「……トゥルーデア、君は言ったな? 私の首に400万ドルの賞金が掛けられてると、そしてホテル内で仕事をすれば倍額だと……知ってる事を洗いざらい吐いてもらおうか?」
拘束した状態のトゥルーデアに指先から生み出した水の弾丸を突きつける村紗。
氷の手枷と足枷を嵌められたトゥルーデアは反抗的な眼差しを向けたまま告げてきた。
「何も喋らないよ‼︎」
キッと睨みつけてきたが村紗は溜め息をついてゆっくりと語りかける。
「じゃあここで死ぬか? トゥルーデア……死にたくなかったら何か喋るんだ」
命を刈り取る水の弾丸をトゥルーデアの額へ数ミリの所まで押し当てると死の恐怖には勝てないのか観念して語り始めた。
「今から6時間前にアンタの首に賞金が掛けられた……オープン契約で400万ドル、掛けた奴はお前が最も知っている奴で……お前に最も怨みを抱いている奴さ、前任の公安委員会会長だよ、奴は酷くお前を怨んでいるから日本中全ての殺し屋に通達を出したぞ」
そう告げられた村紗はチラリと時間を確認する。
村紗が丁度ホテルコンチネンタルにチェックインした時間であった……。
そして、今回のオープン契約の契約元に関しても把握しあの時に殺しておくべきだったと後悔の念を滲ませる。
ともかく……目の前の闖入者を気絶させてホテルの掃除係に引き渡さないといけない。
「ありがとうトゥルーデア」
それを聞いた村紗は舌打ちを1つして嫌味を込めた口調でそう告げた後、トゥルーデアを殴りつけて気絶させるとすぐさま着替えて仕事の用意をする。
ポケットに入れてある手持ちの金貨は残り20枚……今日ばかりは多めに持っているべきだったと心の底から自身の迂闊さを呪ったがしょうがない。
数あるセーフハウスの1つに帰れば100万枚以上の金貨はあるが此処から1番近いセーフハウスまで車で2時間は掛かる為に遠すぎる。
「とりあえず……今ある手持ちでやるしかないな……ッ……」
トゥルーデアを気絶させた村紗は殺気を感じ取り相手との距離を推察、現在の状況では銃を此方へと向けている相手の方が銃の使用と個性の使用が速いと判断して両手を高く上げて床に膝をつくがもう1人の闖入者は軽快に語る。
「よぉ村紗……殺し屋稼業を引退して公安委員会直属ヒーローに鞍替えしたと聞いていたが? 腕が落ちたな、トゥルーデア程度に此処までやられるとは」
村紗の耳を打つのは知り合いの声。
ゆっくりと振り向くと殺し屋時代に村紗に誓印を願い出てきた旧知の殺し屋……アンネリーゼであった。
「よぉアンネリーゼ……しょうがないさ……引退してから9ヶ月だ、それだけあれば腕も少しは落ちる、それはさて置き、コインを稼ぐは無いか? 子守を頼まれてくれないか?
アンネリーゼはドイツ系アメリカ人の女性であり金髪碧眼の超ロングヘアと村紗には及ばないが巨乳を有しており過去に村紗を殺そうとしたが逆に村紗の殺し屋としての手腕に一目惚れしてアメリカから村紗を追いかけてきた。
村紗には及ばないものの実際、殺し屋全体から見れば上澄みの中の更に上澄みに位置する上位者でありその技術は非常に高い。
村紗も何度か苦戦を強いられた程である、その技術もその個性も非常に殺し屋向きの能力であり彼女に勝てる者はトップヒーロー、殺し屋、
オールマイトかオール・フォー・ワン、エンデヴァーなら話は別だが……それ以外の有象無象程度なら軽くあしらえる。
「了解、
「えぇ……ありがとう、貴女も最大限の用心を、ホテルの掃除係になるべく早く来る様には頼んでいるけど……このホテル内で『仕事』をしたトゥルーデアは何をしても不思議じゃ無い……警戒を怠らないで」
そうアンネリーゼに対して告げるとポケットからコインを1枚手渡す。
そして……村紗はホテルを出る前にホテルの地下へと向かい……そこに設置されている特別会員制のBARへと脚を運ぶ。
金貨を1枚鍵穴に入れる村紗。
それが合図となっており防弾性能を極限まで高めた扉の仕切りが横にスライドして用心棒が扉越しに村紗を視認して数秒後……扉が開かれて中へと招かれる。
BARの中に入ると何人かは驚いた表情で村紗を見る。
何せ引退したと思われた人物が来たのだ、それは当然だろう。
そんな周囲の客の反応を無視して村紗は1番奥の特等席でシャンパンを楽しむ初老の男性に話しかける。
一礼をして席に座ると村紗は語る。
「お久しぶりです……ウィンストン、少しお願いと……苦情があって参りました」
ウィンストンは此処、コンチネンタルホテル東京の支配人であり村紗とは10年の付き合いがある。
幼少の頃から仕事とプライベート両方で村紗と交流があるその人はシャンパンを楽しみながら語る。
「だからあの時に言ったんだ……奴を生かしておいても良い事は一つも無いと……前任の公安委員会会長は此処にいる、苦情か、トゥルーデアの件だろう? 大変申し訳ない……君の安眠出来る数少ない聖域だというのに……此方で厳正な対応を行っておく、それと……宿泊費の返金と、慰謝料として金貨150,000枚、そして装備の調達費を此方で全て支払おう……代わりの部屋は941号室だ」
それを聞いた村紗はまぁ落とし所としてはこんな所だろうと感じBARを後にしようとウィンストンから手渡された紙に書かれた経度と緯度を見て把握する。
「今はアンネリーゼがトゥルーデアを見ています……いつもながら速い仕事に感謝を……今度ゆっくり話し合いましょう」
そう語るとBARを後にしてホテルの地下から上層へと上がった村紗。
スーツの仕立てをしている部屋へと入ると、中で仕事をしていた仕立て屋は懐かしい旧友に会ったかの様に接してきた。
その女性は村紗が信頼を置く仕立て屋の1人。
「Ms.村紗……良く戻られました、スーツの新調ですか?」
「こんばんは……アンジェロ、あぁよろしく頼む」
スーツの仕立てを行いながらアンジェロは村紗に問いかける。
「村紗様……これはフォーマル用ですか? 社交用ですか? また、お召しになるのは昼でしょうか? 夜でしょうか?」
慣れた手つきで村紗の肩幅や身長、胸囲を測定していくアンジェロ。
測定を受けながら村紗は端的に語る。
「社交用だ、昼と夜の服を一着ずつ」
「スタイルは如何致しましょう? ボタンの数は? パンツは? 裏地はどうしますか?」
胸を測定されつつ村紗は語る。
「スタイルはイタリア風、ボタンの数は2つ……パンツは細身で、裏地は実戦用」
自身の好みで仕立て上げるスーツ……アンジェロは村紗の好みを熟知している為にやり取りは端的な物で済む。
アンジェロは測定を行い隣に居る同僚へと告げる
「了解いたしました……身長163.9cm、肩幅40cm、バストサイズ……Iカップ、ブラジャーも此方で仕立て上げますので……スーツに見合う物をご用意させて頂きます…… スーツの表地と裏地に新素材で作られた衝撃分散機能とセラミック基複合材、それに炭化ケイ素を組み合わせた最新式ボディアーマーを縫い込んでおります、50口径の弾丸や、射撃系の個性、それに射出される物質系統の個性の貫通は確実に防ぎますが……激痛が走ります」
ボディランゲージで自分の心臓をギュッと抑えながらそう語るアンジェロ。
きっちりと測定してアンジェロは村紗へと語る。
「お届け先はお部屋で宜しいでしょうか?」
「あぁ……頼むよアンジェロ、どのくらいで出来そうかな?」
アンジェロは村紗の問いかけに対して腕時計を確認してから告げてきた。
「今からですと、40分も頂ければご用意が可能でございます」
今の時刻を確認しながら村紗は語る。
「ありがとう、ではそれでお願いするよ……またよろしく頼む」
そう告げた村紗、仕立て屋を退室すると今度は地図屋へと脚を運ぶ。
現在時刻は明朝5時20分。
少し急ぎ足で地図屋へと入室するとその部屋には昔と変わらず女主人が居た。
この地図屋では過去から現在までの街の写真や地図が保管されており、殺し屋達の仕事に最適なルートを提供してくれる。
しかもそれらの地図や情報に加え、侵入したい場所への鍵や秘密のアクセス方法なども教えてくれる素晴らしいものである。
女主人、唐之杜志恩は村紗に気づくと煙草を深く吸いながら語りかけてきた。
「あらぁ……村紗じゃない? 引退したって聞いたけど?」
「……私は引退がどうも上手くいかないみたいですね、また命を狙われてますし」
唐之杜は村紗にとっては姉のような存在だ。
幼い頃から仕事で精神を擦り減らした村紗の落ち着ける数少ない話し相手の1人であり人生の相談相手である。
そんな彼女は地図屋としてこのホテル、コンチネンタルに勤めている。
唐之杜は公安委員会会長の潜んでいる邸宅の青写真と現在の写真を村紗に見せながら語る。
「お目当ての情報ならこれよ? 公安委員会前会長の邸宅の見取り図の原本、そしてこれが現在の邸宅の青写真、ゲートは此処と、此処と、此処……今入った情報によると金で雇った殺し屋やボディガードがいるわね」
そう語りかけてきた唐之杜。
村紗はお辞儀をしてお礼を言って今度ご飯でも行きましょうと告げて退出する。
最後に装備を整える為にソムリエの部屋へと向かう。
ソムリエールの居る部屋へと入室する村紗。
ソムリエール……と言ってもテイスティングするのは断じてワインでは無い。
その対象者に見合った装備品を大量の銃やナイフなどの中から
部屋へと入ると村紗の眼に映るのはアサルトライフルやハンドガン、ショットガン……その他様々な種類の銃器やそれに付随するアタッチメントの数々。
ソムリエールは村紗に気づくと恭しく一礼して語りかけてきた。
「こんばんは村紗様……お久しぶりです」
「……こんばんは、キャメロット……
そう告げて村紗はキャメロットへ向けて語る。
スーツを着込んだ女性、キャメロットは銀髪の髪をポニーテールに纏めた女性であり銃器に関してはとても豊富な経験と知識を有している。
「貴女様がドイツ産をお好きなのは私も良く存じ上げております……オーストリア産の新しいお薦めの品があります、グロックの34と26で御座います、特殊グリップに容易に弾倉交換できるマグウェル、お申し出があれば銃口もカスタマイズ致します、この他には?」
何度かグロックを構えつつ撃つ仕草を行ってグロックをテーブルに置いて語る。
「うん、いい銃だ……そうだな、私が欲しいのはゴツくて正確な奴だな」
あまりにもアバウトな要求である為にソムリエは少し眉を顰めて考え込む。
しかしこのアバウトな要求に答えられるからこそのソムリエールなのだ。
数秒の後、ソムリエはとあるアサルトライフルを村紗へと手渡しながら語る。
「『ゴツくて、正確』……ですか。 AR15は如何でしょうか? 銃身は11.5インチ。ボルトキャリアはアイオンボンドで補強されています。スコープはトリジコンの1×6です」
そう告げられた村紗、AR15を手に取り構えて射撃の手順とリローディングの手順、スコープを覗き込むと満足そうに語る。
「ありがとう、最高だ……締め括りに何かお薦めはあるかな? デカくて大胆なのが良い」
またしてもアバウトな要求であるがキャメロットは笑みを崩さずに村紗へと語りかける。
「では此方は如何でしょうか? ベネリM4……ボルトキャリアリリースとチャージングハンドルはカスタムメイド。濡れた手でも滑らないテクスチャード加工のグリップ。イタリア製の傑作です、サプレッサーもお好みで」
和かにそう語りかけて来るキャメロット。
村紗はガチャッとベネリM4の手触りを確かめつつ
「うん、ありがとう……デザートは何かあるかな?」
デザート、短くそう告げられた言葉にキャメロットは顎に手を当てて『デザート……』と小さく復唱しながら考え込み……ある物を取り出して語る。
「此方は如何でしょうか? 最高級のナイフです、石で研ぎ上げました」
ナイフを2本手に取り逆手持ちと順手持ちで感触を確かめると村紗はソムリエに礼を告げる。
「ありがとう……なるべく早く頼めるかな?」
そう語るとキャメロットは恭しく一礼しながら語る。
「承りました、40分でお届け致します……お部屋で大丈夫でしょうか」
「あぁ、部屋に頼むよ、941号室だ……」
そう語りキャメロットの部屋を退室しようとした村紗に恭しく一礼したキャメロットが語ってきた。
「村紗様……どうか楽しいパーティーを」