ラージャンの素材剥ぎ取りと個体の記録を終えた彼らは、下山する準備をしていた。
「麓まで降りることができれば、そこからはポポの牽く荷車で帰れるぞ」〝第2のベースキャンプ〟から持ってきた荷物を担いだシャウラが言った。
「はぁ……疲れた……」ミラは座り込んだままだ。
「おいおい……シャウラさんはもっと疲れてると思うぜ? 1ヶ月くらいもここにいたらしいしな」小さい荷物を持ったレグルスが言う。
「でも、私、さっさと帰るつもりだったんだよ? なのに……」
「それは自業自得ってやつだろ、仕方ねぇよ。ま、シャウラさんにも会えたからいいんじゃね?」
「むー……。それはそうだけど……」ミラが頬を膨らませて言う。
「ほら、荷物持って。帰るぞ」
「はいはい……ってちょっと!! なんで私の荷物の方がレグルスのより大きいわけ!?」ミラは荷物を指差す。
「そりゃ……オレは怪我してるし」
「はぁ!? なんなのその理由!? 師匠は片腕を無くしても、あんな大荷物持ってるのに!?」
「あの人は躰が特別なんだよ!!」
「そんな言い訳するの!?」
「うるせぇな!! わかったよ!!」レグルスはミラの荷物を奪うように取った。「これでいいんだろこれで!!」
「ニャー……。ケンカはやめてくださいニャー……」チェルシーが荒れる双子をなだめる。
「ふーんだ……」ミラは機嫌が悪くなったようだった。
「お前たち、早く行くぞ。……おいミラ、俺を睨むな。レグルスもやけに不機嫌だな」シャウラは溜め息をつく。「さっきは兄妹良い感じだったのにな」
「~~~~~~っ!!」ミラの顔が紅潮する。「さっきはさっき!! 今は今!!」
「おっと、それはすまん」
「ところでシャウラさん、右腕って……」レグルスが口を開いた
「あぁ、回収しておいた。折角見つかったんだ、持って帰らないわけにはいかないからな」
「持って帰ってどうするんです?」
「もうくっつけられないだろうしなぁ。骨にするしかないかな」シャウラは笑う。「それはともかく。帰ろうぜ。なんか美味いものが食いたい」
「ワシの作る料理では不満だったかね」老人が横から言う。
「いや、そんなことはないですよ、爺さん。美味しかったです。食料に問題があっただけですよ」
「まぁ、雪山だから仕方の無いことだよ。はっはっは!!」老人は高らかに笑う。
「早く帰ろうよ~~」ミラは足踏みをしている。
「あぁ、日が暮れる前に帰らないとな」
静かな雪面の上、四人と一匹は帰路についた。
麓のエリア1に降りると、荷車があった。荷車にはポポが繋がれている。
「行きにはこんなのなかったような……?」ミラが不思議そうに荷車を見つめる。
「ギルドに連絡しておいたからな」老人が背負った荷物を荷車に乗せながら言う。
「ど、どうやって?」
「ワシらには、ギルドから派遣されたアイルーが付いてきていてな。彼には、主にギルドとの連絡を任せていた。そして、討伐に成功したと連絡してもらえたから、荷車が来たのだよ」
「そうだったんだ」
「荷物は乗ったな。じゃ、全員乗ろうか」シャウラがレグルスの肩を叩いた。
四人と一匹を乗せた荷車は、ゆっくりと動き出した。
ミラとレグルスは隣り合わせに座っていたが、お互い顔を背けていた。
「ニャー……。いい加減仲直りするのニャー……」チェルシーは頭を掻いた。
「……なんで」ミラは、レグルスの方に顔を向けた。「なんで、命懸けで私を守ったの?」
「……妹を助けるのに、理由が要るのか?」レグルスは顔を背けたままだ。
「……そんなの嘘でしょ?」
「…………」
「あのときのこと、まだ引き摺ってるんでしょ?」
レグルスは黙ったまま、ミラに顔を向けた。
「……な、なんか言ってよ」ミラはレグルスを睨みつける。
「あぁ……ズルズルと引き摺ってたんだろうな。あの一件から」
「あの一件? 何だそれは……」シャウラが訊く。「もしかして、ミラの顔の傷に関係あることか?」
「はい……」
レグルスは頷くと、あの一件――凍土で狩りをしていたときに、突如として現れた
「そんなことがあったのか……」シャウラは視線を落とす。
「あれは……オレが悪かったんだ」レグルスは俯いた。「オレが、ミラの逃げる時間を稼ごうとして、べリオロスにかかっていったのが間違いだったんだ。オレが、ミラを連れて逃げるべきだった……」
「いや……ミラが怪我を負ったのは、俺の責任だ。お前たちを危険な世界に引き摺り込んでしまったのは、俺だからな……」シャウラが言う。
「いや、シャウラさんが悪いんじゃない。全部、オレが悪いんだ……」レグルスは顔を上げる。「だから、あのとき、オレは心に誓った。これ以上ミラを傷つけたくない、傷つく姿を見たくない。そのためなら、命も懸ける、って……」
「ち、違う!!」ミラが突然声を上げた。「悪いのはレグルスでもシャウラさんでもない!! 私なの!!」
レグルスたちは、驚いた表情でミラの方を向いた。
「悪いのは……私なの。逃げなかった私なの」ミラの声は震えていた。「あのあと、私は……記憶が混乱してたんだと思う……だから、レグルスが助けてくれなかったんだと思い込んでて、責めちゃったんだ……ごめんなさい……私のせいで、ずっとレグルスを苦しませちゃって……ごめんなさい……」ミラは、レグルスの目を見た。「今さら許してもらえないだろうけど……、本当に……ごめんなさい……」
「オレは……別に気にしてねぇよ……」
「ごめん……レグルス……いろいろと、ありがと……」
ミラの桜色の唇が、レグルスの頬に優しく触れた。
「――!!」途端に、レグルスの顔が真っ赤になる。「な、な、何やってんだ」
「助けてくれたお礼だよ?」涙ぐんだミラが微笑む。
「んなもん……別にいいのに」
「お前たちは本当に仲がいいのな」シャウラが含んだ笑みを浮かべ、兄妹を見る。
「ニャ。良かったニャ!!」チェルシーは腕を組んで頷いた。
「そういえば……チェルシーはどうしてたんだ?」レグルスが訊いた。
「ニャニャッ!! 話せば長くなりますがニャ……」
チェルシーは、語り始めた。
ボクは、レグルスと別の道を選んだ後、雪山内部をいろいろと探索してたのニャ。採掘はピッケルが無かったからできニャかったけど、いろいろ見て回っているだけでも、楽しかったのニャ!!
探索しているうちに、気が付いたら岩山の上に出ていたのニャ。下に降りるのも怖いし、吹雪で何も見えなかったから、引き返そうとしたときニャ……。
突然、下からすごい音がしたのニャ!! 気になって下を覗いたとき、ちょうど吹雪が切れたのニャ。そこから垣間見えたのは……、レグルスとミラが金色のモンスターに攻撃されて吹っ飛んでしまったところだったのニャ!! 二人はそのまま崖の下へ真っ逆さま……!!
ボクは二人を見つけて助けるために、元来た道を急いで引き返して、その場所に行こうとしたニャ。でも、地図もないし、吹雪で視界も悪かったから、自分がどこにいるのかまったくわからなかったニャ……。
ずっと吹雪の中を
随分時間も経っていたし、もう二人は崖の下で氷漬けになっているかもしれないという、最悪の状況が脳裏を
目的地に向かうにつれて、人の声なんかも聞こえてきたのニャ。聞き覚えのある声もあったから、ボクは全速力で走ったニャ。
ちょうど、あのエリアに着いたときニャ。あの金色のモンスターが、レグルスを襲おうとしているではないかニャ!!
早くモンスターの気を引かないと、レグルスが死んでしまう――。そう悟ったボクは、何か投げるものは無いかとポーチの中を
「……それで、ちょうどモンスターの頭に石が当たって、アイツの動きが止まったのまでは
「そのあと、チェルシーはラージャンに止めを刺した、と……」レグルスが言った。
「うーん……、それじゃ、怒りで我を忘れていたのかもしれないニャ」
「怒り?」ミラが訊いた。
「レグルスたちを二度も殺そうとしたアイツに、殺意を抱いたのかもニャ」
「なるほどな……。チェルシー、助けてくれてありがとな」
レグルスは、チェルシーの頭をくしゃくしゃにするように撫でてやる。
「ありがとね、チェルシー」
「ニャんのニャんの!」
チェルシーは「あとで一緒にお風呂に入ろうね」という言葉を望んでいたが、それは聞けなかった。
「あ、さっきの話を聞いて疑問に思ったんだけどさ、なんであの吹雪の中に長時間いて凍えなかったんだ?」レグルスが訊いた。
「ニャ……あっ!! 〝特製ホットドリンク〟のおかげだと思うニャ!!」
「何だそれ?」
「トウガラシをいつもの何倍も入れた、ボク特製のホットドリンクニャ。飲んだ瞬間、
「へぇ……。あと、ポーチの中に何で石が入ってたんだ?」
「それはボクも謎ニャ……」
「……あ!!」ミラは何かを思い出したようだ。
『え?』レグルスとチェルシーの声が重なる。
「もしかして、あの爆弾採掘かなぁ? あのとき、チェルシーのポーチに石が入った。それしか無いんじゃない?」
「に、ニャるほど!!」
「それじゃ、またしようね? 爆弾採掘」
ミラがにっこり笑うと、チェルシーは頭を抱えて発狂した。
「……でも、チェルシーにいいとこ取られちゃったなぁ」
「あー……あの勝負か? そうだな、チェルシーの勝ちになるのか……うん」
「……ニャ? 何の話ニャ?」
「先にラ―ジャンを狩れた方……、つまりは止めを刺した方が勝ちって勝負だったよね」
「あぁ、そうだったな」
「あーあ、チェルシーに取られたー」ミラが目を細めてチェルシーの方を見る。「お仕置きだね」
「ニャ……ァァァァ……」チェルシーの顔から血の気が引く。
「……ってなわけで~」
「ヒィ………………」
「私が美味しい料理作ってあげる」
「……ニャ?」
「あれ? イヤなの? じゃ、チェルシーをお料理しちゃおっと」
「ぼ、ボクのお肉は美味しくないのニャ……」
「ぶっ。じょーだんに決まってるじゃん!! あはははははは」ミラが笑い出す。
「……良かったニャ」チェルシーは、ほっと胸を撫で下ろした。
「ミラに、食事を作ってもらえるのか……」シャウラが呟いた。「それじゃ、みんなの分も作ってくれよ」
「うー……。まぁ、やってみようかな。自信ないけど」
「お、もうすぐ村に着くぞ」
ポッケ村。
既に陽は落ち、暗くなっていた。吹雪は止み、空を覆っていた雲もすっかり無くなっていた。星も見えてきている。
「おかえり~」ギルドマネージャーが荷車に向かって手を振っている。「オババ様、あの子たちも無事みたいよ」
「それはよかったの」村長は頷いた。
村長たちの目の前で、荷車は止まった。
「ただいま帰りました」シャウラが一礼する。
「あら……腕が無くなっちゃってるわね」
「……はい。奴は手強かったです。でも、この子たちのお蔭で無事に狩れたようなものですよ」シャウラは兄妹をちらっと見る。
「そう……」ギルドマネージャーは兄妹の方へ歩いていく。「あなたたち」
『は、はい』レグルスとミラの声が重なった。
「ハンターズギルドが立入禁止にしていたのに、勝手に入った罪は重いわよ~」
二人は黙って、俯いている。
「そうね、最悪の場合はハンターの資格を剥奪ねぇ。もう一生ハンターには戻れません」
「ま、待ってくださいニャ!!」チェルシーが二人の後ろから出てきた。「レグルスとミラは悪くないのニャ!! ボクが悪いのニャ!! ボクが勝手に入っていってしまったから、二人は仕方なくボクを追う羽目になってしまったのニャ!! 二人は悪くないんですニャ!!」
「チ、チェルシー……」兄妹は、突然の事に面喰っていた。
「どうか責めるなら、ボクだけにしてくださいニャ!! お願いしますニャ!!」チェルシーは地面に頭を付けた。
ギルドマネージャーは小さく溜め息をついた。
「……ごめんなさい、ちょっと脅し過ぎたわね。大丈夫。みんな無事に戻ってこれただけで私は嬉しいわぁ」
「え……、じゃあ……」
兄妹が顔を上げると、ギルドマネージャーは微笑んだ。
「処分は無しよ~」
『あ、ありがとうございます!!』
「よ、良かったニャ……」
「よかったなお前たち。とくにチェルシー。必死さが伝わったよ」シャウラがチェルシーの頭に手を置いた。
「ホントは、朝の行動、全部見てたんだけどね~」ギルドマネージャーが言った。
「え!?」ミラが一番驚いた。
「ミラちゃん、だったっけぇ? あなたが先陣を切ってたわよね~」
「あ、は、はい……」ミラの声は裏返っている。
「見てたのに、なんで止めなかったんですか」レグルスが訊いた。
「オババ様が引き止めなくていい、って言うから~」
「ふむ。そうだったの。ま、ヌシたちが無事で何よりじゃ」村長が言う。
「皆疲れているから、さっさと休ませてくれないか」老人は不機嫌そうだった。
「そうね~。今夜はゆっくりしなさいよ~」
『はいっ』
宿の部屋。
「もう着替えたか?」レグルスが戸の外から部屋に向かって言う。
「うん、着替えた」
「じゃ、入るぞ」レグルスは戸を開けた。
「チェルシー、食材の買出しに行くよ」ミラがチェルシーの手を引っ張る。
「待ってニャ。ボクも装備を外したいのニャ」
「待たないよ」
「ひどいニャ」
「待つよ」
「ニャ」
「オレはどうしようかな」レグルスは防具を外している。
「部屋にいればいいじゃん。外寒いし」
「でも、さっきちらっと見たけど、星が結構出てたんだよな。見ようかな」
「好きにすればいいよ。あ、チェルシー準備できた?」
「できたニャ」
「じゃ、いってきます」
そう言うと、ミラとチェルシーは部屋から出て行った。
(……やっぱ、星を見るのはもっと暗くなってからでいいかな)
レグルスは着替えを終えると、ベッドの上に横になった。
*
「起きろ――――っ!!!!」
痛みと大声で、レグルスは目を覚ました。
「ってぇ……。なんだミラかよ」レグルスは頬を
「なんだ、ってなに」ミラがぷくっと頬を膨らませる。「早く来て、集会所へ」
「集会所?」
「ご飯だよ!」
「あ、あぁ、そうか」
ミラが
集会所。
「おう。寝てたのか、レグルス」シャウラは集会所にある大きな机の前の長椅子に座り、酒を飲んでいる。
「寝てました」レグルスはシャウラの隣に座った。シャウラの向かい側には、あの老人がいる。「でも……なんで集会所に?」
レグルスの質問に、老人が答えた。
「皆が集まれるところといえば、ここが一番だ」
「そうですね」
そのとき、ミラが料理を運んできた。
「はーい、皆さん、お待たせしました~っ!!」そして、料理が盛り付けられた皿を机の上に置く。「精一杯作りました~」
「うーん……見た目はまぁまぁだな」レグルスが言う。
「まぁまぁって何。がんばって作ったのに。さ、皆さん召し上がれ」
「野菜と肉の炒め物……?」レグルスはフォークを肉に突き刺し、口へ運ぶ。「う……」レグルスは口を押さえた。
「味はどう?」
「う、う、うん、うまいよ」
「どれどれ、俺も食べてみるか」
シャウラと老人もミラの料理を口へ運んだ。途端に、二人の顔の色が変わる。
「どうですか~?」
「う、うん。おいし……いよ」シャウラの口元は歪んでいる。
「こんなものは、今まで食べたことがない」老人も驚きを隠せないようだ。
「よかった~!! じゃ、次の料理も運んできますね!!」
そう言い残し、ミラは集会所から出て行った。
「味、どうでした?」レグルスが小声で言った。
「不思議な味がしたなぁ」シャウラは酒を飲んだ。
「食えないこともないが、妙な味だった」老人はミラの料理を食べている。
次に、チェルシーが料理を運んできた。
「ニャニャッ!! ボクも料理作ってきましたニャ!! 躰が温まる特製スープですニャ!!」
『おぉっ』三人の目の色が変わった。スープから溢れる匂いは、嗅いだだけで、それを食べた気分になれるようなものだ。
「どうぞ、召し上がってくださいニャ!!」
三人はスープを
『うまいっ!!』声が揃った。
「さっすがチェルシー。料理の腕は超一流だな」
「お前たちにこんなオトモアイルーがいるなんてな。うらやましい限りだぜ」
「こんな美味いスープは初めてだな」
「照れますニャ……」チェルシーは頭を掻いた。「ん? 何ニャ、これ? ミラの料理かニャ?」チェルシーはミラの料理に手を伸ばす。「盛り付けはまぁまぁと言ったところかニャ。もうちょっと、彩りを良くした方がいいかもしれないニャ」そう言うと、口に肉を放った。その瞬間――
「まっず―――――――っ!!!!!!」チェルシーは肉を吐き出した。
「何ニャこれは!! こんなマズイもの、生まれて初めて食べたニャ!! ボクが料理を習い始めた頃でもこんな味はしなかったニャ!! 味付けが下手というか、調味料を間違えたのかニャ!?」チェルシーは次々とに罵倒の言葉を並べる。「こっちは焦げてるし、こっちの肉は生焼けニャ!! 野菜も味がおかしいのニャ!!」
「お、おい……チェルシー!!」レグルスが口の前で人差し指を立てた。しかし、チェルシーはなおも喋り続ける。
「こんな簡単な料理をこんなにマズくできるニャんて、ミラは本当に料理がヘタクソニャね!!」
「ヘタクソですいませんでしたねぇ……」
「そうニャ!! ヘタクソだニャ!!」チェルシーが振り向くと、そこにミラがいた。「ニャッ……!? い、いつの間に……」
「そうだね……、チェルシーが『まっずー!』って叫んだ所から全部聞いてたよ……」
「ひ、ヒィィィィィィィィィィッ!!」チェルシーの体毛が逆立つ。死を悟ったチェルシーは逃げ出した。
「待てっ!! 逃げるのかこのクソ猫!!!!」ミラは血相を変えてチェルシーを追う。
「だ、誰か助けてニャァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」
「死ねぇ!!」
「生きたまま食われるのは嫌ニャァァァァァ!!!!」
集会所の中が騒がしくなった。
「ま、チェルシーが悪いから仕方ないよ」レグルスが言った。
「そうだな。はははは……」シャウラが笑う。
「愉快愉快。はっはっはっはっは!!」老人も高らかに笑う。
宴会は、夜中まで続いた。
宴会が終わった後、レグルスはポッケ農場の川のほとりに大の字になっていた。
足音が聞こえてくる。足音の主は、レグルスの横に座った。
「お疲れ、レグルス」
「いえ。シャウラさんの方こそお疲れ様です。……休まなくて大丈夫なんですか」
「俺は大丈夫だぜ」
「師匠がそう言うなら、オレは何も言いませんけど」
「ま、そんなに心配することはない。それよりお前だ。怪我は大丈夫なのか」
「ええ。大丈夫ですよ」レグルスは腹を
「そうか……。急所が外れていてよかったが、あんなに早く目を覚ますとは思ってもいなかったな。あの爺さんが言ってたよ、お前の生命力はすごいな、って」
「いや、全部あのジィさんの治療のおかげですよ」
「そうか……」
「あのジィさん、どんな治療をしてくれたんですかね」
「確か、爺さんは〝秘薬〟を使ってたなぁ。俺が腕を失ったときも、それを使ってた」
「そうだったんですか……」
冷たい風が吹き抜ける。二人の躰はぶるっと震えた。
「……昨日、ここでチェルシーと話をしてたんですよ」レグルスは、
「どんな話だ?」
「オレがハンターになりたての頃の話です。ちょっとだけでしたけどね」
「……俺がお前たちを誘ったときのことは今でもよく憶えてるよ」
「そうなんですか……」
「ミラは乗り気じゃなかったのは、見てても分かったなぁ」
「確かに、あれはあからさまな態度でしたからね」そう言って、レグルスは溜め息をついた。
「どうした? 溜め息なんかついて」
「いろいろあったなぁ、と思いまして」
「そりゃ、いろいろあっただろうな」
「今までいろいろあったけど、今日が一番、いろいろあったと思います」
「ま、そうだろうな……」
「ミラも、怪我が無くてよかった……」
「……すごく妹想いなんだな、お前は」
「あいつが傷つく姿は、もう見たくないんですよ……」
「ベリオロスに襲われたのは災難だったな……。申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」
「シャウラさんは本当に悪くないですって。自分を責めないでくださいよ」
「……そんなお前も、自分のこと責め続けてたんだろ?」
「ま、まぁ……」
「でも、解決したからいいじゃないか。それに、妹から素敵なプレゼントも貰えたしな」
「ち、ちょっとシャウラさん……」
「はは……すまんすまん。あ、そういえば……」
「なんですか?」
「ミラも、お前のこと本当に心配してたよ。すごく悲しそうな顔をして」
「そうですか……。ミラも、苦しい思いをしてたのか……、悪いことしちゃったな」
「お前は、本当に、妹想いだな」
「失うのが怖いんです……いつも、一緒にいるから」
「でも、大丈夫だ。お前たちが強い絆で結ばれている限り、失うことはない」
「え……?」
「お互いのことを想い合っていれば、必然的にそうなるんだよ」
「絆、かぁ……」
「そうそう、チェルシーもすごかったな」
「そうですね……あんな勇敢にモンスターに立ち向かうチェルシーは、初めて見ました」
「お前やミラを助けてやりたかったんだろう。あと、帰ってきてからも、すごかったな」
「あ……庇ってくれたやつですね」
「あぁ。俺も
「はは……」
「あいつも、お前たち兄妹のことを想ってるんだ」シャウラは、背中からぽすっと倒れ込んだ。「……星空、綺麗だな」
「えぇ。冬だし空気が澄んでいるから、よく見えますね」
「俺たちの故郷の村でも、こんな星空が見えたよな」
「はい。昔、よく見てたのを思い出します……」
「そうだな。よく見てたな、俺たち」
数秒の沈黙のあと、レグルスが呟いた。
「一つの星だけじゃ寂しいけど、たくさんの星があれば、美しい星空になる。一人じゃ寂しいけど、たくさんの人との絆で、人生は美しいものになる……」
「ん?」シャウラは躰を起こした。「どうした?」
「いえ、独り言です。気にしないでください」レグルスはシャウラの顔を一瞥すると、もう一度空を見上げた。
瞳に映る、美しく輝く