ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation 作:Haturu
「よしっ、と」
ラナがメッセージを送り終え、俺はシンラの拘束を完了した。拘束に使ったのはユニコーンガンダムの封印を模したテープのようなアイテム。
長らくジョークアイテムだとばかり決めつけていた物が、こんな形で役に立つとは。
シンラは拘束中全く動かず、口すら開かなかった。
HPゲージが消えないのが、奴の生存の動かぬ証拠ではあるが、それでも魂の抜けたような様子を見ると本当に死んでしまったのではないかという不安が過ぎる。
そんなことを考えていると、ピッという音と共に、ディスプレイの脇にラナの顔が映し出された。実に数週間ぶりの対面。積もる話はあるし、無事を祝いたかった。
しかし、彼女の深刻な表情がそれを許さなかった。怯えた表情のまま、恐る恐る彼女が口を開く。
「……アカバネは何処?」
喉の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚。
脳裏には数分前のシンラの言葉が貼り付いていた。
ーーー殺した。僕が。
ラナはこの作戦に誰が参加しているか知らないはずだが、こちらへ来る時に、アカバネと俺が一緒に戦っていると聞いたのだろうか。
何にせよ、誤魔化すことはできない。
正直に、彼女の質問に答える必要がある。
震える手から目を背けながら俺は言葉を選ぶ。
「アカバネは………戦いの最中に俺を庇って……撃墜された」
「そんな……」
ラナが青ざめ、口を押さえる。きっと自分のせいで犠牲が出たと自らを責めているのだろう。
違う。俺が悪いんだ。俺がちゃんとしていればアカバネはーーー。
「勝手に殺すな」
ラナの通信画面の横に、ザザッと流れる砂嵐のような新たなウィンドウ。
短いながらも聞こえたその声は、紛れもなくアカバネのものだ。
「アカバネ?!どうして!?」
砂嵐の向こうで、アカバネが答える。
「何のために私がナラティブをベースとしたと思っているんだ……」
その言葉と同時に俺の視界にチカチカと光る物体が映る。物体は徐々に大きくなり、その姿を表す。物体の正体はコアファイターだった。
「ここへ来る前に説明しただろう。緊急避難用のコアファイターがあるから、俺が撃墜されても気にするなと……」
アカバネの呆れた声。
記憶を辿れば、確かにそんなことを言っていたような気がする。
「で、でもよう……通信は繋がらないし……」
「機体の情報が変わって、通信も繋がらなくなるとも言ったはずだぞ……全く……」
アカバネはため息をついた後、誰にも聞こえないような小さな声で言う。
「まぁ……お前の反応は面白かったがな……」
「……何にせよ、無事でよかった」
ラナが被せるように言葉を発する。
一件落着、そんな雰囲気が3人の中で出来上がった。
その瞬間だった。雷鳴のような轟音と共に宇宙がひび割れたのは。
ーーー
数分前……。
一通のメッセージが、僕達の元へと届いた。
シンラ討伐の旨である。
戦闘中かつ、自身の命のすら危険な状態であったが、通信回線には音割れがするほどの安堵と感激の叫びが巻き起こる。叫びこそはしなかったが、僕もほっと胸を撫で下ろした。
真っ赤に染まるコックピット。鳴り響くアラート。緊張の糸が切れたことで僕はようやくその喧しさに気づく。コンソールには戦線離脱のコマンドが映し出されていた。
パーツを分け与えたことで、かろうじて左腕と左脚がついているだけの貧相な姿となった僕のAGE1。僕のパーツはハルマさんの役に立てただろうか。
アーティファクトもまた、シンラが敗れたことに気付いたのかメッセージが届いた少し後に動きが止まり、沈黙した。
AGE2のおかげで凄まじい数のアーティファクトの無力化が出来てはいたが、満身創痍である僕達にとって、残党の動きが止まるのはありがたい。
闘いが終わった。皆、そう思っていた。
ーーーその時だった。
静寂を壊したのは一つの機体。四肢がもがれ、宇宙に漂うだけだったその機体が、突如破損したブースターをほぼ自爆に近い形で噴かし、ある地点で爆発した。次の瞬間、爆発の衝撃で宇宙がひび割れ、あちらの世界、GBNの景色がちらりと見えた。僕達が使わなかったGBNからシンラのサーバーに入る抜け穴だ。
「なんだ?!」
これからどうしようかと考えていた思考が戦闘用に切り替わる。
爆発が起こったのは遥か遠くだ。ダメージの心配はない。次に爆発の理由を考えた。
僕の考えでは、シンラがアーティファクト達に自決の命令していた。
もしくは敗北を知り、逃走しようとしたアーティファクトの不運な事故ーーと言う二つの仮説を建てる。
だが、後者の仮説はすぐに否定された。漂っていたアーティファクト達が一斉に動き始めたのだ。彼らもまた、ひび割れへ向かい、自らの機体を爆発させる。その中にはダメージの少ない機体もあった。
彼らの文字通りの自己犠牲により、ひび割れは大きな穴となり、向こう側がはっきりと見えるようになった。
それは僕達が侵入してきた穴よりも何倍にも大きくなっている。
「な、なんで……」
僕達は誰一人、犠牲者を出さないことを目標とし、それを実効していた。その努力を一瞬で終わらせる意味不明な自殺。
生命の灯火が爆発の光に変わる。
絨毯爆撃じみた破壊音が僕の耳を貫く。
その二つが、僕達の視界と聴覚を遮っていた。
……背後の巨大なコロニーが、移動を開始したことに気づかないほどに。
「た、大変だ!」
動くコロニーが視界に入ったその瞬間、通信画面が開く。今なお、動くコロニーの中にいるコウさんからだ。
「コウさん?!早く脱出を……!」
「俺のことは後でいい!このコロニーを今すぐ壊せ!」
ーー尚更、危ないじゃないか!
心の中で僕はそう叫んだ。
コウさんはまだコロニーの中にいる。そんな状況でウィルスに満ちたコロニーを破壊してしまったらコウさんは……
視界の先で、コロニーの最先端が巨大なGBNへの穴に差し掛かった。コロニーは進行を止めることなく、このサーバーからあちらの世界へと移動する。
そこまできて僕は無意識に、何故コウさんがこんなにも焦っているのか予想を立てた。
いや……でも、そんなまさか……
「シンラめ……やりやがった!!」
荒ぶるコウ。しかしながら、僕もまた同じ気持ちだった。
「こ、コウさん!このコロニーの行き先は!」
人呼吸置いた後、コウさんが叫んだ。
「このコロニーの行き先は……GBNメインサーバー、メインロビーッ!!ウィルスまみれのこのコロニーが、そんな人の多い場所に落ちたら……!!」
最悪の予想は見事に的中していた。ウィルスを使いながらのコロニー落とし。
そんなことをしたら、コロニーは何もかもが破壊し尽くすだろう。爆風にウィルスを乗せ、ダイバー達に現実とほぼ同じの痛覚を与えた状態で……!
もしそれが果たされてしまったらGBNで、この世界で未曾有の大虐殺が起こってしまう……!!何とかして止めなければ……!!
ーーー
コロニー進行開始から5分後。
メインロビー衝突まで……残り25分。
「ラナ!!アカバネ!!シンラを連れて逃げろ!俺は今すぐコロニーへ攻撃する!」
そう言い残し、ハルマは侵入してきたコロニーへ向け機体を走らせた。
運良くコロニーはハルマ達のすぐ近くに出現したものの、進行速度があまりに早く、サーバー間の移動を完了し既に全体像が顕になっている。
ハルマを見送ったアカバネとラナ。事の重大さを理解しているはずの二人であったが、各々の反応は真逆。
冷静なアカバネに対してラナは焦りが顔に出ている。
「よし。行くぞラナ。」
「まっ、待ってよ!」
ラナの言葉に疑問符を浮かべるアカバネ。早くしろといった風に次の言葉を急かす。
その態度が癪に触ったのか、ラナは不安を隠すように怒鳴ってしまった。
「アンタ状況わかってんの?!何でそんなに冷静なのよ!」
「そうか、教えてなかったな。」
アカバネがコンソールを開き、とあるメッセージをコピー&ペースト。ラナ宛のメッセージとして再送信した。
「メッセージ……?」
ラナがメッセージを開く。堅苦しい文章でありながら、末尾には「検討を祈る」と言う一言。
何が言いたいんだとラナが言おうとしたその瞬間、そのメッセージの送り主の名前に焦点が合う。
「……ロンメル?!」
アカバネが頷き、説明を始めた。
ーーーー
ケンの提出した資料には第七機甲師団への要求が二つ書かれていた。
一つ。噂を流すこと。
その内容はダイバーへの直接攻撃時に致命的なバグが発生するというものだ。
それは最悪の事態、つまり、シンラがウィルスを流しても犠牲が増えないようにするため。
もう一つは……作戦の成否に関わらず、GBN全体が危機的状況に陥った場合。
ーーその脅威の排除に協力すること。
「協力って……それは……」
不意に、宇宙に浮かぶ星達が輝いた。
ーーーいや、星ではない。
「……多いな、意外と」
輝く星の正体。
それは軍勢と呼ぶには心許ない、千にも及ばぬダイバー達。
だがしかし……確かにこの世界を愛し、そこに生きる者達。
ーーーその戦闘は公式に記録されていないにも関わらず、後の世で都市伝説として盛んに議論されている。言わば、知られざる幻の戦い。
『第四次有志連合戦』の開戦である。
……とは言ったものの。
ロンメル大佐の的確な指示に加え、鍛え上げられた第七機甲師団のメンバー達による迅速な行動によって、見る見るうちにコロニーは形を崩していった。
俺たちが手伝ったのはコウの脱出くらいだ。
コロニーが崩壊する頃には、俺たちは救出班とも合流し、全員の無事を確認することができた。
実際のところ、『第四次有志連合戦』は尾ヒレが
付きに付きまくった結果、拡大解釈されただけのコロニー解体作業であったとされる。
コロニーの完全破壊から数十分後、運営チームによる調査が開始。
運営にしては迅速な行動だと思ったが、後から聞いた話によれば、運営に近しく、それでいて話の分かる人物にだけロンメル大佐が話を通していたらしい。
「"運営"には黙っていたさ。"運営"にはね」と、大佐。
全く、食えない人だ。それでも俺たちの我儘を最大限考慮しながら、行動してくれたことには変わりない。仲間の誰一人、大佐を咎める人はいなかった。
ウィルスの完全除去、ラナのログアウト。
そしてシンラ含む生存していたアーティファクト達の拘束が完了し、MA事件から始まった一連の大騒動は静かに幕を閉じた。
そして数週間後……ウミモト模型には珍しく休業の二文字が書かれた張り紙が店の前に出せれていた。
にもかかわらず、店内は明かりが付いており、耳を傾ければ、物音が聞こえてくる。
「「「「ラナの帰還を祝って!カンパーイ!!」」」」
行われていたのは小さなパーティ。宣言どおり、ラナの帰還を祝うものである。乾杯の音頭を取った店長が真昼間にも関わらず、酒をグビグビと飲み干す。店を閉めて飲みたいだけなんじゃないか、あの人。
「アカバネさんもくればよかったのになぁ……」
オレンジジュースを手に、ケンイチが残念そうに言った。今回の作戦に参加した6人。その中でアカバネだけ都合がつかず、不参加になってしまった。元より、関係者とは言い難い彼が気を遣ってくれたのではないか……と、俺は勝手に思っているが、真実はわからない。
そんなことを考えながら、ケンイチに空返事をし、目の前に出されたよりどりみどりのご馳走に手を伸ばす。
……と言っても近場のスーパーで買い漁った惣菜ばっかりだが、長らく根気詰めだった俺達にとって食事の是非よりも、誰かと一緒に飯を食べられるという一点だけで幸せな気持ちになれる。
「……楽しんでる?」
「あ、あぁ」
主役であるラナがコウに話しかけた。椅子に座るコウと、机に立つラナ。二人が見つめ合う形になる。
コウは少し顔を逸らした後、何かを決心し、深呼吸をした。
「色々……すまなかった……本当に……」
椅子に座りながら、コウが頭を下げる。
「何が?」
「な、何がって……」
「私、別に貴方に何かされたわけじゃないもの」
「し、しかし……」
「そう……じゃあアレを見なさい」
急な命令形に驚くコウ。言われた通りに目線を動かす。
「やらうよ〜GPでぃ〜い」
「飲酒運転だぞ、マサ」
そこには酔っ払いの店長がおぼつかない手足でドアにもたれかかっていた。バックヤードにあるGPDの機械へと足を運ぼうとしているのだろうが、上手くドアが開けられず、テルミに介抱されている。
「……??」
「ほら、あっちも」
ラナが何が言いたいかわからない。それでもコウは言われた通りに瞳を動かす。
「ゴホッ!ゴホッ……」
「がっつき過ぎですよ……ハルマさん……」
惣菜を口に放り込むハルマ。あまりにも詰め込み過ぎた為に、えずいててしまっている。
それを見かねたケンイチは水を差し出してハルマの背を摩る。
「……???」
貴方は何が言いたいんだ。困惑しながらラナの方へぐるりと顔を向ける。
ラナはハルマ達を見ながら肩をすくめ、笑いながら言った。
「人はね、失敗するの。みんな何かが欠けてるから」
「……だから、許すのか?」
「違うわ……埋めるのよ」
「埋める……?」
「欠けた何かを、誰かに埋めてもらうのよ。そうすれば、間違いを繰り返さずに済む。……貴方はもう埋まっているでしょう。」
「…………そうだといいな」
人は何かが欠けている。
何もかもが欠けている少女はそう言った。
故郷も、記憶も、親も、何もかも。
それでも少女は笑う。欠けた心に、めいいっぱいの想いを詰めて。
ガンダムビルドダイバーズ
LINK carnation
完
同時刻。GBN内、ELバースセンター。
特別監禁室。シンラの拘束の為に新設されたされた巨大な檻。
その中心で黒い悪魔は鎖に巻かれ、縛られている。
そんな彼の前に男が一人。男は部下を一人連れ、会話をログに取るように言い、シンラに話しかける。
以下、会話ログ
こんにちは、カツラギさん。あの番組以来ですね。アーティファクト達の調子はどうですか?
……?何の話ですか?
GBNを破壊する?僕が?
していませんよ。そんな"命令"。アーティファクト達に。
コロニーを動かしただろうって?
だから、"していません"って。僕は負けることなんて考えていませんでしたから。
とぼけるなって……そう言われても、分からないものは分からないですよ。
"スルト"は何処だ?
あぁ、捕まってないんですね。
確かに、それは命令しましたよ。
えぇ、逃げろ、とだけ。
彼には研究したデータを全て託しましたから。
完……?
作者のハツルです。まずは第一話から、今の今まで見てくれた皆様方に感謝を。
これにて一旦の完結となります。
約半年間の投稿に加え、ガンプラ制作の同時進行は応えるものがありましたが、こうして終わってみると、達成感に溢れ、頑張ってきてよかったと心の底から思えました。
ハーメルンでは、pixivやガンスタと違い、読者様との交流はありませんでしたが、数字やお気に入り登録されたとの通知が来るたび、飛び跳ねるほど嬉しかった記憶があります。
同時に連載中、ハーメルン特有のシステムである評価が全く動かなかず、最終的に評価ゼロのまま完結となってしまったことがとても悔しく思います。
自作はもっともっともっと多くの方に楽しんでもらえるよう精進したいと思います。
最後に改めて、感謝の言葉を。
閲覧ありがとうございました。