ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation   作:Haturu

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第8話 決着

missionclear!!

clearTime 8:21

 

「……やったぁ!!」

 

シビリアンアストレイを格納し、タイムと報酬を確認しながら、思わずガッツポーズをとってしまう。

ミッション名、アコード•ランブル。

SEEDfreedom終盤で繰り広げられたブラックナイツとの激闘を再現した連戦ミッションだ。

まず初めにルドラ×4、一度インターバルを挟んでから、シヴァ、カルラと続く。

もちろんゲームとして成立する程度には調整されてはいるが、それでもアコード特有の心の中を覗く先読み能力は、優れたAIを使って惜しみなく再現されており、誰もが認めるほどの超高難度ミッションだ。

 

そんな高難度ミッションをベストレコードとはならずとも、8:21というこのタイムは最速タイムトップ5に名を連ねるほどの好成績だ。

 

「さてと……うん、決勝戦前のウォーミングアップ、終わり!!」

 

カルラとの激闘で大破した愛機を眺めながら、次のミッションを一覧から探す。

 

「そういえば……彼らと会った時も、こんな感じだったね、アストレイ」

 

愛機のバイザーに隠れたツインアイが鈍く発光する。数ヶ月前の大切な思い出が、不意に頭をよぎった。

 

 

 

数ヶ月前……初心者で右も左もわからなかったあの頃、突然空から現れたムラサメから私を助けてくれたあの2人。

 

その中の1人であるケン君からフレンド申請が届いてた。助けてくれた上にフレンドにもなってくれるなんて。

 

製作中のガンプラだとか、ミッションの裏技だとか……思っていたよりも相性がいいみたいで、時間も忘れてメッセージのやり取りをした。ネットで出会った人間とこれほど仲良くなれるとは、ソロプレイをしていた時は夢にも思わなかった。

 

でも少しだけ……嫌なこともあった。

 

メッセージを送り合いすぎて履歴を遡るのが面倒になった頃、ケン君から対艦戦イベントの話を聞いた。

丁度その時期、私は宇宙でのミッションに大苦戦し、GBNのプレイの頻度が減っていたから、宇宙の大規模イベントに参加し、活躍したケン君の話は私にとって心地のいいものじゃなかった。

 

と言っても、彼のことが嫌いになったわけじゃない。どちらかといえば、そんなつまらない嫉妬をしたことに自己嫌悪した。

 

それが、私が経験した嫌なこと。

 

漠然と、そんな自分を変えなければならないことに気づいてはいたけれど、中々、一歩が踏み出せなかった。

その悩みを晴らしてくれたのは、私が嫉妬した彼だった。

 

GBNのことについて色々悩みながらも、手癖で作っちゃったある改造ガンプラ。思ったよりも綺麗に仕上がったので誰かに見せたかったけれど、そんな人間はリアルにいなかったので……ケン君に写真を送った。

 

……あろうことか、完成した月曜日の深夜に。

 

なんて自分勝手なのだろう。

ただでさえ、自分の汚い面を直視するのが嫌で、ケン君とのメッセージのやりとりは前よりも減っていたのだ。彼がその事情を知らないとはいえ、あまりにも酷すぎる。

 

でも、写真を送った数分後には、しっかりとメッセージが帰ってきた。

ここのパーツの使い方が凄いとか、その発想はなかった、流石です!だとか。

 

褒めちぎるというのは、ああいうことなんだろう。

とにかく、私の作ったガンプラを彼は沢山褒めてくれた。日付が変わっても。

 

流石に申し訳なかったので、次の日の登校前に、謝罪となぜそんなに褒めてくれたのか、とメッセージを送った。下校した後、ダイバーギアを見ると返信がきていた。

 

全然!!気にしないで下さい!!寧ろメッセージ送りすぎて寝づらかったですよね、すいません……

 

何故か……と言われても何でですかね……?思ったことを言っただけですし……強いていうなら、頑張りが伝わるくらいハジメさんが頑張ったから!!……ですかね笑

 

「……!」

 

手癖で作ったとはいえ、確かにこのガンプラには自分のできることを全てつぎ込んだ。工作技術も、写真の撮り方も決してプロのようにはできないけれど、それでもやれることは全部やった。

それが伝わってくれたのだ。本当に、本当に嬉しかった。

 

私は嫉妬した。自分にできないことをできる人に。

彼は称賛した。自分にできないことをできる人に。

 

どちらがいいかなんて、明白だ。

ああなりたいと強く望んだ。人を守ったり……褒めたり……誰かの助けになりたい。

 

なりたい自分に向かって全力で頑張ろうと思った。愛機のアストレイも強く、かっこよく、一緒にできることを増やしていった。

 

宇宙にも慣れた。バトルも勝てるようになった。気がついたら一日中GBNにログインしっぱなしの日もあった。文字通り寝食を忘れるほどに。

 

それほどGBNに長くログインすれば、当然、皆の話題や流行がわかるようになってくる。特に最近の話題はMAの流行について。

 

それがポジティブな話題なら大して気にも止めなかっただろう。しかし、その話題の根本にあるのは不満だった。

 

もう一つの話題として初心者限定の大会が開かれるというものもあったが、その話題ですら、話の最後にはMAへの不満、結果は見えている、運営は何を考えているんだ、そんなのばっかりだ。

そんないやーな空気をなくすために、何をすればいいか…………

 

 

そうだ。私が優勝すればいいんだ。

 

 

勝ち続ければ、予想出来ないような試合をできれば、色んな人をワクワクさせられるかもしれない。

 

こんな考えになるのは生まれて初めてだ。少しは成長できたかなと思いながらも、やっぱり無理なんじゃないかなとも思って……結局は締め切り寸前まで悩んだ末に、ここで変わるんだと、一歩を踏み出したら……

なんとびっくり、そこにはケン君もいて彼もまた、大会に出場するというのだ。

 

意外な強敵の出現。これは運命なのか?

とりあえず、宣戦布告と決勝で会う約束をして、その日は別れた。

そしてついに大会当日。私も彼も順調に勝ち進み、MA無双の下馬票を2人で覆した。

 

……まぁ試合の内容に関しては、彼の方が圧倒的に盛り上がっていたけれど。

 

何故なら彼が必殺技など、派手で魅力的な試合をするのに対し、私はスモークを多用した、観戦者に優しくない戦いをしていたから。

 

その分、周りはミステリアスな強者として囃し立ててくれたけど……当初の人を楽しませる目的はまだ果たせていない。

 

だから、決勝戦でその目的を果たす。

 

深呼吸をして、頭の中を整理する。ミッションで大破したアストレイは既に修復完了していた。

 

「ハジメ!!シビリアンアストレイ 出撃します!!」

 

 

 

 

『レディースアーンドジェントルメン!!お待たせしました!!GMトレーナーズカップ決勝!!いよいよ!!いよいよ!始まろうとしています!!』

 

司会者がいつも以上に声を張り上げ、会場を盛り上がる。会場のボルテージは既に最高潮。今にも爆発しそうなほどの熱狂だ。

 

「き、緊張してきた……」

 

出撃の準備を終え、試合開始を待つ。

決勝戦の舞台は宇宙。デブリや資源衛星の浮かぶ標準的なステージだ。だが、決勝特別ルールで試合開始から10分ごとにステージが変更されるらしい。

宇宙から地上など、強制転移などは仕様的にないだろうが、一応重力下での戦闘も視野に入れた調整をしてきている。

 

 

 

格納庫にスクランブルが鳴る。出撃の合図だ。

 

「ハジメ!ガンダムAGE1ヒバナ改、行きます!」

 

ーーーー

 

「よし、ハジメはどこに……!!」

 

機体をなるべくデブリで隠しながら索敵を開始。例え不意打ちを仕掛けられてもすぐに対応するためだ。

だが、索敵をする必要は一瞬でなくなった。

 

「やぁ、待っていたよケン」

 

舞うデブリの中心で、シビリアンアストレイが待ち構えていた。その佇まいは自信に満ち溢れている。

不意打ちなどに頼らなくても勝てるという確信があるのだろう。

 

「さぁ、やろうか……!!」

 

(……来る!)

 

シビリアンアストレイがシールド裏からライフルを取り出し、AGE1に向かって一斉発射。無数の弾丸が襲いかかる。今大会でよく見られたハジメの必勝パターンだ。

 

「なんて数!!一体どんな改造を……!!」

 

無重力空間をいかして上下左右に機体をを揺らし、弾幕から逃れる。見た目よりかはダメージが少なく済んでいる。上手く躱わせているのか……?

 

「ケン、防戦一方だな……」

 

観戦していたハルマが苦虫を噛み潰したような顔で呟くのを見て、ラナが口を開く。

 

「しょうがないでしょ、ハジメの戦い方は全く対策できなかったんだから」

 

ラナの言う通り、ハジメの戦い方はわからないことだらけだ。分析できたのは、試合開始時にライフル弾をばら撒くことと、隙を見てスモークを使用することだけ。MAを一瞬で大破させる方法は解析できなかったし、ライフルがなぜあんなに弾幕を張れるのかも分かっていない。それを踏まえてケンが出した作戦は……

 

 

「戦いの中で打開策を見つける……!!」

 

 

弾幕の隙を伺ってAGE1が腰からグレネードが放つ。狙いはシビリアンアストレイの肩部のスモークグレネードだ。

 

(どの試合でもハジメはスモークを使っていた……!!あのスモークに何か、からくりがあるはず……!!!)

 

グレネードの発射からワンテンポ遅らせてからのビームライフルの発射。少しでも命中率を挙げようと図る。

 

(スモークの弾数は四発。一発でも減らせたらかなり有利になるはず……!!)

 

「……甘いよ」

 

ハジメが操縦桿を操作し、武器を選択。表示された武装は smokegrenade。

 

「なに!?」

 

突如として放たれた四発のスモークに動揺してしまうケン。それもそのはず、形勢逆転の足がかりであったスモークの排除をハジメ自ら実行してしまったのだ。

煙に包まれたシビリアンアストレイを見ながら呆然とする。

 

「ど、どちらにせよスモークは切らせたんだ……あとはどうにかしてーーー」

 

近づくだけ、そう口に出そうとしたその瞬間、その考えが大きな過ちだったと気づく。コックピットにはcautionとアラートが響いていた。

 

ドシュ

 

鈍い金属音。恐ろしく、奇妙な音がケンの耳に入る。音の方向に身を向けるとそこには……あるはずの左半身がひどく歪み、左肩から下は完全に消滅していた。

 

「なっ……ぁああ!」

 

「こんな時のために……練習してたんだよね……ダインスレイヴの当て方」

 

ケンは動揺によって乱れた呼吸を整えながら、状況を整理し始める。

 

(MAを一瞬で破壊したのは……あのシールド裏のユニットから放たれるダインスレイヴ…!!スモークを使っていたのはそれを確実に当てるため……)

 

運良くAGE1とシビリアンアストレイの前に巨大なデブリが横切った。

 

「しめた……体勢を立て直す……!!」

 

 

スモークを多用していた謎は解けた……いや、だが、あのライフルの仕組みがまだ分かっていない。

 

「逃がさないよ!!」

 

すぐさまハジメが追走を始める。が、またもあの弾幕が形成される。

 

「おかしい、装弾数が多すぎる……!」

 

ボロボロの機体に鞭を打ち、回避に専念するAGE1。万全の状態ならまだしも、今の状況なら一発一発が命取りになる。

 

だが、先ほどのダメージが祟り、機体のバランスが崩れてしまう。

 

 

「やばっ……!」

 

AMBACですぐさまリカバリーするものの視線がシビリアンアストレイの銃口と重なる。銃口から吹き出した炎のエフェクトが弾丸となってAGE1に直撃ーー

 

「…しない?!どういうことだ……?」

 

ケンが改めてシビリアンアストレイを凝視する。間違いなく、ライフルの銃口は火を吐き、心地良くも恐ろしい銃声が……

いや、違う。五発に一発のペースでほんのわずかに音が重く聞こえる。放たれた銃弾は間違いなく、漂うデブリを貫き、破砕する。なんて威力だ。今AGE1の握っているビームライフルでさえ、あれほど綺麗にデブリを破壊することはできないだろう。

 

五発に一発、強力な弾を放っているのか……?

だが、それではこの弾幕の量は説明できない。

 

(おかしい……何か致命的な勘違いをしている気がする……!!)

 

着弾したはずなのにダメージのない弾。

かと思えばデブリを粉砕する威力をもった弾。

五発に一発変わる銃声。

そこからケンが導き出した解答は……

 

「まさか……そんな……簡単なことだったのか……!!」

 

 

マガーク効果

 

本来は視覚が聴覚に与える影響のことであり、簡単に説明するならば目で聞く音といえばわかりやすいだろうか。

聴覚だけでなく、視覚を使うことで人間の音声識別能力は上がると言われている。

我々の五感は互いに影響を与えている……と、されている中で最もわかりやすい例といえよう。

 

そして五感はGBNで擬似的に再現されている。

だが、それはあくまで擬似であって完全なものではない。ダイバーの視覚は公平なプレイの観点から一定であるが、聴覚のなどに影響を与える音量は自由に設定が可能だ。

そこには現実にはない微細な差が生まれる。

その微細な差は脳を誤認させ、現実では正確に見分けられるものが見分けられなくなることがある。

 

そこに目をつけたハジメはライフルに発火と銃声を鳴らす機能を追加した。

 

それを本物の射撃と混ぜることによって、

あたかも無数の弾丸を放っているかのように認識させる技、幻影弾を編み出したのだ。

 

AGE1が大きな回避運動を止め、最小限の動きにはなり始めた。前方に資源衛星が現れたので、その岩肌にに沿いながら、上昇する。

 

「本物の銃声と嘘の銃声は、注意して聞けば見分けられる……!!」

 

五発に一発、本物の弾丸が放たれるとするならばその一発のみを躱せばいい。単純計算で弾幕の量は五分の1。その分、エネルギーも節約できる。

 

 

「どうやら気づかれたようだね……だが!!」

 

 

アストレイがライフルを投げ捨て、シールド裏にあるビームトーチを引っ張り出しながらフルスロットルで加速。

半壊したAGE1と比べスモークグレネードを失っただけのアストレイは全力のマニューバですぐさまAGE1に追いつく。

 

「逃げてるだけじゃあ!!」

 

目にも止まらぬ連撃がAGE1を襲う。ビームトーチの威力は微暇たるものだが、確実に急所を狙う斬撃はケンを苦しめ、負けじとケンもパルマフィオキーナや反撃するも、上手く躱され、ハジメ優勢の攻防が続く。

 

資源衛星の上をさらに上昇すると突如ブザーが鳴った。試合開始から10分がたった合図だ。つい先程までそこにあった資源衛星が光の粒子に包まれる。

気がつくとステージは月面に移行していた。

 

(まずい……遮蔽もなくなった上に、重力も……!!)

 

「あらら……運がなかったね……ケン!!」

 

地に足をつけ、攻撃を再開するアストレイ。無重力でなくなった分、回避するのは難しい。

 

(やばい……どうする……!!)

 

試合開始前、戦法が予想できなかったハジメ。蓋を開けてみれば、純粋な努力と創意工夫の塊のような戦い方だ。

けれど、それは僕だって同じだ。

 

(考えろ……!!何かないのか……!!)

 

追い詰められながら必死に脳を動かす。ハジメは五感を利用していた……僕にも何かできることがあるはずだ。

 

(もっと必死に……!!脳を動かせ……!!)

 

脳……脳……?五感…?そうだ!

 

このアイデアならもしかしたら……逆転できるかもしれない。いや、机上の空論にも近い。出来るか……?

 

「いや、やるんだ!」

 

「威勢がいいのはいいけれど、それだけじゃぁ!!!」

 

連撃によってよろめいたAGE1の隙を見逃さず、アストレイがビームトーチを腹部に向かって斬りつける。

 

勝敗は決した。誰もがそう思った。

 

ただ1人、ケンを除いて。

 

ビームトーチが接触するその瞬間、AGE1が消える。

 

「何?!」

 

視界からもレーダーからも、文字通りの消失をしたAGE1、勝ちを確信していたが故に、この試合で初めての動揺を見せるハジメ。

 

何かが背面のブースターに接触する。視線を向けると、そこにはAGE1がいた。

 

「ぐっ……!!」

 

瞬時にブースターの接続を解除し、前方へ飛びのくシビリアンアストレイ。次の瞬間、切り離したブースターはAGE1によって分解され、大爆発が起こる。

 

「何が起こった……?」

 

爆発の煙の中から、AGE1が姿を表す。

左半身が全損しているのにも関わらず、そのプレッシャーは並の物ではなかった。

 

「強化形態……?そんな隠し玉を持っていたなんて……流石だね」

 

体勢を立て直しつつ、AGE1から距離を取るアストレイ。近接格闘ならあちらの方が上手だ。

 

「キョウカケイタイ……かな?ごめんね」

 

()()()()()()()

 

一瞬で距離を詰めたAGE1が近接格闘を仕掛ける。

 

 

「は、速い……!」

 

その驚嘆すら、ケンの耳には届いていなかった。

 

目の見えない人間は耳がよくなり、目隠しをしていると耳からの情報が増え、感覚が鋭くなるという……

人間の五感というものはとても複雑なバランスで成り立っているのだ。

そして、脳内に偽りの情報を流すことで、GBNでは五感が擬似的に再現されている。

ならばその偽りの感覚から必要な情報だけを取捨選択することができれば……

 

通常よりも鋭い、優れた感覚を手に入れられるのでは?

 

数年前、元GBN開発チームの1人が生み出した

『サイコミュMOD』

これは痛覚を含めた人間の感覚を増幅させることで、"本物のニュータイプ"を作り出そうとするツールだった。

 

感覚を制限することで一つの感覚だけを強化するというケンの発想は、真逆の性質を持ってはいるものの、人間の持ち得る感覚を利用するという根本はサイコミュMODと同じだ。

 

もちろん、誰しもができるものではない。自身の脳を意図的に制限することなど。

 

元々、"観る事"において、ケンは優秀だ。対艦戦イベントやGPDの時から、その傾向はあった。

日常生活ならば絶対に開花するはずのない才能。

その才能が、ガンプラバトルを通して、今、開花した。

 

脳を使う発想に至ってからコンマ数秒後、聴覚と触覚の制限に成功。

それによって得られた優れた視力で通常以上の情報を瞬時に処理。アストレイの攻撃を見切り、背後に回った。

 

(まずい……捕えきれない……!!)

 

AGE1の猛攻になす術のないアストレイ。大差のあったHPのアドバンテージが覆され、コックピットが赤に染まる。

 

『一覚集中』

 

ケンの編み出したこの技には弱点が二つある。

一つは、複雑な操作ができないこと。

具体的には操縦桿を動かすことで精一杯だ。触覚が亡くなっている今、ケンは自身が操縦桿を握っている感覚すらない。そんな中で武器スロットの選択、トリガーを引くことなどはできるはずもない。

ケンが必殺技を使わないのもこれが理由だ。

 

バックパックを失い、バイザーも割れ、肩関節の外れたアストレイにトドメの一撃を放つAGE1。

 

(……やられる!!)

 

二つ目の弱点は……システムの想定していない裏技だということ。

ありえない速度で動かされるAGE1をシステムは異常事態と判断。機体の強制停止を実行した。

 

「なっ、あれ?動かなーーー」

 

停止した時間は数秒にも満たなかったが、戦闘中の隙としては十分だった。アストレイが唯一、ダメージの少ない右足でAGE1を蹴り飛ばす。

 

「うわあぁぁ!」

 

重力の小さい影響で、予想以上に吹き飛ばされ、背中が月面につく。起きあがろうと必死に操縦桿を動かすが……

 

(なんで止まったかは分からないけど、これはチャンスだ……ダインスレイヴはあと一発。近づいて確実に決める……!!)

 

一歩、また一歩と近づいてくるアストレイを前に、祈るようにコンソールにもたれかかるケン。

 

「頼む!!動いてくれ!!AGE1!!」

 

AGE1のツインアイが鈍く光る。

コイツはまだ戦える……!!だが、この損壊率では下手に動くだけでもバトルアウトになってしまう。

最小限の動きであのダインスレイヴを凌がなくては……!!

 

「楽しかったよ、ケン……でも、これで、僕のーーー」

 

ゆっくりとアストレイが左腕を掲げ、AGE1に向けようと動かす。ダインスレイヴ発射用ユニットの銃口がAGE1に迫る。

 

「その先の言葉は言わせない……!!勝つのは、僕だぁぁ!!」

 

背部のブースターを、フルスロットルで噴かす。

起き上がりと合わせたことで勢いをました右の拳を、シビリアンアストレイの左肩目掛けて、下から上にアッパーを放った。

 

「何……?!」

 

AGE1のアッパーは威力を底上げしたとはいえ、大した威力ではなかった。しかし、ケンが重視したのは威力ではなく、正確さ。

実はシビリアンアストレイの肩関節は独特の形状をしており、ボールジョイントのような形になっている。

そのボールジョイント目掛け放たれたアッパーは、シビリアンアストレイの腕の接続を外した。

落下したダインスレイヴ発射ユニットが月面に突き刺さる。

 

「まだ……届かないか……」

 

ハジメが唇を噛み締める。勝敗は、決した。

 

 

「いやぁー素晴らしいねぇ!彼の周りからは目が離せないよ!!」

 

「言ってる場合ですか……ボス……これから下手にMAは使えませんよ」

 

「大丈夫、もうデータはいらない……例のウイルスの試作はもう完成したからね」

 

「……本当ですか」

 

「あぁ、あとは誰に使うか……」

 

ボスと呼ばれた男が悪戯な笑みを浮かべる

 

「そうだ、楽しませてくれた礼だ……!彼らの中から1人、犠牲になってもらおう……!!」

 

「ボス……それは……!!」

 

「心配することはない……彼なら……ハルマなら、君のお姉さんを必ず守る。こちらとしてもあの子に万が一があっては困るからね……対象は彼女以外の誰かだ、君が恐れていることは絶対に起きないよ……」

 

 

「お疲れ様ー!!ホラホラ、笑って笑って!!ハイチーズ!!」

 

「……なんで写真?」

 

「活動記録よ、あと宣伝用」

 

大会を終え、激闘を制したケンを迎えたハルマとラナ。

 

(……本当に僕が優勝したんだなぁ……あまり実感がないけれど……)

 

「あぁそうだ、ケン、大佐からメールを預かってんだ」

 

ケン君へ

先ずは優勝おめでとう。

本来なら、直接礼を言うのが筋だろうが、色々、立て込んでいてね……

こう言った形になってしまうことを許して欲しい。

そして私からの無理なお願いを聞いてくれたことに感謝を。お陰で、GBNにログインしているガンプラのバランスは以前よりも改善された。

 

「おー見事目標達成ね」

 

身を乗り出し、ハルマの持つメールを覗くラナ。気にせず、ハルマは構わず、手紙を読み上げ続ける。

 

 

そしてここからは情報の共有なのだが……調査の結果、流通していたMAの全てに、ある特徴的なデカールが貼られていることが分かった。

 

ここまで読んだハルマの顔が硬直する。少しだけ、青ざめたようにも見えたが、気のせいかもしれない。すぐにまたロンメルからのメールを読み直し始める。

 

勿論、ブレイクデカールのような改造ツールではなく、ただの自作デカールということらしいが……その割には装甲の裏に隠してあったり、妙に凝ったアルファベットのAのデザインなど……不可解な点も残っている。

何かと芸術家気質のある製作者のようだ。

もしかしたら、今回の大会の結果を見て、何らかの接触があるかもしれない。頭の片隅にでも入れておいてくれないか。

 

「芸術家気質ねぇ……意外とガンプラ思いの犯人なのかも……?」

 

「どうだかなぁ……作ってるやつと捌いているやつは別人かもしれないし……」

 

「どちらにせよ、今回の目的は果たせましたし……とりあえずよろんこんでいいんですかね……」

 

「そうだな!!大佐は接触に気をつけてって言ってたけどまさかそんなすぐに関わってくるとは思えないし!!とりあえずケンの優勝パーティの準備をーーー」

 

ピロン

メールの受信音が3人の耳に入る。音の方向にいるのはケン。ハルマとラナがケンを見つめる。

 

「………」

 

「………」

 

「ど、どうしたんですか、2人して見つめて……」

 

「ケン………そのメール、まさか……噂の製作者さんからじゃ……」

 

「そ、そんなわけないでしょう!!まさか、そんな、こんなタイミングよく……」

 

ケンがやれやれと言ったふうに首を振りながらメールボックスを開き、届いたメールを確認する。

 

件名 果たし状

差し出し人 A

来週の土曜日の18時。貴様に決闘を申し込む。

我が愛しい子の無念を晴らさせてもらおう。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「「「絶対コイツだぁぁぁ!!!!」」」

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