TCG対ルールが同じだけの別の何か   作:乾き塩

8 / 13
強さを求めた夏休み

 

「行くよっ!! 『断龍アレンス』でダイレクトアタック!! フィールドにある上位マテリアル二つを破壊する事で、追加で二つのライフを破壊する!!」

 

「スペル『マナ圧縮』を発動!! 墓地のスペルを全て除外し、半分の枚数をドローする!!」

 

「私のヒーローの数があなたのヒーローの数を上回った事で、手札のマテリアル『鶴翼の陣』の効果を発動。あなたのターンの間、私のヒーローの攻撃力はプラス2000されるわ」

 

 楽しそうに。そして苛烈に。相手を完膚なきまでに打ち負かす三人の少女がいた。その姿はバトルを楽しみながらも、より高みを目指して、階段を二段飛ばしで駆け上がっているように錯覚する。

 邪教徒を壊滅させた俺たちは、あの後めちゃくちゃ怒られた。子供だけで乗り込んだばかりか、教皇と戦った俺がダウン。幸いにも命に別状はなかったが、それも結果論だ。取り返しのつかない事になっていた可能性もあるので、黙って尼統さんの説教を受けるしかなかった。

 説教を終えて家に帰ると、両親からも怒られた。と言っても邪教徒云々は伝えていない。バトルの最中、三人が連絡をしてくれていたらしい。おかけで、未成年だけで遠くのホテルで寝泊まりした事を怒られただけで済んだ。

 

 それからの夏休みは、当初の予定を外れて鍛錬中心となった。

 少しでも多くの経験を積む為に、大小問わず各地の大会に参加。知らない相手や身内同士でバトルをして、純粋な実力とメンタル面での鍛錬を重ねていた。

 今までは特に興味もなかったので、大会には参加しなかった。ただ虚構神との戦いで足りないものを自覚した俺たちは、そうも言っていられないと奮起していた。

 

「『紅龍』でアタック! 効果発動! どんなバトルでも、『紅龍』は絶対に勝つ!!」

 

「スペル『侵食する並行世界』! 相手のフィールドに存在するヒーローのコピーを、アタシのフィールドに生み出す!」

 

 そして龍美と豊寿は、神格のカードを解禁している。いざという時、使い方に困らない為。そして強大な存在を前に、いつもの調子で戦えるように。

 参加資格のある大会に参加し、優勝を目指して全力で戦う。大会参加者として、当然の行いをしてるだけ。何も悪い事はしていない。

 未知のカードを前に、運営は困惑していた。それでもカードを読み込み情報が反映されている以上、不正はないとしてバトルは続行している。

 未知のカードを使うのは俺も同じだけど、その能力はピンキリだ。しかもバトルとは無関係な効果もあるので、驚きよりも困惑が勝る。

 俺とは正反対で、龍美と豊寿のカードは一枚だけで形勢を逆転できる強力な能力を持つ。

 そんな二人と、下位とたまに混ざる中位のカードのみで互角以上に戦う玲霧。三人は美女、美少女という容姿も相まってどの大会でも注目の的となっていた。

 

 で俺はと言うと、調子はいい方だ。三人と戦った時の勝率は、前よりも少し上がってる気がする。あくまでも体感ではあるけど。

 こうなったのも、俺の実力が上がったおかげ。というのも、少しは影響していると思いたい。ただそれ以上に、カードの種類が増えた影響が大きい。

 虚構神との戦いの後、俺の手元にあるカードの数が一気に増えていた。相変わらず、まともとは言い難いマテリアルのみだったが、戦術の幅が広がったのも事実だ。

 

「『ガムの包み紙』と『ヘッドホン」を破壊し、『換気扇』の効果を発動! 上位マテリアル『インスタントカメラ』を設置!! 次の俺のターンまで、相手のヒーローは攻撃できない! 更に、『ガムの包み紙』の効果発動! このマテリアルが効果によって破壊された時、墓地からフィールドに設置する!!」

 

 他の三人同様、身内以外の相手には全勝している。たまに強い相手がいるが、勝てないほどじゃない。

 …………なんか嫌な予感がするんだよな。これ白時みたいに、お忍びで参加したプロとか混ざってないだろうな? 

 俺たちが勝った時、不自然に観客がどよめいた時もあったし。一回、プロの名前と顔くらいは確認しておくか。手遅れかもしれんが。

 

 八月は毎日のように大会を荒らし、それなりに充実した夏休みを送っていた。おかげで最後の方は大会荒らしとして、名が売れていたようだった。

 そして夏休み最終日。明日から始まる新学期に備えて、俺の部屋に四人で集まっていた。

 

「いやー、勝ったわねえ」

 

「そうね。あまり興味はなかったのだけど。こうして見ると悪い気はしないわ」

 

「それに、すっごく強くなれたよね! 今なら、ニアも使いこなせそう!!」

 

「…………何も言うまい」

 

 俺の部屋の一角。置かれたばかりのチェストには、無数のトロフィーが詰め込まれていた。

 四人分のトロフィーが飾られており、完全に物置と化している。

 こうなったのも俺が最初にトロフィーを貰い、置き場所としてラックを置いたのが原因だった。余っていたラックを引っ張り出してトロフィーを置いたまではよかった。問題はトロフィー以外に置く物がなくて、ラックがスカスカになった事。そして空いてるスペースに三人がトロフィーを置いていったので、今ではギチギチになっている。

 地震が来たら、一気に崩れるだろうな。

 

「それにしても、今年の夏休みは随分と偏ったものになったわね。計画だと、もう少しみんなとの距離を縮めていたはずなのに」

 

「俺たち、まだ中学生だからな。不純異性交遊をするつもりはないぞ」

 

「残念だけど、それは承知の上よ。ただあなた達から、キスをしてくれるくらいには関係を進めたかっただけ」

 

「それ関係が進んでるんじゃなくて、倫理観がぶっ壊れてるだけじゃない。アタシは嫌よ。そんな爛れた関係」

 

 俺としても、その一線は越えられない。そこを許してしまうと、ずるずると最後まで致す事になりかねない。フットインザドアの典型的な例だ。

 とはいえ、何もせずにいるわけにもいかない。フラストレーションを溜め続ければ、どうなるか分からない。

 適度に発散させてやる必要はあるか。

 

「…………どうして私は、頭を撫でられてるのかしら?」

 

「あー、キスの代わり?」

 

「…………いいわ。膝枕もしてくれるなら、今回は見逃してあげる」

 

 どうやら、頭を撫でるのはお気に召さなかったらしい。男の膝なんて硬いだけだと思うけど、本人たっての希望なので大人しく正座をして膝を差し出す。

 ごろん、と寝転がった玲霧と目が合う。ぼーっとした表情でこちらを見上げ、両腕を伸ばしてペタペタと顔を触る。

 何のマッサージだ? そんな疑問が出てきたところで、両手で俺の顔を固定する。

 

「結婚しましょう」

 

「今すぐ降りろ」

 

 真顔でのプロポーズだった。

 降りろと告げたものの、玲霧が言う事を聞くわけもなく抵抗する。抵抗は予想の範疇。無理に降ろすつもりもないので、膝の占拠を許した。

 膝上を我が物とした玲霧が口元を緩める。そして俺の顔から手を離し、胸元に手を添える。

 

「ふふ、ここで否定しないのがあなたらしいわね」

 

「…………出来るわけねえよ。なんだかんだで、お前ら以外と結婚する未来なんて想像もつかないしな」

 

 前世の記憶というのは、思っていたよりも今世に影響を与えている。小学生のうちに資格の勉強をして、実際に取得してるのがいい例だ。

 前世では交際の経験どころか、特に気になる相手もいなかった。結婚には向いていない環境ではあったが、それ以上に興味を持てなかった。諦め、とかではないと思う。

 忙しいながらに、満たされた人生だった。今となってはそう思う。

 それが尾を引いて、今世でも結婚に対する執着はない。

 加えて幼馴染以外の誰かと一生、添い遂げる未来もイメージできない。

 結婚するなら、三人のうちの誰か。逆にこの三人を逃せば、もう結婚は無理だろうな。分かってはいるけど、それも良いかと思ってる。

 

「アタシらはキープ扱いってわけね。まったく、安く見られたもんね」

 

「豊寿、顔がニヤけてるよ〜」

 

「ニヤけてない!!」

 

 そう言った豊寿の頬は緩み切っていた。

 キープ扱いってのは、否定できないか。一度は交際に興味がないとは言ったものの、明確に振ったわけじゃない。

 いつ愛想を尽かされても、おかしくない。にも関わらず、待つどころか喜んでいるというのは心配になってくる。

 …………それも今日までと分かってるから、いつもより顔に出ているんだろう。

 

「心配いらないわ。ここにいる全員が、相思相愛だもの。いつまでも、四人一緒よ」

 

「愛されてると喜ぶべきか。一生逃げられないと恐怖すべきか。分かんねえな」

 

 それが冗談でなく本心だというのは、理解している。誰の目にも、狂っていると映る関係。

 その意見を否定するつもりはない。それと同時に、この関係を否定するつもりもない。

 三人が求めてくれるなら、それに応えたい。そう思えるくらいには、俺も狂っているようだった。

 童貞を拗らせたおっさんの末路って、思ってたよりも怖いものだったんだな。

 

「ここは欣喜雀躍するべきよ。そうでないと…………」

 

「…………どうなるの?」

 

「豊寿が泣くわ」

 

「泣くわけないでしょ!」

 

 狂っていようが、このやりとりが見られるなら悪くない。そう思いながら、玲霧の頭を撫でる。

 今度は気に入ってくれたようで、気持ちよさそうに目を細めている。その反応を見て、龍美と豊寿が顔を合わせて頷く。そのまま俺を挟むように、両隣にやって来て座り込んだ。

 龍美が寄り添うように頭を俺の肩に乗せ、豊寿は背中を向けてこっちに寄りかかって来た。

 急にどうした? って聞くのは野暮か。

 それから十数分。誰も言葉を発する事なく、ただただじっとしているだけの時間が過ぎた。

 

「ねえねえ、そろそろ始めようよ。このままだと、晩ご飯の時間になるよ」

 

「…………そうね。名残惜しいけど、先に済ませておきましょうか」

 

 俺たちはこの夏、大会で実力を身につけ、強者(身内)との戦いを経験した。

 これからも戦い、より研鑽を重ねる必要はある。しかし一区切りとするには、ちょうどいい塩梅でもあった。

 実力と経験は揃った。残すはカードのみ。

 儀式によってカードを生み出し、新たな戦力とする。新たなカードを手に入れるなら、買うかトレードするのが普通だ。

 俺たちはそんな常識を敵に回して、精霊の力を借りてカードを得ようとしていた。

 

 玲霧が起き上がり、俺と向き合う形で座り直す。龍美と豊寿も離れたところで俺も下がって、居住いを正した。

 四人で向き合う形で座る。手順は聞いているし、何度も確認した。そもそも儀式の手順は飾りみたいなもので、気負う必要がないとも聞いている。

 

「んじゃ、シリアスなのは無しで。ゆる〜く、やるか」

 

「何よそれ。プロポーズも同然なんだから、もう少し真剣にやりなさいよ」

 

「いいえ。緩くいきましょう。本気で告白されて、集中力を乱しては元も子もないわ」

 

「みんな顔を真っ赤にしてたもんね。…………ボクも、人の事は言えないんだけどさ」

 

『世界』クラスのカードは龍美、豊寿、玲霧が一枚ずつ。『神』クラスのカードは、龍美と豊寿が数枚。それぞれのデッキに入っている。

 俺はともかく。カード一枚一枚の質で言うなら、玲霧が最も低い事になる。

 カードによるコンボを得意とする玲霧なので、単体で形勢を逆転できるカードはない。唯一の『世界』クラスである『可逆』も、単体では弱い部類に入る。

 コンボを前提とする方針は変わらない。ただ

 汎用性が高く、強力な効果を持ったカード。という、なかなかに贅沢な条件で新しいカードを探し始めた。

 それがなくても俺の増えたカードを見て、三人も新たな戦力が欲しくなったらしい。

 

 それぞれの右手を前に出し、手のひらを上に向けて重ね合わせる。最初が誰かなんて決めてないが、順番は決まっているようなものだ。

 

「俺、橋場 杯月は、ここにいる三人を生涯愛し、彼女たちに相応しい人間であり続ける事を誓う」

 

「私、郁陽 玲霧は、三人に身と心。それ以外の全ても捧げ、皆で幸せとなる事を誓います」

 

「ボク、龍谷 龍美は、みんなとず〜〜っと一緒にいて、楽しく過ごす事を誓います!!」

 

「あ、アタシ、真門 豊寿は、何度生まれ変わわっても、つ、妻として三人を支えると誓います!!」

 

 恥ずかしそうにしながら、なんとか豊寿が誓いの言葉を言い切る。同時に俺たちの右手から光が溢れ、手のひらに複数のカードを形作っていく。

 カードの枚数は十枚以上といったところ。二十枚前後か? カードが形を成し、実体を得る。詳細を確認しようと手を伸ばし、横からの強い衝撃を受けて床に倒れた。

 起きあがろうとしたところで、肩を掴まれて仰向けに押さえ込まれる。天井を見上げる姿勢から視線を下げると、鬼の形相を浮かべた豊寿が馬乗りとなっていた。

 

「…………なんでキレてんだ?」

 

「怒るに決まってんでしょ!! 何が緩くよ!? ガッチガチのプロポーズじゃない!!!」

 

「そうか? 指輪とかないんだし、告白にして緩い部類だと思うが」

 

 夜景の見えるレストランってのは、恋愛素人感丸出しなんだろうけど。プロポーズをするなら、婚約指輪は必須だろう。今日の用意と言えば、誓いの言葉を考えたくらいだ。

 指輪も何もないプロポーズ。状況が状況なら、その時点で愛想尽かされそうだな。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告