ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation 作:Haturu
「何、言ってんだ……?ツキハ……だろ……?」
腕の中の少女が、虚な目でこちらを見つめてくる。
「違う……違うっ……!私はっ……」
だが、少女の言葉は続くことなく、言葉の代わりに口から出てきたのは悲痛な叫びだった。
「う……ゔ、ゔ」
頭を両手で抱えるように抑えながら、彼女は激しく暴れ始めた。まるで体の制御が効かないかのように。少女はハルマの腕から転げ落ち、生い茂る草葉を自身の体で押し潰す。
「ツキハ?!大丈夫か?!ツキハ!!」
少女の暴走は止まることなく、赤子のように体を縮め、震えていた。
ハルマは何ができるわけでもなく、狼狽えている。
その時だった。ハルマの視界に影が落ちる。
頭上に居座る影の正体は……ガンプラだった。
バルバトスと同じ鉄血ベースか?いや、塗装と形状がグシオンリベイクに似ているだけで、ベースは違うようだ。
「こんな時に……!」
悪態をついたが、頭上のガンプラは攻撃することなく、二人の前方にゆっくりと着地した。
中から、二人のダイバーが降りてくる。
「急げ!コーイチ!」
「ま、待ってよ、そんなに焦らなくたって……」
こちらへと急いで向かってくる二人組。
一人は黒いハロの姿をしていたが、もう一人には見覚えがあった。
KO-1。あの有名なビルドダイバーズのメンバーの一人だ。
そんな彼が、何故ここに……
「おい、ツンツン頭……お前とその女、どっちがELダイバーだ?」
黒いハロがぶっきらぼうに尋ねてきた。
動揺していたハルマは思わず語気を強めてしまう。
「はぁ?!いきなり現れて意味わかんないこと言ってんじゃねぇよ!」
遅れて追いついてきたコーイチは、跳ね回る黒いハロを捕まえ、頭を下げた。
「ちょっとツカサ!……いきなりすみませんっ!僕達、ELバースセンターのコーイチとツカ、じゃなくって、アンシュって言います!」
ELバースセンター……ELダイバーの登録や管理を行う組織だ。
ビルドダイバーズの協力のもとつくられた機関だとは聞いてはいたが……まさかK1が所属しているとは思わなかった。
「ちょうどミッションの帰り道に新しく生まれたELダイバーの反応を検知して……そのポイントがここなんです」
KO-1はウィンドウのマップを呼び出し、俺に見せた。
マップには四つの点が二つに分かれて表示されている。
片方にはK1とアンシュ。もう片方は二つの点の一方が点滅していた。
「ケッ!」
「あっ、ちょっとツカサ!」
ツカサと呼ばれた黒いハロはコーイチの手から離れ、こちらへと転がってきた。
ハロ特有の収納された腕を伸ばし、俺たち二人の腕を取る。
「なっ、何すんだよ!」
「なるほどな……ELダイバーは女の方か」
俺がツカサの手を振り解く前に、彼は手を離す。
「ツンツン頭、お前がどんな事情でこうなってるかは知ったこっちゃないが、その気を失ってる女をずっと抱き抱えてるつもりか?」
「だから……何を……!」
「何度もすいませんっ!」
再度、コーイチはツカサを捕まえる。
頭を下げながらコーイチは言った。
「その、彼女からELダイバー特有の反応が出ているのは間違いないんです、事情もお聞きしたいので一度ELバースセンターに来てくれませんか?」
「……わかり、ました」
このままツキハを抱き抱えていても状況は変わらない。俺は彼女とバルバトスに乗り込み、彼らのガンプラの後を追いかけた。
彼らの先導についていくと、突然、見慣れない色のゲートが現れた。
後で聞いたが、運営用のゲートは通常のものと色が違うらしい。
ELダイバーの管理という任務がある彼らには一般のダイバーよりも強い権限が与えられているのだろう。
そのゲートを潜ると……そこは宇宙だった。
ELバースセンター 宇宙支部
「お願いです!信じてくださいっ!」
「ハルマさん、落ち着いて!大丈夫ですから!」
彼らがELバースセンターの職員だと言うのは本当だった。それもかなり立場の高いようで、この建設して間もない宇宙支部に顔パスで入場できた。
大学病院のような一室で俺はコーイチさんにことのあらましを全て話した。
「だから、ツキハはELダイバーじゃないんです!彼女の家族とだって面識があります!!」
「……とりあえず、検査結果を待ちましょう」
「コーイチ、ちょっと来てくれ」
カーテンの後ろから、ツカサが腕だけを出し手招きした。コーイチはそのままカーテンの奥へと入っていく。
「そんな……まさか!」
焦る表情が伝わるような切羽詰まる声がカーテン越しに聞こえて来る。
「結果に間違いはねぇ、何度もやり直してもこれだ……俺はログアウトしてビルドデカールの改造を始める、時間が惜しい、奴に説明したらすぐにお前もこい」
「……わかった」
コーイチさんが、カーテンから顔を出す。
パソコンの目の前に座り、画面を俺に見せながら彼はとんでもないことを言い始めた。
彼女はツキハではない。
なぜなら、俺の言ったツキハのIDと彼女のIDが一致しなかったからだ。
そして彼女はELダイバーで間違いない。
強制ログアウトする先が見当たらなかったからだ。
「なら、彼女は偶然、ツキハと姿形が一緒のELダイバーってことですか?!」
「……そう言うわけでもないんです」
問題になったのは彼女がツキハのデータの一部を"引き継いでいた"ことだった。
姿はもちろん、生まれたばかりのはずの彼女のデータバンクには俺との日々の一部が断片的に残っていたらしい。
それは……彼女の記憶とも言えるものだった。
そこまで聞いて……俺は……笑った。
「ハハハ…」
「ハルマさん?」
「ハハハ!彼女は生き返ったんだ!ELダイバーとして!!この世界に……この世界に"転生"したんだ!!」
「………違うんです」
「……?」
コーイチはパソコンの画面を切り替えた。
そこには、ベットに拘束されたツキハの姿が。
「なっ、何を……」
しているんだ、そう言おうとした瞬間、画面の中の彼女は暴れ始める。看護師のような姿をした女性が、彼女を落ち着かせようと右往左往していた。
「あの子は今、とても危ない状況です」
コーイチさんは話を再開した。
記憶を引き継いだ。そこが問題だった。
考えてほしい。
生まれたばかりの赤子に前世の記憶があったとしたら?
生まれた瞬間、息すらままならない前世の最後の記憶が……死の苦痛が襲いかかってきたら?
彼女は今、生きながら、死の記憶と戦っている。
いや、蝕まれていると言った方が正しいか。
何故こうなったのか原因はわからない。
だが、目の前の少女が苦しんでいることだけが確かな真実だった。
「このままではあの子は3日と持たないかもしれません……」
「そんなっ!」
「あ、安心してください!そうならないように僕たちが最善を尽くします!」
コーイチさんが俺の手を握る。
俺は何も言えなかった。
念の為、と俺はコーイチさんにGBNとリアル両方の連絡先を渡した。
コーイチさんは礼儀正しくお辞儀した後、ログアウトしていった。
俺は病室に一人残され、呆然としていた。
ふと、パソコンの画面が目に入る。
ツキハはまだ、苦しんでいた。
俺はツキハが生まれ変わったんだと言った。
コーイチさんは違うと言った。
なら……なら……
俺の目の前で、苦しんでいる"アレ"は何だ?
ツキハの体で、ツキハの記憶を持って、暴れているアレは何なんだ。
彼女は、いっぱい苦しんだんだ。
それでも、幸せに、人として死んだんだ。
ふざけるな。何でこんなに……酷い目に遭わなきゃいけないんだ。ツキハは充分、苦しんだんだだろう。
俺は無意識にパソコンのキーボードに拳を叩きつけていた。
鈍い音が静かな病室に響き渡る。
パソコンの画面が切り替わり、ある報告書が表示された。
そのタイトルは………
「あぁ、そうか」
この方法があった。これなら彼女はもう、苦しまなくなくていい。
翌日。コーイチとツカサはリアルで夜通しビルドデカールの改造に勤しんでいた。
ツカサが考案した解決方法はシンプルな方法だった。
記憶のデータで混乱するのなら、そのデータを分けてしまえばいいい。
そのデータだけを分ける特殊なビルドデカールを作っている真っ最中、後一息で完成するといったところで、彼らに一本の電話が入る。その電話はELバースセンターからのものだった。
「はい、コーイチです……え?!あの子が脱走した?!はい、はい……ハルマさんが……?」
コーイチの会話を聴いていたツカサは作業をやめ、急いで立ち上がる。
「電話貸せコーイチ!」
「う、うん……」
ツカサは一通り状況説明を聞いた後、勢いよく、固定電話を投げた。
「クソ!あのバカヤロウ!コーイチっ!早く連絡だ!俺はログインする!」
「れ、連絡ってどこに?!」
「決まってんだろ!」
「はい、こちらウミモト模型……え?ELバースセンター?」
俺はツキハの偽物をバルバトスに乗せ、ELバースセンターを脱走した。
昨日見た、あの報告書。
そのタイトルとは「ELダイバーの消滅について」
ELダイバーの消滅について
ELダイバーとは、GBNに生まれた電子生命体である。
彼らは、単独でログアウトすることができない。
ログアウトするためにはビルドデカールが必要不可欠である。
しかしながら、ビルドデカールの最も重要な機能はそれではない。
最も重要な機能。それはリスポーンを可能にすることである。
ビルドデカールと接続前のELダイバーは、一度バトルアウトするだけで、消滅する恐れがある。
ビームライフルで貫かれただけで、彼らは消滅する恐れがあるのだーーーーーーー
俺は、あの平原に向かった。ツキハと俺が最後の時を過ごしたあの平原。
こいつをそこで消滅させればツキハも浮かばれるだろう。
ツキハは死んでいた。間違いなく。彼女が遺言として設定していたメールが今朝、問題なく俺の元に届いた。
彼女は人として、死んだんだ。それはもう、俺にはどうすることもできない。
だが、コイツだけは。
ツキハの姿で、ツキハの記憶を持ち、それでいながら、ツキハの人生を否定するこのELダイバーは。
ツキハの、人として死にたいと言う願いを愚弄するこのELダイバーは。
俺が、消さなくちゃいけない。
幸いなことにこいつは何らかの処置をされていたようで、ずっと目を瞑っている。
おかげで難なく連れ出すことができた。
ELバースセンターはメインサーバーの地球の衛星軌道を回っている。
地球との距離はあったが、決して辿り着けないわけではない。俺はバルバトスを全力で地球へと走らせた。
「待って!」
大気圏に突入する直前、俺の前に一機のガンプラが現れた。
「ハルマ!何してるのさ!」
そいつから、毎日のように聞いた声が聞こえてくる。あの見慣れた、クロスボーンから。
「どいてくれ、店長」
「ELバースセンターから、電話がきたんだ、ハルマが、ELダイバーを連れてーー」
「どけ!」
「うわっ!」
バルバトスの刀を、クロスボーンへと振るう。
刀の切っ先がクロスボーンの胸部に傷をつけた。
「そんな……いきなりっ!」
「次は……当てる!」
バルバトスが左腕のレールガンをクロスボーンへと向けた。至近距離で放たれた銃弾は、一直線にクロスボーンの胸部へと向かう。
「なっ……!」
クロスボーンは右腕のビームシールドを展開した。
だが、間に合わないと判断した店長は展開中のビームシールドで銃弾を殴りつけるように
機体を動かした。間一髪で弾道がそれ、明後日の方向に銃弾が飛んでいく。
「クソっ!」
「聞いたよ、全部!ツキハさんが亡くなったことも、その子が現れたことも!何をしようとしてるかも!!」
クロスボーンがビームザンバーを展開しバルバトスの刀と鍔迫り合いになる。
「じゃあ……邪魔すんなよぉっ!!」
バルバトスが刀から手を離し、クロスボーンを右腕で殴りつけた。
「ぐうっ……!」
ノックバックしたクロスボーンは体勢を立て直し、ブランドマーカーを展開しながらバルバトスへと迫る。
「もうやめろ!彼女の望みはこんなものではないはず!!」
X字のスラスターの機体を駆るダイバーが叫び、負けじと青色の悪魔を操るダイバーが慟哭する。
「うるせぇ!あいつはもういない、違うんだよ!アレは!ーーーだから!!俺がこの手でぇ!!」
二機は衝突を繰り返し、高速での戦闘が続いた。
だが、段々と損傷具合に差が出ていく。
バルバトスが未だ損傷軽微なのに対し、クロスボーンは左腕と右のヴェスバーが破壊されていた、
「ハッ……その程度かよ!」
「強くなったね……ハルマ……」
「当たり前だろ……俺はっ!!アンタと違って……この世界で生きてきたんだっ!!」
刀を逆手に持ちかえ、コックピットに突き刺そうとするバルバトス。
クロスボーンは刀が突き刺さるギリギリで、受け止めることに成功した。
「往生際が……悪いな!」
「ハルマ……もうやめよう、こんなこと……君を人殺しにしたくない……!」
「人殺し?アンタには!コレが人に見えるのかよ!!」
ハルマが通信回線を開く。
店長のコックピットには、横たわった少女の顔が映し出された。
「人だよ、彼女は間違いなく……君の望む人ではないかもしれないけど……」
「黙れぇっ!」
「くっ……!」
バルバトスの刀を握る力がさらに強まる。
クロスボーンの胸部装甲に刀の先端が刺さり、スパークが走る。
「何でそこまで必死になるんだ!ハルマ!」
「そんなの決まってる!こいつがツキハを否定してるからだ!こんな奴………"生まれてさえこなければ"!!」
「……っ!」
クロスボーンが刀に貫かれる。
大量の火花が、撒き散らされた。
「へ、へへ……アンタが悪いんだ……アンタが俺の邪魔をするから……!」
勝利を確信したハルマが刀から手を離そうとしたその時。
「少し……気が早いんじゃないかな!!」
「……なにっ!?」
「助かったよ!ここがGBNで!ギリギリ、コックピットを外れていたから……まだ戦える!!」
沈黙したと思われたクロスボーンは不意打ちで脚部のヒートダガーを展開し、バルバトスを蹴りつけた。
バルバトスが後ろへと吹き飛ばされる。
「"生まれてさえこなければ"!?そんなの………人が言っていい言葉じゃないだろ!」
言葉と共にクロスボーンが強制放熱、フェイスオープンを発動。
その姿は搭乗者の怒りが機体に表れているかのようだった。
自身の胸部から引き抜いた刀を構え、バルバトスに攻撃を仕掛ける。
武装を失ったバルバトスは防戦一方。
次々と装甲から破片が剥がれていく。
「ぐっ……」
「けど……!生まれてなんてわざわざ言うなら……ハルマ!君はわかってるはずだ!」
「何のことだっ……!」
「だってそうだろ!?君が……その彼女を……"命"だって認めてる何よりの証拠だ!!」
「っ……!それは……」
「もういいだろ……ハルマ……今ならまだ引き返せる」
クロスボーンは攻撃をやめ、バルバトスに手を差し伸べた。
「……俺は……俺はっ……!」
「話はついたみたいだな、よくやった!模型屋!」
二人のレーダに新たな機体が表示された。
その名前はNO NAME。
「その声……黒ハロか!」
「アンシュだ!ツンツン頭!早くそいつを渡せ!」
ツカサの乗るアストレイがバルバトスに接近する。しかし……
「動くな!動いたら……コイツを撃つ!」
ハルマはアイテムストレージから拳銃を取り出し、後ろに横たわっていた少女に銃口を向けた。
「ハルマ!やめるんだ!」
「動くなと言ったろ!」
手を伸ばしていたクロスボーンを振り払い、バルバトスが後ろへと下がる。
「お前もだ!黒ハロ!下がれ!」
「……撃ちたいなら撃てよ」
アストレイは下がることなく、バルバトスへと歩みを進める。
「下がれ!下がれよ!下がらないなら……」
「撃てばいいだろうが!テメェが人の命を何とも思わないようなクズ野郎ならな!」
ツカサは臆することなく、ハルマに言い返す。
「言っておくが、壊したもんは二度と戻らねぇ。それでもいいって言うなら……今すぐその引き金を引け」
「うっ……ぐうっ……」
ハルマの手はガタガタと震えていた。
呼吸が荒くなる。トリガーにはすでに指をかけていたが、それが動くことはなかった。
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とりあえず、よろしく、ハルマ君!
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こいつは……違う……。
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リアルの海も、こんな感じなの?
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だから……俺が……
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出来たよ!温泉!
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でも……
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私幸せだったよ………!!半年だけだけど、あなたのおかげで………人として、一生懸命生きれたよ………!!
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「ハァッ……ハァッ……!うあ゛あ゛あ゛っ!!」
一発の発砲音。
弾丸はバルバトスのコックピットの天井に傷をつけていた。
「……戻るぞ、準備はできてる」
その後、ELバースセンターに俺たちは戻った。
彼女には適切な処置が行われ、窮地は脱することができた。
そこまで見届けて、俺はログアウトした。
視界に現実が広がる。
俺は椅子の背もたれに全体重をかけてため息をついた。
俺のやったことは全て無駄だった。
子供が起こす癇癪と何ら変わりない……
けど俺は……ツキハのために……
沈んだ目線の先には今朝届いた段ボールの箱があった。
その中に入っていたツキハの遺書。
段ボールを開けたらすぐ、それが見えた。
便箋の縁に指をかけ、ゆっくりと開封する。
中には当然、一通の手紙が入っていた。
一番最初に目に入るのは字とも呼ばない汚い線。
苦しい中、手書きで書こうとしたのが伝わってくる。
だが、その汚い線はすぐにデジタル調の整った字へと変わり、こう記されていた。
ハルマ君へ
貴方がこれを呼んでる頃には私はこの世にいないでしょう。
今朝はここまで読んで、俺は手紙から目を逸らした。
これを読み進める余裕が今朝の俺にはなかった。
だが、今は。
続きにはこう書かれてあった。
えへへ、一度、こうゆうことしてみたかったんだ。
ごめんね。私、死んじゃった。
ハルマ君が、私のことを忘れて、過ごしてくれるのが一番だってわかってる。
「そんな……無理だ」
でももし……貴方が私のことを想ってくれているなら。
私の半身と……一緒に人生を歩んでほしい。
「半身……?」
当時の俺はどれほど視野が狭まっていたのだろう。
普通に考えればすぐにわかる。手紙が段ボールに入って届くはずがないって。
段ボールの中には、手紙の下に梱包材が敷き詰められていた。
その中には黄色のSDエクシアが何重にも、丁寧に梱包されていた。
俺は膝から崩れ落ちて、その小さな体を……消えないことを確認するかのように必死になって抱きしめた。
俺はそこになってようやく、俺がどれだけの罪を犯そうとしていたことに気づいた。
人を、人の命を奪う、ウィルス以下の行いを、俺は……あのELダイバーに……
どんなに泣いても、罪の重みは消えなかった。
それから一週間が経った後のこと。
彼女が、ラナが俺たちの元へやってきた。
ツキハの記憶を納めた、改造ビルドデカールを持って。
ラナは全てを知ってなお、俺たちの元へと行きたがったらしい。
俺は殺そうとした少女と時を過ごすことになった。
「これから……よろしく、ハルマ」
ラナが初めて俺にかけた言葉はこれだった。
彼女はツキハではなく、別の存在だと改めて気づいた。
ラナはすぐに俺たちに馴染んだ。
最初はぎこちなかったけれど、少しづつ心を開いてくれた。
俺はそれで、勝手に救われた気になっていたんだ。
贖罪をしていた、つもりになっていた。
みんなと話し合って、もう一つのビルドデカールはルナエクシアに接続した。
そうすれば、ラナは暴走することなく、ツキハのデータと共存できる。
そこに俺のエゴがなかったと、言い切ることは出来なかった。
みんな俺を気遣ってくれていたのか。
俺はぬるま湯の中にいた。
罪を忘れ、現実から目を背け、のうのうと暮らしていた俺に、悪夢は追いついてきたんだ。
ラナの誘拐という……最悪の形で。
「これで……終わりだ」
ハルマさんの長い昔話が終わった。
店は静寂に包まれている。
最初に口を開いたのは、コウだった。
「コイツの話に……嘘はないな?」
コウの目線が店長にささる。
「うん、ハルマは嘘なんかついていないよ」
「そうか……そうなると俺はアイツに、騙されてたってことになるな……」
コウは手元のディランザを見つめながらそう言った。
「さ、さぁ!ハルマさんは全部話したぞ!次はお前の番だ!」
僕はコウ指差して叫んだ。
意外にも、コウは言い返すことなく、口を開く。
「あぁ、その通りだ……俺だってコイツの昔話を聞きにきたわけじゃない……だが」
コウはさらに続ける。
「俺はコイツと話に来たんだ、お前らは無関係だろう……?だから、席を外してくれ」
「そんな、勝手なこと!」
「ケンイチ君、ちょっとこっちにきて、テルミさんも」
店長は僕の肩を掴み、テルミさんと一緒にバックヤードへと、僕の体を押し込んだ。
「ちょっと!いいんですか二人っきりにして!」
「しーーー!」
店長は手を口に当て、僕にそう促した。
パソコンの電源を入れると、僕とテルミさんは店長さんに近づき、パソコンの画面を後ろから覗いた。
テルミさんが、パソコンの画面をトントンと叩き、囁き声で言った。
「盗み聞きかい?」
「僕の店でどうしようが僕の勝手でしょ?」
パソコンの画面には、店内の様子が監視カメラで映し出されていた。
工作室に入り、扉を閉めたコウ。
二人の会話を、僕たちは黙って聴いていた。
「……」
「何か言ったらどうだ」
「ハハ……何もいうことなんてないよ……」
「そうか、なら俺の話を一方的に聞け」
コウは一人でに話し始めた。
シンラという男に言われたこと。
これまでの行いの理由。
そしてあの時、資源衛生の中で見た真の計画の話を。
「う……ここは?」
ラナが目を開くとそこはのどかな花畑だった。
一面に広がる花と、それを見下ろす自分の姿が、この世界が現実ではないと教えてくれた。
「けど……私は確か……」
「やぁ!目を覚ましたかい!」
「ひゃっ!」
いつのまにかラナの背後に見覚えのない男が立っていた。
温和な表情の、害の無さそうなスーツ姿の普通の男。
ラナは段々と記憶が戻ってくる。
最後に覚えているのは、必死に自分を取り返そうとするハルマの姿。
「……あなたが、誘拐犯?」
「うーん、人聞きが悪いなぁ……ま、間違ってないんだけど」
男は頭をポリポリと書きながら悪びれもなく言った。
「……私をどうするの」
「そんなに怖がらないで!ね?先ずは自己紹介。
僕の名前はシンラ、よろしくね」
シンラはラナに握手を求めたが、ラナがそれに応えることはなかった。
シンラは口を尖らせ、不機嫌に手をポケットにしまう。
「どうしたら、信頼してもらえるのかなぁ……お嬢さん?」
「決まってるでしょアンタの腹の中に抱えてるものを全部私に話したら、よ」
座りながら、目の前のシンラを睨むラナ。
「それもそうだね……じゃ、少し長い自慢話を始めようか」
シンラはラナに背を向け手を後ろで組み、花畑を歩き始める。
「"リンカーネーション"計画、それが僕の建てた計画さ」
「リン……カーネーション?」
「そう、この計画のために僕はあらゆることをした。MAを解き放ったり……運営にハッキングを仕掛けたり……ELダイバーを作ったり、ね。」
「意味がわからないわ!何でそんなことをするの!」
ラナがシンラに向かって叫ぶ。
シンラはやれやれと言ったふうに手を持ち上げ首を振った。
「そんなに急ぐなら、結論から入ろうか……」
シンラは手を空へとかざした。
「僕の目的……それはこの場所に、この電子の世界に!死者の国を作ることさ!!」