ようこそ魔法律のお時間です   作:ビサイ

26 / 28
25

 突如始まった、特別試験。

 クラス対抗のサバイバルだ。当然、その初動は迅速である事が好ましい。

 だが、ある程度の持ち直しを経たとはいえ、烏合の衆(1-D)烏合の衆(1-D)であった。

 

「トイレ一つとか、考えらんない!」

「水はいるでしょ」

「トイレとかどうでも良だろ!?それより、ここでポイント残す方が大切だろうが!」

「川でも見つければ水は問題ないだろ!」

 

 喧々諤々。ぴーちくぱーちく騒いでいる彼らだが、当人たちからすれば死活問題。

 このサバイバル試験において、300ポイントが支給されておりこのポイントは試験終了時にクラスポイントへと加算される。

 ただでさえ、最初の一ヶ月でポイントを全部吐き出した零細クラス。そんな状態で一気にクラスポイントが増えるとなれば、月に支給されるプライベートポイントが増える上に上位クラスへの昇格も見えてくる。

 一方で、このポイントは生活インフラを整える上で必要な物でもある。

 無人島だ。人の手が入って、最低限の安全などは整えてあるが裏を返せばそれだけ。

 キャンプ経験などがあれば最低限動けるかもしれないが、典型的な現代っ子には到底不可能。

 

(不毛だ……)

 

 一応の義理立てを考えてこの場に残っていた水鏡だが、何も進展する気配のない議論()を前にして自分の選択を後悔していた。

 彼としては、さっさと仕事を済ませたい。しかし、残ってしまったが故にここでふらりと消えた後がめんどくさいというのは火を見るよりも明らかという物。

 誰も舵取りが出来ていない。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐いた水鏡は、一歩前へと踏み出すと両手を前へと持ち上げた。

 

 その場に響き渡る大音量の柏手。

 思わず肩が跳ねて、全員の視線が手を打ち合わせた元凶へと向けられる。

 

「時間の無駄だろ。完全に出遅れてるぞ」

「はあ!?何なの急に!外野は黙って「あ゛?」ッ!」

 

 場を鎮めようとした水鏡に、軽井沢が噛み付いたが思いの外低い声が返って来てその肩を跳ねさせた。

 妙な緊張感に包まれ静かになったこの場に響くのは、朗々とした声。

 

「まず、衛生的にトイレは二つ。欲を言えば三つ欲しい、が人数とポイントを加味すれば二つだろ。次に水。少なくとも、川の水を飲むなら煮沸処理が出来る設備が要る」

「……そ、そのまま飲めば――――」

「生水は良くない。慣れてない人間が飲めば、腹を下す。この島が、人工的な無人島で野生動物や危険植物、毒虫の可能性を排しているとしても、それでも雨や風で不純物が溶け込んでる可能性は高い。水を買うポイントとリタイアの人数で減る可能性のあるポイント。どっちが多いか考えるべきだ」

「でもよぉ…………」

「それから、野郎はこっちにこい」

 

 場の流れを完全に掴んだ水鏡が、指招きで野郎どもを呼び寄せた。

 常ならば、反発する者も居るのだがこの状況がそれを許さない。

 大人しく集まった面々に、水鏡は目を細めた。

 

「一週間だぞ、お前ら」

「は……?」

「な、何だよ急に」

「試験期間の話なら、皆分かってると思うけど……」

「いいや、分かってない。お前ら、一週間我慢できるか?――――(●●●●)

「「「!?」」」

 

 思わぬ指摘に、野郎の背後に電流走る。

 そこに、水鏡は畳みかけるように指摘してくる。

 

「一週間だ。常日頃なら、教室や放課後位で自室では一人。でも、今この状況で同じトイレを使う。それとも、のっぱらでやるか?それはそれで、バレた時のリスクがデカいだろ?」

「…………」

「トイレ、幾ついる?」

「「二つでお願いします!!!」」

 

 池と山内の二人が勢いよく返事をする。

 話の流れとして、決まる方向へと進む中、しかし納得できない者も居る。

 

「だが、ポイントが減る事を良しとするのはどうなんだ?」

 

 待ったをかけたのは、神経質そうな眼鏡を掛けた男子。

 エロ猿三馬鹿と違い、彼は特別試験という事も加味して()()()()()を心配する必要はないのだろう。

 しかし、相手が悪い。

 

「目先の利に囚われ過ぎじゃないか?」

「何だと?」

 

 アッサリと切り捨てる水鏡に、チリッとした空気が流れる。

 だが、言葉を吐いた当人はそんな空気など知った事ではない。

 

「まず、この特別試験は今年度最初の、と真嶋先生は言った。なら、この後も特別試験はあると考えるべきだろう?」

「…………ああ」

「なら、クラスポイントを稼ぐタイミングは幾らでも来る。寧ろ、目先のポイントを優先して不和の種を抱き込む方が上手くない」

「不和の種?」

「三年間クラス替えが無いのなら、態々互いに恨む様な状況を持つべきじゃない。少なくとも、このクラスには不和も何もかも一切合切を飲み込ませるようなリーダーは居ない。それとも、アンタはソレが出来るか?」

「それは……」

 

 水鏡の静かな問いに、幸村輝彦は口を鈍らせる。

 頭は固いが、その一方でその回転は決して悪くない。高い学力も相まって、キチンと説明を受けて自分の頭で整理できるのならば感情的に訴えるような事も無い。

 纏まった事を確認し後を平田に任せて、水鏡が次に向かったのは女子の方。

 場を引っ掻き回している人間の登場に、毛を逆立てた猫のように威嚇するのは軽井沢だ。

 

「何よ!説教垂れる気!?」

「…………あんたらの中に、この一週間で月のものに当たる人間は居るか?」

「はあ!?」

 

 突然の質問に、軽井沢の目が吊り上がる。

 彼女だけでなく、他の女子陣も怪訝な表情だ。

 当然だろう。少なくとも、男子から出てくる話題ではない。

 しかし、その一方で彼が下世話な話を態々するような人間ではないと知っている者も居る。

 

「……何故、貴方がそんな事を気にするのかしら?理由を聞かせてもらえる?」

 

 一歩出てきたのは、彼の為人をある程度知っている堀北。

 彼女へと一瞬目を向け、水鏡は気まずそうに頭を掻いた。

 

「デリカシーが無いのは、分かってる。ただ、これから一週間ストレスの多い環境に身を置くんだ。オマケに、学校側から用品を支給されるとはいえ、合わない人間も居るだろ?」

「まあ……そうね」

「で、だ。そういう周期にかち合って体調を崩す様な奴も居るなら、遠慮せずリタイアしてもらおうと思ってな」

「…………本気?」

「ああ」

 

 腕を組んで見定めようとする堀北に対して、水鏡はアッサリと頷いた。

 

「誰だって、辛くて苦しいのは嫌だろ?」

「…………実感が籠ってるわね」

「まあ、な……」

 

 スッと目を逸らした水鏡には、何処か哀愁が漂っていた。

 仕事柄、性差など在って無い様なものだが、それはそれとして配慮が必要な瞬間というものが存在する。

 兎にも角にも、水鏡が彼女らへ放った言葉は彼なりの配慮を伴っての事なのだ。そして、Dクラスの女子陣は存外物分かりが良い。

 同時に、彼女らの中での水鏡に対する好感度も若干上昇。

 その後、女子は女子で話を纏める事になったが、その前に水鏡の背後へと忍び寄る影。

 

「どういうつもり?」

「どうした、急に」

 

 問うのは、堀北。死角になるよう位置を調整しながら、その口から零れるのは疑問。

 

「貴方は、クラスの問題に立ち入る気は無かったはずでしょう?そのスタンスを崩してまで、今回踏み入ったのは何故?」

「仕事の為さ」

「…………居るの?」

「らしい。この島に封印されてる奴が居て、そいつを討伐するか若しくは俺の手に負えないのなら再封印して情報収集に徹する。で、その場合自由に動ける状態が欲しかったんだ」

「……続けて」

「学校なら未だしも、一週間の共同作業となればこっちに目くじらを立ててくる奴も居るだろ?そう言うのを相手にするのは面倒だったからな。先んじて、矛先をずらせる様に細工をしようと思った次第だ」

「そう……気持ちが変わって、クラスの為に働く気になったのかと思ったのだけど」

「流石に、それはキツイな。まあ、最初に逃げ損ねたのも理由の一つではある。何で立ち止まっちまったのか」

 

 やれやれ、と首を振る水鏡。

 今回の行動は、彼の仕事における有利な状況を作る為以外の意図は無い。しかし、だからといってその口から飛び出した言葉の全てが嘘八百の口から出まかせという訳でもなかった。

 心配も指摘も、彼自身の性格が故に出たもの。況してや、慣れない環境に放り込まれるという境遇は水鏡九十九という少年にとって、文字通り身をもって経験した事でもあった。

 

 かくして、Dクラスは遅れながらも動き出す。

 

 だが、その遅れは()()()()()()を創り出してしまう事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……社、か?」

「あ、見てください葛城さん!なんか札?みたいなのが張ってありますよ!」

「弥彦。むやみに触れるな。木材の経年劣化からしてかなり古いものだぞ」

 

「大丈夫ですよ!…………ぁ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。