TCG対ルールが同じだけの別の何か   作:乾き塩

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そろそろ供養塔を建てる必要がありそう


タイトル詐欺(群体編

 

「…………恐ろしい才能ね」

 

 隣に座るスーツ姿(こっちは会社員とかが着る方)の若い女性が呟く。うっすらと冷や汗を流し、目を見開いている。

 まだバトルも始まってないんだけどな。

 いつものバトル空間。女性は、こんな広い場所なんて…………とか、なんとか呟いてる。バトル空間って個人差とかあるのか? とは聞けそうにない。

 

「先行は私ね。マテリアル『白紙の魔導書』を設置して素材として使用。『量産型探知機α』を召喚。効果発動。山札の上から五枚をめくり、その中にある下位マテリアルを手札に加える」

 

『レンガの家』、『青の花束』、『感覚器官移植手術』、『クズ鉱石』、『プリズムコール』

 めくったカードが以上の五枚。相変わらず、下位という以外に共通点がない。持ってるカードを詰めるだけ詰めて、なんとかデッキにした。と言われても信じられそうだ。

 対戦相手の隣の女性の同僚である、スーツを着た男性も表情こそ変えないが冷や汗を流している。初見はしゃーない。すぐにそうも言ってられなくなるけど。

 

「下位マテリアル『レンガの家』、『青の花束』、『クズ鉱石』を手札に加える。ふふ、上々と言ったところかしら」

 

 玲霧の先攻で始まったバトルはまずまずの出だしのようだ。

 さっきの戦いが不完全燃焼だったせいで、初っ端から飛ばしてる。このバトルで満足すればいいけど。

 

「マテリアル『青の花束』、『クズ鉱石』を設置。『青の花束』自身の効果で、このカードを破壊。アンデット族ヒーロー『赤腕』をフィールドに召喚。この処理での召喚は、あらゆる効果で妨げる事はできない」

 

「赤腕…………まさか!?」

 

 どうやら、あの男性はカードの知識は豊富らしい。この空間を作れるだけの実力といい、豊寿と戦っていた男が負けた途端、慌てて逃げ出した玲霧の対戦相手とは大違いだ。

『赤腕』とあのカードのコンボは、汎用性が高いからな。

 俺たちのデッキが極端なせいで、相性が悪いっていう、本来ならまずありえないバグが起こってるんだけど。

 

「『赤腕』の召喚に成功した事で、ゴースト族ヒーロー『コバンザメゴースト』を召喚。『コバンザメゴースト』の効果、は言わなくても分かるかしら?」

 

「…………ああ」

 

 男性が頷く。

 まあ、有名だからな。自分の他の最も攻撃力が高いヒーローに、自分の攻撃力を上乗せするっていう単純だが強力な効果がある。

 コバンザメ自体は攻撃ができない上に、攻撃力も低いんだけど。痒い所に手が届く存在として扱われてる。アシスト用の下位ヒーローとして、知らない奴はいないだろう。

 

「『コバンザメゴースト』の攻撃力を、『赤腕』に上乗せする。残念ながら、探知機は戦闘用じゃないのよね」

 

 だからこそ探知機って言うんだしな。

 なんて笑えない。玲霧が使う探知機は、探知用の電波でドラゴンを殺す。

 けど『赤腕』も攻撃力は低い。コバンザメで多少攻撃力を上げたところで、焼け石に水でしかない。

 けど、だからこそ恐ろしいとも言える。

 

「さて。これで、私の場には攻撃力が2000以下のヒーローが三体揃った。よって、ヒーロー『フィットネスマシン・MACHO III(マッチョスリー)☆』を場に出す』」

 

「うわぁ…………」

 

 隣の女性が本気で引いていた。

 まあ、ネタカードとして有名だからな。名前のインパクトがすごい。

 ちなみに、玲霧のフィールドにいるのは

 攻撃力0の探知機

 攻撃力300のコバンザメ

 元の攻撃力が500の赤腕

 そして攻撃力800のフィットネスマシン

 少し強い下位ヒーローに蹂躙される程度の攻撃力しかない。まあそれも、この後に解決するんだけど。

 

「ここで『コバンザメゴースト』とマッチョさんの効果処理に移るわ。まずは『コバンザメゴースト』からね」

 

「ぶふぉっ!?」

 

 対戦相手の男性が吹き出した。分かる。玲霧のやつ名前が気に入ってるのか、フィットネスマシンをマッチョさんと呼ぶ。

 ワンとツーが存在しないので、多分これ、公式で狙ってると思う。

 男性が呼吸を整えるのを横目に、玲霧が次の一手を打つ。

 

「『コバンザメゴースト』の効果で、マッチョさんの攻撃力を上昇させる。これでマッチョさんの攻撃力が1100になる。続いて、マッチョさんの効果処理。マッチョさんの攻撃力の半分を、私の他のモンスターに上乗せする」

 

 始まった…………

 名前でネタにされがちだが、フィットネスマシンは結構ガチの能力だったりする。こいつも元の攻撃力は低いし、名前がネタとして有名になっているのもあって、起用される事はあまりないけど。

 使ってるだけでネタにされる。そんな印象を抱かれている不憫なヒーローだった。

 

「さて、再びの効果処理に移るわ。マッチョさんの効果で、私のヒーローは全て攻撃力が550上昇する。よって、『コバンザメゴースト』の攻撃力も550上昇する。これにより、効果対象となっているマッチョさんの攻撃力も追加で550上昇する。マッチョさんの攻撃力が上昇した事で再び効果発動。マッチョさんの現在の攻撃力1650の半分、825の攻撃力を他のカードに上乗せする。もちろん、『コバンザメゴースト』の攻撃力も上がるわ。少数以下は切り捨てでこれを繰り返して、マッチョさんの攻撃力が1399上がって2199となり、他のヒーローの攻撃力を1099上昇させる」

 

 序盤で全体の攻撃力を上げる地盤を固めるのは、さすがと言ったところか。しかも、まだ強化の余地を残してるからな。

 コバンザメの能力の関係で攻撃力を調整する必要があるが、あいつにその心配は無用か。

 俺が相手ならともかく、龍美と豊寿相手だと、それだけのミスで一気に崩れるからな。絶対に凡ミスをしないようにって、何度も練習してたし。

 

「スペル『連鎖する呪い』を発動。攻撃力1500以上のゴースト族ヒーロー『赤腕』を破壊し、下位ヒーロー『蒐集家』を場に出す。『蒐集家』の効果、手札から下位マテリアル『レンガの家』を出すわ。『レンガの家』の効果。私の場にいる攻撃力2000以下のヒーローは攻撃の対象にならない。蒐集家にもマッチョさんの効果が適応されるけど、2000は超えない。これであなたは、マッチョさんしか攻撃できなくなったわ」

 

 攻撃より守りを固めたか。こりゃ、まだ行けるけど止めたって感じだな。

 そりゃそうか。俺たちみたいに手の内が分かってるならともかく、見知らぬ相手なら玲霧は様子を見る。

 正面突破の龍美や自信家の豊寿。心理戦をかなぐり捨てたおっさんと違い、玲霧は頭が良い分、慎重に動く事が多い。玲霧のデッキは相手に打開させてからのカウンターが強力なので、むしろ崩される方が都合がいいのもあるんだけど。

 

「あなた達、何者なの?」

 

 玲霧がターンの終了を宣言し、男性のターンに移る。そのタイミングで隣の女性が声をかけてきた。

 豊寿と龍美は食べるものを買いに行くと、ここから出ている。必然的に、俺が対応する事になった。質問の内容は、あまりにも曖昧ではあるけど。何となく察せられる。

 

「ただの中学生ですよ。俺以外の三人は、歴史に名前が残るほどの才能の持ち主ってだけです」

 

「…………一世代に、一人生まれるかどうかの突出した才能の持ち主。それが同じ時代、同じ場所にいるだけでなく、幼馴染としての付き合いがあるなんて、一体どんな確率よ」

 

「俺に言われても困るんですが? あっ、やっちゃった…………」

 

 隣の女性が頭を抱える。その呟きに言葉を返していると、目の前で『レンガの家』が破壊されていた。それをトリガーにして、ヒーローが場に現れる。

 二体のヒーローを破壊して効果を発揮したそれは、コバンザメとフィトネスマシンの攻撃力を上げる。ヒーローの総数こそ減ったが、質は更に上がっていた。

 ヒーローを出しながらも、男性は攻撃を宣言する事なくターンを終了する。ここから繰り出される玲霧のコンボを眺めながら、バトルを見てるのかはたまた意識をどこかに飛ばしてるのか分からない女性との話を続ける。

 

「…………俺たちにとって、四人が幼馴染だったのは幸運だったと思いますよ」

 

 墓地から蘇った『赤腕』により、二体目のコバンザメが召喚されるのを眺めながら呟く。

 惚気とか嫌味とか、そういうのではない。純粋に心からそう思っている。

 

「龍美は、あれでメンタルが弱いんです。クラスメイトから嫌味を言われると、それだけですごく落ち込んでました」

 

 龍美の実力を妬み、容姿や性格を馬鹿にする連中は後を絶たない。また言った本人は冗談のつもりでも、龍美自身が重く受け止めてる場合もあった。

 今は気にしないようになったが、以前はほんの少しの嫌味でも本気で落ち込んでいた。

 その落ち込み様は、幼馴染でなくとも目に見えて分かるほどだ。あいつ自身、一人で抱え込む性格なので、何があったかは訊いても教えてもらえなかった。

 だからこそ、玲霧がうまく誘導して聞き出したり、俺と豊寿で何があったかを調べ回ったりした。

 

 それも過去の話で、今は嫌味くらいで落ち込む事はくなった。本当に辛い時は話してくれるようにもなったが、一人で抱え込もうとする癖は抜けきっていない。

 おかげで少しでも様子が変だと思えば、龍美の身の回りを調べて励ますようになっていた。

 

 原因を特定し、龍美が落ち込むたびに三人がかりで全肯定の励ましなんてものもしていた。困った事にそれが気に入ったらしく、今でも定期的にしてやっている。

 しかも肯定される側を順番に変えているので、俺たちまで肯定されている。豊寿や玲霧はともかく、おっさんには必要ないって言ったんだけどな。

 

「豊寿はまあ、あの性格ですからね。色々と敵を作りやすいんですよ。龍美と違って、自業自得な部分もあるんですが」

 

 豊寿は優しい子ではあるけど、思った事をそのまま言う癖がある。しかも性格のせいで、言い方もキツイものになってる。

 正義感が強いばかりに、色々と疎まれる事も多い。カードの精霊がついてるので、直接何かされるようなら相手が悲惨な事になるけど。

 

 厳しい言葉の裏にある優しさに気付けば、友達も増えるとは思う。しかし残念な事に、俺たち以外からは距離を取られているのが実情だ。

 俺たちがいなかったら。なんて仮定の話は、冗談でもしたくない。

 

 当の本人は、気にしていないとも言っていた。俺たちに依存しているように見えるのが気になるが、友人に限らず親しい相手には多少の執着はするだろうし良しとしておく。

 依存しきっていたり、病んでる様子はないから問題ないだろう。

 

「玲霧も色々と悩んでるんですよ。周りもあいつを天才呼ばわりして持ち上げて、何も見ようとしてないんですから」

 

 クラスの連中どころか、両親や親戚縁者まで玲霧を天才呼ばわりしている。実際、記憶力や計算能力は高いと思う。

 けど、あいつは人一倍の努力を積み重ねているからこそ、優秀な成績を収めてる。俺なら投げ出す量の努力を積み重ねてなお、涼しい顔をしてるのは流石だなとは思う。

 

 面と向かって話し合えば、なんてよくある話もダメだった。なんというか、両親の反応が娘に対するものじゃないんだよな。

 盲目的なまでに、玲霧が天才だと信じ込んでいるらしい。いくら言っても謙遜していると思われているようで、最後まで話が通じなかったと聞いた。

 

 玲霧は大して気にしていないらしい。本当の自分を知っている人たちがいて、自分も本当の俺たちを知っている。

 そんな人たちとキスの一つでも交わせれば、一日頑張れると笑っていた。あいつの脳内がピンク一色に染まったのは、ストレスの反動なのだろうか。

 

「で、俺はただのおっさん。悪人ってわけでもないが、善人でもない。変な事さえしなけりゃあ、こっちからも手は出しませんよ」

 

 俺の素性なんて、転生者であいつらのオマケってくらいだ。転生者と言えば非凡な素性に聞こえるが、転生という概念を考えればそう特殊な事でもない気がする。自覚がないだけでみんなやってるだろうし。

 その自覚があるっていうのが、特殊な事例ではあるんだけど。

 

 玲霧の探知機が放つ電波を受け、男性の巨大な二本足の獣が膝を折る。そうしてガラ空きとなったフィールドを、弾丸となった『クズ鉱石』が閃いて男性の最後のライフを打ち砕いた。

 

 バトルが終わり、フィールドが解除される。

 玲霧はどこかすっきりした顔を浮かべていた。対して、男性の方は膝を地面につけて息を荒くしている。

 対犯罪組織用機関のエージェントらしいが、玲霧の敵ではなかったようだ。にしても、国の人間相手に圧勝か。大きく運が絡んだとはいえ、俺がプロ相手にワンターンキル決めたんだ。

 玲霧ならそれくらいできるか。

 

 玲霧が足早にこっちにやってくる。遅れて息を整えた男性がやってくる。実力を見せるという目的は、十分に達しただろう。

 

 話の続きをそう思った矢先に、食べるものを買いに行っていた龍美と豊寿が血相を変えて戻ってきた。

 

「ど、どうしよう!? ボク、人を殺しちゃった!!」

 

「落ち着きなさい! 相手が自爆しただけで、こっちは正当防衛よ!!」

 

 人殺しだの、自爆だの、穏やかでない言葉が飛び交っていた。

 

 

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