ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation   作:Haturu

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13話動き出す思惑

奴が俺の前に現れたのは3年ほど前のことだった。

当時、奴はなんて名乗っていただろうか、AIだの、支援プログラムだの、そんなよくわからないことを自己紹介で言っていたような気がする。

 

姉さんを失い、意気消沈していた俺に奴はこう言った。

 

「真実を知りたくはないか?」と。

 

初めは不謹慎なジョークだと思った。

だが、奴の目は真剣そのものだった。

だから、話だけは聞いてやろうとした。

だが、奴の馬鹿げた理論はなぜだか納得してしまう説得力を持っていた。

 

騙された?いいや、違う。奴の言っていることは限りなく真実に近い。

少なくとも、俺の信じていた現実よりかは。

 

 

奴は俺を使い、様々な技術を模倣、改修し、計画の基盤を作り上げた。

 

シュミレーションに、運営への擬装工作、etc………

人として、道理に反することも、数えきれないほどしてきた。

 

その甲斐あってか、俺たちは目的のための手段を着々と揃えていった。

 

MAをこの世界にばら撒き、運営に新サーバーを作らせたのも。

 

ある天才が作った裏GBN、EGBNから得られたデータを元に作った"痛み"を与えるウィルスを作ったのも。

 

マフィアが開発したログアウト不可の呪いのコピー品を製作したのも。

 

どれもこれもが、信じられないものだった。

計画と称して、数々の奇跡を起こす奴の姿に俺はいつのまにか、すがっていた。

 

姉さんは、死ぬべきではなかったのだと。

 

中でも……ミラーミッションと呼ばれる特殊なミッションを解析し、存在するダイバーのコピーとELダイバーのデータと掛け合わせた偽りの生命体。

『アーティファクト』

 

奴は生命すらその手で作り出した。

 

当然だが、道理、倫理……何もかもに反している。

それでも俺は真実に辿り着きたかった。

俺は自分たちが正義だと、信じていた。

 

だが、奴は……シンラは違ったみたいだ。

 

 

 

足音、そして自分の掠れた息切れの音。

静寂に包まれる資源衛生の中で、自分の発した音だけが、無機質な廊下に響く。

俺は視界の隅に映る自分のHPに目を向けた。

HPの残り残量は8割ほど、それがじわじわと秒刻みで縮んでいくのを確認する。

スルトが発射した銃弾は、俺の脇腹を抉り取った。

俺はそこを抑えながら、懸命に奴の追跡から逃走している。

ウィンドウを開き、ログアウトのボタンを押す。

しかし、エラー表示が出てしまう。

 

「やはり……ログアウトはできないか……」

 

このデータの世界では多少体が傷ついたところで痛みを感じるわけでは無い。

 

だがその理を、あの弾丸は破ることができる。

俺は痛みに耐えながら格納庫を目指す。

 

曲がり角を曲がると運悪く、二人の巡回兵とかち合ってしまった。

 

俺は懐に忍ばせていたナイフで片方の腕を切り裂く。

悲鳴をあげた巡回兵はその場でうずくまった。

もう一人はそれを見て、優先順位を俺の追跡から仲間の治療へと切り替えた。

 

彼らもアーティファクトだ。

ほとんど人間と変わらない。並べられても、見分けがつくことはないだろう。

 

それどころか他人を思いやる心も持っている。

彼らは完全な生命体だ。理想的ではなかったが。

 

俺は走る速度を早め、格納庫の扉を開く。

 

そこには俺の半身が鎮座していた。

ディランザR9に搭乗し、俺は資源衛生から脱出する。

 

「待ってましたよ」

 

カタパルトから射出された俺を歓迎した一筋の光。

すんでのところでそれを回避し、その光が進む方向とは逆に視線を向ける。

 

「黒のν……スルトか!」

 

「君とは一回、サシでやりたかった……どちらがシンラ様の右腕に相応しいか……」

 

黒のニューガンダムがフィンファンネルを解き放ち、機体が虹色に発光し始める。

サイコフレームの共振だ。本気であることが伺える。

 

「証明させてもらおう!!」

 

スルトはフィンファンネルと共に接近し始めた。

俺は操縦桿を握り直し、迎撃の準備に入る。

まず、ファンネルによる波状攻撃が始まった。

俺はそれをデブリを上手く使いながら回避する。

 

「小癪な!!」

 

エネルギー切れのファンネルが再チャージのためにニューガンダムの本体へと戻っていく。

使い切りであって欲しかったが、そう上手くはいかなかった。

 

俺はデブリで射線を切った瞬間、奴が迫る方向へと向きを変え、ディランザのブースターを全開にした。

まともに戦う必要はない。このサーバーから離れることができれば俺の勝ちだ。

 

スルトは俺が方向転換したことに遅れて気づく。

ファンネルやライフルを俺に向けて放つが、時すでに遅し、俺はすでに射線から離れている……!!

 

目の前に現れた転移用のゲートにディランザが手を伸ばした。だが、その腕は何者かによって貫かれる。

 

「なっ……!?」

 

「あーぁ、サシでって言ったのに……逃げるお前が悪いんだからな」

 

スルトが指を鳴らすと同時に転移用のゲートは閉じられ、何もない空間からぞろぞろとガンプラが現れ始めた。

 

蒼のバルバトス、赤のAGE1。

 

……黄色のSDエクシア。

 

「……趣味が悪いな」

 

「ハハハッ!お前が以前シュミレーションで倒したアーティファクト達を強化した!!仇どもの手で切り裂かれるがいい!!」

 

3機のガンプラが一斉にディランザへと迫る。

だが、1秒とたたず、3機は残骸と化す。

 

「強化?これがか?」

 

「ぐっ……」

 

スルトが息を呑んだ。

機体越しでも奴の動揺が見えた。

俺は踵を返して奴のνへと向かう。

 

「ゲートが閉じられたのは厄介だが……」

 

ディランザがνの眼前に迫り、ビームトーチを振り上げた。

 

「貴様を倒した後に……ゆっくりと探させてもらおう!!」

 

ビームトーチがνのアンテナに触れる瞬間、

横からのビームサーベルに阻まれる。

ビームサーベルは歪んだゲートから現れていた。

何者かのツインアイの光ががゲートから漏れ出ている。

 

「調整中だったが……こうなっては仕方ない……」

 

俺はスルトのνに蹴りを入れ、ディランザから引き剥がした。目の前のゲートから何が現れるかは知らないが、先手必勝、ビームトーチを妨げるビームサーベルを切り払い、ゲートに向かってライフルを構えた。

 

ゲートから、俺の邪魔をした機体が現れる。

そいつが現れたと同時に俺の機体の半分が消し飛んだ。

 

「なっ……!」

 

薄れていく視界に、光の巨剣と紫のガンプラが見えた。

 

その日は突然訪れた。

なんの変哲もない日常の一部。そう思っていた。

 

あの日のこと、僕達はいつも通りGBNにログインし、ハルマさんの持ってくる仕事の依頼をこなしていた。

 

「ケンー?見つかったー?」

 

「まだですー!!ハルマさんはーー!」

 

「ん……よしっ!一個ゲット!!」

 

ハードコアディメンションVULGAR。

 

 

僕達はそこで、依頼にあったレアアイテム、「黒いルナチタニウム」をガンプラに乗りながら探していた。

 

そもそもが地表から突き出た巨大結晶で構成されているこのディメンション。

まさに木を隠すなら森というやつだ。一つ探すのにもかなり時間がかかってしまった。

 

「やっと一個ですか……」

 

「しょうがねぇさ、レアアイテムだもん」

 

僕のため息混じりの愚痴にハルマさんは宥めるように言った。

それを聞いたラナさんがそれに言い返す。

 

「いくら報酬が高いからって……レアアイテム10個はきびしくない?!」

 

「ログインする前に言ったでしょそれは!みんなで報酬分配するって言って納得してくれたじゃん!!」

 

「にしたってねぇ……」

 

ラナさんが再度愚痴を開こうとすると、物陰からキラリと光る何がが見えた。

 

「ラナさんっ!!あぶな……」

 

「わざわざハードコアディメンションにまでこなくったって……ねぇ!!」

 

物陰から現れたザクIIIの攻撃をラナさんは背中を向けたまま回避し、GNビームサーベルをコックピットに突き刺して難なく撃破した。

 

ハードコアディメンション。

 

本来ならフリーバトルにはお互いの承認がいるものの、この場所では問答無用。少しでも気を抜けば、名のある猛者たちに食い潰されてしまう。

 

「全く……SDだからって舐めないでよね」

 

……まぁ、ラナさんやハルマさんを心配する必要は無さそうだ。自分がやられないように気をつけよう。

 

それからは黙々と作業をこなした。途中何度も襲撃を受けたが、目立ったダメージを負うことはなく、順調に依頼された数を集めることができた。

 

「やっっと……終わったぁ!!」

 

ラナさんがコックピットで伸びをする姿が見える。

 

「依頼達成ですね、早速アイテム受け渡しに行きますか?」

 

僕の質問に、ハルマさんは首を振る。

 

「いや、今メッセ送ったが、すぐに向かうので待ってて欲しいだとさ」

 

「待つ……?ここで?」

 

僕たちは周りをキョロキョロと見渡す。

遠くの方では、狙ったかのような爆発音が聞こえた。

 

こんな危険地帯でウロチョロしていたら心臓が何個あっても足りない。

ハルマさんもそこは承知のようだ。

 

「うーむ……どうしたもんか……おっ」

 

歯切れの悪い通信の後に、バルバトスが指を指す。指の先には、結晶と結晶の間に洞窟のような空間が形成されていた。

 

「あそこで休憩しようぜ」

 

「さんせーい!」

 

いの一番にラナさんがエクシアから降り、洞窟へと走って言った。

僕達もレーダなどを使って周囲を確認してから、ガンプラをしまい、洞窟へと向かう。

 

洞窟の中は思ったよりも広かった。奥行きはあまりなかったが、3人が休憩するには充分すぎる広さだ。

 

アイテムポーチからラナさんがキャンプ用品をこれでもかと取り出す。

 

一通り取り出した後、ラナさんは寝巻きにくるまりながら僕達に言った。

 

「眠い……から、ちょっと……寝る……」

 

「おやすみー」

 

ハルマさんが律儀に言ったものの返事は返ってこなかった。なんで寝つきの良さだ。

 

焚き火を囲んで、僕たちはアイテム化した椅子に座った。

 

「ELダイバーって……GBNで寝るんですね……」

 

すやすやとラナさんが寝息をたてている。

幸せそうだ。

ハルマさんはそんなラナさんを愛しそうな目で見つめていた。

 

「まぁ……な、ほんとはログアウトするのが一番いいんだけど……ペナルティがなぁ…」

 

ハードコアディメンションではログアウトするとペナルティが発生する。

厄介な仕様だが、難易度調整のためなのだから仕方がない。

 

「ラナさんって不思議ですよね〜ELダイバーって皆んなこうなんですか?」

 

「…さあな」

 

「後、ルナエクシアも」

 

「…どういうことだ?」

 

「だって、"ラナ"なのに"ルナ"なんですもん、そこはラナエクシアじゃないんかーいっていうか」

 

「あぁ、そうだな、その通りだ」

 

心ここに在らず。

ハルマさんはそんな様子で僕と会話していた。

それをいいことに、僕は頭に思い浮かんだ疑問をそのまま口に出す。

 

「そういえば……ラナさんとはどうやって知り合ったんですか?」

 

「……どうした急に」

 

「いや、聞いたことなかったなーって……それだけですけど……」

 

「……」

 

焚き火を見つめながらハルマさんは黙り込んでしまった。

何かまずいことでも聞いてしまっただろうか。

確かに横で寝ている人の個人情報をづけづけと質問するのはあまりいい行為ではなかったかもしれない。

だけど、それはもう後の祭りという奴だ。

とりあえず、この感じの悪い雰囲気をどうにかしないと。

 

「あ、メッセきた」

 

「依頼人さんですか?」

 

ハルマさんは頷きながらどっこらしょ、とわざとらしく立ち上がった。

 

「あぁ、ちょっと外出るわ」

 

上手くはぐらかされてしまった。でも、本人達が話したくないのなら、無理に聞くのは野暮だ。

喧嘩に発展しなかっただけましだろう。

……ハルマさんがそんな手を出す人ではないのは重々承知しているが。

 

ハルマさんが洞窟の外の方へと歩いて行く。

 

「そういえば……ラナさんとはどうやって知り合ったんですか?」

 

ケンにそう聞かれて俺は何も言うことができなかった。

別に、言いたくなかったわけじゃない。どこから話せばいいか悩んでいたら、運悪くメッセージが届いてしまった。

それをいいことに俺は逃げるように外へと向かった。

 

ケンはいい子だ。仲間として俺たちを慕ってくれている。だから、いつかは話さなくてはならない。俺たちの秘密を。

 

洞窟の外へ出るとレーダーが機体の接近を伝える。

レーダーには一目散にこちらへとむかってくるガンプラが表示されている。

万が一に備え、物陰に隠れながら様子を見守っていると、そのガンプラ派洞窟の前に着地した。

 

「こんにちは〜依頼人のスルトです〜」

 

名前と、黒のν。どちらもメッセージに添付されていた情報に合致している。

俺は物陰から顔を出して、手を振りながら声を張り上げた。

 

スルトはこちらへと気づいて、νを膝立ち待機状態にしてから、そのままνの手に乗って降りてきた。

 

スルトは獣人型のアバターだった。背が高く、蒼色の毛並みが美しい、狼のような姿。

巨人の手に乗るその姿はまるで神話のワンシーンのような神々しさがあった。

 

「貴方がハルマですね」

 

「おう、依頼の品、ばっちりゲットしたぜ」

 

アイテムポーチを開き、「黒いルナチタニウム」を出現させる。10個も一気に出したので両手が塞がってしまった。

スルトはそれに一瞥することもなく、話し始める。

 

「素晴らしい!貴方一人でこれを?」

 

「いいや、仲間二人で、だな」

 

「………なるほど、お仲間さんは、どこに?」

 

俺は後ろの洞窟を顔でふいっとやって示した。感じが悪いが、両手が塞がっているのだから仕方がない。

 

「あのーコレ、受け取って……」

 

「あぁ!すいません、報酬と交換ですね」

 

手元からアイテムが消え、俺の所持金がグッと増えた。

 

「ありがとうございました」

 

スルトが手を差し出した。俺は何も考えずそのまま握手をしてしまう。

握手をした瞬間、何か違和感があったが、気のせいだと思ってしまった。

 

「それにしても……あのν、大丈夫ですか?随分と傷ついてますけど……」

 

「いやぁお恥ずかしい、ここへくる前、少々派手にやられてしまって……」

 

「ハードコアディメンションですからね、しょうがない」

 

「ここじゃあないんだがな……」

 

「……何か言いました?」

 

小声で聞き取れなかったので、俺はスルトに聞き返した。独り言です、とはぐらかされてしまったが。

 

そんなやりとりをしていると背後から気配がした。敵ではなく、ケンと、ラナが片付けを終え、洞窟から出てきたのだろう。

 

「……あれが、お仲間さんで?」

 

「ええ、そうです」

 

俺がそう言うとスルトはラナ達に向かって歩き始めた。

 

「こんにちは、依頼人のスルトです、今回はありがとうございました」

 

「ど、どうも……」

 

俺にやったのと同じように、ケンに握手を求め、そのまま手を握る。

 

「貴女も、ありがとうございました」

 

「ええ」

 

スルトがラナと手を握ろうとしたその時、

 

caution!!caution!!

 

「なっ…!」

 

上から降ってきた何かにスルトのνが踏み潰されてしまう。その何かはフィールドの結晶を壊しながら落ちてきたようで、巨大なガラスを割ったかのように破片が次々と落ちてくる。

 

衝撃で巻き起こされた突風が俺の体を襲った。

思わず顔を背けてしまったが、突風はものの数秒で収まり、視界が段々と晴れる。

 

「こ、こいつは!!」

 

目の前にはあの、赤いディランザが今にも停止しそうなほど、ボロボロの姿で倒れていた。

 

(チッ、しぶといな……)

「ハルマさん!!そいつです!私のνを傷つけたのは!!」

 

「そうか……」

 

ハルマは空返事をしながら、目の前の惨状を整理していた。

 

ボロボロのディランザ。二度戦っただけだが、コイツの強さは分かっている。なのにこの破損具合……おかしい。

スルトのνは傷ついてはいたが、コレほどじゃぁなかった。コイツに襲われて、ここまで逃げてきたのか?だとしたら、奴は相当の実力者のはずだ。このディメンションでも充分に戦えるほどの……

後一歩、情報が足りない。完成まじかのパズルのピースを一つだけ無くしたような感覚。

何かがおかしい、そこまでしかハルマはわからなかった。

 

「……ろ」

 

(なんだ?!)

 

声の聞こえた方向、それは真正面。

あのディランザからだ。だが、なんて……

 

「逃げろ……!!そいつは……!!」

 

ディランザはかろうじて残っていた左腕に抱えたライフルを発射した。

ハルマの真横を火線が通過し、背後に着弾した爆発音が聞こえる。

 

「ッ!!ラナっ!!ケンっ!!」

 

ハルマは反射的に背後へ振り返った。

ラナも、ケンも、スルトも、あのタイミングなら無惨にバトルアウトになったと、思った。

 

事実、休憩していた洞窟は雪崩のように崩れたドーム状の巨大結晶の崩壊と共に消滅し、天井にポカンと穴が空いている。

穴からは薄暗い空が見えた。

 

「あーぁ、台無しだよ!」

 

だが、ハルマの目に入った光景は……

潰されたはずの黒いν、

大量のガンプラの集団。

そして……その中の一つに掴まれているラナ。

 

「せっかく穏便に済ませようとしていたのに……!!コウ!!君はどれだけ愚かなんだ!!」

 

黒いνの放つビームライフルがディランザにトドメをさす。

爆発と共に、残骸となったディランザを見ながら、ハルマは立ち尽くしていた。

 

「何が……起こっているんだ……?!」

 

「ラナさんを……返せ!!」

 

AGE1を呼び出したケンが、上空のνに向けてライフルを発射する。

しかし、ビームはファンネルバリアによって阻まれてしまった。

 

「ハルマさん!!援護を!!」

 

「あ、あぁ!!」

 

バルバトスを呼び出したハルマが上空へと向かう。

 

「僕がコイツを抑えます!!ハルマさんはラナさんを!!」

 

ハルマ達はいつのまにか、レーダーを埋め尽くすほどの敵機に囲まれていた。

 

「クソッ!ラナはどこだ……!?」

 

大量のガンプラの襲撃を捌きながら、ハルマは周囲を見渡す。

 

「……アイツか!!」

 

何十機も撃墜すると、方位網に穴ができた。

穴の先に、一機だけ、逃走する機体が見えた。

紫色の、AGE2。

 

「どけぇええええええ!!」

 

何十、何百と束になり、襲いかかるガンプラ達を無理矢理突破し、AGE2に追いつこうとトップスピードを出す。

カメラをズームすると、やはりAGE2の右手に握りしめられた少女の姿が見えた。

 

「ラナっ!!」

 

右腕を切り離そうとバルバトスが刀を構えながら突撃する。

背後からの完璧な不意打ちだった。

しかし、AGE2はまるで背後に目があるかのように、刀を最小限の動きで避け、同時に回し蹴りをバルバトスに喰らわせる。

 

「ぐっ……!返せ!!返せよ!!」

 

突き出た巨大結晶に叩きつけられ、ダメージは甚大。

ハルマはそんな装甲値に目もくれず、再度突撃を仕掛ける。

 

だが、AGE2への突撃は、追いついてきたガンプラの集団に阻まれる。

一瞬にして、再度包囲網が完成してしまった。

 

「ぐっ……」

 

「はー……やれやれ、疲れたなぁ……」

 

先程の洞窟の方向から、νガンダムが接近してきた。

右手には目に光を失ったAGE1のヘッドパーツが握られている。

 

「テメェ……ケンはどうした!!」

 

「あんまりにもうざったいからさぁ……躾けてやったよ」

 

そう言うとスルトは握っていたAGE1を地面へと放り投げた。

 

倒れた仲間。大勢の敵。

脳裏に、あの光景が蘇る。

 

「チクショォ……もう、もう三年も前のことだろうが……!」

 

頭が、痛い。

こうなるのは初めてじゃない。

いつになったらこの痛みを忘れられる?

 

「おっ、チャンス?」

 

ここぞとばかりに、νガンダムがファンネルを操作してバルバトスに襲いかかる。

 

「舐めんじゃねぇ!!」

 

バルバトスは迫り来るファンネルを交わし、νガンダムへと迫る。

 

(……獲った!!)

 

だが、バルバトスの上段付きはνガンダムの右手に止められてしまう。

金属の擦れる不快な音が耳に入る。

 

「なんなんだテメェは!!」

 

「おー怖い怖い……」

 

バルバトスは刀を離し、拳をνガンダムの顔面へと叩きつけようと振りかぶる。

 

「もうお前には用はないからさ、やっちゃっていいよ、最高傑作君」

 

「しまっ……」

 

バルバトスのバックパックが切り裂かれる。

背後に立っていたのはあのAGE2。

飛行スキルを失ったバルバトスが結晶地帯へと落下していく。

 

すぐに手を伸ばすが、もう届かない。

スルトが、AGE2からラナを受け取り、見せつけるかのように手を振った。

 

「クソッ!!ふざけんな!!返せ、返せよ

!!」

 

大量のガンプラと共に、AGE2と、ニューガンダムは霧に包まれ、消えた。

大切な仲間と共に。

 

 

「クソッ!どうなってんだ!!」

 

「ちょっと、ハルマ落ち着いて……」

 

「落ち着いてられるか!!ラナが誘拐されたんだぞ?!」

 

玩具屋とは思えない、怒声が響く。

 

「落ち着いて、ハルマ!」

 

店長はそう言いながら、ハルマをバックヤードへと連れていった。

ダイバールームから飛び出すや否やハルマさんはずっと正気を失っている。

 

僕はまず、テルミさんにことの経緯を説明した。

 

「ラナが誘拐……」

 

「はい、それで……アレを外したら、なんとかならないでしょうか……?」

 

僕はダイブルームにあるラナさんのスペースを指差す。そこには、ルナエクシアと、モビルドール体のラナさんがしっかりと座り込んでいる。

 

「ダメだ、アレを取り外したところでラナの帰ってくる場所がなくなるだけ……」

 

「そう、ですか……で、でも、ログアウトすればラナさんは帰ってきますよね……?」

 

答えの明白な問いを僕はテルミさんに投げかける。

 

「あぁ、そうだ、ログアウトするだけでいい」

 

僕はこう言った返答を期待していた。

だが、テルミさんは何も言わずに黙りこくっている。

 

「大丈夫ですよね……?ラナさん、帰ってきますよね……?」

 

ほとんど祈りに近かった。

テルミさんは僕の肩に手を置き、言った。

今日はもう、帰ったほうがいいと。

 

「そんな…」

 

結局、何もすることができずに、僕は帰路へと立った。

日付が変われば……何事もなく解決しているだろう。

そんな甘い考えたが僕にはあった。

 

あれから、ラナさんは帰ってきていない。

今日で、一週間が立つ。

 

 

ウミモト模型には以前までの活気が失われていた。

 

あの後、僕たちはもちろん運営に問い合わせた。

しかし、回答はない。

 

当たり前だ。

 

何故かラナさんはログアウトしたことになっているのだから。

僕たちのフレンド一覧から、それはすぐに確認できた。

 

運営からのメッセージは定型分のもう一度、症状を見直してくださいとあった。

まるで初心者に促すかのような言い方で。

僕たちもGBN内で必死に捜索をした。

けれど全く、全くラナさんの痕跡は見当たらなかった。

僕たちを襲った、あのガンプラたちの痕跡も含めて。

 

あの日からハルマさんは何も喋らない。

最初、僕はそれほどまでにラナさんの失踪が心に傷を負わせたのかと思った。

だが、それは違った。

ハルマさんが恐れていたのはそれじゃなかった。

僕は今日、それを知ることになる。

 

沈んだ空気の中、一輪の鈴が店内に響く。

聞き慣れた入店音だ。

 

「いらっしゃい……」

 

いつもよりも数段と声の響かない店長。

入店してきたお客さんはそれに何も言わずに店をキョロキョロと見渡し、一番近くにいた人である店長の前へ立った。

 

パーカーのフードを深々とかぶっているお客さん、あまり、いい雰囲気ではない。

背丈を見るに高校生、僕と同い年ぐらいだろうか。

 

「……ハルマはどいつだ」

 

「お客さん……見慣れないね、初見さんかな?」

 

怪しい客の怪しい質問に店長は冷静に対処する。

 

「そうだな、こうしたほうが手っ取り早いか」

 

腰のホルダーから、お客さんがガンプラを取り出す。

それと同時に、フードを外しながら、その人は言った。

 

「俺はコウ、このディランザに覚えがあるか?」

 

その少年が手に持っていたのはあの、赤いディラン

ザだった。

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