Monster Hunter ~白銀の絆~   作:鷹幸

6 / 6
最終話 絆

 ラージャンの素材剥ぎ取りと個体の記録を終えた彼らは、下山する準備をしていた。()は、もう落ちかけている。

 

「麓まで降りることができれば、そこからはポポの牽く荷車で帰れるぞ」〝第2のベースキャンプ〟から持ってきた荷物を担いだシャウラが言った。

 

「はぁ……疲れた……」ミラは座り込んだままだ。

 

「おいおい……シャウラさんはもっと疲れてると思うぜ? 1ヶ月くらいもここにいたらしいしな」小さい荷物を持ったレグルスが言う。

 

「でも、私、さっさと帰るつもりだったんだよ? なのに……」

 

「それは自業自得ってやつだろ、仕方ねぇよ。ま、シャウラさんにも会えたからいいんじゃね?」

 

「むー……。それはそうだけど……」ミラが頬を膨らませて言う。

 

「ほら、荷物持って。帰るぞ」

 

「はいはい……ってちょっと!! なんで私の荷物の方がレグルスのより大きいわけ!?」ミラは荷物を指差す。

 

「そりゃ……オレは怪我してるし」

 

「はぁ!? なんなのその理由!? 師匠は片腕を無くしても、あんな大荷物持ってるのに!?」

 

「あの人は躰が特別なんだよ!!」

 

「そんな言い訳するの!?」

 

「うるせぇな!! わかったよ!!」レグルスはミラの荷物を奪うように取った。「これでいいんだろこれで!!」

 

「ニャー……。ケンカはやめてくださいニャー……」チェルシーが荒れる双子をなだめる。

 

「ふーんだ……」ミラは機嫌が悪くなったようだった。

 

「お前たち、早く行くぞ。……おいミラ、俺を睨むな。レグルスもやけに不機嫌だな」シャウラは溜め息をつく。「さっきは兄妹良い感じだったのにな」

 

「~~~~~~っ!!」ミラの顔が紅潮する。「さっきはさっき!! 今は今!!」

 

「おっと、それはすまん」

 

「ところでシャウラさん、右腕って……」レグルスが口を開いた

 

「あぁ、回収しておいた。折角見つかったんだ、持って帰らないわけにはいかないからな」

 

「持って帰ってどうするんです?」

 

「もうくっつけられないだろうしなぁ。骨にするしかないかな」シャウラは笑う。「それはともかく。帰ろうぜ。なんか美味いものが食いたい」

 

「ワシの作る料理では不満だったかね」老人が横から言う。

 

「いや、そんなことはないですよ、爺さん。美味しかったです。食料に問題があっただけですよ」

 

「まぁ、雪山だから仕方の無いことだよ。はっはっは!!」老人は高らかに笑う。

 

「早く帰ろうよ~~」ミラは足踏みをしている。

 

「あぁ、日が暮れる前に帰らないとな」

 

 静かな雪面の上、四人と一匹は帰路についた。

 

 

 

 

 

 麓のエリア1に降りると、荷車があった。荷車にはポポが繋がれている。

 

「行きにはこんなのなかったような……?」ミラが不思議そうに荷車を見つめる。

 

「ギルドに連絡しておいたからな」老人が背負った荷物を荷車に乗せながら言う。

 

「ど、どうやって?」

 

「ワシらには、ギルドから派遣されたアイルーが付いてきていてな。彼には、主にギルドとの連絡を任せていた。そして、討伐に成功したと連絡してもらえたから、荷車が来たのだよ」

 

「そうだったんだ」

 

「荷物は乗ったな。じゃ、全員乗ろうか」シャウラがレグルスの肩を叩いた。

 

 四人と一匹を乗せた荷車は、ゆっくりと動き出した。

 

 

 

 

 ミラとレグルスは隣り合わせに座っていたが、お互い顔を背けていた。

 

「ニャー……。いい加減仲直りするのニャー……」チェルシーは頭を掻いた。

 

「……なんで」ミラは、レグルスの方に顔を向けた。「なんで、命懸けで私を守ったの?」

 

「……妹を助けるのに、理由が要るのか?」レグルスは顔を背けたままだ。

 

「……そんなの嘘でしょ?」

 

「…………」

 

「あのときのこと、まだ引き摺ってるんでしょ?」

 

 レグルスは黙ったまま、ミラに顔を向けた。

 

「……な、なんか言ってよ」ミラはレグルスを睨みつける。

 

「あぁ……ズルズルと引き摺ってたんだろうな。あの一件から」

 

「あの一件? 何だそれは……」シャウラが訊く。「もしかして、ミラの顔の傷に関係あることか?」

 

「はい……」

 

 レグルスは頷くと、あの一件――凍土で狩りをしていたときに、突如として現れた来訪者(べリオロス)に攻撃され、ミラが怪我を負ってしまったことを、シャウラに説明した。

 

「そんなことがあったのか……」シャウラは視線を落とす。

 

「あれは……オレが悪かったんだ」レグルスは俯いた。「オレが、ミラの逃げる時間を稼ごうとして、べリオロスにかかっていったのが間違いだったんだ。オレが、ミラを連れて逃げるべきだった……」

 

「いや……ミラが怪我を負ったのは、俺の責任だ。お前たちを危険な世界に引き摺り込んでしまったのは、俺だからな……」シャウラが言う。

 

「いや、シャウラさんが悪いんじゃない。全部、オレが悪いんだ……」レグルスは顔を上げる。「だから、あのとき、オレは心に誓った。これ以上ミラを傷つけたくない、傷つく姿を見たくない。そのためなら、命も懸ける、って……」

 

「ち、違う!!」ミラが突然声を上げた。「悪いのはレグルスでもシャウラさんでもない!! 私なの!!」

 

 レグルスたちは、驚いた表情でミラの方を向いた。

 

「悪いのは……私なの。逃げなかった私なの」ミラの声は震えていた。「あのあと、私は……記憶が混乱してたんだと思う……だから、レグルスが助けてくれなかったんだと思い込んでて、責めちゃったんだ……ごめんなさい……私のせいで、ずっとレグルスを苦しませちゃって……ごめんなさい……」ミラは、レグルスの目を見た。「今さら許してもらえないだろうけど……、本当に……ごめんなさい……」

 

「オレは……別に気にしてねぇよ……」

 

「ごめん……レグルス……いろいろと、ありがと……」

 

 ミラの桜色の唇が、レグルスの頬に優しく触れた。

 

「――!!」途端に、レグルスの顔が真っ赤になる。「な、な、何やってんだ」

 

「助けてくれたお礼だよ?」涙ぐんだミラが微笑む。

 

「んなもん……別にいいのに」

 

「お前たちは本当に仲がいいのな」シャウラが含んだ笑みを浮かべ、兄妹を見る。

 

「ニャ。良かったニャ!!」チェルシーは腕を組んで頷いた。

 

「そういえば……チェルシーはどうしてたんだ?」レグルスが訊いた。

 

「ニャニャッ!! 話せば長くなりますがニャ……」

 

 チェルシーは、語り始めた。

 

 ボクは、レグルスと別の道を選んだ後、雪山内部をいろいろと探索してたのニャ。採掘はピッケルが無かったからできニャかったけど、いろいろ見て回っているだけでも、楽しかったのニャ!!

 探索しているうちに、気が付いたら岩山の上に出ていたのニャ。下に降りるのも怖いし、吹雪で何も見えなかったから、引き返そうとしたときニャ……。

 突然、下からすごい音がしたのニャ!! 気になって下を覗いたとき、ちょうど吹雪が切れたのニャ。そこから垣間見えたのは……、レグルスとミラが金色のモンスターに攻撃されて吹っ飛んでしまったところだったのニャ!! 二人はそのまま崖の下へ真っ逆さま……!!

 ボクは二人を見つけて助けるために、元来た道を急いで引き返して、その場所に行こうとしたニャ。でも、地図もないし、吹雪で視界も悪かったから、自分がどこにいるのかまったくわからなかったニャ……。

 ずっと吹雪の中を彷徨(さまよ)い続け、もうダメだと諦めかけたそのときニャ。さっき見たモンスターの咆哮が聞こえてきたのニャ。アイツがあのエリアからあまり動いてないと踏んで、咆哮が聞こえた方向にむかって走ったのニャ。

 随分時間も経っていたし、もう二人は崖の下で氷漬けになっているかもしれないという、最悪の状況が脳裏を(よぎ)ったニャ。

 目的地に向かうにつれて、人の声なんかも聞こえてきたのニャ。聞き覚えのある声もあったから、ボクは全速力で走ったニャ。

 ちょうど、あのエリアに着いたときニャ。あの金色のモンスターが、レグルスを襲おうとしているではないかニャ!!

 早くモンスターの気を引かないと、レグルスが死んでしまう――。そう悟ったボクは、何か投げるものは無いかとポーチの中を詮索(せんさく)したのニャ。そしたら、ちょうど手頃な大きさの石が入っていたから、思いっきり投げたのニャ。

 

「……それで、ちょうどモンスターの頭に石が当たって、アイツの動きが止まったのまでは(おぼ)えてるんだけどニャ、そのあとの記憶が一部無いのニャ。気が付いたらモンスターが倒れていたニャ」

 

「そのあと、チェルシーはラージャンに止めを刺した、と……」レグルスが言った。

 

「うーん……、それじゃ、怒りで我を忘れていたのかもしれないニャ」

 

「怒り?」ミラが訊いた。

 

「レグルスたちを二度も殺そうとしたアイツに、殺意を抱いたのかもニャ」

 

「なるほどな……。チェルシー、助けてくれてありがとな」

 

 レグルスは、チェルシーの頭をくしゃくしゃにするように撫でてやる。

 

「ありがとね、チェルシー」

 

「ニャんのニャんの!」

 

 チェルシーは「あとで一緒にお風呂に入ろうね」という言葉を望んでいたが、それは聞けなかった。

 

「あ、さっきの話を聞いて疑問に思ったんだけどさ、なんであの吹雪の中に長時間いて凍えなかったんだ?」レグルスが訊いた。

 

「ニャ……あっ!! 〝特製ホットドリンク〟のおかげだと思うニャ!!」

 

「何だそれ?」

 

「トウガラシをいつもの何倍も入れた、ボク特製のホットドリンクニャ。飲んだ瞬間、火竜(リオレウス)みたいに炎が吐けるんじゃニャいかってくらい辛かったニャ」

 

「へぇ……。あと、ポーチの中に何で石が入ってたんだ?」

 

「それはボクも謎ニャ……」

 

「……あ!!」ミラは何かを思い出したようだ。

 

『え?』レグルスとチェルシーの声が重なる。

 

「もしかして、あの爆弾採掘かなぁ? あのとき、チェルシーのポーチに石が入った。それしか無いんじゃない?」

 

「に、ニャるほど!!」

 

「それじゃ、またしようね? 爆弾採掘」

 

 ミラがにっこり笑うと、チェルシーは頭を抱えて発狂した。

 

「……でも、チェルシーにいいとこ取られちゃったなぁ」

 

「あー……あの勝負か? そうだな、チェルシーの勝ちになるのか……うん」

 

「……ニャ? 何の話ニャ?」

 

「先にラ―ジャンを狩れた方……、つまりは止めを刺した方が勝ちって勝負だったよね」

 

「あぁ、そうだったな」

 

「あーあ、チェルシーに取られたー」ミラが目を細めてチェルシーの方を見る。「お仕置きだね」

 

「ニャ……ァァァァ……」チェルシーの顔から血の気が引く。

 

「……ってなわけで~」

 

「ヒィ………………」

 

「私が美味しい料理作ってあげる」

 

「……ニャ?」

 

「あれ? イヤなの? じゃ、チェルシーをお料理しちゃおっと」

 

「ぼ、ボクのお肉は美味しくないのニャ……」

 

「ぶっ。じょーだんに決まってるじゃん!! あはははははは」ミラが笑い出す。

 

「……良かったニャ」チェルシーは、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「ミラに、食事を作ってもらえるのか……」シャウラが呟いた。「それじゃ、みんなの分も作ってくれよ」

 

「うー……。まぁ、やってみようかな。自信ないけど」

 

「お、もうすぐ村に着くぞ」

 

 

 

 

 

 

 ポッケ村。

 既に陽は落ち、暗くなっていた。吹雪は止み、空を覆っていた雲もすっかり無くなっていた。星も見えてきている。

 

「おかえり~」ギルドマネージャーが荷車に向かって手を振っている。「オババ様、あの子たちも無事みたいよ」

 

「それはよかったの」村長は頷いた。

 

 村長たちの目の前で、荷車は止まった。

 

「ただいま帰りました」シャウラが一礼する。

 

「あら……腕が無くなっちゃってるわね」

 

「……はい。奴は手強かったです。でも、この子たちのお蔭で無事に狩れたようなものですよ」シャウラは兄妹をちらっと見る。

 

「そう……」ギルドマネージャーは兄妹の方へ歩いていく。「あなたたち」

 

『は、はい』レグルスとミラの声が重なった。

 

「ハンターズギルドが立入禁止にしていたのに、勝手に入った罪は重いわよ~」

 

 二人は黙って、俯いている。

 

「そうね、最悪の場合はハンターの資格を剥奪ねぇ。もう一生ハンターには戻れません」

 

「ま、待ってくださいニャ!!」チェルシーが二人の後ろから出てきた。「レグルスとミラは悪くないのニャ!! ボクが悪いのニャ!! ボクが勝手に入っていってしまったから、二人は仕方なくボクを追う羽目になってしまったのニャ!! 二人は悪くないんですニャ!!」

 

「チ、チェルシー……」兄妹は、突然の事に面喰っていた。

 

「どうか責めるなら、ボクだけにしてくださいニャ!! お願いしますニャ!!」チェルシーは地面に頭を付けた。

 

 ギルドマネージャーは小さく溜め息をついた。

 

「……ごめんなさい、ちょっと脅し過ぎたわね。大丈夫。みんな無事に戻ってこれただけで私は嬉しいわぁ」

 

「え……、じゃあ……」

 

 兄妹が顔を上げると、ギルドマネージャーは微笑んだ。

 

「処分は無しよ~」

 

『あ、ありがとうございます!!』

 

「よ、良かったニャ……」

 

「よかったなお前たち。とくにチェルシー。必死さが伝わったよ」シャウラがチェルシーの頭に手を置いた。

 

「ホントは、朝の行動、全部見てたんだけどね~」ギルドマネージャーが言った。

 

「え!?」ミラが一番驚いた。

 

「ミラちゃん、だったっけぇ? あなたが先陣を切ってたわよね~」

 

「あ、は、はい……」ミラの声は裏返っている。

 

「見てたのに、なんで止めなかったんですか」レグルスが訊いた。

 

「オババ様が引き止めなくていい、って言うから~」

 

「ふむ。そうだったの。ま、ヌシたちが無事で何よりじゃ」村長が言う。

 

「皆疲れているから、さっさと休ませてくれないか」老人は不機嫌そうだった。

 

「そうね~。今夜はゆっくりしなさいよ~」

 

『はいっ』

 

 

 

 

 

 

 宿の部屋。

 

「もう着替えたか?」レグルスが戸の外から部屋に向かって言う。

 

「うん、着替えた」

 

「じゃ、入るぞ」レグルスは戸を開けた。

 

「チェルシー、食材の買出しに行くよ」ミラがチェルシーの手を引っ張る。

 

「待ってニャ。ボクも装備を外したいのニャ」

 

「待たないよ」

 

「ひどいニャ」

 

「待つよ」

 

「ニャ」

 

「オレはどうしようかな」レグルスは防具を外している。

 

「部屋にいればいいじゃん。外寒いし」

 

「でも、さっきちらっと見たけど、星が結構出てたんだよな。見ようかな」

 

「好きにすればいいよ。あ、チェルシー準備できた?」

 

「できたニャ」

 

「じゃ、いってきます」

 

 そう言うと、ミラとチェルシーは部屋から出て行った。

 

(……やっぱ、星を見るのはもっと暗くなってからでいいかな)

 

 レグルスは着替えを終えると、ベッドの上に横になった。

 

 

 

          *

 

 

 

「起きろ――――っ!!!!」

 

 痛みと大声で、レグルスは目を覚ました。

 

「ってぇ……。なんだミラかよ」レグルスは頬を(さす)る。

 

「なんだ、ってなに」ミラがぷくっと頬を膨らませる。「早く来て、集会所へ」

 

「集会所?」

 

「ご飯だよ!」

 

「あ、あぁ、そうか」

 

 ミラが(きびす)を返して部屋から出ていく。レグルスはベッドから下りると、彼女を追った。

 

 

 

 

 

 集会所。

 

「おう。寝てたのか、レグルス」シャウラは集会所にある大きな机の前の長椅子に座り、酒を飲んでいる。

 

「寝てました」レグルスはシャウラの隣に座った。シャウラの向かい側には、あの老人がいる。「でも……なんで集会所に?」

 

 レグルスの質問に、老人が答えた。

 

「皆が集まれるところといえば、ここが一番だ」

 

「そうですね」

 

 そのとき、ミラが料理を運んできた。

 

「はーい、皆さん、お待たせしました~っ!!」そして、料理が盛り付けられた皿を机の上に置く。「精一杯作りました~」

 

「うーん……見た目はまぁまぁだな」レグルスが言う。

 

「まぁまぁって何。がんばって作ったのに。さ、皆さん召し上がれ」

 

「野菜と肉の炒め物……?」レグルスはフォークを肉に突き刺し、口へ運ぶ。「う……」レグルスは口を押さえた。

 

「味はどう?」

 

「う、う、うん、うまいよ」

 

「どれどれ、俺も食べてみるか」

 

 シャウラと老人もミラの料理を口へ運んだ。途端に、二人の顔の色が変わる。

 

「どうですか~?」

 

「う、うん。おいし……いよ」シャウラの口元は歪んでいる。

 

「こんなものは、今まで食べたことがない」老人も驚きを隠せないようだ。

 

「よかった~!! じゃ、次の料理も運んできますね!!」

 

 そう言い残し、ミラは集会所から出て行った。

 

「味、どうでした?」レグルスが小声で言った。

 

「不思議な味がしたなぁ」シャウラは酒を飲んだ。

 

「食えないこともないが、妙な味だった」老人はミラの料理を食べている。

 

 次に、チェルシーが料理を運んできた。

 

「ニャニャッ!! ボクも料理作ってきましたニャ!! 躰が温まる特製スープですニャ!!」

 

『おぉっ』三人の目の色が変わった。スープから溢れる匂いは、嗅いだだけで、それを食べた気分になれるようなものだ。

 

「どうぞ、召し上がってくださいニャ!!」

 

 三人はスープを(すす)る。

 

『うまいっ!!』声が揃った。

 

「さっすがチェルシー。料理の腕は超一流だな」

 

「お前たちにこんなオトモアイルーがいるなんてな。うらやましい限りだぜ」

 

「こんな美味いスープは初めてだな」

 

「照れますニャ……」チェルシーは頭を掻いた。「ん? 何ニャ、これ? ミラの料理かニャ?」チェルシーはミラの料理に手を伸ばす。「盛り付けはまぁまぁと言ったところかニャ。もうちょっと、彩りを良くした方がいいかもしれないニャ」そう言うと、口に肉を放った。その瞬間――

 

「まっず―――――――っ!!!!!!」チェルシーは肉を吐き出した。

 

「何ニャこれは!! こんなマズイもの、生まれて初めて食べたニャ!! ボクが料理を習い始めた頃でもこんな味はしなかったニャ!! 味付けが下手というか、調味料を間違えたのかニャ!?」チェルシーは次々とに罵倒の言葉を並べる。「こっちは焦げてるし、こっちの肉は生焼けニャ!! 野菜も味がおかしいのニャ!!」

 

「お、おい……チェルシー!!」レグルスが口の前で人差し指を立てた。しかし、チェルシーはなおも喋り続ける。

 

「こんな簡単な料理をこんなにマズくできるニャんて、ミラは本当に料理がヘタクソニャね!!」

 

「ヘタクソですいませんでしたねぇ……」

 

「そうニャ!! ヘタクソだニャ!!」チェルシーが振り向くと、そこにミラがいた。「ニャッ……!? い、いつの間に……」

 

「そうだね……、チェルシーが『まっずー!』って叫んだ所から全部聞いてたよ……」

 

「ひ、ヒィィィィィィィィィィッ!!」チェルシーの体毛が逆立つ。死を悟ったチェルシーは逃げ出した。

 

「待てっ!! 逃げるのかこのクソ猫!!!!」ミラは血相を変えてチェルシーを追う。

 

「だ、誰か助けてニャァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」

 

「死ねぇ!!」

 

「生きたまま食われるのは嫌ニャァァァァァ!!!!」

 

 集会所の中が騒がしくなった。

 

「ま、チェルシーが悪いから仕方ないよ」レグルスが言った。

 

「そうだな。はははは……」シャウラが笑う。

 

「愉快愉快。はっはっはっはっは!!」老人も高らかに笑う。

 

 宴会は、夜中まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 宴会が終わった後、レグルスはポッケ農場の川のほとりに大の字になっていた。

 足音が聞こえてくる。足音の主は、レグルスの横に座った。

 

「お疲れ、レグルス」

 

「いえ。シャウラさんの方こそお疲れ様です。……休まなくて大丈夫なんですか」

 

「俺は大丈夫だぜ」

 

「師匠がそう言うなら、オレは何も言いませんけど」

 

「ま、そんなに心配することはない。それよりお前だ。怪我は大丈夫なのか」

 

「ええ。大丈夫ですよ」レグルスは腹を(さす)る。「少し痛みますけど」

 

「そうか……。急所が外れていてよかったが、あんなに早く目を覚ますとは思ってもいなかったな。あの爺さんが言ってたよ、お前の生命力はすごいな、って」

 

「いや、全部あのジィさんの治療のおかげですよ」

 

「そうか……」

 

「あのジィさん、どんな治療をしてくれたんですかね」

 

「確か、爺さんは〝秘薬〟を使ってたなぁ。俺が腕を失ったときも、それを使ってた」

 

「そうだったんですか……」

 

 冷たい風が吹き抜ける。二人の躰はぶるっと震えた。

 

「……昨日、ここでチェルシーと話をしてたんですよ」レグルスは、(おもむろ)に口を開いた。

 

「どんな話だ?」

 

「オレがハンターになりたての頃の話です。ちょっとだけでしたけどね」

 

「……俺がお前たちを誘ったときのことは今でもよく憶えてるよ」

 

「そうなんですか……」

 

「ミラは乗り気じゃなかったのは、見てても分かったなぁ」

 

「確かに、あれはあからさまな態度でしたからね」そう言って、レグルスは溜め息をついた。

 

「どうした? 溜め息なんかついて」

 

「いろいろあったなぁ、と思いまして」

 

「そりゃ、いろいろあっただろうな」

 

「今までいろいろあったけど、今日が一番、いろいろあったと思います」

 

「ま、そうだろうな……」

 

「ミラも、怪我が無くてよかった……」

 

「……すごく妹想いなんだな、お前は」

 

「あいつが傷つく姿は、もう見たくないんですよ……」

 

「ベリオロスに襲われたのは災難だったな……。申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」

 

「シャウラさんは本当に悪くないですって。自分を責めないでくださいよ」

 

「……そんなお前も、自分のこと責め続けてたんだろ?」

 

「ま、まぁ……」

 

「でも、解決したからいいじゃないか。それに、妹から素敵なプレゼントも貰えたしな」

 

「ち、ちょっとシャウラさん……」

 

「はは……すまんすまん。あ、そういえば……」

 

「なんですか?」

 

「ミラも、お前のこと本当に心配してたよ。すごく悲しそうな顔をして」

 

「そうですか……。ミラも、苦しい思いをしてたのか……、悪いことしちゃったな」

 

「お前は、本当に、妹想いだな」

 

「失うのが怖いんです……いつも、一緒にいるから」

 

「でも、大丈夫だ。お前たちが強い絆で結ばれている限り、失うことはない」

 

「え……?」

 

「お互いのことを想い合っていれば、必然的にそうなるんだよ」

 

「絆、かぁ……」

 

「そうそう、チェルシーもすごかったな」

 

「そうですね……あんな勇敢にモンスターに立ち向かうチェルシーは、初めて見ました」

 

「お前やミラを助けてやりたかったんだろう。あと、帰ってきてからも、すごかったな」

 

「あ……庇ってくれたやつですね」

 

「あぁ。俺も吃驚(びっくり)した」

 

「はは……」

 

「あいつも、お前たち兄妹のことを想ってるんだ」シャウラは、背中からぽすっと倒れ込んだ。「……星空、綺麗だな」

 

「えぇ。冬だし空気が澄んでいるから、よく見えますね」

 

「俺たちの故郷の村でも、こんな星空が見えたよな」

 

「はい。昔、よく見てたのを思い出します……」

 

「そうだな。よく見てたな、俺たち」

 

 数秒の沈黙のあと、レグルスが呟いた。

 

「一つの星だけじゃ寂しいけど、たくさんの星があれば、美しい星空になる。一人じゃ寂しいけど、たくさんの人との絆で、人生は美しいものになる……」

 

「ん?」シャウラは躰を起こした。「どうした?」

 

「いえ、独り言です。気にしないでください」レグルスはシャウラの顔を一瞥すると、もう一度空を見上げた。

 

 瞳に映る、美しく輝く数多(あまた)の星たち。その星たちを繋ぐように、煌めく一条の流星が、満天の星空を走っていった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。