「先生、共に百鬼夜行まで来てくださいませんか?」
「え?」
シャーレに在籍することとなってから早一月が経った頃。
ミコトは藪から棒に先生にそう告げた。
生徒の頼みは基本的に断らない先生だが、流石にどういうわけかと理由を聞いた。
それもそうだと頷きつつも、ミコトは懐から一通の手紙を取り出した。
「…これ、ミコト宛の?差出人が…『
「ええ。土方副長が『改めて面と向かって先生に挨拶をさせてほしい』と。
本来ならばこちらの方から出向くのが礼儀なのでしょうが、なにぶん新撰組は百鬼夜行で現状唯一の治安維持組織ですから…」
「成る程、そう簡単には動けないんだ」
「ええ。それに、私にも『久しぶりに顔を見て話すついでに近況を報告しろ』と…車やもてなしなどもこちらの方で用意するので、とのことです」
「………よし、分かった。
それで、いつぐらいに行くの?」
「ええと、それが…」
数時間後。
「先生。ようこそおいでくださった。
百鬼夜行連合学院、治安維持組織『新撰組』副長…土方トシゾウと申します。
よろしければ以後、お見知り置きを」
「うん、よろしくね。
それと、そんなに固くならなくても大丈夫だよ」
「いえ、そういう訳には。
先生は百鬼夜行のみならず、あらゆる学園からその存在を重要視されるお方でしょう。
そんなお方に時間を取らせていただいているのですから…」
…先生は思わず苦笑いを浮かべた。
自分が関わった生徒…言うほど多くはないが、流石にここまで頑固な生徒は居なかった。
そこまで言われるほど自分は立派ではないけどなぁとも思ったが、流石にそれを言うと誰かに怒られそうなのでやめた。
「本人がこう言ってるんですから、少しくらい態度を和らげても良いのではないですか?
それに、君にはそういう態度は似合いませんよ、土方くん」
先生とミコトの背後から声が聞こえた。
長髪を後ろでまとめた眼鏡の男性が、いつの間にやら後ろに立っていた。
「山南総長!」
「お久しぶりですね大神くん。
それと…はじめまして、先生。
『新撰組』総長を務めております、
「はじめまして、シャーレの“先生”です。
よろしくね、ケイスケ…あ、トシゾウも」
「……………シャーレの先生はずいぶん距離感の近いお方だと噂に聞き及んではいましたが……
…まさか、ここまで馴れ馴れしいとは思いませんでしたよ」
「…山南さん」
「そ、総長!副長!
近況の報告をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか!?」
「…そうだな。よろしく頼むぞ大神」
どうにか話題をそらすことに成功したようだ。
山南の方もしぶしぶ土方の隣に腰掛け、話を聞く姿勢に。
とはいえ、話の最中はずっと針のむしろに居るようだったというのはミコトと先生の談である。
『大神、せっかくだ。
先生に屯所を案内して差し上げろ。
ついでに隊長連中にあったら挨拶しとけ。
あいつらも先生に挨拶しときたいだろうからよ』
「とは言われたものの。
隊長達は何処に居るのだろうか…
そもそも訓練だと見回りだの休暇だのでそもそも屯所に居ない方も居るだろうに…」
「ミコト、そんなに無理しなくてもいいよ?
私がうろうろしてたら皆も迷惑かもだし」
「しかし…」
「…あ、やっぱミコトちゃんじゃないの。
久しぶり〜」
「…斎藤隊長!」
渡りに船とはこのことか、とミコトは思った。
巡察や遊びに出かけるのが殆どな隊長各でこの人が残ってくれていたのはありがたい偶然である。
「はーい、可愛い後輩がシャーレに行っちゃってちょいとばかしさみしい思いをしてた斎藤ハジメ隊長ですよ〜。
…そっちの女の人が、噂の『シャーレの先生』かな?」
「うん、そうだよ。
はじめまして。これからよろしくね、ハジメ」
「はーいヨロシク〜」
ハジメは先生の前であっても相も変わらぬ飄々とした態度であった。
が、ミコトには逆にそれが安心したのか、普段シャーレで過ごしているよりも気楽に話すことができていた。
本人は気づく由もないが、両方の彼を知っている先生はそれに気づいていた。
「んで、なんでミコトちゃんと先生がここに居るわけ?
もしかして早々に戻ってこいって言われたとか?」
「いやいや、ただの経過報告ですよ。
それに、向こうで大したことも成せていないのに戻ってくることなど許されないでしょう?」
「………そーかもね。ま、そんな固くなりすぎずに。
地道に頑張っていきなさいな。一年の新人のうちに早々成果なんて出せるもんじゃないんだから、焦ることねーんだよ?」
「…ありがとう、ございます」
「大丈夫。ミコトが頑張ってるのは私もよく知ってるからね。
これからも色々手伝ってもらわなくちゃ!」
「先生…」
「…んじゃ二人とも、これから三番隊の見回り手伝ってくれる?
ちょうど平隊士も休んでる奴とか居てさ~
よけりゃ先生にも付いて来てほしいんだけど」
「え、先生にも同行してもらうのですか?
しかし、それは…」
「大丈夫ダイジョーブ。それに、いざとなったらミコトちゃんが盾になればいいでしょ?」
「そんな無茶な…」
「ま一応、今後のことも考えてのことだからさ。
うちらの戦い方知ってもらったほうが、先生に指揮取ってもらう時に良いじゃん?」
「…そうだね。
じゃあ、ミコト。頼めるかな?」
「…全くもう、二人とも無茶を言うのですから…」
「そーいやミコトちゃんさ。
先生が着替えてるとこにばったり出くわしたとかそういうのは無いワケ?」
「………いきなり何を聞くんですか」
「いやだって、仮にも同じ職場なわけでしょ?
その上、話じゃそこは女性の住居も兼ねてるときた。
年頃の男としては、浮ついた話の一つや二つ期待しちゃうわけなんですよ〜。
で、結局どうなの?そーいうの、一つも無いわけないでしょ??」
「しつこいですよ!そんな話あるわけ……………」
その時、ミコトの脳内にとある記憶が浮び上がった。
それは本人もできるだけ早く忘れようと、いや実際忘れられそうになっていたとある三角形の布の…
「…あるわけ無いじゃないですか」
「顔赤いけどどうしたの?」
「何でもありません。」
「ほんとに?ホントに?」
「ハジメ!ミコトが困ってるでしょ!」
「やー、年頃の男の子としてはやっぱり気になっちゃうんですよ〜
それはそれとして先生はミコトのことどう「新撰組ィ!!!」…おぉっと?」
「先日はよくもあんな目に合わせてくれたな!!
借りを返してやる!!」
「―――――ミコトちゃん!先生と物陰に!
三番隊総員もだ!!」
「…っ、先生!こちらに!」
「ひゃっ…!?」
銃撃戦が始まった。
キヴォトスでは日常茶飯事な光景ではあるものの、万が一にも先生が傷つくようなことがあってはならない。
敵方の様子を伺いつつも、ミコトは先生を庇える体制を取り続けていた。
「…ミコト、私にも状況を確認させて。
皆の指揮を…」
「いいえ。今回、先生は隠れていてください。
…そして、見ていてもらいたいのです」
「?」
「『時代遅れ』や『愚か者』と揶揄され、それでも刀を振るい続ける者達…我ら『新撰組』の戦い方というものを」
「撃て撃て撃ちまくれ!」
「銃撃の手を休めるな!あいつらを近づけさせるなよ!」
「後ろ側からの奇襲にも警戒しとけよ!
距離さえ取れればこっちのもんだ!」
そう。新撰組の面々の主たる武器は刀。
当然、相手に近づかなければ攻撃することも出来ない。
いくらキヴォトス人が頑丈とはいえ、弾丸の雨あられの中を正面から突っ切ればただでは済まない。
不良達も当然それを理解し、さらに以前の敗北の経験から後ろ側にも気を払っていた。
「なら上から失礼しま〜す」
「え?ぎゃっ」
「なっ、こ、こいつらっ!?」
「
それに対してハジメ達新撰組の隊士が取ったのは…建物の上からの奇襲だった。キヴォトスにおいても比較的古風建築な建物の多い百鬼夜行では他と比べ幾分か高さが低く設計されている物が多い。
遮蔽物に隠れるふりをして建物の裏へと周り、立てかけてある物やゴミ収集箱をハシゴや踏み台代わりにして屋根へと駆け上り…逆に不良たちを包囲してみせた。
「はい、形勢逆転。
で、どうする?降伏でもしてみる?」
「な…舐めんなよ時代遅れ共が!!」
ハジメの煽りを受けた不良の一人が怒りに任せ発砲する。
が、ハジメはそれを地面をひと踏みし横に飛び退くことで何事もなく回避してみせた。
そして飛んでいった弾丸は…
「痛てててててててて!!おい!どこ狙ってるんだよ!!」
「ち、違っ…」
「落ち着けよお前ら!そうやって仲間割れしてたらこいつらの思うつぼっ」
その言葉を紡ぎ終わる前にハジメの一太刀が意識を切り裂いた。
更に一太刀、また一太刀と他の不良たちにも斬撃を加え、次々と不良たちの意識を刈り取っていく。
そして残りの不良たちも同じように包囲され斬りつけられ、全員が意識を手放した。
…こうして不良たちは数分と経たぬうちに新撰組に制圧され捕縛されたのであった。
「…おし、制圧完了か。
気絶したやつは残らずふん縛れ!しばらく屯所で預かったあとにヴァルキューレに引き渡しだ。俺は先生と一旦屯所に戻る」
「…すごい」
「お、先生からお褒めの言葉とは嬉しいねぇ。
ま、ここまでうちらが上手く立ち回れるのも百鬼夜行の建物の構造やら地形やらを知り尽くしてるからってものあんだけどね。
多分よそに出張したらここまで上手くはいかないだろうさ」
「うーん…?でもミコトはよく頑張ってるよ。
目立った怪我もしてないし、ちゃんと他の子との連携も取れてるからね」
「へぇ。そりゃあひと安心ですかね。
良かったじゃないのミコトちゃん、先生からお褒めの言葉だよ?」
「え…まあ、その、ありがとうございます?」
「…っと、いけね。早いとこ屯所に戻らなきゃだった。
遅刻したらトシさんカンカンだもんな〜うへぇ」
「「……トシさん?」」
「あ、今の土方副長には内緒な。もしバレたらただじゃ済まねぇんだから。ほれ、人力車も呼んだしさっさと帰ろうぜ!!」
そういうわけで人力車に揺られること数分。
ミコト、先生、ハジメの三人は新撰組屯所へと戻ってきた。
「ハジメまで戻ってきて良かったの?今は見回り中なんでしょ?」
「いや、実はさっきの戦闘中に連絡が来てね。
ちょっと確認してみたら『隊長格も揃ったから改めて先生に挨拶する』って来てたもんだから。そーゆーわけで俺も戻ってきたわけです」
「え…今の幹部集が揃っているのですか!?」
「そ。俺もそこに出席すっからさ、先生とミコトちゃんも着いてきてね?」
「はい?いや、私は平隊士ですし、そのような場所に出るには相応しく…」
「いやいや、仮にも組織の代表としてシャーレに居るわけなんだからさ。きっとあいつらも話聞きたがってるよ?
さ、そういうわけでさっさと行こうねっと!」
「ちょっ…!!」
「失礼します。三番隊隊長斎藤ハジメ、ただいま巡察より一時帰還いたしました。それと、シャーレの先生及び大神ミコトを連れてまいりました」
「御苦労。すまねぇな大神、挨拶回りをさせといて勝手に呼び戻しちまって」
「い、いえ、そんな。お気になさらずとも」
大神はまるで借りてきた猫である。
というか本能的にそうしなければまずいと分かっていた。
なにせ自分の目の前にいるのは現時点での組織のトップである土方を含め、全員が新撰組の最高幹部である隊長格なのである。
「へ〜…あれが噂の『先生』?すっげー美人じゃん!」
「だなァ。くそ、そうと知らなけりゃあすぐにでも口説いてたんだがなァ〜」
「よさないか二人とも。せっかく客人としていらしてくださったんだぞ。今後協力していただくかも知れない相手に…」
「まーまーゲンさんもそんな固くならずに。
先生が綺麗なのは本当のことじゃん?そりゃあ年頃の男の子としては…」
「いい加減にしなさい。そんなに来月の給与査定が楽しみですか?」
「「「………」」」
総長ケイスケの鶴の一声でしん、とその場が静まり返った。
どんな立場であれ、その手の話題はやはり怖いもののようである。
「…申し訳ねぇ、先生。その通り騒がしい連中の集まりだが、できるなら今後ともよろしくお願いしたい」
「あはは…そんな気にしなくても大丈夫だよ」
「では、改めて。
俺が現時点でこの新撰組を纏めている…副長の
「
「うん、よろしくね。それと…」
「各隊隊長格。
近いところから…三番隊隊長
後は二番の隊長が現在帰還中で、四番隊はまたボランティアか…?一番隊は………またどこかで遊んでんのか。
以上が現状の『新撰組』主要格になる」
「…ん、んん?あれ…なんか、妙に数字に抜けが多いような…?」
「先生、その、それは…」
「いい、大神。どのみち説明しなけりゃならんことだ。
…五、七、九番隊を率いていた隊長たちは訳あって俺たちと袂を分かった。かつて新撰組で参謀であった男…
「………ごめんね、余計なこと聞いちゃったかな」
「あんたが気にすることじゃねえ。
元々
「つってもまあ、結局残ったのは元々
「……近藤さん?」
「…あっ、やべ…!!」
ヘイスケは思わず口元を押さえる。
他の幹部面々もまた明らかに顔をしかめていた。
「………先生。近藤というのは」
「無理して話さなくてもいいよ。
言いたくないことは言う方も辛いし、聞く方もあんまり気のいいものじゃないだろうし。
…話したくなったら相談してほしいけどね」
「………そうか」
その後。
改めてミコトのシャーレへの出向、今後の新撰組との業務提携、各隊長格の面々のシャーレへの所属に関する話をし…先生とミコトはシャーレへと帰還した。
「…ふぅ!なんだかんだ夜までかかっちゃったね。
ミコトもお疲れ様、ゆっくり休んでね」
「……局長…」
「ミコト?どうかした?」
「…先生。今から言うことと私が言っていたことは、土方副長達には内密にしてくださいますか」
「…分かった。飲み物入れたほうがいいかな?」
「いえ。それほど長くなる話ではないので。
…先生は、
「うん。…よく考えたらトシゾウも『副長』って言ってたし、“副”がトップの立場っていうのもおかしいよね」
「はい。新撰組には元々局長…他の学園組織における“委員長”の立場の方が別に居たのです。私は、その人に助けられて新撰組に入ることを志したくらいですから」
「へえ…!」
「その人の名は
「そうなんだ……あれ?じゃあ、今その人は…?」
「……私が平隊士として入隊が叶った時には、既に姿を見かけなくなっていました。
近藤局長は失踪したのです」
「………」
『土方くん。いつまで近藤さんの事を誤魔化し続けるつもりです?』
『あの人が戻るまでだ。何度も言わせないでくれ』
『…土方くん』
『しつけぇぞ山南さん。俺は何度言われようが今の席を動くつもりはねぇ。新撰組の局長は近藤イサミただ一人だ』
『今や平隊士ですら違和感に気づいている現状なのですよ!
伊東さんや武田さんたちが離隊しただでさえ不安定な現状なのです、貴方ならば幹部も隊士たちも納得してくれます…!』
『……俺が新撰組を守るのは近藤さんの帰る場所を守るためだ。
俺自身が偉くなるためじゃねぇ。俺は副長の土方トシゾウだ。
今までもこれからもな』
「……近藤さん。あんたもどこかで、この月を眺めてるのか?」
その声への返答はやって来ない。
ひらりと桜の花びらが一枚肌を撫でて池に落ちた。
オリキャラ(半分ぐらいオリジナルじゃない)がどんどん増える増え〜るの巻