ようこそ魔法律のお時間です   作:ビサイ

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プロローグ

 MLS。霊の犯罪を取り締まる、魔法律に関する専門家を育成する学校。

 特徴としては、海外の生徒も積極的に招かれており、その門戸は広いながらも、同時に敷居は高い。

 そんな選ばれた在校生の中でも、卒業できる者はまた少ない。才能がものをいう世界であるからこそ、途中でついていけなくなるものが少なくないからだ。

 

 その日、MLSは卒業式である。その晴れの日に、一人の少年が学長室に呼び出されていた。

 

「貴方にお仕事があるの、水鏡九十九(みかがみつづら)君」

「はあ……?」

 

 真っ白なシャツにサスペンダーを付けた灰髪の少年は首を傾げる。

 十五歳の彼は、今日を持ってMLSを卒業する事になった。それも、執行人という魔法律家の最上位の階級を持って、だ。

 素行不良、とまではいわないが決して優等生ではなかった少年がこの地位にまで上り詰めたのは、偏にその才覚があってこその物だろう。

 そんな水鏡に、MLS日本校学長である雪村十和子は日の差し込む窓辺に立ちながら微笑と共に振り返る。

 

「貴方、十五歳よね?」

「え?あ、はい……そう、ですけど……」

「これから、貴方には国立高度育成高等学校に入学して頂戴」

「え゛」

 

 唐突な指示に、水鏡は固まる。

 

「仕事内容としては、生徒として在中しつつ構内での霊障の対処が主になるわね……報酬は――――」

「ちょ、ちょっと待ってください!な、何で俺にそんな話が来てるんです?」

「ああ……そうだったわね。元々、その学校は閉じた空間で、外部からの出入りを限りなく排した場所なの。結果として、その学校は一種の吹き溜まりになってしまったわ」

「……監獄ですか?」

「生徒にとっては、遠目に見てそうかもしれないわね。玉石混交の場を作り、玉を磨き上げることを目的とした学校だもの。それで、常駐の執行人が居たのだけど……歳でね」

「あー……」

 

 雪村に言われ、水鏡も頭をかいた。

 魔法律家の仕事は、机について行うものもあるが、実地で動き続ける必要がある場合もある。霊の犯罪は一定のテリトリーを持って行われる場合が多いからだ。

 体力勝負な部分がある以上、どうしても寄る年波には勝てない。

 

「俺は、繋ぎですか?」

「一応は、そうね。凡そ三年間。入学してから卒業まで籍を置いてもらう必要があるの。報酬は、学校側から定期的に振り込まれる形よ」

「……拒否権無いんですね」

 

 がっくりと肩を落とす水鏡。

 三年間は長い。彼の計画としては、MLSを卒業後は拠点を持たずに全国を歩き回ろうと考えていたのだ。

 それが三年間の足止めを喰らう。金銭に価値を見出していない彼にとっては、長期契約には何の魅力も感じなかった。

 だが同時に、水鏡九十九は執行人といえども、卒業したばかりのペーペー。お偉いさんに刃向かうには何もかもが足りない。ごねた所で、何の得もない。

 

「………………はぁーーーー………」

 

 重い溜息と共に、少年の行く先は決まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国立高度育成高等学校。

 卒業生は希望する進路にほぼ百パーセント進む事が可能とされており、多くの中学生がここを受験する。

 

「………………はぁ」

 

 希望溢れる新入生の中で、ただ一人ため息を吐くのは水鏡九十九である。

 最寄駅から十五分ほど。人の多いバスは、見ただけでゲンナリしてしまったため彼は徒歩を選択。

 だが、その足取りは鉛のように重い。かといって、ここでバックレてしまえば彼は魔法律家としての地位を失い協会からも追い出される事になるだろう。

 才能で成り立つ仕事である魔法律家という職業。だが、どれだけ才能が優れていたとしても、その才能を評価してもらえる環境が無ければ何の意味もない。そして評価というのは、他人が下すものだ。

 

 ますます気分が重くなって、その背中は猫背になっていく。

 すると、そんな彼の背後から軽快な足取りで誰かが駆け寄ってきた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「…………あ?」

 

 声を掛けられたのが自分とは思わなかったのか、反応が遅れる水鏡。

 振り返れば、そこに居たのは淡い髪色をしたかなり豊満な体つきの少女だった。

 その目を見返して、水鏡は眉を少し上げる。

 

(へぇ…………()()()()()、か。ここまでの奴は、あの人以来か?)

 

 人は、大なり小なり打算というものをその内に抱えている。水鏡は、その事をとある事情からよく知っていた。

 そんな彼から見て、自身へと声を掛けてきたのは純粋な善人だった。打算無く、ただただ心配だけを抱えて自分に声を掛けてきた。

 

「………いや、大丈夫だ。悪いな、少し考え事をしてて」

「そっか……新入生、だよね?」

「ああ」

「にゃはは、私もそうなんだ」

 

 人懐っこい笑みを浮かべる彼女は、成程独特な雰囲気がある。

 天性の人たらし。オマケに抱えた善性が滲み出ているからか、自然と周囲に人が集まるタイプ。

 

 同時にそれは、()()()()()

 

(こんな人間を集めたら、そりゃあ霊の煮凝りみたいになるだろうよ………)「………………はぁ」

 

 内心の懸念が強まり、それのせいで口から零れた溜息。

 

「本当に大丈夫?なんだか、顔色も悪そうだけど……」

「大丈夫だ。ちょっと気が重いだけでな」

「そ、そう?……あ、私は一之瀬帆波。よろしくね」

「……水鏡九十九(みかがみつづら)

「よろしく、水鏡君」

 

 微笑んでくる一ノ瀬に、水鏡は肩を竦めた。

 スカしているとかそう言う事ではなく、彼の仕事に恐らくかかわる相手だろうと水鏡は一ノ瀬に対して思ってしまったからだった。

 そのまま自然と流れで並び立って学校への道を進む二人。

 校門をくぐり、そして、

 

(うっそだろ、おい……)

 

 水鏡九十九は愕然とした。思わず、足を止めてしまう程に。

 となりを歩いていた一ノ瀬が不思議な顔をしているが、生憎と今の彼にそんな余裕はない。

 

(おいおいおいおい、何だよコレ。墓地の上にでも学校を建てたのか?)

 

 魔法律家の中でも最高階級の執行人に成れるのだ、水鏡の霊感は常人のそれを遥かに超える。

 その鋭敏ともいえる感覚を宿した目が見たのは、この学校のあちこちにべっとりと刻まれた霊の触った跡、“霊痕(れいこん)”である。

 チラリと視線を動かせば、霊痕は学校の門からピッタリ内側までしか残っていない。裏を返せば、この門より内側は霊の温床であるという事の証左。

 改めて、最悪な任務を割り振られた。その認識を新たにする水鏡。

 

(雑魚は山ほど。もともと、墓地か最悪無縁仏か。広い土地を求めて、安い場所を買い叩いたのか。とにかく、碌な処置もせずに、そのまま学校を建てやがったな?だから嫌なんだ、見えない奴らのお役所仕事は!)

 

 魔法律など、見えない人間からすればオカルト同然。胡散臭い霊感商法まがい扱いを受ける事も珍しくない。

 だが、この世界に確かに霊は居る。そして、意図しようとしまいと、彼らは生者に大なり小なりの悪影響を齎す。

 ちょっと疲れる程度ならば、御の字だ。最悪命を貪られ、悪霊の一体に成る事も珍しくない。

 

(クソがよ……)

 

 前任者は何をやっていたんだ、と思わずにはいられないが如何に執行人であってもその実力には大きな開きがある。

 少なくとも、木端霊ばかり相手にしてきた者ならば、十年以上残る大物霊は相手取れないだろう。

 

「……はぁ……」

 

 初日から、幸運の全てを使い切ってしまいそうな水鏡であった。

 

 

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