機動戦士ガンダム・アンダーフォーミュラ 作:アイアイホイホイおさるさん
1.
地球を襲わんとした
地球連邦の権威と支配には、その長い年月と多発した戦争により、ゆっくりゆっくりと綻びが生じ始めていた。しかしその事に気付く者は未だ少なく、地球と宇宙は着々と迫る宇宙戦国時代に気づく間もなく、退廃の中の平和を無自覚に消費していた。
時に、宇宙世紀0138年。これは宇宙戦国時代前夜に起きた、いくつかの戦いの記録。その内の一つである。
***
トライシンクは、サイド6に位置するスペースコロニーであり、スイートウォーターと同じく密閉型とオープン型を組み合わせた、戦乱や不景気を理由に生まれた無数の難民を収納するための、大規模居住型コロニーである。
そのトライシンクが点在する宇宙都市サイド6が様々な勢力に対して中立を宣言していた事もあり、トライシンクもまた争いに巻き込まれる事なく平和を謳歌していた。だが、その平和も様々な要因が重なって出来た奇跡である。しかし長い平和はそこにいる人々の感覚を麻痺させた。故に彼等は連邦の衰退による経済の悪化も、宇宙に広がるきな臭い雰囲気にも気付かず、ついにトライシンク市長「ジョット・ライアード」は愚かな決断を下す事になった。
「平和なトライシンクに軍隊はいらない。我々は銃ではなく手を取り合って生きていけるハズです」
宇宙世紀0138年4月1日。元々左派リベラル思想であり、過去の争いの歴史を反省するべきだと考えていたライアードはかねてより推し進めていた、コロニー内からの地球連邦駐留軍基地の撤退を成し遂げた。
「戦争反対!」
「戦争反対!」
「戦争いらない!」
「戦争いらない!」
「戦争反対!」
「戦争反対!」
「戦争いらない!」
「戦争いらない!」
元より辺境も辺境であるトライシンクコロニーを守り続ける事は連邦軍にとっても負担であり、それに加えて連日連夜基地の周りでプラカードを持った集団によるシュプレヒコールに悩まされるという状況で、これ以上留まっておく義理もなかった。
………この後どんな時代が待っているかを知っている我々からすれば、彼等の行動がいかに愚行であるかは分かるだろう。しかし彼等からすれば世界というのは目の届く範囲の平和であり、この行動こそが戦争の歴史を否定するという彼等なりの正義だった。
しかし、住人達からすれば生活の一部だった連邦軍がいなくなる事で、コロニー内によくない変化も起きるわけで………。
「困った、困ったねえ………」
「一番の買い手がいなくなっちまって、俺達明日からどうやって生活していきゃいいんだよ………」
トライシンクの一角にある商店街。そこで連邦軍基地に商品を売り込む事で生計を立てていた肉屋の亭主と弁当屋の亭主が頭を抱えていた。それだけでなく、連邦兵が買いに来る事で経済を回していたトライシンクの物販、娯楽、その他諸々は一番の顧客の消滅によって危機に立たされる事となった。
「へっ!あのクソ市長め!自分達の思想のためなら俺達市民が踏みにじられてもいいってのかよ!?」
「仕方ないさ。あいつらは民の生活よりも自分達をカッコよく見せるのが大事なんだよ。見ろよあの顔、自分達は正しい事してるってのに酔ってる顔だぜ」
アダルト映像ショップの店長が、テレビに映るライアードを見て毒づいた。おそらくこの手の"ええかっこしい"が次にターゲットにするのが自分のような存在だと、長年の経験から察したのだろう。
だが、この経済危機をチャンスと捉える、商魂逞しい人間もここにはいた。それは………。
***
「おーし上手いぞ!ショウ!そのままこっちへ引っ張って来い!」
「了解、教授!」
トライシンクに限らず、コロニー周辺には、宇宙空間を漂う様々なもの………特に破壊された
「見てください教授。これビームシールドですよね?」
「ウム、見た所ブッホ・コンツェルン系のパーツじゃの。なに、基本はMSじゃ。使えるパーツを頂くまでよ!」
この店の主人が直々に様々なMSのジャンクから組み上げたというハンドメイドMS「ジャンコア」を操り、流れ着いた様々なパーツを捕まえては仕分けていく二人。
片方は老人。彼は自らを「ビグウィグ教授」と名乗っているが本名は不明。ある時ふらりとこのトライシンクにやってきて、ジャンク屋ウォーターシップダウンの経営を始めた、メカニックの腕は確かだが素性のわからないおじいちゃんだ。自称元ティターンズだが、それも本当かはわからない。
「よいか?ショウ。連邦がこのコロニーから撤退するという事は、人々は自衛のためのMSを欲しがる!その時手に入れたパーツを売って、ガッポガッポというわけじゃ!がーははは!!」
「そう上手くいくといいですけどね………」
「なんじゃいショウ!そんなに弱気になって!」
「捕らぬ狸の皮算用ってことわざがあるんですよ」
「なんじゃそんなもん!このビグウィグ教授がついとるんじゃ!大船、いやホワイトベースに乗ったつもりでおれい!!」
「いや、ホワイトベースは沈んだじゃないですか!!」
そんなビグウィグ教授にツッコミを入れつつも楽しげに笑う青年。名を「ショウ・アーネスト」。
何を隠そう、この一昔前の美少女ラブコメライトノベルの主人公がごとき読者の神経を逆なでする無個性青年こそ、この物語の主人公なのである。
***
ショウ・アーネストは地球生まれのアースノイドである。しかしエリートと言うには程遠く、先進国の中流家庭に生まれた我々と近い感性のごくごく普通の一般人である。学生の頃はジュニアMSの大会でまあまあの成績を残す等、MSの操縦に関しては光るものがあった。しかしどこまでも彼は一般人であり、軍隊のシゴキには耐えられないのでその才能を社会で活かす事はできなかった。
そして、連邦の静かな衰退の煽りを受けた不景気により、彼は就活に失敗。その後バイトを転々とする内、このトライシンクコロニーに流れ着き、ビグウィグ教授に出会い、今に至る。
「………あ、閉まってる」
仕事を終え自宅に向かうショウだったが、ここでアクシデントが発生した。仕事終わりにコロッケパンを買い食いする肉屋にシャッターが降りていた。そしてシャッターには一枚の張り紙。
「誠に身勝手ながら営業を終了させていただきます………ま、まじか」
営業終了、つまり潰れていた。昔ながらの個人営業店が不景気により潰れるというのは、トライシンクに限らず田舎のコロニーではよくある事だ。仕事帰りの楽しみが無くなった事に落胆するショウ。そこに。
「お兄さん、こんにちは」
「あっ………ミミィ、ちゃん」
ショウが視線を下げると、そこに居たのは一人の可愛らしいブロンドヘアーの西洋人形のような可憐な少女。彼女は名を「ミミィ・ファンシフル」。年齢13歳。ショウの近所に母親と二人で住んでいるご近所さんだ。
「学校の帰り?」
「はい!途中まで一緒にどうですか?」
「いいね、一緒に帰ろう」
ショウとミミィの二人が並んで歩くというのは完全に案件である事はショウにも分かってはいたが、ここに引っ越して来てからの数少ない知り合いであるミミィの好意は無駄にはできなかった。それは彼女が母子家庭な上に、母親もあまり帰れていないと知っていたが故の同情もあったが、何より。
(………やっぱこないだまで
「………?どうかしました?お兄さん」
「い、いや何も………」
ミミィの胸は実に豊満であった。ついこの間まで小学生だったとは思えない程大きく、歩くたびにぷるん、だゆんと揺れていた。トランジスタグラマーという低い身長に不釣り合いな巨乳を抱えた人物を指す言葉があるが、ミミィはまさにそれだった。
………重ねて言うが、ショウはほぼほぼ善良な一般人であり、未成年に興奮する事が鬼畜外道の所業である事も承知している。が、可愛い美少女が巨大な乳をゆっさゆっさとぶら下げているなら、男としては本能が道徳を貫通して嫌でも反応してしまうのだ。悔しいだろうが仕方ないのだ。
「それで、今度学校にキャネリー隊のお姉さんが来てくれる事になって………」
そんな事を感じながら、ショウはミミィと学校でこんな事があったとか、そんな世間話を交わしながら帰路を楽しんだ。その会話の節々に、どうやら彼女は学校があまり楽しくないのでは?という疑問を感じながら………。
***
………ライアード市長は言った。人は愚かでないと。手を取り合い、銃ではなく話し合いで解決できると。
なら、これは何なのだろう?
大々的に非暴力による武装解除を報道し、連邦軍を追い出したトライシンクコロニーにゆっくりと近づく機影が3機。元々の機体にゴテゴテと追加装備をつける近代化改修を行ったそれらは、かつて何度も繰り返された回戦の予兆と同じく、誰にも気づかれる事無くコロニーの表面に張り付き、侵略を進める。
「武装解除したというのは本当だったんですね、警備のMSすら無いとは」
「へへ、お陰で仕事もやりやすいってモンよ」
内1機がシールドの内側から抜いたビームサーベルでゲートを切りつけた。まるで特殊部隊が閉ざされた鉄の扉をレーザーで溶断するがごとく、それはコロニー内部につながる扉をジジジと切り開き………。
がごんっ
と、ゲートを四角く切り裂いてしまった。彼らの視界センサーは、そこに警備システムも警備員もいないという事を確認し、意気揚々とトライシンクコロニーへと侵入してゆく。まるで、かつてクロスボーン・バンガードがそうしたように。
………この状況を生み出したのは他でもないジョット・ライアードの愚行であり、彼によって連邦という大事な顧客を奪われた人々は祈っていた「あのアホ市長に天罰が下ればいい」と。そして早くもその願いは早くも叶えられる事になりそうだった。もっとも、彼らも巻き添えになるのだが。
「ついに来たか………!」
そして、この危機的状況を特製の監視カメラで察知した者がいた。変わり者や変人、果ては兵器で商売をする死の商人と呼ばれようと、己の信念を貫き戦いに備えてきた一人のジャンク屋が。
***
突然ビグウィグ教授が店を休ませると言ってから3日が過ぎた。まさかこのまま店を閉めて夜逃げするつもりじゃないだろうなという不安を抱きながら、ショウは家でゴロゴロしていたのだが、その日はピンポンと家のチャイムが鳴った。何だろうと扉を開けると、そこに居たのはなんとミミィ。
「あの、今日は学校が休みで………よかったらお昼ごはん、ご一緒しませんか?」
………デートのお誘いという単語が脳裏を過ぎったが、ショウは持ち前の倫理観でサッと拭き取った。
ミミィに連れられてやってきたのはトライシンクのコロニーの川=オープン型のミラー展開部分に面した公園。遊具はなく、単に散歩を楽しむタイプの広場だ。そこでミミィとショウは昼食を楽しむ事にした。芝生にシートを広げ、ミミィが持参したバスケットの中のコロッケパンを食べる。
………完全にピクニックである。やっぱこれデートでは!?と喜び勇んだ本能を、相手はJCだぞふざけてんのか!?と倫理観で殴って黙らせ、ショウはコロッケパンを口に運ぶ。
「どう、ですか?」
「………ん?こりゃウマい!」
コロッケパン。サンドイッチの要領でトーストでコロッケをサンドしたそれを噛み締めた瞬間、ザクザクという衣の感覚にショウの歯が喜んだ。揚げ加減がまばらな所もあったが、それがまた食べていて楽しいと。
「よかった!上手く揚げられたみたいで………」
「えっ、もしかして………これミミィちゃんの手作り?」
「はい!昨日から準備してたんです!」
「そうかあ、嬉しいなあ………」
ニコニコと笑うミミィと美味しいコロッケパンに、そよ風が流れる公園。思わずショウの心は暖房がついたように暖かくなった。こんな気持ち、何時ぶりだろうか。もしミミィが将来結婚して家庭を持ったなら、きっと温かい家庭を持ついいお母さんになると思った。
「でも、なんというかごめんね?」
「えっ………?」
「だってミミィちゃん、ホントはショッピングとか遊園地とか、そういう所で遊びたいと思うんだけど………俺、そういう気の利いたエスコートみたいな事できなくてさ、はは」
同時に、ネットで聞き齧った知識であるが女子の求める幸せとかけ離れた、言ってみれば男の自分しか幸せになれていないこの"童貞が考えるささやかな幸せ"にミミィを巻き込んでいる事にショウは罪悪感を覚えていた。
「そんなっ、私全然嫌じゃないですよ!むしろ………」
と、ミミィが何か言いかけた瞬間、彼らのささやかな幸せは終わりを告げる。そう、これはふざけた内容ではあるが一応は"機動戦士ガンダム"の二次創作なのだから。
どぉッ……ン
遠くで鈍い音が響いた。僅かに地面が揺れ、公園にいた鳩は異変を察知したように一斉に飛び上がり、ショウとミミィを含めた公園にいる人々は一斉にその異変の方向を見る。
「宇宙港………?」
上空で青空の中に溶け込んでいたトライシンクコロニーの最端の宇宙港で、何か爆発が起きているのが見えた。ショウの脳に宇宙船の事故という単語が過ったが、幼少にコスモ・バビロニア戦争を経験した彼の脳は、もう一つの最悪の答えを予想。皮肉にもその予想は的中する事になった。
「なんだあれは!?」
「な、なんか来たぞ!?」
まず、宇宙港の爆煙の向こうから軌跡を引いて飛んでくる影が見えた。鳥か?飛行機か?いや違う。それは人間と同じ手足と頭を持ったシルエットをした、合金の
「
通行人が叫ぶより早く、咄嗟の判断でショウはミミィを抱き上げて跳ねるようにその場から離れた。場所が場所だ、もしコロニーの川が破壊されれば自分もろとも真空の宇宙空間に放り出されると思ったからだ。
そんな彼の危惧通り、降り立ったMSは公園の芝生をバーニア噴射で焼き、逃げ遅れた人々とミミィが持ってきたコロッケパンをシートごと吹き飛ばしながら、ズシンとガンダリウム合金セラミック複合材の足で地面を踏みしめ、外部スピーカーから自らの目的を告げる。
『トライシンクコロニーの諸君に告ぐ!我々はヌーベルエグム!エゥーゴの意思を継ぎスペースノイドの自由と正義のために戦う、ニュータイプ戦士である!』