするか知らないが、たいした事なさそうだというのが素直な感想だった。本気じゃないというのもあるのかもしれない。

 しかし気楽なバトルであっても、龍美たちが相手では肌がピリつくような感覚があった。

 試合を見ていればイケメンの実力は分かったのだろうが、見ていないものは仕方ない。

 せめて、油断はしないようにしよう。

 

 他の試合を見ていなかったのは、余裕をかましていたけではない。他の試合が行われている最中、大会に触発された龍美たちとバトルしていただけだ。

 待ち時間の間にバトルするというのは、ある意味で一番の舐めプかもしれない。少なくとも、ゆっくり休めはしなかった。

 ちなみに、戦績は三戦三敗。小規模とはいえ大会で決勝まで来た選手が、裏で全敗しているという珍事が起こっていた。

 

 というか、こいつなんて言った。公式記録? え、なんか記録とられてるの? 

 審判は何も言わないから、間違った事は言っていないのだろう。視線を反対に向け、観客席の最前列にいる幼馴染三人に視線を向ける。三人とも白時の声は聞こえていたようで、俺の問いかけるような視線に首を横に振っていた。

 どうやら、何も知らないらしい。

 え、怖…………

 

 疑問を抱いている間に、試合開始の合図が宣言がされる。場所は大会のステージのまま。不思議空間には変わらなかった。

 やはり、俺の実力なんてその程度なんだろう。プロをやってる奴が、あの空間を作れない実力とは思えないし。プロの実力がどんなものか知らないけど、強いのは間違いないだろうし。

 

「僕が先攻だね。スペル『陣地設営』を発動。手札にある装備マテリアル三枚を破壊し、山札から『ナイトソード』、『ナイトアーマー』、『ナイトロッド』を場に出す。そしてそれぞれのマテリアルを使い、『ソードナイト』、『アーマーナイト』、『ナイトウィザード』を場に出す。どうだい? この展開力こそ、僕のデッキ。白銀騎士団の強みさ」

 

 瞬く間に下位のヒーローを三体揃えた白時が、得意げな顔を浮かべる。それに釣られて、観客席から黄色い歓声が聞こえてくる。一瞬だけ聞こえた感嘆の声も、掻き消された。

 能力がなく、攻撃力も大した事のないヒーローを三体揃えただけだから、反応に困るんだがな。

 ヒーローは専用の山札があり、条件を満たせばその中から好きなヒーローを選んで場に出せる。なのでマテリアルを出せさえすれば、ヒーローは必ず出せるのだから。

 

 同じ下位のヒーローでも、玲霧ならこのターンで五体は揃えてる。それもシナジーを重ねて、全てが中位以上の攻撃力を持っているだろう。

 龍美なら一体とはいえ、上位のドラゴンそのものかそれを喚び出す為の準備を終えている。

 豊寿はヒーローどころかマテリアルが出るかも怪しい。が、スペルで防御どころか、相手のフィールドを殲滅する準備を終えるだろう。

 これも何かの下準備と考えるべきか。得意げな顔になっているのは、これが全てだと思わせる盤外戦術と見ておくべきだ。

 

「僕はこのままターンエンド。さあ、君の番だよ」

 

 一番最初のターンは攻撃できないルールになっている。

 …………やっばり、舐められてるのだろう。直接攻撃はしなくても、カードの効果でライフを削ったりはできる。それをしてこないのは、それだけ相手に余裕があるのか。運悪く、その手のカードが手札に来なかったのかのどちらかだ。

 

「パイプ椅子を出して、効果を発動。前のターンにあんたが使ったスペルを、俺が使用したものとして再度発動。手札の『まち針』、『トランプ』、『バグパイプ』、『大根』を破棄。山札から破棄したマテリアルと同じ枚数のマテリアルを場に出す。俺が選ぶのは『チャーハン』、『カツ丼』、『パエリア』、『リゾット』。四つのマテリアルを場に出したところで、破壊した『大根』の効果を発動。…………なあ、妨害はしないのか?」

 

「そうだね。特にないけど、どうかしたのかい?」

 

 不思議そうな。しかし余裕を感じさせる雰囲気の白時がそう返す。

 餌としか形容できない下位のヒーローを並べたのは、こっちを誘っているのだと思っていた。だからこそ警戒はしながらも、場を整えていたのだから。

『まち針』を墓地に送れたので、手痛い反撃を受けても致命傷にはならない。けど、いいのだろうか。このままだと、このターンで決着がつくが。

 いや、迷っても仕方ない。おっさんに心理フェイズはできないからね。その場その場で、思いつく限りの最善手を打つしかない

 

「…………ないならいい。『大根』の効果で、俺のフィールドにある全てのマテリアルをカラーボックスに収納する。そして『トランプ』の効果を発動。今日から三日間、じゃんけんで必ず負けるようになる代わりに、このバトルで収納されたマテリアル一つにつき、相手のライフを一つ破壊する。俺が収納したのは、最初に出した『パイプ椅子』と四つの飯。合わせて五つのライフを破壊する」

 

「…………は?」

 

 白時が呆気に取られる。まあ使ってるマテリアルや経緯はともかくとして、六つあるライフのほとんどが消し飛んだのだから仕方ない。

 にしても、本当に運がいいな。相手がマテリアル展開スペルを使ったのもあるが、ワンターンキル圏内なんて初めてだぞ。

 初戦でも、二ターンはかかったのに。

 

「効果によってライフを破壊した事で、『バグパイプ』の効果を発動。山札からマテリアルを一枚選んで、手札に加える。俺が加えるのは『ひげメガネ』。『ひげメガネ』がドロー以外の方法で手札に加えられた事で、効果発動。俺はひげメガネを装備し、精神的ショックによりライフを三つ失う」

 

 髭メガネのカードが実物へと変わり、俺の顔に装着される。ただのパーティグッズなのだが、効果によるものか、着けた時に気分が落ち込んでしまう。

 ライフであるカード三枚が山札に戻る。まさかのワンターンキルなるか? 

 

「ライフが三つ以下になった事で、『パイプ椅子』のもう一つの効果、発動!!」

 

「げふっ!?」

 

 手元に現れたパイプ椅子を白時に投げつける。『パイプ椅子』のもう一つの効果。それは相手に向かって投げる事で、相手のライフを一つ破壊するというもの。当てる必要はない。

 いつもの不思議空間では全然届かないので、相手にパイプ椅子が届いたのも今日が初めてだ。

 白時のライフを確認し、0になっているのを確認する。何かの処理をしている様子もないので、どうやら俺が勝ったようだった。

 

「…………弱」

 

 思わずそう呟いた俺は悪くないと思う。初手の相性が俺と最悪だったとはいえ、途中で横槍すら入らずに勝ち切ってしまったのだから。

 俺に才能はないのかもしれない。けど幼馴染との戦いに揉まれて鍛えられた実力は、それなりのものだと認識する必要を感じていた。

 観客どころか審判すら動揺している中で、俺の勝利が宣言される。それから休憩を挟んで表彰式が行われた。白時は意識を失ったままらしく、表彰式にも現れなかった。

 パイプ椅子によるダメージもあるのかもしれないが、精神的ショックも大きいのかもしれない。素人にワンターンキルされたのだから、プライドも傷ついただろうし。

 プライドなんてものを持ち合わせていなかったおっさんには、分からない世界だ。穏便に済むなら、土下座だろうと逆立ちだろうとしてたし。

 自分の仕事を誇れるのはいい事だ。人に迷惑をかけなければ、という条件はあるけど。

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