勇者の孫は勇者になりたかった   作:犬吠崎独歩

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脱出編
第一話 ハメたつもりがハメられた


「お前は勇者にはなれんよ」

 

 じいちゃんのその言葉を聞いた瞬間、全身から血の気が抜けていくようだった。

 

「な、なんでさ。そんなのやってみなきゃ……」

 

「やらんでも分かるわい。だってお前向いとらんもん」

 

 いくら先代の勇者だからって何がわかるんだ、と思った。

 

 自分で言うのもなんだが、俺だって頑張ってきた、つもりだ。

 

 かの魔王の首を一撃で両断した程の剣の腕前を持つじいちゃんから剣術を学び、魔法だって一通り覚えた。日々の鍛錬だって欠かしたことは無い。

 

 なのに、なんで、おじいちゃんは──

 

「それにな……」

 

「もういいよ!!」

 

 じいちゃんが再び何かを言いかける前に俺はその場から逃げるように駆け出した。

 

 じいちゃん──あの最悪の魔王の首を取った史上最強の勇者を、これ以上嫌いになりたくなかったから。

 

 ──というのは建前で、本心からいえば俺の、自分自身の小さなプライドを守るためだったと思う。

 

「こりゃ待て! レオン!!」

 

 じいちゃんが俺を呼ぶ。

 

 ──待たない、待つはずがない。

 

 取るに足らない、小さなプライドを傷つけられた俺は無謀にも家を出た。

 

 もう二度と、帰ってくるものかと。

 

 外は雨だった。

 

 泥濘んだ地面を蹴るたびに泥が飛ぶが、気にせず走った。

 

 生まれ育った村を今まさに出ようとする直前、昔馴染みの婆さんに声をかけられた。

 

「あら、勇者様のとこのお孫ちゃん。こんな雨の中どこへ──」

 

 その言葉を振り切るように、俺は婆さんを無視して思い切り村の出口を駆け抜ける。

 

 違う。

 

 違う。

 

 違う──!

 

 俺の小さなプライドに付いた傷口が、ずきずきと痛むたび、湧いた怒りが脚に力を増していく。

 

 俺は「勇者の孫」なんて名前じゃない!

 

 どいつもこいつも、俺のコトなんて見ちゃいないんだ。

 

 じいちゃんの、勇者の栄光が、俺の存在を根こそぎかき消している。

 

 だったら、なるしかないじゃないか。勇者か、それと同じか、それより大きい何かに。

 

 俺は雨なのか涙なのか分からないくらいに濡れてぐちゃぐちゃになった顔で叫んだ。

 

「──俺は!!」

 

 俺はここにいるぞと、

 

「俺の、俺の名前は!!」

 

 存在証明を、生の証を叫ぶように。

 

 

「レオンハルト・ノットガイルだ!!」

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

「うぉあッッ!?」

 

 俺は素っ頓狂な声を上げながら目を覚ました。

 

 ──嫌な夢を見た。思い出したくもない、昔の夢を。

 

 動悸が収まらないので深呼吸をする。   

 深く息を吸い、そして吐く。それを何度か続けると、悪夢で乱れた心が段々と落ち着いてきた。

 

「ふぅ……ん??」

 

 心が落ち着くと同時に、寝起きの頭がスッキリしてきた。……が、違和感を感じる。

 

「ここどこだ?」

 

 目覚めた場所は、俺が寝泊まりしてる宿屋とは違う場所だった。

いつものボロ宿ではなく、少し高級そうな小綺麗な部屋──俺の身分では泊まれそうにない部屋だ。

 

「なんでこんなとこ……って痛ったァ!?」

 

 自分が不可解な状況にあると理解した瞬間に、激しい頭痛が俺を襲う。

 これは多分昨日飲みすぎたんだな、と経験から分析。酔った勢いで違う宿に入っちまったみたいだ。

 

「やっちまったァ....でもまあ高そうなとこだし朝飯くらいサービスしてくれんだろ」

 

 やっちまったモンはしょうがない。ならどーするよ?

 

 ....享受(きょうじゅ)しちまえばいいじゃん、サービス。

 

 と、いうワケで俺は朝飯を食うためにベッドから出ることにした。高級そうなシルクの手触りが名残惜しい──

 

「ん?」

 

 身をよじった俺の手に違和感を感じる。柔らかくて暖かな何かに触ったような……?

 違和感の方向に目をやると、掛け布団に不自然な膨らみ。

 

 ──これは、まさか。

 

 慌てて布団を一気に剝がすとそこには──

 

「やば」

 

 裸の女がすぅすぅと寝息を立てていた。

 紫色の少し乱れた長髪がとても豊満な肉体に絡みついていて、なんかすごくエッチだ。

 顔もすっげえ美人。ちょっと性格キツそうだけど。……少し下くらいかな、歳は。

 

「やっ」

 

 つまり俺は。

 

「やっ……」

 

 この娘と。

 

「ヤったーーーーーーー!!!!!!!」

 

 ヤったのだ。俺は喜びのあまり両腕を天に突き上げた。

 一生素人童貞だろうと思ってた俺の人生に春が来たのである。雄叫びを上げずにはいられないだろう。何も覚えてないけど状況証拠的に確実だろコレ。

 

 ごめんな娼館の女の子たち。俺、普通の男の子になります。今後も行くけど。

 

「ぅうん……」

 

 おや、女の子が目を覚ましそうだぞ。ここはできるだけ声を低くしてダンディに対応するんだ……頑張れレオンハルト、ワンナイトをエブリナイトにするんだ!!

 

「お”、お”はよう!」

 

 バカ。変な声になっちゃったよ。

 

「あぁん……? あぁ、おはよ。……ふぁ」

 

 女の子は身体を起こすと大きく伸びをした。身体の動きに合わせてその豊満な胸がばるんばるん。

 

 ……でっか!!!

 

「……なぁに? 昨日あんなに揉んだのに、まだ足らないのかしら?」

 

 女の子はこちらの視線に気づくと悪戯っぽい笑みを浮かべて腕をよせて胸を強調してきた。

 

 正直たまらん。

 

「いや、ハハ、揉みたいのは山々なんですがねぇ……その、君は……」

 

「ヴィオラよ」

 

 ヴィオラと名乗った女の子は、服を着つつ短く答えた。ああ、もうちょっと裸でいて欲しかった……。

 

「あぁヴィオラちゃんね! ごめんごめん、でその、俺と君は、その、なんだ……」

 

「ヤったわよ」

 

「だよねぇ!!」

 

 おバカ!!! 何聞いてんだ俺!!!! わかりきった事を聞いてんじゃないよ!!!

 

「そう、ヤったの」

 

 ヴィオラは椅子に腰掛けると、その足を大げさに振り上げて組み、さらに続けた。

 

「初めて、だったのよねぇ」

 

「マジ!?」

 

「マジよ」

 

 驚いた。昨晩の俺は処女とワンナイトキメたらしい。すごいな、どうやったんだ。

 

「で、改めて自己紹介。私はヴィオランテ・ヴァイオレント・ヴィオレット。かの気高きヴィオレット公爵家の──」

 

 ……ん? 今公爵って言った??? おかしいなァ俺まだ酔ってる???

 

「御令嬢よ。……責任、取ってね♡」

 

 聞き間違いじゃなかった!!!!

 

「マジかよォ!!!!!!!!!!!?」

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 ──あー、話の途中だけどちょっとここでイントロダクション入るよ。ハイご清聴くださいね。何か言いたいだろうけどお口にチャックしてくれよな。

 

 だって第一話のクライマックスよ? ほら、ここでドカンと言っておかないとさ、君ら主人公の目的は何なの?とか色々言うでしょ?そんで読まなくなるんだ……知ってるんだぜ俺。

 

 ……ワンナイトから始まる恋があったっていい。なら、ワンナイトから始まる英雄譚だってあってもいいよな?

 

 ────そう、この話は勇者の孫ってだけのクズで風俗大好きなロクデナシこと、この俺レオンハルト・ノットガイルが……

 

 

……本当の、「勇者」になる話なんだぜ。

 




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