ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation 作:Haturu
「ハルマさん……」
コウが来店した翌日。
店長、テルミ、ケンイチの3人は店の中で、一向に現れないハルマを心配していた。
時刻は午前11時。普段ならとっくにハルマは出勤してきている時間だ。
しかし……
「やっぱり、ハルマさんはラナさんを……」
「そう……だね……」
歯切れの悪い返事をするテルミ。
その理由をケンイチはぼんやりと察していた。
コウの明かした巨人の正体。
ーーーーーー
「"3人"の、オリジナルアーティファクトだった"」
ーーーーーー
3人。ハルマ達は協力しあの巨人を倒した。
各々、三つの弱点を潰して。
偶然とも思えない数字の一致が彼らの心を蝕む。
その様子を見て、ケンイチは自身の無力感に苛まれていた。
(あの時……僕だけが逃げた……ハルマさん達が戦って、今苦しんでいると言うのに……!僕は何も……っ!)
「ケン君。」
バックヤードから店長が現れケンイチに話しかける。
店長の目元には目元には酷いクマがあった。
「お願いだ……ハルマを……止めてくれ……」
店長はケンイチの肩に手を置き、頭を下げた。
「大人として……情けないのは百も承知だ……けど、今、ハルマを止められるのはケン君だけなんだ……」
店長の実力なら今の状態でも、ハルマを力づくで止めるのは可能だろう。
実際、3年前のラナ殺害未遂事件の時はそうした。
だが、止めるだけではダメだった。
誰かが、彼の心を救ってやらなければ、またハルマは罪を引きずったまま生きることになってしまう。
それは店長には出来ない、テルミもだ。
なぜなら彼らがハルマを許したら、自身の罪を肯定することになってしまう。
顔も知らない生命を絶った自身の罪を。
だから。
「あなたを……止めにきました」
少年は恩師の前に立つ。
彼の心を救うために。
「止めにきた?俺をか?」
「すいません、昨日の会話全部聞いてました……どうか考え直して欲しくて……」
ハルマとコウは無謀にも敵の本拠地へ突撃しようとしている。
たった二人でラナを救えるはずがない。
二人もそれはわかっているはずだが、自身の置かれた状況による焦りがあった。
何よりコウには責任感があった。無関係な人間をもう巻き込みたくないと言う責任感が。
一歩間違えれば、入院したハルマよりも恐ろしい結果が待っているのだ、当たり前だろう。
昨日、あの場でハルマだけにこの計画を伝えたのは彼なりの思いやりだろう。
だが、その思いやりを受けたケンにとって、それは余計なお世話だった。
「お願いです……思い直してください……」
ケンは律儀に頭を下げて懇願した。
「無理だ、帰れ。」
だが、ハルマは聞く耳も持たず、即答でケンの懇願をつっ返す。
「どうして……!」
「ラナを……早く救うんだ……俺は責任を……」
ケンに背を向け、小屋のドアノブへと手をかけるハルマ。
「……嘘だ」
ケンの言葉にハルマは動きを止める。
「………何だと?」
「ハルマさん……違うよ、アナタは楽になりたいんだ……ラナさんを理由にして、死にに行きたいだけなんだ……!」
ハルマの動きが止まった。
彼の声色が変わる。
「それは……テメェの思い込みだろうが」
ケンは臆せず言葉を続けた。
「じゃあ何で僕達を頼ってくらなかったんですか!!ラナさんを助けるのに僕達がいらない理由って何ですか!!」
「……っ!」
ケンの叫びと同時にバルバトスが小屋を跨ぐようにして現れた。
「言葉にしなきゃわからねぇか……!足手纏いだから、帰れって言ってんだよ!!」
語気を強めるハルマにケンは売り言葉に買い言葉。
普段は人に向けないような言葉を恩師にぶつけてしまう。
「………上等だよっ!!今、僕の成長をアナタに示させてもらう!」
ケンは負けじと叫び、AGE1を呼び出した。
焔の勇者と蒼の悪魔が今、相見える。
「……行きます!」
先に仕掛けたのはケンだった。AGE1の腰部ビームサーベルを取り出し、両手で構えながらバルバトスに迫る。
だが、バルバトスも懐から刀を取り出し両者は鍔迫り合いになる。
「バルバトスに……ビームは効かねぇぞ!」
「分かってる……だから!!」
AGE1がサーベルから左手を放す。
左手には紅い光の輝きが。
(必殺技っ……?!今!?)
「いっ、けぇぇええ!!」
AGE1が左手からバルバトスのパルマフィオバーナーを放つ。射線の先にはバルバトスのコックピットが。
炎属性を持つこの必殺技はバルバトスのナノラミネートアーマーに効果絶大だ。
しかし。
「そんな攻撃……当たるかよぉっ!」
バルバトスは鍔迫り合っている刀を手放し、サイドステップ。
AGE1はビームサーベルを空振り、必殺技も避けられてしまう。
しかし、そこまでがケンの思惑だった。
「なっ……!」
ハルマが目の前の光景に驚愕する。
パルマフィオバーナーが先ほどの小屋に衝突したのだ。
破壊不能オブジェクトである小屋は見た目が木造であるにもかかわらず、膨大な熱線を跳ね返し、周囲に火花を散らす。
そしてその火花は周りの木々に次々と引火していった。
一瞬にして両者は小屋を中心とした円形の炎のスタジアムに包まれてしまった。
AGE1の放つパルマフィオバーナーは強力だ。故に、木々などは跡形もなく焼きつきしてしまう。
だが、ケンはそれを小屋にぶつけることで意図的に威力を減衰させた。
「ちいっ!」
バルバトスの周囲にも火がまわる。
ナノラミネートアーマーの弱点は熱。
このままでは、せっかくの相性差を覆される。
それを打開するためには……
「"上に逃げるしかない"!!」
上空に飛び上がるバルバトス。だが一手先を読んでいたケンはバルバトスの背部ユニット目掛けグレネードを放った。
(クソッ、Ⅱフェイザーが!)
グレネードは見事右翼に当たり、バルバトスは飛行能力を失ってしまう。落下する先は炎の地獄。
ケンの巧妙な策によって相性差は完璧にひっくり返されてしまった。
「ハルマさん……もういいでしょ、冷静に話を聞いてください……!」
目の前に落下したバルバトスにAGE1が近寄る。
バルバトス本体に大したダメージはないもののバックパックは屑鉄同然。
どちらが有利なのかは火を見るより明らかだった。
「流石だな……」
「……認めてくれたんですか?」
ケンが淡い希望を抱く。
「勘違いすんなよ……初心者にしたらって意味だ」
「何を……っ」
言葉を言い切る前にケンは理解した。ハルマの言葉が決して強がりではないと言うことに。
なぜなら、AGE1の"左"側から、重い銃声が聞こえたから。
ケンが音の正体を確認する前に、燃える木々を突き抜けて、幾つもの弾丸が直撃する。
ビームシールドを使おうとするものの、後一歩及ばず、先に腰のグレネードに弾丸が命中。
(まずい!)
誘爆が発生し、爆発の光にAGE1が飲まれた。
「詰めが甘いな、敵の本拠地に乗り込むってのに何の準備もしない奴がいるか?」
「ぐっ……」
「……大分ダメージを抑えたな」
煙から姿を見せたAGE1には左腕が全損していた。
(やられた……!僕の知らない……支援機っ!)
風を切る音と共に一機の支援機が現れる。
蒼い装甲に、今しがたAGE1を攻撃した二つのレールガン。
それがバルバトス背後に回ると変形し、ドッキングした。
「ラグナフォース……ってところか、こんなところで使うつもりじゃなかったんだけどな……」
ドッキングしたことにより飛行スキルを取り戻したバルバトスは空へ上がる。
ケンの作戦によって作られた炎のバトルフィールドはいとも簡単に破られてしまった。
「ちくしょう……」
「そう悲観すんなよ、俺もここまでやられるとは思ってなかった……」
上空に対空したバルバトスはドッキングによって追加されたレールガンをAGE1に向けて発射した。
左腕を失い被弾面積が減ったことが幸いし、AGE1はコックピットスレスレでレールガンをかわす。
だが、自身で作った炎の囲いが、逃げる場所を大幅に減らしていた。
円形の真ん中から、端まで段々と追い詰められていく。
気づけば燃え盛る森にAGE1は後退の道を閉ざされてしまった。
眼前にはバルバトスの砲撃で穴だらけになった地面しかない。威力が高いのか、穴の深さも中々のものでAGE1の腰の高さほどある。
そのおかげで一度落ちてしまったが最後、AGE1はに穴から這い上がることを許されず、仕留められてしまうだろう。
「これで分かったろ、俺は強い。お前に心配されなくても大丈夫だ……だから大人しく帰ってくれ。」
銃口を向けながらハルマは通信でケンに語りかける。
違うんだ。ハルマさん。あなたの実力を疑ってるわけじゃないんだ。
このままアナタを行かせてしまったら……アナタが二度と……二度と僕たちの前に帰ってこないような気がして……。
ケンがそのことを口にすることはなかった。
彼が本音を語るには状況があまりにも悪すぎる。
言葉を喉の奥に押し込めながら、頭をフル回転させ、打開策を探した。
だが、思いつく答えは最悪の選択の一歩手前程度のものしかない。
「やるしか……ないかっ!」
レールガンの銃口が光る瞬間、AGE1はブーストを噴かし後ろへ下がった。
燃え盛る炎に機体が吸い込まれていく。
「……だよな」
レールガンが炎の中に向けて発射される。
ハルマはケンの行動を予測していた。
だが、炎と煙に隠された機体に命中させられるかどうかはまた別の話だ。
しらみ潰しにレールガンを速射するバルバトス。
「めんどくせぇな……」
だが、レールガンによって煙がさらに増すことに気づくとハルマはバルバトスの操作をやめ、ケンが痺れを切らして炎から出ることを待った。
数秒後、煙を突き抜けバルバトスに向かう物体が現れる。
それはAGE1……ではなく、燃える木々だった。
数本空へ投げられた木々はバルバトスに掠ることなく明後日の方向へ飛んでいった。
「苦し紛れか……」
ケンの見苦しい抵抗を見届けたハルマは、煙の中に紅白の色の物体を見つける。
それは十中八九、AGE1ヒバナの腕だった。
ハルマは何も言わず、その腕の周辺にレールガンを集中砲火した。
煙の中でパラパラと装甲だったものが撒き散らされたのを確認する。
「……終わ
「ってない!!」
「なっ……!」
突然の不意打ちにバルバトスは全く対処することができず、踵落としをもろにくらってしまう。
炎の中に悪魔は落ちていく。
「は…はっ……」
極度の緊張状態から解放されたケンはするはずのない息切れをしてしまう。
炎の中に飛び込んだケンは手頃な木を探した。
いくつかその木を右腕の限界値まで投げ飛ばした後、最後の木を投げる瞬間、AGE1の右腕は限界を迎え、胴体から引きちぎられる。
それによって両腕を失ったAGE1だったが、それによって機体の横幅は大きく減少し、木の後ろに隠れていたとしても、上からではわからない程度になった。
投げ飛ばした木と被るように速度を固定。
ハルマにばれないのように細かな調整をして彼は空に上がり、完璧な奇襲攻撃を仕掛けた。
目論見通りバルバトスは炎の中へ消えた。
AGE1も燃焼と両碗を失ったダメージでまともに動くことすら困難だったが、バルバトスとてそれは同じだろう。
「ハルマさんは……どこだ……?」
必死に目を凝らしバルバトスの姿を探す。
落下した地点は煙が酷く、見つけることができなかった。
どこにもいない。まさか撃墜したのか?
いやそんなはずはない。撃墜したのならスコア表示がれるはず。
だが、ケンの視界には見渡す限りの炎、炎、炎。
埒が開かないので、ケンは唯一火災の発生していない小屋の周辺に着地する。
「……!」
前方の炎の中にツインアイの光が見えた。
ケンはAGE1の状態を再確認する。
コックピットは既にレッドアラート。
両腕と腰部グレネードを失い、攻撃手段は何一つない。
(やっぱり健在……!でも、あっちも燃焼ダメージを相当くらっているはず!)
「悪いなぁ……ケン」
バルバトスが炎の中から飛び出す。
炎はバルバトスの装甲に纏わりついていた。
「な……んで」
しかし、その炎は森の火災にもらった炎ではなかった。
バルバトスが纏うその炎の名は。
「これが俺の、必殺技… …
炎の中で二機のガンプラが闘っている。
赤いAGE 1に乗りながらケンイチは闘っていた。
炎の中に18m程のシルエットが見える。
相対する敵機は……焔に包まれた蒼い悪魔。
「ハルマさんの……必殺技……」
「あぁ、これも……初めて見せるな……」
バルバトスは目が追いつかないほどのスピードでAGE1に近づいた。
(はやっ……!)
ケンは初撃の刀突きをギリギリでかわすが、二撃目の回し蹴りが胸部にクリーンヒットした。
「うわぁあ!」
AGE1は激しいノックバックをくらい、小屋に激突。
激しいスパークが機体の各部から放たれる。
AGE1は限界だった。
だが、ケンは諦めなかった。
小さな、小さな勝ち筋を懸命に探していた。
それがないことを知らずに。
(考えろ!頭を回せ!!)
何故かゆっくりと近づいてくるバルバトス。
その装甲は小さなひび割れがあった。
ケンは考えた。
何故、ハルマは出会ってから今まで自身の前で必殺技を使わなかったのか。
彼と一緒にミッションをする中、ピンチなどいくらでもあった。
でも、彼は必殺技を使うことがなかった。
それは何故か?
そこでケンはバルバトスの装甲が不自然に傷ついていることに気づいた。
ケンがこのバトルで与えたダメージはほとんどが支援機、バックパックに与えたものだ。
だが、そのバックパックを失ったバルバトスに何故か見覚えのない傷がついている。
よく目を凝らせば、その傷はケンが観察しているうちに増えていった。
ここで、ケンは一つの可能性にたどり着く。
ハルマが必殺技を使わなかったのは。
使えなかっただけなんじゃないか?
ーーーーー
(流石に気づいただろうな……)
AGE1に狙いを定めながら、ハルマは考えていた。
ケンの考えは当たっていた。
阿頼耶識システムとGUND-ARMが合わさって生まれたのだ。無理もない。
ステータスの上昇幅は凄まじいものだがその分、増えたステータスを発揮すればするほど、装甲は焔に変わっていく。
そして最後には、操縦者であるハルマ以外何一つ残らない。
装甲の半分が焔に変わり、コックピットが露出し始めた。
が、バルバトスは既にAGE1の前で刀を振り上げていた。
「……今度こそ、終わりだ」
バルバトスがAGE1のコックピットに、刀を振り下ろす。
刀と装甲が接触するその瞬間に、ケンはAGE1から飛び降りた。
その手にロケットランチャーを、抱えながら。
(何?!)
「終わらせて……たまるかぁっ!!」
AGE1はバルバトスの刀で大破した。
バルバトスはコックピットにロケットランチャーをくらい、倒れた。
爆発がその場を包んだ。
ーーーー
「はぁ…はぁ…」
爆風に飲まれたハルマは吹き飛ばされた。
天候が変化し、周囲に雨が落ちる。
雨で森の火災は少しづつ収まっているように見える。
倒れていたハルマは立ち上がり周囲を見渡す。
前方100メートルほどに小屋があることを確認すると無意識にそこへと向かっていた。
すると途中、急に足が重くなる。
足元を見ると泥にまみれたケンがハルマの足を掴んでいた。
「行かせない……!」
その時、ハルマの中で何かが切れた。
「何だよ……何なんだよっ!お前はよぉ!!」
ハルマは足を押さえるケンの顔を思いっきり蹴り上げた。
ケンは鈍い声を上げて後ろへ尻餅した。
ハルマはケンに馬乗りになり、胸ぐらを掴む。
拳を振り上げ、それを振るうことなく、頭の上で停止させる。
「……殴りたいなら、すればいいじゃないですか」
「っ……うるせぇよ!」
ハルマはケンの目を見る。
彼の目は曇ることなく、ただひたすらにハルマを見つめていた。
「……泣いて……いるんですか?」
「なっ」
雨か、涙か。
傷つける側の人間が何故。
俺は何で、泣いている?
「お前に……何が分かるんだよ」
ケンは天才だ。
俺の何年に渡る努力にケンはすぐに追いついてきた。
妬ましかった。自分とは違う天賦の才が。
そのケンがどういう思いでここに来たのか。
どうせ、俺を救うためだとか、そんな天才みたいな理由だろ。
そう言うのが嫌なんだ。
俺は辛い。自分の罪が。
罪は他者が勝手にするされるようなものではない。
お前に、俺の辛さなんてわからないだろ。
「辛かった」
ケンの言葉をハルマは何言うわけでもなくただ聞いた。自身の予想していた言葉とは違っていたからだ。
その続き、答えが知りたかった。
「ラナさんがハルマさんにとって大事なように……僕にとってハルマさんも大事な一人なんです」
ケンの目元には雨粒が落ちる。
「だから……お願いです……僕の前から居なくならないで……」
それはケンの心からの願いだった。
同時に、それはハルマの、ツキハへの思いと一致していた。
ハルマはツキハを救えなかった。
別に、彼が悪いわけではない。
彼の努力が足りなかったわけではない。
仕方がなかった。しょうがなかった。
でも、今は。
俺はまだ。
罪とか、過去とか、そう言ったしがらみとは関係なく、ただ、俺のために身を削って……
ハルマはケンに過去の自分を重ねていた。
無茶をして、どうにもならないことをどうにかしようとしていたあの頃。
ハルマは思い出していた。
ツキハと別れたあの瞬間。
自分が感じた素直な気持ちを。
一人にされたあの苦しさを。
「そう、だよな……置いてかれるのは……つらいよなぁ……」
その痛みを知っている俺が何故気づいてやれなかったんだ。
「ごめん…………」
ハルマは顔をぐしゃぐしゃにしながら、何度も何度も謝った。
それをケンは黙って、笑顔で抱きしめた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ーーーーー
「なるほど、経緯はわかった」
決着から数十分後、約束の時間通りにコウは小屋の前にきた。
小屋はコウの持ち物だったので、彼の許しを得てハルマとケンは中に入り小さな椅子に座ってことの経緯を話した。
「何のために森の中の小屋を指定したと思ってるんだ……こんなに焼き払いやがって」
「……すいません」
ケンは内心、悪くおもってはいなかったが、一応、頭を下げる。
「お前もだハルマ。紙に書いてまで渡してやったのに」
「面目ない……大分まいってて冷静じゃなかった……」
ケンはハルマが店のゴミ箱に捨てた紙を見て、ハルマの場所がわかった。
コウは監視カメラに気付きながら、わざわざこういった紙での伝言という形をとったが、意味はなかった。
「全く……まぁ、戦力が増えたことは素直に喜んでいいだろう、そうだな、ケン?」
「はい、僕も行かせて欲しい……んですけどその前に、一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
「何故、今日なんですか?もう少し作戦を練っても……」
コウは首を振ってその言葉を否定した。
「俺だって、できるのならそうしたかった。だが今日、この時間しかないんだ。シンラがGBNを離れるのは」
コウはシンラの元を離れる直前まで、数週間先まで彼とスケジュールを共有していた。
「へーそんなバイトみたいに……」
あんなことがあった後なので気の抜けたハルマの言葉を聞いてケンは少し安心した。
「……まぁ、そういうわけだ、ラナを救出した後、シンラへの対応は考えよう。具体的な作戦だが……」
「ごめんくださーい」
言葉を遮るように突如、小屋のドアをノックする音が聞こえた。
「……コウ、知り合いか?」
「いや……今日、呼んだのはお前だけだ」
「ってことは……誰、ですか?」
3人は立ち上がり、小屋のドアを見つめる。
コウは拳銃を出してドアに向けた。
首で二人に下がれ 、と指示を出し、ハルマはケンを庇いながら一歩づつ後ろへ下がり、ドアからは見えない死角に入る。
すると小屋のドアノブがゆっくりと回り、人が入ってくる。
「やぁ!久しぶり!」
「っ……!シンラァっ!」
小屋に入ってきた人物がシンラだとわかった瞬間、コウは銃のトリガーを引いた。
だが、シンラは弾丸をかわし、コウを一瞬にして制圧した。
「ヘッタクソだねぇ……銃の使い方、知らないのかい?」
「クソっ!」
言葉を荒げてはいたが、コウは冷静だった。
今、シンラはハルマたちが来ていることを知らない。
上手く立ち回れば、ラナの救出はまだできる。
だが。
「……僕は用心深いから……間違がってたら申し訳ないんだけど」
シンラは拳銃を取り出した。
コウが使った、システムに許されたのものではない。
その銃は、人を殺す力を持っている。
それに気づいたコウは青ざめた。
そのことに気付きながら、君の悪い笑みを浮かべ、シンラはコウの頭に銃口を突きつけ、叫んだ。
「この銃にはねぇ!!ハルマァ!君に使ったウィルスがたっぷりと入ってる!!」
銃をぐりぐりとコウに突きつけながら楽しそうにシンラは続ける。
「この引き金を引いたら……今度は入院じゃあ済まないぞ!!さぁ、いるなら出てこいよ!!」
(何故だ……全てバレている……?!)
シンラは決してハルマたちがいることに気づいているわけではない。
小さな可能性を念入りに潰しているだけだ。
コウがこの銃の力を知っている人間と繋がっている可能性。
一番可能性のある、ハルマとの協力をコウが得た可能性。
それを考慮し、この脅しを叫んだのだ。
そしてそれはハルマたちにとって最悪だった。
「すまねぇ……コウ……」
手を挙げながら、ハルマが物陰から顔を出す。
「馬鹿野郎!何故出てきた!」
「そう言ってやるなよコウ君……自分を心配している人間にさぁ……」
コウとハルマの目線が合わさる。
そこはハルマが隠れていた物陰だった。
「……まだいるのか?」
「「っ!」」
「図星だねぇ!!ホラ、早く出てこいよ!!」
シンラの脅威的な勘の良さに二人は出し抜かれる。
物陰からもう一人、ケンが手を上げながら出てきた。
「何だ君か……揃いも揃って何を企んでいたのかねぇ?」
「ぐっ……」
(コイツがシンラ……!)
(コウさんが人質に……どうすれば……!)
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ……今日は話をしにきただけなんだ」
馬乗りにしていたコウに銃口を向けながらシンラは立ち上がった。
「……話だと?ラナを誘拐したくせに……どの口が……」
「そう、ラナ。君たちはラナを返して欲しい。でも僕には彼女が必要。」
「……何が言いたい?」
「ここからが、僕の提案。僕とゲームをしよう。
お互いの信念を賭けた……ね」
「好き勝手言いやがって……!」
「でも、従うしかないだろう?……と言うか感謝して欲しいぐらいだよ、僕が今、有利な状況なのに君たちに譲歩してやってんだから……」
シンラが言っていることは正しかった。
ここで奴がこちらに交渉する理由はないに等しい。
「……内容は?」
ハルマの質問にシンラは満面の笑みを浮かべる。
「そう来なくっちゃ!期限は一週間。詳細は後で送る。じゃ、また一週間後!」
シンラはそう言うと小屋から出て行った。
コウはすぐさま立ち上がり、ハルマ達と追いかけて行ったがすぐにシンラは消えてしまった。
小屋の外、焼け落ちた木々の真ん中でコウは叫ぶ。
「やられた……!全部あいつの手のひらの上だった!」
「いや……チャンスじゃないですか?」
悔しがるコウにケンは問いかけた。
「何?」
「シンラって人が何を企んでいるかはわからないけれど……一週間もあれば……できることは多いはずです」
「だが……3人だけ何ができると言うんだ……!」
その瞬間、巨大な三つの影が3人を包んだ。
影は3人の前に着地した。
その影の正体は。
紺色のクロスボーン。
橙色のレギンレイズ。
そして……黒色で傷跡だらけのダブルオー。
「僕が全員呼びました」
「……この機体は!」
「はい……僕の……僕たちの、仲間です!」
舞台役者は出揃った。
神に翻弄された5人の愚者達が、勇者の元に集結する。
さぁ、人を知らぬ偽りの神に人間とは何かを見せてやれ。
彼らの反撃が今、始まる!!