ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation 作:Haturu
ピッ。
ハルマが退院してから数日後のこと。
いつもの工作室で、滅多につかないテレビの電源がつく。
ハルマは番組表の中に見慣れたアルファベットを見つけると、すぐさまそのチャンネルを選択。
映し出されたのはよくあるワイドショーだ。
MCの名乗りと共に、本日の議題と専門家が登場する。
「本日のテーマはGBN、ゲームの中で生まれた生命体!!今日はGBNのゲームマスター、カツラギ氏と若き天才にしてAI研究のプロフェッショナル、シンラ氏をお呼びしました!」
テロップに、彼らの名前が映し出される。
仏頂面のGM、カツラギと対照的に、肩書きのわりに温和な雰囲気のシンラという男。
並んで座っているというのにも関わらず、どこか温度差を感じる組み合わせだ。
年齢も極端に離れている。
MCの質問に一つ一つ、簡潔に返すカツラギ氏。
ところどころ、シンラ氏に対して意見を求めるMCだが、新人なのだろうか、
その内容はかなりのキラーパス……無茶振りが多かった。
それでもシンラは微笑みながら、時には自虐も含めつつ、その質問を捌く。
「いやー正直ねぇ……ELダイバーさんたちはAIとはちょっと違うっていうか……似て非なるものなんですよねー」
今まで、ほとんど質問の返答以外に反応を見せなかったカツラギ氏が初めてここで頷く。
多少なりとも、番組にに不満があるのだろう。
「ですが、興味がないってわけじゃないんですよ、ここ最近ーーーー
「つまんね……」
テレビを消すハルマ。退屈そうな顔をしながら、体を伸ばして欠伸をする。
「はぁ……GBNやりたいなぁーー」
ハルマさんが僕たちを見ながら、わざとらしく間延びした声で言う。
店長もラナさんも、テルミさんも……もちろん僕も、誰一人、返事をすることはなかった。
ハルマさんは負けじとさらに声を張り上げて言う。
「あーーーーGBN、やりたいなぁーーーー」
また、無言。
痺れを切らしたハルマさんは遂に叫び始める。
「G、B、N!や、り、た、い、なぁー!!!」
「「うるさい!!」」
女性二人に叱責されたハルマさんは机に突っ伏しながら駄々をこね始めた。
「だってさぁ!もう体調大丈夫だって言ってるのにさぁ!」
ハルマさんが退院してちょうど明日で一週間が経つ。
明確な原因のわからないまま、またGBNにログインして倒れられたら困る。
と言う事情で、店長はハルマに体力が充分に回復するまでの一週間、GBNログイン禁止令を言い渡した。
最初は大人しく従っていたハルマさんだったが、もうそろそろ限界のようで今日は朝からずっとこんな感じだ。
そんなハルマさんを尻目に、僕はダイブルームへと向かう。
ハルマさんには悪いけれど、僕にも用事があるのだ。
ダイブ後、ルイさんと約束した時間の数分前に、待ち合わせの場所に着く。
そこはリアルで言うファミレスのような場所だった。
運営が用意したこういうショップは、何気ない会話をするのにちょうどいい。
居座ることができ、その上安い値段でそれなりの料理を提供してくれるからだ。
もっとも、プレイヤーが経営する店の利益を奪わないよう、絶妙な味の調整がなされているのだが……そこはまぁ仕方ないだろう。
「頼む、ケン!!この大会に参加してくれ!!」
僕がルイさんの奢りであるラーメンを啜るさなか、彼は突然の大声で懇願し始めた。
当然、驚いた僕はむせた。
「ゲホっ……ゲホっ……うん、説明して?」
すまん……と項垂れながらルイが説明し始める。
最近、ルイさんはフォースを設立した。
フォース名は「バレット&ブレット」。略してBB。
ルイを筆頭に、最近初めた初心者が偶然仲良くなり、出来たらしい。
最初はリーダーとして切磋琢磨していたルイだったが、みんなに頼られ、有頂天になってしまった。
そんな彼は有る事無い事、それはそれは沢山自慢しまくったらしい。
その中に、僕についての話があった。
「つまり、GMトレーナーズカップで優勝した僕と知り合いで、ついでに自分は勝ったことがある……そう自慢した……であってる?」
ルイは申し訳なさそうに頷く。僕は肩をすくめた。
紛れもない事実だが、自慢のダシに使われるのはあまりいい気分ではない。
「けれど……その話がどうやって最初のお願いに繋がるの?」
「あぁ、それでな…つまり俺はそんな大会優勝者と縁があると言ってしまったわけだ」
ルイがまた、説明を始める。気まずい話題が終わったためか、先ほどよりも少し声のトーンが高くなっていた。
ルイが先ほどのイベントの詳細を僕に差し出す。
と言ってもそれはいわゆる広告のような派手さのあるものではなくて、くだけた口調の会話グループ内のやりとりの一部だった。
Ruiじゃ、大会の説明するぞー
日時は来週の金曜の××時、集合場所はいつものフォースネスト。
いけないやつは今のうちに連絡くれよ!
「レーシング?」
「あぁ、見てもらえばわかると思うが、大会って言っても身内だけのもんだ」
僕はなんとなく、今後の展開を予想する。
「つまり、大会優勝者の僕を呼んで、身内大会を盛り上げようってことか」
「あぁ……正解だ」
正直、どの口がと言いたくなるような感じだが、わざわざ経緯をちゃんと説明してくれたことだし、そこに悪意はないのだろうと僕は思った。
「まぁ……いいよ、予定もないし。」
僕は食べ終えたラーメンの前で手を合わせながらルイの申し出を受けた。
しかし、当のルイさんは無茶な願いを聞いてもらったにも関わらず、反応を見せない。
僕が不思議そうな顔をしていることに気づくと、
彼は弱々しい声で話し始めた。
「このレーシング場な……十人以上で割引が付くんだ」
嫌な予感がした。
先ほどの会話グループ内の人数が8人と表示されていたことを思い出す。
「ま、まさか……」
「誰でもいいから……さ、誘ってくれない…………?」
僕は無言でメニュー表を取り出した。
少しでも、奢りの金額を増やすために。
ルイさんは机に手をつき、謝罪のポーズをとっていたが、僕はそれに気づかないふりをして、一番値段の張る、普段は頼まないであろう、どデカいパフェを注文した。
ーーーーーー
「ってことがあったんですよ」
「それはまた、災難だったな、ケンイチ。」
次の日、僕はいつもの工作室でAGE1の調整をしながら、ハルマさんにことの経緯を話した。
それは単なる愚痴ではなく、相談がしたかったからだ。
「レーシングって言われても……ちょっとイメージがわかなくて。ハルマさんはやったことありますか?」
「………あぁ、何度かは」
「アドバイスとかあります?」
ハルマさんは腕を組みながらうーんと唸った。
「正直、厳しいかもな」
「…えっ?」
予想以上の手厳しい意見に僕は素っ頓狂な声をあげてしまう。
ハルマさんは頬杖をつきながら僕のAGE1を指さして話を続ける。
「レーシング系のバトルで必要なことは多々あるが、まずはスピード、とにかくスピードがなければ始まらん……だが、ヒバナにはそんな突出したスピードはない。」
「ふむふむ……」
僕は相槌を打ちながらハルマさんの話を熱心に聞く。
「その上大会優勝者っていう理由で呼ばれてんだろ?ルイのフォースメンバーが期待するようなレースをするなら尚更、インパクトのある機体スペックが求められるだろうな」
ハルマさんの指摘は的を得ていた。
少なくとも今回の依頼は参加を約束するだけで果たされてはいる。
だが、実力者として呼ばれてしまった以上、いくら初めてのレースバトルとはいえ、生半可な結果では、気まずーい雰囲気になってしまうだろう。
「インパクトのある機体スペックか……」
僕はつい呟いてしまう。
機体を乗り換えるのも一つの手かもしれないが、今のヒバナへの愛着から、それはしたくない。それに、今日含め6日間だけで新規に作り出すのは多分間に合わない。
じゃあ装備を作るか……とも踏み切れない。
AGE1は設定的に、結構独特な構造をしている。
肩は棒状のジョイントだし、背中もベーシックな形ではなく、腰などもあの変な形の丸いたまに……細いとんがりのついた……まぁ、作ったことがある人なら分かるであろうあの形のポリキャップだ。
「ところでだ、レース会場はどんな感じなんだ?」
僕はハルマさんにレース場とついでにルイさんから送られてきた詳細のデータを見せる。
「なるほど……直線多めのベーシックなコースを一周……これならいけるかもな」
ハルマさんは何やら呟いた後、無言で部屋を出ていった。
「……?」
ハルマさんはガンプラの空き箱を持ってすぐに戻ってきた。
中にはパーツが入っているようだ。プラスチックが中で当たってカツカツと心地の良い音がしている。
「ケンイチ……そろそろ欲しくないか?」
「欲しい……?何をですか?」
「決まってんだろ」
ハルマさんが僕の前で大袈裟に箱を開ける。
「自分だけの特殊兵装だよ!」
中に入っていたのは……大型のバックパックのような"何か"だ。
そう、"何か"。かろうじて、デカいプロペラントタンクが接続されていることだけがわかる。逆にいえばそれしかわからない。
「いやなんですかこれ?!」
「特殊兵装だって」
「それがわからないから聞いているんです!」
はぁ……とハルマさんがわざとらしくため息をつく。
「ケンイチ……ロマンは好きか?」
「ロマン…?」
「好きだよな?好きだろうな、うん。好きに決まってる」
(……自己解決?!)
「冗談はさておき……時間ないんだろ?役に立つはずだぜ」
「さいですか……」
僕はパーツの一つを手に取った。
どうやってAGE1に接続しようかと考えながら
数日後……レース開催日。
「いやぁー来てくれてありがとう!」
待ち合わせ場所の会場前に行くとルイさんが立っていた。
僕達は握手を交わす。
「ハジメさんも来てくれてありがとう!」
ルイさんが僕の隣にいたハジメに挨拶した。
そう。僕が呼んだ助っ人はハジメ。あの大会の後も僕らは週一のペースで一緒にGBNをプレイしている。
今週はまだ一度もできていなかったのでついでに呼んだ。というわけだ。
「それじゃあ、準備あるから!そろそろみんな来ると思うからー!」
ルイさんは足早にレース場へと走っていった。数分もしないうちに「BB」のフォースメンバーが集まり始める。
僕達の知名度はそれなりにあるようで、フォースの人たちそれぞれに握手やらサインやらをすることに。
……正直、恥ずかしかった。
それはさておき、僕達が自己紹介を終え、楽しい雑談を続ける最中、僕はいつまで経っても最後の一人が現れないことが気になった。それとなく、フォースメンバーの一人に質問すると、
「大丈夫っす!いつものことなんで!多分そろそろ……」
「ごめーん!お待たせ!!」
声の聞こえた方へ振り返ると手を振りながらかけてくる少女が見えた。サバンナやアマゾンにいそうな探検家風の格好。大きなリュクが似合いそうだ……と感じた。
周りの皆さんが遅いぞーだとか、いい加減にしてくれよーなど好き放題言っている。
文面にするとキツイ感じがするが、彼らの言い方には全くと言っていいほど毒がなく、仲の良さが伝わってくるような言い方だった。
少女もにこやかにごめんごめんと、手を合わせている。先ほどの発言も踏まえれば、いつもお決まりの光景なのだろう。
彼女はすぐに僕達の存在に気づいた。
目があった瞬間、僕達へ駆け寄ってくる。
「あ、あの!この前はありがとうございました!!」
最初はハジメに言っているのかと思ったが、彼女の目線は僕へと向けられていた。
彼女はどうやら僕に面識があるようだ。
が、僕は全く思い出せない。
「あっ、あー!アノトキノ!!」
反射的に心にもない返事をしてしまう。
棒読みがバレたのか、ハジメはとても険しい目つきで僕を見つめていた。
「はい、あの時、送ってくれて……なんてお礼を言ったらいいのか……」
ハジメの目に殺意が灯った……ような気がした。
これ以上下手なことを言ったら殺されそうな勢いだ。
僕はそこまでの大罪を犯しているのか……?!
だが、一向に彼女の正体は頭に浮かんでこない。
「私のクランシェ、あれから大分変わったんです!今日は前とは違うってところ、見ててください!」
ヒントが出た。クランシェ。だが僕にはクランシェを使ったダイバーとの交流は……
いや、ある。それは初めて僕がGBNにログインした時のこと……
思い出した。この人はルイさんと戦っていた、クランシェのダイバーだ。
「でもよく分かりましたね……あの時、僕はハロだったのに……」
彼女は照れ隠しで頭をかきながら、こう言った。
「声が似てるし、AGE1を使ってたり、色々共通点があったから、すぐに気付きました!!あれからケンさんのの大会のリプレイは何度も……あっ、すいません自己紹介がまだでしたね、私エマって言います!!」
なるほど。エマさんは多分、冒険家よりも探偵とかの方が向いていると思う。
自分の記憶力の無さを棚に上げ、そんな好き勝手な妄想をしていると、背後からルイさんの声が聞こえた。
「みんな揃ってるかぁー!準備できたやつから来てくれーー!!」
皆がぞろぞろと会場へ向かう。
「それにしてもなんでルイさんと戦っていたんですか?」
「えへへ……恥ずかしいんですけど、私があいつの機体、隠しミッションのボスかなんかと勘違いしちゃって……攻撃しちゃったんですよねぇ……」
「はーそんな事情が……」
二人のやりとりをハジメはじっと見つめた後……
「絶対勝つ……負けてたまるか」
と、ボソリと呟いた。
会場へ入り、決められた順番で自分の機体を呼び出す。
僕は一番後ろだったので、皆の期待がよく見えた。ゼータ、フラッグカスタム、エアマスター……早そうな機体ばっかりだ。
だがしかし、一番目を引いたのは、僕とルイさんだろう。
「ルイさん、ほんとにそれでやるんですか?」
メンバーの一人が通信で問いかけた。
ルイさんは満面の笑みでもちろん!と答える。
ルイさんの使う機体はグレイズツヴァイ、だが、
足の裏に鉄華団モビルワーカーが取り付けられていた。ローラーシューズ?スケート?でもするつもりだろうか。
けれど、かく言う僕もあまり人のことは突っ込めない。
天災兵器、ピーキー中のピーキーであるこの兵装を僕は使いこなせるか……
「まぁ、やるしかない……!」
ルイさんの合図で、スタートゲートのランプが点滅する。スタートが近い。
ランプが一つ、また一つと消えていき……
START!!
皆一斉に操縦桿を倒す。
最初にトップに躍り出たのはゼータのダイバーだ。
「やりぃ!一番乗り!!」
対する僕は、操縦桿から手を離していた。
「エネルギー効率、98%……」
まだだ、ギリギリまで。
「99………タイミング、今!!」
ディスプレイが100%を表示する前に、僕は操縦桿を倒す。
ゼータを一瞬で抜き返し、僕はトップに躍り出た。
「なっ……」
「あのバックパックは伊達じゃなかったのか!」
「流石はケンさん!!」
「……」
各々が素晴らしい反応を見せてくれるが、ケンの耳には届かなかった。
天災兵器
Hzw-03オーフィンズ
バックパックというにはあまりにも歪なこの装備は見た目通りの速度を出すことに特化した装備だ。
何故ケンはスタートダッシュが遅れたのか、それはこの兵装の特異性にある。
この装備は……100%以上チャージした瞬間に爆発する。
だからケンはギリギリまで粘ったのだ。、
その分速度は申し分なく、
この装備を使えば、WB形態のゼータといえど、例えどれほど離れていたとしてもすぐさま追いつき、瞬時にその距離を離す。
だが……天災兵器、ハイリスクハイリターンの掟はこの装備にももちろん適応されている。
「10秒後……カーブ!!」
そう、この兵装の弱点は、ブレーキがないこと。
だから、カーブでは………
「3……2……1………今!!」
AGE1がほんの一瞬、オーフィンズのブーストを停止させる。そして、上半身を無理に回転させ、オーフィンズを強引にコースの壁へと向けた。
ブレーキのないこの兵装を使う為、ケンが編み出した苦肉の策。一瞬、オーフィンズを機能停止させてから、上半身を回転させて方向転換をする。
カーブをほぼ直角に曲がったAGE1は再度絶大な加速を開始。もう既に後続はレーダにも映っていなかった。
何十秒か進むと、再度カーブに差し掛かった。
しかし、ケンはオーフィンズをボルトアウトさせ、装備を廃棄。
オーフィンズのもう一つの弱点。それは再点火に莫大なエネルギーを使うこと。99%まで溜めたエネルギーのほぼ半分は再点火に使ってしまった。
このレースのコースが、前半カーブの少ないタイプではなかったら使うことはできなかっただろう。
「さて……走ろう」
ブースターがゼロになったAGE1は両脚を使って走り始める。
ーーーーーー
「あの装備……やっぱりハッタリじゃなかったな」
ハジメが一人でに呟く。
現状、圧倒的な差をつけられているハジメ。
2位ではあるものの、悠長にはしてられない。
「ケンさん凄い!!大会に出てる人ってみんなあんな感じなの?!」
後ろに張り付いていたエマがハジメに問いかける。
「さぁね……」
「隙あり!!」
「うわっ!ちょっと!!」
エマのクランシェWBがいきなりスピードを上げる。ハジメはシビリアンアストレイの体で慌てて抑えようと位置どりを変更した。
「ちょっと!卑怯でしょ!!」
「油断大敵ってやつですよ〜」
油断も隙もない。なんでやつ。彼女のペースに飲まれてしまってはダメだ。
そんなやりとりをしながら、ハジメたちは二度目のカーブに差し掛かった。
両機のカメラアイがコースに落ちているパーツを捉える。
二人とも、難なくかわすが、ハジメが急に減速。
「おっ先!」
エマはスピードを緩めることなく、2位争いに勝利した。
ハジメはそれに焦ることなく、レースを突き進む。
「そろそろ見えてこないとまずいかも……」
2位であるエマが呟く。レースの9割が終了しました今、一位であるケンの姿が全く見えないのだ。このままでは争いになることなく順位が消えてしまう。
ゴール前、最後の直線の前にある上り坂。
二人はそこをスピードを全く抑えずに飛び出す。
「「見えた!!」」
二人同時に叫ぶ。
視線の先にはAGE1がノロノロと走る姿が見える。
だが、ケンは既に直線の半分を踏破していた。
「このままじゃ、負ける!!」
エマが瞬時に飛び出す。トップスピードを出すクランシェは白い残光となり、AGE1に迫る。
500m、400m、300、200………
AGE1とクランシェの出すスピードの差は歴然で、みるみる距離が縮まっていく。
(……勝った!!)
エマが勝利を確信した。
事実、ゴール前、200mでトップスピードのクランシェと徒歩のAGE1ではそう思うのも無理はないだろう。
だが、エマは知らなかった。
炎の勇者の諦めの悪さを。
クランシェが追い抜こうとしたその瞬間、AGE1がクルリと振り返る。
「パルマ、フィオ……!!」
このレースは攻撃不可の仕様だ。
だが、ケンの目的は他にあった。
あの大会で見せた、必殺技の応用。
「アフター……!!バァナーァアア!!!」
左手に支えられた右腕の掌から熱線が照射される。
本来は反動がある必殺技。だが、ケンはこれを切り札として残しておいた。
「うっそぉ!!」
加速、いや吹き飛んだというべきか、なんにせよ、最初にゴールゲートをくぐったのはケンのAGE1だった。システムがケンのゴールを認識して音声や鳴らす。、
GOAL!!No. 1、Ken!!
「で、でも2位!!」
エマがガッツポーズをしようとするが、レーダーはそれを否定した。
「油断大敵、ね。」
いつのまにか、クランシェの背後に、シビリアンアストレイのが張り付いていた。
だが、クランシェとシビリアンアストレイのスピードは横ばいで、リードしているのはクランシェ、本来なら、勝ちようは無い。そう思っていた。
だがしかし、シビリアンアストレイが懐から薄汚れたパーツを取り出す。破損して火花を散らしているそのパーツは今にも爆発してしまいそうだ。
「大会に出ている人……か、少なくとも勝ちたいなら、彼を見習うべきだなぁ……いや、ほんとに尊敬だよ」
ハジメがその汚れたパーツを前方へ放り捨てた。
スピードの乗ったクランシェがそれを乗り越え、
そのすぐ後にシビリアンアストレイが乗り越えようとする。
その瞬間、シビリアンアストレイが、足裏からアーマーシュナイダーの切っ先を出現させた。
ブルーフレームセカンドLが改造元になっているからこそのできる芸当。
そのアーマーシュナイダーで、壊れたパーツを思いっきり踏んづける。
そのパーツの役割は元々、小型ブースターだった。
装甲の一部が燃焼しているこのパーツに、穴を開け、中に残っているであろう燃料が引火すると……当然、爆発する。
「えっ、何、何!!」
エマが突然の爆発に振り返る。
視界に入ったのは下半身を吹き飛ばしながら、自身を追い抜かし、ゴールへと進む者の姿だった。
GOAL!!No.2、Hajime!!
「えええええ!!」
頭を抱えながら、エマが叫んだ。
彼女には3位入賞の音声など、聞こえない。
だがそれでも彼女の目は確かに輝いていた。
「対戦ありがとうございました!!!ほんとーっにかっこよかったです!!」
「ど、どうも……」
「ん、ありがと」
エマさんは両腕で僕とハジメの腕をブンブンと興奮しながら振っていた。
「特にハジメさん!ありがとうございました!私も頑張ります!!」
彼女はペコリとお辞儀をしながら仲間の方へと帰っていった。
「なんか言ったの?」
「ケンは凄くてかっこいいって言ったよ」
「え?!」
「ごめん嘘」
「えぇ〜」
そう言ったハジメはどこかご機嫌に見えた。
一方その頃、BBフォースネスト……
「もーその辺にしときなさいよぉ!」
「いいや、ダメだエマ!」
「そうだそうだ!お前はいいだろ、あの二人と競り合えたんだから!」
「この際だ、リーダーへの鬱憤を晴らしてやるぜ!!」
「まっ、待ってくれ!6対1は無理だろ!」
ゼータ達に囲まれるグレイズツヴァイ。
明らかに動揺している。
「問答無用!!」
今回の終盤、なぜケン、ハジメ、エマの3人しか出番がなかったのか……
それはルイがやらかしたから。
中盤まで、エマ達は団子状態だった。
しかし、突然4位だったグレイズツヴァイがスリップ。
無理な改造が祟ったのだろう。
スリップした巨体は、後続のメンバー達を薙ぎ倒した。
「エマ!助けてくれ!!」
「ほら、諦めないで!勝利への執念が大事だって!!」
「応援入らない!!!た、助け………」
「ギャァァァァア!!!」
ルイはその後無駄な自慢をすることは無くなったという………
ーーーーーー
「……なんだ、これは?」
GBNサーバーエリア21
擬装資源衛生の中で、画面の男ーーーダイバーネーム「コウ」はPCの前に映し出されたデータに驚愕していた。
「それは遺言だよ、君のお姉さんのね」
「スルト?!どういうことだ!!」
「どうもこうも、言った通りだ、我々が運営から抜いた情報を駆使しているのは知っているだろう?」
「ふざけるな!!ボスは……シンラは!!!あいつは、俺を、俺を騙していたのか?!」
はぁ……とスルトはため息をつきながら、コウに言った。
「シンラ様は嘘などついていない……お前が初めから、都合のいい真実を馬鹿正直に信じていただろう……」
銃声が鳴る。弾丸が貫いたのは………