新撰組。
それは、百鬼夜行連合学院における治安維持組織。
少女ばかりの百花繚乱紛争調停委員会と対を成すように、所属しているのはほとんどが男子生徒ばかり。
加えて。
隊士が主だって使用する武器は刀や槍といった近接武器ばかり。
それ故、銃の持ち歩きが一般常識と化してしまっているキヴォトスにおいて、彼らは『時代遅れの変態集団』と軽んじられていた。
『だって、キヴォトス人は銃で撃たれても痛いで済むんだろ?
なのに、わざわざ刀だなんて…』
『そりゃ効かないわけじゃないし、斬られたら痛いのも変わらないだろうけど、でもだからって刀だの槍だのにする必要性が…』
と、辛辣な意見がほとんど。
一部の肯定的な意見も、
『新撰組かあ…まあ、一応不良達を捕らえてくれるし?
好きにさせとけば良いんじゃない?』
『なんで刀とか槍とかを使いたがるのかは分からないけど…まあ、ちゃんと活動してる分今の百花繚乱よりはマシよね』
…と、内心どうでもいいという意見や他に比べればマシという比較的な肯定が殆どだった。
…それでも、彼は、大神ミコトは憧れたのだ。
『時代遅れ』と揶揄されようと、刀を、槍を振るい悪人たちを倒し捕らえ平和を守る彼らに。
「はぁああ!!」
「ぐわっ!?こ、このやろ…!」
ダダダンッ!バババンッ‼
「いでででっ!?」
「く、くっそ、あいつらたった二人でなんでこんなに強いんだよ…!?」
「に、逃げろ!撤退てったい!!」
「…っ、待て!」
『ミコト!』
「うっ…!」
『深追いしちゃダメ!
今回の目的はあくまで撃退だけだよ』
「…しかし、
『それに。…もし捕まえられたって、その不良達をどこに繋いでおくつもり?』
「……………」
ダンダラ羽織の生徒…大神ミコトは答えることが出来なかった。
冷静になればすぐに分かる。
ここは自分がかつて居た百鬼夜行とは違う。不良達を捕らえても、それを閉じ込めておく屯所はここには無いのだ。
シャーレに連れて行くなんて真似はとても出来ない。
先生は自分たちキヴォトス人とは
そんな人の仕事場兼寝床に(縛り上げているとしても)不良生徒を連れて行くことは許されるはずもなく。
「…申し訳、ありません…」
『分かってくれたならいいよ。
…それと、謝るときもごめんなさいでいいからね』
「もうし…いや、えっと…」
『…とりあえず帰っておいで。
…スズミもありがとうね』
「いえ、当然のことをしたまでです。
それに、噂に名高い『新撰組』の剣技を見せていただいて感謝します、ミコトさん」
「いえ、私などまだまだ未熟ですよ。
隊長達にもなれば、一太刀浴びせるだけで気絶させることも…」
「へえ…!銃弾でも数十発、それもしっかりと浴びせなければ気絶させることは出来ないというのに、刀で、しかも一撃でとは…!」
「…念の為断っておきますが、一朝一夕で身につけられるものではありませんよ」
「それは心得ています。
刀を手にすることはキヴォトスでもそれなりに難しいですし、進んで振るおうとする者も少ないでしょうから」
(………新撰組、それなりに人がいるはずなんだけどなぁ)
そんなモヤモヤとした何かを抱えながらも、ミコトとスズミはシャーレへの帰路についた。
「…大神ミコト、守月スズミ。
両名、帰還しました」
シャーレのオフィス。
その一室でミコトは、とある女性に報告を行っていた。
「二人ともお帰り!
うん…怪我も特になさそうだね!良かった!」
「先生の指揮のおかげです。
二人でアレだけの人数を相手しなければならないと分かったときには正直不安でしたが…」
「…ええ、本当に、先生は凄いです」
それは、謙遜でもなんでもないミコト自身の本心だった。
シャーレに出向となり早一週間と数日。
生徒間のトラブル、荒れた不良にケンカを売られるなど理由は様々だが、決して少なくない回数ミコトは戦闘を行うこととなった。
しかし、ミコトはどの戦いでも負けてはいない。むしろ勝っているのだ。
が。それは決してミコト本人が急激に強くなったわけではない。
先生の卓越した指揮能力の賜物である。そしてその事実を誰よりも、他ならぬミコト自身が理解していた。
「………ミコト?どうかした?」
「…え?あ。いや、何でもないです…」
「本当?なにか悩んでるなら何でも言ってね!」
「いえ、本当に…あの、近いですよ先生」
それと、個人的なことながらミコトにはもう一つ悩みがあった。
…先生のやや異常な距離感の近さである。
正直に申し上げれば、先生はかなり美人だ。
ついでに言うならばスタイルもそんじょそこらのモデルに劣らぬ魅力的なものである。
こんな年上の女性にグイグイと迫られるのは、年頃の青少年男子からすればたまったものではないだろう。
そして、先生には恐らくその自覚はない。
見た目の良さをまるで自覚していないのだ。同性異性問わず先生に惹かれている生徒は少なからずいるであろうに。
つくづく罪作りな女である。純真なのは本人の方だけど。
「…んん。先生、私はこれで失礼しますが、そろそろ休憩を入れてみては。
ミコト殿も働き詰めでしょうから、少し休んだほうが良いですよ」
「あ、うん…改めてありがとうね、スズミ」
「お疲れ様です、スズミ殿」
「はい。それでは失礼しますね」
「…うーん、スズミもああ言ってくれたし、ちょっと休憩するかな。
ミコトも休んでいいよ!多分ちょっと汚れてるし、汗もかいてるし…シャワー浴びてきていいよ?」
「…はい、ありがとうございます」
このセリフも単純な善意で言っているのだろう。
時と場合によっては妙な意味に捉えられかねないというのに。
まあ、そんな事を考えても仕方がないのでミコトは大人しくシャワー室に向かうのだった。
「ふう…」
温かいシャワーを浴び、じっとりとした嫌な感触が洗い流される。
それとともに、これまでのシャーレでの記憶をミコトは思い返していた。
初日から大変だった。
少し休もうと思ってソファーに腰掛けていたら、いつの間にやらあたりは夜の帳が下り、目を覚ました直後に床に倒れ込み。
…尋常ではないほど近い距離に、可愛らしい女性の顔が。
そして、自らの肉体には彼女の身体の…
『…っ!?っ…!?!?』
『あ…あの、ご、ごめんね!
あなたが気持ちよさそうに眠ってたからつい…(?)』
『………???』
ミコトからすれば何が何だかという状況である。
もっとも、これに関してはどちらかといえば先生の方に非があるので彼が気にすることではないのだが、ミコトの性格上そうはいかなかった。
『もっ、申し訳ありません!!』ゴンッ!!
『ちょ!?い、いいんだよ土下座なんて!
あと今凄い強く頭ぶつかってたよ!!大丈夫!?』
『いえ、このぐらい当然、いや寧ろ足りません!!
かくなる上は腹を切り』
『わー!わー!!やめて!!!
そんな事しちゃダメだから!!!!』
その後。どうにか落ち着いたミコトは先生と互いに自己紹介を交わし。
晴れてシャーレの所属が認められたのであった。
『先生は女性だったのですね。ぼ…私はてっきり殿方だと勝手に思っておりましたが』
『はは、一応新聞には乗ってたと思うんだけどなぁ。
ま、キヴォトスじゃ私の性別なんて大した問題にならないでしょ?』
『…そんなはずがないでしょう、こんな美人なのに』
『ん?』
『あっ、いえ…何でもありません!
それでえっと。私の住居の方は…』
『え?住居?』
『え?副長…土方殿からはシャーレと連邦生徒会が此方での仮住まいを用意してくださると聞いていたのですが?』
『え?』
『え?』
ウソでしょ…とミコトは思った。
確かにシャーレはあらゆるトラブルが舞い込むような超特務機関だとは聞いていた。
だが、まさか生徒との取り決めを忘れてしまっているほどとは。
そんなにも多忙だというのか。
などと他人の心配をしている場合ではない。
此方は住む場所がないと来たのだ。
流石のミコトといえど野宿だけは勘弁願いたい。不良たちに見つかりでもすればどうなるかなど想像に難くない。
『…あ!じゃあここに泊まっていきなよ!
シャワーも洗濯室もあるし!
お金さえあればコンビニで食事だって…』
『……………』
無礼千万と知りながらも、思わずにはいられなかった。
この人は阿呆なのか。
今日あったばかりの生徒を、自分の仕事場に泊める?それも異性を?
同性でも十二分に危険だと言うのに、この女性は何を考えているのだ。いや、何も考えていないからこんなことを言えるのか。
『…あー、でもやっぱり嫌かな?
どうせ一緒に泊まるならこんなおばさんよりももっと可愛い女の子のほうが…』
『はあ??????』
思わず声が出てしまった。
自分のことをおばさんと先生は言ったが、流石に謙遜が過ぎるだろう。
相手が相手なら煽っていると勘違いされかねない。
明らかに二十代相応ではない暴力的なスタイルと可愛らしさと美しさを兼ね備えた顔立ちの女性に『一緒に泊まるか』などと言われて喜ばない青少年男子がどこに…
と、そこでミコトの思考が一時中断。停止ボタンが押された。
先生の発言をよくよく思い返してみた。
『一緒に泊まるなら』。確かに先生は言った。
どこに?自分に『泊まるか』と言われた場所は…
『先生?』
『は、はい、なんでしょう』
『先生も
『まあ、はい。私の家みたいなもんなので。
部屋とかもあるし』
『…別個に自宅などは』
『ないけど……』
『…………』
本当に、この人は、何を考えているのだろう。
この純粋さでここまで生きていたことに軽く引いてすらいる。
いや、ココまで来たら弄んでいる可能性もある…が。
もうこの際ハッキリ言わないときが収まらない。
『先生。今回はお言葉に甘えさせていただきますが。
今後、同性異性問わず軽々しく『泊まっていく?』とか言ってはいけません。
最悪な目に遭いたいんですか?』
『……………?』
…もうめんどくさい。
ミコトは思考を放棄し、そのまま元々座っていたソファーに横たわった。
先生がなにか騒いでいたが、聞こえないふりをした。
もうコレ以上振り回されるのは御免だ。
そして、それからというものミコトはシャーレの仮所属となり様々な事をこなした。
本日のような戦闘はもちろんの事、事務仕事や飛び込んでくる依頼…とはいえ喧嘩の仲裁やゴミ拾いなどの簡単なものばかりだが…をこなした。
が、ミコトは若干の不満を抱えていた。
そもそも自分がシャーレにやって来たのは経験を積み実力をつけることが何よりの目的だったはずだ。
しかしながら与えられる仕事は事務仕事が殆ど、戦闘があったとしても先程のような不良達の撃退程度だ。
これでは新撰組で仕事をこなしていた時と何ら変わらない。
いや、寧ろこちらの方が大したことをしていないのではないのか。
土方副長には申し訳ないが、とんだ見込み違いだったようだ。
これ以上ここに所属していても大した成長は見込めない。
………と、言った所で自分がどうこう出来るわけでもない。
だからこそ『不満を抱えた』ままなのだ。
「………はあ。
少し長く入りすぎたかな…早く戻らないと」
掛けてあったタオルを取り、身体の水分を拭い取る。
使用済みの洗い物をカゴに投げ入れ、いつも通り着物を着直す。
後は羽織も忘れないように…
と、手を伸ばしたその時、指先で何かを弾いてしまった。
ガタン!と音を立ててその何かが落ちた。
…洗濯物を入れたカゴだ。
「……やってしまった」
若干の後悔と反省の念が出てくるが、覆水盆に返らず。
大人しく洗濯物を拾い集めカゴに放り込んでいく。
…幾つか女性者の服が混じっているような気がしたが、見ないふりをしつつ投げ入れた。
自分は落ちた洗濯物を拾っているだけなのだから、やましい気持ちなどない。
無いったら無いのだ。
「よし。これで…っと」
どうにか散らばった洗濯物たちを拾い集め放り込み、元の状態に戻した。
とはいえ、この後また同じように落としでもしたら大変だ。
失礼だが、先生ならやりかねない。
洗濯機を回してもいいか聞きに行こう。とミコトはシャワー室を後に…
と、足に柔らかな布の感触が。
「ん?まだ何か残っていたのか……………あれ」
確かに洗濯物は残っていた。
他のものに比べて少しばかりサイズの小さめな、三角形の…
「……………こ、れは」
「ミコト〜?」
「っ!?!!?!?」
「さっき大きな音したけど…大丈夫?何かあった?」
「だ、大丈夫です!!
洗濯物のカゴをうっかり落としてしまって…!!せ、洗濯機回してしまいましょうか!?」
「んー?いやいや、そこまでしなくてもいいよ。
どうせ私も後で入るし」
「そ、そうですか…」
「それより大丈夫?怪我とかしてない?」
「は、はい!!
もう少し片付けますので先生は先に戻っていてください!!」
「………?分かったよ。
でも気をつけてね?」
「はい!」
自分の返事を聞いたであろう先生のすたすた、という足音が次第に遠ざかっていく。
…とっさに胸元に隠したそれを恐る恐る取り出し、洗濯物カゴの奥に押し込む。そのまま中身をグルグルとかき回し、必死にごまかす。
そして慌ててシャワー室を後にした。
「はい、今日の仕事はおしまい。
お疲れ様!」
「…お疲れ様、です」
「…どうしたの?何だか元気ないみたいだけど」
「いえ、その………何でもありません。
失礼します」
…今日のアレはできるだけ早く忘れないと。
そう思いつつも、どうしようもなく手にも頭にも、アレの姿と感触が焼き付いてしまっている。
洗濯物としてシャーレにあったということは、つまり。
アレを先生が…
「〜〜〜〜っッっ!!!」
ぶんぶんぶんと大きくかぶりを振って、浮かび上がるもやもやを必死に振り払う。
早く帰ろう、そして寝よう。さっさと忘れるのが懸命だ。
そう思いミコトは、家への帰路をドタドタと歩き出した。
キャラクトゥアー紹介
先生
見た目麗しい、スタイルも良い二十代の女性。
男女問わす目を奪われるほどの美人で、言葉を選ばずに言わせてもらえば教育に悪いレベル。
が、そんな魅力的な外見と裏腹に割と天然気味で、生徒たちもだいぶ振り回されている。
ミコトもまた彼女に大いに情緒を狂わされている。