機動戦士ガンダム・アンダーフォーミュラ   作:アイアイホイホイおさるさん

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 FF-90Sイールカトラスは、表向きは民間向けに最低限の自衛機能を持たせて販売している小型飛行機。しかしその技術の系譜を辿ればサナリィ製のコアファイターに行き着く。そして色々真っ黒なアナハイムと比較されるせいで印象は薄いがサナリィも戦争で武器を売って儲けている立派な死の商人。民間機にも色々"裏ワザ"を仕込ませているものだ。

 

 「リミッターの解除で原型機並みの性能ねえ………キャハハッ!サナリィもやってんじゃん?」

 「まあ、そのお陰で私たちは助かってるんだからいいじゃないの」

 

 まさか自分達がショーで乗っていた機体にそんな違法スレスレの隠し機能があったとはと皮肉る赤髪ツインテの「ネーナ・ヒーブ」と、まあまあとなだめるピンク髪に星型アクセサリーの「ミーア・エスター」。二人はこの場にいないノーノと合わせてキャネリー隊を編成しているハマッチ航空のパイロット。仮にもアイドルを名乗るだけはあり、二人ともノーマルスーツの上からでもわかる見事なボンキュッボンだ。

 

 「まあリミッターは解除するって事は機体に無茶させるって事じゃからの。長く戦わすためにもいくつかパーツは交換せにゃならん」

 「う、ウチの社員が乗る機体なんです!頼みますよ!」

 「まあ落ち着きなさいや社長さん!自社のパイロットをちったあ信じれや」

 

 そんなキャネリー隊の上司に当たるハマッチ社の社長は、彼女らのイールカトラスに施す改造の内容をビグウィグ教授から聞かされている。気弱な中年といった外見通りの男である彼は、ビグウィグ教授の説明を聞いても不安げだ。

 

 「ウーム、肝心のビーム部分はマリアの嬢ちゃんにやってもらうとして………エンジン部分はウチにあるギラドーガのやつで替えがきくな、うん」

 「ギラドーガ!?ジオンの機体じゃないですか!そんな無茶苦茶な………」

 「なあに、口金が合えばいいのさ。機械なんてそんなもんじゃよ」

 

 ジャンク屋の常識ではそうだろうが………と言いかけた社長であるが、それ以上は言わなかった。事務作業しかやってなかったが為に門外漢だという自覚があったからだ。

 

 

 ***

 

 

 トライシンク義勇軍を立ち上げるに至り、コロニー内でのMS戦闘準備に加えてまだやらなければならない事があった。

 さて、それを説明する前にこのスペースコロニー・トライシンクの構造について説明しなくてはならない。密閉型とオープン型を組み合わせた外見であると同時にもう一つ、人々が生活する"地上"とコロニー外表の間には"地下街"とも言える広大な隙間がある。連邦軍が有事に備えたMSの出撃ハッチ………ビグウィグ教授も密かに利用しスプリガンを出撃させたアレ等、様々な設備が揃っている。

 

 「………暗いな」

 「そら地上ほど電力は回せないからな。他に使う機能もあるし、電力は最低限なんだろうよ」

 

 しかしその全貌を知るのは連邦軍と、ここから逃げ出した市長と僅かな市議のみ。戦略的に利用する為にもトライシンク義勇軍はまずこの地下街の構造を把握する必要があった。そこで作業用のプチモビ数機で構成された探索部隊を編成し、彼らを地下街の調査に向かわせた。

 さてこのプチモビであるが、諸君は"デコプチ"というものを知っているだろうか?ある時から流行りだしたそれは「デコレーションプチモビルスーツ」の略であり、読んで字のごとく外装がMSをディフォルメしたような………我々の知る「SDガンダム」のような外見に装飾したものが多く出回っている。

 

 「頼むぜ〜俺のキャサリン♪」

 「所でお前、またデコプチの胸部装甲(おっぱい)新しくしたな?」

 「あっ、わかりますー?」

 

 彼等もそんなデコプチの愛好家であるが、一風変わりすぎな趣向の持ち主でもある。近年のSDガンダムにおいては女性型のキットも発売されているわけだが、彼らはその女性型に似せた改修をデコプチに施し、名前までつけてまるで恋人のように愛していた。

 

 「特殊シリコン製のパーツが手に入ったんですよ!それでもうだっぷんだっぷんで♡」

 「うひょー!クソエロいな!」

 

 デコプチの胸部、シリコンを内包するパーツにより本物のそれのようにした胸を腕で誘うようにむにゅんむにゅんと動かす様は、普通の感覚で見れば吐き気を催すだろう。だが仕方ない事でもある。彼等の多くは社会の底辺であり、恋愛はもとより異性とすら接点を持てずに消えてゆく人種。しかし不幸にも健康ではあるので性欲はあるが為に、このような歪んだ形での発露に落ち着いてしまうのだ。

 ………しかし、世の女性にはそれが許せない方もいるだろう。こんな、被害者面をしながら実際は女性にモテるための何の苦労も努力もせず、都合よく女体だけ欲しがるような卑怯者が。

 

 「このシリコンどこで買って………あれ?いない?」

 

 安心してほしい。彼等にはちゃんと裁きが下る。そしてさっきまで話していた片方が急に居なくなったデコプチのパイロットは、間抜けにも己の頭上に迫る光の刃に気付かなかった。

 

 ………ジュッ、グチャアッ

 

 ビーム刃によりデコプチは脳天から焼き切られ、そのパイロットも己の死を自覚するよりも早く蒸発した。誰にも知られず地下街に侵入していた二機のMSは、それをゴミを見るように見下ろしながらも任務を再開する。

 

 『パンティ伍長、解ってるとは思うが………』

 『はい、我々の目的はあくまで陽動です。しかし………』

 

 これは、ヌーベルエグム総統クワトロ・バジーナ3世より直属に下された任務。それ以上の事はやる必要はないし、任務の進行に支障をきたす可能性も生じる。しかしこの任務を任された内の一人。最初の制圧作戦で生き残ったパンティ伍長からすれば、とても感情を押し殺せる話ではなかった。

 

 『スプリガンは………ジーパンの仇は、必ず!』

 

 彼女の脳裏には今でも、恋人を殺したあのMS(スプリガン)の姿が、復讐の炎によってはっきりと焼き付いていたのだから。

 

 

 ***

 

 

 義勇軍結成から一週間。トライシンク内が夕焼けに染まり、もうすぐ夜がやってくる頃。

 かつて市役所として使われていたビルには、今はトライシンク義勇軍の旗がはためいている。現在、ここはトライシンク義勇軍の総本部として扱われている。ここからコンピューターを通じてコロニー全域の情報が集められるからだが、そのデータもライアード市長によって消去されてしまっていたが故に、今コロニー内のエンジニアを呼び寄せて復旧作業が行われていた。

 

 「あのクソ市長、なんでわざわざコロニーの管理データまで消してったんだよ」

 「大方裏金か不倫の情報でも入ってたんじゃねえの?」

 「あの市長ならありえる!ははは!」

 

 無責任な男への愚痴で盛り上がるエンジニア達。そんな彼等のいるパソコンルームの横を、ふらふらと歩いてゆく人影が一つ。今日もまた"象徴としての責務"を果たしたショウ・アーネストである。

 

 「かはぁーっ………ああくそ、成人男性がやるにはキツいんだよ、もう………!」

 

 その責務とは体力づくりである。たしかにスプリガンの操縦は偽装形態であるジャンコアの頃からやっているショウが適しているが、ジャンク回収やデブリの破壊とMS戦闘では使う体力が違う。現に初陣でもラフザック一機を倒してダウンしてしまった。そのためにまずは身体を鍛えろ!と、他の志願者と一緒に今の今まで、高校時代より遥かに厳しい体力作りのための運動に励んでいた、という事である。

 

 「………あっ、ミミィちゃん?」

 「えと………大丈夫ですか?お兄さん」

 

 ダウンして市役所内のソファーの上に寝転がっていると、ふとそんなショウの顔を覗き込んでくるエメラルドのような瞳が見えた。ミミィだった。時間帯的に学校は終わっており、ずるけてるわけではないので安心………であるが、友達とも遊ばずこんな年の離れた少し仲のいいだけの野郎の元に来るというのは、ショウも疲れた頭で心配に思う。

 

 「あの………これ、差し入れです」

 「ああ、さんきゅ」

 

 しかし渡されたスポーツドリンクは激しい運動で疲れたショウからすれば有り難い上この上ない。ごくごくと飲む度に、舌と喉に糖分と僅かな塩分と水分が染み渡る。

 

 「すごい汗ですよ。はい、タオル」

 「あ、ありがとう………後でシャワー浴びてくるよ」

 

 スポドリに加えて汗拭きタオルまで貰う。しかも巨乳美少女のミミィに。そんな状況にふと気づいたショウは、仄かにタオルから香るおそらくミミィやマリアも使っているであろう柔軟剤の香りを嫌でも意識してしまう。

 

 (こ………これめっちゃ、めっちゃアレじゃね?女子マネジャーと部員的なあれじゃね?てかタオルいい匂いする、これが女の子の、もっというと美人ママさんの………いかんッ!?何気持ち悪い事考えてんだ俺は!?死ね!死ねッ!!)

 「?」

 

 性欲の強い童貞特有の気持ちの悪い思考が頭を駆け巡り、それを振り払うまで一秒かかった。こんな考えが過ってしまうのは、ハードな運動後の後で高ぶってたのもあるだろう。そんな倫理で本能をタコ殴りにする独り相撲を繰り広げるショウの姿も、ミミィには単に疲れているようにしか見えない。

 

 「あ、あの、お兄さん」

 「えっ………何?」

 「シャワーの後、晩御飯どうですか?一緒に食べようと思って持って来たんです!」

 

 それに加えて一緒にディナーまで頂けるというのだからもう、至れり尽くせりとしか言いようがなかった。

 

 

 ***

 

 

 災害時に使われるものを使って外に増設されたシャワーを浴びたショウは、待たせていたミミィを連れて市役所の上階に上がる。二年前に身分証の更新の際に訪れた記憶のあるそこは、今はまあまあ綺麗な夜景が見れる、義勇軍の兵士達の憩いの場となっていた。

 

 「以外と明かりがついてるんですね」

 「人のいない家も明かりをつけてるんだと。いざ白兵戦になった時に足元が明るいのと、心理的に安心できるからってノーノさんが言ってた」

 

 ノーノの名が出た途端一瞬ミミィの表情が曇った。だが彼女は内のムッとした感情を取り払い、背中に背負ったリュックサックから取り出したのはジップロックと魔法瓶。

 

 「おっ、これは………!」

 「イナリズシ………でしたよね?これで合ってますよね?」

 

 地球の日本に実家を持つショウが最初に注目したのは、ジップロックに入った小麦色の塊。油揚げを袋にして中に塩・ほんだし・乾燥ワカメを混ぜ込んだ白米をギッシリ詰め込んだものが3つ。ショウ故郷日本の伝統食であるお寿司の一種とされるいなり寿司だ。それも一つがよくある寿司サイズではなく大きめのオニギリぐらいある。最初期の江戸前寿司を想像してほしいが、あのサイズを想像して貰えば早い。

 

 「うわあ、すごい大きい………いやいや、訓練の後とかこういうのすごい嬉しいよ!」

 「ほっ、本当ですか………!?」

 「うん!ありがとうミミィちゃん!わああ、お米だぁ………!」

 

 体力を使った後に食べごたえのある塩辛い物が出てきた事に加え、それが中華以外で久々に口にするご飯料理だった事がショウの中の日本人の部分を喜ばせた。それに気をよくしたのか、さっきのムッとした感情をすっかり忘れたミミィは魔法瓶の中身も出す事にした。

 

 「あ、お味噌汁もありますよ!」

 「おーっ!?マジ!?最高だよミミィちゃん!」

 

 そこに魔法瓶から蓋を兼ねたコップに注がれるのはお味噌汁。ほかほかと湯気と共に伝わる味噌の香りに、ショウは食欲に加えて一種の安心のような感情も覚えた。

 

 

 ***

 

 

 トライシンクに夜がやってくる。いつもと違うのはヌーベルエグムの襲撃に怯えなければならない事だが、それでも彼らは「生きるぞ」と生命の限りをつくして其々のやるべき事を成していた。

 市役所の最上階においてショウとミミィが晩御飯のいなり寿司セットを頂いているのも、非常事態の踏ん張り所でパワーを出す為のエネルギー補充の為だ。決してデートのような不埒な副次的目的はないぞ、とショウは自らに言い聞かせる。

 

 「お兄さん?」

 

 ふと、食べかけのいなり寿司を手に窓の外を見つめるショウにミミィが気づく。空腹が満たされつつあり落ち着いたのもあるが、その視線は街の光に向けられている。

 

 「いや、街が綺麗だなって」

 「………そうですね」

 

 意外と、という言葉をつけ忘れていた。だがミミィから見ても市役所から見る夜景というのは、展望台からほどで無くともビーズの宝石箱のように見える。

 

 「………まるで、ここが戦争してるなんて嘘みたいです」

 「戦争って………まあ、戦争だよなあ」

 

 よく美しい街の夜景はそこで夜も働く労働者によって作られていると言う。皮肉として使われている言葉であるが、言い方を変えればそれは生命の輝きであり、そこに光の数以上の命と生活と人生が息づいている証なのだ。たとえ今が戦時下と変わらない状況だろうと、それは変わらない。

 

 「あの光の中にいくつも生命があって、俺はそれを守る象徴………実感持てないなあ、こないだまでただのジャンク屋の作業員だったのに」

 

 ムシャムシャといなり寿司を食べながらショウがそう漏らした理由は、不安だったのかも知れない。あの夜景とそこにある命が自分の肩にかかっているという状況への不安が、軽口とはいえ弱音として漏れ出ていた。

 

 「………大丈夫です、お兄さんならきっとできます」

 「ミミィちゃん………」

 「だってあの時も、お兄さんは頼まれてもいないのにスプリガンで敵と戦ってくれたから、きっと………」

 

 それが故に、根拠のない励ましであるにしても今はミミィの温かさがありがたかった。そっと自分の手を握ってくれた彼女の手のひらは、温かく、それでいて柔らかい。7歳も年下の女の子に慰められて情けないとは思ったが、またMSに乗って戦う事になり、今度は死んでしまうかも………それ所か、このコロニー全てを巻き混んで死ぬかもしれないという不安もあったショウは、それに抗う事ができなかった。

 

 「あっ、お兄さんちょっと」

 「へっ?」

 「"オベント"ついてますよ」

 「……ははっ」

 

 ショウの頬についた米粒をそっと取るミミィ。改めてショウは、きっとミミィはいいお嫁さんになると思ったが、コンプライアンス違反であると思い出し頭から振り払う。そんないつもの日常が過ぎていったその時………

 

 『AC地区に敵MS出現!侵入された模様!繰り返す!AC地区に敵MS出現!!』

 

 日常を破壊する非日常が、殺意と血と硝煙とミノフスキー粒子をまとわせてやってきた。

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