気付いたら教師視点になってたので供養
『絆の証明』
使用時、同名のカード所有者のデッキにある任意のカードに変化する。
召喚もしくは発動に条件があるものは、その条件を満たす必要がある。
このカードは、特定の存在から認められた者のデッキにしか入れられない。
このカードは、デッキの上限を超えて入れる事ができる。
というのが、儀式によって手に入れたカードの効果だ。普段はただの白紙のカードで、使う時にどのカードに変化させるか決められる。一度変化させると、そのバトルの間はそのカードのままとなる。
バトルが終わると白紙に戻り、次のバトルではまた別のカードに変化させられる。このカードが一人五枚ずつ、それぞれのデッキに入っている。
とんでもないチート仕様に思えるが、デッキの枚数が多くなったり、使用するのに元の条件を満たす必要があったりとデメリットはいくつかある。
カード数が増えれば、龍美以外の三人は必要なカードが回ってくる確率が下がる。
コンセプトの違うデッキを使っている以上、上位、最上位のカードはものによっては発動条件を満たしにくいものが多い。
そして何より、『絆の証明』はヒーローでも、マテリアルでもスペルでもない第四のカードだ。俺たちしか持っていないこのカードをアシストするカードなんてものは、この世に存在していない。
その為、山札から直接手札に加えたり、何かの効果で使う前に墓地に送られたこのカードを再び使用する方法は限られてくる。
これも、おいおい研究していくしかないか。上位存在が作り出したカードだから、俺でも使えるかの検証もしないと。
『絆の証明』同士のコンボとかも面白そうだよな。
じっくり研究するにも、週末まで待たなきゃいけないんだけど。
実戦への投入は、それからになるだろう。
『絆の証明』については、基本的には使用を制限しないつもりでいる。龍美と豊寿が『神』クラスのカードを既に使っているし、俺のカードは言わずもがな。
制御できるようになれば、『世界』クラスのカードも解禁する予定だ。見慣れないカードが一枚増えたところで、周りへの影響には大差ないはずだ。
「それじゃあ、この場に最適と思うカードを考えてもらおうかしら。次は、橋場くんね」
そう言って俺を呼んだのは、担任の教師である
黒板前に吊るされたスクリーンには、いくつかのカードが並んだフィールドが映し出されている。
この世界の授業というのは、そのほとんどが前世のものと変わらない。国語に数学という主だった教科や、音楽に体育という副教科まで。そこに、マテリアルヒーローに関する授業も含まれている。
いくら勉強ができても、マテリアルヒーローの実力が低ければ、将来に支障をきたすらしい。自分でも軽く調べてみたが、公務員試験にまでマテリアルヒーローの高い実力が必要となるようだった。
その為、義務教育の一環としてマテリアルヒーローの授業が行われている。
マテリアルヒーローの授業は、小学校から行われている。都心の進学校にもなると、毎回プロを呼んでの授業が行われているそうだ。
俺が通っていたのは近所の公立の小学校で、授業自体も基本的なルールから始まった座学ばかりだった。中学に入ってからも、一学期の間は座学ばかり。
バトルを伴った実技は次回から行われると聞いている。クラスメイトにあれを見られるのか。あまり気は進まないが、サボるわけにもいかない。大会でも大々的に使ったんだ。開き直るのが一番だろう。
そう結論付けたところで、スクリーンに目を向ける。相手の場には二体のヒーローと高位マテリアルが一枚。マテリアルには、ヒーローの身代わりとなる効果がある。
二体のヒーローにも効果があるが、どちらも召喚時のものだから今は気にしなくていいだろう。
自分の場にはフィールドを離れた時、次に自分が召喚するヒーローの攻撃力を+2000する『赤い果実人』が一体。そして白紙のカード三枚が手札として並んでいる。
このカード三枚を使って、最適解を出せという事だろう。正直、話を聞いてなかったから分かりやすい問題で助かった。
ふむ。
「スペル『アポート』を手札から使い、『赤い果実人』をヒーローデッキに戻し、『ドラゴンエッグ』を交代で召喚。
『ドラゴンエッグ』は効果で攻撃力増減の効果を二倍するので、攻撃力+4000。自身の効果で『ドラゴンエッグ』を破壊。攻撃力が4000の状態で破壊されたので、デッキから中位のドラゴンである『万年床スリプスドラゴン』を召喚。
続いてスペル『イタズラ時計』を発動。スリプスドラゴンは一ターン経過するごとに、攻撃力が+3000される。この効果による最大値は+15000まで。よって、『イタズラ時計』の効果でスリプスドラゴンの攻撃力を+15000。
攻撃力が10000以上のドラゴンが自分の場にいる為、『龍族の巫女』を召喚。『龍族の巫女』の効果で、自分の場にいるドラゴンは一度の攻撃で二体のヒーローを攻撃できるようになる。
手札からスペル『命の魔弾』を発動。スリプスドラゴンの攻撃力を5000下げ、相手のフィールドにある高位マテリアルを破壊。
続いて、スリプスドラゴンで相手のヒーロー二体を攻撃。二体の攻撃力の合計は9500。よって、戦闘により二体のヒーローを破壊。巫女でダイレクトアタック。
ってところですかね」
即席の答えとしては、上出来だろう。そう思い振り返ると、笑いながら怒っている香々村先生と目があった。
どうやら、何かやらかしたらしい。
「橋場くん、先生の話は聞いていましたか?」
「えーっと…………バナナはおかず?」
「遠足のえの字も出てませんよ。確かに手札は好きなのを使っても良いと言いましたが、ヒーローは植物系に限定すると言いましたよね?」
そっか。限定してたのか。聞いてなかった。
この後めちゃくちゃ怒られた。
……
…………
………………
香々村 雛鶴は、教職に就いてから十年以上になるベテランの教師だ。教育実習の期間も含めて様々な生徒を見てきた彼女は、ある三人の生徒について頭を悩ませていた。
職員室に戻った雛鶴は、先ほどの授業内容をメモ書きしていく。生徒の反応や時間配分など、次回以降の授業に活かせるよう気付きや反省点を箇条書きにしていく。
書き終えたところで、カップに入ったコーヒーに口をつける。昼休憩の時間なので、十分な余裕があった。
「下手な干渉は、才能を潰すだけ。だからと言って、放置するというのは…………」
教師というのは生徒に寄り添い、正しい道へ教え導くもの。それが雛鶴の信条だ。
自分にできる精一杯を尽くして、職務を全うする。それが身を結ばない事もあったが、一教師としてここまでやってきた。
そんな経験が全く役に立たない三人。マテリアルヒーローにおいては、良くも悪くも非常識な生徒。その圧倒的な才能は、本来なら教える側である雛鶴が足元にも及ばない域に達している。
郁陽 玲霧
真門 豊寿
龍谷 龍美
教師として多くの生徒。そしてマテリアルヒーローの指導の一環として、国内外問わずプロのバトルを研究してきた雛鶴から見ても稀代の天才という言葉が適切な三人。
教本通りに教えようものなら、彼女たちの才能を潰しかねない。かと言って、完全な放任というわけにもいかない。
人間である以上、いつかは壁にぶつかる。そんな時、相談出来る大人は一人でも多い方がいい。教師として、大人として、子どもの信用を得る。
他の授業やホームルームでの接点があるとはいえ、一つの授業をまるまる放置するというのは論外だった。
サンドイッチの入った弁当箱を取り出し、そのうちの一つを口へと運ぶ。空いてる左手にはペンが握られたままで、真っ白なノートにペン先を触れさせていた。
────今の私だと、あの三人の足元にも及ばない。それどころか、今後の人生全てを費やしても背中すら見えないかもしれない。だからと言って、ここで諦めるわけにはいかない。人生の先達として、そんな情けないところを見せるわけにはいかない。
時間が惜しい。その一言に尽きた。ペンを走らせ、思いつく限りのアイデアを箇条書きにしていく。
デスクの上にあるデッキケースを一瞥し、改良案を次々と書き込んでいく。その中には、およそ実戦では使い用のない、いわゆるロマンとも言えるコンボもいくつかあった。
堅実な雛鶴なので、普段なら検討前のアイデアとしても残しはしなかっただろう。しかしより高みを目指すなら、まずはその考えを捨てなければいけないと経験則から導き出していた。
────…………リスクは承知の上。例えそれが、ハイリスクローリターンであっても望むところ。けど、そもそも実行できないなら意味はない、か。
自分のデッキのコンセプトを軸に、書き出した案の取捨選択を行う。必要なカードを書き出し、疑問があればネットのカード情報を調べる。
デッキ構築のついでに昼食を済ませて両手が空くと、自分のデッキをデスクの上に広げる。
デッキの中と照らし合わせ、新たなデッキの構想を練っていく。
眉間に皺寄せて難しい顔をしながらも、口元には笑みを浮かべていた。
────ふふ、やっぱり楽しいわね。自分の全てをぶつけた強敵との戦いなんて。考えるだけで燃えてくる…………!!
香々村雛鶴。かつてマテリアルヒーローの全国大会において、一般の部で二連覇を果たしたプレイヤー。教師となって落ち着いたものの、その熱が失われたわけではない。
眼前にそびえ立つ高い壁を見上げ、闘志を燃やしていた。
────そういえば…………
軽くなったカップを手に取り、中身が空になっていると気付く。ちょうどいいと一息つくと、ある疑問が思い浮かんだ。
────橋場くんがバトルしてるのを見た事ないのよね。あれだけの答えがすぐに出るのだから、実力はあると思うのだけど。
授業で当ててから杯月が答えるまで、ほんの数秒しかかかっていない。フィールドの状況を見るだけ見て、深く考える事なく相手を全滅させるどころかライフすら削った。
少なくとも、戦術面に関しては優秀と言える。カードの知識に偏りがあるのは気になるが、優秀なプレイヤーであるのは違いない。
問題は、彼がバトルをしている姿を見た事がないという事だ。大会荒らしの一人として、インターネット上で話題に上がっているのは知っている。
それでも実際にこの目で見なければ、どうにも実感が湧かなかった。
座学のみだった一学期と違い、二学期からは実戦を交えた授業も行われる。
教師としては、事前にある程度の実力を把握しておきたい。デッキの構成すら知らないのでは、話にならない。
とはいえ、本人にバトルを強要するわけにもいかない。夏休みの間は大会に出ていたという話だが、一学期の頃は意図してバトルを避けているようだった。授業以外でもクラスメイトから挑まれれば、他の三人が受けて立っていたのを覚えている。
「動画、あるかしら…………?」
夏休み後半には有名になっていた四人なので、探せばその分の動画は見つかる可能性はあった。ひとまずは動画を探し、それがダメならそれらしいスレッドでも覗くつもりだった。