勇者の孫は勇者になりたかった   作:犬吠崎独歩

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第十四話 復活だョ! 全員集合

「着いたぞ、降りろ」

 

 数十分に渡る飛行を終え、俺たちの乗る馬車……もといワイバーン車が森を越え魔王城の入り口前へ着陸する。馬車と違って空の旅だからかな、ケツが痛くねェや最高!

 

 ルンルン気分で俺は馬車から飛び降りた。そして華麗に着地。

 

 ────え、服? あぁ大丈夫大丈夫、閣下から布もらったからね!

 

 ……股がすんげえスースーするけど。

 

「や~~~っと着いたわね、魔王城。……フフ、私の野望の第一歩、ようやくよ」

 

 ヴィオラが鼻を鳴らして俺の隣に降り立った。続けてレヴィアちゃんが降りてくる。

 

 ……こう、今までこれが一番って思ってたモノでもさ、それ以上を知っちゃうと大したことねェなって思えちゃうよね。

 

 何の話かって? 乳だよ乳。

 

「……? レオンさん、何か……?」

 

「なんでもないよ?」

 

「ほら、さっさと行くぞ。ただでさえ遅れているのだ」

 

 ゾーネンシュリームが先んじて、城門を守る兵に声をかけて、門を開けさせる。

 

 地獄のような重苦しい音が響き、ゆっくりと門が開き始めた。まるでその地獄の化け物が、食事の為にその重い口を開けているようである。

 

「ぞっと……するなァ」

 

 そんなおっそろしい口の中に、俺は身震いしながらも入って行くのであった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 城の中に入り、閣下に連れられて魔王城の最上階────魔王の間へ案内される。

 

 先頭を歩くゾーネンシュリームを確認すると、魔王の間の番兵が扉を開け、俺らを中に促すと同時に声を張り上げた。

 

「”高貴なる血”のゾーネンシュリーム閣下、只今到着いたしましたッッッ」

 

 魔王の間に入ると、そこはおどろおどろしくも豪華絢爛な巨大空間が広がっていた。そして床に長々と並べられた深紅の絨毯の横には、魔王軍の勇士たちが所狭しと整列し、俺たちをねめつけている。

 

「うっへェ~~~……怖~~……」

 

「しゃきっとしなさいな、ナメられたら殺すわよ」

 

 こいつも怖え。

 

 かくして俺たちは、玉座の前へ辿り着いた。十三段の階段によって少し高いところにある荘厳な玉座────そこにあるモノを見て俺は心底たまげた。

 

「げえッ!?」

 

 そこにある、いや()()()()()モノは……首無しで足を組み座る、金の豪奢なアクセサリに身を包んだ、露出度の高い……というかほぼ全裸みてえな青白い少女の身体だった。

 

 乳は、無いに等しかった。

 

「驚いたわね……六十年前に首を斬られたそのままってことかしら」

 

「でもよォ、魔王サマも不死身なんだろ? なんで斬られたときすぐ再生しなかったんだろうな?」

 

『それは我が魔王が、そう望んだからだろう』

 

「知ってんのかアスモデウス」

 

『同じ不死身でも君とカーラ様とは決定的な違いがあるからね……それは』

 

「ちょっとぉ!? 今アスモデウスって言ったァ!???」

 

 アスモデウスの説明を遮るように、突如甲高くも野太い声が響いた。

 

 少し驚いて、戦々恐々と声の方向に視線を向けると、こちらに向かってくる巨躯の偉丈夫があった。

 かなりの高身長であるレヴィアちゃんをも超える筋肉隆々の超巨体に長い犬歯、深い緑色の肌────(オーガ)である。

 

「あらまキュートな坊や……じゃなくてェ!! なんでその名前が出てくんのよォ!? あの子はねェッ、あの子はねェッ……!! 六十年にッ……ウッ、死んじゃってるんだからァ!!」

 

「あばばばばばば……」

 

 ものすごい巨体にものすごい力で身体を揺すられて、脳味噌とか胃袋とかいろんなものがシェイクされて吐きそうだ。

 

『その辺にしておきたまえ、ブラダスク』

 

 それを見かねてか、アスモデウスが姿を現してブラダスクと呼ぶそのオーガを諫めた。

 

「……! あ、んた……ッ!! 生きてたのねェッ!?」

 

 ブラダスクは俺を離すと、アスモデウスに力一杯抱き着こうとした……が、その両腕は物凄い勢いで空を切った。

 

『残念ながら死んではいるんだ』

 

「あぁッ……! なんてこと……!! ────でもまた逢えてよかったッ!!」

 

アスモデウスが苦笑交じりにそう答えると、ブラダスクは両目からブワッと滝のように流し始めた。ぶりっ子ポーズで。

 

『わ、私も嬉しいよ……』

 

 やや引き攣った笑みを浮かべるアスモデウス。珍しい様子なので俺は初めて彼に親しみを覚えつつ聞いた。

 

「どうしたよ? 珍しい顔じゃんか」

 

『はは……彼、いや彼女は少し苦手でね……』

 

「そうなんだ……」

 

「あら! マリちゃんにレヴィアちゃんもいるじゃない!! 久しぶりね、元気だった?」

 

「マリちゃんと呼ぶな痴れ者が」

 

「あ、ブラダスクさん……おっ、お久しぶりですぅ……」

 

「なになにィ!? 今日は皆大集合じゃなぁい!?」

 

「当たり前でしょう……今日はカーラ様が復活される日なのですよ、ブラダスク卿」

 

 今度は瘦身の紳士風で、神経質そうな男が、モノクルをギラリと輝かせながらやって来た。

 

「あら、そうだったかしらァ?」

 

「ディリゲント、貴様も来ていたか」

 

「カーラ様復活という晴れの日に私たち十傑集が馳せ参じないなど有り得ないということは、少し考えれば分かることだと思いますがね」

 

「チッ……一々癇に障る男だ」

 

「本当のことを言ったまでです」

 

 モノクルを指でクイッと押し上げながら歯に衣着せぬ言動のこのディリゲントという男を見て、俺は付き合いづらそうな奴だと思った。

 

「さぁ、さっさとカーラ様の首を出しなさい。復活の儀を始めますよ」

 

「わかっている……ヴィオラ、カーラ様を」

 

「かしこまりましたわ」

 

 ゾーネンシュリームに促されて、ヴィオラは胸の谷間に手を突っ込んでそこから魔王の首を取り出した。

 後から聞いたことだが彼女の胸の谷間には収納魔法がかけてあって、いい感じにモノを仕舞えるらしい。便利だなぁ。

 

「……おお、懐かしい顔ばかりじゃのう」

 

 目を開いたカーラは昔を懐かしむように目を細めて十傑集一人一人の名を呼んだ。

 

邪曲(じゃきょく)のディリゲント」

 

「お久しゅうございます、カーラ様」

 

「度し難きブラダスク」

 

「ゔぅぅぅぅ……ッ! カーラ様ァ……!! おかえりなさァい……ッ!!」

 

「それと手を引くローゼマリィに冷たき風のジャック・ドー」

 

 玉座の近くにいた赤黒い魔女装束の女と、真っ黒いカラスのような鳥人が恭しく頭を下げた。どうやら彼らも十傑集のようだ。

 

「あとは……む? 他の奴らはどうした? 姿が見えんようじゃが」

 

「恐れながらカーラ様、アダルヴォルフ、ルサールカ、ゴルドシュタイン、エルジェーベト、アスモデウス以下五名は、カーラ様の首が断たれた同日に名誉の戦死を遂げ……おっと、アスモデウスは霊体となっていましたね、失礼いたしました」

 

「……で、あるか」

 

 率直に仲間の死を淡々と告げるディリゲント、その報告に真顔でカーラは応えた。

 悲しんでいるのか、興味がないのか表情からは読み取れなかった。

 

「──では、儀式を始めましょう。君、御首を」

 

「……どうぞ」

 

「確かに」

 

 ディリゲントはヴィオラに差し出されたカーラの首を受け取ると、そのまま玉座へとつかつかと歩き出した。

 

「あッズルゥい! あたしが元に戻して差し上げたかったのにィ!!」

 

「黙っていろブラダスク」

 

「……」

 

 ブラダスクを無視し、玉座へと辿り着いたディリゲントはケースからカーラの首を出すと、それを玉座に鎮座するカーラの身体の上へと持っていった。

 

「それではカーラ様、よろしくお願いいたします」

 

「応」

 

 すると首から針の如く血管が伸び、切断面へと突き刺さる。

 

「げえッ……」

 

「きっしょいわね」

 

 そのまま首は身体へとくっつき、血管針が分かたれた身体と首を縫い付けると、足を組んでいたカーラの身体が動き出し、玉座から立ち上がった。

 

「カーラ様、何故傷を残すのです?」

 

「知れたことよ、勇者(あやつ)がつけた傷ぞ? 愛しくて愛しくてたまらんじゃろうが」

 

 飼い猫を愛でるように首の傷跡をさすりながら言うカーラに、ディリゲントはモノクルを押し上げながら興味なさげに答える。

 

「私には理解しかねますな」

 

「フン、相変わらず風情を解せぬやつよのぅ……まぁよい」

 

 カーラは片手を上げ、伏して待つ魔王軍の衆に向かい告げた。

 

「帰ったぞ、皆の衆」

 

 すると静寂を保っていた群衆が一斉に歓声を上げた。

 

「カーラ様復活ッッッ、カーラ様復活ッッッ、カーラ様復活ッッッ!!!」

 

 氾濫する大河川の如き大歓声に俺は少し気圧される。音の振動がすごい。

 

「うお……すんげェな……」

 

「呆けてる場合じゃないわよ、気ィ引き締めなさい」

 

「え、なんで……?」

 

「やっぱあんたお馬鹿さんね? ここは人間の敵の本拠地だってコト、忘れてないかしら?」

 

「あっ……」

 

 完全に忘れていた。俺らヒトは魔族とは戦争状態にあることを。

 

 いつもの余裕を湛えた笑みが消え、目つきが鋭くなっているヴィオラの表情を見てようやく気づいた。レヴィアちゃんやゾーネンシュリームがあまり差別意識が強くなかったからだろうか、つい先日まで魔物と殺し合っていたことを忘れていた。

 

「この騒ぎが収まったら、全員で襲ってくるかもしれないのよ」

 

「う……すまん、気ィつける。サンキューな」

 

「どーいたしまして」

 

 改めて敵の中枢にいるのだと思うと身震いがしてくる。

 

 あぁ……緊張するゥ……煙草吸いたいなァ……!

 

「……ヤニ吸ってもいいかな?」

 

「ダメに決まってんでしょうが」

 

 ですよね、かしこまった場所ですもんね……。

 

 俺がそんなことを考えていると、なおも続いていた歓声をカーラが手で制した。

 

「そろそろ静まれぃ皆の衆。」

 

 瞬間今までの大騒ぎがシンと水を打ったように静まる。

 

 静かになった玉座の間、一人カーラは口を開いた。

 

「皆の出迎え、痛み入る。久々に皆に会えて我も嬉しい」

 

 魔王軍の皆をぐるりと一瞥すると、その視線をカーラは俺たちの方へと向ける。

 

「これにて解散としたいところじゃが……皆に紹介したい者がおるでのぅ、お主ら上がって来い」

 

 ゾーネンシュリームに促されて、俺とヴィオラは階段を登る。ヴィオラは堂々とした足取りだが、俺は処刑台への階段をのぼるが如くに戦々恐々としていた。

 

「こやつらは我の首を帝国から運んでくれた人間でのぅ、そのまま我ら魔族に与してくれるとのことじゃ。いやぁ、有り難いことじゃて」

 

 カーラは飄々と話しているが、魔族の面々からの視線が超怖い。

 この後俺裏に呼ばれて殺されるんじゃねェの? 死なないけど。

 

「おう、自己紹介せいレオンハルト」

 

「えッ俺からスか!?」

 

「はようせい」

 

 カーラが急に俺に振ってきた。まだ心の準備がさぁ……!

 

 でもしないとどんな目に会うかわからないので、俺は緊張でガチガチのまま一歩前に出て、深々と礼をしながら自己紹介をした。

 

「れ……レオンハルト・ノットガイルッです! よぉ、よろしくお願いいたしまッしゅ!!」

 

 か……嚙んじまった……最悪!

 

 ギュっとつぶった目を恐る恐る開けると、目の前に広がっていたのは魔族の面々が笑い声は立てないものの、俺を見てニヤニヤしている光景であった。

 

 それは明らかに嘲笑といった表情だった。

 

 あぁ糞、環境が変わっても俺っていつまでもナメられっぱなしなのかなァ……。

 

 悔しさに涙が滲みそうな心境に陥り、頭を上げられないでいると俺のすぐ横を通る影があった。────ヴィオラだ。

 

 彼女は微塵の緊張も見せず、いつものような傲岸不遜な足取りで壇上の中心まで来ると、嫋やかに一礼して、魔族の面々を正面から見据えた。

 

 その表情はいつにも増して自信たっぷりである。

 

「お初にお目にかかりますわぁ、魔族の皆様。私はヴィオランテ・ヴァイオレント・ヴィオレット、元帝国貴族ですわ」

 

 恙なく行われた名乗り、流石元貴族のお嬢様って感じだ。

 

 しかし次の瞬間、ヴィオラはとんでもないコトを言い放つ。

 

「────あんたら魔族をこの戦争に勝たせてあげるから、そこんとこよろしく頼むわね?」

 

 やっぱこの女かっけェわ、と俺は思った。

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