塀を軽々と飛び越えて敷地内に不法侵入した村紗はインターホンを押して澄んだ声音で用件を語る。
「こんばんは……夜分遅くにすみません、お届け物がございまして……滞っていたクスリの代金と、もう一つ」
そう語ると中から現れるは死穢八斎會若頭補佐、クロノスタシス……。
クロノスタシスは語る。
「随分と手間取りましたね? それにアナタみたいに若い衆を寄越すなんて……所詮はその程度の組織だったと言う事が知れる……それで? 金は何処に? それにもう一つのお届け物とは?」
何の疑いも無くそう問いかけてきたクロノスタシス。
それは当然だ。
何故ならば村紗お抱えの優秀な『眼』や『耳』や『口』が情報を操作。
金のやり取りに関するトラブル情報を入手、暗号も仕草も全て入手。
故に、優秀な『口』や『耳』が死穢八斎會に間違った情報を提供し取引時刻を大幅にずらさせた。
こちらの組織に属する少女が行くから対応を頼むとの一報を添えて。
だが、当然ながら金などあるわけが無い。
しかしながら村紗はとても優美な仕草と雰囲気を醸し出しつつこう告げた。
「もう一つ……死穢八斎會様……貴方達に極上の死を届けにババヤガが昏き地の底から来ました」
そう語るとクロノスタシスは言葉の意味を理解した瞬間、懐から古めかしいハンドガンを取り出して銃撃を行おうとしたがそれよりも遥かに速い速度でクロノスタシスの両肺に満杯まで水が入り込む……むせこんで可能な限りの水を吐き出すが無限に生み出される水に悶え苦しみながら……水没や水死などする筈もない地上で溺死するクロノスタシス。
村紗水蜜本来の個性はこっちである……。
組織に居た頃に強制的に打たれた個性変質薬と個性増強薬を打ち込まれてから水の三態を操作できる様にはなったが元々の個性には及ぶべくもない。
村紗水蜜の生来の個性は『舟幽霊』……対象に対して水難事故を引き起こす個性である。
水のある場所ならば、如何なる場所でも水難事故を引き起こすことができる。
また海や川の水をぶち抜いて、自身の付近へと大量の水として持ってくるといった大分凄い事も可能である。
変質した個性である水操作、そして生来の個性を重ね合わせてこそ最強たる所以。
次々と死穢八斎會の構成員を水死体に変えていく。
音も出さず、後には呼吸が不可能になって溺死する筈の無い場所で溺死に追い込まれた構成員が転がるのみ。
水の操作を行い……亡者を引き込む死者の手の様な形を作ると余す事なく死穢八斎會を捜索する。
しかしながら家屋を余す事なく隅々まで探しても見当たらない。
屋敷の壁に手を触れて行くと感覚が異なる、隠し部屋か。
水の刃で隠し通路の出入り口を切り刻むと地下へと続く階段が広がっていた。
ゆっくりと一段一段降りていくがかなり広い。
辟易する程に広い……水で形造った手を先行させて探るが大迷宮と呼んでも差し支えない広さを誇っていた。
諸々の罪状に個性を不正利用した違法建築が加わった……そうして歩き回っていると若干広い通路に入り構成員も数が増えていた。
資料で確認した八斎衆、その内5人が揃っており何かを話している……水の振動を確認して声を聞き取ると……まぁ碌なもんじゃない。
「殺処分ですね、これは……蛆虫と変わらない」
幼い女の子を人体実験の素体にしているなんてのを笑いながら……どう見ても真っ黒だしそれを看過していた副会長もアウト。
さて、どうやって……そう思案しているとちょうど別れたのでサイレントキリングに持ち込む。
即ち……肺の中を水で満杯にして殺す。
同時に5人纏めて処分する村紗。
そうして敵が半径150m内にいない事を確認してから扉を水の刃で切り刻む。
中に居たのは怯えて縮こまる幼女。
四肢には夥しい量の包帯が巻かれており……しかもそれらですら最低限と言った感じの適当なモノであり……両脚に関しては歩いたり走ったり出来ない様に脚の腱をズタズタにしたままでありワザと治していない。
死穢八斎會若頭、治崎廻とそれに与する者らからしたら見ればこの少女は何かを造る為の材料であり素材。
消耗品としての価値しか無いのは一目見て理解した。
少女を抱き抱えて優しく微笑む村紗。
「大丈夫、助けに来たのよ……もう怖い事をする人は居ないからお姉さんが『もういいよ』って言うまで眼を閉じててくれるかな?」
その言葉に素直に従い村紗の胸に顔を埋める少女。
村紗は優しく頭を撫でて地下から脱出しようとした矢先……治崎と鉢合わせる。
治崎は村紗の抱えている少女と地下と家屋の惨状を確認して怒り狂った表情で語る。
「公安のクソ犬が……壊理を、そのガキをどうやって嗅ぎつけた?」
苛立ちのままそう語るがわざわざ答えてやる程、村紗は優しくはないしこの後もやる事がギチギチに詰まっているのだ。
無駄な時間は浪費したくない……。
「そんなのお前に言う意味はない……この屋敷内で感じ取れる生命反応はもうお前だけだ……失せろ、目障りだ」
氷点下よりも冷たい声音でそう語り治崎の肺を水で満たすが溺死するより速く治崎は己の個性で自分自身の肺を分解して再構築、溺死から逃れる。
医療系で使い勝手の良い個性だったのだが……当人がゴミ故に無理な話か。
村紗は治崎から振るわれる両手に触れない様に注意しつつ大気中の水素を凝集させて液体と化す。
そして……球体の水の中に治崎を閉じ込めて完全に窒息させ殺す。
5分後、水の球体から治崎を解放して地面に降ろして死んだかどうかを最後に確認していく。
脱力し、力無く地に倒れ伏す治崎廻……最期のトドメと言わんばかりに指先から水の銃弾を発生させて治崎の脳幹を吹き飛ばすと予約していたディナーが到着する。
いつも通りに金貨を手渡して後処理をお願いする村紗。
これで死穢八斎會という存在は『行方不明者』の一員になった。
暫くは不審に思う者もいるかもしれないが所詮……見つからない行方不明者の事など1ヶ月もすれば風化する。
民間人ですらそうなのだ、社会のゴミクズなど更に速い。
いつの間にか眠っている壊理ちゃんを抱き抱えたまま……公安の迎えが来たので乗り込む村紗。
「さてと……急いでくれるかな? やるべき仕事はもう一つ残っているんだ……すまないな」
運転手へとそう語る村紗。
死穢八斎會が『行方不明』になったと言う情報は『口』や『耳』がまだ止めている為に副会長はまだ知らないだろうが知ったら逃亡する事は想像に難くない。
その前に殺す必要があった。