ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation 作:Haturu
病院というものは大抵の人間にとって、日常に必要がないものだ。
病院で働いている人達には感謝が尽きないが、
それはそれとして、こんな所に頻繁にくるような人間はあまり幸せとはいえないだろう。
もっとも、そんな所で暮らしているような人間にとっては、自分の足で訪れることができるだけでもマシだと思っているかもしれないが。
そんなことくだらない事に思考のリソースを割くのをやめ、目の前の引き戸を軽く叩く。
ドアは半分以上開いていたから、別にわざわざノックをする必要はなかったけれど、毎回のようにやっているせいで、もうルーティンに近い。
そうなった理由は、音に気づいて僕を見た時のぱっと明るくなる母の顔が好きだったからだと思う。
「母さん」
予想通り、母の顔が明るくなる。
僕は左腕を背中で隠しながら、部屋に入った。
ベットの傍の椅子を引き寄せ、横たわる母のそばに座る。
「来てくれたのね……わざわざリアルで来なくたっていいのに……」
母はいつもリアルで会いに行くとこんな事を言う。
確かに、GBNだったらわざわざこうして足を運ぶ必要はない。出来たばかりで不便も多いあの世界だけど、自分の部屋でログインするだけでいいのだから、こうして見舞いに来るよりかは何倍も楽だ。
「でも、今日は特別な日だから……」
そう言いながら僕は隠していた左手を母の目の前にばっ、と出した。
その左手にはカーネーションの花束が握られていた。立て続けに感謝の意を示そうと口を開く。
「母の日おめでとう」
「わぁ……!ありが……」
母の言葉は途中で区切られた。
真っ赤な花束の中に一輪の白い花があることに気づいたその瞬間に。
目を細め、確かめるように瞳をこちらに向ける。
「シンラ……もしかして、それ……」
「うん、"白いカーネーション"だよ。」
僕は中身のない花瓶に花束を挿し、白い一輪だけをそっと抜き出し、母の前に持ってくる。
「この前、言ってたでしょ?"白いカーネーション"が見てみたいって。でも大変だったよ。意外と売ってないんだもの。」
花屋に行った時、白いカーネーションを購入したのを見て、店員は何故だか僕に憐憫の目を向けたのを思い出す。
あれは一体なんだったのだろうか。
そんなこともあって、母にこの白い花を渡すのを直前まで躊躇っていたのだが、母は喜んでその花を受け取ってくれた。
よかった。学生の少ない小遣いで買った甲斐があった。
ーーーーシンラが帰ってから、数分後。
「あら〜綺麗なカーネーション!!」
入室してきた看護師が、シンラの母親に向かって大袈裟に言った。
母親は微笑みながら、「息子が持ってきてくれたんですよ」と答える。
「母の日に花束を送るなんて今どき珍しいですね〜!いい息子さんじゃないですか〜!」
テキパキと作業を進める看護師。
「………」
母親の顔から笑みが消えた。
俯きながら、ボソボソと呟く。
「本当ですよね……私なんかを母と言ってくれるなんて」
「……クスノキさん?」
看護師の眉が下がり、怪訝な顔になった。
そんなことを気にもせず、俯いたまま母親は言葉を続ける。
「だって何もしてないんですよ私は。家族の足を引っ張ること以外は何もしていないんですよ?
そんな私を母なんて」
ーーーーーー
「母さんっ!!」
僕が母の部屋に入るとベットの周りで数人が慌ただしく動いていた。その中に僕の父親もいた。
「母さん!母さん!!」
ベットの側に駆け寄り、必死に顔を覗き込もうとするが、看護婦の一人にそれを阻まれた。
「危ないです!下がって!」と看護婦が言い、ベットの向こうにいる医者は母の胸に金属の板を当てがえ、電気ショクを与えた。
だが、無慈悲にも心電図は静止したまま。
医者はゆっくりと瞳を閉じて首を横に振り、無念そうに作業を終えた。
「あっ……あぁ………」
つい3日前までは元気に話していたのだ。
部屋に入る時の笑顔、花を手渡した時の温もり。
全て脳裏に焼き付いている。
それなのに、どうして。
「誰だ」
不意に、口を開いた者がいた。たった三文字、言葉とすら言えないほど短い、その三文字。
しかし、その言葉には例えようのない、憎しみの感情が込められていた。
「誰だ!!こんなふざけたものを!!」
言葉を発した者は、棚の上に置かれていた花瓶を、絶叫しながら持ち上げ、地面に勢いよく叩きつけた。
まるでその花々が死の原因だと確信したかのように、地面に散らばった花弁を勢いよく踏みつける。
「と、父さん……?なんで……?」
母の死に加え、父の発狂。僕の脳は完全に情報過多となり、反射的に言葉を捻り出す。
そのために、少しだけ反応が遅れた。気付くのが遅れた。
父が感情をぶつけ、当たり散らしているのは花束そのものではなく、たった一輪の白い花であることに。
この状況でいち早く動いたのは、父の隣に立っていた看護師だった。暴れる父を宥めながら、体を押さえる。
父は泣き崩れながら、床に膝をついた。
ほんの一瞬、冷静さを取り戻したかに思えたが、それでも父は床に散らばった花を一瞥すると、わざわざ手元にある赤の花ではなく、少し離れた白の花に手を伸ばし、握りつぶした。
「ふざけるな……こんな嫌がらせ……度を過ぎている……」
そう言いながら、父は顔を上げた。床に膝をつきながら、こちらを見上げるその姿は、神に祈りを捧げる信者に似ていた。
だが、僕に向けられた視線はそんな小綺麗なものではなかった。世を怨み、人一人なら殺せそうなほど、醜く歪んだその顔は鬼のように見えた。
あぁ、走馬灯とはこう言うものなのか。
視界は薄れているはずなのに、脳裏にこびりついた記憶が鮮明に浮かび、まるで目の前でそれが起こっているかのような錯覚を見せる。
もう少し、あと一歩なんだ。
僕が責任を果たす為の贖罪は。
ーーーー
その時だった。
どこからともなく雷鳴がとどろき、一筋の稲妻が、頭を貫かれた死体とコックピットを失ったラグナロクを包んだのは。
「ハルマ!!危ない!!」
目の前に現れた鉄屑を僕は右手に握った刀で切り払う。金属同士の擦れる不快な音が数秒続いた後、爆発音とわずらわしいノイズ混じりの通信が僕の耳に入った。
こうなったか。
爆発を横目に、僕は刀を握る"右手"をじっと見つめた。
本来なら、"コレ"は戦闘を終えた後、正確な計算の元行う予定だった。
ツキハという少女が起こした奇跡、それは死者蘇生を目指す僕にとって、どんな手を使ってでも再現したいものだった。
そして、彼女の転生体であるラナを徹底的に調べ上げた。
そして、その奇跡はとても簡単なロジックで成り立っていたことを突き詰めた。
ELダイバーの誕生の瞬間、同座標で絶命する。
こんな一言で済むような簡単な手順だが、ラナ以外の前例がないのも頷ける。偶然で起こるようなものではない。
まぁ、ある程度予想していたからこそ、死ぬ為にウィルスを作っていたりしていたのだが。
だがしかし、僕の驕りと予想外の展開が続いた結果、このような無茶な博打をしでかすハメになった。
まさかその結果、ダイバールックと機体が一体化するとは。
まぁ、トラブルが起こるのも実験の常だ。
此処から少しずつ完璧を目指せばいい。
アーティファクトを使えば、無限に近い試行数を稼げる。
データが揃ったら、運営の保存しているダイバーログから、母のデータを抜き出し、アーティファクトにしてから、この手でちゃんと殺そう。
そうしたら、会える。やっと母さんに会える。
母さんが生き返ったら、まず何をしようか。
まずはカーネーションのことを謝ろう。
許してくれるかな。
僕は機体そのものと化した無機質な右手から、視線を離し、敵を視認しようと爆発の奥に目を凝らす。
何が起こった?!
閃光によって未だ視界は安定しないが、それでも現状を把握しようと必死になって目を凝らす。
段々と視界は回復していった。
その瞳に映るのは、最悪の光景だった。
やっとの思いで撃破したはずの敵機が復活しているだけでなく、目の前の残骸の正体は、共に戦っていた親友の搭乗機だった。
「アカ……バネ………?」
震える右手を押さえながら、通信を開く。
どれだけコールしても、通信が繋がることは無かった。
「死んだ。僕が、殺した。」
「嘘だっ!!」
聞こえてきた声は、望むものではなく、それと同時に、聞こえるはずのない声だった。
「死んだのはアカバネじゃない……!お前のはずだ!シンラ!!」
叫ぶハルマをシンラは鼻で笑う。
「君は全て分かっているはずだ。ウィルスに感染しながら、戦線離脱すればどうなるか……今起こった稲妻で僕がどうなったのかも」
「……っ!」
俺はシンラの言う通り、何が起こったかなんて、全て理解していた。
だが……それでも……
「ぁぁぁああ!!」
ハルマは無意識に悪魔の炎を発動させていた。
ゆらめく炎によって爆発的な加速を見せたバルバトスは閃光となり、さながらワープのような速度でシンラへと接近し、大剣を振りかぶる。
ーーーだが。
「遅い!」
バルバトスの大剣はシンラの刀に容易く阻まれた。続く大剣の連撃を凄まじい反応速度ではたき落としていく。
何度かの剣戟の後、両者は鍔迫り合いに移行した。
「な、なぜ!」
「分からないか?僕は今!!本当の意味でこの世界にいるんだよ!!リアルの体に引っ張られている君とは違ってね!!」
「………ありえない!そんなもの!!」
だが目の前の光景がハルマの思いを否定する。
人間の反応速度というものはどう頑張っても限界がある。
だからこそ、この光景はあり得ないのだ。
つい先程までハルマはシンラの反応速度を凌駕していた。だから勝てた。
だが今、彼はシンラに反応速度で負けた。
シンラの何が変わった?戦闘の中での急成長?
違う。
奴は今、この世界に本当の意味で生きている。
それ即ち、思考がダイレクトに操作につながると言うこと。
リアルの体で脳を動かし、求める動きをこの世界に伝え、それをシステムがフィードバックする。それがこの世界の前提。
だが、シンラにはそれがない。
一コンマのタイムラグなく、やつは自身の体を動かせる。
やはりシンラは………一度死んで、この世界に転生したのだ。ELダイバーになったのだ。
ラナと同じように。
だがハルマはそれでも信じられなかった。
その疑問が声が口から漏れ出る。
「……本当に?自分から……死んだって言うのかっ?!」
自殺だ。それは。紛れもなく。
生まれ変われると言う確信があれば人は死を選択できるのか?
狂っている。そんなことができる人間は。
「そうさ……その通りだよ!!」
シンラが刀に力を入れた。グッと機体が揺れたかと思うと、徐々にバルバトスが押され始める。
このままでは押し切られると思ったハルマはダメージ覚悟で無理やり機体を捻らせ、シンラの刀を受け流し、距離をとった。
「ファンネルっ!!」
音声入力に呼応し、ファンネルが、バルバトスの周りに展開された。
ファンネルなら!!
そう考えたハルマはファンネルの刃をシンラへと向ける。その数合計8基。シンラのファンネルよりも数を上回っている。
プログラムに頼った動きではなく、手動でファンネルを動かすハルマ。
ファンネルは不規則な軌道を描きながら、彗星のようになって、シンラへと迫る。
それを見たシンラも同様に背部のファンネルを展開した。数は4。倍近い差がある。
大型のファンネルはシンラのファンネルを受け止めた。刃と刃がぶつかり合い、激しい火花が散る。
その隙をつき、小型ファンネル4基でシンラの周囲を取り囲む。
4基のファンネルは速度を上げながら、段々と間隔を狭めていき、小さな檻のような形を作る。
「く、ら、えっ!!」
バルバトスが左手を握りしめる。
それと同時に、一斉にシンラを取り囲むファンネルが狙いを関節に向け、襲い掛かろうとした。
その時だった。
その一瞬の軌道の変更をシンラは見逃さなかったのだ。
コンマ数秒の停止後、小型ファンネルは粉々になり、宇宙の塵としてシンラの周辺を漂うことになった。
「なっ……?!」
シンラの背後から何処からともなく現れた新たな8基のファンネル達。ファンネルの破片を蹴散らしながら、当然のようにシンラの背後へと陣取る。
「形成逆転だね」
ハルマの残りファンネル4基。
シンラのファンネルーーーーーー12基。
倍の数あった差はいつのまにか覆されていた。
その残りのファンネルすら、数の暴力によって一つ、また一つと破壊されていく。
どうやってシンラはファンネルを増やしたのか。
理論はとてつもなくシンプルだ。
増やしたのではなく、元からあったものを使っただけ。
一度撃破されたシンラの機体、Gラグナロク。
本体はすでに沈黙していたが、ファンネルだけは今も尚、健在だった。
シンラはそれに接続し動かしただけ。
機体の増殖とも取れる本来ならありえない状況が、バグに近い挙動を生み出してしまったのだ。
ハルマの抵抗虚しく、ファンネルは数を減らし、遂には残機がゼロになる。
ーーー次は、お前だ。
意思なきファンネル達がまるでそう言葉を発したかのような動きで、刃と銃口をバルバトスに向けた。
「まだだっ……!!まだ負けてねぇぞ!!」
自らを鼓舞しながら、操縦桿を握る手に力を入れるハルマ。
《悪魔の炎》によって強化された速度で、迫り来るファンネル達をかわし、起死回生の一手を模索する。
四方八方から迫り来る無数の攻撃。
紙一重でそれを躱しながら、大剣でファンネルを叩き落とす。
パリッ
「!」
しかしながら、早くも限界が訪れる。
バルバトスの装甲にヒビが入り、砕け散った。
最初に消滅したのは右肩の装甲。
「くっ……」
装甲の各所が次々と破片となって散っていく。
考えがまとまらないまま、タイムリミットは刻々と近づいてくる。
消費されている装甲から時間を割り出すと、残り時間は一分もない。
「ーーーくそったれが!!」
ファンネルの攻撃を最小限に抑え、バルバトスは燃え盛る生命を散らしながら、特攻を開始した。
そうはさせまいとファンネル達が追従する。
何十回も弾丸が装甲を抉る。
背後からの銃撃でバックパックは完全に破壊され、爆発四散した。
その爆風すら利用して、尚も特攻を続ける。
二度、機体の右側からソードファンネルの斬撃が迫る。
それによって右足は完全にもぎ取られた。
右腕に突き刺さるファンネルを強引に引き剥がし、大剣を左に持ち直す。
そこまでして、ようやく、ようやく放たれた大剣による決死の一撃。
その一撃すら、シンラにはまるで効かない。
鍔迫り合いとは言えないお粗末な状態。それがハルマの限界だった。
「……その程度?」
「ーーっ!」
小馬鹿にした態度で言葉を発すシンラ。
だが、言い返す余裕は今のハルマにはない。
「せっかく……せっかくアカバネが命懸けで助けてくれたってのに……ダメじゃぁないか。命を粗末にしちゃあ………」
それをテメェがっーーー!!!
そう口を開こうとしたハルマであったが、次の瞬間、コックピットが揺れ、背後から爆発のような音が鳴った。
シンラのソードファンネルが、後ろからコックピット目掛け、突き刺さったのだ。
音の正体はそれに伴った爆発。
間髪入れずに、他のファンネル達も四方八方からコックピット目掛け、突撃する。
コックピットは一瞬にして鉄の棺桶となった。
「がっ………」
「残念だよ……本当に!!」
大剣を振り払い、止めとばかりに刀を突く。
「……勝ちだ。僕の。」
そう言って、シンラは旗のように刀を掲げる。
先端には、物言わぬ鉄塊と化したバルバトスの頭部。
首であった部分には、まるで滴る血液のようにオイルが湧き出て、シンラの刀を汚している。
ハルマは、バルバトスは。
敗北した。
この物語を、ハルマ達の活躍を見守ってくれた
親愛なる者達へ。
此処より先は見ずとも知れた物語。
君達は知っていたはずだ。
悪魔に全てを捧げた少年を。
君達は観たはずだ。
愛する者のため、己の生命を散らしたあの少年兵を。
赤子すら抱けず、血に塗れた鉄の中で死んでいったあの少年兵達を。
彼もまた、そうであったのだ。
悪魔に魂を売り、仲間の元へ帰れなかった。
だから……此処より先は見ずとも良い。
結果はもう、知れているのだから。
ーーーー何故?この期に及んで、まだ諦めないのか。
負けたのだ。彼は。
どうしてまだ、未練がましく此処にいる?
何故?ここにいる皆が、知っているからだ。
我々は知っている。
定められた運命に争う、自由の剣を。
我々は知っている。
哀と憎悪を払いのけ、救世主になった男を。
我々は知っている。
涙を浮かべ、嬉しそうに、笑顔で皆の待つ場所へと帰るあの少年を。
彼は、彼らは皆、誰かの為にと戦った。
間違うこともあった。
失うこともあった。
彼らはそれでも、それでもと抗った。
我々は知っている……!
彼らの物語の結末を……!
我々は知っている!!
彼らの思いを胸に抱いて、大地を踏み締め!
機動する戦士達を!!
その戦士の名はーーーー!!
「………?」
背後から近づく何かをシンラは感じ取った。
スルトではない。傷ついた彼らの機体ではこれほどの速度は出せまい。
シンラは刀を持ち直し、接近する何かを凝視した。
それは彼が予想だにしなかった、黄色い流星だった。
コンマ数秒後、流星が、シンラへと衝突。
ガキン!っと金属同士の衝突音が鳴り響く。
流石のシンラでも充分に速度のついた一撃は抑えきれず、後方へ退きながら衝撃を抑えた。
「君か……ラナ!!」
ラナが、バルバトスの残骸に気づく。
次の瞬間、エクシアが手を伸ばし、通信を開いた。
「ハルマ!!返事してよ!!」
数秒の沈黙。
「一足遅かったね!!君の王子様は……死んでしまったよ……!!」
冷笑混じりで、シンラがそう言った。
ラナは絶望するはずだ。
そう確信して。
だが。
「……そう」
エクシアは何処からともなく、白い花を取り出した。
いつもラナが。かつてはツキハが。
肌身離さず付けていた、白いカーネーションのブローチ。
SDの手のひらの中ですら、ほんのひとかけら程度の大きさに見える。小さな小さなブローチ。
「なんだ……それは……?」
機体と一体になったシンラには、その白い花がハッキリと見えていた。
それでも尚、意味が分からなかった。
「希望よ」
シンラの漏れ出た質問をラナは律儀に返した。
「は、ハハハ!!狂ったか!ラナ!!そんな小さな花で!!何ができるって言うんだ!!」
「あんたには分からない」
エクシアが、宇宙に漂うバルバトスの頭部を左手に掴んだ。
それと同時に、《ノッセタ》がエクシアの元へと到着。
積まれていた袋から、鉄屑達が姿を現す。
そして両手を、バルバトスだったものに突き出し………
「これは希望よ!この状況をひっくり返して!!アンタをギャフンと言わせるとびっきりの!!だから………!!」
エクシアの両手が光始めた。
「さっさと……目を覚まして!!」
シンラは知らなかった。
この技が、ラナの放つこの技が、ツキハの必殺技であるということに。
鉄屑達が、バルバトスに纏わりつく。
失った手足を補うように。
失った武器をその手に握らせて。
《リンカーネーション》
ツキハの想いの込められた白い花が、希望の花が起こした奇跡。
繋いだ絆を力にして、彼は蘇った。
「……ラナ?」
「なっーーー!!」
シンラは耳を疑った。その声は聞こえるはずのない声。
「よかった……無事で……」
エクシアが力を使い果たしたのか、コンマ数秒コントロールを失った。
それをしっかりと手を使って、しっかりと支えるバルバトス。
「ラナ?!」
「大丈夫……ちょっと病み上がりなだけ……」
そう言いながら、エクシアが、シンラを指差す。
「さっさと……帰りましょ」
「……あぁ」
バルバトスのツインアイに光が灯る。
「燃えろ……バルバトス……!」
バルバトスは宇宙に駆けた。一目散にシンラへと向かう。
「燃え上がれっ!!ガンダム!!」
先ほどとは違う。がむしゃらに発動したのではない必殺技。
右手に握られたケンの刀。
左手には、店長のビームザンバー。
炎を纏う二刀を携え、シンラに連撃を放つ。
「バカな!!何故生きている!!」
「俺も……さっき同じこと思ったぜ……シンラぁ!!」
シンラがないはずの口を歪ませる。
「くっ……ファンネルっ!!」
連撃を抑えながら、シンラが叫んだ。
「トランザム!!」
だが、シンラのファンネル達は悉く、ラナによって落とされてしまう。
「こっちは任せて!」
「ちぃいいい!!」
ーーバカな。ありえない。
僕はやり遂げなくてはならないんだ。
僕の愛を、母への愛を証明しなければーー!!
愛……愛?
そうか。
貴様らも愛を使って……その力を……
「ふざけるなぁ!!!」
急に増したシンラの力によってバルバトスが、後方へ吹き飛ばされる。
「ぐうっ……」
「それだけには!それだけには……!負ける訳にはいかないんだっ!!!」
シンラの右手が真っ赤に燃える。熱線が放たれる前兆。
「焼、け、死、ね!!」
「ケン!!借りるぞ!!」
ハルマも同時にコマンドを入力。
フニッシュムーブ01、パルマフィオバーナー。
バルバトスの右手から、高熱線が放たれた。
一進一退、威力は互角。
「何故だ!!そんな……そんなゴミ屑を纏った貴様に、何故、なぜ勝てないんだっ!!!」
炎同士の衝突が止んだ。
相殺されたのだ。
隙を見逃さずに。バルバトスが、シンラへと突撃する。
ブースターをこれでもかと燃焼させ、バルバトスは走った。
「マヌケがぁ!!」
シンラの刀が、バルバトスのコックピットを穿つ。
「勝った!勝ったぞ!!」
だが、シンラは気づかなかった。
刀を突き刺したにも関わらず、なんの手応えも感じないということに。
バルバトスは二刀を振り上げ……シンラの両腕を、叩っ斬った。
「ば、バカな……な、何故」
シンラはもう一度、刺さったはずの刀を一瞥する。
刺さる刀は燃えていた。消えた装甲を補うように。
「終わりだ……シンラ」
閃光走る宇宙に、静寂が訪れる。
決着は、ついた。