機動戦士ガンダム・アンダーフォーミュラ   作:アイアイホイホイおさるさん

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ACT03「鮮烈!キャネリー隊」
6.


 「けっ、俺は気に食わねえな」

 

 ある時、ヌーベルエグム旗艦ラーディッシュIIの娯楽部屋(リラクゼーションルーム)でそのエースパイロットは吐き捨てた。

 

 「何がです?」

 「この女達だよ。やってる事は露出でスパチャ煽って荒稼ぎしてる配信者と変わんねえ、畜生以下のクソだろうがこんなの」

 

 部下が持っていた情報端末の画面の中の、露出の高いコスプレをした三人の美女に対して彼が冷めた目と侮蔑を向ける理由は、彼女達の浅ましい商売のスタイル以外にもう一つ。

 

 「こんな奴等に守られるなんざ、トライシンク義勇軍なんてのも程度が知れるってもんだぜ」

 「そりゃそうですよ、隊長のネモレードに勝てる奴はいませんって」

 

 ニヤリとニヒルな笑みを浮かべるそのエースの雰囲気はまさに歴戦のエースであり、画面の向こうの"露出仮装のパイロット気取りの阿婆擦れ"とは違う、本物の戦場を渡り歩いた戦士の気風を感じさせた。少なくとも、この場にいたヌーベルエグムの兵士達には。

 

 「へっ、俺は戦闘のプロだぜ?こんな奴らに遅れを取るかよ!」

 

 さて、これからトライシンクコロニーに攻め込もうとしているこのエースパイロットが何故このような悪態をついているのか?その話をするには少しだけ時間を遡らなくてはならない。

 

 

 ***

 

 

 当たり前であるが軍事行動というのはお金がかかる。ましてや全身が精密機械と特殊合金の塊であるモビルスーツを用いているのだから、かかる資金は考えるだけで頭をかかえる事になる。それは正規の組織ではなく民間で結成されたトライシンク義勇軍も逃れられない運命にある。

 

 「資金が足らんのです!」

 

 経理を担当している市役所の所員が必要な資金について尋ねられた時にそう言った。その場に集まった義勇軍一同は思った、とうとうこの時が………組織が金欠になる時が来たか、と。

 

 「教授の所でMSのパーツ売ってるだろ?あれでどうにかならないのか?」

 「ラフザックに使われとるパーツなんぞどこのコロニーにもありふれとる。スプリガンの修理代を稼ぐのでいっぱいいっぱいじゃよ」

 

 倒した三機のラフザックであるが、そのベース機であるRFザクは「モビルワーカーの製造施設があればどこでも作れる」と言われるような代物。ましてや破壊された後の残骸など、資金の宛にはできない。そうでなくともビグウィグ教授のジャンク屋業もあくまで個人経営。とても義勇軍全体を賄える程ではない。

 

 「いや待て………そうだ!募金だ!募金はどうなってる?」

 「募金?」

 「ほら、他所のコロニーで募ってるあれだよ!」

 

 しかしトライシンク義勇軍もやがて来ると解っていたこの問題に対して何もせずにいた訳ではない。様々なコロニーに掛け合い、募金という形で自分達を支援してくれるよう手を回していたのだ。今も様々なコロニーの駅前等で募金活動をしている義勇軍メンバーがいる。

 

 「………テレビ、見てみろ」

 「へ?」

 

 しかしその最後の希望は最早塵と化した事が、ビグウィグ教授が指差す先………テレビで流れているニュース映像で叩きつけられた。

 

 『………このように、現在トライシンクコロニーは反連邦組織ヌーベルエグムの襲撃を受けており、連邦軍が撤退した今住人が自警団を組織して対抗しているとの事で………』

 

 ニュースの内容はこのトライシンクコロニーの状況を、おそらく隠し撮りしたであろうこのコロニーで行われた二度に渡るMS戦の映像と共にお届けしていた。同時に募金の事についても十中八九無許可で隠し撮りしていた募金活動をする義勇軍メンバーの映像と共に紹介していたが、それに対する市民の声はこうだ。

 

 『連邦軍追い出したのは自分らでしょ?何被害者面してんだか………』

 『トライシンク?あれって怠け者がいくコロニーでしょ?』

 『正規の組織じゃないならテロリストでしょ、テロリストにお金は渡さないよ』

 『ちくわ大明神』

 『敵に攻撃されても自分らの責任だろ、自己責任!』

 『戦争なら勝手にやってろよ、嫌なら逃げればいいだろうに』

 『パンケーキの方が大事、フフッ』

 『自分らで軍追い出したんだから自業自得だろ、市長が勝手にやったとか通じると思うな!』

 『文句ならその逃げた市長に言うんだな、せいぜいコロニー壊されて宇宙に放り出されろよ』

 

 無関心、無情、自己責任。連邦軍を追い出したライアード市長を選んだのも自分達なのだから他人に頼るな、勝手に滅ぼされいろ。というのが、画面の中で語られた世間の総意であった。この調子だと募金額も絶望的だろう。

 

 「あいつら他人事だと思いやがって!!」

 「んまあ他人事じゃからな。対岸の火事ってことわざがあるが、自分に影響が無いように見える事件なんざこんなもんじゃよ。でなけりゃ、三度もコロニー落としてきた国家がアンチ連邦の錦の御旗になったりはせん」

 

 憤る車屋の親父に対して、ある程度どうなるか予想できていたビグウィグ教授は冷静だった。今の時代どのコロニーもいつ争いに巻き込まれてもおかしくないため構っている余裕がないというのもあるが、人間の心理的にも所謂「助けたくない外見の弱者」の掃き溜めであるトライシンクに支援しようという物好きは少ないだろう。

 

 「でもこれじゃジリ貧だぞ?どうしたら………」

 

 理屈が解った所で義勇軍の予算がないという問題は相変わらず横たわっている。このままでは戦力増強はおろか組織の運営すら危うい。

 

 「ああ、どうしたら………んん?」

 

 主要人物として呼ばれていたハマッチ航空の社長も頭を抱えていたのだが、その直後自分に集中するその場の人々の視線を前に、まるで拳銃を突きつけられたかのような感情になる。

 

 「えと………なん、です?」

 「………俺、資金難の解決方法思いついたかも知れん」

 「俺も………」

 「ワシも………」

 

 嘆くべきは、この社長が自社の所属パイロットを一人の人間として尊重する倫理観と正義を持ち得ながら、それを貫くだけの度胸と権力を有していなかった事と、今が非常事態だったという事だろう。

 

 

 ***

 

 

 キャネリー隊とは航空ショー部隊である。パイロットの仕事をする事もあるが、本来集められた目的はアイドル、つまり客寄せパンダだ。だから隊の三人ノーノ、ネーナ、ミーアは皆男の欲望をそそるタイプの美女で硬められている。そんな真面目なガンダム二次創作では真っ先に殺されそうな彼女らであるが、アイドルとしては鳴かず飛ばずだった事もありずっと正規のパイロットとしての業務をこなしていたのだが………。

 

 「な、何よこれぇ!?」

 

【挿絵表示】

 

 ミーアが面食らったのも無理はない。キャネリー隊の三人が新しいパイロットスーツだとして渡されたものを着たら、この有様だったのだから。

 水着をベースにゴテゴテと装飾を盛った、まるで三流の深夜アニメや低俗なゲームでオタクに媚びて出されるヒロインの下品なコスチュームのようだ。というか身も蓋もない言い方をすれば「対魔忍」と揶揄されるアレである。

 

 「おおーっ!中々似合ってるではないか!流石一流のデザイナーじゃわい!」

 「ひひっ、それほどでも、ありまふ………」

 

 それを見てニヤニヤと笑うビグウィグ教授と、この衣装をデザインしたらしい明らかなキモオタといった風貌の小汚い男。三人娘は知らなかったが、この男はデザイナーはデザイナーでもアダルトゲームのデザイナー。この痴女同然の女性の人権と尊厳を脳天から踏みにじるような衣装も、つまりそういう事だろう。

 

 「ま、まさか30にもなってこんな格好をする事になるなんて………」

 

 若いミーアやネーナならまだしも、そこそこ年齢を重ねた身体に年甲斐もない格好をさせられ、各部からはみ出る年相応のムッチリしたお肉を前に顔を赤くするノーノ。これはこれで一部の層には刺さりそう。

 確かにこの服としての機能を果たすかどうかも怪しい変態仮装をノーマルスーツと呼ぶには無理があるので、パイロットスーツと表現したのはなるほどだが、重要なのはそこではない。

 

 「ちょっと!あたし達にこんなハレンチな格好させてどういうつもりよ!?」

 「まあ落ち着きたまえ!お嬢様方。これには理由があるのじゃよ」

 

 ネーナが伝統の釘宮キャラらしくプリプリと怒って抗議する。そう、問題は何故彼女らがこんな格好をしなければならないかという事。彼女らがアイドルである事を考慮しても、こんな痴女のような格好で歌って踊るアイドルなど今時地下アイドルにもいない。ましてや、これで戦闘機に乗るなど言語道断滑走路である。だがこんな人権侵害をする事にはきちんと理由があり、ビグウィグ教授にもそれを説明する準備と義務がある。

 

 「まず我がトライシンク義勇軍は今重大な危機に瀕している。資金難じゃ、それは知っているな?」

 「まあメンバーだし………」

 「募金活動もやっておるが今の変に斜めに構えた他コロニーの連中は、あれこれ理由をつけてワシらを冷笑してビタ一文よこさん」

 「それは初めて聞いた………」

 「そこで白羽の矢が立ったのがお前さん達キャネリー隊じゃ。お前さん達はアイドルとして揃えられたからか顔もよいし、おまけに乳もケツも男が喜ぶようなデカさをしておる」

 「まさか………」

 

 ナチュラルに飛び出してきたセクハラは置いておくとして、ここまで聞いてキャネリー隊の三人娘はなんとなく、というか確実にこのふざけた格好の真意と目的を察した。そして彼女らが今から何をさせられるのか………否、何をしなければならないのかも。

 

 「これよりキャネリー隊はネットアイドルとして訓練の様子やゲーム実況、その他諸々を配信する多角的な活動をしてもらうぞい!!そしてその乳とケツと露出を全力で活かしてネットの男どもからスパチャを稼ぎに稼いで、トライシンク義勇軍の危機を救うのじゃ!!よろしいな?社長」

 「は、はひ………」

 「社長!!あんたあたし達を売ったわね!?!?」

 

 令和のコンプライアンスから考えてとんでもない事を言いだしたビグウィグ教授の横で、おそらく他の義勇軍の面々からも圧をかけられた結果意見を通してしまったであろうハマッチ社社長が縮こまっている。絵面だけは令和では通用しないギャグシーンのようだが、やっている事自体はアイドルが売り飛ばされる類のアダルトビデオのそれと変わらない。

 

 「………あの、わかったわよ。わかったけど」

 

 そこで前に出たのはミーアだ。さっきまでネーナのように赤面して怒り散らしていた彼女であるが、真意を聞いた今その表情は呆れのそれを表している。

 

 「いくら私達が美人で巨乳だとしても、今時おっぱい見せたぐらいじゃスパチャはおろか再生数すら貰えないわ」

 「ほう?詳しいようじゃな?」

 「SNSやってりゃ嫌でもわかるわよ。知ってる?ウケ狙いで乳見せて炎上した配信者の数」

 

 幼少の夢がアイドルで、今も趣味として芸能をチェックしているミーアは知っている。今や女体で釣るような配信者がそこそこの再生数を稼いでいたのは既に過去の事だと。SNSにはそうした女体を嫌悪のレベルで冷笑している"おじさん"や、守る名目で潰しにかかる"おばさん"が大量にいて、そうした売り方をする配信者を全力で潰しにかかる事も、何度も見てきている。

 

 「断言するわ、この企画は失敗する!」

 

 今を生きる若者だからこそミーアは言い放った。今の世の中、自分達のような"美人"の敵なんてそこら中にいると。

 

 

 ***

 

 

 「嘘ぉ、ウケてる………」

 

 ミーアは困惑した。ウケると思っていなかったネーナも、そしてこんなオバサンがネットに受け入れられるはずがないと思っていたノーノも、動画サイトに投稿された自分達の動画の再生数と高評価の数を見て困惑した。

 

 『キャネリーチャンネルへようこそ〜♡』

 『今日はあたし達の航空ショーの様子を見せちゃうわ♡』

 『私達の事、み、て、て、ね♡』

 

 どうせ顔を晒す上に大ゴケするならもうヤケクソだと、媚に媚びた態度と演出で開始したキャネリーチャンネル。ゲーム実況では右下のワイプで何かあるたびに乳をバルンバルンと揺らし、飛行訓練に至ってはコックピットシートに隠しカメラを積んで尻と乳がドアップになるアングルでお送りした。

 典型的なバカ女のやり方だ、ウケるはずがない。明日にはネチズンの冷笑のビームライフルの的になっている。そう思ってた三人娘であるが結果は真逆であった。

 

 「再生数が垓の位に届くの初めて見た………」

 「こ、広告収入がこんなに………」

 「何よこのスパチャ総額!?国家予算じゃない!!」

 

 今なおルーレットのようにダラララと伸びてゆく再生数。更新されて増額してゆく広告収入費。生放送でのスパチャ額は敢えて無視するようにしていたのだがいざ見てみたら小国の一年の国家予算かというレベルのとんでもない額になっていた。もはやウケるウケないなんてレベルではない。

 

 「なんでこんなウケてるのよ、あんた芸能詳しいんでしょ?わからないの?」

 「わかりませんよ隊長。第一バズるバズらないは運の話でもありますから………たまたま大当たりを引いたとしか」

 

 そのミーアの分析に加え、地球圏全体にきな臭い空気が蔓延する中、男達が様々な圧に耐えられる癒しを求めているという要因もあった。のだが、それを考えてもこの飛び跳ねぶりは異常だ。

 

 「ありがとうキャネリー隊の皆!!これで組織は存続できる!!本当に、本当にありがとう!!!」

 

 だがそのお陰でトライシンク義勇軍の活動予算は確保できた。今や義勇軍の幹部となったバイク屋の親父が三人娘に泣いて頭を下げて感謝している。それほどの事である事は義勇軍に身を置いている彼女らにもわかる。

 

 「それほど、でも………」

 『チャンネル登録よろしくねェ〜ン♡』

 「あはは………」

 

 しかしその為の手段が問題だ。動画サイトの画面の中で胸の谷間を強調して淫靡に笑う自分達を見れば、苦笑いしか出なかった。結果だけを評価するような邪悪な思想がない証拠であるが、もしそうなら精神的負担はもう少し少なかっただろう。

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