勇者の孫は勇者になりたかった   作:犬吠崎独歩

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第九話 ドラゴンクライシス!

「ほぉう……? その意味を本当にわかって言っているのだろうなあ? レオンハルト……?」

 

 剣を突き付けられたゾーネンシュリームは、少しも動じる素振りを見せずにむしろ楽しそうに笑ってみせた。見た目に相応しく好戦的なようだ。

 

「知らねェよそんなの。なんとなくだ、なんとなく気に入らねェから俺ァ喧嘩売るんだぜ、閣下ァ」

 

 俺がそう啖呵を切ると、ゾーネンシュリームは昨日のように魔力を迸らせ、爬虫類のような眼を見開く。

 

「ハッ、そうか。まぁいいが……死ぬぞ? 貴様」

 

「安心しろ、死なねぇから……よッ!!」

 

 そう言い捨てて俺は斬りかかる……が、ゾーネンシュリームは爪のようになっている籠手でいとも容易くそれを受け止めて見せた。

 

「そう逸るな……ここは場所が悪い、移動する……ぞッッ!」

 

 剣を受け止めた方とは別の手で俺の胸ぐらが掴まれ、そのまま森へと投げ飛ばされる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?」

 

 物凄い勢いで飛ぶ俺の身体は木を何本もへし折ったところでようやく止まった。

 俺の骨も何本もへし折れたが、勃起魔法の効果ですぐに再生した。……けど痛いモンは痛い。声にならない声が出てしまう。

 

『う~ん、久々に出てきてみれば……まさかあのマリナに喧嘩を売ってしまうとはねぇ』

 

「知ってんのかアスモデウス」

 

『元同僚さ。彼女とはソリが合わなくてね、今まで引っ込んでいたがこうなってしまったからには出てこざるをえまいよ』

 

「知ってんだな? じゃあ……」

 

『もちろんサポートしよう。ま、勝利は保証できんがね……彼女強いから』

 

「上ォ等~……お、来たみたいだぜ。頼む」

 

『任された』

 

 草木を踏み分け、ゾーネンシュリームがやって来た。

 

「ほう、無事だったか。人間ならばあれでくたばると思っていたが……」

 

「カカッ……ちょっとばかし頑丈なモンでな。──はァッ!」

 

 再び俺はゾーネンシュリームに斬りかかる────

 

「単調だな……そんな攻撃、私には通用……」

 

「と見せかけてドーーーーン!!!!」

 

 握りしめていた砂を思い切り奴の顔へぶちまけるッ!!

 

「何……ッ!? 目がッ!?」

 

 ワンパターンでごめんね。でもこれしか手がねェんだわ、俺。

 

「カッ、まずは顔に一発ブチ込ませてもらうぜ……!」

 

 一応レヴィアちゃんの叔母さんだ、殺すわけにはいかねぇから……とりあえず拳で行くぜッ!!

 

 ……鈍い音がした。当たったのは確かだが、硬すぎる……ッ!? 俺の骨の方がイカれちまった……!

 

「んだとォッ……!?」

 

「何をしてくるかと思えば……何だ……? これは……?」

 

 ゾーネンシュリームの眼が怒りの炎を宿すのが目に入る。伸びきった俺の腕を握り潰しながら、彼女は俺を睨みつけた。

 

「あまりに惰弱! あまりに脆弱! そして何より卑怯千万!! この程度の力で……私に勝てると思っていたのかァ!!?」

 

 ゾーネンシュリームは空いているもう片方の拳で俺を殴り飛ばそうと拳を引く。

 

 マズいぜ、死にゃあしないだろうが確実に腹に風穴が空くこと請け合いだ……!

 

『硬化したまえ! それなら耐えられる!!』

 

「うおッ……そうか! ……ふんぬッッッ!!!!」

 

 全身に力を入れ勃起魔法の効果の一つである硬化を発動する。

 言うなれば全身勃起状態といったところだろうか。

 

 全身勃起のおかげか、ゾーネンシュリームの拳はまたもや俺を遠くまで吹っ飛ばしたもののダメージとしては軽微なもので済んだ。

 

 ……こりゃ勃起魔法が無かったら何回死んでたかわからねぇな。

 

『彼女、相当怒っているねぇ……どうやって勝つつもりだい? レオン』

 

 俺は剣を杖にして立ち上がりながら笑った。

 

 どうやって勝つ? カカッ、ハナからそんなこと考えちゃいない。だって……

 

「……勝つコトが、目的じゃねェ」

 

『あぁ……なるほどなるほど。ようやく分かったよ、何故君が彼女に喧嘩を売ったのか……あのラミアの娘の為か』

 

「それも違え。別にレヴィアちゃんの為とかそんな大層なモンじゃねェ、さっきも言ったろ? 何となく、何となく気に入らねェんだよ。あの閣下がよ」

 

 そうだ、別に彼女の為じゃねェ。自分の為だ、それだけはハッキリしてる。

 

 なんで気に入らねェのかわからねェ。でも、でもよ……

 

「泣いてたんだ……レヴィアちゃんは」

 

『はっはっはっ……難儀だねぇ君は。だが、しかし、肯定しよう。私は総てを肯定する、その方が楽しいからねぇ』

 

「なんだよそれ……まァいいや、サポート頼むぜ」

 

『あいわかった。それでは君の目的を果たす為の作戦を伝えよう……彼女をもっと怒らせたまえ』

 

「えっ」

 

 そんなことしたら本気で殺されちゃわないか? と思ったその時、近くの茂みの向こうから俺を探すゾーネンシュリームの怒りに満ちた声が聞こえた。

 

「どこへ隠れたレオンハルトォ!! これ以上私を怒らせるなァ!!!!」

 

「もうすげェ怒ってるけど……もっと怒らせんの……??」

 

『彼女は中々本心を漏らさないからねぇ。よほど精神のタガを外さなければ君の目的は果たされないだろう……さぁ来るぞ、戦いの中でわかり合いたまえよ』

 

「クッソ……自分が戦わないからってよォ……!」

 

『はははははは』

 

 俺は剣を構え、再び走り出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 あれから何回も俺はゾーネンシュリームに挑みかかったが、一撃も与えることは出来ずに四方八方へ吹っ飛ばされていた。

 

「はァーッ、はァーッ……!」

 

「どうしたもう終わりか? それとも私に殺される覚悟でも出来たのか?」

 

「カッ、冗談キツいぜ……まだ、まだだッ!」

 

 尚も俺はゾーネンシュリームに挑みかかる。無駄だとわかっていてもこれしかない。

 ……クソッ、自分の手数の少なさが嫌になるぜ。

 

「くどいわッ!!!」

 

 難なく避けられた俺の剣は空を切り、代わりにゾーネンシュリームの膝が俺の腹へ突き刺さる。

 

「ぐあッ……!?」

 

「なぁ……どうして貴様は私に突っかかる? 教えてくれよ……」

 

 俺の髪を掴んでゾーネンシュリームは俺の身体を持ち上げるとそう問いかけた。

 

「ガハッ……さっきも言ったろうが……気に入らねェって!」

 

「はん、そういう台詞はなぁ……強い者が言うモノなんだよッ!!」

 

 ゾーネンシュリームはそう言いながら俺を地面に叩き付け、俺の顔を地に押し付けながら尚も吠える。

 

「自分の意思を押し通せるのは強者のみだッ! 気に入らないだと? この程度の実力でよくそんな台詞が吐けたものだッ!」

 

「……へッ。つーことはよ、アンタは強いってコトか?」

 

「何をわかりきったことを! この高貴なる血のゾーネンシュリームはなァ! 竜の血を継いでいる! 強く! 気高く! 美しい! 強者の血をなァ! そして手にしてきた!! 力を! 富を! 名声を!! カーラ様を除けば私こそが最強であることは間違いあるまいよ!!」

 

 竜、ドラゴンか。破滅の象徴、力の具現。

 

 そんな奴の子孫ならそりゃあそりゃあ強いんだろう。ただの人間なんかが間違っても勝てるわきゃあねェやな。

 

 ────だが、

 

「クカッ……!!」

 

 笑えるよなァ。

 

「……おい、私は、何か、可笑しいことを、言ったか?」

 

「クククッ、クカッ……あははははははははははははははははははは!!」

 

 言った、言ったさ。おい、これが笑わずにいられるかよ。

 

「何がッ、可笑しいッッッ!?」

 

「ぐげッ」

 

 腹を蹴り飛ばされてゴロゴロと地面を転がる俺。

 腹は痛みを訴えるが、俺は別の意味で腹が痛かった。

 

「カカカッ……いやさ、その最強のゾーネンシュリーム閣下様がよォ、姪っ子一人の気持ちもわからねェんだなって思ったらさァ……! キヒッ、ヒヒヒヒヒッ……!」

 

「笑うなレオンハルト!! レヴィアが、あいつが何だというのだ! あいつは私が守ってやらなければならない! 弱いからだ! だからあの館に住まわせた! あいつを守る為だ! それの、何が可笑しいかッ!?」

 

 ────なるほどなァ、わかったぜ。一応レヴィアちゃんを思ってのコトらしいや。

 

 でも、でもだ。それでも俺はコイツが気にいらねェ。

 

 俺はよろよろと立ち上がりながら、ゾーネンシュリームを睨みつけた。

 

「……見下してんじゃねェよ」

 

「あ……?」

 

「レヴィアちゃんはなァ……俺と同じだと思ってた。生まれ持った色々で悩んでてさァ……だからあんたに怒鳴られてんの、ほっとけなかったんだよなァ……」

 

 そう、同じだと思ってた。

 

 勇者の孫に生まれちまった俺と、邪眼を持って生まれちまったレヴィアちゃん。

 自分の力じゃどうにもならねェ悩みを抱えてさ、俺と同じように腐ってるんだと思ってた。

 

「でもよォ……レヴィアちゃんはさァ、泣いてたんだぜ。『自分を守ってくれるおば様の役に立ちたい』ってさァ……」

 

「何……?」

 

「あの子はさァ、閣下、あんたを思って泣いてたんだよ。自分じゃねェ誰かの為にさァ……自分のコトばっかの俺とは全然違え。だからさァ……」

 

 レヴィアちゃんと俺の決定的な違い、それは自分以外の何かを思えるところ。

 

 故に、だから。

 

「あの子が弱い? ハッ、笑わせるぜ。自分以外の誰かの為に泣ける奴が弱いわきゃあねェだろ。レヴィアちゃんは強いぜ……俺よりも、あんたよりもなァ!!」

 

「何を馬鹿な事を! この世に利するは圧倒的な力のみだッ!! 力無き者に存在価値などあるものかッ!!」

 

「まだわからねェのかよ! 力だけでヒトの価値が決められてたまるか!! そんなコトもわからねぇなんてあんた……()()()()()だぜ!!」

 

 そう言い放った瞬間、ゾーネンシュリームの表情が消えた。

 

「……貴様、今何と言った……?」

 

「あぁん……? 聞こえなかったんならもう一度言ってやらあ、かわいそうだッって言ってんだよ!!」

 

 俺が改めてそう言うと、ゾーネンシュリームが今度は顔を伏せて低く笑い始めた。

 

「ククク、そうか。私が、私がかわいそうか。ククククク……」

 

『不味いぞレオン、君は彼女を怒らせすぎたようだ』

 

「え」

 

『私は彼女を本気でキレさせた事が一度だけある! その時も丁度こんな感じだった!』

 

 初めてアスモデウスが余裕を失ったことから、事の重大さを理解する。

 

 理解したが、遅かった。顔を上げたゾーネンシュリームの両眼は、かつてないほどの憤怒に満ち満ちている。

 

 その憤怒に駆られたように、ゾーネンシュリームは吠えた。

 

「この私を憐れんだなッ!? 決めた────貴様は殺す!! 跡形も残らぬ程に焼き尽くし、魔界の大地に微塵と消してやるぞッッッ!!」

 

 絶叫と共に、ゾーネンシュリームの燃えるような魔力が急激に高まってゆくのを感じた。これはヤバいと本能が告げている。

 

「な、何が来るんだ……?」

 

『魔法のその先と言ったところか。……彼女、本気で君を消すつもりだ』

 

 斯くして、ゾーネンシュリームは魔法のその先、その名を告げた。

 

魔道、開陳(アラカザム)────ッ!!」




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