ウェアウルフを殺したアンネリーゼは村紗の方へと向き直り語る。
「……鈍った腕を戻す為の訓練に参加する気は? それと1人で帰れそう?」
そう問いかけられた村紗は水を操作して硬質化させ杖状にするとソレを支えに立ち上がって呟く。
「嬉しいお誘いだけど遠慮しとく……帰りは何とかするよ」
ゆっくりと手を振って別れを告げると村紗は重い足取りでコンチネンタルへと向かう。
歩いて1時間程かけてコンチネンタルに戻るとフロントマンのシャロンが恭しく迎えてきた。
「こんばんは村紗様……良い夜ですね」
それに対して和かに笑みを返す村紗。
「やぁ……良い夜だな、頼みがあるんだが……医者は居るか? それとこのスーツとシャツの仕立て直しとクリーニングを頼みたいんだ」
くるりと回り背中を見せて醜く抉れた背中の肉と襤褸きれとなった衣服を見せつつそう語る。
シャロンは表情1つ崩さずに語ってきた。
「はい、医者はいつでも常駐していますのですぐ呼べます……残念ながらそのスーツの仕立て直しとシャツのクリーニングは不可能と言わざるを得ません」
ソレを聞いて村紗は自嘲気味に軽く笑いながら小さく呟く。
「だろうな……そんなことだろうと思った」
「飲み物などいかがでしょうか? ジンジャーエールなどいかが?」
「あぁ……ぜひ貰いたい」
ゆっくりとした足取りで部屋へと戻るとベットに横たわる村紗。
2分後……ドクターが来訪し村紗の治療を行なっていく。
村紗はうつ伏せの状態で傷の縫合や治療を受けつつ治療を行っているドクターに対して語る。
「……どの程度まで動いて大丈夫かね? 明日はちょっと動く用事があってね」
そう告げる村紗。
ドクターは傷を縫いながら語る。
「この傷を速く治したいなら……出来る限り動かない事だ……だが、もしも仕事をしなければならないのならコレを4錠飲め……傷口が開いて出血するが身体は動く、痛み止めも出しておこうか?」
薬の錠剤が入った小瓶を受け取ると村紗は片手に持ったグラスへと注がれたジンジャーエールを飲みながら語る。
「いや、コレがあるから要らない」
仕事を終えたドクターは軽く二言三言短く会話をしつつ部屋から出ていく。
背中の傷は縫合されているがあまり動かない方がいいのは村紗も理解している為にベッドにうつ伏せになりながらゆっくりと夢の世界へと導かれていった。
翌朝……自然と目覚めてベッドから起き上がる村紗。
時刻を見ると6.45分。
「さて……雄英の試験会場へと向かいますか」
ゆっくりと身体を起こしてシャワーで軽く汗を流すと足元まで伸ばしている髪を一纏めにして表の仕事の際に着ている純白の水兵服に黒のトレンチコートを着込む。
そして自身のお気に入りでありトレードマークである帽子よりもかなり小さい船長帽を被る。
鍔付きの白一色の膨らんだキャップであり帽子の前面に黒色の錨マークがワンポイントにあしらわれている。
セーラー服の腰部分には金属製で作られた底が抜けた柄杓を両腰部分に差して部屋の鏡で自分の姿を確認すると背中の傷が見えないのを確認して……薬の錠剤を4錠飲んでから部屋を出る。
「世話になったな……また来るよ、ありがとう」
フロントマンのシャロンへとそう告げる村紗。
ホテルを出ようとするとシャロンから呼び止められある物を渡される。
「いえいえとんでもございません……これは支配人より貴女さまに渡すようにと……昨夜はご迷惑をおかけしたので、その埋め合わせにと」
そう告げて村紗に手渡されたのは表に停めてある新車のBMW R 1300 GS Adventureとそのキーであった……村紗の趣味を完全に理解している支配人ならではの贈り物だと言える、村紗が過去にバイクの本を見た時に1発で心惹かれ所有を望んだ物であるがいかんせん諸々の手間と時間がかかる為に諦めていた。
心の底から欲していた物が目の前にある、その様子に村紗の顔はとても良い笑顔で綻んでいた。
ヘルメットを被りエンジンをかけるとシャロンから告げられる。
「受け渡しの手続きは既に済ませており車検も完璧に終わらせております……保険も最上級の物を付けております……では、良い1日をお過ごしくださいませ」
公安直属の村紗は大型バイクの免許も所持している為に問題なく運転できる。
見た所……至る所を改造及びチューンアップして性能を極限まで高めており市販品の10倍のスペックを有しているのが感覚で理解できた。
「あぁ、ありがとうシャロン……支配人にもよろしく伝えておいてくれ」
そう告げると村紗はバイクを走らせて雄英に程近い自宅へと戻ると一旦バイクを車庫へと仕舞うと防犯カメラとセンサーを起動させてその脚で雄英の試験を受けに向かった。
雄英に到着して……眠くなるような説明を終えて指定された区域に配置された村紗。
周囲を見回してため息を吐く。
(相手はロボットか……まぁ、良い気分転換にはなりそうだ)
『はい、スタート‼︎』
間の抜けた声が村紗の耳に届いた刹那……村紗水蜜はスタート地点から一歩も動く事無く自身の試験エリア全域に存在しているロボット全ての位置を把握しエリア全域のロボット全てを纏めて水の刃で斬り刻みただのスクラップにする。
まだ試験が開始してから3秒しか経過していない。
兎も角……コレで村紗と一緒に試験を受けていた受験者は1ポイントすらも得る事が不可能となった。
そして、村紗はお邪魔虫と告げられた25〜30m程の巨大なロボットすら水の刃で斬り刻み完全に鋼鉄のスクラップへと変換する。
(悪く思うな……私も指示された通りに雄英に入学しないといけないんでな)
ロボットは村紗が全て破壊した為に……何処の試験会場よりも速く……実技試験は終了した。
実技試験終了後。
合否判定を下す教師陣の会議にて。
「実技試験成績出ました」
その言葉と共にモニターに表示される受験者達の実技試験成績。
教師陣は慣れた手つきで合否を判定していくが……ある少女の成績で皆動きが止まる。
「受験者名、村紗水蜜……個性は……
1人の教師がポツリと呟いて試験映像が再生される。
村紗水蜜がスタート地点から一歩も動かずして全てのロボットを撃破するシーンだ。
「どう見える? 不正?」
別の教師が不正を疑うが村紗の試験会場を担当していた試験監督員だった相澤が無言で首を振る。
そして、根津校長は村紗の映像を見ながら語る。
「いずれにせよ不正を行った者特有の立ち振る舞いは見られずだ……実技試験エリアに配備された各受験生の記録を行うドローンにもおかしな所は何一つない……」
そう呟かれ……根津校長はゆっくりと口を開く。
「とりあえず村紗水蜜は主席での合格に決まりなのさ……彼女はアレだけの精度と威力で個性を既に扱える……万が一の為に相澤君に担任をお願いしたいのさ」
その言葉に対して……相澤と呼ばれた教師は無言で頷くのであった。
そうして……試験は終了した。