勇者の孫は勇者になりたかった   作:犬吠崎独歩

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第二話 爆発オチなんてサイテー!

「貴族の処女を奪ったんですもの……責任とらないとどうなるか、わかるわよね?」

 

「あー待て待て待て、待て、一旦落ち着こう。そうだ、君と俺はヤってないかもしれない。万が一君が処女だったとしたらシーツに血がついてるハズだ。ほら見てみなよ、血なんて一滴も……」

 

 バッと布団を剥ぎ取って中を見てみる。……あ、ついてる。

 

「ついてねェだろ?」

 

「ついてんじゃない」

 

「ああそうだねってクッソ!!」

 

 嘘つくときは堂々とつけば意外とバレないって言った奴誰だよ普通にバレてんじゃん。

 

「俺は責任なんか取らないからな!! 俺は悪くない! そう! お互い酔いすぎて犯すハズのない過ちを犯しちまったんだ! だからお互い忘れよう! こんな野良犬みたいな奴隷兵なんかと一緒になってもなんの得にもならないぞ!! それこそ犬に噛まれたとでも思ってさ! な! 忘れろ~! 忘れろ~! ……ほら、だんだん忘れてきたんじゃないか??」

 

 ヴィオラへ両の手のひらを向けて、忘却魔法が出るように念じる。

 詠唱はわからないが必死にやれば何か出ると思う。出ろ! ……出ろ!!

 

「さっさと責任取るのとチンポ切り落としてからありとあらゆる拷問の後に晒し首になるのどっちがいいかしら?」

 

 ダメでした。じゃプランB!

 

 俺は静かに両ひざをつくと、できるだけ美しい所作で両の手と頭を床につける。

 

「誠にごめんなさい! 許してください! 責任取りたくないんです!!」

 

 ────そう、土下座である。俺はこの土下座で借金の取り立てから見逃してもらったことがあった。まぁその晩にその街から逃げたんだけど。

 この芸術的土下座を持ってすれば地獄の悪鬼羅刹でさえも俺に許しを

 

「……ナイフかハサミ持ってたかしら。」

 

「あー待って待って待って! ごめん!! 取る取る、取るよ! 責任!!」

 

 ヴィオレット家といえば武名がぐわんぐわん轟くような暴力装置を排出し続けるヤバい家、それくらいのことは俺でも知っていた。これ以上の抵抗は死より恐ろしい何かを意味するだろう。

 

「最初からそう言えばいいのよ」

 

 ヴィオラは呆れながらそう言うと、何やら胸の谷間(ドレスでおっぱいが強調されててとてもエッチだ!)に手を突っ込んでごそごそ弄ると、そこから一枚の羊皮紙と羽ペンを取り出し、俺に向かって放った。

 

「さ、とりあえずこれにサインなさいな」

 

 婚姻届かな。でもよくよく考えたら帝国貴族の娘と結婚できるってすげえチャンスなんじゃね?

 今の俺の身分から一気にランクアップできるワケだし、悪いどころか良いこと尽くめなんじゃね? ────と思っていた俺の希望は見事に打ち砕かれることとなる。

 

「”私、レオンハルト・ノットガイルはヴィオランテ公爵令嬢様の忠実なる下僕として死ぬまで仕えることをここに誓います”……だぁ!?」

 

 目を通した書類にはとんでもないことが書かれていた。

 

「あら、奴隷兵の癖に字が読めるのねぇ? 意外だわぁ」

 

「なめんな! 俺ぁあの勇者ナイトハルトの……いや……何でも、ねぇ」

 

 言いかけて止めた。

 

 家出するほど嫌だった『勇者の孫』というレッテルを自分から利用しようとしたとしたからだ。────今の俺の顔は自己嫌悪でめちゃ渋くなってるだろう。

 

 するとヴィオラは性格の悪そうな微笑を浮かべて言った。

 

「孫、でしょう?」

 

「────!?」

 

「あんたの事は全部知ってるわよ。────レオンハルト・ノットガイル、オフレッサ村出身の22歳、勇者ナイトハルトの孫。冒険者になるも全く芽が出ずに所属パーティーから追放、その後多額の借金を抱え奴隷兵に身を墜とした......合ってるわよねぇ?」

 

「なんで、俺のことを、知ってるんだ」

 

 過去のトラウマと見ず知らずの女にそれを知られていることへの衝撃でしどろもどろになった俺を嘲笑いながら、ヴィオラは俺の疑問に答えた。

 

「私これでもえら〜い軍人だから。使えそうな奴は覚えとくことにしてんの。私の高貴な脳味噌の片隅に置いて貰えるんだから、光栄に思うといいわよ?」

 

 ……え、偉そうな女だ……。

 しかしここで俺にも余裕が生じる。あまりにもこの女が見当外れのことを言うからだ。

 

「……はン、俺が使えそう? 冗談キツいぜお嬢ちゃん……えぇと、煙草は嫌いか?」

 

「好きに吸いなさいな、私もそぉんな安物じゃないけど吸うから。煙管でね!!」

 

「そりゃどうも」

 

 ヴィオラの貴族マウントを軽く受け流しながら俺はベッド横に置かれた煙草に魔法で火を点ける。煙草はいい。昂った神経、纏まらない思考、漠然とした不安。そういったモノを一掃してくれる神の草。

 ちなみに俺はこの『リヒト・ブリッツ』を愛飲してる。一番安くて一番キマる、低所得者層の強い味方だ。今住んでる宿は常にこいつの匂いがする。

 

 煙を深く吸い込み、少し留めてからゆっくりと吐き出す。

 

 ────ぃよし、充填完了。見てろ高飛車女、こっからはロジハラの時間だぜ。

 

「……大方俺が勇者の孫だから近づいたんだろーが、残念だったな。俺ァ勇者の才能なんて微塵もありゃしねェ出来損ないだ。なんならホンモノの勇者からのお墨付きまで貰ってる」

 

「いや、違うけど」

 

「カカッ、そうだよな。俺に近づいてくる人間なんて……って今なんつった?」

 

「違うわよ。」

 

「違うって……ええええええええェ!!!? 違うのォ!!?」

 

「ハッ、勇者本人ならともかく孫なんてなぁんの価値も無いわ。歴代勇者の血族なんて掃いて捨てるほどいるんだから。血筋で受け継がれる力だったら今頃帝国は勇者の巷よ」

 

 ヴィオラは俺の衝撃を一笑に付すとさらに続ける。

 

「というか……アンタも子孫なら聞いてんでしょ? 勇者は国の儀式でようやくその力を得るってコト」

 

「それはまァ……じゃあ尚更なんで────ハッ!? も、もしかしてあたしの身体が目当てなのォ!!? 下僕にして、あたしの肉体(からだ)を好きに弄ぶつもりなのねェッ!? くっ、外道がッ!! 大きさと回数には自信ありまっす!!」

 

「アホ」

 

「いてッ」

 

 殴られた、割と強めに。

 

「んなワケねぇでしょ。────あんた、奴隷兵になってから何年になる?」

 

「あ……? 丁度五年ってとこだが」

 

「ちなみに奴隷兵って一年目でどのぐらい死ぬかわかるかしら?」

 

「……ほぼ全員」

 

「そう、奴隷兵に堕ちた人間の九割は一年も経たずに死んでいく。────五年経ったら、何人残るのかしらね?」

 

「……今じゃ俺一人さ。」

 

 奴隷兵の死亡率は異常に高い。

 帝国軍の肉壁たる俺たちは、ロクな訓練も受けずに魔王軍との前線に投入され、あたら安い命を散らしている。

 その中で運よく生き延びちまった俺は、少しだけ他の奴隷兵達より良い暮らしをしているのだった。────だから、奴隷のくせにフラフラ遊べるワケだな。

 

「それよ! 史上そこまで生き残った奴隷兵はね、あんた一人!! こんな貴重な人材この私が放っておくワケないでしょうが!」

 

 熱っぽい口調でヴィオラは語る。

 

「あんたに私の脳味噌をやるわ、だからあんたの身体私に寄越しなさい!」

 

 ────沁みるなぁ。

 

 俺を勇者の孫じゃなくて、俺自身として見てくれた人間はいつぶりだろうか。

 彼女の一言一句が、俺の承認欲求を満たしてゆく。気持ちがいい。このまま彼女の契約を受け入れて、正規の兵士として働くのも悪くないだろうと思ったら、自然と手が契約の羊皮紙に伸びていった。

 

 さらさらと名前を記入し、ヴィオラに契約書を手渡す。

 

「ほらよ。……これからよろしくお願いいたしますよ、ご主人様?」

 

「あら素直! いいわよ、これから死ぬまでコキ使ってやるから覚悟しなさいよね!」

 

 笑顔で羊皮紙を受け取るヴィオラからのありがたいお言葉をいただく。 言葉尻に

 

「いやホント」

 

 と小さく聞こえた気がするが俺は深く気に留めることもなく、清々しい気分で伸びをした。

 

「よっしゃあ! これで奴隷生活ともおさらばかァ~~!」

 

「あぁ……そのコトなんだけど」

 

「ん?」

 

 ヴィオラが申し訳なさそうな笑顔で言う。

 

「そろそろ()()が来るから、服着なさいよ」

 

「あ、そうか。すまんすまん、今着るから」

 

「早くしてね~」

 

 そういえばずっと全裸だった。全裸のままちょっとシリアスな話とかしたワケだけれども、この絵面って完全にギャグだよね。恥ずかしッ

 

────そんなことを考えながら服を着終わった後、ふと思った。

 ……ちょっと話が美味すぎじゃないか?

 貴族のご令嬢(しかも処女!)とヤッて、しかも帝国軍への引き抜き? 俺が?

 

「ヴィオラ────」

 

 一抹の不安を覚えた俺はヴィオラに事の詳細を聞こうとしたが、それは荒々しく扉を叩く音にかき消された。

 

『ヴィオランテ・ヴァイオレント・ヴィオレット!! ここに居ることはわかっているぞ!! 大人しく投降しろ!!』

 

「────あの」

 

『貴様には王宮及び宝物庫の破壊! 並びに聖女様への反逆罪他多数の容疑が────』

 

「ご主人様?」

 

 俺が苦々しい顔をヴィオラに向けると、彼女は落ち着き払った様子でニヤリと笑いながら言った。

 

「下僕」

 

「何でしょうか」

 

「逃げるわよ」

 

 ヴィオラは俺の襟首を掴むと、一目散に窓へと駆け出す。

 

 うげげげげ! 浮いてるよォ! 俺の身体ァ!! こいつホントに女か!?

 

 そしてその勢いのまま飛び上がり、窓を蹴り破った。大きな音を立てて窓ガラスのブロックが砕けて崩れて散らばり宙に舞う。

 

『突入ーーーーーッ!!』

 

 眩む視界の端に、今までいた部屋に雪崩れ込む衛兵の姿が目に入った。

 

「下僕ゥ! 耳塞いでなさい!!」

 

 契約書の効力か、生への執着か。身体が自然に動いて意味の分からぬまま耳を手で塞いだ瞬間────

 

「【爆ぜよ(デトネィション)】ッ!!」

 

 ヴィオラが指を鳴らし、部屋が衛兵ごと爆発した。その余波で俺たちは向かいの建物の屋根まで吹っ飛ぶ。

 

「あっはああああああ♡ 気ン持ちいいーーーーーーーッ♡」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

 ────女に騙されるのは何回目かなァ。ひぃ、ふぅ、みぃ……。

 

 十三回指を折った後、考えてもしょうがないので俺は考えるのを止めた。




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