ようこそ魔法律のお時間です 作:ビサイ
一年Dクラス。それが、
校舎内は、成程金を掛けている。同時に水鏡が気になったのは、大量の監視カメラとそれから霊痕の量だ。
(外もよっぽどだったけど、やっぱり中も、か。確定で、数体程度じゃねぇな)
地獄かな?と現実逃避したい水鏡。その眼は限りなく死んでいる。
機械的に歩を進め、辿り着いた教室。扉を開けて中に入れば、数人の生徒たちが既に各々の席に座ったり、交流を深めたりしている所。
ついでに、こちらにも霊痕がべっとり。
(地獄絵図……とりあえず、ここから始めるか)
ゲンナリとしながら、自分の机に向かうついでに通路を通りながら霊痕を数える。
というのも、霊というのは執着心が強いものだ。特に、生前の執着に影響されて行動を起こす場合が多い。
それは、恨みや憎しみ、怒りと言ったマイナスの感情から。生者に対する心配や、家族に対する愛情迄実に様々。
そして、霊というのは執着したモノにベタベタと触れて痕跡を残す。学校入り口の門の近くに大量の霊痕があったのは、外に出たかったのか、或いは
(満遍なくとも思ったが……数が多いのは、窓際近くの一つ。それと……教卓?こっちは随分と……)
自分の席について、水鏡は眉をひそめた。
教室内には廊下と同じく複数の監視カメラが設置されている。隠されてはいるが、全方位からまるで生徒たちの一挙手一投足を見逃さないようにしているように。
それともう一つ、彼が気になった点。
窓際の席と、執拗に霊痕の残った教卓周辺だ。
(……あの席は通り道で、結果的に触ってるとして。なら、狙いは教卓の方か)
椅子に座って睨むようにして考えるのは、霊の行動について。
(教卓……その物じゃないな。特別な品には見えない。曰く付き……という訳でもないだろ。というか、曰く付きの教卓ってなんだ?……兎も角、教卓じゃなく狙ってるのは、その場に立つ存在。まあ、教員だわな)
当たりを付けて、更にそこから思考の網を広げていく。
(教員狙い。この学校は、特殊だ。横流ししてもらった資料にちょっと目を通したが……アレだな、詐欺だ。詐欺。嘘は言ってないが、本当の事を言ってもいない。この学校の大半の生徒は、一部を磨き上げるための路傍の石。でも、
土地そのものの悪さと、学校の風潮。そして生徒その物の気質。
様々な要因が絡み合って、この場所は霊の煮凝りとなっていた。
(とりあえず、今日中にこいつだけでも解決するか。ここまで活発に動き回ってるのなら、早晩教師の何人かが消えそうだしな)
一応の取っ掛かりを決めて、水鏡は肩から力を抜いた。
魔法律家の仕事は、警察と裁判所の二つを同時進行で行っていくようなもの。本来は、執行人一人で行うものではなく裁判官以下の書記官を複数人用いて事に当たる。
だが、水鏡には現状使える部下など居ない。仮に、急ごしらえで人員を補給しようと思っても霊感持ちでなければそもそも霊が見れず、仮に霊感があっても弱ければやはり見えない霊が居る。
(手は、ある。問題は、俺の想定する手段が使えるかどうかだ)
無意識の内に左腕の前腕を撫でながら、水鏡は朝の時間を過ごすのだった。
@
「――――以上で、ホームルームを終了とする。授業は明日からだ」
Dクラス担任の茶柱の言葉を受けて、弛緩するクラス内の空気。同時に、水鏡は席を立つ。
(時間が無い)
霊が活発になるのは、夜だ。昼間でも活動できるには出来るが、やはり力を増すのは夜。
(霊のルートと、逃げられた時用の巣の在りか。道具の補充は……良いか)
初日から道具の補充を考えるのか、という話だが魔法律家の仕事に関しては寧ろ準備過多な位が丁度良い。
命のやり取りを行う仕事だ。用意する道具は、そのまま命綱に繋がる。
頭の中で今後の流れを決めていた水鏡。その背に、声が掛けられる。
「ちょっと良いかな」
「……あ?」
振り返れば、爽やかなイケメン。それから、気の強そうなギャルが睨んできている。
「僕は、平田洋介。折角一緒のクラスになったんだから、互いに自己紹介をする時間を取ろうと思うんだけど、どうかな」
「……水鏡九十九。悪いが、用事がある」
「そっか……ごめん。時間を取らせたね」
謝ってきた平田に右手を上げて、水鏡は教室を後にする。
向かうのは、職員室。その道すがらに確認するのは、各教室の様子だ。
(恨まれてんなぁ……)
Cクラス、Bクラス、Aクラス。何れの教卓にも霊痕がべったり。
ただ、水鏡からすればこの学校の教員が恨まれているのは分からなくもない事だったりする。
(意図的に、情報伏せてるからな。そりゃあ、学校の求める基準のエリートが最低ランクで秀才だ。馬鹿は要らねぇって話なら分からなくも無いが……優良誤認で引き込んでおいてこの扱いはねぇだろ)
恨まれるのも已む無し。
実際、Dクラスの担任である茶柱は意図的に情報を伏せていた。一応、言葉の端々に含みを持たせては居たものの人生経験の少ないつい最近まで中学生であった者たちに気付けるはずもない。
水鏡が気付けるのは、前情報とこの学校に来た目的が他の生徒と違うから。MLSを卒業した時点で、彼の進路は元より決まっている。
そろそろ癖になりそうな何度目かのため息を吐いて、水鏡は職員室へと辿り着く。
「失礼します。一年Dクラスの水鏡九十九です」
入り口で名乗れば視線が集中した。
その一人、茶柱が席から声を掛ける。
「何の用だ、水鏡」
「前任の引継ぎに来ました」
「前任……ああ、幽霊退治か」
あ、信じて無いな。茶柱の反応から水鏡は、そう判断を下す。だが、同時に霊関連を知っていたらこの学校には居られないだろうな、とも思う。
そのまま水鏡は茶柱の元へと足を進めて手を差し出した。
その手に、乗せられるのは鍵。
「なぁにしてんの?佐~枝~ちゃん?まさか、初日から生徒に粉掛けちゃったりして~?」
「失せろ、星之宮」
渡そうとしていた鍵を手元に引き戻して、茶柱の眉間にしわが寄った。
Bクラスの担当教諭である星之宮教諭だ。
「ええっと、Dクラスの水鏡くん?」
「何でしょう」
「佐枝ちゃんに用事なんだ」
「前任の引継ぎです」
「前任?…………あ!あの、お爺ちゃん?変な人だったよねぇ。夜に出歩くな!ってさ。まあ、そのお陰で夜勤が無くなったから良いんだけど、目の下にすっごい隈があってずーっとぶつぶつ何か言ってるのは怖ったわぁ」
「お喋りがしたいなら他所に行け、星之宮先生。それから、水鏡」
「はい?」
「ハッキリ言って、私はお前がこのマスターキーで良からぬ事をするのではないか、という疑問を拭えない。この鍵は、文字通りこの構内のありとあらゆる場所に入る事が可能な鍵だ。言いたい事は分かるな?」
「まあ……」
茶柱の言葉に、水鏡は肩を竦める。
本当の事を言うと、彼に鍵は必要ないのだ。魔法律家はというか執行人は鍵が無かろうとも、鍵のかかった部屋へと強制的に乗り込む手段がある。
だが、これはあくまでも強制的に、だ。日常的な見回りなどにはどうしたって向かず、尚且つ監視国家顔負けのこの学校で鍵も無しに鍵のかかっていた筈の部屋に出入りする事は宜しくない。
そこで目を付けたのが、前任の仕事を引き継ぐ形でマスターキーを手に入れる事だ。
どうしたものかと頭を掻く水鏡。そこに星之宮が絡んでくる。
「正直、私って幽霊信じて無いんだけど本当に居るの?」
「知恵」
「だって、佐枝もそうでしょ?だから、水鏡くんに鍵を渡したくない。ねえ、その幽霊退治に私もついて行っちゃダメ?」
面倒な事になった。水鏡は眉をしかめると、今夜地獄に叩き落そうと考えていた霊を思い出す。
「……分かりました」
少しの間を挟んで頷く。ただこれは、根負けではなくこの舐め腐った教師たちへと灸を据えるため。
「茶柱先生と星之宮先生。今日の夜八時に、校舎の生徒昇降口の前で落ち合いましょう」
「……本気か?」
「百聞は一見に如かず。俺がどれだけ言葉を連ねても、先生は信じられないでしょう?」
霊感を持ち幼少から霊が当たり前に視界に居る世界に生きていなければ、実感など沸く筈もない。
況してや、この学校に霊感持ちが態々来るとも水鏡は思えない。
であるのなら、もう実際に見てもらうしかないのだ。
自分たちが抱える、業というものを