機動戦士ガンダム・アンダーフォーミュラ   作:アイアイホイホイおさるさん

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2.

 「市長!市長!緊急事態です!」

 

 突如トライシンク内に現れたMS。武装勢力の襲撃である事は明白だが、連邦軍が撤退した今コロニーを守る手段はない。どうするべきか、何をするべきか。そうでなくともこの状況を作り出したジョット・ライアード市長が全ての責任を持って行動せねばならず、副市長はこの緊急事態を収拾すべく市長室に飛び込んだ。だが。

 

 「市長………?」

 

 勤務時間だというのに、そこにライアード市長の姿は無かった。誰も座っていないイスと重要書類が抜き取られた机、そして空っぽの金庫だけがそこにあった。

 そしてその頃、MSが侵入してきた方の宇宙港の逆………トライシンクコロニーの密閉型の方にある宇宙港から、要人用のテンプテーションシャトルが発進していた。その中にライアードと彼が連邦軍追放のために呼んだ市民団体の代表を乗せて。

 

 「冗談じゃない!あんな底辺どもと心中してたまるか!クソっ!」

 

 これがライアードの本性であった。コロニーの住人など自分が宇宙棄民と戦争の難民(スペースノイドプラスアルファ)を守っているという正しさを満たす為の道具に過ぎず、このような事態になれば平気で見捨てる。こいつはそういう男、政治家の資格のないどこまで行っても三下の活動家でしかない男。それがジョット・ライアードという男だった。

 そして彼がこれを含めた様々な蛮行の報いを受けるまではあと少し、名を変えたこいつがガルマ・ザビ三世を騙りサイド3のザビ・ジオンを支配する宇宙戦国時代を待たなければならない。

 

 

 ***

 

 

 幼少以来久々の出会いとなる、本物のMSとの遭遇はショウを震え上がらせる。職業見学の時と違うのは、それが連邦主体の技術で作られたジム系と呼ばれる機体ではなく宇宙主体の設計思想で作られた機体である事。もう一つは、それらが自分に危害を加える存在である事。

 

 「こ、こいつは………ジオンのザクか!?」

 

 ショウが思わず漏らした通り確かに外見はかのザクにそっくりだが、厳密にはそうではない。ベースとなったのはテロ組織オールズモビルが設計したザクの完全リメイクとも言える機体「RFザク」。その前期型をベースに徹底した近代化改修によりジェムズガンやF91といった現行量産機とも張り合える程の性能を確立した"彼等"の主力機。その機体には「ラフザック」という名前がつけられていた。

 

 『我々ヌーベルエグムはスペースノイドの正義と自由を得るため、このコロニーを我々の拠点として使う事にした!諸君!自らの道を開くため、難民のための政治を手に入れるために、諸君らのコロニーを我々に譲っていただこう!』

 

 自由だの正義だのを掲げているが、彼らの要求は結局はトライシンクを明け渡せという横暴に過ぎない。当然ながらこんな世の中でトライシンクの住人達はここを出ていっても行く場所などなく、死ねと言われているも同義である。

 

 「ふざけるな!ここはただでさえ人で満杯なんだ!テロリストの拠点を置く余裕なんて………!」

 

 公園にいた内の一人が抗議したが、次の瞬間ラフザックが持ったビームマシンガンが上空に向けてズダダダッと放たれた。目に見えてわかる脅しに、人々はたじろく。

 

 『我々は"お願い"をしているのではない!決まった事を伝えているだけだ!貴様らに拒否権はない!!』

 

 なんとも横暴の極み。口ではスペースノイドの為と言いつつコロニー内でビームを撃つ時点でお察しであるが。そして今度は脅しじゃないぞと、ラフザックがビームマシンガンの銃口を人々に向けた直後。

 

 タタタン、カンカンカン!

 

 軽い音が鳴った。ラフザックのガンダリウムの装甲にはかすり傷程度であるが、実弾の機銃が攻撃を仕掛けたのだ。何なんだぁ?今のはとラフザックが見上げると、空の彼方から向かってくる別の機影。当然ながら連邦軍の迎撃部隊ではない。

 

 「キャネリー隊だ!!」

 

 ミミィが叫んだ。空を切り裂いて飛来したのはラフザックが抱えられる程の大きさの一機の小型戦闘機。「イールカトラス」と名付けられたそれは民間向けにデチューンされた機体であり、トライシンクにある航空会社・ハマッチ航空に配備されて普段は祭り(フェス)等のイベントで航空ショーを行っている市民に馴染み深い機体。キャネリー隊は、そのパイロットである航空機部隊だ。

 

 「無茶だ!民間機でMSと戦おうなんて!」

 

 そしてショウが叫んだ通りイールカトラスは民間機。機銃こそついているが武装はそれだけ。それが見るからに軍事用機体であるラフザックに単機で挑もうなど無謀以外の何でもない。しかし連邦軍が撤退した今、戦えるのが自分しかいないと覚悟を決めて出てきたパイロットだ。臆する事なく、せめて民間人から引き離そうとラフザックに向けて効かぬ機銃を撃ち続ける。

 

 『なめているのか、貴様ァ!!』

 「わああ!」

 「きゃああ!」

 

 だがその途方もない善意はラフザックのパイロットの逆鱗に触れた。バックパックと脚部のバーニアが火を噴き、鬱陶しい戦闘機を撃滅せんとその巨体が舞い上がる。当然足元にいた人々はそれにより吹き飛ばされ、次々と宙に舞い上がった。

 

 「きゃあっ!!」

 「危ないっ!!」

 

 そしてミミィの小さな身体も爆風により舞い上がる。ショウはミミィが吹き飛ばされないように咄嗟に手を掴み、覆いかぶさった。女の子の身体に触れているとかそんな感情を感じる余裕はなかった。そこに。

 

 「おおーい!!捕まれぇーい!!」

 「きょ、教授ーッ!?」

 

 バーニアの爆風にも負けない爆風(ホバー)を吹かせながら駆けてくる一台のマシン。かつて旧ジオンが開発し、その特異な形状と味わい深さから多くの愛好家を生み今なおアナハイム・エレクトロニクスから販売されているホバーバイク「ワッパ」。その操縦席に座るのは他ならぬビグウィグ教授。

 ショウはミミィを抱きかかえたまま、駆けてきたビグウィグ教授とワッパに捕まり、電撃のような速さで公園から離脱してゆく。思わぬ援軍の登場で、二人はなんとか助かった。

 

 「教授、どうしてここに?」

 「自宅に居なかったんでな、必死に探しとったんじゃ」

 

 避難所に連れて行ってくれると思ったショウだったが、彼らを乗せたワッパは避難所とは別の場所に………彼等の職場であるジャンク屋ウォーターシップダウンへと向かっている。

 

 「何をするつもりなんです?教授!」

 「この状況をどうにかするんじゃよ!MSを倒せるのはMSだけじゃ!」

 

 戦火は確かに遠ざかってゆく。しかし眼前を飛び交う火線はいつこちらに飛んでくるやも知れない。この時ショウに出来たのは、不安と恐怖に怯えるミミィを抱きしめる事だけだった。

 

 「MSって………」

 

 しばらくワッパを走らせ、三人は目的地であるジャンク屋ウォーターシップダウンに到着した。平日の昼間だった事もあり、通りには彼等以外誰もいなかった。

 

 「さあ、こっちじゃ」

 

 ワッパを路上に停めて店内へ二人を誘うビグウィグ教授。事態は急を要するのでわざわざ駐車場に向かう余裕もない。

 

 「ワシはあのクソ市長が就任した辺りから、こんな事もあろうかと準備をしてきた!ヤツがこのコロニーから連邦軍を排除した後、予想よりも早くコロニーが危機に陥った時に戦えるようにな!」

 

 バックヤードの階段を下り作業用MS格納庫に向かうビグウィグ教授。こんな事もあろうかと、となんともヒーロー物のような事を言っているが、司法に照らし合わせるとテロ準備罪じゃないか?とショウは思った。しかし口には出さない。今も側で怯えているミミィを守るには彼のテロ準備罪に乗っかるしかないと察していたから。

 そしてビグウィグ教授の案内によってたどり着いた場所には、連中のMSに対抗する為の超強いMS………。

 

 「えと………?」

 

 ではなく、ジャンコアがいた。いつもジャンク屋の仕事でショウが動かしている、見慣れた作業用MS。

 

 「まさか、これで戦えってんじゃないでしょうね!?作業用ですよ!?」

 「がーははは!まあ見ておれぃ!」

 

 ショウの不安を他所に、ビグウィグ教授がいつの間にか持っていた手元のタブレットをスマーッと操作。それと同時に、ショウも知らない格納庫の整備システムが作動。様々な場所からロボットアームが伸びてきて、プラモデルを組み立てるがごとくジャンコアにパーツを装着してゆく。

 

 「きょ、教授!?これは一体!?」

 「クックック!作業用MSジャンコアとは世を忍ぶ仮の姿!これこそが、ワシのトライシンク防衛のための秘密兵器の姿じゃ!!」

 

 ………そういえば、胸のダクトとコックピットハッチの位置が連邦機によく見られるスタイルだったなと見守るショウと、状況を見守るしかないミミィの眼前で、ジャンコアがまったく別の機体へと生まれ変わろうとしていた。

 

 

 ***

 

 

 本来、ザクを含めた大半のMSにアニメのロボットのように空を自由に飛び回る能力はない。だが徹底した近代化改修により生まれ変わったラフザックは、コロニーの自転を利用する事で空中戦をやってのける事ができる。かつてクロスボーンバンガードがフロンティアIVでやったのと同じ理屈。

 

 『そらそらあ!逃げろ逃げろ!』

 『ぎゃははは!!』

 

 それに加えてラフザックは3機で、相手は機銃しか武装のない戦闘機アールカトラス一機。戦況は一方的ななぶり殺しになっていた。

 ………ラフザックのパイロットは気づいていなかったが、こんな状況でたりながらイールカトラスは目立った外傷はなく、撃墜されないようたちまわっているのだが。

 

 『それえっ!!』

 

 しかし、隙をついてラフザックの一機がイールカトラスに蹴りを食らわせる。ぐしゃあとエンジン部分がひしゃげ、飛行不能に陥ったイールカトラスが地上の市街地に落ちてゆく。そしてこの時もイールカトラスのパイロットは咄嗟の判断で機体を操作し、建物を避けて道路に不時着。ガリガリガリとアスファルトを切り裂きながら機体が静止する。

 

 『カトンボめ馬鹿にしやがって!俺が仕置を下してやるっ!!』

 

 そしてトドメを刺そうと降下してゆく一機のラフザック。彼の不運は、降り立とうとした場所の近くに緊急時に軍がMSを発進させる地下ハッチがあると気づかなかった事。そして連邦軍がいなくなっただけで、彼らと戦う意思を持った者がイールカトラス以外にもいた事。

 

 『………へ?』

 

 ラフザックが不時着したイールカトラスを踏みつけようとした次の瞬間。両者を遮るように、MS一機分の巨大な影が立ちはだかった。そしてラフザックのパイロットがそれが何かを判断するより早く、同じガンダリウムの豪腕がラフザックを殴り飛ばした。

 

 『う わ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ』

 

 ラフザックはそのまま後方に吹っ飛び、バラバラと頭部パーツの破片を撒き散らしながらまるで格闘漫画の三下の悪役のように転がった。

 

 『ジーパンがやられた!?』

 『な、なんだあっ』

 

 大地に立ったその姿はいかにもジオン然としたラフザックと対照的に、角ばった姿の連邦系列機のそれ。人間と同じ二つの目と二つの角。その姿はまさに………。

 

 『まさか、ガンダムなのか!?』

 「いや違うけど………」

 

 上空のラフザックのパイロットの勘違いに、その機体のコックピットにいたショウから訂正が向けられた。特徴は確かにかの伝説的MS・機動戦士ガンダムに近いそれだが、これを建造したビグウィグ教授は別にこの機体をガンダムタイプとしては作っていない。

 

 『機体をよく見ろ!ガンダムには全く似ていません!ブレードアンテナの位置からしても、ハーディガンの系譜のそれっぽい外見のだけのモドキです!』

 『おおっ!これを見ただけで気付くとは中々じゃのう!』

 

 糾弾するように先程ふっ飛ばされたラフザックのパイロットが叫び、通信機の向こうでナビをしているビグウィグ教授が肯定する。

 彼等の言う通り、この機体は所謂ナントカガンダムではない。作業用MSジャンコアという偽装を解き、各種パーツを取り付ける事で戦闘用MSという真の姿を現す機体ではあるが、ここまで浪漫に溢れた仕様と立場でありながらビクウィグ教授はこれにガンダムの名を与えなかった。それはベース機の出自も関係しているのだが、一番の理由は………。

 

 『ガンダムというのはカミーユやエマ中尉が人の自由のために使ったマシーンなんだ!!それを正義の為に使わずこんな所で腐らせるなんて………そんな機体がガンダムであるものかァ!!』

 

 このラフザックのパイロットがそうであるように、ガンダムという概念は単なるMSのカテゴリを越え、一種の信仰のようなものを抱く者がいるからだ。彼等にとってのガンダムというのは言わば厄介オタクから見た推しであり、それに少しでも反する"解釈違い"は絶対に許せないのだ。

 

 『貴様はガンダムではないっ!!』

 

 ましてや、自分達の正義を否定するかのように立ちはだかるガンダムなど万死に値する。ラフザックはシールド内部に隠したビームサーベルを引き抜き、目の前の邪悪な「モドキ」を討たんと肉薄する。

 

 「ザクがビームサーベルを!?ヤツもガンダム並みか!!」

 『落ち着けショウ!説明した機能を使え!』

 「了解!」

 

 ザクがビームサーベルを抜刀するというライトなMS好きからすれば歪としか見えない光景に戸惑いつつも、ショウはラフザックに向かってゆく。

 

 『丸腰で挑むつもりか!?バカめ!』

 「そう見えるかァ!!」

 

 ラフザックのパイロットからすれば再び素手で殴りかかっているようにしか見えず、これなら勝てると相手の拳に対してビームサーベルを躊躇なく振り下ろした。次の瞬間。

 

 『ビームを受け止めた!?』

 

 振り下ろされたラフザックのビームサーベルは、相手を切り裂く事なくその拳から発生した謎の力場によって押さえつけられている。一体これは何なのか!?

 解説しよう!この機体の両腕はミノフスキー粒子による力場であるIフィールドを発生させる機能を持ったIフィールド・ハンドになっているのだ!本来はMAのような巨大な機体にしか装備できなかったが、技術革新によりMSでも装備可能になったのだ!まあコストはかかるがな!

 

 「それと、いつまでもガンダムもどきって言われるのは嫌だから教えてやる!」

 『な、なんだあっ』

 

 その「モドキ」が背中のビームサーベルを引き抜く。

 ………この場にいる誰もが、パイロットと開発者までもがその機体をガンダムとは認めなかった。だが皮肉にも、人々を襲う理不尽な暴力に対してビームサーベルに乗せた正義の怒りをぶつける様は、まさしく伝承にあるかの機動戦士ガンダムのそれであった。

 

 「こいつの名前は「スプリガン」だ!二度と間違えるなクソがッ!!」

 『う わ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ』

 

 モビルスーツ「スプリガン」。その横に走ったビームの刃は、ラフザックを見事に切り裂く。パイロットを蒸発させ、機体を上半身と下半身に分割させた後、ラフザックの上半身がバックパックの推進剤が引火した事による爆発を起こした。

 派手な爆発だったが、上手く熱核融合炉を避けての一撃だったが故にコロニーに穴が開くような惨事は避けられた。そして爆風と炎の中、勝利を収めたスプリガンがツインアイを光らせてゆっくりと立ち上がる。

 

 『じっ、ジーパン!ジーパン!!』

 『落ち着けパンティ!!引くぞ!!』

 

 上空の二機のラフザックが撤退してゆく。追撃しようにもスプリガンより先にショウの限界が来ていた。

 

 「かはあっ!はあっ、はあっ………!」

 

 息を切らし、ぐったりと項垂れるショウ。無理もない。いくら元のジャンコアの操縦と同じとはいえ、MSを使って戦う事はジャンクの回収とは訳が違う。身体にかかる負担も段違いだ。

 

 『追撃はいいショウ、戻って休むんじゃ』

 「りょ、了解………」

 

 スプリガンが出撃ハッチに向けて帰ってゆく。見れば各地で敵の破壊により火が上がっている。勝利はしたが、こちらの被害も甚大だ。

 

 「これで終わり………じゃ、ないよなぁ」

 

 そしてショウの危惧通り、この戦いは始まりでしかない。時に、宇宙世紀0138年。これは宇宙戦国時代前夜に起きた、いくつかの戦いの記録。その内の一つである。

 

 そしてとーぜんであるがこの物語は………オフィシャルではございませんぞ〜〜!

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