ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation 作:Haturu
「遂に……明日だ!」
暗く狭い部屋の中でシンラは腕を伸ばしていた。
「君のおかげで……僕の夢は叶ったも同然だ!感謝するよラナ!」
シンラは私に向けて握手を求めた。
椅子に腕を縛り付けたくせに……
文字通り手も足も出ないから、悪態をついてやった。
そうすると彼は慌てて「しまった、ついうっかり」と手を下げた後にこんなことを言った。
「感謝してもしきれないよ!何か望みはあるかい?何だったら僕の作る世界で暮らして……」
どうやら、協力のお礼をくれるらしい。
と言っても、私はここ数日座っていただけなんだけど。
彼にあることを頼んだ。
彼にしか果たせない私の願いを。
「さて………準備はいい?みんな!」
「あぁ」
「えぇ!」
「もちろん!」
僕達、ラナ救出班はマスドライバーに集まり、各自、出撃準備を完了した。
各機体が店長作の支援用サブフライトシステム
《ノッセタ》に搭乗している。
「最後の確認だ……俺たちはマスドライバーでの最大加速後、以下の座標のゲートに突っ込む……が」
「ゲートは開いていないんですよね?」
「あぁ、その為、突入しながらゲートを開ける必要があるのだが、その方法が面倒極まりない。MS一機を撃墜するほどのダメージを見えないゲートに与えて……ようやく一機分の大きさのゲートが開く」
「大丈夫ですよ!ね?皆さん?」
「もちろん!私のレギンレイズもマサのクロスボーンも強化したからね!」
「準備万端だよ!」
頼もしい返答を通信で聞いた僕はもう一度気合いを入れ直した。
顔を叩き、操縦桿を握りしめる。
「時間だ……行くぞ!!」
コウさんの掛け声で《ノッセタ》が火を吹く。
予定されていた順番でコウさん、僕、店長、テルミさんの順で発進を開始した。
発進すると、お世辞にも心地いいとは言えないGが僕の体にのしかかる。
ほんの数秒で、空が驚くほどに近づいた。
以前レースで使った《オーフィンズ》に近い速度だ。とてつもなく速い。
マップに示された座標にコウさんが接近すると、ディランザの両手に握られたビームライフルが空を切る。
これでもかと打ち尽くした後、急に空の一部が
歪み、壊れた。
壊れた向こう側には宇宙とコロニーのようなにかが見える。
ディランザの突入後、僕もAGE1をのけぞらせありったけの火力を叩き込む。
フルカスタムしたAGE1の火力は想像以上に大きかったようで、見えないゲートはすぐさま巨大な渦となり、AGE1を飲み込んだ。
「張り切ってるね……ケン君」
「おかげで、僕達は温存できたね」
僕が宇宙に突入した数秒後に店長さん達が続く。
作戦の第一段階はクリアだ。
「うっ……」
来たか。
今この場所に着いた時点で僕達はウィルスに感染した。
重力やGの感じ方が変わったからすぐに分かった。
今ここでバトルアウトになればリアルでも死に至るかもしれない。
大丈夫。覚悟はしている。
なるべく戦力を温存しながら、コロニーへ侵入し、ラナさんを助ける。
打ち合わせの通り、僕たちはひし形のフォーメーションをとった。
前方にはコウさんの左右には僕とテルミさん、
最後尾が店長さんだ。
予想されているアーティファクトの総人数は千に及ぶらしい……と言っても充分に戦闘できる者は限られているらしいが。それでも多勢に無勢なのは違いない。
コロニーの中にも敵はいるだろうし、脱出する際のことも考えなくてはならない。慎重に行かなくては。
敵はコロニーの向こう側から現れた。
無数の光がコロニーの奥から現れる様は壮観としが言いようがなく、まるでそれはアニメのOPのようでーーー
caution!
コックピットにアラートが鳴る。
「ミサイル接近!各機ビームシールド展開!」
コウの掛け声で一斉に《ノッセタ》の先端部からビームシールドが展開された。
コンマ数秒後、ミサイルやビームが僕達の機体を貫こうと迫って来る。
縦横360度、視界がミサイルに包まれる。無数のミサイルの一部はビームシールドに衝突し、爆発音と強烈な光が発生した。
あまりの迫力に怖気付きそうになるが、流石は店長の力作。誰一人傷つくことなく、僕達は加速を続ける。
順調だ。このままの速度を維持すれば消耗を抑え、すぐにコロニーへ到達できる。
……そのはずだった。
ミサイルの嵐の中、僕は加速していたはずなのに何故か速度が落ちていた。
「あれ……?!なんで……!」
速度はみるみると落ちていく。しかし、陣形は崩れていない。僕達全員が減速をしていた。
「待って………このミサイルの数……多すぎない……?」
唐突にテルミさんが呟いた。
僕はハッとなって気づく。攻撃の量があまりにも多すぎることに。
その多量のミサイルが衝突することで、僕達は充分な速度を保つことができなくなっていた。
今も尚、ミサイルは僕達の正面だけでなく、視界を埋め尽くしている。これほどのミサイルを装備したMS……?いやMAだとしても数は明らかに多い。
何か嫌な予感がする。僕達は何か大きな間違いを……
しかし、《ノッセタ》のスピードのおかげで僕達は既にコロニーから数キロメートルのところまで接近していた。
MSからしてみれば目と鼻の先と言ってもいい。
突然、ミサイルの嵐が晴れた。攻撃が止んだのだ。ミサイルで防がれていた視界がクリアになり、耳元で鳴っていた爆音も消える。
ほんの少し余裕ができたと思ったが、それはすぐに覆った。
なぜなら僕達の目の前に、コロニーを守るように立ち塞がる艦隊が現れたからだ。
知識がないので種類の判別がつかないが、見たことがある艦もある。
「しまった、やられた!!」
彼らは当初、アーティファクトの人数、搭乗する機体をコウから聞いていた。
コウはシンラの元にいた時の記憶から、予想できる全ての可能性を皆に伝えていた。MAが大量に出てくる可能性も含めて。
しかし、シンラはそれを読んだ上でこの艦隊を用意した。
直接繋がれていないとは言え、このサーバーもGBNの一部。戦艦といっても動かすのに必要な人数はゲーム用に調整され、操作を覚えれば、動かせるようになっている。
シンラはそこに目をつけた。例え戦闘が不得意なアーティファクトであっても、人数さえいれば戦艦を動かし、エース級の機体に補給もすることができる。
シンラは戦力を最大効率で動かし、ケン達に全く想定していない状況を作り出すことに成功した。
「くっ……そ!」
カタパルトから数え切れないほどのMSが発進し、四人の進行を阻む。
「くっ……プランBだ!各機、戦闘体制!」
四機はそれぞれ武器を構え、《ノッセタ》から飛び降りた。
プランB。
それはなんらかの理由によって四人全員のコロニーの侵入が不可能になった場合の作戦だ。
内容は至ってシンプル。コロニー内の構造を正確に把握しているコウを確実にコロニー内へ行かせるだけだ。
コロニーの構造自体は共有されてはいるが、
"ラナに何かあった場合"に合理的に動けるのはコウだけだという理由もある。
だが、どれほど作戦が練られていても成功しなければ意味がない。
四機はそれぞれアーティファクトの乗るコックピットを傷つけないように慎重に戦う。
「行けっ!ヴェスパー!!」
クロスボーンの放つ4機のヴェスパーが、敵機のグスタフ・カールの四肢を容易くもぎ取る。
一瞬できた隙を見逃さず、レギンレイズが頭部めがけてアックスを投擲。
息のあった連撃プレイは精鋭のアーティファクトを凌駕していた。
「数が……少しばかり多いね!」
「マサ!アレを!」
戦闘の合間をぬってレギンレイズがクロスボーンに近づき、背中合わせになる。
「アレ……か、頼んだよ!」
「任せて!」
レギンレイズが爆発的な加速を見せ、クロスボーンから離れる。
その背中を見て、店長は肺の中の息を全て吐いた後、見栄を切った。
「総数千人か……一騎当千なんてわくわくするね!!」
フルスロットルで加速するレギンレイズ。
テルミはコウとケンの二人に通信を始めた。
「作戦があるの!」
「作戦!?」
ケンの問いかけにテルミは焦りながら答えた。
「コウ、ケン!戦いながらでいい!送った座標に集まって!」
「ど、どんな作戦ですか?!」
「いいから!!」
ケンは大量の敵機をあしらいながら、送られてきたマップの座標に近づく。
少し遠くで戦ったコウも同様に近づく。
2機が近づけば、当然敵も固まる。
「バカなっ、何を考えて……」
ディランザに切り掛かる敵機が現れた。シャイニングガンダムだ。
シャイニングのサーベルがディランザのビームトーチを弾く。
間髪入れず、シャイニングは上段切りの構えを取る。
(しまっーー)
「コウさん!!」
ケンのリカバーは間に合わず、シャイニングのビームサーベルが振り落とされた。
サーベルが……宇宙を切り裂く。
「!?」
一瞬にして姿を消したディランザを探すシャイニング。
ディランザはすぐに見つかった。
シャイニングの視線の先にはAGE1とディランザのマニュピュレーターを取り、遥か遠く、コロニーに向け進んでいた。
「速く!二人もスラスター噴かして!!」
「なっ……店長さんは?!置いてきたんですか!?」
「作戦……だよっ!二人だけでも無事に届ける!!」
「バカな!死ぬ気か?!」
「大丈夫だって……言っている!!」
艦隊の主砲が3機へ向けられた。
「チャフグレネード!!」
レギンレイズの肩部ミサイルポッドから色の違う8種の弾頭が発射された。
ありとあらゆる妨害効果の持つ粒子だのなんだのを混ぜた特性弾だ。
効果があったのか、艦隊の砲撃は開始されず、砲塔が右往左往している。
「今だ!行ってきな!!」
「待って!テルミさーーーー!」
レギンレイズが両腕を全力で振る。
1段階上がったとてつもない速度でディランザとAGE1はコロニーの最先端へ辿り着いた。
「急げ!!速くラナを救出して、二人の援護に向かわなくては!!」
コロニー内へ侵入した二人は全速力で対岸にあるという研究室へと向かった。
「で、でもテルミさんは大丈夫だって……きっと何か秘策が……」
「あると思うのか?!無数のアーティファクトを傷つけず、戦い続ける方法がか?」
「それは………」
「今の俺たちに出来ることはただ一つだけだ!!急ぐぞ!!」
ディランザとAGE1が並列しながらコロニーを進む。
半分に到達するかというところでそれはきた。
caution!!
「「!!」」
その機体はまるで一陣の風のように僕達の目の前を通過した。
僕達は最初、何が起こったか分からなかった。
なんで今通ってきた場所に敵がいる?
その敵の放ったビームは螺旋を描きディランザの左肩を貫いた。
「ぐっ……!」
「コウさんっ!!」
ケンに2秒間の迷いが生じた。
突然の敵の襲撃とコウの安否、二つの危機が彼の判断を鈍らせた。
だが、たったの2秒なのだ。
こんなわずかな時間で人は何もできない。
判断を下そうとしただけ、ケンは優秀だろう。
しかし、その敵はそのコンマ数秒で変形し、距離を詰め、ビームサーベルを抜き放ち、その刃をAGE1に突きつけた。
「なっ……!?」
すんでのところでケンは左腕のビームシールドを展開。ビームサーベルを防ぐことに成功した。
が、これは全くの偶然である。戦闘体制に入ろうとしたその瞬間に敵がサーベルを突きつけただけのこと。タイミングが運良くあっただけ。
(何なんだ……コイツは!?)
敵は右足を蹴り上げ、距離を取った。
そこにきてようやく、敵の機体の判別がついた。
「紫の……AGE2?」
「気をつけろ!そいつは……!」
攻撃から体勢を立て直したコウが通信で叫んだ。
「GBNの頂点……チャンピオンのコピーアーティファクトだ!!」
「……チャンピオンの……コピー?」
ケンはコウの言葉を疑問形で繰り返した。
決して意味が分からなかったわけではない。
意味は分かっていたし、理解もしていた。
ただ、「やってくれたな」という感情と「信じたくない」というか感情が混じり合っていた。
「俺もそいつにやられた……二人でもいけるか……」
コウの弱気がケンに伝わってくる。
何故かは分からないがAGE2は手を出してこなかった。
「いや……コイツは僕がやります」
「なっ……聞いていたのか?!二人でも……」
「行ってくださいっ!僕は……"大丈夫"です!!」
「っ……!」
コウは全てを察した。敵に背を向け、ブースターを噴かし始めた。
「……死ぬなよ」
「当然!」
コウがこの場から去り、AGE1とAGE2が向き合う。
AGE2は待ってましたとばかりにビームサーベルを持ち上げた。
(必殺技!?、いきなり?!)
天空に捧げられた黄金の剣。
チャンピオンの必殺技、《EXカリバー》だ。
ケンはそれを易々と避ける。
いや、避けるというよりも当たるはずがないというべきか。
決闘のゴング替わりに使われた必殺技は何もない空間を切り裂く。
「……追わないんですね」
ケンはAGE2がコウを追いかけると思っていた。
どんな理由があるかは知らないが好都合だ。
ケンはAGE1の背部武装をパージした。
近接格闘においてこの二つの武装は必要ない。
花畑に鉄の武装が落下する。
AGE2は仕掛けてこない。ただ、右手にサーベルを握り、半身になって構えている。
隙がない。
一度打ち込んだだけで四肢をバラバラにされる。そう確信するほどの殺気と実力が全く動かないあの機体から感じられた。
本音を言えば、こうしてずっと時間を稼ぎたい。
立ち向かうことなく、時間を、ずっと。
でも……
「そういう訳には……いかないよなぁっ!!」
ケンは刀を抜き放ち、AGE2に迫った。
AGE2は構えを解かず、接触ギリギリまで近づけさせる。
「はっ!!」
刀とサーベルが交錯する。意外にも出力は大差がないようで、競り合うことが出来た。
それによってケンの気が、緩む。
この世界の頂点がそれを見逃すはずがなかった。
左手に握っていたライフルを捨て去り、サーベルを取った。
それと同時に競り合っていた右手のサーベルのビーム放出を停止。
ケンの刀は競り合い先の突然の消滅により、そのままの勢いで、AGE2を切り裂こうとした。
だが、AGE2は体を仰け反らし回避。
左手のサーベルでカウンターを決めた。
AGE1は右腕の関節より下が切り裂かれた。
(カウンターを?!普通やるか、あの状況で!?)
だがケンもやられっぱなしではない。切られた右腕を蹴り上げ、軽くバックステップをした。
蹴り上げられた右腕は回転しながら、10メートルほど真上に飛んだ。
くるくると回転しながら、それは落ちていく。
AGE2はすぐさま距離を詰めてきた。
そのスピードをそのままサーベルに乗せ、振り抜こうとしたその時。
「今だ!!」
ケンは左手の武装のシールド内蔵ビーム砲を発射した。
発射することを知っていたかのようにAGE2は最小限の動きで回避する。
「燃、え、ろぉっ!!」
避けられたビームは落ちてきた右腕に当たった。
本来、MSの爆発は推進剤に引火する形で起こる。GBNもピンク色の煙ではあるが、それにならってた。
そして……AGE1ヒバナは腕から火炎を出す。
推進剤ではないが、それと同様の効果を持つ引火剤があの腕には詰まってる……!!
AGE2が背後の爆発に押し出される形でよろけた。チャンスだ。
ケンは左手のシールドを投げ捨て、必殺技のコマンドを入力した。
「パルマーーー!!」
だが、伸ばした左腕はAGE2の右手に掴まれる。
「な?!」
いつのまにかAGE2はサーベルを捨てていた。そして火炎を発射する瞬間、AGE2は掴んでいた腕を捻り、曲げた。
火炎が二機の間を割るように噴き出す。
「あのタイミングで……掴むのかよ!!」
火炎が収束したと途端、掴んだ左腕に手刀を突きつけようとAGE2が動いた。
(まずい!)
咄嗟に左腕を回転し、掴まれた腕を振り払う。
腕を持ってかれずにはすんだものの、今度は
右からハイキックが飛んできた。
腕を無くしているためガードも出来ず、胴体に直撃。体勢を崩したAGE1は吹き飛び、花畑に墜落した。
「ぐっ……ちくしょうっ……!!」
よろめきながら立ち上がるAGE1。
上空ではAGE2が佇んでいる。
(ありえない反応速度に……一手二手先読みした行動……)
化け物。
ありきたりな言葉だが、あのAGE2にこれ以上の相応しい言葉をケンは知らなかった。
「大丈夫……僕は……」
ーーーー
一週間前。作戦会議の時の話だ。
アレは確か……今回の作戦のためにみんなの戦力を確認していた時のこと。
「一覚集中……だったか……?なんなんだ?アレ 」
ハルマさんに聞かれた僕は少し戸惑いながら答えた。
「うーん、なんていうか脳内をぎゅっと縮めるイメージでやると出来ます」
「????」
その会話を隣で聞いていたコウさんは血相を変えながら僕の肩を掴んできた。
「今、なんて言った?」
「え、脳内を縮める……?」
「本気で言ってるのか……?」
「え、ええ」
「まさか、そんなことが……」
僕は意味がわからなくて顔を傾げた。
コウさんは少し深呼吸した後に、その理由を話し始める。
「それは……シンラの作ったウィルスと似ている」
「え?」
「奴は言っていた……原理はわからないが、似たようなことを言っていた……」
ーーーー
だ、そうだ。
どうやら僕の《一覚集中》はシンラのウィルスと似通ったとこがあるらしい。
僕は一つの仮定をたてた。
もしウィルスに感染している状態でこの力を使ったら……相乗効果があるのではないか?
僕の機体が沈黙を続けているとAGE2は一息に距離を詰めてきた。
勝つためだ。覚悟を決めろ。
僕は四つの感覚を捨て、目を見開いた。
《一覚集中》
驚くほど視界が広がる。やっぱりだ。
明らかにいつもより効果が高い。仮説は正しかった。
AGE2がサーベルを起動して、迫ってくる。
残り5m、4m。
まだだ。
3m、2m……
ケンには全く聞こえてはいないが、コックピットには敵機の接近を知らせるため、アラートが鳴り響いていた。
まだ足らない。もっと、もっと近くに。
やつが絶対に勝ったと思うその瞬間まで。
1m……
さっきはこの距離で避けられた。
まだだ。
AGE2はサーベルを突き立てようとしている。
サーベルの先端は機体の腹部を狙い、ビームの熱で機体の装甲が爛れ始める。
まだ突かれちゃいない。まだこいつは勝利を確信していない。
サーベルの先端、残り3cm、2cm、1
「今だッ!!」
明らかに攻撃に追いついていない、遅れた反応。
実際にケンのAGE1はダメージ判定を装甲に反映していた。
だが、そうではないことは両者共に把握している。
ケンのAGE1は腹部の一部を貫かれたものの、ステップでAGE2の背後を取った。
「く、ら、え」
ケンのAGE1が刀をAGE2の背部に振り下ろした。
ガキンっ!
鉄と鉄を擦り合わせたあの特徴的なSE。刀が突き刺さった音。
ではなかった。それはAGE2が変形した音。
AGE2は一瞬で遥か遠くへ加速し、刀は地面に突き刺さる。
そんな……
やれることはやり尽くした。
それでも敵わない。
ケンはコックピットで膝をついた。
張り詰めた緊張と、《一覚集中》の反動が同時に押し寄せてくる。
「うっ……」
ケンは吐いた。呼吸が段々浅くなる。倒れそうになるが、四つん這いになり持ち堪えた。
だが、立ち上がり、戦わなくては。
そうしなければ死ぬ。
死。覚悟はしていた。そのつもりだった。
だが覚悟で死の恐怖を克服できるわけがない。
ケンは恐怖で目を瞑る。だがどんなに時間が流れても意識は途切れず、むしろ呼吸は落ち着いてきた。
ケンはゆっくりと立ち上がり、モニターを見つめた。
そこにはAGE2が手を差し出していた。
まるで握手のように。
「?」
ケンはそこで通信がオープン回線になっていることに気づいた。
あの嗚咽を回線で流していたのか、でもそれを聞く人はいない……
いや、いる。目の前に。
「もしかして……聞いてたんですか?」
AGE2はコクリと頷いた。
状況を整理しよう。
ケンは知らないが、このAGE2はチャンピオンの思考をほぼ完全にトレースしていた。
以前ハルマやコウと戦ったよりも。
シンラはそれをアップデートだと思っていたようだが、それは一部間違っている。
チャンピオンの思考をトレースしすぎた結果、このアーティファクトは戦闘を楽しむようになってしまったのである。
シンラの命令はコロニーに侵入してきたやつと戦え。
たったそれだけ。シンラの唯一のミスだ。
「え、えっと……僕の降参です」
ケンはAGE1の左腕を上げ、降参の意を示した後、差し出された手を握り返した。
AGE2がグッ、とガッツポーズのようなものをした。
(楽しんでいた?この戦いを?)
ケンはそこでようやく、この世界がゲームだと思い出した。
あぁ、そうだった。この世界はゲームだった。
人の死だとか…てそんなものを賭ける場所じゃないよな……
「そりゃ勝てないよ……」
ケンはコックピットで尻餅をついて項垂れた。
「AGE2さん?チャンピオン?どっちでもいいか……その、お願いがあるんですけど」
一方その頃、コウはディランザから降りて、ラナがいるはずの研究室へ入っていた。
ラナは椅子に座っている。特に拘束されている様子はなかったが、頭に何か大型の装置を付けていた。
「クソッ!!頼む、返事をしてくれ!!」
コウは何度もラナの体を揺らすが、返事はなかった。
あの大型の装置が何かしているのだろうか?
取り外すのは簡単そうだが、何が起こるか分からない。
コウは部屋を見渡した。
部屋の明かりがついていたので気づかなかったが、一つのパソコンに電源がついていることに気づいた。
現在進行形で、文字が打たれている。
「なんだ……?」
コウはそのパソコンに近づき、打たれた文字を見る。
Tukiha そこにいるのは誰?