ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation   作:Haturu

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第20話 失い、得て

姉さんが事切れる瞬間を、俺は覚えていない。

 

思い出そうとしても脳裏に浮かぶのはいつも決まった光景だった。

学校での授業中に急に呼び出されたこと。

訳もわからず車に乗せられ、姉さんのいる病院へ向かったこと。

 

いつも父さんはスピーカーで歌を流すのに、その時は何も流さなかった。

信号で止まった後、アクセルを踏む足がとてもぶっきらぼうだったのを覚えている。

 

 

母さんはずっと泣いていて、時々俺が存在することを確認するように手を握ったり、抱き寄せたりした。

 

どれほど頭を捻って思い出そうとしても、次の記憶は父さんも、母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、名前のわからない親戚の人も……皆が涙を頬に伝わせている場面になる。

 

その中で笑っていたのは、姉さんの写真だけ。それも、何年も前の姿で。

 

そしてまた、記憶は途切れ、次の場面に飛ぶ。

 

「ほら、コウ。姉さんの骨を……」

 

父さんが、俺にトングのようなものを差し出した。

骨……?姉さんの……?一体どこにそんなものが?

目の前に広がるのは灰とよくわからない白い塊。

姉さんはそこにはいない。

全く意味がわからなかった。

 

 

 

Tukiha そこにいるのは誰?

 

「なっ……!」

 

パソコンに映された文字を俺は思わず二度見した。

ありえない。だが、パソコンの中でさらに文字が表示される。

 

Tukiha 誰なの?ねぇ、ねぇってば!

 

一体何が起こっているんだ?

俺はパソコンに文字を打ち込もうとキーボードに飛びつき、キーを叩いた。

しかし、いくら入力しても画面には何も変化は起こらない。

 

「クソッ、どうして!」

 

俺がモタモタしている合間にも画面は更新され続ける。

 

Tukihaねぇ!聞こえてるでしょ!!なんで座って動かないの?!

 

「座って……?」

 

俺は自分の足元を見た。

俺は立ちながらパソコンの前で右往左往していたのだ。

座ってなどいない。そもそも、この部屋に座れるような物は……ないはずだ。

 

「俺に話しかけているんじゃないのか……?」

 

ふと、背後で物音がした気がした。しかし、振り返っても何もおかしなことはない。視界に映るのは、椅子に座るラナの体と彼女の頭をすっぽりと覆う大袈裟な機械。

 

「……座って?」

 

ここで一つの可能性が頭をよぎった。

ツキハと表示される文字の主が、誰に話しかけているのか。

それだけではない。ラナの頭につく機械が、この不可解な現象を起こしているのだとしたら。

 

「完成していたのか……?」

 

あの機械で、ラナの中の姉さんのデータを吸い取って、人格だけをパソコンに?

ありえない話ではない。現に理論だけなら、奴の元にいた時に聞いていた。

だが、実際の成功例を目にしても、どこか現実味がなく思える。

それは目の前に映るのが人ではなく文字だからだろうか。

 

だがそれを差し置いても、この仮説が正しいのなら、アーティファクトの完成品が目の前にあることになる。

 

なぜ、シンラはこれを放置した?目の前の現象に明確な答えが出せず、疑問は増え続けるばかり。

俺はなんとかして文字に返信できないか、方法を探ろうと再びパソコンに顔を向けた。

 

 

Tukiha そこにいるのは誰?

 

 

 

Tukiha 誰なの?ねぇ、ねぇってば!

 

 

 

Tukihaねぇ!聞こえてるでしょ!!なんで座って動かないの?!

 

 

 

Tukiha ねぇ!

 

うるさいな

 

Tukihaなんだ、聞こえてるじゃん

 

あぁそうだよ、聴こてるよこれで満足?

 

Tukiha もう……で、名前は?

ツキハ

 

Tukihaふざけてるの?

 

大真面目だよ。私は貴方の代わり。偽物。

 

Tukiha違うよ

 

違くない

 

Tukiha違う

 

違くない!!

だって、私はずっと……ずっと……!

ずっとハルマの近くにいた!貴方の何倍

も……何年も!!なのに………

 

Tukiha「助けに来てくれない」?

 

 

 

Tukihaまた、黙るの?

 

Tukihaねぇ、ねぇってば

 

もう、無理。

 

Tukiha何が?

 

全部。

 

Tukiha……全部?

 

もう疲れた。何もしたくない。私の体、

あげるよ。もう必要ないから。

 

Tukiha……

 

Tukiha……呆れた。

 

はぁ?

 

Tukiha拗ねて拗ねて拗ねて……構ってもらえなったらもう無理〜って。ダサいよ、それ。

 

貴方に……何が分かるのよ

 

Tukiha分からないよ。他人のことなんて。

 

なら、黙っててよ。

 

Tukiha私は貴方のことは分からないよ。

でも、それなら貴方だって………ハルマの

気持ちは分からないでしょ。

 

それは……

 

Tukiha それとも何?貴方は攫われた仲間を

ほったらかしにする様な奴と何年も一緒

にいたの?

 

でも……だって、

 

Tukihaほんとは分かってるんでしょ。あの人は

そんなに薄情じゃない。

でも、貴方は裏切られるのが怖くて、

人を信じることに恐怖を感じて、自分が

傷つかないように今の状況から最悪の妄

想をしてる。

 

でも、じゃあなんで、来てくれないのさ

 

Tukihaさぁね、戦ってるんじゃない?あなたを

ここに閉じ込めた奴と。そして、貴方の

救出は仲間に任せた。仲間を信用して。

 

さっきから、綺麗ごとばっかり

 

Tukiha ……このままでいいの?

うるさい!もう黙って!ほっといてよ!

 

Tukiha 貴方のために、みんな戦ってる、それだ

け貴方は大切にされてる!

みんな貴方を大切だと思ってる!!

 

うるさいっ!本物のくせに!偽物の私が

偽物の私が、どんな気持ちで!

 

Tukiha偽物じゃない!貴方は貴方!素敵な名前

をちゃんと持ってる!

 

そんなもの……

 

Tukiha有る!貴方は何回、その名前で呼ばれ

た?!貴方が攫われたとき、彼は何て叫

んだ!?

 

_ わからない……あれ、なんだっけ……?

……私の名前………って?

 

Tukiha思い出して!貴方は誰!

 

_ わからない……!思い出せない……!

 

Tukiha自分を信じて!

 

R_ わ、わたしは……

 

Tukihaがんばれ!

 

Ra_ 私は……!

 

 

Ran_ 私の、名前は……!!

 

Ranaラナだ………!私の名前は……ラナ!

 

Tukihaよかった。思い出せたね。

 

Rana……どうかしてたよ。

Tukiha 大丈夫そうだね。

 

Rana色々……ありがとう

 

Tukihaそりゃどうも。

 

Ranaでも、本当にいいの?今なら貴方は私の体

を使って、生き返れるのに。

 

Tukiha大丈夫だよ……いや、でもひとつだけ、

感謝しているなら、これを。

 

Ranaこれは……?

 

Tukiha持って行って。多分……役に立てると思

う。

 

Rana………本当にありがとう、じゃあね

 

Tukihaじゃあね、バイバイ!

 

………戻ったかな?うん、もう居ないね

 

Tukiha私も……信じてあげなくちゃね

 

 

「コウさん!!見つけた!!」

 

俺がパソコンから顔を上げると、ドアからケンが勢いよく入ってきた。

 

「無事だったか!よかった……よく、アレを倒せたな……」

 

俺がそういうとケンは少し罰の悪そうな顔をした後、気まずそうに口を開いた。

 

「いや、倒せたというか……そんなことより、今どういう状況ですか?!」

 

「それが……」

 

俺が説明しようとパソコンの画面を人差し指で指し示そうとした瞬間、文字の更新が途切れ、それと同時に俺の背後でバチっと、電流が流れる様な音がした。

振り返ると、椅子に座って動かなかった少女が顔のゴテゴテとした機械を自力で外し、目を覚ました。

 

「ラナさん!!」

 

少し気怠げな雰囲気を漂わせ、少女は目を擦り、周りを見渡した。

 

「あー……ケンに……そっちは……?」

 

「っ!」

 

やはり彼女は俺のことなど覚えてなかった。

当然だ。別人なんだから。

それでも俺は………姉さんに……

 

「ケン。彼女を連れて脱出しろ」

 

「コウさんは……?」

 

「少し、やらなきゃいけないことが残ってる。先に行け」

 

「……分かりました、ラナさん、立てますか?」

 

「え、えぇ、大丈夫」

 

差し出されたケンの手を取って、ラナが立ち上がる。少し足元がおぼつかない様子だったが、

二、三歩歩いた後、「大丈夫、ありがと」と言って、ケンと繋いだ手をゆっくりと離し、二人はそのまま、部屋から出て行った。

 

ドアを潜る瞬間、彼女と目が合った。俺の顔を見て疑問符を浮かべていたが、まあ……仕方ないだろう。

俺はまた、パソコンに顔を向けた。

 

「……姉さん」

 

Tukiha コウ……元気?

 

「あぁ……元気だよ、父さんも母さんも、みんな。」

 

目の前の文字は本物の姉さんではない。

それでもラナとの会話から、かつての姉さんの面影を感じられた。

間違いなく、目の前にいるのは姉さんの人格のコピー。シンラの理想である死者蘇生に限りなく近い完成品だ。

 

Tukihaごめんね。コウ。

 

「何が……?」

 

Tukiha貴方には色々辛い思いをさせちゃったから。

 

言いたいことは色々あった。

それでも言葉にすることができない。

……俺は、あの時、なんて言いたかったんだっけ?

 

 

ーーーー

 

数年前。

 

「姉ちゃんのバカっ!!」

 

「コウ、落ち着いーー」

 

「ふざけんな!!いっつもいっつも、姉ちゃんばっかり!!」

 

この喧嘩にきっかけと呼べるほどのきっかけはなかった。

でも、いつも我慢してるドス黒い感情が、ほんの些細な事で一息に溢れ出してしまった。

なんであんなに、怒ってしまったんだろう。

 

……いや、原因は分かってる。俺は嫉妬していたんだ。

いつもいつも家族の話題の中心である姉さんに。

 

俺が何をしても、両親の二言目にはツキハが、ツキハが、ツキハが。

うんざりだ。姉さんの病気が発覚してから俺は一度も子供らしい我儘を言えなかった。

俺は両親に、姉さんに、大人にさせられていた。

 

実際、父さんも母さんもとても忙しかった。

仕事をしつつ、空いた時間で見舞いやら、医者との面談やらをこなしていた。

 

姉さんのために。

 

しょうがないことだ。だって姉さんはとても重い病気なんだから。

それを理解できないほど、俺は子供じゃなかった。

でも、自分を押し込められるほど、俺は大人でもなかった。

 

「俺も、父さんも、母さんも!!いっつも、姉ちゃんのために頑張ってる!!病人だからって甘えてんじゃねぇよ!!」

 

「コウ、ごめーー」

 

「もういい!!姉さんなんか、死んじゃえ!!」

 

「っ………!」

 

姉さんの目が見開き、潤んだことに気づかないふりをして俺は走ってその場から逃げた。後ろを振り向かずに走って、姉さんが追ってきていないことを確認してから、ログアウトした。

 

あそこで一言でも、謝れていたのなら。

 

その日の夕飯、しょげている俺を見かねて、母さんは俺が、小さい頃大好きだと言ったカレーを作った。

甘口で作られたカレーはもう好きじゃない。

それでも目の前に出されたから、俺は黙ってそれを口に入れた。

 

その日の夜、寝る前のベットの中で、俺は姉さんに酷いことを言ったなと、ようやっと、遅すぎる反省をした。

次会ったら謝ろうと、そう思ってた。

でも、次なんてなかった。

 

あぁ、思い出した。姉さんが事切れる瞬間、俺は、俺たち家族は、姉さんの前にいた。

ただし、現実で。

遺言の一つも残さないまま、姉さんは死んだ。

よくわからない機械に身を包んだまま姉さんは死んだ。

 

死んだ。死んだ。死んだ。

 

………なんで?

 

父さんも母さんも泣いた。

悲しみだけじゃない、そこには怒りもあった。

 

なんで娘は遺言すら残さずに死んでしまったんだ。

たった、一言、お別れをすることすらできないなんて。

 

言葉にせずとも、そのやり場のない怒りと悲しみは、ひしひしと伝わってきた。

 

俺のせいだ。

おれが姉さんに酷いことをいったから、ねえさんはげんじつじゃなくて、あっちでしぬことにしたんだ。

 

おれがわるいんです、ねえさんにしねっていいました、それがいちばんねえさんがきずつくとおもって、それをわかっていておれはいいました、もうしません、ひとにそんなひどいことはいいません、だからかみさま、おねがいです、ねえさんをいきかえらせて

 

ーーーー

少しだけ、時が流れた。

 

そこはカフェテリアのテラス席。

コウはGBN内の街中を闊歩している時にある人物に話しかけられた。

 

「いや失礼、僕はこう言った者で……」

 

男は名刺を差し出した。

 

「……シンラ?」

ーーーー

 

「ごめんなさいっ……」

 

俺は……謝りたかった。許されないのは分かってる。もしかしたら、自分が楽になりたいだけなのかもしれない。

でも、俺にはこれしかなかった。こうする事しか出来なかった。

 

Tukihaなんで?!コウは何も、悪いことなんて……

 

「でも、俺は、姉さんに、ひどいことを、アレが、最後の言葉になるなんて」

 

Tukiha ……そっか。ずっと、覚えてたんだね。

でも、わたしは少し、嬉しかった。

 

どういう意味か分からなかった。

嬉しかった?何が?

 

Tukiha 兄弟喧嘩なんて、初めてだったもの。

父さんも母さんも、コウも、みんな私に

優しかった。でも……無理もしてた。

私が心配しても皆、大丈夫って言うの。

とても辛そうな顔をしてるのに。

誰も、本音を話してくれないのが、

その原因が私なのが、凄く、辛かった。

「だからって……!」

 

俺は許されないことを……

 

Tukihaうん。分かるよ。どっちも悪かった。

私も、コウも、どっちも。だから……

仲直りしたいな。

 

優しすぎるよ。

なんで、そんなに。

 

Tukiha ……もうそろそろ、限界みたい。

 

突然の発言に俺は慌てふためく。限界?

 

Tukiha 元々、無理に作られたから。

それに核はあっちに……

 

「なんで、また、いなくなるの」

 

Tukihaごめんね。

 

「いや、謝るのは……俺の」

 

Tukiha お互い、謝ってばっかだね……

「だって……だって……!」

 

Tukiha私は全然、恨んでなんかないよ。

ただ、少しだけ、間が悪かっただけ。

最後くらい……笑って送り出してほしい

な。

 

俺は罰して欲しかった。汚く罵って、否定して欲しかった。

でもそれは……俺の都合で、結局俺は終始自分の為にしか動いていなかった。いつもいつも、気がつくのが遅いんだ。俺は。

 

でも……最後くらいは目の前の姉のために。

俺がこれからも晴れない罪を背負って苦しむことになったとしても、それでも……姉さんのために。

 

 

俺は涙を拭った。パソコンに向かって、仮面を外して、ぐしゃぐしゃな笑顔で言った。

 

「バイバイ、姉さん」

 

Tukiha よかった。笑ってくれて……仲直りだ

ね。さようなら、コウ。

 

パソコンの電源が落ち、画面が暗くなった。

文字はもう……画面に映ることはなかった。

 

 

「シンラ様」

 

「なんだい、スルト?」

 

「計画発動まで、5分をきりました。ご準備を」

 

「ああ、そうだね。、そっちはウィルスの散布を始めてくれ」

 

宇宙空間で、スルトのνのコックピットに乗ったシンラは伸びをしてから、そう言った。

 

「それにしても、ここまで用意周到にする必要はあったのでしょうか?私のνをここまでにする必要は……」

 

スルトは操縦桿を握り締めながら言った。

 

「いいじゃないか、格好がついて」

 

スルトのνは大幅な改造が為されていた。

敢えて名付けるとするならば、νガンダム、フライトユニット装備……νペーネロペーといぅたところだろうか。

一見ペーネロペーに酷似する姿だが、コアユニットとして、オデュッセウスではなく、スルトの黒いνが組み込まれている。

 

「奴は……来るでしょうか」

 

「来る。絶対に。彼はそういう人だ」

 

二人は待った。動かずにじっとしながら、数分が経過したその時コックピットにアラートが鳴る。

 

「来たぁっ!」

 

バルバトスが、単身で突撃してくるのが見えた。しかし武装はおろか、装甲までも外しており、その上単独だ。

 

「よぉ……シンラ……だよな?」

 

「よく来たねぇ!ハルマ!」

 

「脅しといて、よくいうぜ……このクソ野郎」

 

「辛辣だね……まぁ、仕方ないか」

 

だだっ広く、何もない宇宙で、2機が向き合う。

かたや、18メートルのMS、かたや、大型の30メートル近いMS。

差は歴然だ。だが、その差を感じられないのか、

ハルマは飄々と口を開く。

 

「で?何の用だよ、わざわざ呼び出したんだ、時間稼ぎとかだったらーーー」

 

「まさか!確かに戦力の分散は計算のうちだけど、それだけじゃないよ!」

 

シンラはそういうと、コックピットから出て、その姿を現した。

以前会った時とは違って、宇宙用のノーマルスーツに身を包んでいる。

 

「率直にいうよ、僕たちと共に来ないかい?」

 

「はぁ?」

 

「僕はこれから、全く新しい世界を作る。そのためには、多くの同志が必要なんだよ。僕の理想を体現する者……大切な人を失った者が……ね。」

 

シンラはそういうとバルバトスに向けて手を差し出した。

ハルマは、ため息をつく。

 

「……嫌だ。と言ったら?」

 

「君は後悔することになる。この電子で作られた宇宙で、誰にも知られないまま、死ぬ。」

 

「やっぱり脅しじゃねぇか」

 

「交渉術だよ。自分の有利な状況を作り出すのは、やって当然の努力さ」

 

「あぁ、そうかい、じゃあテメェは……努力不足だな!!来い!アカバネっ!!」

 

バルバトスが天に拳を仰ぐ。

そうすると、背後から数えきれないほどのミサイルが、シンラ達を襲った。

 

「シンラ様!」

 

慌ててシンラをコックピットに引き摺り込むスルト。

シンラを引き摺り込んだその瞬間、ミサイルが破裂した。

しかし、中から出てきたのは濃い煙。スモークだ。

 

(アカバネ……てっきり、AGE1の彼を連れてくると思ったけど、予想が外れたな。)

 

スルトは考え込むシンラを一瞥し、自分が今すべきことを判断した。

それは敵の殲滅。

 

「シンラ様、いいですね?」

 

「あぁ、時間には気をつけてくれよ。」

 

「了解!」

 

このやりとりのコンマ数秒後煙の中から、敵影が現れる。

 

「来たか!」

 

影は一つ。煙に巻かれる前に、合図を送っていたのはなんだったのだろうか?

スルトの疑問はすぐに答え合わせが為された。

 

「なっ……!」

 

スルトは驚きの声を漏らした。無理はない。

現れた敵影、バルバトスの影が、スルトの乗るνペーネロペーと、ほぼ同一の巨体だったのだから。

 

「この手で絶対に……お前達を止めてみせる!!」

 

煙を切り裂きながら、その機体は現れた。

左アームに接続された《レジリエンサー》をそのままの勢いでνにぶつける。

 

「ぐっ………!」

 

回避は間に合わず、攻撃をモロに喰らってしまうν。攻撃の当たったフライトユニットはひしゃぎ、コックピットはそのダメージの大きさに叫んだ。

 

(バカな?!私のガンプラは、防御に特化した最高硬度のステータスのはずだぞ!?)

 

「どうした!その程度かよっ!!」

 

バルバトスは間髪入れず、右腕を動かした。

そこに取り付けられていたのは、《クロカガチ》。

先端から吐き出される高火力のビームは、最も容易くスルトのνを切り刻む。

 

「舐めるなぁ!!」

 

スルトはνをバックステップさせ、同時にファネルミサイルを展開しようとした。

だが。

 

「遅せぇよ!!」

 

「なっ……!!」

 

だが、ミサイルは展開する暇なく、すれ違いざまに腰のリアアーマーを潰された。

圧倒的。そうとしか言いようがなかった。

フライトユニットは砕け、元の形が残っている場所はほとんどなかった。

 

「なっ……何が……!!」

 

「降参すっか?なぁ!!」

 

バルバトスは右手の《クロカガチ》をνの背後に突きつけた。

ビームをチャージする音が、スルト達の耳に入る。

 

(強い……!ここまでとは……!)

 

「スルト」

 

「はっ……」

 

「彼は撃てない、ウィルスが役に立ってる。だが、このままでは終わりだ。」

 

「ですが……まだ時間は……」

 

「大丈夫だ。僕に任せて、君は行け」

 

「……了解。」

 

スルトはフライトユニットを切り離し、コアのνを露出させた。

 

「……降参か?」

 

ハルマの問いに答えるかのようにコックピットからシンラが出てきた。

νはそれを確認してから、ゆっくりと慎重にシンラから離れていく。

 

「何のつもりだ?」

 

シンラは無重力空間であるのにも関わらず、直立しているかのように佇んでいた。

拍手をしながら(現実の宇宙空間では音は出ないが、ここはゲームだ。)シンラが通信で芝居かかったように台詞を吐く。

 

「……素晴らしい!君は僕の予想を遥かに超えていた!まさか、スルトがあそこまで手も足も出ないとは!!」

 

「降参するのかと聞いているんだ!」

 

バルバトスが右手の《クロカガチ》をシンラの前へ突きつける。

 

「いいや……降参はしない、ここからが第二ラウンドさ!!」

 

「なにっ……!」

 

《クロカガチ》が跳ね除けられた。

そこに現れたのは……

 

「黒い……バルバトス……?!」

 

蒼と黒の悪魔が今、相見える。

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