Monster Hunter ~白銀の絆~   作:鷹幸

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第4話 追憶

 ぼんやりした影が見える。でも、それが何なのかは分からない。

 音が聞こえる。誰かが、私を呼んでいる……。

 

「……ミラ!!」

 

 その声で、ミラは我に返ったように目覚めた。どこにいるのかはさっぱり分からなかったが、背中の柔らかい感触から、ベッドの上にいるということは分かった。

 

「気が付いたか……。俺だ、わかるか?」

 

 ベッドの側にいた大男が、ミラに話しかける。

 ミラは、男の顔を見た。

 白髪(はくはつ)に、灰色の瞳……。ミラは、一瞬でその男が誰だか分かった。

 

「シ、シャウラ……さん?」

 

「おう。久しぶりだな!!」

 

 この男こそ、ミラたちが捜していた人物である。シャウラは、ミラの肩をばんばんと叩いた。

 

「い、痛いですやめてください」ミラはシャウラをキッ、と睨みつける。

 

「おっと……、それはすまん」シャウラは困ったような顔をした。

 

「それで……、ここはどこ……?」

 

 見た感じ、ここはテントの中のようである。

 

「〝雪山〟の中腹にある、〝第2のベースキャンプ〟ってとこかな。まぁ、これは俺たちが勝手に呼んでいるだけだ。しかし……びっくりしたよ。崖の下に二人のハンターが倒れてたんだからな」

 

 それを聞いて、ミラは、自分たちが崖から落ちたことを悟った。

 

「……でも、生きてて良かったな。あまり怪我もしていないようだし」

 

「あ、あの……」ミラには、気がかりなことがあった。「レグルスは?」

 

「あぁ……」途端に、シャウラの表情が陰る。「あいつは……大怪我だった。今は、別のテントで爺さんが治療してる」

 

「…………」

 

 ミラは黙って(うつむ)いた。

 あのとき、レグルスは私を(かば)ってくれたんだ――。

 

「……で、なんでこんなとこにいるの……?」

 

「なんでって……、ラージャンを討伐する仕事に、俺が任命されたからだ」

 

「ラ、ラージャン……? それって――」

 

「お前ら、出遭ったんだろ」シャウラは顔を(しか)める。「奴はあまりにも危険過ぎる……。だから、雪山は立入禁止エリアになってたハズだぞ? なんで入ってきたんだ?」

 

「……立入禁止とか言われたら、逆に入りたくなっちゃうじゃん!!」

 

「ギルドの監視員に止められるハズなんだがな」シャウラは顎に手を当てる。

 

「そんなのいても、ブッ倒してから入る!!」

 

「ぶっ……」シャウラは思わず吹き出してしまった。

 

「え……、私、何か変なこと言いました?」

 

「いやぁ、いろいろと変わったなお前は」

 

「……まぁ、いろいろ変わったかもしれませんけどぉ」ミラはシャウラの方を向く。「シャウラさんは、全然変わってな――」そこまで言ったとき、ミラはシャウラの躰に違和感を感じた。

 

「え……?」

 

 彼女は目を疑った。シャウラの右腕が、無い。

 

「ちょ、ちょっと……? 腕……どうしちゃったんですか!? も、もしかしてアイツに――」

 

「そうだ」シャウラは視線を落とす。「奴にやられた。ちょっと油断した隙に攻撃されてな……。そのあと突進されそうになって、大剣でガードしようと持ち手に手を伸ばそうとしたら、腕を引き裂かれた」

 

 ミラは言葉を失っていた。あのシャウラさんが、腕を失ったなんて……。

 

「そのあと、なんとか逃げ切ったけどな」シャウラは、再びミラを見る。「……それにしても、お前たちは運が良かった」

 

(でも、シャウラさんが腕を失うほどの大怪我だったのなら、レグルスも……?)

 

 一瞬、彼女の心拍が跳ね上がる。

 

「シャウラさん――」

 

「なんだ?」

 

「レグルスは大怪我を負った、ってさっき聞いたけど……」ミラは唾を呑み込んだ。「どれくらいの大怪我……だったの?」

 

 シャウラは視線を逸らした。これは、あまり言いたくないという兆候……。

 

「……胸から腹部にかけて、深い傷を負っていた。多分、今も昏睡状態だろう。仮に目覚めたとしても、動けるかどうか危ういところだ……」

 

 ミラは再び、言葉を失った。というよりも、頭の中に猛烈な吹雪が吹き荒れ、すべての情報を遮断しているようだった。

 

「……お前たちを見つけたとき、レグルスがお前を覆うようにして倒れていた。そのお蔭かどうかは知らないが、お前はあまり怪我をしてなかったな。レグルスは、命懸けでお前を守ったんだろう」

 

「……バカだな」ミラが小声で呟いた。

 

「え?」

 

「なんで、そこまでして私を守ったんだろ……」

 

 ミラの意識は、数年の時を(さかのぼ)っていた。

 

 

 

 私たちの住む村は、新大陸の北方、凍土地方にあった。

 年間を通して寒冷な気候で、夏でも雪が残っているくらいの場所だった。

 

 私たち兄妹が15歳になって数日経った、ある日のこと。

 私たちの元へ、シャウラさんがやってきた。

 彼は私たちの住む村出身のハンターで、私たち兄妹の知り合いでもあった。

 彼は、「ハンターをやってみないか」と、私たちを誘った。

 レグルスは前々から〝ハンター〟に興味があったらしく、「やります!」と答えた。

 私は乗り気ではなかったので、「考えておきます」と曖昧な返事を返した。

 そして私は、普段と変わらない生活を送っていた。

 

 2週間が過ぎた頃。

 レグルスが初めての狩猟から帰ってきた。

 夕食のとき、レグルスは楽しそうにいろいろ語っていた。

 私は、その話を聞いているうちに、次第に〝ハンター〟に興味を持つようになった。

 翌日、私はレグルスにそのことを伝えた。レグルスは、シャウラさんにそのことを言ったらしく、私はシャウラさんに〝ハンター〟の仕事について教わることになった。

 

 何もかもが新鮮だった。

 輝く白銀の景色、数多の星が(きらめ)く夜空、生命(いのち)ある者たち。

 瞬く間に、狩りの世界の魅力に囚われてしまっていた。

 

 半年ほど指導を受けたのち、シャウラさんは仕事があるち言ってどこかへ行ってしまった。

 別れるときは少し辛かったけど、またどこかで会えると信じていた。

 その日からは、狩猟の依頼を受けたら、レグルスと二人で狩りをしていた。

 

 あるとき、私たちは依頼を受けて、凍土でウルクススを狩っていた。

 ウルクススは、凍土などの寒冷な地方にいる牙獣種。

 私の武器は弓、レグルスはハンマー。今でも、使っている武器種は変わっていない。

 狩りのまえ、私が止めを刺したら美味しいものを奢ってよね、という約束もしていた。

 

 私が矢でモンスターの動きを止め、レグルスが槌で殴打する。

 声を掛け合いながら狩りは順調に進んでいた。

 討伐まであと少し、というところで――

 

 突然の来訪者だった。

 凍土を統べる者――氷牙竜(べリオロス)――が、音もなく滑空してきた。

 そして、目の前の白兎獸が、一瞬にして狩られてしまった。

 私たちにとっては嬉しい誤算だったけど、実際、現実はそう甘くない。

 ベリオロスはターゲットを切り換え、私たちを狙ってきた。

 その当時、私たちはベリオロスと闘ったことがなかった。

 初めて対峙する、ベリオロス。

 緊張と恐怖で、躰がすくんでいた。

 睨み合いの攻防が続いていたとき、レグルスが何かを叫んだ。

 たぶん、「逃げろ」って言ってたんだと思う。

 そのあと、レグルスは一人でベリオロスにかかっていった。

 その間、私はどうしていいか分からなかった。

 

 気付けば、ベリオロスが、私に向かってきていた。

 咄嗟に避けることはできなかった。

 そして、鋭い鉤爪が、私を襲った。

 

 ……それからあとのことは、まったく覚えていない。

 気付いたときには、自宅のベッドの上にいた。側には、泣いている両親の姿があった。

 命に別状は無かったけど、私の左目には、一生消えない、大きな傷が残ってしまっていた。

 失明こそしていないものの、私は、その傷を髪の毛で隠している。

 

 怪我から回復したあと、私はレグルスを責めた。

「なんで助けてくれなかったの」と。

 何度も、何度も。狂ったように……。

 

 でも、今考えてみれば、怪我をした私を運んでくれたのは、レグルスしかいなかったんだ。

 レグルスは、私を助けてくれていた。

 なのに、責めてしまった。

 今、こうして生きていられるのは、レグルスのお陰なのに……。

 

 そうだ。あのときからだ。

 あのときから、私は守られていたんだ、レグルスに。

 私が無茶しようとすると、必ず止めてくれた。

 私のわがままにも、少し不満そうな顔はするけど、答えてくれた。

 私を守ってくれていたんだ。

 どうして気付けなかったんだろう……。

 

 

「……ミラ? どうした」

 

 シャウラの声で、ミラはハッとする。

 

「え……?」そのとき、ミラは気付いた。涙を流していることに。「あれ……?」

 

 どうして、泣いてるんだろう。

 なんだろう、この苦しい気持ちは。

 自分自身への怒り、哀しみ、後悔……いろんな感情がかき混ぜられている。

 

「何かあったのか……?」

 

「う、ううん……」ミラは目をごしごし擦った。「な、何でもないよ。何でも……」

 

「そうか……ならいいんだけど」シャウラは腑に落ちない表情だった。内心では、かなり気にしているのだろう。「……で、どうする。奴を討伐するまで、この雪山からは降りられないぞ。ここで待っておくか?」

 

「いや、私も戦う」

 

「俺は……やめておいた方がいいと思う。命を落としかねないんだ」

 

「いや。私は行くよ」

 

 ミラは真剣な眼差しで、シャウラを見つめる。

 

「……分かった。お前がそこまで言うなら、一緒に行こう。躰が大丈夫なら、今すぐにでも行くんだが……」

 

「私は大丈夫!!」ミラが声を張り上げる。

 

「……分かった。弓と矢はそこに置いてある。必要なアイテムもそこらへんから取っておいてくれ。俺は装備して、爺さんに行く旨を伝えてくるから、準備ができたら……そうだな、外は寒いからここで待っててくれ。いいな?」

 

 そう言うとシャウラはテントから出て行った。

 

(レグルス……命懸けで守ってくれてありがと……。私、必ずあいつを倒すから――)

 

 ミラは大きく深呼吸をすると、ぐっ、と拳を強く握り締めた。

 

 

 

      *

 

 

 

 テントの扉が開き、武器と防具を装備したシャウラが入ってきた。

 

「待たせてすまないな」

 

「待たせすぎです」ミラはシャウラを睨みつけた。

 

「おいおい、そんな怖い顔するなよ。片腕しかないんだ、手間取るのは仕方ない」

 

「あ、そうでしたね。ごめんなさい」謝ったミラの表情が、少し曇った。「……レグルスの容態はどうなんですか?」

 

「あぁ……そのことなんだが」急に、シャウラの声のトーンが落ちた。「思ったより傷が深いし、大量出血もしているし……治療しても目を覚ますかどうかすら危ういらしい……」

 

「え……」ミラは全身から力が抜けるのを感じた。

 

「お、おい……大丈夫か」倒れそうになるミラの躰をシャウラは支えた。

 

「……う、うん」

 

「大丈夫そうには見えないけどな……。行くのやめるか?」

 

「……やだ。私は行くよ。あいつにやられっぱなしじゃやだもん」

 

「それでこそ、俺の弟子だな……はは」

 

「じゃ、行こうよ師匠!!」

 

「おう!!」

 

 二人はテントの扉をくぐった。

 

「さ、寒いぃぃぃぃっ!! 〝ホットドリンク〟飲むの忘れてたぁぁぁっ」

 

「おいおい……しっかりしろよ」

 

 ミラは慌てて〝ホットドリンク〟をポーチから取り出すと、一気に飲み干した。

 

「ふぃ~~~~っ」

 

「……っははは」シャウラが笑う。

 

「さ、行きましょう師匠!!」

 

「おう」

 

 二人は、力強い足取りで雪道を歩く。

 

「……ところで師匠。あのモンスター……確か、ラージャンでしたっけ。アイツの情報は無いんですか」

 

「あぁ。敵を知るのも重要だな……」呟くと、シャウラはポーチからハンターノートを取り出した。ハンターノートには、多種多様な情報が書き込まれている。

 

 

 ラージャン。

 別名、金獅子(きんじし)。『超攻撃的生物』と通称される大型の牙獣種。漆黒の体毛と側頭部から伸びる一対の角が特徴であり、牙獣種の中では特に屈強な肉体の持ち主。

 あまりに危険すぎるため、生態調査があまり進んでおらず、その生態に謎が多い。

 興奮状態に陥ると、体毛の大部分が金色に変色する。暗闇の中でも判別できるほど明るく輝く姿が、その別名の所以(ゆえん)である。

 また、興奮状態のラージャンは、後頭部から背中にかけての(たてがみ)に当たる部分が逆立つ。

 筋肉、とくに腕の(たくま)しさは異常であり、腕を使った攻撃は驚異的な攻撃力を誇る。

 側頭部から生えた角は古龍の鱗をも貫き、鋭い牙や爪はどんな物体も易々と切り裂く凶器である。

 また、口からは『気光』と呼ばれる特殊なエネルギーをブレスとして吐く。

 

「要約すれば、こんなところだ」シャウラはノートを閉じた。

 

「……とりあえずは、強いってことだね」ミラは頷きながら言う。

 

「それは要約し過ぎだ」

 

「そうそう師匠、その防具はなんなの?」

 

「ギザミZってやつ」シャウラは、左の拳を胸に当てた。「ショウグンギザミっていうモンスターの素材から作ってる。大剣も同じだ」

 

「見たことないなぁ……って、左腕だけで大剣を扱えるの?」

 

「俺の腕力をナメてもらっちゃ困る」

 

「……師匠、馬鹿力だもんね」

 

「生まれつきのスキルだ」

 

 少し歩くと、開けた雪原が見えた。

 

「……そろそろエリア7かな」

 

「よっしゃ!! 待ってろラージャン!!」ミラは指をポキポキと鳴らす。

 

「おてんばだな、お前は」

 

 二人は、エリア7へ駆けていった。

 

 

 

 

 

 エリア7。

 

「……ここにはいないようだな」シャウラが辺りを見回す。

 

「そーですねぇ……ん?」

 

 ミラは雪の上に転がる〝何か〟を見つけ、駆けていった。

 彼女は〝それ〟を拾い上げると、ひぃっ、と悲鳴を上げ〝それ〟を放り上げた。

 

「こ、これって……」

 

「おぉ?……これは俺の右腕じゃないか」シャウラは自身の右腕を拾い上げると、腕を元あった場所にくっつける振りをする。「はは……、さすがに、もうくっつかないよなぁ……」

 

「仮にくっついたとしても、動くかどうかなんて分かりませんよ、師匠」

 

「あぁ、そうだ。もう元には戻らないだろう。……この腕の借りは必ず返さないとな」シャウラは低い声で言った。

 

 ミラは、俯いて黙り込んでいる。

 

「ミラ……? どうした?」

 

「……レグルス、生きてる……よね」

 

「あ、あぁ……!! あいつなら……きっと大丈夫だ」

 

「う、うん……」

 

「なんだ、さっきまで強気だったクセに」

 

「だって、シャウラさんが右腕を失うほど強い相手の攻撃を受けたんだもん……生きてるか心配だよ……」

 

「あいつの生命力を信じろ。それに、あまり心配しすぎるなよ」シャウラは、ミラの頭をぽんぽん、と叩いた。「とりあえず、奴を見つけるぞ」

 

「う、うん……」

 

「ほら、顔を上げて。足元に奴はいないぜ」

 

 シャウラがそう言うと、ミラは顔を上げ歩きだした。

 

 

 

 

 

 エリア8。

 

「ここにもいないのか……」シャウラが片腕でお手上げのポーズをとる。

 

「そうみたいですねぇ……」

 

 辺りを見回しても、視界はすべて白。

 

「次、行くか」

 

 

 

 

 

 エリア6。

 

 この領域(エリア)に足を踏み入れた瞬間、二人は(ただ)ならぬ殺気を感じた。

 

「ここに奴がいるのは間違いないようだな」武器に自然と手が伸びる。

 

 二人の視線の先に、金色に光るラージャンが現れた。距離、十数メートル。

 

「もう奴はお怒りのようだぜ」シャウラは左腕だけで彼の身の丈はあろう大剣を構えた。

 

 ミラは無言で弓を構え、矢に手をかける。

 

 

 咆哮。

 距離が離れているせいか、耳を塞ぐほどではない。だが、皮膚がビリビリと震えた。

 

「――来るぞ!!」

 

 シャウラが叫んだとき、ラージャンは既に二人の目の前まで迫っていた。

 ミラは攻撃を横に回避したが、シャウラは大剣でラージャンの攻撃を受けた。シャウラは反動で2メートルほど後ろへ跳んだ。

 

「くぅっ!! やっぱり片腕がないとガードしづらいな!!」

 

 シャウラは左手で持ち手を掴み、右肩で刃の部分を押さえている。

 

「師匠!! 次来ますよ!!」

 

 ラージャンは躰を仰け反らせ、前脚を大きく上に上げている。

 ミラは矢を放った。

 矢はラージャンの前脚を貫き、動きが少し止まる。

 その隙に、シャウラは体勢を立て直してラージャンから距離をとった。

 ラージャンは地面に前脚を叩きつけた。震動が伝わってくる。

 

「腕の借りを返させてもらおうかっ!!」

 

 地面に倒れ込むような体勢になっているラージャンの前脚に、シャウラは大剣を斬り込む。

 肉を抉る音がして、ラージャンは少し怯んだが、すかさずバックステップして狩人から離れる。

 だが、間髪を入れず、ラージャンの躰に無数の毒の(つぶて)が突き刺さった。

 ミラの放った曲射が命中したのだ。

 

「よっしゃ当たった!!」ミラは思わずガッツポーズをする。

 

「……やるな」シャウラがニヤリと笑う。「じゃ、師匠もいいとこ見せないとな!!」

 

 シャウラは大剣を右肩に担ぎ、ラージャンの方へ突っ走る。

 ラージャンは迫り来る狩人に気付き、退こうとする。だが、毒が体内を蝕んでいるせいか、思うように動けていない。

 

「さっきの毒が効いてるみたいだなっ!!」

 

 シャウラは肩に担いだ大剣を横に薙ぎ払った。

 剣先はラージャンの左眼を切り裂く。

 ラージャンは低く唸ると、ぎこちなく後退りした。

 

「ここまでこっちが優勢なのは初めてかもしれないな!!」

 

「よぉし、この調子でいきましょう!!」

 

「あぁ!!」

 

 シャウラが一歩踏み込もうとしたそのとき、耳を(つんざ)かんばかりの咆哮が、一帯に響き渡った。

 積もった雪が、音圧で宙に舞い上がる。

 

「ただでさえ怒ってるのに、また怒らせてしまったか……」シャウラがミラの元へ駆け寄る。

 

「ま、マズいことになっちゃったかなぁ……?」

 

 ミラがそう言った瞬間、雷を孕んだブレスが一直線に飛んできた。

 光線は逸れたが、風圧でミラの髪の毛がぶわっと巻き上がった。

 

「い、一旦退くぞ!!」

 

「う、うん!!」

 

 武器を仕舞うと、二人は一目散にそのエリアから退避した。

 

 

 

 

 

 エリア8。

 二人の息は上がっている。

 

「はぁ……はぁ……っ、……追ってこないかなぁ?」雪の上に座り込みながらミラが言った。火照(ほて)った躰に、雪の冷たさが伝わる。

 

「今は大丈夫だとは思うんだが」シャウラはエリア6へ続く道を見た。「離れてたし、奴には見えてないだろうしな」

 

「なら安心だね」ミラは雪の上にぽすっ、と座り込む。

 

「いや、安心はできないぜ……」シャウラはミラの方を向いた。「ここはもう奴の縄張りだからな。隙を見せれば襲ってくる」

 

 それを聞いて、ミラは跳ね起きた。

 

「一瞬たりとも、気が抜けないってことだね……」

 

「ま、狩りの世界ってのはそんなもんだ。狩るか狩られるか、生きるか死ぬか、だ」

 

 シャウラがそこまで言ったとき、彼らは再び、あの徒ならぬ殺気を感じた。

 

「――!? ま、まさか、追って来たのか!?」

 

「えっ!?」

 

 エリア6へ続く道を見ると、白い吹雪の中から金色の怪物がゆっくりと近付いてくるのが見えた。

 

「走れ!!」

 

 二人は駆け出した。

 だが、ラージャンは二人の頭上を飛び越え、彼らの前に立ち塞がった。

 ラージャンの躰からは湯気が出ている。眼は、血が滲み出したように真紅に染まっている。その眼光は、見る者へ絶望を与えるようだった。

 ラージャンは天を仰ぎ、咆哮した。その轟音は、雪山中に響き渡る。

 二人は耳を塞ぐ暇もなく吹き飛ばされ、雪面に叩きつけられた。

 起き上がろうとするも、彼らの躰は動かなかった。

 

 金獅子は二人に詰め寄ると、片方の前脚を大きく振りかぶった。

 尖鋭な爪が、金色の鬣の光を反射して煌く。

 

 二人の躰は、動かない。

 運命を、死を受け入れたかのように。

 

 そして――

 鈍い衝撃とともに、目の前が緋に染まった。

 

 

 

 

 

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