ようこそ魔法律のお時間です 作:ビサイ
銀という物質には、古来より魔除けとしての側面を持っていた。
これは、毒物などに反応を示しやすく知らずの内に混入されていた毒物などから身を守る事が出来たという面から、
『――――魔具師の観点から言わせてもらえば、限定的なものね』
「でしょうね。そもそも、霊使いなら
『ええ。使役の手順と、魔具その物の用意を考えればそれこそコルトロウ家のように、タルタロスと契約をした方が早いもの』
「にも拘らず――――
受話器を耳に当てたまま、水鏡九十九は椅子の背もたれに体重を預けて天井を見上げる
彼の手元にあるのは、つい先日
霊使い、と呼ばれる禁魔法律家が存在する。彼らは、地獄の看守であるタルタロスという使者と契約する事により、霊の使役と育成、調教を行う事が出来る様になる。
ここで重要なのは、あくまでも彼ら霊使いにとって霊というのは道具であってそれ以上でも以下でもない、という点。
道具故に使い捨てる事は厭わないし、思い入れがあろうとも割り切る。
だが、今回の件は少し毛色が違った。
「
『ええ。そこは同意するわ。寧ろ、コレは魔具師が関わってるでしょうね』
「はぁー……ですよね」
『ふふふ……九十九君は、魔具師苦手だものね』
「あ、いや……リオ先生たちのお陰でそこまで先入観は無いっすよ?……まあ、面倒な輩が居るのは否定しにくいですけど」
『散々追い回されてたものね』
くすくすと受話器越しに聞こえる楽し気な笑い声に、水鏡は苦笑いを浮かべる。
電話の相手、黒鳥理緒は水鏡に魔具を卸している
水鏡が最初に電話を掛けたのは、ビコの方だったが彼女が忙しくしていた為、代わりになり、且つ魔具への造詣も深いリオへと白羽の矢が立った形。
そんな彼女が指摘する、水鏡の魔具師に対する感情。
『書は大丈夫?』
「ええ。そもそも、物が違いますしね」
『通常の書の数倍の煉出力に加えて、使用できる範囲の広さ。貴方の養父は、本当に規格外よ』
「その肝心のお師匠は、
『
「まあ、元々気分屋な人ですしね……っと、すみません。そろそろ時間っす」
『あら、もうそんな時間?ごめんなさい、あまり力に成れなくて』
「いや、魔具師としての所感が聞ければ十分です。後で現物をそっちに送るんで、解析はお願いします」
『分かったわ。体に気を付けてね』
「っす。失礼します」
通話が途切れ、受話器は電話に戻された。
そして、水鏡は徐に首輪を右手の人差し指に掛けるとゆっくりと回し始める。
一之瀬の一件後に電話を掛けた時と違って、今現在この部屋には水鏡以外にはいなかったりする。コレは、今回の件が魔法律関係でもより深い件であるから。代わりに、誓約書を書いてそれを担保とした。
「……学校内に、禁魔法律家に通じてる人間が居る、か……いや……」
自分の呟きに、内心でしっくりこない、と首を振る。
禁魔法律家が本気で動こうと思うのなら、
因みに、禁魔法律家が潰しに来るようなら、嬉々として彼はその禁魔法律家を撃退する事だろう。寧ろボコった上であえて手元に残してこき使う。
回していた首輪を止めて机の上に置き、水鏡は顎に手を当てて思考を回す。
(霊騒動……一之瀬の件は、外から持ち込まれた
考える。相手の狙いを、目的を。
前回は、霊使いを疑った。霊に手を加えるのなら、タルタロスと契約を結ぶのが一番手っ取り早いからだ。
だが、今回の件で
(リオ先生も言ってた。首輪は、
生粋の霊使い
だからこその、魔具師。
「………ダメだ、情報が足りない」
水鏡は、思考を打ち切った。彼の手元にある情報をどれだけ擦り合わせても、出てくる結果はおぼろげな輪郭ばかりでハッキリしないからだ。
とりあえず、出来る事をする。そう決めて、彼は椅子から立ち上がった。
*
「――――うーん、首輪って結構いい案だと思ったんだけどなァ」
薄暗いマンションの一室で軽い声が転がった。
「……まあ、いっか☆ 次は何を作ろうかなぁ」
悪意はない。しかし、善意も無い。
あるのは、ただ只管の探求心。
「あ、そう言えば久しぶりにあの子に会いたいかも」
魔法律書、視たいんだよねぇ。そんな声が空気にほどけて消えた。
*
面倒事は重なる。電話を終えて、教室へと戻ろうとしていた水鏡の前を塞ぐようにして三人の男子生徒が立ちはだかった。
何事かと視線を集めているが、三人組が粗暴で知られるC組の人間だと分かると声を掛けてくるような者は居ない。
「龍園さんが、お前を呼んでる」
「……誰だ?」
「つべこべ言わずに、お前はついてくればいいんだよ」
問答をする気は無い。力任せに連れていこうと、三人組の中で真ん中の最も体格のいい男子が腕を伸ばしてきた。
その腕を、水鏡は逆に左手で前腕を掴み返す形で止める。
「思い出した。お前ら、あの時に居た連中だな?で、昨日の詳細を聞きに来た、か」
「ッ……」(う、動かねぇ……!)
頷く水鏡の一方で、石崎大地は僅かに背筋を冷たくさせていた。
石崎含めた三人にとって、目の前の少年は得体のしれない存在だ。
自分達が怖気づいた怪物を片手で捻り倒した挙句、その首を刎ねて殺す姿をまざまざと眼前で見せつけられたのだから。
出来る事なら、近付きたくない。
しかし、彼らのクラスの王様がご所望なのだ。そうなれば、臣下であり奴隷である彼らに否は言えない。
石崎の緊張を感じ取ったのか、水鏡は掴んでいた腕を放した。
「荷物取って来るから、少し待ってろ」
必要以上に怖がらせるのは本意ではない。何より、水鏡としては他クラスへのパイプが繋がる事にはメリットの方が大きい。
教室へと戻った彼は、荷物を手に足早に廊下へと戻ってきた。
そうして、案内されたのはケヤキモールに存在するカラオケ。
その最奥の一番広い部屋で、待ち人は不敵な笑みを浮かべていた。
「来たか、
「……こっちの事情を知ってる奴か」
「まあな。座れよ」
顎で示された席を一瞥し、水鏡はそこに腰を下ろした。
彼を連れてきた三人は、自分達のボスである長髪の彼、龍園翔の近くに控える形をとる。
「龍園だ」
「水鏡九十九。1-D」
「単刀直入に言う。この学校の悪霊は、どれだけ居やがる?」
「溢れんばかりだな。といっても、日常生活の動線は確保してる。よっぽど変なルートを取らなけりゃ、問題ないだろ」
「チッ……面倒だな」
「俺としちゃ、アンタが何を知ってるのかも気になるけどな。霊とはどこで関わった?」
「数年前だ。俺のシマに出やがったんだ」
龍園は苦々しく吐き捨てる。
彼の人生とそのスタンスに大きな罅を入れた事件。
「……暴力も権力も通用しない存在。人間の抗いなんざ、毛ほども役に立たない圧倒的な悪意。ククク……ああ、そうだ。あの瞬間、俺は確かに恐怖した。そこにやって来たのが、奴らだ」
「魔法律家か。誰が来たんだ?」
「神主みてぇな格好をした女みたいな野郎と、目が特徴的なチビデブだ」
「
「なんだ、知り合いか?」
「まあな。それで?霊の居る事が知れたら、そっちの目的は果たせたのか?
「七割だな。元々、こっちは学校側のラインが知れりゃそれで良かったんでな」
「ライン……ああ、成程。どの程度で、学校側が生徒同士の問題に首を突っ込んでくるのか知りたかったのか」
「ククッ、察しの良い野郎だ。補足をするなら。問題解決においての、運営側の対応も見る為だな」
「悪だくみとか好きそうだもんな、アンタ。まあ、俺としては仕事の邪魔にならないなら何でも良いんだけどな」
「そこだ」
「ん?」
「残りの三割。それがお前だ」
「……生憎と、俺の恋愛対象は異性だ。他所を当たってくれ」
「ちげぇよ。俺のクラスに来いって話だ。何、気持ち悪ぃ事言ってやがる」
「冗談に決まってるだろ。で、アンタのクラスね……」
冗談めかして肩を竦めた水鏡。
逡巡……したように見えて、彼の答えは決まっていた。
「断る」
「ハッ、強情な野郎だ。――――なら、力づくか?」
凶悪な笑みを浮かべる龍園。実際、彼含めて四対一。数の上では、水鏡が劣る。
だが、生憎と水鏡九十九という少年は、人間相手に怖気づくような精神性をしていなかった。
「心配しなくとも、俺の仕事は学校全体での霊被害への対処だ。そこにクラスや学年、生徒と教師の垣根はない。何かあれば、知らせてくれればそっちに向かうさ」
「チッ……仕事って事は、上はこの惨状を知ってる訳だな?」
「そうだな。もっとも、幽霊が居るから学校を閉めます、何て言えない訳だ。政治家からすれば肝いりの政策な訳だしな」
「フンッ……まあ、良い。少なくとも、一つのクラスに固執しないとお前から言質が取れれば十分だ。目的は果たした。帰って良いぞ」
「雑だな……ああ、そうだ」
椅子から立ち上がった水鏡は、部屋の扉に手を掛けたまま龍園へと振り返る。
「特別棟の三階の一番奥の部屋に近づくのは止めといてくれ」
「……チッ、さっさと行け」
手を払う龍園に、伝えたぞと水鏡は部屋を出ていった。
薄暗い部屋。龍園は、ソファの背もたれに体を預けて、両足を乱雑にテーブルの上へと投げ出した。
「……あの、龍園さん」
「あ゛?何だ」
「アイツは、いったい何者なんです?」
「……魔法律家だ」
「魔法……?」
「ようは、お前らが見た化物を対処する奴らだ。奴ら以外に、あの化物を対処する手段はねぇ」
「ッ……!そ、そんな化物が他にも居るんですか!?」
「奴の言葉が、本当ならな。上の政治家連中が知ってるって事は、九分九厘信用していい。それから、特別棟の三階には近付くな」
「……それも、化物ですかね?」
「さあな。ただ、態々忠告してくるってんならまず間違いなく厄ネタだ。んなもんに、関わる必要はねぇって話だ」
顔を青ざめさせる三人を尻目に、龍園は思考する。
霊に関わる事になったが、関わっただけで彼自身が何かしらの対処ができる訳ではない。信条とする暴力も意味を成さない相手ならば、態々自分の方から関わる意味も無い訳で。
余談ではあるが、この不良少年は後に自分のクラスで既に魔法律家と接点を持っていた文学少女を知るのだが、その際に大きく舌打ちするのであった。