ガンダムビルドダイバーズ LINK carnation 作:Haturu
「さぁーて……どうすっかな……」
ハルマ、ラナ、ケンの3人がいつもの工作室で項垂れながら届いたメールと睨めっこし、3人同時にため息を吐く。
「どうしたの?せっかくケン君が優勝したってのにみんな揃って浮かない顔して……」
あまりにも大きいため息だったので、仕事中の店長が工作室を覗きにきた。
「それが〜かくかくしかじかでぇ〜」
ハルマが間延びした声と一緒に店長に向け二つのメールを見せる。一つはロンメルから送られてきたメール、もう一つはAと名乗る者からのメールだ。
「なるほど………ん?ちょっと待ってね……」
メールを半分ほど読んだ辺りで店長が急に立ち上がった。そのままの足で店の前出入り口横のショーケースに向かい、飾られていたあるガンプラを取り出し、そのままバックヤードへと向かった。
「「「………?」」」
三者一様に?を浮かべていると、すぐに店長が戻ってくる。右手にはさっき取り出したガンプラ、左手には薄汚れた雑誌が握られていた。
「ロンメルさんが言ってるAのデカールってさ、これのことじゃない?」
店長がひび割れたノイエジールを机の上に置く。実はあの失礼な男が置いていったノイエジールを店長はちまちま直していたのだ。
店長がノイエジールの装甲を一つ外し、裏返す。
そこにはロンメルから送られた写真と酷似している、あのAの自作デカールが貼り付けられていた。
「おぉ……何でこんなものがうちの店に……」
「あんたがいない時に色々あったのよ……で、店長。その左手に持っている本は何?」
「そうそう、このノイエジール、とっても作り込まれててさ……あの男の人はもう来ないだろうから、せめて製作者を探そうと思っていたんだ。で、その最中にたまたまこの本を本棚から掘り出したんだ」
店長が脇に抱えていた雑誌を広げ、3人に見せる。
「……って、これ!!GPD時代のHobby Hobbyじゃん!!うわっ懐かしー!!」
本が広げられた途端、ハルマが雑誌に飛びついた。確かに、古ぼけた本の表紙には『今更聞けない!!GPD必須スキル、ビームコーティングのやり方!!』などなど、見慣れない単語で埋め尽くされている。
「年代的に……GBNのベータテストが始まる時ぐらいか……?うおっ、K1じゃん!!なっつ!!若っ!!」
「そうそう!!当時高校生ぐらいなのにすんごい完成度のガルバルディをさぁ!!」
「……ノスタルジーに浸るのはいいけれど……話が進んでないわよ」
年甲斐もなくはしゃぐ2人をラナが宥める。
普段は逆の立場の3人だが、ガンプラのことになるとハルマと店長は歯止めが効かなくなる。
「そうだった、そうだった…見せたいページはね……そう、ここ」
店長後がパラパラとページを捲り、ある見開きのページを広げた。見出しは『天才中学生モデラー アカバネ カイに独占インタビュー!!』。
一緒に添えられた写真にはトロフィーと一緒に笑顔を見せる少年と彼が作ったであろうエクシアが映っていた。
そのエクシアの肩には、見覚えのあるAのデカール。
「あっ!」
ケンが真っ先にデカールに気付き、指を指す。遅れて気づいたハルマとラナも口々に驚きの声を漏らした。
「みんな気づいたと思うけど……同じなんだよね、このデカール……」
「ってことはこのアカバネってやつがケンにメールを送ってきた張本人……!?」
「まだわからないけれど……その可能性は高いねぇ」
ハルマと店長の話を聞きながら、ケンがインタビュー記事に目を向ける。
インタビュー記事より
Qあなたにとってガンプラとは?
A私にとってガンプラはもはや生活の一部……食事をとったり、睡眠をするのとなんら変わりありません。簡潔にいうなら「なくてはならないもの」ですかね。
Qガンプラバトルについて
A正直にいうと……あまり熱心にはやっていません。ダメージ加工に何度か使った程度ですね。
あんまり作り終えた作品に手を加えたくなくて……でも今噂のGBN。あれはとても楽しみにしています。これからのガンプラバトルにも。
「あんまり悪い人には見えないんですけれど……」
「そうなんだよねぇ……GBNにも好意的だし……いうほど悪い人じゃないのかも?」
「いやいや、何年も昔なんでしょう?時間が経てば人は変わるわ」
店長の意見もラナの意見も、どちらも筋が通っている。
「……どうすんだ?ケン。もし会うのが不安だってなら俺が代わりに……」
「いや、大丈夫です、というか逆に会ってみたいです!」
ハルマの言う通り、不安がないわけではない。だが、ほんの少しだけ好奇心が勝った。
「そっか……でも万が一があったらいけないから一応、ついては行くぞ?いいよな?」
「いいんですか?助かります!!」
「なんかあったら僕にも頼っていいんだよ!」
「いや、店あるでしょ」
「………………なんとかするさ!!」
(((これはなんとかならないやつだな)))
店長以外の3人が目を合わせる。店長に頼るのは最終手段だなと思った3人であった。
一週間後、GBN、平原フィールド
「ここかな……」
AGE1を着地させ、あたりを見渡す。
一応、周囲に敵機がいないことを確認してから、フォース専用の回線を開く。
「あー、テステス……ハルマさん、ラナさん聞こえますか?」
「おう、2人ともバッチリだ、なんかあったらすぐに通信してくれよ!」
「ありーー」
感謝を述べようとした矢先にレーダが敵機を捉えコックピットにcautionのアラートが響く。
思わず通信をぶつ切りしてしまったが、ハルマなら分かってくれるだろう。
気をとりなおして、レーダーが示した方向に視線を向けると、ローブを纏った一機のガンプラが段々と近づいてくるのが確認できた。
AGE1の目の前に音もなく着地する。
「ほう…逃げなかったか、まずは合格だ」
「あなたが僕にメールを送ったAさん?」
「いかにも。私の名はアカバネ。お前に決闘を挑んだ者だ」
「アカバネ……ってあの?」
「私を知っているのか?初心者にしては中々の通だな……最後に雑誌に載ったのはもう何年も前のはずだが……」
店長の予想は見事的中していたようだ。
目の前にいるダイバーの中身はあのアカバネカイ。
ならば聞きたいことは山ほどある。
「あなたが中学生の時のインタビュー記事を見ました……あんなに希望に満ち溢れていたあなたが……何故こんなことを……!!」
「………教えてやってもいいが……こちらの方が都合がいいな」
ケンの眼前に見慣れたウィンドウが現れる。
アカバネからデュエルを申し込まれました
「なるほど……確かにこっちの方がわかりやすくって良い!」
ケンがウィンドウのokボタンを押すとシステムがそれを快諾し、機械音声によるカウントダウンが始まった。
「そうだ……それで良い……!!」
アカバネが操縦桿を乱雑に動かす。それに連動し、彼のガンプラがローブを脱ぎ捨てた。
「私がコイツに与えた銘はクラッシュ……!
OOガンダムセブンソードクラッシュGだ!!」
現れたのはOOベースの改造ガンプラ。黒と青が混ざったパッチワークのような姿でありながら、ただならぬプレッシャーを放っている。
「思う存分闘り合おう……!全身全霊、全ガンプラ魂を持って!!」
「始まったわね……」
「あぁ、なんだかよくわからないけどな」
ハルマたちはアカバネが単騎で接触してくるとは思っていなかった。ハルマたちがこうやって潜伏しているのが何よりの理由だ。
フォースメンバーの1人や2人、連れてくるものかと思っていたが……
「やっぱり良いやつだろアイツ、きっと何か複雑な事情が……」
ほんの一瞬、ハルマが観戦用に仕入れた望遠鏡を横へ逸らす。そこには何もないはずだったが、ある一部だけ陽炎のような景色のズレが。
「悪りぃここは任せた」
「ちょっと!どうしたのよいきなり!!」
ハルマが突然、バルバトスを呼び出し、そのままの勢いで飛び立つ。残されたラナは全く訳がわからなかったが、任せたと言われたので、アカバネとケンの決闘を大人しく見守ることにした。
ーーーーーー
陽炎のようなものに近づくバルバトス。
オープン回線でわざとらしく大声を出す。
「おい!そこでコソコソ隠れてる奴!目的はわからんがこっちも気が立っててな!無視するって言うなら躊躇いなく打つぞ!」
空中で浮遊しながら、陽炎のような何かに向かってバルバトスのレールガンを向ける。
「分かった、分かった、ミラコロは切るから撃たないでくれ」
何もないところから、赤いディランザが現れる。
見覚えのあるガンプラだ。あれは確か……そう、対艦戦イベントの時の。レールガンを向けながら接触回線で問いかける。
「あん時の俺が一杯食わされたディランザさんじゃあないですかぁ……何故こんなところに?」
「いや、なに、採取ミッションの途中でなーー」
言葉を先遮るようにハルマがトリガーを引く。
放たれたレールガンは着弾し、土煙が舞う。
「舐めんじゃねぇよ、ここいらでやるような採取ミッションはない……嘘をつくならもっとマシなのにしな」
「あぁ、そうだな。次からは気をつけよう」
土煙の中からディランザが現れ、とてつもない加速力で上昇。そのままの勢いでバルバトスにビームトーチを叩きつける。
「クソっ!アレを躱すのかよ!!」
間一髪で懐の刀を使い、なんとか鍔迫り合いに持ち込む。だが勢いのついたディランザと静止していたバルバトスではどちらに分があるかは明白だ。
ディランザの猛攻をいなしながら、距離を取りつつ、隙を伺う。
だが、そんな隙をディランザは見せてくれず、鍔迫り合いに持っていくのが精一杯だ。
「テメェら一体何が目的なんだ……!!答えろ!!」
「どうしますかボス、これほど早い接触は想定していませんでしたが」
ハルマを無視して、画面の男が専用回線を開く。
「うーん、準備はあとちょっとなんだけどねぇ〜まぁいいや、適当にあしらっといてよ」
「……了解!」
ーーーーーー
(この反応は……?奴らが来ているのか……?)
「なんでよそ見してるんです……か!」
「うぉっと!……流石だな、我が子達を悉く破壊しただけはある……」
OOクラッシュは全身に装備している7本の銃を巧みに使い分け、AGE1を追い詰めるが、ケンは既に、ハジメとの戦闘で弾幕戦には慣れていた。
攻撃の合間合間に接近し、確実にダメージを与えていく。
「そろそろ……教えてくれませんか?あなたに何があったのか……」
ケンの質問にアカバネはライフルを捨てながら答える。
「貴様が私の本気に応えられるならばな……!!」
『TRANS-AM!!』
特徴的なあのSEが鳴り、OOクラッシュが紅に染まる。いや、それだけではない。破損したかのように加工されていた左側のGNドライブに粒子が集まっていく………!!
「これが私のの……クラッシュの本気だ……!!」
紅の粒子は羽の形を成していく。
OOクラッシュが右手を羽に突き刺し、粒子を集合させてゆく。集まった粒子は剣に変化。
片翼の天使がその羽をたなびかせ、AGE1に迫る。
(は、速い……!けど目で追えなくても……やりようはある……!!)
向かってくるOOクラッシュに拳を叩き込もうと半身になって構える。攻撃が当たらないのなら、そっちから当たって貰えばいい。
「なんて思っているのだろうが!!」
だが、OOクラッシュはAGE1を攻撃することなく、背後に回った。AGE1の拳が虚しく空を殴る。
「ええ、そう言うと思ってましたよ!!」
背後に回ったOOクラッシュのヘッドパーツにAGE1の足がクリーンヒット。トランザムのスピードを使ったフェイントを完全に見切っていたのだ。
強烈なノックバックをくらうOOクラッシュ。
『一覚集中!!』
「なるほど……これが決勝戦で見せたあの……」
アカバネはコンソールを操作し、OOクラッシュのトランザムを切った。紅く染まった装甲が本来の色を取り戻す。
ケンも集中をやめ、普段の状態へと戻る。
「私のトランザムを見切れた者は昔はそういなかった……時代は進むものだな……」
「そろそろ僕のこと、認めてくれました?」
「あぁ……お前になら、話してもいいかもしれんな……と言っても、つまらない話だが……」
数年前、GBN正式サービス開始から数ヶ月後……
「アカバネさぁーん!!見てくださいよ!前言ってた例の武器完成しました!!」
「完成おめでとう、さ、見せてみろクスノキ。」
当時の私はできたばかりのこの世界でガンプラバトルにのめり込んでいた。
GBNで仲良くなった数人とフォースを作り、日々切磋琢磨していた……
当時はミッションの数やマップの広さ、イベントだって碌にありはしなかったが、自分の作ったガンプラで遊べると言うことだけで俺たちは毎日のようにログインし、日付が変わるまで遊び倒した。
「え?!アカバネさんってあの?!模型雑誌見ましたよ!!あのインタビュー記事!!」
「ははは……そう面と向かって言われると、なんだか恥ずかしくなってくるな……」
「そんなそんな!!かっこよかったのに……ってことは今高校一年ぐらいですか?」
「あまり個人情報を晒したくはないが……まぁ」
「そっか〜俺とそんなに年変わらないのに……凄いな……俺なんか………」
「どうした?急にテンション低くして……」
「な、なんでもないですよ!ホラ、みんな来ましたよ!ミッション行きましょ!!」
彼……クスノキをはじめ、俺のフォースメンバーは皆、個性的なガンプラを作る。
特にクスノキ。彼は左利きだったから、バトルのためにガンプラもそれに合わせてビルドしていた。
時には私にもも思いつかなかったような発想でガンプラを組み、戦う。
そんな彼らと共に過ごせるGBNは、私にとってかけがえのないものになっていった。
そんな幸せな日常がずっと続く……そう思っていた……
「すいません……今日のバトル、負けたのは俺のせいです……」
「気にするなクスノキ。負けたって楽しかったじゃないか」
「………」
順風満帆とはいかない日もあった。
だが私はそれでもいいと思っていた……
また、ある日のこと……
「え?!もうログアウトしちゃうんですか?もうちょっとやって行きましょうよ!」
「すまない……どうしても外せない用事があってな」
「……なんですかその用事って」
クスノキに、リアルの友人の誕生日が近いこと。その友人から俺の作ったガンプラをせがまれていることを話した。
「そうですか……なら……仕方ないですね……」
「あぁ、またな」
私がこの時、彼の心情を少しでもわかってあげていれば……
だが、私はその時、その友人に送るガンプラのことだけを考えていた……
数ヶ月後、GBNが正式サービス開始以来の大型イベントを開催した。
イベントの内容はとてもシンプルで、指定されたミッションをこなせばこなすほど、報酬が豪華になるというものだった。
さして興味のわかない内容ではあったが……フォースの皆んなはとても乗り気だったので、流されて参加。
イベント期限ギリギリまでミッションに挑み続けた。
「3時の方向に敵機出現!!これを倒せば最高報酬だ!」
「俺が行きます!!」
クスノキが出現した敵機に接近する。
(俺だって……俺だって!)
クスノキがライフルを構え、敵機にロックオン。
ザシュ
「……え?」
ロックオンしたはずの敵機が爆散する。
爆風の中、OOの背部が見えた。
「ふぅ……すまんなクスノキ、トランザムが切れる前に私の方が速く仕留められそうだったから、ついやってしまった」
「…………すいません、もう落ちます」
「おい?!クスノキ?どうした?!」
クスノキが乗り込んでいた機体ごと光の粒子になり、消えた。
「どうしたんすか、アカバネの旦那?あいつに何か?」
フォースメンバーの1人が慌てて駆け寄ってくる。
「わからない……急用でも出来たのか……?」
その後、クスノキは3日ほどGBNにログインしなかった。けれどもメッセージのやり取りだけは続いていたから、過度な心配はせずに彼の帰りを待っていた。
それから、一週間後。
「お久しぶりっす!皆さん!」
「おークスノキ!やっと帰ってきたかぁ、心配したぜぇ!」
クスノキの帰りに皆が歓喜する中、私は何故か胸騒ぎがしていた。
「そうだ!俺の卸したおニューのガンプラ見てくださいよ!!」
クスノキがコンソールを操作し、スキャンしたガンプラを呼び出す。
精巧に作られたデルタガンダムが現れた。
「うぉ?!凄いなぁ!!めちゃくちゃ綺麗に作ったじゃん!」
「……えぇかっこいいでしょう?」
違う。
クスノキは左利きのはずだ。だから、彼の作ったガンプラならば、それ用のカスタマイズがされているはず。
なのに、目の前のデルタガンダムにはそんな工夫は一切なかった。
それにディテールも綺麗すぎる。最近、デルタガンダムを制作したから、こいつのモールドは全て覚えている。
モールドは彼の一番苦手な工作なはずなのに、新規に作られたモールドはまるで私の作ったデルタと瓜二つで……
データの体にあるはずのない心臓が破裂しそうなほど動くのを感じる。いや、まさか、そんなはずはない。手を振るわせながら、おぼつかない足取りでデルタガンダムの背後に回る。
「…………っ!!」
そこには、あるはずのない、あの…………
私のガンプラの証であるはずの………あのAのデカールが貼られていた。
「クスノキ!!」
声を振るわせながら叫んだ。
ゆっくりと彼が振り返る。
「このガンプラは……!!本当にお前が作ったのか……!!」
「ええ、そうですよ、どうしたんですか……そんなに声を荒げて……らしくないじゃないですか」
その後の記憶ははっきりしていない。
ただ、ログアウトした後に……フリマサイトで友人に贈ったはずのデルタガンダムが端金で落札されていたのを見つけた。
GBNも全くログインしなくなった。
辛い。
人に裏切られたことが。
居場所を失ったことが。
大好きなもので…………大好きなガンプラで傷ついたことが。
数年ほど部屋に引き篭もるだけの生活が続いた。
もう何もしたくなかった。
だが、死ぬ勇気もなかった。
息を吸い、吐く。
口を開け、食う。
目を開け、閉じる。
ただそれだけの1日が何度も何度も何度も何度も過ぎていった。
ある時、生活費が尽きたので、作ったガンプラのひとつを売った。
少しだけ、心が軽くなった気がした。
お金も……作った時のことを思えば決して大金と言えるものではなかったが、多少の生活費の足しにはなった。
そんな中、たまたま、大型の機体をあるだけ欲しいという人が現れたので……そいつにあるだけくれてやった。
そうしたら、また心が軽くなった。
取引が終わった後、その人から個人的にメールが届いた。制作依頼は受けているのかと……
構わないと、メールを返した。
そうしたらその人は頻繁に依頼をよこすようになった。
これでいいのだ。多少、人生の限られた時間を無駄にはしてしまったが……今はただ、大好きなガンプラで、食っていけるだけにはなれた。
「そうだよ……これ以上……何を望むんだよ……」
私は今満たされている。満たされているはずなんだ。
なのに……
なのに…………!
「どうしてこんなに苦しいんだよ………!!」
数年後、取引先の人が急に「もうあなたのガンプラはいらない」と言い出した。年単位の付き合いにも関わらず、だ。
私は理由を問いただしたかったが、相手のメールアドレスが消えていたので、それが出来なかった。
そんな中、風の噂でGBNがMAクラスの機体に荒らされていると知る。
「クソ、クソっ!!クソっ!!!取引は終わりだと……!!このアカバネカイの作品はもう必要ないだと……!!!」
真っ暗闇の部屋の中、パソコンの前で物に当たり散らす。ひどく散らかった部屋がさらに荒れる。
その中で唯一、埃一つないほどに手入れされた棚に鎮座する無数のガンプラ。グレードを問わず、多種多様の芸術品とも言えるほどに作り込まれたガンプラ。激情しながら、その中の一つを丁寧に取り出し、手に取る。
「もはや取引など、どうでもいい……!!証明してやる!!私のガンプラが優れているということを……!!私自身の手で!!」
ーーーーー
「こんなところか……どうだ?つまらない話だろ?」
OOクラッシュが手を広げながらやれやれと言った風に首を振る。AGE1の拳はいつのまにか下ろされていた。
戦う気が起きなかったのだ。
悲しみが、彼の話から痛いほど伝わってきたから。
「そのクスノキって人とは……前のフォースの人とは連絡とっているんですか?」
「いいや、何しろ前のアカウントのパスワードを忘れてしまってな……もうフレンドリストにも彼らはいない……」
「そうですか……でも一言ぐらい……何かあったって……」
ケンが拳を握りしめる。確かに彼らは行き違ってしまったかもしれない。だがこのまま……このままで本当にいいのだろうか?
「どうして皆んな幸せになれないんですか……!
あなたも、クスノキって人も皆んなガンプラが好きで……!ガンプラバトルが楽しくってこの世界に魅入られたのに……!!」
自分にはどうしようもできないやるせなさを感じる。ケンがさらに拳を強く握る。
「優しいんだな、お前は……」
アカバネが笑みをこぼす。
辛い記憶も共有し、共感してくれる人がいれば……多少はマシになる。アカバネにとって、その人が、初対面のケンだった。
(強く、優しく、ガンプラ愛に溢れたビルダー。私もお前のようになれていれば……)
「なるほどな……通りで敵わない訳だ……」
「……?」
勝負の世界は残酷だ。時には傷つくこともある。それが私にはわからなかったから……他人をいたずらに傷つけた挙句、自分が傷つかないために多くのものを忘れ、捨ててしまった……
突如聞き覚えのないシステム音声が鳴り響いた。
それは決闘時間のタイムリミットを告げる。
気づけば残り時間は1分を切っていた。
「長話が過ぎたな……どうだ?次の一撃に全てを賭けるってのは」
「……賛成です!」
涙を拭い、AGE1を奮い立たせる。
OOクラッシュも再度、トランザムを発動。
紅の粒子がOOクラッシュの翼として集まっていく。先ほどとは比べ物にならない大きさの刃翼が形成されていくのがわかる。
finish move!!
「パルマフィオッッ!!バァナァー!!」
熱線が滞空するOOクラッシュに向けて放たれ、OOクラッシュもまた、巨大な刃翼を振り下ろした。
コンマ数秒、熱線と刃翼が競り合う。
互角かと思われた攻防。
しかしその考えは一瞬のうちに砕かれる。刃翼が少しづつ、ほんの少しづつ壊れていく。
熱線が、OOクラッシュを貫く。
「そうか……クスノキ……お前は、悔しかったんだな……」
『一生懸命になって、それで負けたら辛すぎる』
私は……悔しいと思っている自分を認めたくなかった。天才だと持て囃され、自惚れていた。バトルで負けても……制作技術なら勝っていると。
「そうだよな……!っ、……悔、しいよな……!!本気でやって、負けたらさ………!!」
アカバネの眼から溢れた涙がこぼれ落ちた。
それに呼応するかのようにOOクラッシュはその身を壊し、地面へと落下していく。
OOクラッシュ……撃破。
ーーー
「……大丈夫ですか?」
「あぁ……問題ない」
大破したOOクラッシュからアカバネが降りる。
OOクラッシュが落下した衝撃で、地面がクレーターのように凹んでいたため、それを登るアカバネにケンが手を差し出す。
「……っと、すまないな」
「いえいえ」
アカバネが首をポキポキと鳴らしながら、体を軽く伸ばす。
「……これからどうするんですか?もしよかったらうちのフォースに……」
「そうだな……それもいいかもしれないが……もう少し、1人で自分を見つめ直してみようと思う」
「……わかりました、でも、いつでも遊びに来てくれていいですからね」
「あぁ、ありがーー
突如、地面が揺れる。あまりの衝撃に2人は体勢を崩し、倒れてしまった。
「なんだ?!最近のGBNには地震もあるのか……?!」
「違います!これはっ!」
「ケン!ケン!聞こえるか!?」
Sound Onlyで開かれたオープン回線にケンは立ち上がりながら返答する。
「ハルマさん?!どうしたんですか?!」
「説明は後だ!!今すぐガンプラに乗って逃げろ!!あ、あいつら……とんでもないもんを呼び出しやがった!!! 」
逃げろ?どこへ?何から?あいつら?
訳のわからない説明に困惑する。
アカバネはこんな状況でも落ち着いているようだ。現に何も言わずに空をーー
「……おい」
アカバネがゆっくりと空へ向かって指を指す。
ケンはその指の先を見ようとした瞬間、2人を巨大な影が包んだ。
一瞬にして夜になったかのように暗くなる。
「……え」
目の前の光景にケンはただ、立ちすくむことしか、出来なかった。