ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation   作:Haturu

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第11話忘却の彼方へ

「ハルマ君ー?そんなぼーっとしてどうしたのー?」

 

白くぼやけた視界の中で朧げに少女の顔が見える。

 

 

あぁ、これはきっと……夢だろう。

そうでもなければ……この少女の笑顔を、俺が見ることはできないはずだから。

 

 

三年と少し前、

第七機甲師団フォースネスト内にてーーー…。

 

 

「曲がり角……よし!」

 

俺の名前はハルマ。今、空前絶後の超高難度ミッションの真っ最中だ。

ミッション内容はこのフォースネストからの脱出。失敗条件は発見されること。

誰からも見つかることなくこのフォースネストから出なければーー!!

 

「何をしているんだ?ハルマ。」

 

「い"っ!」

 

声のした背後を振り返る。そこに立っていたのは知将ロンメルの右腕、第七機甲師団の副リーダーにして、俺が今会いたくない人ランキングNo.1……クルトさんだ。

 

「そんなにコソコソして……脱退するという噂は本当みたいだな」

 

「うっ……」

 

俺はつい情けない声を上げてしまう。

今しがた、ロンメル大佐へ正式に脱退することを認めてもらったばかりなのだ。だから誰とも会わずに脱出したかったのに……

 

「すいません……もう、俺は……」

 

「謝らなくていい、ブレイクデカールのことは私達に任せておけ」

 

「……ありがとうございます」

 

クルトさんは俺の肩に手を置き、俺の目をみようとしながら、今までありがとうと、感謝を伝えてくれた。

だが、俺はそれに上手く返せることができなかった。

俯いたまま、ボソボソと別れの言葉を言う。

 

数日前、俺は仲間と共にマスダイバー達との大規模戦闘に参加した。

勝算はあった。勝てる戦いのはずだった。

だが……俺達は無限再生を持つマスダイバー達に敵わなかった。

 

「なんで……なんでだよぉ!」

 

その人は、俺に戦略を教えてくれた人だった。

若造の俺を大切な仲間として、対等に扱ってくれた恩人の1人だ。

何十、何百と撃墜したはずの敵機が彼を襲った。

その人の乗機のリックディアスⅡは四肢をもがれた後、装甲がひしゃげるまで何度も殴られ撃墜された。

 

「ハルマ!援護をーーー…

 

この人は俺とほぼ同時期に入隊した人だ。

けれども年はずっと離れていて、来年から息子がGBNを始めるのだと、嬉しそうに語っていた。

 

だが、彼の乗機、ドムトローペンは足元を崩された後、複数の敵に押し倒され、粗末な出来のビームサーベルでコックピットを貫かれた。

ブレイクデカールで強化されていたのだろう。

そうでもなければ、最高防御をほこるあの人のドムがあんなにも簡単にやられるわけがない。

 

「あ、あぁ……」

 

仲間が1人、また1人と蹂躙されていく。

銃撃で、斬撃で、刺突で、殴打で。

まるで、加減の知らぬ赤子に扱われたおもちゃのように、機体が腹からが引き裂かれたものもいた。

コックピットに響く断末魔の数が段々と少なくなり、

何も聞こえなくなる。

 

そこに残ったのは俺が最後だった。

ブレイクデカールで強化された異様なガンプラが、仲間の亡骸を文字通り踏み躙りながら、俺の機体に近づいてくる。

 

俺は砲撃手として起死回生の一撃を放った。

その一撃で、近づいてくるマスダイバーたちの悉くを蹴散らした。

が、奴らは何度でも、何度でも蘇り、俺に迫る。

 

「やめろ……」

 

滅多に使わないナイフを懐から取り出し振り回す。

が、奴らの強化された装甲には傷一つつかなかった。

 

「やめてくれ………」

 

奴らは撃墜ポイント欲しさに俺の機体へ群がり始めた。

仲間の為、勝利の為、磨き上げた技術と途方もない時間を費やしてできた俺の愛機が、抵抗空しく嬲られていく。

 

「"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ!!!」

 

俺はコンソールへ八つ当たりをしながら、絶叫した。

途端、視界が黒く染まる。撃墜されたのだ。

 

全てが無駄になった気がした。

 

才能、努力、絆……

全てを使って戦いに臨んだ。それなのに、俺たちはこの世界で最も卑劣な力に屈してしまった。

…………もう何も信じることができない。

俺は逃げた。

 

「そうだよ……俺は逃げるんだ……」

 

ふと気がつくと俺はメインロビーへと移動していた。クルトさんと別れた後、何も考えずにここへ辿り着いたらしい。

あとはログアウトするだけで俺の数年にも及ぶGBNライフは幕を閉じる。

 

GBNを始めた最初の頃はログアウトなんてしたくなかった。ずっとずっとこの世界で暮らせればいいのに。そう思っていた。

 

この世界ではリアルで満足に生きれない人が大勢いるそうだ。例えば、事故で歩けなくなった人とか。

 

さっき話したクルトさんもその1人。そういった人はこの世界を第二のリアルとして、暮らしているらしい。

とても失礼な話だが、俺はその話を聞いた時、少し羨ましいと感じた。

ずっとこの世界に居れるなら、何不自由なくていいだろとか思っていた。

 

(そんな俺が、まさか……な、こんな気持ちでここから離れることになるなんて。)

 

ウィンドウを開き、ログアウトボタンへと指を進める。

YESボタンを押そうとしたその時……

 

「いや!やめて!」

 

「そんなこと言わずにさぁ、君ぃ初心者でしょ?」

 

「そうそう、僕たちこう見えて強いんだよ?」

 

「離してって言ってるでしょ!」

 

二人組の男が少女を掴みながらあれやこれやと争っている。

まぁ……現実ならまだしも、ゲームの世界じゃ強引なナンパだってロールプレイの一環だ。

ダイバーは皆、システムに守られているし、悪質な行為は運営に通報されればそれで一発だ。

だから、目の前の争いを止めようとする気にはなれなかった。

今からここを去る俺には、関係のないことだと、そう思った。

 

争いから目を離し、もう一度、ボタンへと指を伸ばーーー…。

 

「ここだけの話ね?僕たちちょっとスペシャルでさぁ……持ってるんだよ、簡単に強くなれるブレイクデカールって奴を……」

 

「っ…………!!オイ!!」

 

半ば無意識に叫んだ俺を2人の男が見つめる。

なんだこいつはといったかのように。

あぁもう、こうなったらヤケだ。

 

「その子から……手を離せ……!」

 

男を睨みつけながら、俺は一歩、また一歩と近づく。

男たちは呆気に取られて、動かない。

 

「聞こえなかったのか?その子を離せと言ったんだ!」

 

「あぁ!?んだテメェやんのか?」

 

「ま、待てよコイツの服……!あの第七機甲師団の制服じゃないか?!」

 

背の低い方の男が明らかに動揺しながらそう言った。

チャンスだ。

 

「あぁ、そうだ……!いいんだぜ、お前らのお得意なガンプラバトルで白黒つけたってよぉ!」

 

脱退したばかりの俺がフォースの名前をダシに脅すのはかなりまずいことだと分かってはいたものの、つい口走ってしまう。

かつての仲間たちに心の中で謝罪しながら、俺は相手の反応を待った。

 

(どうだ……これで引いてくれ……!)

 

だが俺の祈りは虚しく、打ち砕かれることになる。

少女の腕を掴む男が、震えながら発した言葉によって。

 

「へ、へへ……でもよぉ……こいつらボロ負けしたって噂じゃねぇか……」

 

脳裏に、あの光景がフラッシュバックする。

男たちの怯えが急に止んだ。

いや、違う。俺が怯えているんだ。手が、足が、震えているんだ。

誰でもない、俺自身が……!

 

青ざめる俺をみて、男達は態度を急に変えた。

 

「おい、見ろよコイツの顔……!どうやら噂は本当らしいぜ……!!」

 

「あぁ、そうみたいだなぁ…!優しい優しい第七機甲師団の方には俺達の得意なバトルでご指導いただこうじゃないか……!」

 

ヤバい、何か言わなければ。

なのに、体が言うことを聞かない。

口を動かしたいんだよ。なんで体が震えるんだ……!

何か言え……!動け……!動けぇ……!!

 

「逃げるよ!」

 

「あっ、待てよ!オイ!」

 

油断した男は少女から手を離していた。

その隙に、少女の手が俺の手を取る。2人で走った。

走って、走って…いつのまにか俺たちは何もない草原に辿り着いた。体の震えはいつのまにか、無くなっていた。

 

「はぁ……ここまで来れば大丈夫でしょ……」

 

息を切らしながら原っぱに倒れる少女。

 

「すまん……助けようと……でも……」

 

俺は謝罪するために膝をついた。

少女も少しずつ息を整えながら、返事をする。

 

「いや、最初に助けてもらったのは私だし……ごめんなさい……」

 

「いやいや……俺なんか……」

 

「いいや私が……」

 

俺たちは原っぱでお互いに謝りあった。

それを二、三度、繰り返すうちに……俺たちは互いのことを全く知らないことに気づいた。

 

「まだ自己紹介してなかったな……俺はハルマ。」

 

彼女はそういえばそうね、と言った後、自身の名前を話した。

……フルネームで。

 

(ダイバーネームでよかったんだけどなぁ……)

 

「とりあえず、よろしく、ハルマ君!」

 

少女は俺に向け、拳を差し出した。一瞬、意味が分からず彼女の顔を見つめる。この時初めて俺は彼女が白い花飾りの似合う綺麗な少女だということに気づいた。その数秒後、ようやく彼女はグータッチを求めているのだと理解する。

 

「あ、あぁ、よろしく」

 

「ところで聞きたいことがあるのだけど……いい?」

 

俺は相槌を打った。彼女は首を傾げながら、俺に質問をする。

 

「ダイナナキコウシダンって、何?」

 

(そういえば……初心者だったな……)

 

その日は彼女と一緒にミッションをこなした。軽くGBNについて説明しながら。

 

俺は久しぶりに勝利に執着しないバトルを楽しんだ。

勝つことは楽しい、素晴らしい。

だから、それに向かって努力するべきだ。

 

俺はそう言った価値観に囚われていたのだなと彼女と

プレイしていて思った。視野の狭い人間ほど、思い詰めるものだとも。

彼女は勝っても、負けても、失敗したとしても最後には必ず笑っていた。

俺はそんな彼女の笑顔に、なぜだか無性に救われた気がしたんだ。

 

そんなこんなで彼女とはフレンドになり、また一緒にプレイしようと約束してから別れた。

ログアウトする前にまたメインロビーへと立ち寄った。

俺のGBNライフはまだ終わらないらしい。

 

当時、それは良いことだと、本気で思っていた。

もう一度、初心に戻って、バトルだけじゃない、この世界の魅力を1から味わっていけると思っていた。

 

けれど、あんなことになるぐらいなら、ここで

辞めていた方が幸せだったかもしれない。

ログアウトした俺はダイブルームから出る。

それに気づいた店長は気まずそうに俺に話しかけた。

 

「お疲れさまー……」

 

どちらかと言えば、お疲れ様と言った店長の方が、お疲れである声のトーンをしていた。

 

言いたいことを言えずにいるのが見え見えなので、俺はとりあえず過程を飛ばして結果だけを伝えた。

 

「GBN、辞めるのやめました」

 

「え?!」

 

顎に手を当て、辞めるのを辞める……?とHATENAマークを浮かべる店長に事の経緯を説明する。

 

「つまり、その女の子と、会う約束をしてしまったから、辞めるにやめれないと」

 

「別にイヤイヤってわけじゃないですよ」

 

俺は普通に言ったつもりだったが、店長は勝手に何かを察して、カウンターにいる師匠に近づき、会話が俺に聞こえないように耳元で喋り始めた。

 

「聞いたかい?テルミさん、ハルマにもようやく春が来ましたよぉ……」

 

「浮かれるのは早いぞ……GBNだし、性別が違う可能性も……」

 

「いやいやぁ…今どき性別なんて……」

 

本人達はコソコソ離しているつもりなのだろうが、2人とも声の通る方なので丸聞こえだ。

この夫婦は昔っから変わらないなと思いながら、

俺は店長にどう仕返ししようかと、頭を働かせた。

 

 

それから俺は彼女と共にGBNを楽しんだ。

 

ある日は改造したガンプラを自慢した。

 

「あっ、ハルマ君のガンプラ変わってる!」

 

彼女は俺の機体を指差しながら驚いている。

 

「そうだ!これが新しい俺のガンプラ!ガンダムバルバトス•ラグナだ!」

 

フォースを辞め、1からGBNを始めようと作り直した俺の機体。

以前はバルバトスとバスターガンダムをミキシングした砲撃戦仕様のガンプラだったが、彼女とコンビを組むならば、それは適していないということが段々わかってきたので、どんな状況にも対応できる万能機を目指して作った。

 

俺の自信作のお披露目に彼女は期待以上のリアクションを見せる。

 

「おーっ!パチパチ!前のやつとずいぶんちがうね!」

 

「今まではフォースのため、チーム戦用の装備だったからな!心機一転ってやつだ!」

 

「じゃあさ、じゃあさ!前クリアできなかったミッションやってみようよ!」

 

 

またある日は2人で海を見に行った。

事の経緯は、彼女が海の存在を知らなかった……

いや、海という概念は知っていたが、どこか話が噛み合わなかったので、2人で見にいくことになったのだ。

 

「きれーい!!」

 

砂浜を素足で走り回りながら、はしゃいでいる。

俺はそんな彼女を愛しく思いながら、その気持ちがバレないように、地平線を眺めているフリをしていた。わざとらしいセリフを言いながら。

 

「おぉ、結構リアルだなぁ……」

 

別に話しかけたわけではないのだが、俺の言葉を聞いた彼女は俺の隣にすとんとすわったあと、首を傾げた。

 

「リアルの海も、こんな感じなの?」

 

なんの考えもなく発した言葉に質問され、俺は戸惑った。

体が火照るのを感じる。夕焼けでいい感じにごまかせてるといいけど。

体裁を整えるために、俺は答えにならない返事をした。

 

「ん、山育ちだからわかんねぇけど……まぁ多分?」

 

「そっかぁ……いつか本物も見てみたいな……」

 

 

海なんて見ようと思えば見れるのに、彼女はそれが実現不可能な望みのように呟く。

その時の、彼女の瞳はどこか悲しそうに見えた。

 

こんな特別な日もあったな……

 

「わり、待った?」

 

「ううん、今来たとこ!」

 

待ち合わせ時間よりもだいぶ早く来たつもりなのだが、それでも彼女は先にいた。

毎度毎度、彼女と待ち合わせるたびに「待った?」と聞いている気がする。

 

その日はELダイバー、サラを巡って大佐達が戦った日だった。いわゆる、第二次有志連合戦である。

当時はGBN中が大騒ぎで、サービス終了とかの根も葉もない噂や、ELダイバーの暗殺派と保護派の対立など、悪い意味でGBNが盛り上がっていた。

俺はフォースを脱退していたから、一連の騒動をただ傍観者の立場で見ていた。

 

それほどまでに彼女との日々は充実していた。

だが、この日だけはそうはいかなかった。

待ち合わせの場所の消灯が急に暗転し、そこにいたダイバー全員が驚きを見せる。

その中の1人がウィンドウを開きながら素っ頓狂な声を出した。

 

「オイ……!ログアウトできねぇぞ!!」

 

(なんだって……!!)

 

「ハルマ君?どうしたの?」

 

「どうしたって……ログアウトできないんだぞ?!」

 

「あぁ、そうだよね……大変だ!」

 

「……?」

 

どこか他人行儀な彼女に違和感を覚えた。

が、それに構っている余裕などなく、この騒動の元凶を打ち倒すため、俺たちはレイドボスに戦いを挑むことになる。

 

 

「ーーー!ルナエクシア!行きます!」

 

「ハルマ!ガンダムバルバトス•ラグナ!出るぞ!」

 

俺は左腕のレールガンで、レイドボスから生み出された雑兵を撃ち抜いた。しかし、そのザコたちはあろうことか、自己再生の能力を持っていた。

 

「無限再生……!んだよ!またかよ!」

 

脳裏にマスダイバーにやられた記憶が蘇る。

だが、俺だって前とは違うんだ!

バルバトスは刀を抜き出して雑兵の群れへと突き進む。

切って、切って、切りまくった。

無限再生と言ってもある程度破壊してしまえば再生はできないようだ。

俺は雑兵の群れを片付け、彼女と合流する。

 

「いつもの頼む!」

 

「了解!」

 

彼女は俺と出会ってから、実力をぐんぐんと伸ばし、今では必殺技をも使いこなしている。

彼女の必殺技を一言で言うならヒール、回復だ。

削れた装甲値を戻すことができる。

その上、弾薬やエネルギーすらも回復するので、効果は絶大。

但し、周りに修理素材となるようなジャンクパーツが必要だが……今回のような大規模戦闘ではそれを気にする必要はなかった。

 

「よし、これで戦える!サンキューな!」

 

「どういたしまして!って、まだまだ敵さんは来るみたいだよ!!」

 

「あぁ任せろ!」

 

その時、一筋の光が空を照らした。

 

「これが、みんなの、思いだぁあああ!!」

 

巨大なレイドボスを少年が一刀両断。

ある少女を救った少年は、この世界をも救い、英雄に、ヒーローになった。

その瞬間を俺たちはただ、見上げていた。

 

「終わった…のか?」

 

「そうみたい……ふーっ、疲れたぁ!」

 

その後、ELダイバー"サラ"のリアルへの転送は成功し、ELダイバーという存在がこの世界に受け入れられた。

運営はこれまでの対応について謝罪し、

ビルドダイバーズやビルドデカール製作者との協力のもと、ELバースセンターと呼ばれるELダイバー保護のための機関を設立。

同時に、ELダイバーへの誤解が広まらないように正確な情報を発信し続けた。

 

それは、贖罪の意味も込められていたと、推測されている。

 

事件が解決してから少なくとも半年間は、ELダイバーについての話題を目にしない日はなかった。

 

俺も流石に傍観者ではいけないだろうと思い、個人的に調べてみた。

と言っても運営が公表している情報を流し見した程度なのだが……

 

「ELダイバーとは、GBNで生まれた知的生命体……リアルが必要な我々とは違ってGBN内で暮らすことも可能……ふーん、なるほどな」

 

俺はネット記事を映し出しているパソコンから目を離し、傍に置いてある時計をふと見る。

現在時刻は三時半。夜の、だ。

ガンプラを作るのに夢中になって、ついつい夜更かしをしてしまい、寝ようにも寝れないので、今こうして暇つぶしをしているわけだ。

 

少し椅子に寄りかかり、ぼーっとしていると、ダイバーギアが振動した。手をかざすとフレンドのオンライン通知だということが分かった。

 

ーーーがログインしました!

 

俺はスマホを開こうとポケットを漁った。

映し出された時刻は当然、夜三時、深夜。

俺がこうして夜更かしできているのは明日、通っている高校が開校記念日で休みだからだ。

 

だが、彼女は以前、俺が年齢をつい漏らしてしまった時、同い年だと言っていた。

つまりは高校生、こんな時間にログインするなんてよっぽどのことがあったか、もしくはただのネトゲ中毒者のどちらか……

 

「いや、違う」

 

ここ最近になって現れたじゃないか。GBNで生まれたリアルが存在しない生命体が。

そういえば、俺は彼女のログアウトしている姿を見たことがない。

話も時々、合わないことがあった。

彼女は海を、知らなかったのだ。

だからあの時、見に行った。

心臓が急に早く動き始める。

俺はダイバーギアを掴み、パソコンへと接続。すぐさまGBNへと飛び込んだ。

彼女はすぐに見つかった。

 

「んー?え?ハルマ君?!なんで?!今何時だと思ってるの!?」

 

「……」

 

もし彼女が、ELダイバーだとしても、この世界は昔と違って受け入れてくれる。

だから俺がわざわざ、こんなに急いでログインして、彼女に会う必要なんてない。

数日後、一緒にプレイする約束はしていたのだから、その時に聞けばいいだけの話しだ。

けれども、俺はただ、彼女の本質を知らずにいることが怖くて、目の前の少女の存在をただ確かめたくて……俺は彼女にこう質問した。

 

「君は……!ELダイバーなのか………?」

 

その質問に彼女は微笑みながら、答えた。

 

「ーーーーーーーーーーーーーー」

 

なんだ?なんて言っているんだ?

上手く声が聞こえない。彼女はしっかりと口を動かしている。

視界が、ぼやけ始めた。目の前にいた彼女が段々と離れていく。

俺は必死に手を伸ばし、彼女の手を掴もうとした。

だが、自分の手ですら、ぼやけて曖昧になり、見えなくなっていく。

 

待ってくれ!いかないでくれ!ーーー……

 

「待って……!」

 

視界が急にはっきりした。腕もちゃんとある。

そこまで確認してから、俺は自分が横たわっていることに気づいた。

そうだ。あれは夢だ。辛い過去をなんとかして整理しようとする脳の働き。

俺は伸ばした腕をゆっくりと下ろす。

無機質な天井と睨めっこしながら、この意味不明な景色を、記憶を辿りながら説明しようとした。

 

「おぉ、兄ちゃん目ぇ覚ましたか!今看護師さん呼んでやっからな」

 

隣の方から知らないお爺さんの声が聞こえる。

ベット、仕切り用のカーテン、ほのかな消毒液の匂い……なるほど、俺は今、病院にいるようだ

記憶が少しずつ蘇っていく。

一番最後の記憶は突如現れた巨人を打ち倒して……

急に動悸が激しくなったところだ。

 

とりあえず、お爺さんにお礼を言ってから、また眠らないように体を起こして、看護師さんがくるのを待った。

 

それから数日後ーーー…。

 

丸一日かけた検査を終え、俺は帰路に立った。

幸いにも、入院していた病院はウミモト模型から駅一つ分ほどしか離れていなかったので、徒歩で帰ることができた。

 

店の前に辿り着き、少し戸惑う。毎日通っていた仕事場が懐かしく感じたからだ。

たかだか数日しか離れていないはずなのに。

 

深呼吸してから、意を決して、今時珍しい手動のドアを開ける。

 

「いらっしゃーーー

 

店長のその先の言葉は発せられることなく、口を開けたまま、あんぐりとしている。

 

「えぇと……ただいま?」

 

少し照れながら、俺はそう言った。

涙を浮かべる店長に気づかないふりをしながら。

 

「師匠ー、ししょうーー」

 

「どうした?」

 

「いやどうしたじゃなくて……この人たち引っ剥がしてくれませんか?」

 

右腕にケンを、左腕に店長を………顔面にラナを。

三者三様に俺の体にへばりついている。

工作室の無機質な椅子で拘束された俺は師匠に助けを求めたが……

 

「あんたねぇ……心配させたんだからそんくらい許しな。アタシだって一発殴りたいのを抑えているんだからね」

 

「なんで1人だけ暴力なんですか……」

 

冗談っぽく言ってはいるもののこの人は本気だ。全く顔は見えないが、声のトーンと、長年の付き合いによって育まれた経験がそう言っている。

 

「ハルマあぁぁ……!僕は、僕はねぇ!救急車なんてもう二度と見たくないとすら思っていたのに……君のせいで乗ることにまでなってねぇ!!」

 

「僕だって血の気が引きましたよ!!肩叩いたら頭から血ぃ出して倒れるんですもん!!」

 

「………ばか」

 

 

拷問官三人による言葉責めが始まった。

言い返したくても俺が多大なるご迷惑とご心配をかけたのは紛れもない事実なので、そのまま黙って三十分ほど言いたいだけ言わせてやった。

 

30分後ーーー。

 

「さて、言いたいことも言えたし、現状確認といこう」

 

約三歳と高校生に混じって恨みつらみをこぼしていたくせに、店長はいきなり仕切り始めた。なんて切り替えの早さだ。

それを見習って俺も再度記憶を辿る。

 

俺が倒れたあの日、そもそもはアカバネと会いに行ったケンを見守ろうとしただけなのだ。

それがどうして巨人の化け物に襲われることになったのか。

何があったのか全て知るのは俺だけだ。

俺は事実を淡々と皆に話す。

俺が倒れている間に、ケンイチはアカバネと情報交換をしていてくれたようで、それも含め、皆で現状確認を進める。

 

「うーんと……つまりこういうことかな?」

 

店長が紙に話をまとめる。

 

MAを作ったのはアカバネだが、GBNに広めたのは別人である。

 

アカバネが巨人とMAを売ったのは同一人物である。

 

アカバネがやり取りしていた人物を探したが、メアドなど証拠もなく、断念。

 

アカバネの監視をするかのように、赤ディランザが隠れていた。

 

巨人を召喚したのは赤ディランザである。

 

巨人は何故かラナを狙っていた。

 

巨人を倒した後、急にハルマの体調が悪くなり、倒れた。

 

「つまり……この赤ディランザが黒幕?」

 

ラナが紙の上に乗りながら、指を指す。

 

「どうだろうねぇ、そもそもMAを流行らせたのと巨人の接点は分からないし……ハルマ、赤ディランザのダイバーは何か言ってた?」

 

店長は頭を抱えた後、俺の顔をみて質問した。

 

ーーーーーー

「貴様を裁く準備ができた。俺の姉を奪い、今なお愚弄し続けている貴様のな」

ーーーーーー

 

俺はあの男の言葉を思い出したが、それを伝える気にはなれなかった。不思議な顔をしている店長に空返事をする。

 

「いや……何も……」

 

結局、結論が出ることはなかった。

だが、アカバネというMA事件の鍵を握る人物が協力者になったのは大きな進歩だ。

俺たちはとりあえず、運営とロンメル大佐に事の経緯を説明することにした。

突拍子もない話だが、幸いにも映像データと俺が倒れた事実があったので、運営も重い腰をあげ、捜査してくれると約束してくれた。

 

俺達はそこで安心してしまった。運営に任せれば大丈夫だろうと。

事件の中心であり、始まりでもある俺が、動くべきだった。

奴らは……奴の計画は……阻止しようとするにはあまりにも遅かったんだ。

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